主文 1 一審被告の控訴に基づき,原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。 一審原告の請求を棄却する。 2 一審原告の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 一審原告(1) 原判決中,一審原告敗訴部分を取り消す。 (2) 一審被告が,一審原告に対し,平成13年1月19日付けでした一審原告の平成9年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額1億4773万円,納付すべき税額6197万2700円を超える部分を取り消す。 (3) 一審被告が,一審原告に対し,平成13年1月19日付けでした一審原告の平成10年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額2億0532万5000円,納付すべき税額9162万6700円を超える部分を取り消す。 (4) 一審被告が,一審原告に対し,平成13年4月3日付けでした一審原告の平成11年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち,課税総所得金額2億2079万7000円,納付すべき税額7450万6200円を超える部分を取り消す。 (5) 一審被告が,一審原告に対し,平成13年10月31日付けでした一審原告の平成12年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額1億2362万7000円を超え,還付される税額1078万6600円を下回る部分を取り消す。 (6) 訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。 2 一審被告主文1及び3と同旨第2 事案の概要 1 本件は,一審原告がその勤務していた親会社から付与されたストック・オプションを行使して得た権利行使利益(行使時の株価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益)について,所得税法上の給与所得に当たるか一時所得に当たるかが,主な争点として争われ 与されたストック・オプションを行使して得た権利行使利益(行使時の株価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益)について,所得税法上の給与所得に当たるか一時所得に当たるかが,主な争点として争われた事案である。 一審原告は,日本法人マイクロソフト株式会社(以下「日本マイクロソフト社」という。)に従業員又は取締役として勤務していた者であるが,その親会社であるアメリカ合衆国法人マイクロソフト・コーポレーション(以下「米国マイクロソフト社」という。)から付与されたストック・オプションを行使して得た権利行使利益のうち,平成9年分から平成12年分までのものについて,譲渡所得又は一時所得として申告又は更正の請求をしたところ,一審被告は,上記権利行使利益が給与所得に当たるとして,更正処分又は更正をすべき理由がない旨の通知処分及び過少申告加算税賦課処分をした。 そこで,一審原告は,これらの処分が違法であるとして,各処分のうち,上記権利行使利益を一時所得として計算した金額を超える部分の取消しを求めた。 2 原審は,一審原告の請求のうち,過少申告加算税賦課処分の取消しの請求を認容し,その余を棄却した。 そこで,一審原告及び一審被告は,それぞれの敗訴部分について,不服として控訴した。 3 「基礎となる事実」,「本件各課税処分の根拠に関する当事者の主張」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,原判決の「事実及び理由」の第3から第6までに記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,当審において,一審原告は,信義則違反の主張を追加したが,その主張のほか,当審において補足された双方の主張は,控訴理由に照らし,適宜,当裁判所の判断中において摘示することとする。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,争点①について,本件各権利行使利益は給与所得に該当し,争点 において補足された双方の主張は,控訴理由に照らし,適宜,当裁判所の判断中において摘示することとする。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,争点①について,本件各権利行使利益は給与所得に該当し,争点②及び③について,本件各更正処分に理由附記の不備及び租税法律主義違反による違法はないと判断するが,当審で追加された前記の争点について,本件各更正処分及び本件通知処分に信義則違反の違法はないと判断した上,争点④については,本件各加算税賦課処分には違法がないと判断する。 その理由は,争点①,②及び③については,控訴理由に照らし,そのうち争点①について後記2のとおり説示を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第7当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用し,当審で追加された争点である信義則違反については後記3に,争点④については後記5に説示する。 2 争点①(本件権利行使利益の所得区分)について(1)本件ストック・オプションの内容ア前記引用に係る原判決の「基礎となる事実」によれば,本件ストック・オプションは,米国マイクロソフト社による本件マイクロソフト・プランに基づき付与されたものであるが,本件マイクロソフト・プランは,マイクロソフトグループ各社について,従業員等の経済的利益と株式を長期に保有することによる価値とを結びつけることにより,実質的に責任ある職に最もふさわしい人材を誘引し,かつ,保持し,さらに,その者に付加的なインセンティブを提供し,もって同社の事業の成功を促進させることを目的として,マイクロソフトグループ各社の従業員等に対してのみストック・オプションを付与するもので,日本マイクロソフト社においては,ストック・オプションを昇給・賞与の一つとして位置付け,同社及びその従業員等のみならず,米国マイクロソフト社においても,ス てのみストック・オプションを付与するもので,日本マイクロソフト社においては,ストック・オプションを昇給・賞与の一つとして位置付け,同社及びその従業員等のみならず,米国マイクロソフト社においても,ストック・オプションを行使することによって得られる経済的利益について,従業員等の日本マイクロソフト社に対する労務の提供に対して与えられる給与と同じ性質のものであるものと了解されていたものである(ストック・オプションの位置づけに係る認識について,乙14,15,41,弁論の全趣旨。なお,当審で提出された甲62,63によっても,上記の認定,判断を覆し得ない。)。 ストック・オプションの付与に当たっては,米国マイクロソフト社の取締役会において,従業員等の過去における実績,将来に及ぶ同社への長期的貢献及び当該個人が退職した場合の潜在的な影響等の要因が考慮された上,日本マイクロソフト社による人事考課及びその推薦を得て,付与の条件が決定され,被付与者は,その決定に従って米国マイクロソフト社と付与契約を締結することになる。そして,その権利は,付与日における株価を権利行使価格として同社の普通株式を取得することができるもので,遺言又は相続法に基づく方法以外で,ストック・オプションの売却,質入れ,譲渡,担保権設定,移転又は処分することはできず,その行使は,ストック・オプション保有者の生存中は,その保有者に限られ,しかも一定期間に限定されている。 