平成16(ワ)24565 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年7月12日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文41,063 文字)

平成19年7月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第24565号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年5月10日判決原告A原告B上記2名訴訟代理人弁護士秋田一惠原告C被告社会福祉法人恩賜財団済生会同代表者理事D被告E被告ら訴訟代理人弁護士児玉安司中島健太郎主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,連帯して,原告らそれぞれに対し,金2237万0196円ずつ及びこれに対する平成13年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告ら(以下,原告らの姓は略す)の母親(患者)が被告社会福。 祉法人恩賜財団済生会(以下「被告法人」という)の開設する病院に入通院。 して長年にわたり糖尿病の治療を受けてきていたところ入院中に死亡したこと につき,原告らが,①その死亡は,被告Eを含む同病院の医師において,患者に対し,強化インスリン療法,抗血栓療法,適切な水分管理,適切な呼吸管理等を実施すべきであったにもかかわらず,これらを怠ったことにより生じたものでありまた②被告Eにおいて患者に対し不安をあおるような言動ド,,,,(クターハラスメント)を行って,著しい精神的苦痛を与えたと主張して,被告らに対し,債務不履行(被告法人につき)又は不法行為(被告Eにつき)に基づいて,慰謝料等の損害金及びこれに対する患者の死亡日からの民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 なお,以下では,診療上の注意義務(不法行為法上の注意義務)ないし診療契約上の義務(債務)を併せて,単に「義務」という。 前提事実(証拠原因 合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 なお,以下では,診療上の注意義務(不法行為法上の注意義務)ないし診療契約上の義務(債務)を併せて,単に「義務」という。 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア原告らは,F(大正11年生,平成13年11月22日死亡)の子で。 あり,他にFの相続人はいない(甲C1ないし4。 )イ被告法人は,東京都港区内において「東京都済生会中央病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を,東京都渋谷区内において「東。 」(「」。)京都済生会渋谷診療所という名称の診療所以下被告診療所というをそれぞれ開設している。 医師である被告Eは,昭和52年以降,被告病院内科に勤務しており,平成5年には内科医長に,平成10年には内科部長にそれぞれ就任した。 医師であるGは,昭和63年12月から平成17年12月まで被告病院内科に勤務していた。医師であるHは,被告病院皮膚科に勤務していた。 (2)Fの診療経過アFは,昭和44年ころから糖尿病に罹患しており(乙A6,昭和52)年以降,被告法人との間で診療契約を締結した上,被告病院又は被告診療所に通院し,あるいは被告病院に入院して(入院は平成11年以降に数 回,糖尿病性足壊疽,糖尿病性腎症,甲状腺機能低下症,心不全,肺炎)等に対する治療(手術を含む)を受けた。 。 イFは,平成12年11月13日,糖尿病性足壊疽の治療を受けるために被告病院(皮膚科)に入院し,同月18日に右足指切除の手術を受けることとなった。被告Eは,その手術の前日(同月17日,Fの病室を訪れ)て,Fに対し手術に関する話をした。 ウFは,平成13年11月9日,被告病院を受診したところ浮腫が認められたことなどから,被告病院(内科 た。被告Eは,その手術の前日(同月17日,Fの病室を訪れ)て,Fに対し手術に関する話をした。 ウFは,平成13年11月9日,被告病院を受診したところ浮腫が認められたことなどから,被告病院(内科)に入院し,後記のとおり同月22日に死亡するまでこの入院(以下「本件入院」という)を続けた(以下,。 年月の記載のない日付は,本件入院中である平成13年11月の日付である。 。)エ本件入院中の出来事Fは,16日朝,担当看護師に対し「転んだ」と1回のみ言い,担当看「」(,護師から何度か転倒の件を尋ねられると転んでいないと言った以下これらの発言を併せて「本件転倒発言」という。 。)Fは,19日午後1時ころ,失神してベッドわきの床に倒れているところを発見された(以下,この失神を「本件失神」という(乙A6。 。))被告Eは,同日午後4時30分ころ,Fの病室を訪れて,Fに対し,病室の料金や他の病院に移ることなどについての話をした。 Fには10日以降酸素投与が実施されていたところ(1ℓから開始,)担当医師は,21日午後8時ころ,在宅酸素療法の導入を判断するために酸素投与(当時は4ℓ)を中止して,酸素投与しない状態での動脈血を採取し,その後,酸素投与(4ℓ)を再開した(乙A6。 )Fは,22日,午前5時までに心停止状態のところを発見され,蘇生措置を受けたものの,午前7時53分に死亡が確認された(以下,この死亡を「本件死亡」という。 。) (3)本件で前提となる医学的知見ア甲状腺機能低下症(甲イ13)甲状腺からのホルモン分泌が減少して,甲状腺ホルモンの作用不足による種々の症状を伴う状態をいう。 イ糖尿病(ア)糖尿病の意義(乙B2)糖尿病とは,膵ランゲルハンス島のβ細胞より分泌されるインスリンの作用不足により起 が減少して,甲状腺ホルモンの作用不足による種々の症状を伴う状態をいう。 イ糖尿病(ア)糖尿病の意義(乙B2)糖尿病とは,膵ランゲルハンス島のβ細胞より分泌されるインスリンの作用不足により起こる慢性の高血糖を主徴とし,特徴のある代謝異常を来す疾患群である。通常は絶対的なインスリン欠乏状態に陥る糖尿病を1型糖尿病,相対的なインスリン欠乏状態に陥る糖尿病を2型糖尿病という。 血糖値の著しい上昇あるいは高度のインスリンの作用不足はケトアシドーシス,脱水,さらには糖尿病性昏睡を来す。慢性的に続く高血糖状態やそれを基盤とする代謝異常は,糖尿病に特徴的な細小血管症である,,,糖尿病性網膜症糖尿病性腎症糖尿病性神経症を引き起こすとともに。 ,動脈硬化症を基盤とする大血管障害をも引き起こす血糖値のみならず,,()合併症をコントロールすることが患者の生命予後QOL生活の質を改善する上で重要である。 (イ)血糖コントロール(乙B3)「糖尿病治療ガイド(日本糖尿病学会編,平成14年出版)におい」て,HbA1c値が8.0%以上,空腹時血糖値が140mg/dℓ以上,食後2時間血糖値が200mg/dℓ以上の場合,血糖コントロールが,4段階評価(優,良,可,不可)中,不可であるとされている。 (ウ)強化インスリン療法(乙B46,47)健常人のインスリン分泌は,空腹時の基礎インスリン分泌と食後の追加インスリン分泌からなる。インスリン療法の目標は,障害されたイン スリン分泌動態を,健常人の分泌動態に近づけることにより,血糖値をコントロールすることにある。 従来型のインスリン療法は,中間型あるいは持続型インスリンを1日1,2回投与する方法である。これに対し,強化インスリン療法は,不足するインスリンの基礎量と追加量を補充し,頻回にわた することにある。 従来型のインスリン療法は,中間型あるいは持続型インスリンを1日1,2回投与する方法である。これに対し,強化インスリン療法は,不足するインスリンの基礎量と追加量を補充し,頻回にわたる血糖計測とそれに基づくインスリン投与量の修正を行うことにより厳格な血糖コントロールを行う方法である。 (エ)Fontaine分類(乙B15,16)閉塞性動脈硬化症に関する重症度分類で,Ⅰ度が最も軽く,Ⅳ度が最も重い。 ウ突然死(甲B6,乙B12,17)突然死とは,予測できない内因性の死亡をいう。 エ急性心不全に関するKillip分類(乙B51)理学的所見(聴診)から循環動態を推測し,心不全の程度を評価する方法であり,以下の4分類となる。 Ⅰ度肺野のラ音が聴診されず,心不全症状がない。 Ⅱ度中等度以下の左心不全である。呼吸困難を伴っているため,上半身を15度程度に挙上した方が楽である。背側下肺野に湿性ラ音が,。 聴診され胸部X線写真では上肺野に肺うっ血の所見が認められるⅢ度重症な心不全で,肺水腫の状態である。呼吸困難が強く,上半身は30度から45度に挙上した方が楽になり,状態によっては人工呼吸器が必要になる。全肺野に湿性ラ音が聴診され,胸部X線写真には肺門陰影の境界不明確な拡大が認められる。 Ⅳ度心原性ショックである。心不全症状とショックの状態にある。 オ脳梗塞(甲B15,イ18),,脳血管の閉塞狭窄あるいはその他の原因により脳血流が著明に低下し 不可逆性病変(梗塞)が生じたものを脳梗塞という。 アテローム血栓性脳梗塞とは,脳を灌流する頭蓋内・外の主幹動脈のアテローム硬化を原因とする脳梗塞をいう。 カTIA(一過性脳虚血発作(甲B15,乙B31ないし33,35))急激に発症する局所的脳虚血症状で,通常2分ないし15分 灌流する頭蓋内・外の主幹動脈のアテローム硬化を原因とする脳梗塞をいう。 カTIA(一過性脳虚血発作(甲B15,乙B31ないし33,35))急激に発症する局所的脳虚血症状で,通常2分ないし15分,長くとも,。 24時間以内に完全に回復するものをいい失神の原因となることがあるキ起立性低血圧(甲B10)起立性低血圧とは,臥位から立位に動く際に20mmHg以上の血圧低下が見られる場合をいい,失神を生じさせることがある。 ク抗血栓療法(甲B18,乙B42)血栓症は,血管壁の性状,血液成分,血流の3要因が密接に関連し,血管内に病的血栓が形成されて発症する。一般的に血流速度の速い動脈系では血小板の活性化が,血流速度の比較的遅い静脈系では凝固系の活性化が血栓形成に重要な役割を果たす。したがって,通常,動脈血栓に対しては抗血小板療法(アスピリン,チクロピジン等の投与)が,静脈血栓に対しては抗凝固療法(ヘパリン,ワルファリン等の投与)が適応となる。 代表的な適応疾患として,抗血小板療法は,虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作の再発予防,脳梗塞の予防,心疾患(心筋梗塞の予防等,))末梢動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症等,その他(血栓性血小板減少性紫)斑病等)があり,抗凝固療法は,動脈血栓性塞栓性疾患(心筋梗塞,一過性脳虚血発作等,静脈血栓塞栓性疾患(肺塞栓症等,その他(DIC))等)がある。 本件入院中のFの診療経過についての当事者の主張被告らの主張は別紙「診療経過一覧表」の「年月日「診療経過(入院状況」主訴所見診断「検査・処置」欄に記載のとおりであり,これに対す)」る原告らの反論は同一覧表の「原告の反論」欄に記載のとおりである。 原告らの主張(<>内は原告Cのみの主張であり,その余は原告ら共通の主張である)。 (1 載のとおりであり,これに対す)」る原告らの反論は同一覧表の「原告の反論」欄に記載のとおりである。 原告らの主張(<>内は原告Cのみの主張であり,その余は原告ら共通の主張である)。 (1)本件死亡の原因アFは,長年にわたり,糖尿病を患って,血糖コントロール不良の状態が続き,大血管障害のリスク,具体的には脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まっていたところ,本件入院中,下記イのとおりTIAを発症して,これから進展した脳梗塞により死亡した。仮に脳梗塞により死亡したのではないとしても,心筋梗塞<又は静脈血栓塞栓症>により死亡した。 