令和5年8月31日判決言渡令和5年(行ケ)第10029号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和5年7月6日判決 原告 X同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎同訴訟代理人弁理士望月尚子 被告特許庁長官同指定代理人綾郁奈子同旦克昌同森山啓主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2021-15053号事件について令和5年1月30日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)(1) 原告は、令和2年1月22日、別紙の構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について、第43類「死後硬直後のうなぎを用いたうなぎ料理の提供」を指定役務として、商願2018-121640に係る令和元年10月23日付け手続補正書に基づく商標法17条の2第1項で準用する意匠 法17条の3第1項の規定による補正後の商標登録出願として、登録出願をした。 (2) 原告は、令和3年7月9日付けで拒絶査定を受けたため、同年11月5日、拒絶査定不服審判を請求した。 特許庁は、上記請求を不服2021-15053号事件として審理を行い、令和5年1月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月1日、原告に送達された。 (3) 原告は、令和5年3月22日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月1日、原告に送達された。 (3) 原告は、令和5年3月22日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。 (1) 本願商標をその指定役務に使用したときは、これに接する取引者、需要者は、当該文字から「熟成させた鰻の提供」であることを理解するにとどまるというべきであって、本願商標は、役務の質を普通に用いられる方法で表示するにすぎない。 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。 (2) また、本願商標をその指定役務中、「熟成させた鰻の提供」以外の役務に使用するときは、その役務が「熟成させた鰻の提供」であるかのように、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。 3 取消事由(1) 商標法3条1項3号該当性の判断の誤り(2) 商標法4条1項16号該当性の判断の誤り第3 当事者の主張 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 原告の主張ア本願商標は、「熟成」と「鰻」からなる造語の商標であり、「熟成させた」のか、「熟成した」のかについては、何ら特定していない。 本願商標が「熟成鰻」という造語であることから、これに接した需要者は、「熟成」と「鰻」の間をつなぐ表現を自分なりに見出し、「熟成鰻」から生じる観念を想起するものである。 「熟成させた鰻」と需要者が理解した場合は、人が鰻を熟成させたことを意味し、本件審決のように、「熟成」の語が有する意味のうち、蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用により、腐敗することなく 「熟成させた鰻」と需要者が理解した場合は、人が鰻を熟成させたことを意味し、本件審決のように、「熟成」の語が有する意味のうち、蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用により、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発することほどの観念を想起するといえる。 一方、「熟成した」と需要者が理解した場合は、鰻が熟成したことを意味し、十分に熟してできあがること、つまり、鰻が大きく成長した状態であるとの観念を想起するといえる。大きく育って食べ頃になった鰻を表すものとして「熟成鰻」を用いる事例はみられる(甲15、16)。被告が「熟成させた鰻」の例として挙げる乙29、31は、冬場の鰻が栄養満点であることを示すにすぎない。 さらに、「熟成うなぎ」との表現が、熟成された醤油を使ったタレを使用した鰻の蒲焼であることを意味するために使用されている事実もある(甲17)。 このように、「熟成うなぎ」の「熟成」は、何が熟成したのか、人が熟成させたのか、熟成したのか、全く特定されていない、多義的な表現であり、鰻の品質を一義的に特定するものではない。 イ本願商標の「熟成鰻」の文字は、書家が書いたもので、唯一無二の書体である。さらに、本願商標の「熟成鰻」の書体は、「熟」の文字の脚のれっかの形状および「鰻」の魚辺の形状を鰻が泳いでいるかのような形状で表現されていることも需要者に印象付けるものである。また、文字を囲む角が 丸い長方形も趣向が凝らされており、一部をかすれたように表現することで、普通とは一線を画した粋な印象を与えるものとなっている。したがって、本願商標は、品質を普通の態様で表すものではない。 ウ以上から、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断は誤りである。 (2) 被告の主張 したがって、本願商標は、品質を普通の態様で表すものではない。 ウ以上から、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断は誤りである。 (2) 被告の主張後記第4の1と同趣旨であるから、詳細は割愛する。 2 取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)(1) 原告の主張本願商標が鰻の品質を一義的に特定するものではないことは前記1(1)のとおりであるから、本願商標をその指定役務中、「熟成させた鰻の提供」以外の役務に使用するときは、その役務が「熟成させた鰻の提供」であるかのように、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるとする本件審決の判断にも誤りがある。 (2) 被告の主張後記第4の2と同趣旨であるから、詳細は割愛する。