イ一審原告に付与されたストック・オプションは,米国マイクロソフト社の普通株式を権利行使価格で取得しうる権利であるが,そもそもストック・オプションの行使は被付与者である一審原告に委ねられ,その行使がされるか否かは不確定であるということができる。そして,その権利が行使されたときに,米国マイクロソフト社から一審原告に普通株式が ック・オプションの行使は被付与者である一審原告に委ねられ,その行使がされるか否かは不確定であるということができる。そして,その権利が行使されたときに,米国マイクロソフト社から一審原告に普通株式が付与されて初めてその経済的利益も実現することになり,一審原告において,権利の行使の時期における株価に従い,行使時点の株価と権利行使価格との差額分を取得し,一方,米国マイクロソフト社においては,その差額分を負担することになり,したがって,経済的にみれば,権利行使利益が米国マイクロソフト社から被付与者である一審原告に移転することになる。 また,上記のストック・オプションは,米国マイクロソフト社から一審原告に付与されるものであるが,一審原告の日本マイクロソフト社の従業員等の地位と不可分に結びついたものであって,一審原告が同社に精勤することにより,同社の業績を向上させ,それを通して,米国マイクロソフト社の事業にも貢献することをもって,同社において,その貢献に報いるとともに,一審原告に対して,ストック・オプションの行使によって得られる経済的利益を増加させるという目的意識を付与し,その目的達成のために日本マイクロソフト社で一層精勤するように動機付けることを目的とした長期インセンティブ報酬の一種であるということができる。 ウ本件ストック・オプションの性質について,一審原告は,権利行使利益は含み益に過ぎず,あくまで市場から得られるものであり,自己株式方式,新株引受権方式のいずれの場合にも,権利行使時に権利行使利益が付与会社から被付与者に移転するとはいえないと主張した上,①自己株式方式についていえば,ストック・オプションが将来行使されることにより成立する譲渡の価格については,ストック・オプションの付与日にあらかじめ約定され,権利の行使の際には,被付与者が当該譲 上,①自己株式方式についていえば,ストック・オプションが将来行使されることにより成立する譲渡の価格については,ストック・オプションの付与日にあらかじめ約定され,権利の行使の際には,被付与者が当該譲渡価額によって株式の発行を受け,又は自己株式を譲り受けるにすぎず,法人税法施行令136条の4の規定によって,ストック・オプションを付与した法人側にとって,あらかじめ定められた譲渡価額によって譲渡することが正常な取引条件によって行われたものとされていることに照らしても,低額譲渡とはいえず,また,付与会社は,付与契約によって権利行使価格で株式を付与する旨の合意に拘束されて,自己株式を任意の価格で処分することができないから,付与時以降に自己株式を市場で売却すれば得られたはずの権利行使利益が,付与会社に帰属しているということはできないのであり,②新株発行方式の場合は,付与会社は,あらかじめ取締役会等において所定の手続を経て認められた権利行使価格によって新株を発行するものであるから,権利行使時において,付与会社が未発行の株式の含み益を有していたということはできないと主張する。 しかし,自己株式方式の場合に,付与会社は,ストック・オプションの権利が行使されるまでは,保有している自社株を任意の価格で売却し,含み益を現実化することができるものの,権利が行使されたときは,付与契約に基づき,被付与者に対し,権利行使価格で自社株を譲渡する義務を負い,当該株式が被付与者に移転するが,それに伴い,付与会社に帰属していた株式の価値(付与後に株価が上昇したことによる株式の含み益を含む。)も被付与者に移転するというべきである。なお,付与会社は,権利行使時までに自己株式を調達して,権利行使時にそれを譲渡すれば足りるから,付与契約後には自己株式を他に任意の価格で売却できなくな を含む。)も被付与者に移転するというべきである。なお,付与会社は,権利行使時までに自己株式を調達して,権利行使時にそれを譲渡すれば足りるから,付与契約後には自己株式を他に任意の価格で売却できなくなるとはいえない。また,新株引受権方式の場合には,権利が行使されたときは,付与会社は,付与契約に基づき,被付与者に対し,新株を発行する義務を負い,当該株式が被付与者に移転するが,それに伴い,当該会社の株式の価値の希釈化が生じうるものの,一旦は付与会社に帰属した当該価値が被付与者に移転するというべきである。それによって,被付与者には,権利行使利益が発生し,一方,付与会社には,新株発行により得る資金額が市場価格(時価)での株式発行の場合より少ないことによる差額(権利行使利益)に相当する実質的損失が生じることになる。いずれの場合も,付与契約の実質は,低額譲渡に当たる。一審原告が指摘する法人税法施行令136条の4は,内国法人が,商法210条ノ2第2項(平成13年法律第79号による改正前のもの)の決議に基づき内国法人とその役員又は使用人との間に締結された契約によりこれらの者に対して与えられた同項3号に規定する株式譲渡請求権の行使があった場合における所得の計算について,あらかじめ定められた譲渡価額(権利行使価額)をもってされた自己の株式の譲渡が正常な取引条件でされたものとして,当該内国法人のその譲渡の日の属する事業年度の所得の金額を計算することを定めているのであって,そもそも本件ストック・オプションとは異なるものである上,法人税課税の合目的性の観点から,法人の会計処理との連動性をも考慮に入れて,その取扱いを明らかにしたものにすぎず,同施行令の規定が,株式譲渡請求権の行使時に,権利行使利益に相当する分という経済的利益が付与会社から被付与者に移転することを否 処理との連動性をも考慮に入れて,その取扱いを明らかにしたものにすぎず,同施行令の規定が,株式譲渡請求権の行使時に,権利行使利益に相当する分という経済的利益が付与会社から被付与者に移転することを否定する趣旨によるものと解することはできない。 したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。 (2)給与所得該当性ア所得税法28条1項に,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと規定されているが,これによれば,給与所得とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解される。したがって,ある給付が給与所得に該当するかどうかの判断に当たっては,給与支給者との関係において,何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない(最高裁昭和52年(行ツ)第12号昭和56年4月24日第2小法廷判決・民集35巻3号672頁)。 イ上記の判旨を受けて,一審原告は,所得税法28条1項が,給与所得について,労務の提供先である給与支給者(使用者)から労務の対価として支払を受ける給付に限ることを当然の前提として,当該労務が雇用契約又はこれに類する関係において,使用者の指揮命令の下に提供されるものであること(雇用類似要件),当該給付が当該労務の提供による対価であること(対価性要件)の二つの要件を満たす必要があるとした上,①一審原告と米国マイクロソフト社との間には,雇用契約又はこれに準ずる契約が存在しないから,同社をもって使用者ということはできず,②一審原告は,日本マイクロソフト社に対して労務を提供したものであり,米国マイクロソフト社 ロソフト社との間には,雇用契約又はこれに準ずる契約が存在しないから,同社をもって使用者ということはできず,②一審原告は,日本マイクロソフト社に対して労務を提供したものであり,米国マイクロソフト社に対して労務を提供したものではないから,本件権利行使利益が,対価性の要件を満たさないのみならず,③権利行使利益は,被付与者の判断に委ねられている上,株価は,企業の業績のほか,金利,為替,株式の格付け,国際情勢等の不確実な材料が複合的に作用して形成され,権利行使利益の発生は,極めて偶発的なものであるということができ,しかも,子会社の従業員等の精勤と親会社の株価の上昇とは直接的には関係しないから,権利行使利益を労務の提供の対価ということはできないと主張する。 