イTIAの発症Fは,本件入院中,①16日朝,転倒し,<かつ,その転倒を記憶しておらず(本件転倒発言)>,②19日午後1時ころ,失神して転倒し(本件失神,③21日朝,ペンが持てない状態になったところ,<①はTI)Aの見当識障害,>①,②はTIAの感覚障害,③はTIAの運動障害の各症状に合致する。そして,Fについては,糖尿病が進行していたこと,<後記エのとおり脱水状態にあったこと,>TIAは脳梗塞や心筋梗塞の前兆であることを併せると,これらの症状が出た時にはTIAを発症していたというべきである。 ,,,なお被告らは本件失神の原因が起立性低血圧であったと主張するが,,,対光反射テスト心電図R-R感覚検査臥位と立位での血圧変動の確認膀胱機能検査をしていないのであるから,根拠がない。 (2)本件死亡をもたらした被告病院担当医師の義務違反(本件死亡との因果関係を含む)。 担当医師が下記アないしカの各義務を尽くしていれば,本件死亡は避けられた。仮にそうではないとしても,担当医師が下記アないしカのうち複数の義務を尽くしていれば,本件死亡は避けられた。 ア強化インスリン療法を実施すべき義務の違反 F くしていれば,本件死亡は避けられた。仮にそうではないとしても,担当医師が下記アないしカのうち複数の義務を尽くしていれば,本件死亡は避けられた。 ア強化インスリン療法を実施すべき義務の違反 Fは,長年にわたり,糖尿病を患って,血糖コントロールが不良な状態が続き,大血管障害(具体的には脳梗塞や心筋梗塞)のリスクが高まっていた。このような患者に対しては,強化インスリン療法により血糖コントロールを改善することによって,大血管障害のリスクを減少させることができるし,その必要がある。したがって,被告病院の担当医師は,被告病院において強化インスリン療法を実施することができるようになった平成,。 7年ころ以降Fに対して強化インスリン療法を実施すべき義務があったしかるに,担当医師は,その義務を怠った。 仮にFがインスリン治療に消極的であったとしても,担当医師は,Fが信頼していたH医師と協力したり,カウンセリングをするなどして,強化インスリン療法を受けるよう説得すべきであったところ,そのような説得もせず,強化インスリン療法を試みてもいないのであるから,上記義務を尽くしたとはいえない。 上記義務が尽くされていれば,Fは,その血糖コントロールが改善して大血管障害のリスクが減少することにより,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至ることはなかった。 <イ甲状腺機能低下症の治療をすべき義務の違反>Fは,平成11年6月9日までに,被告病院において甲状腺機能低下症と診断されていた。したがって,Fが平成12年に被告病院のプライマリークリニックを計11回受診した際,被告Eは,甲状腺機能の検査をした上,甲状腺機能低下症に対して適切な治療をすべき義務があった。しかるに,被告Eは,上記検査や治療を全くせず,この義務に違反した。 上記義務が尽くされていれば,Fの甲状腺機 Eは,甲状腺機能の検査をした上,甲状腺機能低下症に対して適切な治療をすべき義務があった。しかるに,被告Eは,上記検査や治療を全くせず,この義務に違反した。 上記義務が尽くされていれば,Fの甲状腺機能は本件ほどに低下することはなかった。上記義務が尽くされなかったために,Fは,甲状腺機能が一層低下して,本件入院時までに,心機能の低下,心肥大,腎機能低下及び浮腫を生じ,本件入院中,後記エのとおり利尿剤の投与と飲水制限を受 けることとなり,その結果,脳梗塞及び心筋梗塞のリスクが高まって,脳(,梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至った上記義務が尽くされていれば脳梗塞や心筋梗塞を生ずることはなかった。 。)ウ抗血栓療法を実施すべき義務の違反Fについては,前記のとおり,糖尿病が進行して,脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まっていたのであるから,担当医師は,予防的に(すなわち,脳梗塞や心筋梗塞の発症を予防するために)アスピリンの投与(抗血栓療法)をすべき義務があった。また,TIA,脳梗塞(アテローム血栓性のもの,心筋梗塞に対しては抗血栓療法が有効な治療法であるから,Fに)ついて,担当医師は,下記(ア)ないし(ウ)のとおりこれらの疾患を診断することができた時点で,抗血栓療法(アスピリン等の投与)を実施すべき義務があった。 ,,。 ,しかるに担当医師は上記の抗血栓療法を全く実施しなかったなおFには,抗血栓療法の副作用(出血傾向)による危険はなかったし,仮に少し出血したとしても,その不利益は,上記の抗血栓療法の必要性に比べればはるかに小さい。 ,,,上記の予防的な抗血栓療法が実施されていればFはTIAや脳梗塞心筋梗塞を発症することはなく,本件死亡に至ることはなかった。また,上記の治療としての抗血栓療法が実施されていれば,Fは,脳梗 ,,,上記の予防的な抗血栓療法が実施されていればFはTIAや脳梗塞心筋梗塞を発症することはなく,本件死亡に至ることはなかった。また,上記の治療としての抗血栓療法が実施されていれば,Fは,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至ることはなかった。 (ア)TIAの診断Fは糖尿病が進行し<後記エのとおり脱水状態にあり>上記(1),,,イのようにTIAに合致する症状を呈した。したがって,担当医師は,TIAを疑って,頸部血管雑音の確認,エコーや脳血管拡張MRアンギオグラフィーによる頸動脈病変の確認,CT,MRIを実施すべきであったのであり,これらが実施されていれば,TIAを診断することがで きた。しかるに,担当医師は,本件失神直後にCTを実施したのみで,他の検査を実施しなかった。 (イ)脳梗塞の診断Fについては,糖尿病が進行しており,上記(ア)のとおりTIAの診断もできた(なお,仮に本件失神が起立性低血圧により生じたものであるとしても,血圧低下に伴う脳虚血のリスクを認識すべきであった)。 ことからすれば,担当医師は,アテローム血栓性脳梗塞を疑って,本件入院期間中,とりわけTIA発症後は,エコー,MRアンギオグラフィー,CTアンギオグラフィーなどで主幹動脈病変を検査し,更に血管造影を実施するなどして,脳梗塞診断のための検査等を進めるべきであったのであり,その検査等が行われていれば,脳梗塞を診断することができた。しかるに,担当医師は,TIA自体を見逃しており,脳梗塞に着目した検査は全く実施しなかった。 (ウ)心筋梗塞の診断仮に本件死亡の原因が心筋梗塞であったとしても,Fについては,糖尿病が進行しており,上記(ア)のとおりTIAの診断もできた(なお,仮に本件失神が起立性低血圧により生じたものであるとしても,血圧低下に伴 本件死亡の原因が心筋梗塞であったとしても,Fについては,糖尿病が進行しており,上記(ア)のとおりTIAの診断もできた(なお,仮に本件失神が起立性低血圧により生じたものであるとしても,血圧低下に伴う虚血性心疾患のリスクを認識すべきであった)ことからすれ。 ば,担当医師は,心筋梗塞を疑って,本件入院期間中,とりわけTIA発症後は,別表①の診断手順に従うなどして心筋梗塞診断のための検査等を進めるべきであったのであり,その検査等が行われていれば,心筋梗塞を診断することができた。しかるに,担当医師は,12誘導心電図を実施し,モニターを31時間装着して正常であることを確認したのみで,その後の診断手順を踏まなかった。 エ適切な水分管理をすべき義務の違反血中の水分が減少する(脱水状態になる)と血流が悪化して脳梗塞や心 筋梗塞の危険が高まるから,担当医師は,そのような危険を防ぐために適。 ,,,切な水分管理をすべき義務があったしかるに担当医師はFに対して利尿剤を使用し,さらに,食事以外に500mℓの飲水しかさせない飲水制限をした。この飲水量は明らかに少なすぎるものであり,担当医師は上記義務に違反したというべきである。 そのため,Fは,血中の水分が減少して血流が悪化し,脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まって,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至った(上記義務が尽くされていれば,脳梗塞や心筋梗塞<や静脈血栓塞栓症>を生ずることはなかった。 。)<血液検査において,TPが5.6g/dℓ(16日)から6.1g/dℓ(21日)へと上昇したこと,血清Naが139mEq/ℓ(21日)から162mEq/ℓ(22日)へと上昇したことは,脱水状態を示す所見である。仮にこれらの検査結果から脱水状態とはいえないにしても,血液検査は,本件入院中,平成13年 aが139mEq/ℓ(21日)から162mEq/ℓ(22日)へと上昇したことは,脱水状態を示す所見である。仮にこれらの検査結果から脱水状態とはいえないにしても,血液検査は,本件入院中,平成13年11月9日,16日,21日,22日の計4回しか実施されておらず,脱水を把握するための血液検査の頻度としては不十分であり,これらの血液検査において脱水の所見が認められな,。 いとしてもFが本件入院中に脱水状態になかったということはできないそして,カルテに記載された飲水量及び尿量(記載が欠落している日もある,Fの口渇の訴え,室内が暑かったために不感蒸泄量が増えたと考。)えられること,体重が変化していない中で飲水量が尿量等の排出量に比して極端に低かったことからすると,Fが脱水状態に陥っていたことは明らかであるし,仮にそうとまではいえないとしても,飲水量や尿量の確認,血液検査が適切に実施されていればそのことは明らかになった。>オ適切な呼吸管理をすべき義務の違反呼吸不全になると血流が悪化して脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まるから,担当医師は,そのような危険を防ぐために適切に呼吸管理をすべき義 務があった。そして,Fは本件入院中呼吸苦を訴えていたのであるから,担当医師は,Fに対し酸素を十分与える義務があった。しかるに,担当医師は,Fに対し,酸素を十分与えることをせず,また在宅酸素療法の適否を判断するために酸素投与を一時的に中断するテストを実施して,上記義務に違反した。 そのため,Fは,呼吸不全に陥って血流が悪化することにより,脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まって,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至った(上記義務が尽くされていれば,脳梗塞や心筋梗塞を生ずることはなかった。 。)カ患者に無用のストレスを与えてはならない義務の違反患者にスト が高まって,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至った(上記義務が尽くされていれば,脳梗塞や心筋梗塞を生ずることはなかった。 。)カ患者に無用のストレスを与えてはならない義務の違反患者にストレスを与えると,自律神経が乱されて血圧が一時的にでも上昇し,心臓に負担がかかる危険がある。したがって,その危険を防止する,,,観点からしても担当医師は脳梗塞や心筋梗塞のリスクのあるFに対し無用にストレスを与えてはならない義務があった。しかるに,被告Eは,本件入院中の19日,Fに対し,下記(3)イのとおり,ドクターハラスメントと評価されるような発言をして,無用のストレスを与えた。 そのため,Fは,心臓に負担がかかり,脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まって,脳梗塞又は心筋梗塞による本件死亡に至った(上記義務が尽くされていれば,脳梗塞や心筋梗塞を生ずることはなかった。 。)(3)ドクターハラスメント医師は,患者に対して不安をあおるような言動をしてはならない義務がある。しかるに,被告Eは,下記ア,イのとおりの言動をして上記義務に違反し,Fに対して著しい精神的苦痛を与えた(これは,ドクターハラスメントと評価される。 。)ア被告Eは,平成12年11月17日,翌日に糖尿病性足壊疽による右足指切除術を受けるFに対し「親からもらった体もとうとう切断だな」,。 