平成20年(わ)第615号犯人隠避被告事件主文被告人を懲役10月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,Aが,平成19年4月21日午前4時ころ,神戸市a区bc丁目d番e号先路上において,Bに対し,その顔面を殴打して路上に転倒させて傷害の罪を犯した者であることを知りながら,その処罰を免れさせる目的で,同日,同市a区fg丁目h番i号所在のC警察署において,同署司法警察員警部補Dに対し,Bが自己の過失により転倒した旨虚偽の事実を申し立て,もって,Aを隠避させたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)被告人は,AがBを殴ったかどうかは知らないし,Bが転倒した場面も見ておらず,警察に嘘を言ったことはない旨を述べ,弁護人は,AがBを殴った事実は存在せず,被告人が警察官に虚偽の事実を述べたこともない旨主張しているので,以下検討する。 証人Eは,公判廷において,AがBの顔面を右手拳で殴り,同人が路上に転倒して後頭部を路面で強打したこと,その直前,飲酒していた店内において,AがBに対してタイマンやみたいなことを言っているのを聞いたこと,店外で,被告人はAがBの方に向かって行こうとするのをなだめて止めていたが,被告人がAを離した際に,AがBのそばに向かって行ったこと,AがBを殴打した直後に,被告人は,ああやっちゃったかみたいな感じの言葉を発したこと,殴る前までAを止めていた被告人が殴る場面を見ていないことはあり得ないと思うこと,本件直後は,かかわり合いになるのがいやで,捜査官に対し,自分は,飲食店の店内にいて,AがBを殴った場面は見ていないと述べていたが,平成19年8月ころ,Bから,本件後にAと一緒に飲んでいた際,Aが,被告人から傷害事 り合いになるのがいやで,捜査官に対し,自分は,飲食店の店内にいて,AがBを殴った場面は見ていないと述べていたが,平成19年8月ころ,Bから,本件後にAと一緒に飲んでいた際,Aが,被告人から傷害事件の時効は3か月だと聞いて,もう罪にならないからということで,ほんまはあのとき殴ったんです,と言ってBに謝ってきた旨を聞いて,AがBにほんとのことを言ったのなら,自分もほんとのことを言っていいかなと思って,Bに対し,実は見てましたと述べたこと,その後は捜査官に対してほんとのことを述べている旨の供述をしている。 このEの公判供述は,後に弁護人の主張について判断するとおり,その内容に格別不自然不合理な点はなく,当初嘘の供述を捜査官に対してしていたが,真実を供述するに至った経緯として述べる点も自然である。また,飲食店の店内で,AがBに対してタイマンやと言ったとの点は,利害関係を有しない第三者である証人Fの公判供述によって裏付けられている。Bが殴られて路上に転倒した直後の状況については,利害関係を有しない第三者である証人Gが,公判廷において,転倒したBの足元に,片足を少し前に出し,両肘を曲げてみぞおち辺りに構え,殴り終ったかのような前傾姿勢のスーツ姿の人物がいた旨を述べており,この供述もEの公判供述を裏付けている。なお,弁護人は,Gのこの目撃供述につき,単に前に進もうとしていた瞬間や止まった瞬間を目撃したと考えて矛盾しない姿勢であり,殴った後という先入観をもって見たに過ぎない旨主張しているが,Gのこの点に関する供述内容をそのようにみるのは相当でない。また,証人Bは,公判廷において,平成19年7月末ころ,Aと二人で居酒屋で飲んでいた際,Aから,被告人から傷害事件の時効は3か月だと聞いた,3か月経った後だから言えるが,Bさんを殴ったのは僕ですと聞き,その Bは,公判廷において,平成19年7月末ころ,Aと二人で居酒屋で飲んでいた際,Aから,被告人から傷害事件の時効は3か月だと聞いた,3か月経った後だから言えるが,Bさんを殴ったのは僕ですと聞き,その後,Eと一緒に営業に出る際にEにその話をすると,Eは,今まで黙っていて申し訳ない,殴った場面を私は見ていましたと頭を下げっぱなしで言われた旨を供述しており,この供述もEの公判供述を裏付けている。 以上によれば,証人Eの公判供述の信用性は高い。 