ウたしかに,前記引用に係る原判決の「基礎となる事実」のとおり,一審原告は,日本マイクロソフト社との間で雇用契約を締結し,この雇用契約上の地位に基づいて,その従業員等として,同社の指揮命令に服して労務を提供していたものであって,その親会社である米国マイクロソフト社に勤務したことはなく,また,本件ストック・オプションは,日本マイクロソフト社ではなく,米国マイクロソフト社から付与されたものであり,その行使による権利行使利益も,実質は,米国マイクロソフト社に属する経済的利益が被付与者である一審原告に移転したものである。 しかし,所得税法28条1項は,俸給,給料,賃金等を掲げて,通常,雇用契約法上の使用者が給付する給与を例示しているが,明文で,第三者から給付されたものを除外したり,給与所得を使用者から給付されるものに限定しているわけではなく,かえって,俸給,給料,賃金等の性質を有する給与と同一の性質を有する給与を給与所得とすることを定めているのである。そもそも,所得税法は,所得がその源泉や性質によ れるものに限定しているわけではなく,かえって,俸給,給料,賃金等の性質を有する給与と同一の性質を有する給与を給与所得とすることを定めているのである。そもそも,所得税法は,所得がその源泉や性質によって,担税力が異なるという前提に立って,所得を10種類に分類し,担税力の相違に応じて計算方法や課税方法を定めている。したがって,所得区分の判断に当たっても,その所得の源泉や性質の内実を把握すべきであって,従業員等が使用者である子会社に対して提供した労務に対して給付される経済的利益が,使用者である子会社により給付されたか,又は第三者である親会社により給付されたかにより,担税力を異にするものではなく,使用者以外からの給付である一事をもって給与所得に当たらないということはできない。なお,上記の判決は,弁護士の顧問料収入が事業所得か給与所得かが争われた事案において,事業所得との区別という観点から,給与所得の性質を説示したものであり,使用者と給与支給者とが異なる場合は想定されていないから,上記の判断が同判決に抵触するものではない。 次に,本件ストック・オプションは,前記のとおり,一審原告が日本マイクロソフト社に精勤することにより,同社の業績を向上させ,それを通して,米国マイクロソフト社の事業に貢献したことに報いるために付与され,一方,その行使により経済的利益を獲得できる権利を与えるとともに,ストック・オプションを行使することによって得られる権利行使利益を増加させることを誘因として日本マイクロソフト社に対して一層の精勤を動機付け,ひいては,米国マイクロソフト社の事業の成功を一層促進させることを目的とするもので,長期インセンティブ報酬の一種として位置づけられ,本件ストック・オプションの権利行使をするには,一審原告が日本マイクロソフト社の従業員等としての継 事業の成功を一層促進させることを目的とするもので,長期インセンティブ報酬の一種として位置づけられ,本件ストック・オプションの権利行使をするには,一審原告が日本マイクロソフト社の従業員等としての継続的な地位を有することが重要な条件となっている。このように,本件ストック・オプションは,一審原告の日本マイクロソフト社における従業員等としての地位と不可分に結びついたものであって,日本マイクロソフト社が米国マイクロソフト社の100パーセント子会社であることを前提にして,一審原告が日本マイクロソフト社の従業員等として精勤してきたことを原因及び条件として付与されるものであり,将来も継続して精勤することが,その行使を可能ならしめるものであるから,日本マイクロソフト社における一審原告の労務の提供と親会社である米国マイクロソフト社により本件権利行使利益が給付されることとの間には,給与所得の要件としての対価性があるというべきである。さらにいえば,一審原告の日本マイクロソフト社に対する労務の提供は,ストック・オプションの付与された後,これを行使できるための原因及び条件であり,その間,一審原告にあっては空間的・時間的拘束を受け,一方,米国マイクロソフト社にあっても,日本マイクロソフト社の親会社という立場で,使用者である日本マイクロソフト社と一審原告との間における上記の関係を利用し,かつ,その成果を得ることができる関係にあるから,これをもって米国マイクロソフト社と一審原告との間には,所得税法上,雇用契約に類する関係があるということもできる。 最後に,対価性についてみると,なるほど,権利行使利益の発生及び多寡は,従業員等による権利の行使に係る判断に委ねられ,しかも,行使時点の株価に従うものであり,その株価といえば,企業の業績のほか,金利,為替,株式の格付け,国 と,なるほど,権利行使利益の発生及び多寡は,従業員等による権利の行使に係る判断に委ねられ,しかも,行使時点の株価に従うものであり,その株価といえば,企業の業績のほか,金利,為替,株式の格付け,国際情勢等の不確実な材料が複合的に作用して形成されるものであるから,そもそも偶発的要素に関わるものであり,その上,被付与者が勤務先会社に対して提供した労務の質ないし量とストック・オプションを行使して得られる権利行使利益との関係は,間接的であり,希薄であって,その間に数量的な相関関係を見出すことは困難ないし不可能であるといわざるを得ない。しかし,権利行使利益の発生及び多寡が,被付与者の個人的判断要素に関わる部分があるとしても,その判断要素といえども,あくまで会社と従業員等との間であらかじめ締結された付与契約の内容に従うものであり,また,複合的要素によって形成される株価に従うとしても,株価の形成において当該会社の業績がその重要な要素であることは否定し難く,その業績は,従業員等によって供された労務の集合によって作り出されるものであり,被付与者による労務の提供もその業績の作出に寄与していることも否めない。そして,本件のストック・オプション制度の趣旨,目的及びその内容に照らせば,付与会社である米国マイクロソフト社において,同社の業績を向上させ,その株価に影響を与える一要素として,従業員の業績,将来性等を考慮した上で,子会社の従業員等たる一審原告に対し,ストック・オプションを付与し,一審原告にとっては,労務の提供又は会社の業績に対する貢献に対して会社から支給されたものであり,たとえ権利行使利益と労務の質及び量との間に数量的な相関関係が認められないとしても,その発生等にたまたま他の要因が与っているというにすぎず,ストック・オプションの被付与者である一審原告の のであり,たとえ権利行使利益と労務の質及び量との間に数量的な相関関係が認められないとしても,その発生等にたまたま他の要因が与っているというにすぎず,ストック・オプションの被付与者である一審原告の労務の提供の見返りとして給付がされたという関係が肯定されるから,担税力に質的な相違を認めるべきではないと解され,労務の提供とその給付との間に対価的関係があるというべきである。付与の時点で給付額が不確定であり,本件権利行使利益と一審原告の労務の質及び量との間に直接の相関関係が認められないことをもって,給与所得の要件として要求される労務の提供とその給付との対価性の要件を否定する主張は,採用の限りでない。 エしたがって,本件ストック・オプションの行使により発生した本件権利行使利益は,一審原告の日本マイクロソフト社の指揮命令に服して提供した労務の対価として米国マイクロソフト社から一審原告に対して給付されたものというべきである。 (3) 課税対象としての権利行使利益ア一審原告は,本件ストック・オプションについて,権利行使可能時に株式を取得できる法的権利として,それ自体に財産的価値があり,その行使に制約があるとしても,付与会社から付与された時点において,被付与者である一審原告が保有する権利として確定しているのであるから,その付与時に課税されるべきであり,権利行使利益を給与所得の課税対象とするということは,所得税法の解釈上あり得ないと主張する。 所得税法は,所得金額の計算の通則として,その年分の所得の金額の計算上収入金額とすべき金額として,別段の定めがある場合を除き,その年において「収入すべき金額」と定め(36条1項),現実の収入があった場合のほか,現実の収入がない場合であっても,収入の原因となる権利が確定的に発生したときには,その時点で所得の実現が を除き,その年において「収入すべき金額」と定め(36条1項),現実の収入があった場合のほか,現実の収入がない場合であっても,収入の原因となる権利が確定的に発生したときには,その時点で所得の実現があったものとして,権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するものとしている。 本件ストック・オプションは,付与後の継続的勤務等を条件として株式譲渡契約を成立させる権利であって,その行使は,原則として付与された本人に限られ,しかも一定期間の労務の提供後でなければすることはできない上,譲渡性がなく,これを取引の対象とする市場も存在しないから,本件ストック・オプションを付与されたことをもって,担税力を増加させる経済的利得があったものと評価することは困難であり,現実の収入として課税することはできず,また,所得の実現があったと評価しうるような収入の原因となる権利を取得したということもできない。 イところで,一審原告は,擬似ストック・オプションのうちの成功報酬型ワラントにあっては,会社が給与に代えてワラントを無償で支給した時点で,価額相当部分について給与所得として課税されることからすると,ストック・オプションの権利行使利益を課税対象とするのは不合理である旨主張する。 たしかに,甲24号証及び弁論の全趣旨によれば,会社が分離型の新株引受権付き社債(平成13年法律第128号による改正前の商法341条ノ8第2項5号)を発行した場合に,その後に新株引受権と社債とを分離して,会社が市場から新株引受権証券(ワラント,同法341条ノ13)を買い戻して従業員等に支給するときは,新株引受権証券が支給された時点で,当該新株引受権の価額相当部分について給与所得として課税されることが認められる。しかし,新株引受権証券については,有価証券上の権利を表象するものとして譲渡性が きは,新株引受権証券が支給された時点で,当該新株引受権の価額相当部分について給与所得として課税されることが認められる。しかし,新株引受権証券については,有価証券上の権利を表象するものとして譲渡性があり,しかも,社債と分離して流通に置かれることが予定され,それ自体に客観的な市場価値があるので,所得税法36条1項の金銭以外の物として,その価値を把握することができるから,上記のとおり課税され,同時に,当該新株引受権の価額相当部分が権利行使利益の現在価値に相当するから,権利行使時に重ねて権利行使利益に課税されることがないのであって,このことをもって権利行使時に発行会社から権利者に経済的利益の移転がないことを意味するということはできない。本件ストック・オプションにあっては,証券が発行されず,譲渡性がなく,擬似ストック・オプションと性質が異なる以上,新株引受権証券の場合と異なる扱いがされることがあっても,不合理とはいえない。さらに,譲渡制限された新株引受権であっても,会社との関係では合意違反の問題を生じるものの,ワラント自体の譲渡性を奪うことはできず(前記商法341条ノ8第2項5号),また,権利行使により経済的利益を得た場合には,所得税法施行令84条3号に基づき,権利行使時に権利行使利益に対し課税されることになるから,上記の結論を左右するものではない。 ウ一審原告は,ストック・オプションが相続された場合をとらえて,相続時における株価と権利行使価格との差額について相続税を課すことからすれば,ストック・オプションそれ自体を課税対象にしているというべきであるから,本件権利行使利益が所得税の対象となり得ないと主張する。 ストック・オプションが付与されると,付与された従業員等だけがストック・オプシヨンを行使することができる地位を取得するが,その者が死亡し ら,本件権利行使利益が所得税の対象となり得ないと主張する。 ストック・オプションが付与されると,付与された従業員等だけがストック・オプシヨンを行使することができる地位を取得するが,その者が死亡した場合,付与契約において,相続人がストック・オプションを相続することができる旨合意されていれば,相続人が,被相続人の有していたストック・オプションを行使することができる地位を相続する。そして,相続税は,人の死亡による財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課されるもので,相続税の課税物件は,相続により取得した財産であり(相続税法2条1項),経済的価値のあるすべてのものが含まれるため,ストック・オプションによる権利を行使することができる地位も,経済的価値を有する以上,課税物件に含まれ,しかも,相続税法が,いわゆる時価主義(同法22条)を採用しているので,相続時点での株価と権利行使価格との差額相当額に相続税が課税されることとなる。一方,所得税の課税物件は,所得税法上の所得であり,ストック・オプションに係る所得は,権利行使利益であって,権利の行使がされない限り,所得税法上の所得が未発生であるため,その付与時に課税されることがないというにすぎない。したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。 (4)関係法令との整合性一審原告は,租税特別措置法29条の2の規定が,ストック・オプションについて一般的に行使時に給与所得として課税することを定めているものではない旨主張する。 租税特別措置法29条の2は,商法上のストック・オプションのうち,いわゆる税制適格型のものについては,権利行使による株式の取得に係る経済的利益(権利行使利益)に対して所得税を課さないこととしているが,同条が「第2章所得税法の特例」中の「第3節給与所得及び退 いわゆる税制適格型のものについては,権利行使による株式の取得に係る経済的利益(権利行使利益)に対して所得税を課さないこととしているが,同条が「第2章所得税法の特例」中の「第3節給与所得及び退職所得」の中に置かれていることに加えて,所得税法施行令84条が,同条各号所定の商法上のストック・オプションを付与された場合における所得税法36条の収入金額について,権利行使利益をもって所得税の課税対象とすることを明らかにしていることからすると,租税特別措置法29条の2は,権利行使利益が給与所得として課税される性質のものであることを前提にして,税制適格型のものについて,所得税法36条の「別段の定め」として,株式の譲渡時まで課税の繰り延べを認める趣旨であるものと解するのが自然である。また,租税特別措置法29条の2が発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係にある法人の取締役又は使用人に付与されたストック・オプションについても,上記非課税特例の対象としていることからすれば,同条は,付与会社と被付与者との間に直接の雇用関係等がある場合に限らず,上記のような子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに係る権利行使利益についても,給与所得に該当することを前提にしているものと解するのが相当である。 