平成18(ワ)4054 追加退職金請求事件(通称 モルガン・スタンレー証券年金請求)

裁判年月日・裁判所
平成20年6月13日 東京地方裁判所
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判決文本文27,275 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 原告の請求の趣旨被告は,原告に対し,6159万4186円及びこれに対する平成16年4月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 被告の本案前の答弁本件訴えを却下する。 請求の趣旨に対する答弁原告の請求を棄却する。 第2事案の概要本件は,脱退被告の従業員であった原告が,同被告に通知することなく公認会計士協会に対して訴訟を提起し,同訴訟を取り下げるよう指示されたにもかかわらずこれを取り下げなかったこと,同訴訟について同被告の顧客に喧伝したことを理由として同被告を懲戒解雇された原告が,同被告を承継した被告に対し,被告の設けている追加退職金制度に基づき,主位的に年金として,予備的に賃金(予備的1),賃金の後払い的性質(同2)又はSRP規定7条に基づく請求権(同3)として未払の追加退職金合計6159万4186円及び懲戒解雇の翌日である平成16年4月27日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。なお,懲戒解雇については,原告が譴責処分無効確認請求事件を提起したが,原告の敗訴が確定している。 争いのない事実(1) 脱退被告は,国際的な総合金融サービスグループであるモルガン・スタン- 2 -レーの日本拠点として,企業・機関投資家を対象とした株式・債権のセールス及びトレーディング業務並びに資金調達やM&Aアドバイザリー業務を中心とする投資銀行業務,投資関連情報の提供サービスなど幅広い金融サービスを提供する外資系証券会社であり,被告は,平成18年3月31日,営業譲渡により脱退被告の営業及び権利義務の一切を承継した。これに伴い,被告は,本件訴訟を 関連情報の提供サービスなど幅広い金融サービスを提供する外資系証券会社であり,被告は,平成18年3月31日,営業譲渡により脱退被告の営業及び権利義務の一切を承継した。これに伴い,被告は,本件訴訟を承継し,脱退被告は本件訴訟から脱退した(以下,本件においては,脱退被告についても「被告」という。)。 (2) 原告は,平成10年4月,被告にプロフェッショナル社員(エグゼクティブディレクター)として雇用され,東京支店において,同月から平成13年11月までは事業法人部において外国為替関連商品等の販売業務に従事し,同年12月から平成16年4月までは外国為替本部において外国為替関連取引,フラット為替(包括的長期為替予約)を中心とした営業に従事した。 (3) 被告は,平成16年4月26日,上記第2冒頭記載の原告の各行為が信頼関係を著しく損ない,被告の秩序規律を乱し,被告の信用を毀損したとして,原告を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。 なお,原告が提起した上記訴訟は,フラット為替の会計処理に関して日本公認会計士協会(以下「会計士協会」という。)が平成15年2月18日に発表した「包括的長期為替予約のヘッジ会計に関する監査上の留意点」(以下「本件留意点」という。)が原因で自己の取り扱う金融商品の販売が不振となり,顧客との対応に苦慮したことや勤務先で賃金や昇進等における不利益を被ったと主張して損害賠償を求めるというものであった。本件留意点の内容は,長期の包括的為替予約については原則として会計処理上は投機目的と考える必要があるとして,ヘッジ会計の適用を制限する趣旨のものであり,このような会計処理がされると,フラット為替を購入する顧客が減少することが当然に予測されるものであった。 (4) 原告は,譴責処分無効確認請求事件を提起し,本件懲戒解雇の効力を争っ 趣旨のものであり,このような会計処理がされると,フラット為替を購入する顧客が減少することが当然に予測されるものであった。 (4) 原告は,譴責処分無効確認請求事件を提起し,本件懲戒解雇の効力を争っ- 3 -たところ,被告は,同訴訟係属中の平成16年9月6日,原告の上記各行為が普通解雇事由にも該当するとして,予備的に普通解雇する旨の意思表示をした。一審判決は,本件懲戒解雇は無効であるが普通解雇は有効であるとして原告の請求の大部分を棄却した。これに対し,双方が控訴したところ,二審判決は,本件懲戒解雇は有効であるとして原判決の被告敗訴部分を取り消し,原告の請求を全部棄却した。原告は,これに対して上告受理の申立てをしたが,同申立てに対しては上告を受理しない旨の決定がなされ,二審判決が確定した(以下,この訴訟を「前訴」という。)。 (5) 被告は,プロフェッショナル社員については,会社,部署及び個人の業績に基づいて,各自の年次総額報酬を決定し,年初に決めておいた年間基本給を差し引いた残額を裁量業績賞与と称して,所定のプランに基づき割り付けて支給している。そして,裁量業績賞与は,株式インセンティブ報酬制度(EquityIncentiveCompensationPlan。以下「EICP」という。)及び追加退職金制度(SupplementalRetirementPlan。以下「SRP」という。)とに割り当てられることとされている。 (6) SRPは,被告の制定する「追加退職金規定」(以下「SRP規定」という。)に基づき,全社員に適用される退職金制度(勤続年数に応じて支給されるもの)に追加されるもので,主に管理職である従業員の継続雇用の確保と勤労意欲をもたせるための制度であり(SRP規定1条),加入資格者は,被告に所属する正社員のうちアソシ (勤続年数に応じて支給されるもの)に追加されるもので,主に管理職である従業員の継続雇用の確保と勤労意欲をもたせるための制度であり(SRP規定1条),加入資格者は,被告に所属する正社員のうちアソシエイトかそれ以上の管理職で,かつ年度末まで会社に在籍している者をいい(同2条),以下のように段階的に計算された金額を積み立てるものとされている(同3条)。 管理職レベル年度末ボーナス額積立額第1段階0円から1000万円第1段階のボーナス額に0%を倍加した額第2段階1000万0001円以上第2段階のボーナス額に20- 4 -0%を倍加した額(7) 有資格者が退職又は死亡した場合には,積み立てられた金員の合計額が一時金として支給される(SRP規定7条本文)。