弁護人は,証人Eは,Aの暴行を目撃したかのような作り話をしており,その証言は全く信用できないと主張し(1)ほかの証人の供述と一致していない点として,,①Bの倒れた方向につき,Eは,頭が西方向,足が東方向である旨述べているが,証人Gは,頭が南方向,足が北方向である旨述べており,Bの倒れた向きが90度異なっており,これは多少の誤差などで済まされるものではない,②飲食店「H」を出た順番につき,Eは,BとEが一緒に出て,後からAと被告人が一緒に出た旨述べているが,証人Fは,店を出たのはA,被告人,Bという順だったと一貫して述べており,Eの公判供述と齟齬している(2)合理的な理由なく供述が変遷している点として,,③Eの平成20年4月8日付け検察官調書謄本(弁4)添付の写真13によれば,その供述時点では,Eは,Bは,頭が南,足が北の方向に転倒していたと述べており,公判供述と変遷している(3)E供述が常識に照らして不自然である点として,④A,の利き手は左手であるのに,EはAが右ストレートでBの顔面を殴った旨述べているが,激昂して他人を殴ろうとする人は利き手を使うのが自然であって,E供述は極めて不自然である,⑤Eは,AがBの顔のどの部分を殴ったのか分からない旨を供述をしているが,これは不自然である,⑥Bの身 るが,激昂して他人を殴ろうとする人は利き手を使うのが自然であって,E供述は極めて不自然である,⑤Eは,AがBの顔のどの部分を殴ったのか分からない旨を供述をしているが,これは不自然である,⑥Bの身長は183センチメートルで,Aは170センチメートル前後であり,その身長差では右ストレートでBの顔面は殴れない,殴るのであればもっと殴りやすい箇所を殴るはずである,⑦Eは,飲食店を出た後の行動について,Aが今にもBに殴りかかりそうになっている状態を目の前にしながら,Bからあっち行ってろと言われただけで,同人のそばを離れて立って見ていたというが,不合理な行動である,⑧Eは,Aが交番で警察官に話をしている際,Aの右手中指の付け根の皮がめくれており,同人はこれを警察官に見えないように隠していた旨述べているが,警察官が現場に臨場した後,Aは,生田警察署で事情聴取を受け,調書に署名,指印し,実況見分までして,何時間も警察官と行動をともにしていたのであるから,警察官がそのことに気付かないはずはない,と主張している。 ①の点につき,Eの供述とGの供述は,弁護人が言うように食い違っている。Bの倒れた向きがほぼ90度違っているのも弁護人が言うとおりである。倒れたBの頭からは相当出血していたようであるから,警察官が現場に臨場した直後に道路上の状況を写真撮影しておれば,少なくとも頭がどの位置にあったかは客観的に明らかとなったはずである。しかし,そのような証拠は提出されていない。Gは,倒れたBの頭が南向きであったことは間違いない旨述べているが,客観的な事実に裏付けられているわけではなく,その部分の信用性がどの程度高いといえるかは定かでないし,EやGが述べるBの転倒位置は,本件時から約1年6か月を経過した後の本件公判におけるものであって必ずしも正確であるとは限らず,Bの けではなく,その部分の信用性がどの程度高いといえるかは定かでないし,EやGが述べるBの転倒位置は,本件時から約1年6か月を経過した後の本件公判におけるものであって必ずしも正確であるとは限らず,Bの転倒方向に関するG供述との齟齬の点だけを捉えて,E供述全体が信用できないとみるのは相当でない。 ②の点につき,この点も弁護人が言うようにEとFの供述に食い違いがある。しかし,Fの公判供述の趣旨としては,A,被告人,B,もう一人の4人がほぼ同時に出て,あとの二人はその後5分以内に出たというものであって,店に残っていた二人は,関係証拠上,IとJであることが明らかである。そうすると,F供述によれば,Aを追うようにして4人が出て行ったというのであるから,EがA,被告人,Bとほぼ同時に店外に出たことが認められ,出ていった順番は異なるものの4人がほぼ同時に店を出たというEの供述部分は,F供述によって裏付けられている。したがって,Eが本件犯行を目撃した機会がないようにいう弁護人の主張は失当である。 ③の点につき,弁4号証添付写真13によれば,弁護人がいうように,Bはほぼ南北に倒れた状態になっているが,南から撮影したとされている同写真14によれば,Bの頭は南ではなく,西南西の向きであり,足は東北東の向きであり,要するに,Bはやや南向きで頭が西の東西方向に倒れた状態になっている。また,同写真13と15は同じく東から撮影されたとされているが,撮影角度は相当異なっている。それらからすると,それら写真の撮影方向が現場に即した正確なものであるとはいえないし,同写真14で撮影されているBの転倒向きは,Eが公判廷で図示したものとほぼ同様の向きであって,Eの供述が変遷しているとはいえない。 ④の点につき,Aは,同人の公判において,左利きである旨述べるとともに,はしは左手で使 れているBの転倒向きは,Eが公判廷で図示したものとほぼ同様の向きであって,Eの供述が変遷しているとはいえない。 ④の点につき,Aは,同人の公判において,左利きである旨述べるとともに,はしは左手で使うが,書くのは右なので両利きですと述べており,右手拳でBを殴ったとして何ら不自然ではない。⑤の点も,一瞬のことであるから,当たった顔の部分まで特定できなくても不自然ではないし,⑥の点もやや上向きに右手拳を突き出せばBの顔部分に当たるのは明らかであるし,激昂した場合に相手の顔を殴ろうとするのは自然である。 ⑦の点につき,Eは,Bを介抱しようと思って一緒に出たが,Bから関係ないからあっち行ってろ,離れろというようなことを言われ,最初はなんでやろうと思ったが,けっこうすごい剣幕で怒鳴られて,離れとこうと思って離れた旨を述べており,酔っぱらって立腹している様子のBからそのように怒鳴られれば,とりあえずは言うことを聞いてその場を離れておこうとするのは自然であり,Eの行動は,何ら不合理ではない。 ⑧の点につき,証人Kの公判供述によれば,その当時,過失傷害の被疑者として警察が把握していたのは被告人だけであり,ほかの者は参考人として事情聴取がされていたのであるから,警察官が被疑者とされていないAの身体に格別注意を払わず,Aの右手中指の付け根の皮がめくれていたとしても,それに気付かなかったからといって格別不自然ではない。 弁護人は,被告人が犯人隠避の犯意をいつ形成したかを問題とし,①検察官が冒頭陳述で,警察官が現場に臨場した後に被告人が犯人隠避の犯意を形成した旨主張しているのを捉え,これに関して,本件現場には救急車がまず到着し,Bと被告人が乗車して現場を離れ,その後に警察官が現場に臨場したのであるから,検察官が主張するような,Aが現場に臨場した警察官に対し「 ているのを捉え,これに関して,本件現場には救急車がまず到着し,Bと被告人が乗車して現場を離れ,その後に警察官が現場に臨場したのであるから,検察官が主張するような,Aが現場に臨場した警察官に対し「俺はやってへんで」と話すのを被告人が聞いて犯人隠避の犯意を形成するという事態は起こりえない,②犯人が捜査機関に対して自己の犯した犯罪の発覚を防ぐためには,自分が犯人であることを黙っていてほしいなどと述べて他人に口裏合わせを頼むのが通常であるが,Aは,Eや被告人に口裏合わせを頼んでおらず,Eや被告人がそれぞれ勝手にAを庇おうと思ってそれぞれが嘘の話をしたというのは不合理である,と主張している。 しかし,Eの公判供述によれば,Bが路上に転倒した直後,店内にいたJとIが出てきて,被告人,E,J,Iがいるところで,Aは,誰にというわけではないが,俺はしらんぞ,俺はしらんみたいなことを言っていたことが認められ,それらを聞いていた前記4名が,特にAから頼まれなくとも,社長であるAを庇おうとする心情になったとしても何ら不自然ではなく,現に,EもBから前記のようにAから殴られた旨を聞くまでは関わり合いになりたくなくて,結果的にAを庇っていたのである。弁護人の主張は失当である。 弁護人は,証人Bの公判供述は信用できない旨主張し(1)Bの左目にあざは,なかったとして,①Bは,左目にあざがあった旨を述べているが,Bがいうようなあざがあったのであれば,治療がされるはずであるのに,カルテには左眼球打撲や左目の治療についての記載がなく,平成19年10月24日付け診断書(弁論要旨に平成20年とあるのは誤記である)の「左眼球打撲」との記載は,Bの言い分のままに。 作成されたもので医療的根拠がない,②Bは,本件当日,所持していた携帯電話のカメラで自分の顔を写してみて目 要旨に平成20年とあるのは誤記である)の「左眼球打撲」との記載は,Bの言い分のままに。 作成されたもので医療的根拠がない,②Bは,本件当日,所持していた携帯電話のカメラで自分の顔を写してみて目にあざがあったと述べているが,なぜ写真に撮っておかなかったのか疑問であり,Bの目のあざを目撃した者は誰もおらず,実際に目にあざがあったのであれば,警察官がそれについて質問し,あるいは,写真撮影をするはずである(2)Bの供述が変遷しているとして,③Bは,公判廷では,飲食店での,会話の内容やAとのやりとり,飲食店を出た後の行動,左目付近に何か熱い光が走ったという感覚が残っているなどとかなり詳細に供述しているが,本件当日の3日後で記憶が新鮮であるはずの平成19年4月24日作成の警察官調書(弁3)では,当時の記憶はほとんどない旨の供述をしており,その公判供述は,公判での証言時までに得た本件後の情報に基づくものであって信用できない(3)Bの行動が不自然であ,ることに関し,④Aは,傷害事件の時効が3か月であると認識していないから,AがBに対し,Bが公判廷でいうような話をするはずがないし,そのような話があったとすれば,Bとしては,傷害罪の時効が3か月であると思っていたAに対し,再度言質をとる行動に出るはずであるが,そのような行動に出ていないし,そうしなかった理由についても頭が働かなかったというだけであって合理的な説明になっていない,⑤Bは,Eに対し,殴られた前後の状況やどのような殴られかたをしたのかやどんな口論があったのかなどという点についてEに聞いていないが,真実を知りたいという人の行動として不自然である,⑥Bは,E,I,Jに口裏合わせがあったかどうかを聞いておらず,AがBを殴ったことを隠していたことについてもEにしか聞いていないが,これらも不自 