本件ストック・オプションについては,上記の法令の適用がされないが,その権利行使利益についての所得税法上の所得区分を決定する上において,上記のような商法上のストック・オプションの権利行使利益と異なる取り扱いをすべき特段の事情も認められないから,本件権利行使利益を給与所得として課税対象とすることは,関係法令の規定とも整合性があるということができる。 3 新たな争点(信義則違反)について(1)当事者の主張ア一審原告は,本件 られないから,本件権利行使利益を給与所得として課税対象とすることは,関係法令の規定とも整合性があるということができる。 3 新たな争点(信義則違反)について(1)当事者の主張ア一審原告は,本件各更正処分が信義則に違反することについて,当審において,次のとおり主張する。 ストック・オプションに係る所得の区分について,当時の課税庁において,「回答事例による所得税質疑応答集」の記載のとおり,一時所得であると認識し,ひいてはその認識が税務官庁の公的見解であったことを一審被告も自認していること,一審原告は,初めてストック・オプションの権利を行使した平成8年分の所得税の申告に当たり,一審原告の妻を通じて,藤沢税務署に赴き,ストック・オプションに関する資料をすべて税務署職員に提示して,申告の相談したところ,税務署職員から譲渡所得として申告するように指導されたので,その指導に従って本件行使利益を譲渡所得として申告し,平成9年及び平成10年における権利行使利益の申告に当たっても,一審原告の妻を通じて,事前に税務署に赴き,税務署職員に,ストック・オプションに係る利益が譲渡所得であることを確認した上で申告書を提出したこと,平成11年分の所得税の申告に当たり,その申告前に,日本マイクロソフト社内で会計事務所によるストック・オプションに関する納税についての説明会が開かれ,以後は給与所得として申告するようにとの助言があったので,一審原告は,給与所得として申告したこと,その後,一審原告は,課税庁が権利行使利益を一時所得とする公的見解を表示していることを知ったので,平成9年分及び平成10年分については,譲渡所得から一時所得とする修正申告を,平成11年分については給与所得から一時所得とする更正の請求を,平成12年分については一時所得として申告をしたこと,一審原告 9年分及び平成10年分については,譲渡所得から一時所得とする修正申告を,平成11年分については給与所得から一時所得とする更正の請求を,平成12年分については一時所得として申告をしたこと,一審原告は,納税分を差し引いた権利行使利益で,自宅を建築することを計画し,自宅建築用の土地を購入するとともに,業者と建築請負契約を結んで設計も完了し,着工寸前にまでに至ったが,平成13年1月に命じられた更正処分等によって突如として約2億円もの税金を納めなければならなくなったため,業者に対し設計料及び違約金を支払って建築請負契約を解除したほか,上記自宅用土地を売却し,その売却代金を追加納税の資金としなければならなくなったこと,これらの事情によれば,一審原告が一時所得として確定申告等をし,自宅の建築等の経済的活動をしたのは,いずれも公的見解の表示を信頼したことによるものであり,かつ,一審原告には責めに帰すべき事由はないから,納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような事情があるということができ,したがって,本件各更正処分は信義則に反し違法である。 さらに,予備的主張として,本件において,判例の掲げる要件を満たさなくとも,ストック・オプションに係る権利行使利益について,課税庁において,約15年間にわたり一時所得として課税し,「回答事例による所得税質疑応答集」にその旨を掲載し,税務相談においても同様の回答をしてきたものであり,納税者には責めに帰すべき事由がないから,本件事案の具体的な内容を考慮すれば,信義則の法理によって,一審原告は保護されるべきである。 イこれに対し,一審被告は,次のとおり反論する。 一審原告の主張する内容では,未だ税務官庁による公的見解の表示があったということはできない上,一審原告の主張する各行為は,課税庁が権利行使利益につい イこれに対し,一審被告は,次のとおり反論する。 一審原告の主張する内容では,未だ税務官庁による公的見解の表示があったということはできない上,一審原告の主張する各行為は,課税庁が権利行使利益について給与所得に当たるとの見解に立っていることを認識しながらされたもので,税務官庁による公的見解の表示を信頼してされたものではない。また,一審原告が主張する経済的不利益は,課税処分により税額が正しいものに増額されたことを意味するにすぎず,その主張する支出も課税庁の行為に起因するものではない。したがって,本件各更正処分には信義則違反の違法はない。一審原告の上記主張は,独自の見解にすぎない。 (2)判断ア租税法規に適合する課税処分について,法の一般原理である信義則の法理の適用により,当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても,租税法律主義の原則の下にある租税法律関係においては,同法理の適用についてぱ慎重でなければならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に,初めて同法理の適用がされうるものである。そして,上記特別の事情があるといえるためには,少なくとも,①税務官庁が納税者に対し,信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したこと,③後にその表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けたこと,④納税者が税務官庁の表示を信頼して行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要である(最高裁昭和60年(行ツ)第125号昭和62年10月30日第3小法廷判決・裁判集民事152号93頁)。 イそこで,まず, 頼して行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要である(最高裁昭和60年(行ツ)第125号昭和62年10月30日第3小法廷判決・裁判集民事152号93頁)。 イそこで,まず,本件において,納税者にとって信頼の対象となる公的見解の表示がされたか否かについて検討すると,証拠(乙3,11の1から9まで)及び弁論の全趣旨によれば,ストック・オプション制度は,米国において,1980年代(昭和55年)以降本格的に導入されるようになったものの,わが国においては,未だ存在しなかった状況下で,課税庁が,昭和50年代に,外資系企業からストック・オプションについて問い合わせを受け,権利行使利益が一時所得となるとの回答をした先例はあるが,昭和60年当時,ストック・オプションを付与される者も外資系企業に勤務する従業員等に限られていたことから,課税庁において,米国のストック・オプション制度に関する正確な認識に乏しかったこともあり,ストック・オプションが給与等に代えて付与されたと認められたとき以外は,権利行使利益が一時所得となると理解し,財団法人大蔵財務協会発行で,東京国税局直税部長(平成4年版以降のものは,同課税第1部長)監修,同所得税課長編による「回答事例による所得税質疑応答集」昭和60年版には,外国親会社から子会社従業員に対し付与されたストック・オプションの権利行使利益について,ストック・オプションが給与等に代えて付与されたと認められたとき以外は一時所得として課税される旨が記載され,平成6年版までの「回答事例による所得税質疑応答集」にも同旨の記載がされていたこと,その後平成9年分所得税の確定申告期(平成10年2月ないし3月)ころまで,一時所得としての申告が容認されていたこと,平成7年11月に,特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により 