ただし,①会社の利益又は名声に多大な損害を与える不法・詐欺行為((i)),②会社の利益又は名声に実質的な損害を与えるいかなる行為や怠慢((ii)),③証券取引法及び商品投資法,それに準ずる法律,またそれに関連する取引,会社が所属する証券取引所又は商品取引所又は協会の規則又はこれらに関する会社の規則への多大な違反行為((iii))により退職となった場合には,本制度に積み立てられた金額の一部又は全部は支給されない(同条ただし書。以下,これらを「不支給事由」ということがある。)。 (8) 原告の被告入社後の各年度のSRPの積立額は,平成10年度2429万5307円,平成11年度609万3701円,平成12年度1666万5305円,平成13年度532万1692円,平成14年度1710万6368円,平成15年度2250万0821円(その内訳は別紙2記載のとおりである。)であり,平成10年度分及び平成11年度分は既に支払われているので,未払のSRPの合計額は6159万4186円である。 8円,平成15年度2250万0821円(その内訳は別紙2記載のとおりである。)であり,平成10年度分及び平成11年度分は既に支払われているので,未払のSRPの合計額は6159万4186円である。 (9) 被告の就業規則等の規定のうち,本件に関係するものは,別紙1記載のとおりである。 争点 不支給事由が存在しない場合に原告が支払を求め得る額が6159万4186円であることは上記のとおり争いがなく,主要な争点は,①本件訴訟の提起が訴権の濫用に当るか,②不支給事由の存否(不支給事由として主張された事実の存否,不支給事由の位置付け)である。 争点1(本件訴訟の提起が訴権の濫用に当るか)についての主張(1) 被告の主張ア前訴において,原告が本件懲戒解雇及び普通解雇を無効であると主張し,- 5 -懲戒解雇を有効とする判決が確定したことは上記のとおりであるが,原告も主張するとおり,SRPは,原告が退職又は死亡した場合に支給されるから,SRPの請求と雇用関係の確認請求は,実体法上両立しない関係にある。このような実体法上両立しない関係にある複数の請求は,予備的併合により一つの訴訟として提起することが認められる一方で,「判断の統一」という要請から,弁論を分離することは許されないものとされている。 したがって,実体法上両立しない関係にある二つの請求を別個の訴訟として提起することは許されないというべきであり,本件訴訟の提起は,民事訴訟法2条に定める信義誠実の原則に反する訴訟行為に当たり,訴権の濫用として却下されるべきである。 イすなわち,原告は,前訴において,懲戒解雇が無効である根拠として,「原告が被告に懲戒解雇されずに退職した場合に支払われる金額は合計6999万3280万円を下らない。」とし,「万一,原告において何らかの懲戒事由が認められると いて,懲戒解雇が無効である根拠として,「原告が被告に懲戒解雇されずに退職した場合に支払われる金額は合計6999万3280万円を下らない。」とし,「万一,原告において何らかの懲戒事由が認められるとしても,本件懲戒解雇処分によって受ける原告の不利益は極めて大きいといえるから,本件懲戒解雇処分は極めて不相当であり,無効といえる。」と,本件懲戒解雇が懲戒権の濫用に当ると主張する根拠となる事実のうちの最も重要な事実として退職金不支給という事実を主張していた。これに対し,一審判決は,「原告の規律違反の程度は重大というべきである」としながら,「懲戒処分として,退職金が支給されない懲戒解雇を選択することは,処分として重きに失するというべきであり,本件懲戒解雇は,懲戒権を濫用したものとして無効とするのが相当である。」と判断し,退職金不支給という事実を懲戒権の濫用を根拠付ける唯一の事実として摘示した。これに対し,二審判決は,原告の非違行為の重大性を指摘した上で,「それが退職金の不支給という効果をもたらすものであることを考慮に入れても,原告の非違行為に対する懲戒処分として懲戒解雇を選択することは相当であるというべきであり,これをもって- 6 -懲戒権の濫用ということはできない。」と判断した。この高裁判決に対する上告受理の申立理由書において,原告は,「被告は原告を懲戒処分扱いとしたから,原告に対して退職手当を一切支給しようとしていない。万一,原告において何らかの懲戒事由が認められるとしても,本件懲戒解雇処分によって受ける原告の不利益は極めて大きいといえるから,本件懲戒解雇処分は極めて不相当であり,無効といえる。なお,懲戒解雇処分を認めることにより,被告は退職手当相当額の利益を得ることも留意されるべきである。」と主張したが,この申立ては却下された。 こ 本件懲戒解雇処分は極めて不相当であり,無効といえる。なお,懲戒解雇処分を認めることにより,被告は退職手当相当額の利益を得ることも留意されるべきである。」と主張したが,この申立ては却下された。 このように,前訴では,「懲戒解雇が認められれば退職金が支給されないこと」を前提に,「退職金が支給されないとして,懲戒解雇が相当か否か」が争われていたのである。前訴において,「退職金請求権を失うような懲戒処分は重すぎるから懲戒解雇は無効である」と主張しておきながら,懲戒解雇の有効性が確定するや,今度は,「懲戒解雇が有効であったとしても,退職金を請求する権利がある」などと主張することは,民事訴訟法2条が定める訴訟上の信義則に反する訴訟行為である。 仮に,被告が,前訴において,原告の主張に対し,「懲戒解雇であっても,退職金は,(少なくとも)一部は支払われる(あるいは支払われる可能性はある。)。」と主張しておいて,本件訴訟において,「懲戒解雇の場合は,当然に退職金は全て失われる」と主張したとすればどうであろうか。これが信義則に反する主張であることは,原告も争わないであろう(被告は,前訴においてこのように主張することもできたのである。特に,「退職金の不支給」を理由に懲戒解雇を無効とした一審判決に対しては,その点を主張して取消しを求めることもできた。しかし,原告に一切の退職金を支給する考えがなかった被告は,あえてそのような主張をすることなく,退職金が不支給となるとしても,原告の行為の重大性からして懲戒解雇は有効であると主張し,これが控訴審で認められたのである。同様の- 7 -考えから,被告は,最高裁への上告受理申立書における原告の前記主張にもあえて反論しなかったのである。)。