令和5(ワ)19101 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月20日 東京地方裁判所
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判決文本文7,734 文字)

令和7年2月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第19101号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日令和6年11月28日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告に対し、各自5000万円及びこれに対する平成30年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告トヨタ自動車株式会社(以下「被告トヨタ」という。)が製造し、トヨタカローラ神奈川株式会社(以下「本件販売会社」という。)が販売 した普通乗用自動車(レクサス LS500h。以下「本件車両」という。)について、平成30年2月18日、原告が乗車して停車中に、突然、発進・加速をしたことにより発生した事故(以下「本件事故」という。)は、本件車両に欠陥があったことが原因であるとして、被告トヨタに対しては製造物責任法3条に基づき、本件販売会社を吸収合併した被告ウエインズトヨタ神奈川株式会社(以下「被告 ウエインズ」という。)に対しては売買契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告らに対して、連帯して、本件車両代金相当損害金1572万1332円及び慰謝料1億円の合計1億1572万1332円の一部である5000万円及びこれに対する本件事故日である平成30年2月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠等により容易に認められる。)⑴ 当事者等ア原告は、本件車両を所有し、本件事故 合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠等により容易に認められる。)⑴ 当事者等ア原告は、本件車両を所有し、本件事故当時、本件車両の運転席に乗車していた者である(甲1)。 イ被告トヨタは、自動車、産業車両、船舶、その他の輸送用機器等の製造、 販売、賃貸、修理等を目的とする株式会社であり、本件車両の製造者である(甲3)。 ウ被告ウエインズは、自動車の販売、リース、修理等を目的とする株式会社であり、令和5年1月1日、本件販売会社を吸収合併した(甲4)。 ⑵ 本件車両の購入 原告は、平成29年11月27日、本件販売会社から被告トヨタが製造した本件車両(レクサス LS500h・車台番号GVF55-6001047・車両番号横浜311に3946)を、代金1572万1332円で購入した。 本件車両は、オートマチックの右ハンドル車(進行方向に向かい右側にステアリングホイール(ハンドル)を装着した自動車)であり、電子制御シフト(Shift byWire。以下「SBW」という。)を採用しているが、シフト位置がDレンジに入っていても運転席ドアが開いた状態になると自動的にシフト位置がPレンジに移行する設計に基づく機能(以下「本件機能」という。)は搭載されていない。 ⑶ 本件事故 原告は、平成30年2月18日、本件車両を運転し、東京都渋谷区恵比寿2丁目38番先道路を恵比寿2丁目方面から白金高輪駅方面に向かって進行し、同所先道路の左側端部に停車させ、エンジンを止めず、シフトレバーをDレンジに入れたまま、ブレーキホールド機能(車両を停止させた後ブレーキペダルの踏み込みを止めてもフットブレーキがかかった状態を維持する機能)を作動 車させ、エンジンを止めず、シフトレバーをDレンジに入れたまま、ブレーキホールド機能(車両を停止させた後ブレーキペダルの踏み込みを止めてもフットブレーキがかかった状態を維持する機能)を作動 させて待機した。その後、本件車両は、電動パーキングブレーキ(EPB)が 作動した状態となっていたが、原告が降車のため運転席側ドアを開けた後、突然発進し、同所から約320メートル前方の東京都港区白金6丁目6番3号所在の店舗兼居宅先道路まで時速100キロメートルを上回る高速度で走行し、同日午前7時19分頃、歩行者及び建物と衝突した(本件事故)。 ⑷ 刑事裁判の経過 原告は、本件事故により、過失運転致死及び道路交通法違反の罪で東京地方裁判所に起訴された。同裁判所は、令和3年2月15日、原告に対し、禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を宣告した。