と言い,Fの目の前で,指を使って大きくVの字を描いて手術で切断する,「。」部位を示すとともに自己の両手の親指を突き出してこういう風にねと切り離す仕草をした。しかも,被告Eの示した切断範囲は,外科の担当,,。 医師の説明と異なりまた実際に手術で切断された範囲よりも広かったイ被告Eは,平成13年11月19日午後4時30分ころ,数時間前に失神したFに対し「看護婦にわがままを 範囲は,外科の担当,,。 医師の説明と異なりまた実際に手術で切断された範囲よりも広かったイ被告Eは,平成13年11月19日午後4時30分ころ,数時間前に失神したFに対し「看護婦にわがままを言うな「病室の料金をまけさ,。」,せるようなことはするな「聖路加か慶應病院に行ったらいいじゃない。」,か。もう迷惑だから出て行ってくれ。出て行ってくれよ」などと一方的。 に強い口調で言った。 (4)被告らの責任ア上記(2),(3)の各義務違反は,被告法人の債務不履行を構成する。 ,,,被告Eは被告病院の内科部長として自ら上記(2)の各義務を尽くし又は担当医師が上記(2)の各義務を尽くすよう監督すべき義務があったところ,この義務を怠った。この義務違反及び上記(3)の義務違反は,被告Eの不法行為を構成する。したがって,被告らは,下記イの損害を賠償すべき責任がある。 イ原告らは,Fに生じた下記(ア),(イ)の損害についての賠償請求権を相続し,下記(ウ)ないし(オ)の損害を被ったから,それぞれ2237万0196円の損害賠償請求権を有する。 (ア)Fの逸失利益1235万7036円基礎収入を254万2600円(Fの死亡当時の年金収入,その収)入の喪失期間を10.73年(平均余命。ライプニッツ係数8.1,)生活費控除率を40%として計算する。 (イ)Fに生じた慰謝料3700万円死亡による慰謝料2700万円とドクターハラスメントによる慰謝料1000万円の合計額。 (ウ)Fの死亡による原告ら固有の慰謝料各200万円(エ)葬儀費用300万円(原告らが各100万円を負担した)。 (オ)弁護士費用291万7851円(原告ら1人当たり97万2617円) 被告らの主張(1)本件死亡の原因についてア本件死 葬儀費用300万円(原告らが各100万円を負担した)。 (オ)弁護士費用291万7851円(原告ら1人当たり97万2617円) 被告らの主張(1)本件死亡の原因についてア本件死亡の原因は,急性心不全という以上には特定されておらず,脳梗塞である可能性も否定はできない。しかし,Hb,TP及び血清Naの上昇などの脱水の血液検査所見がないこと,下記イのとおりTIAを発症したとはいえないこと,血糖コントロールの不良や長年の糖尿病による動脈硬化病変の進行は,従前からFに認められ,虚血性心疾患の原因にもなることからすると,本件死亡の原因が脳梗塞であると積極的に肯定することはできない。 そして,一般に糖尿病患者の死因として脳梗塞よりも虚血性心疾患や突然死の方が多いとされている上,特にFについては,①糖尿病歴30年以上,糖尿病性腎症,糖尿病性網膜症,閉塞性動脈硬化症(Fontaine分類Ⅳ度)という虚血性心疾患の発症率及び死亡率を高める因子を有していたこと,②高齢(79歳,糖尿病性腎症(腎不全,糖尿病性足壊))疽(右足指切除,自律神経障害(神経因性膀胱,起立性低血圧,左心))室のびまん性収縮障害,左室駆出率低下(29%,重症左室機能不全,)心不全という突然死する糖尿病患者の特徴を備えていたことからすると,本件死亡の原因は虚血性心疾患(心筋梗塞等)又は突然死であった可能性が高い。 FがTIAを発症していないことについては下記イのとおりであり,本件失神の原因については下記ウのとおりである。 イTIAを発症していないこと 本件転倒発言については,転倒の事実自体やその理由が不明であり,Fが転倒の事実を認めたくなかったという可能性も十分考えられ,その発言,,の意図は不明であるし局所神経症状も認められなかったことからすれば 倒発言については,転倒の事実自体やその理由が不明であり,Fが転倒の事実を認めたくなかったという可能性も十分考えられ,その発言,,の意図は不明であるし局所神経症状も認められなかったことからすればこれをもってTIAを起こしたと判断することはできない。なお,転倒することはTIAの症状である感覚障害に当たるとはいえないし,TIAの症状として見当識障害は挙げられていない。 本件失神については,TIAによる失神が起こること自体まれであること,失神直後の診察で,局所神経症状はなく,手足の脱力感や構音障害もなかったことが確認されていることからして,TIAによるものとはいえない。 21日の「ペンが持てない」との発言については,ペンが持てないと。 の事実自体やその理由が不明であり,その発言の意図は不明であるし,本件入院中そのような事実は全く確認されていないことからすれば,この発言だけでFがTIAを起こしたと判断することはできない。 ウ本件失神の原因Fには,本件失神直後,神経学的所見及び心音に異常はなく,心雑音もなかった。そして,重症な心筋梗塞を起こしている可能性がある場合には,,,通常数時間以内に心電図に変化が出るところFについては本件失神後12誘導心電図において入院時の所見と変化がなく,モニターを31時間装着したが不整脈は認められなかったのであるから,心エコーをするまでもなく,重症な心筋梗塞を起こしていたとはいえない。失神を来すような心筋梗塞の場合には血圧が低下してショック状態に陥っていくところ,Fは,本件失神後,意識状態が回復し,会話ができる状態にまで戻ったのであり,やはり心筋梗塞を起こしていたとは考えられない。 意識障害が一過性であったこと及び全く神経学的麻痺がなかったことからして,心臓からの血栓が脳塞栓を起こした可能性は低いと考えら 態にまで戻ったのであり,やはり心筋梗塞を起こしていたとは考えられない。 意識障害が一過性であったこと及び全く神経学的麻痺がなかったことからして,心臓からの血栓が脳塞栓を起こした可能性は低いと考えられる。 そして,頭部CT上脳出血の所見はなかった。したがって,本件失神の原因が脳血管障害であった可能性は低い。 本件失神は,従前から症状の出ていた糖尿病に起因する起立性低血圧が原因である。 なお,本件失神後2日以上にわたって意識状態に特段の異常は認められなかったこと,上記アのとおり本件死亡の原因は虚血性心疾患や突然死である可能性が高いと考えられることからすると,本件失神が本件死亡に直接影響したともいえない。 (2)上記3(2)(本件死亡をもたらした被告病院担当医師の義務違反)についてア上記3(2)ア(強化インスリン療法を実施すべき義務の違反)について強化インスリン療法においては,頻回に血糖測定を行い,その結果からインスリン量を調整する必要があるところ,Fは,血糖測定やインスリン量の調整をしばしば拒否するなどインスリン療法自体に拒否的であり,強化インスリン療法についての理解を得られるような状態ではなかった。そして,Fのように血糖コントロールの悪い患者の場合,短い入院中のみならず在宅において長期的に強化インスリン療法を実施しなければ,糖尿病の合併症の進展予防に効果がないところ,Fの場合,在宅での強化インスリン療法は一層困難であった。 また,Fは,自律神経障害が進行しており,無自覚性低血糖を起こす危険があったことから,厳格な血糖管理はかえって危険であった。 したがって,担当医師において強化インスリン療法を実施すべきであったとはいえない。 また,Fが虚血性心疾患により死亡し,又は突然死したことについて,入院中の血糖コントロール不良がどこまで であった。 したがって,担当医師において強化インスリン療法を実施すべきであったとはいえない。 また,Fが虚血性心疾患により死亡し,又は突然死したことについて,入院中の血糖コントロール不良がどこまで影響したかは不明である。 イ同ウ(抗血栓療法を実施すべき義務の違反)について ,,,Fはかねてから起立性低血圧によるものと思われるふらつきが強く転倒しやすい状態にあったところ,脳梗塞や虚血性心疾患の具体的危険が生じていないFに対して予防的にアスピリン等の抗血小板薬を投与することは,転倒した際,打撲した部位の出血,特に脳内出血の危険を増大させることになり,不適切である。 そして,Fが投薬,検査等について全般的に拒否的であったことから,担当医師は,心不全や糖尿病の治療に優先度の高い薬から処方していたのであり,抗血小板薬は優先度の高い薬ではなかった。 担当医師は,Fに対し,血糖コントロールを行うとともに,降圧剤の投与による高血圧の治療を行うことによって,大血管障害(脳血管障害及び虚血性心疾患を含む)の予防に努めていたのであり,抗血小板薬を投与。 すべき義務があったとはいえない。 ウ同エ(適切な水分管理をすべき義務の違反)について上記のとおり,Fは本件入院中脱水症状を起こしていない以上,飲水制限の適否についてはそもそも問題とならない。 心不全の治療においては,禁食として点滴のみで1日500mℓの飲水制限をする場合すら十分ありうるところ,担当医師は,Fには,本件入院時に浮腫が著明に認められたこと,Killip分類でⅡ度(軽症から中等度心不全)とされたこと,本件入院時までの臨床経過においてラシックス(ループ利尿剤)を増量しても心不全が起こっていたこと,治療におけるコンプライアンスが良くなかったことなども考慮し,1日500mℓの飲水制限をする たこと,本件入院時までの臨床経過においてラシックス(ループ利尿剤)を増量しても心不全が起こっていたこと,治療におけるコンプライアンスが良くなかったことなども考慮し,1日500mℓの飲水制限をするとともに,食事については禁食にまではせず,糖尿病と腎,。 ,障害の患者向けの食事を指示したのであり何ら不適切な点はないなお上記の食事には通常約700mℓないし1100mℓ程度の水分が含まれており,Fの1日当たりの水分摂取量は1000mℓ以上となる。 エ同オ(適切な呼吸管理をすべき義務の違反)について 担当医師は,Fの慢性的な低換気状態を解消するため,F自身も希望していた在宅酸素療法の導入を検討し,その適応を判断するために酸素吸入を30秒間一時的に中止してPaOの低下を確認したにすぎず,その後 酸素投与を再開したところSpOは回復し,Fも特に呼吸苦を訴えてい なかったのであるから,呼吸管理は適切であった。 オ同カ(患者に無用のストレスを与えてはならない義務の違反)について下記(3)イのとおり。 (3)上記3(3)(ドクターハラスメント)についてア被告Eは,平成12年11月17日,Fに対して手術に関する話をした際「身体髪膚これを父母に授く」という発言はした。しかし,これは,,。 糖尿病性足壊疽による足指の切断が再発を繰り返し,指だけにとどまらず下肢の上の方まで及んでいくことが多いことから,これ以上自分の身体を傷つけないよう治療に真摯に取り組んでいきましょうという趣旨であり,他意はない。 イ被告Eは,19日にFの病室を訪れた際,必要な処置や治療を受けるように要請し,病室の料金を減額して経済的な面からもFにできる限りの対応をしていることを伝え,病室の温度が高いと感じているFの希望にかなう病院として被告病院よりも新設されたアメニ 処置や治療を受けるように要請し,病室の料金を減額して経済的な面からもFにできる限りの対応をしていることを伝え,病室の温度が高いと感じているFの希望にかなう病院として被告病院よりも新設されたアメニティランクの高い聖路加国際病院や慶應義塾大学病院を提案したにすぎず,原告らが主張するような発言はしていない。なお,被告Eは,訪室時には,本件失神について知らなかった。 (4)上記3(4)(被告らの責任)について否認し,又は争う。 第3当裁判所の判断 前記前提事実に証拠(甲A2,3,乙A12,13,証人G,原告A,原告C,被告Eのほか,各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の 事実が認められる。 (1)本件入院以前のFの診療経過等(甲A1,4,9,イ10の1・2,乙A1ないし5,7ないし11)ア診療経過の概要,,,Fは長年インスリンを使用してきたが平成11年2月ころまでにはHbA1cが約16%で推移するなど血糖コントロールが極めて悪い状態で推移するようになり,浮腫も徐々に増強してきたため,同月11日に被告病院に緊急入院した。