載がされていたこと,その後平成9年分所得税の確定申告期(平成10年2月ないし3月)ころまで,一時所得としての申告が容認されていたこと,平成7年11月に,特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により,我が国において初めてストック・オプション制度が導入され,平成9年に,経済構造改革の一環としてストック・オプションを一般的に導入する旨の閣議決定がされた後,同制度が商法改正により本格的に導入されるに伴い,課税庁において,権利行使利益が一時所得ではなく,給与所得であるとの共通の認識が形成され,平成10年分の所得税の確定申告期以降,給与所得とする統一的な取扱いがされるに至ったこと,そこで,平成8年版(同年6月発行)「回答事例による所得税質疑応答集」では,平成6年版までの前記の記載が削除され,平成10年版(平成10年7月発行)では,外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使利益について,給与所得として課税される旨記載されるに至ったことが認められ,一審被告にあっても,このような一時所得から給与所得への記載内容の変更は,その当時の課税庁の認識を反映したものであることを自認している。 上記の認定事実,とりわけ,当時の課税実務の状況と併せて,「回答事例による所得税質疑応答集」に,これらが私的な出版物であるとはいうものの,客観的に税務に担当する者によるものと認めうる方法で課税実務が解説され,もって当時の課税庁の認識を反映し,あるいはその意向を受けたものと客観的に認められ,これらの記述が,課税庁の課税行政の内容を国民に周知させる上で,補完的な意味を有するとともに国民に対して指針的なものとして一定の影響力を持ち,国民にとっても,そこに示された内容について,一定の信頼を置くものと推認しうることに照らせば,外国親会社から付与されたストック・オプションの とともに国民に対して指針的なものとして一定の影響力を持ち,国民にとっても,そこに示された内容について,一定の信頼を置くものと推認しうることに照らせば,外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使利益について,一時所得として課税される扱いについて,平成10年ころ以前は,課税庁による公的見解の表示があったのと同様の状態にあったとみることができる。 ウ一審原告は,譲渡所得あるいは一時所得とする課税庁の見解に従って,納税申告をしたことをもって不利益を受けたものと主張するが,そもそも,一審原告が,上記の公的見解の表示に類する状況を信頼して一時所得等として申告したという点は,後記のとおり大いに疑問であるが,その点をおいても,納税申告をすることは,所得の発生により国税の納付義務としてすべきことであり,その場合に,所得の把握によって負担すべき納税額に相違を生じることがあるのは当然であって,一定の見解に依拠した申告行為自体を保護すべきものとする一審原告の主張は,採用しがたい。 また,一審原告は,一時所得であるとの公的見解の表示を信頼し,この信頼に基づき,納税分を差し引いた権利行使利益で自宅を建築することを計画していたにもかかわらず,約2億円もの税金を納めなければならなくなったために,業者に対し設計料及び違約金を支払って建築請負契約を解除したほか,上記自宅用土地を売却し,その売却代金を追加納税の資金としなければならなくなったと主張し,それに沿う一審原告本人及びその妻Aの陳述書(甲9,10)を提出する。しかし,これらの陳述書によっても,未だその具体的な事実は不分明ではあるが,たとえその事実を認めうるとしても,一審原告の上記主張に係る納税は,課税庁の方針変更によるものとしても,本来の所得区分に認定された上,本来あるべき課税がされたにすぎないので 事実は不分明ではあるが,たとえその事実を認めうるとしても,一審原告の上記主張に係る納税は,課税庁の方針変更によるものとしても,本来の所得区分に認定された上,本来あるべき課税がされたにすぎないのであるから,結局,一審原告が主張する経済的不利益は,課税処分により税額が本来納付すべきものに増額されたことを意味するにすぎず,未だ経済的不利益を被ったともいえない。また,自宅の建築計画に関する行為とそれに伴う支出についてみても,単に課税額に対する期待に依拠したというに留まるものであり,納税の必要について目算を誤ったにすぎず,加えて,本件ストック・オプションの行使は,米国マイクロソフト社の株価の推移状況を考慮して一審原告の経済的判断によってされたというべきであり,権利行使利益が一時所得として課税される旨の公的見解の表示を信頼したことによってされたという関係にはなく,したがって本件権利行使利益を使用して上記契約を締結したことやそれに伴う支出についても課税庁の行為あるいは課税庁の作出した状況に起因するものということはできない。しかも,一審原告が上記契約を締結した時期が,平成11年分の確定申告後であるとすれば,一審原告にあっては,後記のとおり,その時点における課税庁の見解が,権利行使利益を給与所得と扱うというものであることをすでに認識していたというべきであるから,さらに因果関係を認めることはできない。一審原告の主張する行為を租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお課税を免れさせて保護すべきものに当たるとは到底いうことができない。 なお,一審原告は,平成9年分及び平成10年分の所得税の確定申告において,税務職員の指導により,本件権利行使利益を株式等に係る譲渡所得に当たるものとして申告したと主張し,それに沿う上記陳述書を提出す なお,一審原告は,平成9年分及び平成10年分の所得税の確定申告において,税務職員の指導により,本件権利行使利益を株式等に係る譲渡所得に当たるものとして申告したと主張し,それに沿う上記陳述書を提出する。その主張のとおりの事実を認めうるとしても,当該税務相談の態様,対応者の立場等が明らかでないから,その対応をもって直ちに公的見解が表示されたものと判断するのは困難であり,しかも,一審原告自身認めるように,一審原告は,平成11年分の所得税の確定申告に先立ち,ストック・オプション課税に関する国税庁の取扱いが変更して給与所得として課税されることになったことを知った上,平成11年分の所得税について,平成12年3月6日に,権利行使利益を給与所得として申告し,後記のとおり,平成9年分及び平成10年分の本件権利行使利益に申告漏れがあることが指摘されたことにより,平成12年6月27日,修正申告をしたのであるから,たとえ以前に上記のとおり税務職員の指導があったとしても,このことと給与所得に区分するとする課税庁の見解をすでに認識した後にされた上記の確定申告や修正申告との間には直接の因果関係はないというべきである。 そのほか,前記見解を信頼したことによって権利行使をしたとか,それによって予想に反する課税処分を受けたという以上に特別に経済的不利益を受けたことを認めうる具体的な立証はない。 エ一審原告は,予備的主張として,本件については,上記の判例が掲げる要件を満たさなくとも,信義則の法理を適用すべき特別の事情があると主張するが,上記のほかに,一審被告の事情において信義則に違反し,一審原告の事情において特に保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情があることを認めるに足りる証拠はなく,信義則の法理の適用により,本件更正処分等を違法なものとして取り消すべき に違反し,一審原告の事情において特に保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情があることを認めるに足りる証拠はなく,信義則の法理の適用により,本件更正処分等を違法なものとして取り消すべきであるということはできない。 