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について(1) 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものである から、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない から、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。 (2) 本願商標は、別紙のとおり、縦長長方形風の枠の中に「熟成鰻」の文字を筆文字風書体で縦書きしてなるものである。 その構成中の「熟成」の文字は、広辞苑第7版(乙1)によれば、「①十分に熟してできあがること。②[化]物質を適当な温度に長時間放置して化学変化を行わせること。発酵の調節、コロイド粒子や沈殿の粒径の調節などにいう。時効。③蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用により、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること。なれ。」を、デジタル大辞泉(審査手続における手続補足書〔甲5〕で引用)によれば、「1 成熟して十分なころあいに達すること。「機運が熟成する」 2魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うまみが出ること。・・・3 物質を適当な温度などの条件のもとに長時間おいて、ゆっくりと化学変化を起こさせること。」を意味する。また、広辞苑第7版(乙2)によれば、「鰻」の文字は、「ウナギ科の硬骨魚の総称、またその一種。」を意味するものであり、一般に親しまれた語であり、各文字の語義自体から「熟成させた鰻」を意味するものということができる。 (3) 各種ウェブサイトによれば、「熟成」の語は、食品又はこれに関する役務の分野では、化学変化や酵素等の作用により、風味やうまみをだすとの意味において、魚一般について用いられているほか(乙3~12。「熟成魚」との表現もある。)、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟成うなぎ」との端的な表現もある(乙23~28 だすとの意味において、魚一般について用いられているほか(乙3~12。「熟成魚」との表現もある。)、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟成うなぎ」との端的な表現もある(乙23~28、30、32。そのうち、乙23〔クラウドファンディング情報。令和3年10月26日募集開始〕、25〔オークション結果。令和2年7月4日開始、同月5日終了〕、28〔「旨 味熟成うなぎ」を商品化したとの平成26年5月の記事が引用されている。〕は、本件審決の日である令和5年1月30日より前に使用されたことが明らかである。)。 さらに、「熟成鮭」、「熟成鯛」、「熟成マグロ」、「熟成鰹」など、上記意味における「熟成」と魚の名前を組み合わせた用例は枚挙に暇がない(乙33~42)。 (4) 以上からすると,本願商標の「熟成鰻」からは,熟成させた鰻という意味合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,その指定役務の質を示すものと認識するにとどまるものと解される。 これに対し、原告は、「熟成うなぎ」の「熟成」は、鰻が十分に熟してできあがった状態、すなわち大きく成長した状態であること、あるいは、タレが熟成したこととの意味も含みうる多義的な表現である旨主張する。 しかし、原告の主張を前提としても、「熟成鰻」が識別力を有さない記述的表示と解さざるを得ないことに変わりはないし、これを措くとしても、「大きく成長した状態」を示すのであれば、「成熟」を用いることがむしろ自然であり、また、「熟成うなぎ」の語から、そこに何ら表示されないタレの熟成を想起するとはいえない。原告の提出する甲15~17その他の証拠は以上の認定判断を覆すものではない。 原告の上記主張は採用できない。 (5) 次に、「普通に用い 表示されないタレの熟成を想起するとはいえない。原告の提出する甲15~17その他の証拠は以上の認定判断を覆すものではない。 原告の上記主張は採用できない。 (5) 次に、「普通に用いられる方法で表示」の要件についてみるに、各種ウェブサイトによれば、飲食店一般において、提供される料理の質(内容)を筆文字風の書体をもって四角囲みで表示することが普通に行われている(乙43~50)上、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限ってみても、筆文字風の書体を四角囲みで表示することが普通に行われているものと認められる(乙51~60)。 原告は、本願商標は書家の手になるもので唯一無二のものであり、「熟成 鰻」の文字を囲む長方形も角が丸くかすれた部分があるなど独自の部分があるなどと主張するが、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものではない。 (6) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)について本願商標の「熟成鰻」からは,熟成させた鰻という意味合いが生じることは前記1のとおりであるところ、本願商標をその指定役務中、「熟成させた鰻の提供」以外の役務に使用するときは、その役務が「熟成させた鰻の提供」であるかのように、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきである。 この点に関する本件審決の判断に誤りはない。 3 結論以上によれば、本願商標は商標法3条1項3号、同法4条1項16号に該当するから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 したがって、原告の請求を棄却することとして、主文 主文 原告の請求を棄却する。 理由 は商標法3条1項3号、同法4条1項16号に該当するから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官宮坂昌利 裁判官本吉弘行 裁判官岩井直幸 (別紙)
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