それならば,原告が前訴で「懲戒解雇が有効ならば,退職金は全額支払われないこと」 の- 7 -考えから,被告は,最高裁への上告受理申立書における原告の前記主張にもあえて反論しなかったのである。)。それならば,原告が前訴で「懲戒解雇が有効ならば,退職金は全額支払われないこと」として懲戒解雇の無効を主張した以上は,前訴で敗訴したからといって,退職金を請求することが許されないのは当然のことである。 ウまた,原告の本訴請求が信義則に反する訴訟行為ではないとしても,原告が前訴において「懲戒解雇が有効であれば退職金請求権は失われる」と主張してきたこと及び協会訴訟の提起や同訴訟における訴訟行為により被告の社会的信用が大きく毀損されたことを考えると,SRPの請求は,実体法的にみても権利の濫用として許されず,本訴請求は棄却されるべきである。 (2) 原告の主張前訴における訴訟物は労働契約上の地位確認請求権であり,原告と被告は実質上懲戒解雇の有効性をめぐって争った。懲戒解雇の有効性の判断にあたり必要不可欠な理由は,懲戒解雇事由の存否及び程度,すなわち原告の行動における被告主張のような被告の就業規則,行為規範違反等の諸規則に違反する非違行為の存否及び程度であって,被告の主張する退職金の不支給という効果を生じさせる懲戒解雇が相当か否かは労働契約上の地位確認請求訴訟における事情の一つにすぎないというべきである。だからこそ,前訴における裁判所の第一審及び第二審判決も,懲戒解雇事由の存否及び程度に関する事実認定及び判断を詳細に行っており,退職金の不支給による不利益について付随的な判断をしているにすぎない。 したがって,前訴において懲戒解雇の有効性が確定したとしても,懲戒解雇に当たる事由のある場合に退職金を不支給とする条項があれば,そのことから直ちにかつ当然に懲戒解雇イコール退職金の全部不支給という効果を生じさせるものでないことは明らか 性が確定したとしても,懲戒解雇に当たる事由のある場合に退職金を不支給とする条項があれば,そのことから直ちにかつ当然に懲戒解雇イコール退職金の全部不支給という効果を生じさせるものでないことは明らかである。多くの下級審裁判例が判示するご- 8 -とく,「退職金の全額を失わせるような懲戒解雇事由とは,労働者の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまうほどの著しい不信行為があった場合でなければならない」と解されていることに照らせば,懲戒解雇が有効であるとしても,それとは別個に,原告に上記のような著しい不信行為があったか否かが本件訴訟の実質的争点となる。この点に関し,前訴では原告被告双方ともに充実した主張立証を尽くしていない以上,原告が懲戒解雇の不当性を訴える趣旨でした前訴における原告の主張の一節をもって,原告が被告に対する退職金支払請求訴訟ないしその権利の存在を前提とする主張を別訴で行うことができないとする理由はない。その意味で,前訴と本件訴訟とは,その要件,争点を異にする別個独立の請求である。 また,原告の前訴における主張の一節をもって,原告が被告に対する退職金支払請求権を放棄しているとまではいえないことは明らかである。仮に,被告の主張が正しいとすれば,労働者が使用者から懲戒解雇処分を受けた場合には,一部でも退職金請求権があると労働者が考えた場合には,常に退職金支払請求を予備的に行わなければならないこととなるが,懲戒解雇の有効性を主要な実質的争点として攻撃防御を展開している中で,懲戒解雇が有効であることを前提とした退職金(の一部)請求を行うことを法律上強制することとなり,極めて不当であることはいうまでもない。 以上より,原告が本件訴訟において退職金支払請求をすることは何ら信義則に反するところはなく,訴えの却下を求める答弁は失当である。 とを法律上強制することとなり,極めて不当であることはいうまでもない。 以上より,原告が本件訴訟において退職金支払請求をすることは何ら信義則に反するところはなく,訴えの却下を求める答弁は失当である。 また,原告の主張が権利濫用であり,本件請求を棄却すべきであるとの主張は争う。 争点2(不支給事由の存否(不支給事由として主張された事実の存否,SRP規定7条ただし書の効力及び適用))についての主張(1) 被告の主張ア原告は,会計士協会が発表した本件留意点について,被告の承認,報告- 9 -など所定の手続を経ず,あるいは被告の指示に反して本件留意点を批判する原稿を雑誌に投稿したり,この記事を関係者に配布したり,また,会計士協会に対して損害賠償を求める訴訟を提起した上(以下,この訴訟を「協会訴訟」という。),この訴訟の取下げを命ずる被告の指示に従うことを拒否した。原告のこれら一連の行為は,SRP規定7条ただし書の「会社の利益又は名声に実質的な損害を与える行為」に該当し,原告はこれらの行為を理由に懲戒解雇された。その詳細は,別紙3の「被告の主張」欄記載のとおりである。 これらの事態を踏まえ,被告は,原告を譴責処分に処することに決め,平成16年4月7日,P1本部長,P2室長及びP3弁護士から原告に処分を通知した(乙137)。その際,原告に対し,協会訴訟を直ちに取り下げるよう命じた。ところが,原告は,同月8日付けで,協会訴訟が行為規範のどの条項に違反するのかを質問する文書(乙138)を被告に送付し,上記命令に従わない姿勢を示した。そして,同月14日に開かれた本件留意点に関する社内のワーキンググループの会議において,参加者から協会訴訟の取下げを求める要請がなされたが,原告はこれに応じなかった。 そして,同月16日,P3弁護士は,被告代理人のP に開かれた本件留意点に関する社内のワーキンググループの会議において,参加者から協会訴訟の取下げを求める要請がなされたが,原告はこれに応じなかった。 そして,同月16日,P3弁護士は,被告代理人のP4弁護士とともに,原告及び原告代理人であるP5弁護士と面談し,原告に対し,協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれに応じようとしなかった。さらに,同月19日,P6法務部長,P7統括本部長は,原告と面談し,改めて原告に対し,協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれを拒否した。同月21日午前,P6法務部長,P3弁護士,P2室長が原告に協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれを拒否した。 そこで,被告は,同日午後,文書(乙139の2)により,同月23日までに協会訴訟の取下げに合意するよう命じたが,原告はこれに従わなかった。 - 10 -同月26日,被告は,原告に対し,懲戒解雇通知書(乙140の1,2)を交付して原告を懲戒解雇した。 したがって,原告には,SRP規定7条ただし書に定める不支給事由が存在し,SRPに積み立てられた金額は,原告の行為の重大性にかんがみ,同条に基づき全額支給されない。なお,全社員に適用される退職金(前記第2の1(6)参照)については,就業規則35条,34条(f)により,懲戒解雇の場合には請求権がないものとされ,原告にも支給されていないのであり,これとは別に,主に管理職である従業員の継続雇用の確保と勤続意欲を持たせるための制度として位置付けられ,支給対象もアソシエイトかそれ以上の管理職に限定されているSRPについて,これを支払う根拠などないことは明らかである。 イ原告の主張について原告は,SRP規定7条ただし書が無効である,仮に無効でないとしてもその適用は限定的にされるべきであると主張するが,以下に述べるとおり,同主張はいず ないことは明らかである。 イ原告の主張について原告は,SRP規定7条ただし書が無効である,仮に無効でないとしてもその適用は限定的にされるべきであると主張するが,以下に述べるとおり,同主張はいずれも理由がない。 (ア) 主位的主張(SRPの法的性質は年金であるとの主張)について原告は,SRPの法的性質は年金であるとして,SRP規定7条ただし書は公序良俗に反するなどと主張する。 しかし,「年金」という用語は,一般に,「年を標準として定期的に一定額をもって給付される金銭をいう。」とされており,SRPが「年金」でないことは明らかである。法令上,「年金」が「年を標準として一定額をもって給付される金銭」として観念されていることは,例えば,いずれの年金制度においても,「老齢給付金は,年金として支給する。」(確定給付企業年金法38条1項,確定拠出年金法35条1項)という用語が使用されていることからして明らかなところである。まして,確定拠出年金法による「年金」の場合は,原則として60歳までは- 11 -受給できないのである。 さらに,その「年金」についても,法は,退職事由により年金の支給を制限すること自体には何らの制限を設けていない。すなわち,確定拠出年金法は,厚生労働大臣が年金規約を承認する基準として,3年以上勤続した従業員に対する支給制限がないことを挙げているだけで(4条1項7号),支給制限することを禁止しているわけではない。つまり,使用者が,いわゆる「自社年金」として運営することとし,「承認」による税制上の優遇措置を求めなければ,支給制限を規定すること自体は自由なのである。この点においては,退職金規定に支給制限規定を設けるか否かが使用者の自由であるのと同じである。また,勤続3年未満であれば,支給制限規定を含む場合であっても承認される。さら こと自体は自由なのである。この点においては,退職金規定に支給制限規定を設けるか否かが使用者の自由であるのと同じである。また,勤続3年未満であれば,支給制限規定を含む場合であっても承認される。さらに,確定拠出年金と同様の役割を果たすとされる中小企業退職金共済制度でも,一定の場合に退職金の支給制限が認められるのであって,支給制限が年金制度の趣旨に反するなどとは到底いえないのである。 (イ) 予備的主張1(SRPの法的性質は賃金であるとの主張)及び同2(SRPの法的性質は賃金の後払いであるとの主張)について原告は,SRPは労基法11条の賃金に当たるとして,SRP規定7条ただし書は労基法24条1項の「賃金の全額払い原則」に違反すると主張する。しかし,SRPは,労基法上の「賃金」ではないから,「全額払い原則」は妥当しない。また,そもそもSRP規定7条ただし書に該当する場合には,SRPの請求権が発生しないのであるから,「全額払い原則」が問題になる余地はない。 また,原告は,SRP規定7条ただし書が,労基法91条と就業規則41条(b)に反するとも主張するが,SRP規定7条ただし書に該当する場合には,SRPの請求権そのものが発生しないのであるから,「減給」が問題になる余地はない。 - 12 -SRPが賃金に当たらないことは以下に述べるとおりである。SRP規定1条によると,「本制度は主に管理職である従業員の継続雇用の確保と勤続意欲をもたせるための制度として作成されたものである。」と規定され,3条に規定されている方式により,「年度末ボーナス額」に応じて,所定の計算方法により一定の額の追加退職金を積み立てることとされている。この年度末ボーナスは,就業規則32条にいう「裁量業績賞与」を指す。すなわち,就業規則31条によると,原告のような「プロフェッシ 定の計算方法により一定の額の追加退職金を積み立てることとされている。この年度末ボーナスは,就業規則32条にいう「裁量業績賞与」を指す。すなわち,就業規則31条によると,原告のような「プロフェッショナル社員」に対しては,「年間基本給」(「基本給」と「ハウジングアラウワンス」)が支払われるほか,同32条により,「会社は裁量業績賞与を支払うことがある。」と定められている。同条は,さらに,「裁量業績賞与は,通常,会社の裁量業績賞与の対象となる会計年度末に当たる月の翌月に社員に通知され,その通知のさらに翌月に支払われる。」と規定している。 他方,SRP規定により,SRPは,「通知のさらに翌月に支払われ」ないどころか,退職時まで支払われないのであるから,SRPは,就業規則32条にいう「裁量業績賞与」ではない。就業規則とSRP規定を前提とすれば,就業規則32条にいう「裁量業績賞与」は,毎年原告に現金で支払われていたボーナスを指すと解すべきである。原告は,SRPは裁量業績賞与から積み立てられると主張しているが,これは上記の趣旨からして正しくない。 また,原告は,SRPの本質は給与の後払いであると主張する。しかし,裁量業績賞与とSRPとは,本来の「給与」とはその性質を全く異にする。すなわち,原告のいう「給与」とは,労基法11条にいう「賃金」を意味すると思われるが,同条の定義によると,「賃金」とは「労働の対償」であり,「任意的恩恵的給付」や「福利厚生給付」などは「賃金」ではないとされている。「任意的恩恵的給付」に該当するもの- 13 -は,結婚祝い金,病気見舞金などがその典型とされているが,これらの給付であっても,労働協約や就業規則等によってあらかじめ支給条件が明確にされており,それに従って使用者が支払義務を負うものは,労働の対償と認められ,賃金 見舞金などがその典型とされているが,これらの給付であっても,労働協約や就業規則等によってあらかじめ支給条件が明確にされており,それに従って使用者が支払義務を負うものは,労働の対償と認められ,賃金とされる(昭和22年9月13日発基17号)。 