それ以来,①平成11年2月11日から同年6月9日まで,②同年7月10日から同月21日まで,③同年10月29日から同年12月4日まで,④平成12年1月13日から同月30日まで,⑤同年11月13日から同年12月28日までの計5回,被告病院に入院して治療を受けた。また,自宅で転倒して骨折したことから,平成11年9月11日から同年10月29日までは慶應義塾大学病院整形外科に入院してその治療を受け,平成12年11月4日から同月13日までは医療法人社団浩邦会日比谷病院以下日比谷病院というに入院していた下(「」。)(記エ(イ)参照。それ以外の期間においては,月1回程度の頻度で被告病 2年11月4日から同月13日までは医療法人社団浩邦会日比谷病院以下日比谷病院というに入院していた下(「」。)(記エ(イ)参照。それ以外の期間においては,月1回程度の頻度で被告病)院に通院して治療を受け,そのうち平成12年2月7日から同年10月30日までは「プライマリークリニック(担当は被告E)に計11回通,」い,治療を受けた。 Fは,遅くとも平成11年2月には,甲状腺機能低下症と診断された。 ,,,,,また平成12年ころまでに糖尿病性網膜症心不全糖尿病性足壊疽糖尿病性腎症,糖尿病性神経症,慢性動脈硬化性閉塞症などの糖尿病の合併症を発症し,治療を受けた。 イ甲状腺機能低下症について(ア)平成11年2月19日(①,同年3月9日(②)及び平成13年)(),10月7日③に実施されたFの甲状腺機能の検査結果及び基準値は 別紙「血液検査結果一覧表」の「1甲状腺機能検査」欄に記載のとおりである。なお,①及び②は被告病院において,③は赤須医院において実施された検査の結果である。 (イ)Fは,被告病院に入院中に実施された上記(ア)①の検査の結果から甲状腺機能低下症と診断され,チラージン(甲状腺ホルモン製剤)の投与を受けていたが,平成11年3月2日夕方より顔面から全身に広がる赤色疹が生じた。担当医師は,これを薬疹又は感染症と判断して,Fに対し皮膚科受診を勧めたが,拒否され,チラージンの投与を中止した。 Fは,同月9日に甲状腺機能検査を受けて以降,同年6月に退院するまでの間,同検査を再度受けたり,チラージンの投与を再開されることはなかった。その後は,平成13年10月7日に赤須医院を受診するまで,被告病院及びその他の病院に入通院して治療を受けたが,甲状腺機能低下症について診断されたり治療対象の傷 ジンの投与を再開されることはなかった。その後は,平成13年10月7日に赤須医院を受診するまで,被告病院及びその他の病院に入通院して治療を受けたが,甲状腺機能低下症について診断されたり治療対象の傷病と把握されることはなく,甲状腺機能検査を受けたりチラージン等の甲状腺ホルモン製剤の投与を受けることもなかった。 ウ糖尿病に関連した症状等について平成11年ないし平成13年ころ,Fには糖尿病に関連して以下の症状等が見られた。 (ア)FのHbA1cは,平成11年以降概ね8.0%以上で推移し,特に平成12年以降は概ね12.0%以上で推移した。 また,Fは,朝に低血糖発作を起こすことがよくあり,そのことを恐れていた。 Fは,時々ふらつくことがあった。平成11年3月19日に臥位と座位で血圧を測定したところ,臥位では174/84であったのに対し,座位では120/60であった。 (イ)Fは,心不全による浮腫や過食のために体重が増えることがあり, 平成11年2月の入院時ころには約50kg,平成12年1月中旬の入院時ころには約45kgであったが,水分管理やラシックスの投与等の治療を受けた結果,それぞれの退院時には,35kgないし37kg程度,38kgないし39kg程度へと減少した。なお,上記ア⑤の退院時(平成12年12月28日)の体重は41kgであった。 (ウ)Fは,平成11年2月に被告病院に入院して以来,時々心電図や心エコーを受けていた。 平成11年2月及び同年11月のポータブル心電図検査では,前壁中。 ,壁心筋梗塞の所見が認められた平成12年11月の心エコーにおいて左室駆出率約40%,左室びまん性低運動(収縮不良,びまん性左室)肥大,僧帽弁閉鎖不全,左房拡大,大動脈弁石灰化,僧帽弁石灰化,少量の心のう液貯留あり等の所見が認められた。平成1 心エコーにおいて左室駆出率約40%,左室びまん性低運動(収縮不良,びまん性左室)肥大,僧帽弁閉鎖不全,左房拡大,大動脈弁石灰化,僧帽弁石灰化,少量の心のう液貯留あり等の所見が認められた。平成13年3月の心エコーにおいて,左室駆出率低下(29%,左室びまん性中等度低運動,)左室拡大軽度,大動脈弁石灰化,右室拡張期圧約56mmHg,心のう液貯留少量等の所見が認められた。 (エ)平成12年12月の下肢動脈エコーにおいて,動脈硬化変化あり,右後脛骨動脈は波形の鈍化あり(狭窄,左後脛骨動脈は描出不可(閉)),。 塞疑いでその他の下肢動脈は正常血流パターンの所見が認められた(オ)平成13年9月ころ,糖尿病性神経因性膀胱による排尿障害が認められた。 エ右足指の切断治療等について(ア)Fは,平成12年10月中旬ころ,右足第2趾付近に熱湯をかけて()。 ,火傷2度ないし3度を負った糖尿病性閉塞性動脈硬化症がある上その部位が感染を起こしたため,火傷による潰瘍は急速に悪化した。 (イ)Fは,平成12年11月4日から日比谷病院に入院して,糖尿病及び閉塞性動脈硬化症(右第2趾皮膚潰瘍)の治療を受けていたが,血糖 コントロールが極めて不良であったことから,その改善を図るため,同月13日に被告病院へ転院した。 (ウ)担当医師は,平成12年11月13日,Fを診察したところ,足指の切断は避けられないと考えて,感染の問題が落ち着いたらその手術を実施することとした。その後,手術は同月18日に実施されることとなり,担当医師からFに対してその説明がされた。 同月17日夕方,被告Eは,Fの病室を訪れて,Fに対し,右第2趾を切断することを説明するとともに,足指を切断しなければならなくなったことについて「身体髪膚父母にこれを授く」などと話した( がされた。 同月17日夕方,被告Eは,Fの病室を訪れて,Fに対し,右第2趾を切断することを説明するとともに,足指を切断しなければならなくなったことについて「身体髪膚父母にこれを授く」などと話した(この。 点について,原告らは,被告Eが,Fに対し「親からもらった体もと,うとう切断だな」と言い,Fの目の前で,指を使って大きくVの字を。 描いて手術で切断する部位を示すとともに,自己の両手の親指を突き出して「こういう風にね」と切り離す仕草をした,しかも,被告Eの示。 した切断範囲は,外科の担当医師の説明と異なり,また,実際に手術で切断された範囲よりも広かったなどと主張し,原告A及び原告C各本人も,上記主張に沿う内容の言動があったことを後刻あるいは後日にFから聞かされたかのように供述する。しかしながら,上記各供述は,伝聞にすぎないことはさて措くとしても,上記認定の限度を超える部分においては,必ずしも明確なものではなく,主観的評価を交えてのものであることが窺われ,被告E本人尋問の結果に照らしても,直ちに採用することはできず,他に,本件全証拠を検討してみても,上記認定を超えて原告らの主張する事実を認めるに足りる的確な証拠はない。そのた。)め,Fは非常に気分が悪くなった。 同月18日,Fは,形成外科の医師による右第2趾基節骨断端の切除術を受けた。 オFのコンプライアンス等について Fは,被告病院に入通院している間,穏やかなときもある一方,興奮するときもあり,被告病院の病室の温度や湿度に不満を持つこともあった。 そして,処置等に納得ができないときは,血糖値測定,SpO測定,検 温,レントゲン撮影,インスリンの投与や増量,ラシックス投与,点滴等,,を嫌がることがあり担当看護師に説得されて受け入れることもあったが説得されてもなお拒否す は,血糖値測定,SpO測定,検 温,レントゲン撮影,インスリンの投与や増量,ラシックス投与,点滴等,,を嫌がることがあり担当看護師に説得されて受け入れることもあったが説得されてもなお拒否することもあった。担当看護師らは,Fの訴えを傾聴することも少なくなく,それによってFが落ち着くこともあった。 被告病院精神科の担当医師は,平成12年1月ころ,Fを診察して,非常に知性と自尊心の高い女性で,痴呆やうつ病はなく,神経症であると思われ,カウンセリングが有効なケースであると判断し,被告病院内科の担当医師に対し,Fが了解すれば精神科において経過を見ると回答した。し,。 かしその後Fが精神科においてカウンセリングを受けることはなかったG医師は,同年11月15日,Fに対してインスリンスケール法(強化インスリン療法の1つ)の説明をし,同年12月28日までの入院中何度か説得を試みたが,結局,Fの承諾は得られず,Fに対して強化インスリン療法を導入することはなかった。 (2)本件入院中の診療経過等(甲A5ないし7の各1ないし3,イ20,21,22及び23の各1・2,25,26,乙A6),,,アFは9日午後2時40分ころ原告Cに連れられて被告病院を受診しG医師の診察を受けたところ,体重が52.5kgと増加しており,下肢,。 ,,浮腫が増強していると判断され入院を勧められたFは薬は必要ない点滴は嫌だなどと興奮気味に話して,当初は入院を拒否していたが,原告Cの希望もあって入院することとなった。 イ本件入院中,G医師及びI医師が主治医としてFの治療を担当した。本件入院当初のFの治療について設定された方針や問題点は以下のとおりであった。 ①心不全による浮腫を改善するべく,ラシックス1日160mg(40mg×4)の投与を開始する の治療を担当した。本件入院当初のFの治療について設定された方針や問題点は以下のとおりであった。 ①心不全による浮腫を改善するべく,ラシックス1日160mg(40mg×4)の投与を開始するとともに,飲水制限を1日500mℓとする。ただし,食事については,糖腎40A常食とする。 ②9日のHbA1cは12.3%であったところ,血糖コントロールを改善するため,1日4回血糖値を測定した上で,朝及び夕の2回,混合型インスリン(ペンフィル30R)を投与する(従来型のインスリン療法。 )③呼吸状態の安定を図るため,SpOを測定し,90%を下回った場 合には酸素投与を1ℓから開始する。なおもSpOが90%を下回る 場合は,更に投与を1ℓずつ増量して最大4ℓまで増やしていく。 ④足壊疽の治療後のケアを実施する。 ⑤治療方針に拒否的で,医師の指示に従ってもらえないことが問題である。 ウ本件入院中のFの病室の温度/湿度,体温,体重,尿量,血糖値(朝,昼,夕,就寝前,インスリン投与量,浮腫の状態は,別紙「本件入院中)の経過一覧表」記載のとおりである。なお,Fは,本件入院中,食事は概ねすべて食べ,500mℓ程度の飲水をしていた。病室の温度は約30℃になることもあった。 (,,,,),本件入院中のFの血液検査結果HbHtTPAlbNaは別紙「血液検査結果一覧表」の「2本件入院中の血液検査」に記載のとおりである。 ,,エ10日午前1時30分SpOが83%ないし88%と低下したため 担当看護師は,1ℓの酸素投与を開始した。 10日午前7時ころ,低血糖状態となり,ブドウ糖の投与をされた。Fは「9日昼にも低血糖らしい症状があった。家でもよく低血糖になって,ブドウ糖を飲むが,症状として眠くなってくるのでよくわか 始した。 10日午前7時ころ,低血糖状態となり,ブドウ糖の投与をされた。Fは「9日昼にも低血糖らしい症状があった。家でもよく低血糖になって,ブドウ糖を飲むが,症状として眠くなってくるのでよくわからない。朝は めまい感が強い」などという趣旨のことを訴えた。そのため,担当医師。 は,インスリンの投与量を朝6単位,夕4単位から朝4単位,夕2単位に減量したが,12日には血糖値が全体的に高値であると考え,13日から朝の投与量のみ4単位から6単位に再度増量した。また,甲状腺機能低下症が浮腫の一因として考えられたため,低用量でチラージンの投与を開始した。Fは「いつもいつも言ってるじゃない。インスリン増やせばいい,ってもんじゃないのよ」などと訴えた。 。 13日,午前10時50分ころ,SpOが88%と低下したため,担 当看護師は,酸素投与量を2ℓへと増量し,なおもSpOの上昇が見ら れなかったため,午前11時30分ころには更に3ℓに増量した。 15日夜から,ラシックスは1日120mg(40mg×3)に減量された。 