が,真実を知りたいという人の行動として不自然である,⑥Bは,E,I,Jに口裏合わせがあったかどうかを聞いておらず,AがBを殴ったことを隠していたことについてもEにしか聞いていないが,これらも不自然である,と主張している。 ①の点につき,カルテに左目の治療がされたような記載がないのはそのとおりであるが,当時は頭部打撲によるくも膜下出血の治療が急務であったのであり,目の回りにあざがある程度のものであれば格別の治療をせずとも差し支えないとして左目の治療がされなかったとみて不合理ではない。そうすると,左目の治療がされなかったことを根拠に,当時,Bの左目にあざがなかったとはいえない。 ②の点につき,その当時,Bが誰かに殴られたのではないかとかなり強く思っていたとすれば,その証拠に写真を撮っておくというのが合理的な行動であるが,さほど強くそう思っていなかったとすると,写真を撮らなかったとしても不合理であるとまでいえない。また,前記のとおり,当時,警察では,Bの傷害結果につき,被告人を過失傷害の被疑者と見ていたに過ぎず,暴行を受けたことを前提に被害者や関係者の事情聴取がされていたものではないから,警察官がBに対し,左目のあざについて質問し,あるいは,写真撮影をしなかったとしても不合理ではない。 ③の点は,弁護人がいうように変遷しているとみられるが,当時は,関係者がみなBが自分で転倒した旨の供述をしており,警察もそれを前提にBから事情聴取をしていたものと考えられるから,Bが自分でも確信の持てないことを警察官に述べなかったとしてもさほど不自然ではなく,この点がBの公判供述全体の信用性に疑問を入れる事情であるとはいえない。 ④の点は,傷害罪の時効が3か月であるというのは事実に反しており,BがそのようなことをでっちあげてEに話すというのはかなり不合理なことであ 公判供述全体の信用性に疑問を入れる事情であるとはいえない。 ④の点は,傷害罪の時効が3か月であるというのは事実に反しており,BがそのようなことをでっちあげてEに話すというのはかなり不合理なことであることからすると,BはAから聞かされたことをそのままEに述べたものとみるのが自然であるし,BがAから再度言質をとるような行動に出なかったことがB供述全体の信用性に疑いを入れるほど不合理なこととは思われない。 ⑤及び⑥の点も,B供述全体の信用性に疑いを入れるほど不自然であるとは考えられない。 翻って,AがBの顔面を殴打して路上に転倒させその後頭部を打撲させて重大な傷害を負わせたのではないかということが問題視されるようになったのはB及びEの各公判供述によれば,平成19年7月末ころ,Bが,Aと二人で居酒屋で飲んでいた際,AがBに対し,被告人から傷害事件の時効は3か月だと聞いた,3か月経った後だから言えるが,Bさんを殴ったのは僕ですと述べたことがきっかけとなっている。 この点につき,Aは,自分の公判で,Bに対してそのようなことを言ったことはないとして否定し,Bを殴ったという記憶はないが,Eがそのように言うのであれば,Eが嘘を言うはずはないからそうなのであろうと供述している。Eが嘘を言うはずはないとAが思っているのはそうなのであろうが,その余のAの公判供述は,全体として信用性に乏しい。すなわち,客観的な第三者である証人Fの公判供述によれば,H店内で,AとBはかなり大声で話をしており,口論のような状況になっており,BはAに酒か水をかけられ,Bは注文したお茶漬けを立ち上がって自分の頭にかぶり,その時,AがBの胸倉を掴んで殴りかかるような感じであり,その前後にAがタイマンやと言ったことが認められる。これに対し,Aは,自己の公判で,楽しく盛り上がりたいという 立ち上がって自分の頭にかぶり,その時,AがBの胸倉を掴んで殴りかかるような感じであり,その前後にAがタイマンやと言ったことが認められる。これに対し,Aは,自己の公判で,楽しく盛り上がりたいという気持ちでいたのであり,楽しさの中で掴み合いをした旨述べている。