逆に,「退職金」とか「賞与」であっても,それを支給するか否か,いかなる基準で支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている限りは,任意的恩恵的給付であって賃金ではないとされている。原告に支払われていた「基本給」が「賃金」に当たることは明らかであるが,「裁量業績賞与」についてみると,上記のとおり就業規則32条では,「会社は社員に裁量業績賞与を支払うことがある。」として,支給の有無や額が会社の完全な裁量に委ねられていることを明らかにした上,「裁量業績賞与はいかなる社員に対しても保証されているものではない。」と明記している。そして,「裁量業績賞与」の支給の有無,支給の額については,就業規則その他の規則には全く規定がなく,もっぱら会社の裁量に委ねられている。実際の裁量業績賞与の決定に際しても,支給の基準は特に定められておらず,完全に会社の自由裁量によってその額が決定されている。原告自身の裁量業績賞与も大きく変動しているし,裁量業績賞与が全く支払われない社員も存在する。したがって,裁量業績賞与は,労基法にいう「賃金」ではない。 また,SRP規定3条によると,SRPは,「年度末ボーナス額」,つまり「裁量業績賞与」を基準に積み立てられることとされている。このように,「裁量業績賞与」の支給の有無と支給額が会社の完全な裁量に委ねられている以上,これを基準として算出されるSRPの支給の有無と支給額が会社の完全な裁量に委ねられていることになるのは当然であって,SRPが労基法上の「賃金」に当たらないことは明らかである 量に委ねられている以上,これを基準として算出されるSRPの支給の有無と支給額が会社の完全な裁量に委ねられていることになるのは当然であって,SRPが労基法上の「賃金」に当たらないことは明らかである。 なお,原告は,SRPは年次総額報酬の一部を構成する賃金であり,- 14 -追加退職金とされたのは,高額の税金を回避するというもっぱら被告側の経済的理由に基づくものであると主張するが,税金として支払う場合とボーナスとして支払う場合とで被告の負担が異なるわけではないから,高額の税金を回避するというのが被告の経済的理由でないことは明らかである。 (2) 原告の主張ア被告の主張する非違行為についての認否及び主張は別紙3の「原告の主張」欄記載のとおりであるが,そもそも,(3)において述べるとおり,SRP規定7条ただし書は無効であり,これに基づきSRPの支払を拒むことは許されない。また,仮に,同ただし書が無効でないとしても,その適用は限定的にされるべきであり,これらの行為は,SRPの全額不支給という重大な効果をもたらしてもよいといえる程度に被告の利益又は名声を害したとはいえない。 イSRP規定7条ただし書の解釈におけるSRPの性質論についてSRP規定7条ただし書が無効であること,また,仮に無効でないとしても,その適用が限定的にされるべきことの理由は以下のとおりである。 (ア) 主位的主張まず,原告は,SRPの法的性質は年金であると主張する。不支給事由により年金の累積額の全部又は一部を加入者に対し償還(返還)しない権利を留保するとするSRP規定7条ただし書は,年金制度の趣旨に反し,公序良俗に反して無効であることから,年金の累積額の全部の返還を求めるものである。 SRP規定1条にいう「DefinedContributionRetirement し書は,年金制度の趣旨に反し,公序良俗に反して無効であることから,年金の累積額の全部の返還を求めるものである。 SRP規定1条にいう「DefinedContributionRetirementPlan」の「RetirementPlan」とは,確定拠出型年金の「年金」を意味する。 したがって,「SupplementalRetirementPlan」の「RetirementPlan」も同一の条文中の同一の用語である以上,同一の意味に解するのが自- 15 -然である。被告の米国本社における米国連邦証券取引法に基づく正式な有価証券報告書(10-K)の被告の米国本社の連結財務諸表において,SRPは「年金」(Pension)として処理されている。したがって,SRP規定に対する被告の認識としても「年金」である。 SRP規定5条によれば,追加拠出額の累積額は,拠出される通貨の発行国の10年物国債の指標銘柄の年利率を乗じた金額とされ,金利が付与されている。この点,いわゆる日本の退職金の場合,毎年個別の引き当てがなされても,それに対して毎年支払ったということは観念できず,退職金規定に従って計算される額に期間対応した金額を帳簿上で費用処理するだけであるから,既処理分について金利を付するということは観念できない。他方,拠出済みの「年金」であれば,金利を付与することを観念できる。また,「年金」の場合,運用の指定がないときは,一番安全な資産とされる国債等で運用することが要求されている。この点,被告は,拠出額の累計額に金利を付しており,その上,被告から付与される金利は,被告の信用度に見合った金利ではなく,最も安全な資産である日本国債又は米国財務省発行の国債の金利である点で,毎年のボーナスの一部が拠出された確定拠出型「年金」であることを表している。 される金利は,被告の信用度に見合った金利ではなく,最も安全な資産である日本国債又は米国財務省発行の国債の金利である点で,毎年のボーナスの一部が拠出された確定拠出型「年金」であることを表している。 被告は,被告の退職金規定に従って引当金を毎年計上しているはずであるが,原告を含む従業員には引当金額を示さないのが通常であり,また,退職引当金を年俸に含めるものでもない。 しかし,SRPは,その積立額が毎年原告に示され,かつ年俸に含まれて計算されている。このことからすれば,SRPは,いわゆる日本の退職金とは異なる性質があり,被告も日本の退職金とは異なる取扱いをしている。つまり,SRPは,被告から原告に毎年支払われた年俸の一部が拠出された拠出金の集合体(年金)であると解することが自然であ- 16 -り,少なくとも退職金とはいえない。 原告の被告入社以前の勤務先も含め,被告と同業の他社において,SRPをいわゆる日本の退職金という取扱いをしている企業はない。同業他社においては,SRPの実体は単なる年俸の一部又はボーナスの繰延支払であり,税制上の不透明さから,制度自体が廃止される傾向にある。 