これに対し、原告は、東京高等裁判所に控訴したが、同裁判所は、令和4年12月14日、原告の控訴を棄却し、最高裁判所は、令和5年5月15日、原告の上告を棄却し、第一審判決が確定 した。(甲6、12~16) 3 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件車両は原告がアクセルペダルを踏んでいない状態で発進・加速したか(原告)ア証人A(以下「証人A」という。)らが作成した鑑定書(甲7。以下「A鑑 定書」という。)によれば、本件車両の発進直前に原告の両足は車外に出ていたのであり、このような状態で原告が本件車両のアクセルペダルを踏むことは不可能であった。よって、原告がアクセルペダルを踏んでいないにもかかわらず、本件車両が発進したことは明らかである。 イ A鑑定書によれば、本件車両が発進した後、前方からの風圧にもかかわら ず運転席側ドアは終始半開きの状態にあったこと、運 踏んでいないにもかかわらず、本件車両が発進したことは明らかである。 イ A鑑定書によれば、本件車両が発進した後、前方からの風圧にもかかわら ず運転席側ドアは終始半開きの状態にあったこと、運転席側ドアパネル下部に原告の右足靴の底が押し付けられて形成された痕跡が存在し、原告が本件事故により右足に右第2中足骨骨折、右第3中足骨骨折、右第3趾基節骨骨折の傷害を負っていることからすると、本件車両の発進時には車外に出ていた原告の右足は、本件車両の走行中から本件事故発生までの間、運転席側ド アパネルの中央下部付近に裏側が接着し、内側にひねられるような形で甲の 部分が運転席側ドアと車体との間に挟まれた状態にあったから、原告が右足で本件車両のアクセルペダルを踏むことは不可能であった。 また、上記のように原告の右足が内側にひねられるような形で甲の部分が運転席側ドアと車体との間に挟まれた体勢にあったことからすると、右ひざが左足の方へ近づき、右足付け根の関節が固定されることにより、左足も右 前方のアクセルペダルに届かない状態であったから、原告が左足でアクセルペダルを踏むことも不可能であった。 したがって、本件車両は、発進後においても、原告がアクセルペダルを踏んでいないにもかかわらず、加速を続けたことは明らかである。 (被告ら) ア本件車両が発進・加速した原因は、原告が左足で誤ってアクセルペダルを踏み込んだことであり、本件車両の欠陥によるものではない。 イ原告が依拠するA鑑定書は、解析したとする防犯カメラの映像を見ても原告が足を車外に出している様子は確認できないことに加え、原告の警察及び検察に対する供述と整合しておらず、信用性がない。 ⑵ 本件車両に本件機能が搭載されていないことが欠陥に当たるか(原告) 足を車外に出している様子は確認できないことに加え、原告の警察及び検察に対する供述と整合しておらず、信用性がない。 ⑵ 本件車両に本件機能が搭載されていないことが欠陥に当たるか(原告)車両のドアが開かれた状態で走行すると乗員が路上に転落して死傷するおそれが極めて高い。また、SBWを採用する車両において本件機能を搭載することはが可能かつ容易であり、現に、本件車両の開発が開始された平成26年 以前から、SBWを採用する多くの車種で本件機能が搭載されていたのであるから、世界的な自動車メーカーである被告トヨタは、乗員の生命・身体の安全を図るべく、SBWを採用する本件車両に本件機能を搭載する義務があった。 本件車両に本件機能が搭載されていれば、原告が本件車両の運転席ドアを開けた時点で、自動的にシフト位置がPレンジに移行していたのであり、運転席 ドアが開いているにもかかわらず、本件車両が発進し、時速100kmを超え る高速度で暴走するという本件事故のような事象は生じ得なかった。 よって、本件車両が本件機能を搭載していないことは、自動車の安全性という観点からして技術的に著しく劣っているのであり、本件車両の欠陥に当たる。 (被告ら)ア車両のドアを開く際や降車の際に車両のエンジンを停止し完全にブレー キをかけるといった車両が停止状態を保つために必要な操作を行うことは専らドライバーの責務であり、本件事故は、原告がそのような責務を怠ったことによるものに過ぎない。 イ 「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を 考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。道路運送車両法40条は、その構造や装置が「国 形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を 考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。