4 本件各更正処分及び本件通知処分の適法性について本件権利行使利益は,前示のとおり,給与所得に該当するものであり,その余の一審原告の本件係争各年分の所得税の課税根拠については当事者間に争いがないので,これを前提とした一審原告の本件係争各年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額は,原判決別紙課税根拠表の各年分の課税総所得金額及び納付すべき税額欄にそれぞれ記載のとおりの額と認められる。 そして,これらの額は,いずれも本件各更正処分及び平成11年分の確定申告に係る納付すべき税額と同額又はこれを上回るから,本件各更正処分及び本件通知処分はいずれも適法である。 5 争点④(本件各加算税賦課決定処分に係る違法の有無)について(1)当事者の主張ア一審原告は,本件各更正処分に係る納税申告には国税通則法65条4項にいう正当な理由があると主張し,その根拠として,親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに関する課税関係については,法令や通達にも定めがなく,権利行使利益について一時所得とする見解にも一応の根拠があるといえること,課税庁は,少なくとも平成10年分の所得税の申告期までの10年を超える期間にわたり,多くの事案で,権利行使利益を一時所得として取り扱ってきたこと,所得税課税事務を所掌する職員の名義で権利行使利益を一時所得に当たるとの見解が公表されていたこと,一審原告は,当初,税務署職員から本件権利行使利益が譲渡所得に該当するとの指導を受け,それに従って申告していたことなどの事実を指摘し,また,一審 利益を一時所得に当たるとの見解が公表されていたこと,一審原告は,当初,税務署職員から本件権利行使利益が譲渡所得に該当するとの指導を受け,それに従って申告していたことなどの事実を指摘し,また,一審原告が平成11年分の所得税について給与所得として申告したことについて,会計事務所の説明によって権利行使利益が給与所得であるとの認識を持ったからではなく,会計事務所から,併せて,後に給与所得の見解が改められても,更正の請求により給与所得と一時所得の差額分の還付を受けることができると説明があったからであると指摘して,一審被告の主張には誤りがあると反論した。 イ一審被告は,一審原告においては,課税庁が本件権利行使利益を給与所得とする取扱いをしていることを知りながら,あえて自己の見解に固執して一時所得として修正申告又は確定申告をしたものであり,国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとはいえないと反論し,その根拠として,一審原告が,平成9年分及び平成10年分の確定申告に当たり,本件権利行使利益の一部について申告をしなかったために,一審被告からの申告漏れがある旨の指摘を受けた際,その所得区分が給与所得であることを指摘され,あるいは平成11年分の確定申告の前には,会計事務所の説明によりストック・オプションの権利行使利益が給与所得であることを聞き知り,同年分の確定申告では給与所得として申告していたにもかかわらず,平成12年分の確定申告では,一転して一時所得として申告するなど,課税庁の過去の取扱い等とは無関係に,一審原告の独自の判断で,本件権利行使利益を譲渡所得又は一時所得として修正申告又は確定申告をしたことを指摘する。 (2)判断ア過少申告加算税は,期限内申告書が提出された場合において,修正申告又は更正があったときに,課せられるものであるが,過少の申告 は一時所得として修正申告又は確定申告をしたことを指摘する。 (2)判断ア過少申告加算税は,期限内申告書が提出された場合において,修正申告又は更正があったときに,課せられるものであるが,過少の申告について正当な理由があるときは,その部分については課されない(国税通則法65条4項)。過少申告加算税の趣旨は,国税において申告納税方式を採用して,納税義務の確定を納税者の申告によっていることに照らし,適正な申告の実現を図り,もって申告納税制度の信用を維持し,ひいては適正に申告納付した者とこれを怠った者との不公平を是正するために,申告納税義務の不履行に対して経済的制裁を課すことにある。その趣旨に照らせば,修正申告又は更正があった場合であっても,過少申告加算税が課されないのは,過少な申告にも正当理由があるときに限られるのであり,正当な理由がある場合とは,過少に税額を申告することにつき,納税者の責めに帰すべきではない客観的にやむを得ないと認めうる具体的な事情が存在する場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成8年(行ツ)第54号平成11年6月10日第1小法廷判決・裁判集民事193号315頁参照)。 イそこで,一審原告の確定申告等に係る状況についてみると,前記引用に係る原判決の「基礎となる事実」及び証拠(甲8,9,10,乙45,46,50,51)によれば,平成9年分及び同10年分の所得につき,一審原告は,それぞれ平成10年3月2日,同11年2月24日に確定申告をしたが,各年分の本件権利行使利益につき申告漏れがあったために,平成12年6月27日に修正申告書を提出し,その際,権利行使利益について,株式等に係る譲渡所得あるいは一時所得として申告したこと,これに対し,一審被告は,平成13年1月19日付けで,権利行使利益について給与所得に該当するとして 書を提出し,その際,権利行使利益について,株式等に係る譲渡所得あるいは一時所得として申告したこと,これに対し,一審被告は,平成13年1月19日付けで,権利行使利益について給与所得に該当するとして,本件各更正処分をしたこと,平成11年分の所得について,一審原告は,平成12年3月6日,権利行使利益について給与所得に該当するとして確定申告をしたが,平成13年1月4日に一時所得に該当するとして更正の請求をしたこと,これに対し,一審被告は,同年4月3日付けで,更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたこと,平成12年分の所得について,一審原告は,同年6月15日付けで,予定納税額の通知を受けたものの,同年7月15日,権利行使利益について一時所得に該当するから,申告納税見積額が予定納税基準額に満たないものと見込まれるとして,予定納税額の減額の承認の申請をしたこと,これに対し,一審被告は,同月28日付けで,権利行使利益について給与所得に該当するとした上で,一審原告の申請の一部を認める通知処分をしたこと,以上の事実が認められる。 一方,ストック・オプションに対する課税をめぐる当時の状況を見ると,確かに,前示のとおり,親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに関する課税上の取扱いについて,明文をもって定めた法令や通達は存在せず,しかも,平成9年分の所得税の確定申告期ころまでは,ストック・オプションが行使されたことによって取得した権利行使利益について,一時所得とする申告が容認され,平成10年分の所得税の確定申告期以降から給与所得とする統一的な取り扱いが始まったのであり,同年3月ころまでは一時所得とする公的な見解があったものと同視しうる状態があったのであるから,その当時に所得税の申告をする者にとっては,この見解に従うことにも一応の合理性が 扱いが始まったのであり,同年3月ころまでは一時所得とする公的な見解があったものと同視しうる状態があったのであるから,その当時に所得税の申告をする者にとっては,この見解に従うことにも一応の合理性があったということができ,一審原告にあっては,平成9年分及び同10年分の所得税の確定申告について,当てはまる余地があるということができる。 しかしながら,一審原告にあっては,さらに以下の事情を認めることができる(甲10,乙45,46)。