仮に,SRPが日本の退職金であるとすると,毎年個別の引当てがされても,それに対して毎年「支払った」ということが観念できない。しかし,被告は,別件訴訟(残業代訴訟)において,「支払われている」「支払済み」との表現を用い,支払った旨主張している。このことは,SRPの法的性質がいわゆる日本の退職金ではないことを示している。 他方,確定拠出型「年金」の場合は,定期的に「拠出」(contribution)がされていることが必要である。被告から金銭が「支払われている」以上,同金銭を年金勘定に拠出していたということができるのであって,この点でも上記別件訴訟における被告の主張と ontribution)がされていることが必要である。被告から金銭が「支払われている」以上,同金銭を年金勘定に拠出していたということができるのであって,この点でも上記別件訴訟における被告の主張とも合致する。 以上のことから,SRP規定7条ただし書は,年金勘定の受託者あるいは受寄者にすぎない被告が一方的に支払を拒絶できる内容であることから,年金制度の趣旨に反し,公序良俗に反して無効である。 仮に,SRP規定7条ただし書が無効でないとしても,SRPの法的性質が「年金」と解される以上,SRPにおける原告と被告の関係は,単なる委託者と受託者あるいは受寄者の関係であるから,被告は,SRP規定7条を理由にSRPの払戻を拒むことができない。 仮に,以上が認められないとしても,SRPの法的性質が「年金」であり,いわゆる日本の退職金とは異なるものである以上,SRP規定7条ただし書の解釈適用に当たっては,被告の広範な裁量は認められず,その裁量は大幅に適用が制限されるものである。 (イ) 予備的主張1- 17 -仮に,SRPの法的性質が年金でないとした場合には,原告は,SRPは労働基準法11条の「賃金」に当ると主張する。 原告は,被告在職中,重要な職責を果たし,高い営業成績を上げ,被告の為替本部における代替不可能な存在として,被告に多大な貢献を果たしていた。そのように,原告は高額の年次報酬を受け取るに値する仕事を行い,職責を果たしてきたものであったことから,SRPは原告の「労働の対償」に当たると考えるべきである。 SRP規定7条本文及び8条によれば,加入者が退職した場合には,拠出額の累積額を退職日から60日以内に支払うべきこととされている。 したがって,SRPが賃金と考えられるものである以上,被告は,原告に対し,本訴請求金額を,通貨で,全額,即時に直接支払 た場合には,拠出額の累積額を退職日から60日以内に支払うべきこととされている。 したがって,SRPが賃金と考えられるものである以上,被告は,原告に対し,本訴請求金額を,通貨で,全額,即時に直接支払うべきである。 一定の事由が存在する場合に,拠出額の累積額の全部又は一部を加入者に償還しない権利を留保するとするSRP規定7条ただし書の規定は,賃金の全額払の原則(労基法24条1項)に反し無効である。 仮に,労基法24条1項に違反しないとしても,同ただし書は,賃金に関する制裁を定めたものであるから,「就業規則で,労働者に対して減給の制裁を定める場合においては,その減給は,一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え,総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」とする労基法91条の規定,それと同様の被告の就業規則41条(懲戒)の「(b)1回の額が前月基本給の1日分の半額を超え,減給の総額が前月基本給の総額の10分の1を超えない範囲の減給」で定める基準に達しない労働条件を定めるものとして,上記の被告の就業規則の定める基準を超える部分について無効である(労基法93条第1文)。その場合,「無効となった部分は,就業規則で定める基準による。」(同条第2文)とされる。 したがって,SRP規定7条ただし書のうち,被告が拠出額の累積額- 18 -の「全部」を加入者に償還しない権利を留保するとの規定は,被告の就業規則41条,労基法91条に抵触し,同法93条に反するものとして無効である。また,SRP規定7条ただし書のうち,被告が拠出額の累積額の一部を加入者に償還しない権利を留保するとの規定,被告の就業規則41条の(b),労基法91条の定める基準を超える部分について無効である。 (ウ) 予備的主張2SRPの法的性質が,年金,賃金のいずれでもない 入者に償還しない権利を留保するとの規定,被告の就業規則41条の(b),労基法91条の定める基準を超える部分について無効である。 (ウ) 予備的主張2SRPの法的性質が,年金,賃金のいずれでもないとしても,その法的性質は,賃金の後払いである。SRPは,本来であれば現金で支給されてしかるべき裁量業績賞与から積み立てられ,退職又は死亡したときに,積み立てられたSRPは,一時金として当該プロフェッショナル社員(又はその遺族)に支給されることとされている。このように,SRPの本質は給与の後払いにほかならない。 したがって,SRP規定7条ただし書を適用できるのは,同条記載の有資格者が会社の利益又は名声に多大な損害を与える不法・詐欺行為((i)),有資格者が会社の利益又は名声に実質的な損害を与えるいかなる行為や怠慢((ii))に当たることに加えて,労働者のそれまでの勤続の功労を抹消してしまうほどの背信行為があった場合に限られると解すべきである。 ウ上記アで述べたように,原告の行為は,いずれもSRP規定7条ただし書の不支給事由に該当しない。仮に,原告の行為が,「会社の利益又は名声に実質的な損害を与える」「行為や怠慢」に当たるとしても,前述したSRPの賃金の後払い的性質に照らし要求される,労働者のそれまでの勤続の功労を抹消してしまうほどの背信行為があった場合に該当するとはいえない。 また,被告は,平成14年2月,作為的相場形成を行ったことにより営- 19 -業停止処分を受けた。同処分は,金融機関にとっては単に信用を毀損するにとどまらず,証券引受けからも外されるケースが多いため,実際に経済的な損失を生ずることとなる。そのように極めて深刻な事態を招く行動をとった当時の担当者に対し,被告は普通解雇を行ったにすぎず,SRPも全額支給している。他方,本 外されるケースが多いため,実際に経済的な損失を生ずることとなる。そのように極めて深刻な事態を招く行動をとった当時の担当者に対し,被告は普通解雇を行ったにすぎず,SRPも全額支給している。