オ16日午前6時ころ,Fの部屋から手をたたく音がしたため,担当看護師が訪室した。Fは「転んだ」と1回のみ言い,何度か転倒の件につ,。 「。」()。 いて質問されても転んでいないと言うのみであった本件転倒発言呼吸苦,胸痛,腹痛の訴えはなかった。 カ17日午前7時30分ころ,Fは,低血糖で眠気と起きあがりもままならないことを訴えた。担当看護師が血糖値測定を促すも,Fは「血糖値,ばかりあなたたちは見てるのよ。その値で甘いのを飲ませたりインスリンの量を変えたりとやり方がおかしいわよ」と文句ばかり言い,血糖値測。 定を拒否した。同日以降,Fの希望により,血糖値測定は1日4回から2回に減らされることとなった。 18日午後 飲ませたりインスリンの量を変えたりとやり方がおかしいわよ」と文句ばかり言い,血糖値測。 定を拒否した。同日以降,Fの希望により,血糖値測定は1日4回から2回に減らされることとなった。 18日午後2時,SpOが87%ないし88%となったため,担当看 護師は酸素投与量を4ℓへと増量した。 19日午前10時40分ころ,Fは「H先生に会うと気分がいいの」,。 と話した。 キ19日午後1時ころ,Fは,失神してベッドわきの床に倒れているところを,原告Cに発見された。Fは,転倒したことについては覚えていないと話し,疼痛の訴えや外傷はなく,体温は37.4℃,血糖値は425m,。 ,g/dℓ血圧は124/60であった担当医師がFを診察したところ意識レベル(Japancomascale)は概ねⅠ-1で,瞳孔は丸く不同なし,貧血なし,黄疸なし,肺両側にラ音(雑音)あり,心3音なし,心雑音なし,腹部は柔らかく平坦で圧痛なし,足浮腫ありの所見を認めた。また,12誘導心電図上,入院時と変化がなく,CT上,右側頭葉に陳旧性脳梗。 ,,塞の所見を認めるも脳内出血の所見を認めなかったそこで担当医師はFは失神したのであろうが,その原因が心臓又は脳にある可能性は低いと判断した。さらに,その後,経過観察のため,心電図モニターを約31時間装着したが,意識障害の原因となる脈の不整や欠落は認められず,本件失神の原因は起立性低血圧ではないかと判断した。本件失神の原因探索のために頸動脈エコー,頭部MRI,心エコー,心筋シンチグラフィー,ダブルマスターテストは実施されなかった。 ク19日午後4時30分ころ,被告Eは,G医師とともにFの病室を訪れて,Fに対し,病室の料金を通常より減額していること,Fの希望をかなえるためには聖路加国際病院や慶應義塾大学病院に されなかった。 ク19日午後4時30分ころ,被告Eは,G医師とともにFの病室を訪れて,Fに対し,病室の料金を通常より減額していること,Fの希望をかなえるためには聖路加国際病院や慶應義塾大学病院に転院した方がよいので(,,,はないかということなどを話したこの点について原告らは被告EがFに対し「看護婦にわがままを言うな「病室の料金をまけさせるよ,。」,うなことはするな「聖路加か慶應病院に行ったらいいじゃないか。も。」,う迷惑だから出て行ってくれ。出て行ってくれよ」などと一方的に強い。 口調で言ったと主張し,原告C本人も,上記主張に沿う内容の言動があったことを後刻にFから聞かされたかのように供述する。しかしながら,上記供述は,伝聞にすぎないことはさて措くとしても,上記認定の限度を超える部分においては,必ずしも明確なものではなく,主観的評価を交えて のものであることが窺われ,証人Gの証言及び被告E本人尋問の結果に照らしても,採用することはできず,他に,本件全証拠を検討してみても,上記認定を超えて原告らの主張する事実を認めるに足りる証拠はない。 。)そのため,Fは非常に気分が悪くなった。 ケ20日午前0時,Fは,ベッド上端座位で過ごしていたが,自分で上半身をゆらゆら動かしたり,時々ウトウト入眠していた。同日午前6時,体重測定時ふらつきがあった。21日午前6時,血糖値測定,インスリン注射,SpO測定に対し,不満を訴えた。体重測定時に,ふらつきが著明 であった。Fは,同日の医師の診察の際,入院してから数回の低血糖症状があったと話したが,血糖値の測定をさせないため正確なところは不明であった。 21日午後8時,担当医師は,在宅酸素療法の適応の有無を判断するため,酸素投与を約30秒中断し,動脈血ガス分析を実施した。そ あったと話したが,血糖値の測定をさせないため正確なところは不明であった。 21日午後8時,担当医師は,在宅酸素療法の適応の有無を判断するため,酸素投与を約30秒中断し,動脈血ガス分析を実施した。その結果,PaOが31.3%で,在宅酸素療法の適応が認められた。4ℓの酸素 投与を再開すると,SpOは90%台へと回復した。 コ22日午前4時40分ころ,Jは,回診の際,Fの病室から物音がしたために訪室したところ,Fが端座位から真後ろにひっくり返っているのを,,,,発見し直ちにFの状態を確認したところ頸動脈は触れず瞳孔散大し血圧測定不可,心臓停止,SpO測定不可,体温37.1度との所見を 認め,心臓マッサージを開始した。さらに,かけつけた担当医師らにより蘇生措置が実施されたが,Fは,回復することなく,同日午前7時53分にその死亡(本件死亡)が確認された。 医学的知見証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の医学的知見が認められる。 (1)甲状腺機能低下症(甲イ12,13) ア症状等甲状腺機能低下症の症状は,別表②のとおりである。発症は通常潜行性であり,患者は甲状腺機能が正常に回復して初めて症状に気付くことが多い。 長期の甲状腺機能低下症を背景として,ストレス,発熱,疲労等が誘因となり極端な低体温,低換気に伴うCOナルコーシスを生ずる粘液水腫 性昏睡が生ずることがあり,低血圧,低血糖,低ナトリウム血症,ショックを特徴とする。 イ検査,診断等甲状腺機能低下症の存在及び原因を決定するために用いられる検査の概要は,別表③のとおりである。 甲状腺機能低下症においては,CK-MMも上昇する。 慢性甲状腺炎(橋本病)に突発性アジソン病を合併するシュミット症候群は,女性患者や糖尿病との合併が多く,TSH 査の概要は,別表③のとおりである。 甲状腺機能低下症においては,CK-MMも上昇する。 慢性甲状腺炎(橋本病)に突発性アジソン病を合併するシュミット症候群は,女性患者や糖尿病との合併が多く,TSHとともにACTHも上昇する。 粘膜水腫心は,心エコーでechofreespaceができているか否かで診断する。 ウ治療等不足している合成T4(レボチロキシン)を補充投与する。これが奏功してTSH値が安定すれば,年1回の頻度でTSH値のフォローアップ測定を実施することが推奨される。 (2)糖尿病患者の大血管障害のリスク(甲B3,4,12,13,19,乙B9,36,37,38)ア糖尿病は,インスリン抵抗性などにより,高血圧,高脂血症,高血糖,高インスリン血症,炎症,血小板活性化,凝固活性化,内皮機能障害を生じさせ,大血管障害のリスクを高める。 大血管障害の発症は,細血管障害とは異なり,血糖コントロールや罹病期間に必ずしも強くは依存しないといわれている。 イ糖尿病患者の大血管障害の発症率(1000人年あたりのイベント数)については,次のような報告がある。 虚血性心疾患脳血管障害JDCS(日本)8.07.4久山町研究2型糖尿病患者5.06.5()久山町研究(非糖尿病患者)1.61.9~2.3UKPDS(英国)17.4/5.6/(対照群/強化治療群)14.75.0ウ高血圧は大血管障害の重要な危険因子であるため,高血圧合併糖尿病では,血糖コントロールとともに厳格な血圧の管理が重要となる。降圧剤のほか利尿剤も降圧効果が期待できる。 (3)強化インスリン療法(甲B19,20,乙B45ないし47)ア2型糖尿病における強化インスリン療法の効果強化インスリン療法を導入することにより,従来型のインスリン療法に 効果が期待できる。 (3)強化インスリン療法(甲B19,20,乙B45ないし47)ア2型糖尿病における強化インスリン療法の効果強化インスリン療法を導入することにより,従来型のインスリン療法に比べ,厳格な血糖コントロールが可能となり,細血管障害(腎症,神経障,),(,,害網膜症のリスクを有意に低下させ大血管障害脳心血管系病変)(,末梢動脈病変のリスクも低下させる大血管障害のリスク低下について英国の「UKPDS」は統計上有意とするのに対し,日本の「熊本スタディ」は統計上有意とまではいえないとする。 。)したがって,強化インスリン療法については,基本的にはインスリン治療が必要なすべての患者に適応になるとか,中等症以上の糖尿病には適応,,になるとか合併症が軽症のうちから導入すべきであるなどというように その有効性という観点からは早期の導入を推奨する見解が多い。 イ強化インスリン療法のリスク及び適応強化インスリン療法により血糖コントロールが良くなるのと比例して重症低血糖が多くなる。これを予防するためには,低血糖に対する適切な処置や,血糖自己測定による効果的な予防などの患者教育が必要である。 したがって,強化インスリン療法を導入するためには,患者教育(動機づけや受入態度など)が十分で,低血糖発作などのトラブル発生時に適宜対応し得る能力を有し,血糖値自己測定を行えることが必要で,低血糖を自覚しにくい無自覚性低血糖や重篤な低血糖発作を繰り返す患者はよい適応とはならない。 (4)糖尿病患者の死因等ア突然死(甲B6,乙B12,13,17,18)糖尿病患者が突然死するケースは20%ないし30%程度見られるという報告がある。糖尿病患者の突然死の原因は心筋梗塞,急性心不全,脳卒中が多いが,不明のものも多い。 6,乙B12,13,17,18)糖尿病患者が突然死するケースは20%ないし30%程度見られるという報告がある。糖尿病患者の突然死の原因は心筋梗塞,急性心不全,脳卒中が多いが,不明のものも多い。 糖尿病は,突然死を発症する危険因子を多く生じさせ,高齢,糖尿病歴,,(),,が長いこと虚血性心疾患自律神経障害起立性低血圧など心不全腎不全,壊疽を有する,インスリン治療群などは突然死のハイリスク群であるとされている。しかし,突然死の危険因子として糖尿病の意義は明確ではなかったという報告もある。 イ死因(甲B4,5,11,乙B8,9,14,16,21)(ア)糖尿病患者の死因について,①血管障害は72.6%を占め,その中でも虚血性心疾患は全体の50%を占めるという欧米(JoslinClinic)における報告,②虚血性心疾患は14.6%,脳血管障害は13. 5%を占めるという日本における報告がある。 ()(イ)糖尿病性網膜症の中でも増殖網膜症を合併した糖尿病患者31例 の死因として,急性心筋梗塞及びうっ血性心不全が15例,突然死も8例と多く,脳血管障害は1例しかなかったという報告がある。 (ウ)閉塞性動脈硬化症患者の死因は,心筋梗塞ないし心疾患が最も多く約28%程度であるが,脳梗塞も20%ないし25%程度と多いという報告がある。 (5)無症候性虚血性心疾患(甲B11,14,乙B9)ア糖尿病患者は,神経障害により典型的な狭心症状を欠くことが多く,病,()。 勢が潜在的に進行し診断が遅れることが多い無症候性虚血性心疾患心不全が初発症状のこともある。 イ無症候性虚血性心疾患の分類にはCohn分類が用いられ,Ⅰ型(心筋虚血があるが全く無症状,Ⅱ型(心筋梗塞後に胸痛を伴わない心筋虚血)),(,)を示す 心不全が初発症状のこともある。 イ無症候性虚血性心疾患の分類にはCohn分類が用いられ,Ⅰ型(心筋虚血があるが全く無症状,Ⅱ型(心筋梗塞後に胸痛を伴わない心筋虚血)),(,)を示すⅢ型明らかな狭心症を有し同時に無症状の心筋虚血も示すがある。 ウ無症候性虚血性心疾患のスクリーニング検査について,以下のような見解がある。 ①高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,家族歴,高齢者,喫煙などの冠動脈危険因子を複数有する患者については,明らかな狭心症状がなくとも負荷心電図やホルター心電図を実施すべきである。ホルター心電図は,1回の検査で発作が捉えきれない場合,繰り返し行ったり,モニターを24時間ではなく48時間装着することにより診断できることがある。次のステップとしては,核医学検査(PET,心筋シンチグラフィー,心エコーなどがある。 )②治療歴が長い糖尿病患者の場合,無症状であってもCohnⅠ型の無症候性虚血性心疾患を合併している可能性が高いので,負荷心電図やホルター心電図を実施することが望ましい。CohnⅡ型,Ⅲ型においては,これらの心電図に加え,負荷心エコー,核医学検査などによる正確 な診断が必要である。 ③別表①の手順に従って検査を実施すべきである。 (6)脳梗塞(甲B15,イ18,乙B36)脳梗塞の代表的な臨床徴候としては,別表④のようなものがある。 脳梗塞の診断には,CT,MRI,一般血液検査,頸部血管雑音の聴診,脳血管撮影,MRアンギオグラフィー,頸部エコーなどが用いられる。 (7)失神(甲B10,乙B31,32,33,34),ア失神とは一過性の意識喪失であり,通常数秒から数分続き,姿勢緊張の喪失を伴う。自然回復によって解消する。 イ失神の原因は,大きく分けて,心臓性,非心臓性,原因不明の3つが 32,33,34),ア失神とは一過性の意識喪失であり,通常数秒から数分続き,姿勢緊張の喪失を伴う。自然回復によって解消する。 イ失神の原因は,大きく分けて,心臓性,非心臓性,原因不明の3つがあり,それぞれ約3分の1ずつを占めている。 TIAによる一過性意識障害はまれであり,失神の原因として,204例(原因不明が97例含まれる)中,心臓血管性が53例,TIAが3。 例,起立性低血圧が14例あったという報告がある。 ウ心臓性失神の予後は,非心臓性や原因不明のものに比べて悪い。 (8)TIA(甲B15,16,22,甲イ18,乙B29,30,35)アTIAとは,急激に発症し,通常2分ないし15分,大部分は1時間以内,最大限24時間持続する局所的脳虚血症状である。TIAの原因は,一過性の脳の血流低下であるが,その原因としては別表⑤のものが挙げられている。 TIAは脳梗塞,特にアテローム血栓性脳梗塞の前兆として重要な病態である。特にTIAの頻度が高く,同じ発作を繰り返すような場合は,主幹動脈の高度狭窄の存在が強く疑われる。脳梗塞がTIAの臨床兆候を示す場合もある。 イ障害された血管により,それぞれ別表⑥のような臨床症候が見られる。 TIAの除外項目(それら単独ではTIAと断定できない症候)として別 表⑦の項目が発表されている。この中で,回転性めまい,嚥下障害,構音障害,健忘などは,おのおの単独で出現したときはTIAと断定できなくても,複数のものが同時に出現した際にはTIAが強く考えられる。 ,,,,,TIAの診断にはCTMRI一般血液検査頸部血管雑音の確認エコー,脳血管撮影,MRアンギオグラフィーなどが用いられる。 (9)起立性低血圧(甲B10,17)起立性低血圧それ自体が危険であることはまれであるが,脳虚血などの 一般血液検査頸部血管雑音の確認エコー,脳血管撮影,MRアンギオグラフィーなどが用いられる。 (9)起立性低血圧(甲B10,17)起立性低血圧それ自体が危険であることはまれであるが,脳虚血などの血圧低下に伴う危険による合併症が問題である。 起立性低血圧は,脳卒中の予知因子となるという研究がある。また,70歳以上の高齢者につき,起立1分後拡張期血圧8mmHg以上の低下群において,心筋梗塞発症が増加するいう報告がある。 (,,,,,,,(10)抗血栓療法甲B13 甲イ18乙B2930,35,42)TIAを発症した患者に対しては脳梗塞への進展予防のため,脳梗塞,心筋梗塞の患者に対してはその再発予防のため,それぞれ抗血栓療法の適応がある。糖尿病や高血圧などの症例では,アスピリンを服用させることにより心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果がある(25%程度減少させるという報告がある。 。)ただし,抗血栓療法には,出血のリスクがあり,特に脳出血はしばしば致命的である。 (11)脱水症(甲イ14,15,19,乙B28)ア水又はナトリウムが欠乏した結果,体液量,特に循環血流量の減少を来した状態を脱水という。 ,,,,イ脱水状態に陥ると①口渇感口腔粘膜面の乾燥皮膚の弾力性の低下②体重減少,③血圧低下,頻脈,ショック,表在静脈の虚脱,④尿量減少などの臨床症状が見られる。 循環血流量の減少により,Hbの上昇,TPの上昇などの血液濃縮を示す所見は水欠乏性脱水及びナトリウム欠乏性脱水のいずれにおいても見られる。血清ナトリウム濃度,浸透圧は,水欠乏性脱水では上昇し,ナトリウム欠乏性脱水では低下する。尿比重は,水欠乏性脱水では上昇するのに対し,ナトリウム欠乏性脱水では余り変化しない。ナトリウム欠 見られる。血清ナトリウム濃度,浸透圧は,水欠乏性脱水では上昇し,ナトリウム欠乏性脱水では低下する。尿比重は,水欠乏性脱水では上昇するのに対し,ナトリウム欠乏性脱水では余り変化しない。ナトリウム欠乏性脱水では尿中ナトリウム濃度は著明(10mEq/ℓ以下)に低下する。 ウ高齢者,女性,利尿剤使用者は,脱水のリスクが相対的に高い。 (12)水分管理(甲イ16,17,乙B48ないし50)ア飲食できる場合,水分摂取の内訳としては,飲水,食物,代謝水(約200mℓないし300mℓ)があり,水分排泄の内訳としては,尿,糞便,不感蒸泄がある。不感蒸泄の量は,①無熱,発汗無く,室温28℃以下のときは900mℓ程度であるが,②体温38℃以上,軽度の発汗あり,室温28℃ないし32℃のときは1000mℓないし1500mℓ程度であるとする見解がある。 イ心不全における水分管理全身性の浮腫は,心不全を悪化させるので,安静の保持,水分や塩分の制限,利尿剤の活用によって積極的に水分の排泄を図る。 本件死亡の原因等,,,原告らは本件死亡の原因につき本件入院中にTIAを発症したとした上これから進展した脳梗塞によるものであり,仮に脳梗塞によるものではないとしても,心筋梗塞又は静脈血栓塞栓症によるものであると主張する。 しかしながら,本件死亡の原因が,静脈血栓塞栓によるものであると認めるに足りる証拠はない(原告らのいわゆる協力医であるK医師も,そのような証言はしていない。そして,本件入院中にTIAを発症したとは認められず,。)本件死亡の原因については,脳梗塞である可能性も否定はできないものの,脳梗塞であると認めるには足りず,虚血性心疾患(心筋梗塞等)又は突然死であ る可能性も十分考えられる。その理由は,以下のとおりである。 (1)TIAの発症の有 ある可能性も否定はできないものの,脳梗塞であると認めるには足りず,虚血性心疾患(心筋梗塞等)又は突然死であ る可能性も十分考えられる。その理由は,以下のとおりである。 (1)TIAの発症の有無及び本件失神の原因についてア本件入院中,16日に本件転倒発言があり,19日に本件失神があったところ,原告らは,本件転倒発言はTIAの見当識障害の症状に,本件転倒発言及び本件失神はTIAの感覚障害の症状にそれぞれ合致すると主張し,また,21日にペンが持てない状態になったとした上,これがTIAの運動障害の症状に合致すると主張する。そして,K医師も,ほぼ同旨の証言をしている。 イしかしながら,次のとおりであって,上記の主張,証言は採用することができない。 (ア)本件転倒発言の際の状況は,Fの部屋から手をたたく音がしたため担当看護師が訪室したところ,Fは「転んだ」と1回のみ言い,何,。 度か転倒の件について質問されても「転んでいない」と言うのみであ。 ったというものであるところ,原告らは,これがTIAの感覚障害あるいは見当識障害に該当すると主張するのである。 しかしながら,TIAにおいて見当識障害が生ずることを裏付ける文献等の証拠は全くないし(別表⑥にも見当識障害は挙げられていない,TIAの症状としての感覚障害とは,感覚の脱失,鈍麻,しび。)れ等をいうところ,転倒やその他の上記状況がそのような感覚障害に該当するとはいえず,他に,上記状況の中にTIAの症状(別表⑥)に合致するものは見当たらない。 (イ)本件失神の際の状況は,Fが,失神してベッドわきの床に倒れているところを,原告Cに発見されたというものであるところ,原告らは,これがTIAの感覚障害に該当すると主張する。 しかしながら,上記(ア)と同様,転倒やその他の上記状況がTIAの感 わきの床に倒れているところを,原告Cに発見されたというものであるところ,原告らは,これがTIAの感覚障害に該当すると主張する。 しかしながら,上記(ア)と同様,転倒やその他の上記状況がTIAの感覚障害に該当するとはいえず他に上記状況の中にTIAの症状別,,( 表⑥)に合致するものは見当たらない。本件失神後に担当医師による診察も実施されているが,局所神経症状は認められていない。 (ウ)原告らは,21日,Fが,ペンが持てない状態になったと主張し,原告C作成の介護ノート(甲イ4)には,21日午前8時15分ころの電話において,Fから,ペンも持てない,様子がおかしいとの訴えがあった旨の記載があるところ,仮に手の脱力によってペンが持てないという事実があったとすれば,TIAの症状としての運動障害に当たる可能性はある。 しかしながら,上記記載のような訴えがあったにしても,証拠(乙A1ないし9,証人G,被告E)によれば,Fは,症状や不満を率直に担当医師や担当看護師に伝え,それらは概ね看護記録等に記載されていたことが窺われるところ,当日の診療録や看護記録(乙A6)にはペンが持てないとか様子が変であるとの記載はないことに照らすと,上記記載のような訴えがあったことのみをもって,Fが手の脱力によってペンが持てない状態にあったと認めることはできず,他に,本件全証拠を検討してみても,当時Fに手の脱力等の運動障害の症状があったと認めるに足りる証拠はない。 ウ本件失神の原因TIAにおいて失神が起きることはあるものの,その頻度は低い(失神204例(原因不明が97例含まれる)中,TIAが原因の失神はわず。 か3例という報告もある)上,証拠(乙B30,31,33,34)に。 よれば,TIAによって失神を起こすとしても,別表⑥のような症状を伴うのが通常であ 7例含まれる)中,TIAが原因の失神はわず。 か3例という報告もある)上,証拠(乙B30,31,33,34)に。 よれば,TIAによって失神を起こすとしても,別表⑥のような症状を伴うのが通常であると認められるところ,上記のとおり,本件失神の際にそのような症状があったとは認められない。 そして,Fは,平成12年ころまでに糖尿病性神経症を発症し,時々ふらつくことがあった上,臥位から座位への移動で血圧が174/84から 120/60へと低下したことからすると,起立性低血圧があったと考えられる。 以上の点に証拠(証人G,被告E)を併せると,本件失神は,TIAによるものではなく,起立性低血圧によるものであると認められる(K医師も,その可能性を否定していない。 。)(2)本件死亡の原因ア原告らは,本件死亡の原因は脳梗塞であると主張し,K医師も,長年の糖尿病により動脈硬化がベースにあること,本件入院中脱水状態に陥り血液がドロドロの状態になっていたこと,何度かTIAを来していたことを根拠として挙げ,同旨の証言をしている。 イしかしながら,次のとおりであって,上記アの主張,証言は採用することができない。 (ア)糖尿病による動脈硬化が進んでいたことは,下記6(1)に掲げたFの糖尿病の進行状況から認められるが,これは本件死亡の原因が脳梗塞であることに沿う事実であると同時に心筋梗塞であることに沿う事実でもある。 (イ)本件入院中は,下記7(2)イのとおり,Fが脱水状態に陥ってはい,,。 たとはいえず上記(1)のとおりFがTIAを発症したともいえないウそうすると,本件死亡の原因として脳梗塞を否定することはできないものの,上記イ(ア)の点や糖尿病患者の死因等の傾向(上記2(4))に照らして,心筋梗塞や突然死が原因である可能性もまた十 いえないウそうすると,本件死亡の原因として脳梗塞を否定することはできないものの,上記イ(ア)の点や糖尿病患者の死因等の傾向(上記2(4))に照らして,心筋梗塞や突然死が原因である可能性もまた十分考えられる。 「強化インスリン療法を実施すべき義務の違反」について(1)原告らは,担当医師において,平成7年ころ以降,Fに対し強化インスリン療法を実施すべき義務があったと主張する。 