A供述の楽しさの中で掴み合いをしたということ自体,その場の状況からして矛盾していると言うべきであるが,Aは,その場の険悪な状況につき,ことさらそのような状況になかったように述べており,A供述は全体として信用性に乏しい。 そもそもBは,その当時一緒にいたA,被告人,E,I,Jから自分で転倒した旨聞かされており,警察でもそのように扱われていたのであるから,それに疑問を抱かせるような何らかのきっかけがなければ,警察に再度捜査してほしいと要請するようなことはなかったものと考えられ,平成19年7月末にAから前記のとおり聞いたというBの公判供述は十分信用できる。 以上のとおり,EやBの各公判供述は,本件と利害関係を有しない第三者であるGやFの各公判供述を念頭において,その信用性を検討しても,特に疑問を入れるような点はないというべきである。EとBの両名が,Aや被告人をことさら罪に陥れようとして口裏を合わせてそれぞれが虚偽の事実を述べているのではないかと疑わせるような事情は窺われない。Aは,前記のとおり,Eは嘘を言っていないと思う旨述べており,被告人もEが公判廷で前記のように述べている点について心当たりはない旨述べている。そのような事情も合わせ考えれば,E及びBの前記各公判供述は,いずれも十分信用できる。これに反する被告人の公判供述は信用できない。 弁護人は,乙2号証は,被告人が取調べ検察官から理詰めで追い詰められて誘導された結果作成されたものであって信用性はなく,乙3号証も,被告人は,勾留質問 これに反する被告人の公判供述は信用できない。 弁護人は,乙2号証は,被告人が取調べ検察官から理詰めで追い詰められて誘導された結果作成されたものであって信用性はなく,乙3号証も,被告人は,勾留質問の意味を理解しておらず,自分の言い分を裁判官に聞いてもらうことができずに作成されたものであって信用性がないと主張している。 しかし,被告人の平成20年6月20日付け検察官調書(甲27)によれば,検察官の質問に対し,被告人は,乙2号証は,逮捕されてみて本当はA社長がBさんを殴ったかもしれないと考え,自分で想像して言った,はっきり覚えていないことを想像で発言した,検事から無理にA社長がBさんを殴ったことは分かっていたと言うように言われたわけではない旨を答えており,これに反する被告人の公判供述は信用できず,乙2号証が,検察官から理詰めで追い詰められて誘導された結果作成されたものとはいえない。また,乙3号証についても,裁判官は被疑者に対して勾留の基礎となる被疑事実を読み上げて被疑者の弁解を聞くことになるが,この被疑事実には「被疑者は,Bに対する傷害事件の犯人がAであることを知りながら,その逮捕を免れさせる目的で,生田警察署において,警部補Dに対し,酔って暴れ出したBを宥めていたところ,同人が手を振りほどき転倒した旨虚偽の事実を申し立て,もって,Aを隠避せしめた」旨の事実が記載されており,被告人は,この事実を聞いた上で「事実は検察庁で述べたとおりである」と答えているのであるから,,被告人は,検察官に対する弁解録取時及び勾留質問時においては,当該被疑事実を認めていたものというべきである。弁護人の主張は失当である。 (法令の適用)罰条刑法103条刑種の選択懲役刑刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理 めていたものというべきである。弁護人の主張は失当である。 (法令の適用)罰条刑法103条刑種の選択懲役刑刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)被告人は,勤務先の社長であるAを庇い,Aからの今後の見返りを期待するなどして短絡的に本件犯行に及んだものと推測され,動機に格別酌むべきものはなく,態様は,事情聴取に当たった警察官に対し,Bが自分で転倒した旨を具体的に供述して信用させるなどした上,A本人がその公判でEの言っているとおりであるとして刑事責任を認めたにもかかわらず,なおも虚偽の事実を述べており悪質であり,結果は,警察の適正かつ迅速な捜査を妨害し,Aに関する裁判の適正さも害する危険性があったもので,適正な刑事司法作用を危うくする重大なものである。それらの諸点に照らすと,被告人の刑事責任は相当重い。 他方,前科前歴はないこと,逮捕後保釈されるまでの約20日間身柄を拘束されていたことなどの事情が認められる。 以上の諸事情を総合考慮し,今回は刑の執行を猶予するととし,主文のとおり判決する。 (求刑懲役10月)(私選弁護人野上真由美[主任,西田雅年)]平成20年12月26日神戸地方裁判所第2刑事部裁判官佐野哲生
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