他方,本件において,原告は現実的な経済的損失を生じさせていないにもかかわらず,被告は原告を懲戒解雇処分に付し,その上,SRPも全額支給しないことともなれば,上記担当者に対する対応と著しく均衡を欠くことは明らかである。そのような観点からも原告に対するSRPの支給は全額認められるべきである。 第3当裁判所の判断 争点1(本件訴訟の提起が訴権の濫用に当るか)について被告は,本件訴訟は前訴の蒸し返しであり,信義則に反するから却下されるべきであると主張する。確かに,前訴において,原告は懲戒解雇が無効である理由として退職金も支給されないというのでは酷に過ぎるとの主張をしていたことからすれば,懲戒解雇が有効であることが確定した後に,懲戒解雇が有効であったとしてもSRPについて請求権があると主張することは矛盾する行為であることは否定できない。そして,現に前訴の一審裁判所も退職金が支給されないのでは酷であるとして懲戒解雇は無効であると判断したのであるから,前訴の一審裁判所を欺いて判決を得たとの被告の主張にも一面の真理がないではない。しかし,一審判決は確定せず,控訴審判決は懲戒解雇が有効であるとし,同判決が確定したのであるから,欺いて得たとされる判決は結果的に一時的なものにとどまったことになる。また,懲戒解雇が有効であることが確定した場合にはいかなる場合にも退職金請求権が存在しないとの法理が確定していれば,本件での原告の請求は前訴の完全な蒸し返しといい得る。しかし,退職金は賃金の後払い的性質を有するとして,たとえ懲戒解雇の場合に退職金を支給しないとの条項が存在し 存在しないとの法理が確定していれば,本件での原告の請求は前訴の完全な蒸し返しといい得る。しかし,退職金は賃金の後払い的性質を有するとして,たとえ懲戒解雇の場合に退職金を支給しないとの条項が存在したとしても,それが適用されるのは永年の勤続の功- 20 -労を抹消しうるに足りる事情が存在する場合に限られるとして,一定割合による退職金の支給を命ずる裁判例も存在するのであり(東京高裁平成15年12月11日判決(平成14年(ネ)第6224号退職金請求控訴事件,判時1853号145頁)),この立場によれば,原告のように懲戒解雇が有効であることが確定した後に改めて退職金請求訴訟を提起することも何ら差し支えないことになる。本件は一般的な退職金ではなく被告固有の制度に基づく追加退職金の事案であること,原告が上記裁判例を意識して本件訴訟を提起したか否かは不明であること等の問題はあるが,これらの点を考慮したとしても,本件訴訟を却下することには躊躇を覚えざるを得ない。 また,被告は,本件訴えを却下すべきではないとしても,本件請求を信義則に反するものとして棄却すべきであると主張する。しかし,既に説示したとおり本件訴えを不適法とすることができないとした理由は,本件請求を信義則に反するものとして棄却することができないことの理由にも通ずるものであるから,信義則に反するとの理由だけから本件請求を棄却することも控えることとする。被告は,原告が前訴においてはSRP規定の不支給条項が有効であることを前提とした主張をしたにもかかわらず,本件訴訟においてSRP規定の不支給条項が無効であると主張することは信義則に反すると主張するが,同主張についても同様の理由で信義則に反するとまではいえないと判断する。 争点2(不支給事由の存否(不支給事由として主張された事実の存否,SRP であると主張することは信義則に反すると主張するが,同主張についても同様の理由で信義則に反するとまではいえないと判断する。 争点2(不支給事由の存否(不支給事由として主張された事実の存否,SRP規定7条ただし書の効力及び適用))について(1) SRP規定7条ただし書の効力及び適用について原告は,SRP規定7条ただし書が無効であるとか,SRP規定7条ただし書の適用は限定的にされるべきであると主張するので,原告の主張に沿って,SRPの法的性質について一応検討する。 アSRPが年金であるとの主張についてSRPは,これを規定するSRP規定の名称自体が「追加退職金規定」と- 21 -されていることから,退職金と解するのが最も自然である。そして,SRP規定1条には,制度の趣旨として,就業規則に定められる退職金制度に「追加」されるものであることも明記されている。そして,同3条において積立方法が明記され,同7条により退職時には「積み立てられた退職金の合計額が一時金として支給される」と定められているのである。SRPが追加退職金であって年金ではないことは,これらの規定自体から明らかである。 原告は,英文のSRP規定1条の「DefinedContributionRetiremenPlan」の「RetiremenPlan」は確定拠出年金の「年金」を意味することから,「SupplementalRetirementPlan」の「RetiremenPlan」も「年金」と訳すべきだと主張する。しかし,英文のSRP規定1条の「DefinedContributionRetiremenPlan」は日本語のSRP規定では「退職金制度」と訳されていることは上記のとおりである。そして,労働基準監督署に届け出られているのは日本語のSRP規定であり(この点は tionRetiremenPlan」は日本語のSRP規定では「退職金制度」と訳されていることは上記のとおりである。そして,労働基準監督署に届け出られているのは日本語のSRP規定であり(この点は原告も争わない。),法的に被告と原告とを拘束するのは日本語のSRP規定であるから,原告の上記主張はSRPを年金と解することの根拠とはならない。 また,原告は,SRPとして積み立てられた累積額について金利が付与される点,SRPが年俸に含まれている点等の事実を挙げ,日本のいわゆる退職金とは異なるものであることから,SRPが年金であると主張する。しかし,日本のいわゆる退職金と異なる点があったとしても,SRPは,退職金規定に基づき支給される通常の退職金に追加して支給されるものであり,その内容が日本のいわゆる退職金と異なる点があったとしても何ら異とするに足りない。それに,日本のいわゆる退職金と異なる点があるからそれが年金であるとするのは論理に飛躍があるといわざるを得ない。したがって,原告の挙げるこれらの諸点は,SRPが年金であることの根拠とはならない。 そうすると,SRP規定7条ただし書が公序良俗に反して無効であるとの原告の主張は,その前提において失当であるといわざるを得ず,採用するこ- 22 -とができない。 