一審原告は,上記のとおり,平成9年分及び同10年分の所得につき,平成12年6月27日に修正申告書を提出したのであるが,修正申告前の同年4月から行われた上記各年分の所得の調査において,調査担当職員から,本件権利行使利益に申告漏れがあること(それぞれの確定申告において,本件権利行使利益2億4771万円のうち1億8143万円,3億6791万円のうち1億9708万円が申告されたに留まる。)に併せて,権利行使利益の所得区分が給与所得であることの指摘を受け,しかも,一審原告は,平成11年分確定申告に先立って行われた社内説明会において,会計事務所の説明によりストック・オプションに関する課税上の取扱いが給与所得とすることに変更になったことを知り,それにもかかわらず,修正申告においては,平成9年分及び同10年分の本件権利行使利益のうち,すでに譲渡所得として確定申告をした分は維持した上,申告漏れ分を一時所得として申告し,平成11年分の所得について,上記のとおり,一旦は権利行使利益について給与所得に該当するとして確定申告をしながら,平成13年1月4日に一時所得に該当するとして更正の請求をしたことが認められる。なお,一審原告は,平成11年分の所得税について給与所得として申告したことについて,会計事務所から,後に給与所得の見解が改められ 月4日に一時所得に該当するとして更正の請求をしたことが認められる。なお,一審原告は,平成11年分の所得税について給与所得として申告したことについて,会計事務所から,後に給与所得の見解が改められても更正の請求により給与所得と一時所得の差額分の還付を受けることができると説明があったことによる旨主張するが,一審原告が課税庁の権利行使利益の取扱が変更されたことを認識した事実を左右するものではない。 以上の事実によれば,たしかに,一審原告が,平成9年及び平成10年にストック・オプションを行使した時点においては,課税庁も権利行使利益が一時所得に該当するとの認識を有していたのであるから,両年分の権利行使利益には同見解が適用されると一審原告が考えたとしても不合理であるということはできないのみならず,両年分の所得につき,確定申告がされた時点では,一審原告においても,本件権利行使利益を一時所得として申告することに肯きうる事情があると一応いうことができる。しかし,課税庁において適正な課税状況に改めることは租税の公平負担の要請からしても,何ら非難されるべきではなく,一審原告において,当該権利行使利益について申告漏れが生じたことを機縁として修正申告をするに至り,しかも,その時点において,自ら給与所得であることを認識し,調査担当者からその旨の指摘を受けながらも,なお一時所得として申告していることは,修正申告の時点においては,一審原告においてもはや給与所得と申告することに正当な理由があるとは到底認め得ないものである。さもなければ,適正な申告の実現を図る機会を看過することに帰し,ひいては,適正に申告納付しうる時期において適正に申告納付する者とこれを怠る者との間に不公平を生じうることになりかねないからである。 上記の事情は,後記のとおり,平成11年度及び平成12年 ことに帰し,ひいては,適正に申告納付しうる時期において適正に申告納付する者とこれを怠る者との間に不公平を生じうることになりかねないからである。 上記の事情は,後記のとおり,平成11年度及び平成12年度の申告や更正請求における一審原告の対応からも十分にうかがえるものである。なお,一審原告は,平成9年分及び10年分の所得税の修正申告において,本件権利行使利益の一部を譲渡所得として申告しているが,これについては,前示のとおり,確定申告するに当たり,税務署職員から,譲渡所得に該当するとの説明を受けたためであると主張し,それに沿う上記陳述書を提出するが,一審原告自身認めるように,前示のとおり,一審原告は,平成11年分の所得税の確定申告に先立ち,ストック・オプション課税に関する国税庁の取扱いが変更して給与所得として課税されることになったことを知った上,同年分の所得税について,平成12年3月6日に権利行使利益を給与所得として申告し,平成9年分及び平成10年分の所得税についても本件権利行使利益の部分に申告漏れがあったことから,平成12年6月27日に両年分について修正申告をしたことからすると,たとえ,以前に上記のとおり税務職員の指導があったとしても,このことと給与所得に区分するとする課税庁の見解をすでに認識した後にされた確定申告や修正申告との間には直接の因果関係はないというべきである。 次に,平成12年分の所得税の確定申告についてみると,前示のとおり,一審原告は,平成11年分の所得税の確定申告に先立ち,ストック・オプション課税に関する国税庁の取扱いが変更され,給与所得として課税されることになったことを知り,同年分の所得税については,平成12年3月6日,一旦は権利行使利益を給与所得として申告したにもかかわらず,翌13年1月4日に一時所得とする更正の請求 給与所得として課税されることになったことを知り,同年分の所得税については,平成12年3月6日,一旦は権利行使利益を給与所得として申告したにもかかわらず,翌13年1月4日に一時所得とする更正の請求をしたのであり,また,一審原告は,平成12年6月15日付の予定納税額の通知に対して,同年7月15日,権利行使利益について一時所得に該当するとして,予定納税額の減額の承認の申請をし,これに対し,一審被告から,同月28日付けで,権利行使利益について給与所得に該当するとした上で,通知処分を受け,さらに,同年12月25日付けの上記予定納税の通知処分に係る異議決定においても,本件権利行使利益を給与所得と該当する旨明示されながら,平成12年分の権利行使利益について一時所得として申告したというのであるから,公的見解にもかかわらず自己の独自の見解に従って申告したというべきであって,一時所得として申告することについて客観的にやむを得ないと認めうる具体的な事情が存在するとは到底いえず,国税通則法65条4項にいう正当な理由は認められない。 さらにいえば,正当な理由については,過少の申告がされた時点を基準に客観的にやむをえないと認めうる具体的事情の存否を判断すべきであるから,当該所得の区分に過去に見解の相違があった場合であっても,その後当該申告の前に課税庁の公的見解が表明されたり,課税庁の職員から当該税務申告の具体的な場面で新たな指導があったときに,なおも従来の異なる見解に従って申告することを是認することはできず,また,たとえ当該申告について不服申立ての段階にある場合であっても,適正な申告の実現を図り,適正に申告納付しうる時期において適正に申告納付する者とこれを怠る者との間に不公平を生じさせない過少申告加算税の趣旨からみて,上記の結論を左右するものではない。また,納 も,適正な申告の実現を図り,適正に申告納付しうる時期において適正に申告納付する者とこれを怠る者との間に不公平を生じさせない過少申告加算税の趣旨からみて,上記の結論を左右するものではない。また,納税義務の確定を納税者の申告にかからしめている趣旨からすると,しかも,権利行使利益の内容に応じて扱いが異なりうる余地があるとすれば,所得の源泉たる事実が明示されていることをもって,申告納税方式の目的が達せられているということもできない。 ウ以上により,本件過少申告加算税賦課処分は,適法である。 第4 結論以上の次第であって,一審原告の請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきである。 よって,一審被告の控訴に基づき原判決主文1項から3項までを取り消して一審原告の請求を棄却し,一審原告の控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第4民事部裁判長裁判官門口正人裁判官高橋勝男及び裁判官長秀之は,差し支えのため,署名押印することができない。 裁判長裁判官門口正人
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