道路運送車両法40条は、その構造や装置が「国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。」と規定し、これを受けて国土交通省は具体的な技術基準を定めているが、その基準に本件機能を搭載すべきことを定めた規定 は存在しないのであるから、本件機能を搭載していないことが欠陥であるとはいえない。 ⑶ 原告の損害(原告)ア物的損害 1572万1332円 本件車両は、本件事故のわずか2か月半ほど前に代金1572万1332円で購入したものであり、積算走行距離も2000km余りに過ぎなかったのに、本件事故により全損となった。よって、本件車両の時価は上記購入代金を下ることはないから、上記購入金額が原告の損害となる。 イ慰謝料 1億円 原告は、本件事故により急性硬膜下血腫、肋骨骨折などの傷害を負ったほ か、時速100kmを超える高速度で暴走したことにより、死を意識するほどの恐怖・驚愕による情動ストレスを受けて失神するに至った。 また、原告は、本件事故により過失運転致死及び道路交通法違反の罪で起訴され、4年以上にわたり被告人の地位に置かれたばかりか、最終的には有罪判決を受け、弁護士資格を喪失した。 以上より、原告の慰謝料は1億円を下らない。 ウ合計 1億1572万1332円原告は、上記ア及びイの合計1億1572万1332円の一部請求として、被告 以上より、原告の慰謝料は1億円を下らない。 ウ合計 1億1572万1332円原告は、上記ア及びイの合計1億1572万1332円の一部請求として、被告らに対し、連帯して、5000万円及び遅延損害金の支払を求める。 (被告ら) いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件車両は原告がアクセルペダルを踏んでいない状態で発進・加速したか)について⑴ 原告は、A鑑定書(甲7)によれば、本件車両の発進直前に原告の両足は車 外に出ていたのであり、そのような状態で原告が本件車両のアクセルペダルを踏むことは不可能である旨主張し、証人Aも、「画像鑑定の説明」と題する資料(甲36の2。以下「本件説明画像」という。)に基づき、これに沿う証言をする。 証人Aは、本件説明画像6頁において、くつ様のもの(以下「くつ様①」と いう。)が確認でき、9頁において、もう一つくつ様のもの(以下「くつ様②」)が確認できるとし、くつ様①とくつ様②の位置関係から、くつ様①が原告の左足の靴、くつ様②が右足の靴であると判断できるとし、右足の靴(つまり、くつ様②)が見えなくなった後に、左足の靴(つまり、くつ様①)が再び現れ、その時点において、本件車両が発進した旨証言する(A4頁~8頁・47頁)。 しかし、本件説明画像において、証人Aがくつ様のものであると証言する画 像の黒色の部分が、靴を写し出したものとして識別することは容易ではなく、これらの画像が、本件事故当時、原告が実際に身に着けていた靴を写したものであるとの事実を認めるには至らない。証人Aは、本件説明画像の6頁において本件車両の車体部分が波打った形状になっていることについて、量子化ノイズや環境光、データ圧縮の際のノイズ ていた靴を写したものであるとの事実を認めるには至らない。証人Aは、本件説明画像の6頁において本件車両の車体部分が波打った形状になっていることについて、量子化ノイズや環境光、データ圧縮の際のノイズといった現象が原因である旨証言するが (A28・29・44・45頁)、同画像自体から、証人Aの指摘する量子化ノイズ等による形状と、くつ様のものとして指摘する黒色の部分との区別は困難というほかない。特に、本件説明画像9頁において、証人Aがくつ様②であると指摘する画像が原告の靴を写したものと認めるのは極めて困難であり、くつ様②が原告の靴を写したものであることを前提に、くつ様①と②との位置関係 から、くつ様①が原告の左足、くつ様②が原告の右足だと判断したとする同証人の証言は信用することができない。 また、証人Aの証言によれば、原告は本件車両の右側に位置する運転席に乗車した状態から、左足を先に車外に出したことになるが、このような動作は人体の構造からみて経験則に反する極めて不自然なものといわざるを得ないこ とに加え、証拠(乙48、54、57)によれば、原告は捜査段階において、左足ではなく右足を先に車外に出し、その際に本件車両が発進した旨供述していたことからすると、証人Aの証言は、原告の供述とも整合しないものであり、信用することができない。 以上によれば、証人Aの証言及びA鑑定書はいずれも信用することができず、 したがって、これらを根拠に、本件車両の発進時に原告の両足が車外に出ていたとする原告の主張は採用することができない。 ⑵ 次に原告は、A鑑定書によれば、本件車両の発進時に車外に出ていた原告の右足は、本件車両の走行中から本件事故発生までの間、足の裏が運転席側ドアパネルの中央下部付近に接着し、右足が内側にひねられるような形で 原告は、A鑑定書によれば、本件車両の発進時に車外に出ていた原告の右足は、本件車両の走行中から本件事故発生までの間、足の裏が運転席側ドアパネルの中央下部付近に接着し、右足が内側にひねられるような形で甲の部分 が運転席側ドアと車体との間に挟まれた状態にあったとし、このような状態に おいて、原告が右足で本件車両のアクセルペダルを踏むことは不可能であり、左足についても、右ひざが左足に近づき、右足付け根の関節が固定されるため、アクセルペダルに届かなかった旨主張する。 しかし、A鑑定書及び証人Aの証言によっても、本件車両の発進した時点から本件事故発生に至るまでの間、常に、原告の右足の裏が運転席側ドアパネル の中央下部付近に接着した状態にあったとの事実を認めるに足りるものとはいえない。そして、原告が主張するように本件車両の発進時において原告の右足が車外に出ていたとしても、検察官作成の平成31年2月18日付け原告供述調書(乙55)によれば、原告は、左足はアクセルペダルに届く旨自認していることに加え、上記調書添付の写真3及び4によれば、原告の右足が車外に 出た状態であっても、原告が左足でアクセルペダルを踏むことは可能であったと認められることからすると、本件車両の発進から加速に至る過程において、原告が左足でアクセルペダルを踏むことが不可能であったとは認められない。 また、原告が主張するように、本件車両の走行中に原告の右足の裏が運転席側ドアパネルの中央下部付近に接着し、右足が内側にひねられるような形で甲の 部分が運転席側ドアと車体との間に挟まれたことにより、原告が右足でアクセルペダルを踏むことが困難な状態となったとしても、これにより原告の左足がアクセルペダルに届かなかったとの事実を認めるに足りる証拠もなく、いずれにしても、原 間に挟まれたことにより、原告が右足でアクセルペダルを踏むことが困難な状態となったとしても、これにより原告の左足がアクセルペダルに届かなかったとの事実を認めるに足りる証拠もなく、いずれにしても、原告の主張は採用することができない。 ⑶ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用できず、原告がアクセルペダルを 踏んでいないにもかかわらず本件車両が発進・加速したとは認められない。 よって、本件車両が発進・加速したことつき、本件車両に欠陥があったとは認められない。 2 争点⑵(本件車両に本件機能が搭載されていないことが欠陥に当たるか)について 原告は、被告トヨタがSBWを採用する本件車両を設計するに当たり、シフト 位置がDレンジに入っていたとしても運転席ドアが開いた状態になると自動的にシフト位置がPレンジに移行する機能(本件機能)を搭載する義務があり、これを搭載していない本件車両には欠陥がある旨主張する。 しかし、自動車を停車して降車する場合において、エンジンを停止し、シフトレバーをPレンジに入れ、パーキングギブレーキをかける措置を講じることは自 動車を運転する者の最も基本的な義務というべきであり、運転者がこのような基本的な義務を怠った場合に備えて、製造者側があらかじめ対策を採っておくべき法的な義務があったとは認め難い。また、本件機能の搭載を製造者に義務付ける法規や指針等の存在を認めるに足りる証拠はないことに加え、弁論の全趣旨によれば、本件事故当時に本件機能が搭載されていない普通乗用自動車は多数存在し ていたと認められることからすると、被告トヨタにおいて本件車両に本件機能を搭載する義務があったということはできず、これが搭載されていないことが欠陥に当たるとは認められない。 3 以上によれば、本件車両 と認められることからすると、被告トヨタにおいて本件車両に本件機能を搭載する義務があったということはできず、これが搭載されていないことが欠陥に当たるとは認められない。 以上によれば、本件車両について欠陥があったとする原告の主張は、いずれも採用することができない。 よって、本件車両に欠陥があったことを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、いずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第44部 裁判長裁判官鈴木昭洋 裁判官小堀瑠生子 裁判官川本涼平

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