FのHbA1cは,平成11年以降概ね8.0%以上で推移し,特に平成12年以降は概ね12.0%以上で推移したというのであるから,Fの血糖 コントロールは「糖尿病治療ガイド」において4段階中最も悪い「不可」,と分類されるほど悪い状態が続いていたといえる。したがって,Fの場合,少なくとも平成11年以降においては,強化インスリン療法により厳格な血糖コントロールをする必要性が高かったといえる。 (2)しかしながら,下記ア及びイのとおり,Fについては,強化インスリン療法を理解して血糖値測定やインスリン注射を適切に行うことが期待できない状況にあったこと,無自覚性低血糖の危険があり,また,低血糖の際に適,,切に対応する能力がないことが窺われることからすると上記(1)のとおり平成11年以降厳格な血糖コントロールの必要性があったことを考慮しても,また,仮に平成11年以前にも同様の必要性があったとしても,担当医師において,Fに対し強化インスリン療法を実施すべき義務があったとはいえない。 アFは,被告病院に入通院している間,穏やかなときもある一方,興奮するときもあり,処置等に納得ができないときは,血糖値測定,インスリンの投与や増量などを嫌がることがあり,担当看護師に説得されて受け入れることもあったが,説得されてもなお拒否することもあった。そして,本件入院中も,同様 に納得ができないときは,血糖値測定,インスリンの投与や増量などを嫌がることがあり,担当看護師に説得されて受け入れることもあったが,説得されてもなお拒否することもあった。そして,本件入院中も,同様の傾向が見られた上,Fが血糖値の測定を減らすよう要望したため,担当医師はやむなく血糖値の測定回数を1日4回から2回へ。 ,,,と減らしたこのようにFは従来型のインスリン療法においてですら血糖値の測定やインスリンの投与や増量を嫌がっていたのであるから,頻回にわたる血糖値測定とそれに基づくインスリン投与量の修正を行う強化インスリン療法を適切に実行することを期待することはできなかった。現に,G医師は,平成12年11月15日,Fに対してインスリンスケール法の説明をし,同年12月28日までの入院中何度か説得を試みたが,結局Fの承諾は得られなかったのである。 イ証拠(証人G)によれば,自律神経障害がある場合は無自覚性低血糖を 生じる危険があると認められるところ,Fにおいては,平成12年ころまでに糖尿病性神経症の診断を受け,起立性低血圧や糖尿病性神経因性膀胱による排尿障害を来していたことからして,無自覚性低血糖の危険があったといえる。 そして,Fは,同年11月10日「家でもよく低血糖になってブドウ,糖を飲むが,症状として眠くなってくるのでよくわからない」などと訴。 えたのであり,このことからすると,低血糖の際に適切に対応する能力がなかったことも窺われる。 (3)この点について,原告らは,仮にFがインスリン治療に消極的であったとしても,担当医師において,Fが信頼していたH医師と協力したり,カウンセリングをするなどして,強化インスリン療法を受けるよう説得すべきであったとも主張する。 しかしながら,強化インスリン療法を導入するためには,患者 において,Fが信頼していたH医師と協力したり,カウンセリングをするなどして,強化インスリン療法を受けるよう説得すべきであったとも主張する。 しかしながら,強化インスリン療法を導入するためには,患者教育(動機づけや受入態度など)が十分で,低血糖発作などのトラブル発生時に適宜対応し得る能力を有し,血糖値自己測定を行えることが必要であるとされているところ,その背景には,十分説明しても強化インスリン療法についての理解を得にくい患者が一定数いることが窺われる(そのことは,K医師の証言からも窺われる)のであり,Fについても,上記(2)アのとおり強化イン。 スリン療法を適切に実行することは期待できなかったことさらに上記(2),,イのとおり無自覚性低血糖の危険があったことや低血糖の際に適切に対応する能力がなかったことが窺われることを併せ考えると,担当医師において,Fに対し,強化インスリン療法を受けるよう説得すべき義務があったとはいえない。 「甲状腺機能低下症の治療をすべき義務の違反」について(1)原告Cは,Fが平成12年に被告病院のプライマリークリニックを計11回受診した際,被告Eにおいて,甲状腺機能の検査をした上,甲状腺機能 低下症に対して適切な治療をすべき義務があったと主張する。 なるほど,Fは,平成11年2月の時点で甲状腺機能低下症と診断され,チラージンの投与を受け,本件入院中においても甲状腺機能低下症が浮腫の一因として考えられ,チラージンの投与を受けたことからすれば,平成12年の時点においても甲状腺機能が回復していない限り同様の治療が必要となることも考えられる。 (2)ところで,弁論の全趣旨によれば,被告Eは,Fが平成12年2月以降に被告病院のプライマリークリニックを計11回受診した際,平成11年2月に甲状腺機能低下症と が必要となることも考えられる。 (2)ところで,弁論の全趣旨によれば,被告Eは,Fが平成12年2月以降に被告病院のプライマリークリニックを計11回受診した際,平成11年2月に甲状腺機能低下症と診断されたことを認識していなかったと認められるところ,被告病院においても平成11年3月11日以降,新たに甲状腺機能低下症について診断されたり治療対象の傷病と把握されることはなく,甲状腺機能検査を受けたりチラージン等の甲状腺ホルモン製剤の投与を受けることもなかったこと,プライマリークリニックであっても特に外来診療においては診療に当てることのできる時間が限られていることなどに照らすと,被告Eが,上記診断の認識がなかったこともやむをえないというべきである。 そして,Fは,平成11年3月11日以降も被告病院や慶應義塾大学病院に入通院して継続的に治療を受けていたが,新たに甲状腺機能低下症について診断されたり治療対象の傷病と把握されることはなかったことからすると,甲状腺機能低下症を必ず疑わなければならないような臨床症状等は特に認められなかったと考えられる(なお,原告Cは,このことについては問題としていない。そして,平成12年以降そのような臨床症状等が出現し。)たことを認めるに足りる証拠もない。 そうであるとすれば,被告Eにおいて,平成12年2月以降にFがプライマリークリニックを受診した際,Fの臨床症状等から甲状腺機能低下症を疑い,甲状腺機能の検査をした上,甲状腺機能低下症に対して適切な治療をすべき義務があったともいえない。 (3)付言するに,平成11年3月,Fの顔面から全身に広がる赤色疹が生じたことについて,担当医師は,薬疹である可能性があると判断し,チラージンの投与を中止したところ,仮に,被告Eにおいて,平成12年の時点でFが甲状腺機能低下 3月,Fの顔面から全身に広がる赤色疹が生じたことについて,担当医師は,薬疹である可能性があると判断し,チラージンの投与を中止したところ,仮に,被告Eにおいて,平成12年の時点でFが甲状腺機能低下症と診断されたことを認識していたとしても,チラージンを投与すべき義務があったといえるかについては,なお疑問がある。K医師も,平成12年に被告Eが甲状腺機能低下症の検査や治療をしていないことが問題であるとは指摘していない。 「抗血栓療法を実施すべき義務の違反」について(1)本件入院時ころのTIA,脳梗塞及び心筋梗塞のリスクについてFは,本件入院時ころまでには,糖尿病歴が約30年以上で,血糖コントロール不良の状態が続き,高血圧を合併していたほか,既に,網膜症,陳旧性心筋梗塞,心不全,足壊疽,腎症,神経症(起立性低血圧を含む,慢。)性動脈硬化性閉塞症などの合併症を多く発症していたのであるから,心筋梗塞や脳梗塞のリスクが相対的に高まっていたといえる。 (2)糖尿病や高血圧などの症例では,アスピリンを服用させることにより心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果がある(25%程度減少させるとする報告もある)ところ,上記(1)のとおりFには心筋梗塞や脳梗塞のリスクがあり,。 また,心筋梗塞や脳梗塞の患者に対しては,その再発予防のために抗血栓療法の適応があるとされているところ,Fには,平成11年に陳旧性心筋梗塞の所見が認められ,本件失神後には陳旧性脳梗塞の所見が認められた。 これらの事情からすると,Fについては,抗血栓療法を実施する必要性は一応あったといえる。 (3)しかしながら,抗血栓療法には出血のリスクがあるので,この点について検討する。 上記3(1)ウのとおり,Fにはかねてから起立性低血圧があったところ,平成11年に自宅で転倒したこと,本件入院中も, )しかしながら,抗血栓療法には出血のリスクがあるので,この点について検討する。 上記3(1)ウのとおり,Fにはかねてから起立性低血圧があったところ,平成11年に自宅で転倒したこと,本件入院中も,本件転倒発言ころに転倒 した可能性があり,本件失神時もベッドわきの床に転倒し,20日の体重測定時にもふらつきがあったことなどからすると,Fが転倒する危険は高かったものといえる。 そして,転倒の危険がある場合,出血のリスクが具体化する危険があり,特に脳出血はしばしば致命的であるとされていること,転倒する危険がある場合には,出血のリスクがあるために,抗血栓療法は禁忌であるとする文献(乙B42)もあることからすると,上記のとおりFが転倒する危険が高かった以上,現にTIAや心筋梗塞,脳梗塞を発症していると診断することができてその治療に必要な場合はさて措き,少なくともそのような診断ができない場合には,上記(2)の必要性を考慮しても,担当医師において抗血栓療法を実施すべき義務があったとはいえない。 しかして,Fにつき,現にTIAや心筋梗塞,脳梗塞を発症しているとの診断ができなかったことは下記(4)のとおりである。 (4)TIA,脳梗塞及び心筋梗塞の診断について上記(1)のとおりであることからして,担当医師は,Fについて,本件入院時までに,心筋梗塞,脳梗塞及びその前兆としてのTIAのリスクが相対的に高まっていたことを認識することができたといえる。さらに,本件失神後には,CT上において陳旧性脳梗塞が発見されているから,そのリスクを一層認識し得たといえる。 しかしながら,本件入院中,現に心筋梗塞や脳梗塞あるいはその前兆としてのTIAを発症しているとの診断ができなかったことは,以下のとおりである。 アTIAの診断について,。 上記3(1)のとおりそ しながら,本件入院中,現に心筋梗塞や脳梗塞あるいはその前兆としてのTIAを発症しているとの診断ができなかったことは,以下のとおりである。 アTIAの診断について,。 上記3(1)のとおりそもそもTIAを発症していたとは認められないイ脳梗塞の診断について(ア)原告らは,担当医師において,エコー,MRアンギオグラフィー, CTアンギオグラフィー,血管造影などの脳梗塞診断のための検査を進めるべきであったと主張する。 (イ)しかしながら,上記(1)のような脳梗塞のリスクがあるというだけで,脳梗塞の診断のための検査を実施しなければならないとする文献等の証拠は存しない。そして,上記1の認定事実及び本件全証拠を検討しても,本件入院中,Fに別表④のような脳梗塞の臨床徴候があったとは認められないから,担当医師において,脳梗塞を診断するために上記のような検査を実施すべきであったとはいえず,脳梗塞の発症を診断することができたとはいえない。 ウ心筋梗塞の診断について(ア)原告らは,担当医師において,別表①の診断手順に従うなどして心筋梗塞診断のための検査等を進めるべきであったと主張する。 (イ)一般に失神の原因として心筋梗塞がありうることから,本件失神の原因が心筋梗塞であるか否かの鑑別が適切になされているかが問題となる。 そこで検討するに,本件失神後,12誘導心電図を実施し,モニターを31時間装着した際,意識障害の原因となる脈の不整や欠落は認められなかったことからすると,本件失神の原因として心筋梗塞は除外されるといえ(K医師も,本件失神の原因が心臓性のものである可能性は低いと証言している,本件失神の原因探索のために上記検査等を実施。)すべきであったとはいえない。 (ウ)本件入院中,Fに狭心症状は認められていないが,糖尿病患者の場 が心臓性のものである可能性は低いと証言している,本件失神の原因探索のために上記検査等を実施。)すべきであったとはいえない。 (ウ)本件入院中,Fに狭心症状は認められていないが,糖尿病患者の場合,神経障害により無症候性虚血性心疾患を生ずることから,本件入院中,担当医師において,そのスクリーニング検査を実施すべきであったか否かが問題となる。 上記2(5)ウによれば,無症候性虚血性心疾患のスクリーニング検査 として,まずは負荷心電図やホルター心電図を実施することが少なくとも望ましいとはいえるところ,本件入院中もモニターを31時間装着して異常が認められていない。さらに,心エコーは,負荷心電図やホルター心電図の次のステップの検査として位置づけられているところ,上記のとおりモニターを31時間装着して異常が認めらなかったのであるから,次のステップである心エコーを必ず実施しなければならない理由はない。また,平成13年3月に実施された心エコーにより,既にそのころの心臓の状態についての診断情報は得られている。なお,モニターを48時間装着したり,本件入院時にも心エコーを実施した方が,より多くの診断情報が得られた可能性はあったとはいえるが,必ずそのように検査をしなければならないとする文献等の証拠は存しない。 以上からすると,本件入院中,担当医師において,無症候性虚血性心疾患のスクリーニングのため,心エコー,心筋シンチグラフィー,冠動脈造影等の検査を実施すべき義務があったとはいえず,心筋梗塞の発症を診断することができたとはいえない。 「適切な水分管理を実施すべき義務の違反」について(1)原告らは,血中の水分が減少すると血流が悪化して脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まるから,担当医師においては,そのような危険を防ぐために適切な水分管理をすべき義務が 実施すべき義務の違反」について(1)原告らは,血中の水分が減少すると血流が悪化して脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まるから,担当医師においては,そのような危険を防ぐために適切な水分管理をすべき義務があるところ,利尿剤を使用し,500mℓしか飲,。 ,,水をさせないという水分制限は過度であると主張するそしてK医師は水分は1000ccから1500cc入れなければ,ラシックスにより強力に水分を排泄しているために血液がドロドロとなる状態を惹起すると証言している。また,赤石誠医師も,500mℓの飲水制限は非常識な量であると指摘している(甲B29。 )(2)しかしながら,上記主張及び証拠は採用することができない。その理由は以下のとおりである。 ア本件入院時,心不全による影響で浮腫が著明と評価される状態になり,体重も,平成12年ころまでは浮腫が取れた状態ではせいぜい約40kgであったところ,本件入院時には浮腫や過食により52.5kgにまで増加していた。そして,21日にようやく浮腫が軽減したと評価される状態になったものの,体重は約50kg程度まで減ったのみであった。 そして,全身性の浮腫は,心不全を悪化させるので,安静の保持,水分や塩分の制限,利尿剤の活用によって積極的に水分の排泄を図るとされているから,本件入院の期間をとおして,浮腫を改善するために水分を制限する必要があった。 なお,証拠(乙B48ないし50)によれば,心不全の浮腫を改善するためにラシックスを使用するとともに1日500mℓの飲水制限を実施すること自体がおよそ許されないとはいえない。 イ本件入院期間中,Fは脱水状態に陥っていない。すなわち,HbやTPの上昇などの血液濃縮を示す所見はいずれの脱水でも見られるとされているところ,本件入院中,HbもTPも一貫して基準値以 いえない。 イ本件入院期間中,Fは脱水状態に陥っていない。すなわち,HbやTPの上昇などの血液濃縮を示す所見はいずれの脱水でも見られるとされているところ,本件入院中,HbもTPも一貫して基準値以下であり,入院時と比べても,TPが21日にわずかに増加したのみで,Hbはかえって減少傾向にあった(なお,血液検査の頻度が足りなかったとはいえない。 。)しかも,上記アのとおり,本件入院期間中,一貫して浮腫は認められていた。 これに対し,原告らは,Fが脱水状態に陥っていたというべき理由として,Fが口渇を訴えていたこと,室温が高く不感蒸泄量が多かったと考えられること,厳しい飲水制限が実施されていたことを指摘しているが,上記認定を覆すには足りない。すなわち,口渇は脱水のみならず様々な原因で生ずるのであり,例えば,証拠(乙B2)によると,糖尿病の症状としても口渇はあると認められるし,上記アのとおりFには著明な浮腫が見られた以上,不感蒸泄が多かったり飲水制限が厳しかったとしても,それに ,。 よって浮腫が改善することはあっても直ちに脱水に陥るとは思われないしたがって,現にFが脱水状態に陥っていない以上,本件の具体的事情に照らしても,担当医師の水分管理が不適切であったとはいえない。 「適切な呼吸管理を実施すべき義務の違反」について(1)原告らは,担当医師において,適切に呼吸管理をすべき義務に違反したと主張し,具体的には,①Fが本件入院中に呼吸苦を訴えていたにもかかわらず,酸素を十分与えなかったこと,②在宅酸素療法の適否を判断するための酸素投与を一時的に中断するテストを実施したことを指摘している。 (2)しかしながら,証拠(乙B6)によれば,呼吸不全患者に対する酸素療法としては,酸素飽和度90%以上を保つように酸素を投与し,酸素飽和度を見 時的に中断するテストを実施したことを指摘している。 (2)しかしながら,証拠(乙B6)によれば,呼吸不全患者に対する酸素療法としては,酸素飽和度90%以上を保つように酸素を投与し,酸素飽和度を見て適時増減する方法が勧められていると認められるところ,本件におい,,てもまさにそのような方法により酸素投与が実施されていたのであるから原告らの上記(1)①の主張は採用できない。 また,証拠(甲B7,乙B5)によれば,在宅酸素療法を導入するに際しては,その導入の可否及び酸素吸入流量を決めるため,酸素を投与しない状態で動脈血を採取することが予定され,本件において,それができないほど呼吸状態が悪化していたような事情も特に認められないから,原告らの上記(1)②の主張も採用できない。 他に,呼吸管理が不適切であったとか,不適切な呼吸管理により呼吸状態が悪化したことを認めるに足りる証拠はない(K医師も,Fが換気不全により死亡した可能性は低いと証言している。 。) 「患者に無用のストレスを与えてはならない義務の違反」について原告らは,担当医師において,脳梗塞や心筋梗塞のリスクのあるFに対し,無用のストレスを与えてはならない義務があったところ,被告Eは,19日,Fに対し,ドクターハラスメントと評価されるような発言をして,無用のストレスを与え,心臓に負担をかけ,脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めたと主張す る。 確かに,下記10(1)②の被告Eの発言がFに対してストレスを与えた可能性はある。しかしながら,そのストレスがなければ本件死亡が生じなかったと認めるに足りる事情ないし証拠は見当たらず,その発言と本件死亡との因果関係は認められない。 ドクターハラスメントについて(1)被告Eは,Fに対し,①平成12年11月17日及び②平成13年11月19日 りる事情ないし証拠は見当たらず,その発言と本件死亡との因果関係は認められない。 ドクターハラスメントについて(1)被告Eは,Fに対し,①平成12年11月17日及び②平成13年11月19日,それぞれ次のような発言をして,それによりFは非常に気分が悪くなった。 ①被告Eは,Fの病室を訪れ,翌日実施予定の手術について,右第2趾を切断することを説明するとともに,足指を切断しなければならなくなったことについて「身体髪膚父母にこれを授く」などと話した。 。 ②被告Eは,本件失神の約3時間30分後,G医師とともにFの病室を訪れ,Fに対し,病室の料金を通常より減額していること,Fの希望をかなえるためには聖路加国際病院や慶應義塾大学病院に転院した方がよいのではないかということなどを話した。 (2)医師は,患者との間で信頼関係を築き,患者が治療に取り組む気力を引き出すためにも,患者に対し,患者の心理を理解するよう心がけて接することが望ましく,患者に不快の念を抱かせるような発言は慎むべきである(甲B21,26,27参照。しかして,上記(1)の各発言は,患者であるF)に不快の念を抱かせる可能性があるものであり,現にFは非常に気分が悪くなったというのである。 しかしながら,医師の患者に対する発言については,その発言がされた環境ないし背景,その発言の全体としての意図,当該患者の性格や置かれた状況,相互の信頼関係の程度等の諸事情を総合考慮して評価されるべきものであり,医師が患者に対し不快の念を抱かせるような発言をした場合でも,そ れだけで直ちに不法行為法上違法ということはできない。 本件における上記(1)の各発言は,いずれも不法行為法上違法とまではいえない。その理由は,以下のとおりである。 ア上記(1)①の発言について「身体髪膚父母にこれを授 法上違法ということはできない。 本件における上記(1)の各発言は,いずれも不法行為法上違法とまではいえない。その理由は,以下のとおりである。 ア上記(1)①の発言について「身体髪膚父母にこれを授(受)く」というのは,人間の体はすべて。 親から受けたものであるから,これを傷つけないように努めるのが孝行の第一であるという意味を有する(広辞苑1338頁(岩波書店,第4版,1991年)参照。 )したがって,この発言は,それだけを取り上げると,翌日に足指切断の手術を控えていた患者にとっては,親不孝であるという非難の趣旨の言葉と受け取れるものであるといえる。 ,()しかしながら前記前提事実(2)及び上記1の認定事実に証拠被告Eを併せると,被告Eは,それまで長年にわたりFの糖尿病に対する診療を担当してきた内科の部長として,また,自らも長年にわたりFの糖尿病に対する診療を直接担当してきた医師として,血糖コントロールの改善のための担当医師の指示を十分には守ってこれなかったFに対し,今後の糖尿病の治療への適切な対応を促すべく,これ以上自分の身体を傷つけないよう治療に真摯に取り組んでいきましょうという趣旨で,そのような文脈の中において上記発言をしたことが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 そうすると,上記発言は,翌日に足指切断の手術を控えていた患者に対する発言としては配慮を欠いた不適切なものではあるが,患者としての受忍限度を超える違法なものとまではいえない。 イ上記(1)②の発言について上記1の認定事実に証拠(証人G,被告E)を併せると,被告Eは,Fやその親族から病室の温度や湿度等について不満を述べられてきた状況の 下で,被告病院としては病室の料金を減額して経済的な面からもできる限りの対応をしており,Fの希望に沿う病室を提供 被告Eは,Fやその親族から病室の温度や湿度等について不満を述べられてきた状況の 下で,被告病院としては病室の料金を減額して経済的な面からもできる限りの対応をしており,Fの希望に沿う病室を提供できるのは病棟施設が古くなっている被告病院よりも新しい病棟施設を有する病院であり,例えれば聖路加国際病院や慶應義塾大学病院であるという趣旨で,そのような文脈の中において上記発言をしたことが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 そうすると,上記発言は,転院を促すような趣旨に受け取られるという点において不適切な面があるにしても,被告病院の施設の物理的制約やFの訴える不満の内容等をも考慮すると,患者としての受忍限度を超える違法なものとまではいえない。 以上の次第で,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないというべきであるから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部関根規夫裁判官井出正弘裁判官裁判長裁判官貝阿彌誠は,転官のため署名押印することができない。 関根規夫裁判官

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