さらに,原告は,原告が被告に対して提起した別件訴訟において,被告がSRPについて支払済みであると主張したとして,このことがSRPの法的性質がいわゆる日本の退職金ではないことを示すものであると主張する。しかし,証拠(甲22ないし24)によれば,原告が被告に対して時間外勤務手当の支払を求めた訴訟を提起したこと,同訴訟については原告が敗訴したこと,同訴訟において,被告は,時間外勤務手当はこれまで支払った賃金の中で支払済みであるとの主張をしたことは認 に対して時間外勤務手当の支払を求めた訴訟を提起したこと,同訴訟については原告が敗訴したこと,同訴訟において,被告は,時間外勤務手当はこれまで支払った賃金の中で支払済みであるとの主張をしたことは認められるものの,SRPについて支払済みであると主張した事実は認められないのであって,同主張はその前提において失当である。 イSRPが賃金であるとの主張について証拠(後掲のほか,乙151及び証人P8の証言)によれば,①被告においては,年間基本給及び裁量業績賞与にハウジングサブシディ及びEICPを加えたものを年次総額報酬としていること,②このことは,原告の入社に際して原告に送付された被告からの書簡(甲6の1,2)にもその旨の説明があったこと,③年間基本給は,毎年年度の初めである12月に,人事部門が各部門の本部長に提示し,本部長がこれを承認することにより決定し,これを12等分した額が毎月支払われること,④就業規則上の裁量業績賞与(cashbonus又は年度末ボーナス)は,32条で「支払うことがある」とされ,「如何なる社員に対しても保証されているものではない。」とされており,会社のその年の業績,部署の業績及び各人の業績を考慮して各部門の長が決定するものとされること,⑤SRPは,裁量業績賞与から1000万を引いた額を2倍した額を毎年積み立てる(SRP規定3条)ものとされ,支給されるのは,一定の一部の優秀な社員に限られること,⑥平成11年に被告は香港法人からケイマン法人に再設立されたが,その際社員はいったん退社した扱いとされたので,平成10年及び平- 23 -成11年のSRPが支給されたこと,⑦同支給は,原告に対しても同様に行なわれ(支給額は日本円で約3000万円),その際,退職金としての課税がされたこと,⑧被告においては,退職時の給付として, 3 -成11年のSRPが支給されたこと,⑦同支給は,原告に対しても同様に行なわれ(支給額は日本円で約3000万円),その際,退職金としての課税がされたこと,⑧被告においては,退職時の給付として,確定拠出型年金,キャッシュバランス型,SRPがあり,前二者が就業規則上の退職手当とされていることが認められる。 以上によれば,被告においてはSRPは,年次総額報酬とは別に積み立てられるもののようにも見えるが,他方,被告において,プロフェッショナル社員に対し,会社,部署及び個人の業績に基づいて,各自の年次総額報酬を決定し,年初に決めておいた年間基本給を差し引いた残額を裁量業績賞与と称して,所定のプランに基づき割り付けて支給していること,裁量業績賞与は,EICP及びSRPとに割り当てられることとされていることは当事者間に争いがなく(第2の1(5)),証拠(甲2の1,2)によれば,原告に対しても,入社時に約束された年次総額報酬600万米ドルの中にSRPが含まれていたことが認められる。 そうすると,被告における扱いは,原告の主張するように裁量業績賞与の中からSRPが積み立てられるもののようにも見えるが,総額が年次総額報酬の中に収まるように裁量業績賞与とSRPとを按分したのだとすれば,裁量業績賞与の中にはSRPは含まれないとの被告の主張とも矛盾するものではないといえ,裁量業績賞与とSRPの関係は今一つ明確ではない。しかし,いずれにせよ,年次総額報酬のうち,裁量業績賞与は,使用者の裁量によって支給されるものであることが明らかであり,この部分については,任意的恩恵的給付と解されるから,労働の対償としての「賃金」(労基法上の「賃金」)に当らないと認めるのが相当である。そして,年次総額報酬の中に任意的恩恵的給付が含まれる以上,重要なのは,SRPが裁量業績賞 恵的給付と解されるから,労働の対償としての「賃金」(労基法上の「賃金」)に当らないと認めるのが相当である。そして,年次総額報酬の中に任意的恩恵的給付が含まれる以上,重要なのは,SRPが裁量業績賞与の中に含まれるか否かではなく,SRPが任意的恩恵的給付か否かである。SRPの積立額が裁量業績賞与の額を基準として定めら- 24 -れること(SRP規定3条)に照らすと,SRPもまた任意的恩恵的給付であることが明らかであり,「賃金」には当らないことが明白である(なお,原告の主張のうち,SRPが賃金の後払い的性質を有するとの主張(予備的主張2)はSRPが賃金であるとの主張(予備的主張1)との差異が認められないから,同主張についてもここで述べたことがそのまま妥当する。)。 したがって,SRP規定7条ただし書が無効であるとの主張及び同ただし書が適用されるのは労働者のそれまでの勤続の功労を抹消してしまうほどの背信性があった場合に限られるとの主張は,いずれもその前提において失当である。 以上を前提に,不支給事由の存否について判断する。 (2) 不支給事由として主張された事実の存否についてア非違行為①について証拠(乙25,143)によれば,週刊○○の記事を執筆するに際し,上司であるP1本部長から法務部及び広報部の承認を得ておくよう指示されたにもかかわらずこれらの承認を得なかったことが認められ,就業規則7条,8条に反するとの評価を免れない。 イ非違行為②について上記週刊○○誌を既存の顧客以外の会社を含む150社に送付したことは原告も認めるところであり,原告は送付についてP1本部長の承認を得ていたと主張する。しかし,証拠(乙25,143)によれば,P1本部長が承認したのは,既存の顧客に限るという前提であったことが認められるから,既存の顧客以外に送付 は送付についてP1本部長の承認を得ていたと主張する。しかし,証拠(乙25,143)によれば,P1本部長が承認したのは,既存の顧客に限るという前提であったことが認められるから,既存の顧客以外に送付することについて承認を与えた事実を認めることはできず,上記主張は採用することができない。そうすると,同送付事実は,上司の指示に反するものとして就業規則7条違反の評価を免れない。 - 25 -ウ非違行為③について非違行為③に係る行為については原告も認めるところである。その際添付された書簡(乙9)には,本件留意点について,「「専門家」と称される幾名かの会計士が犯した極めて初歩的な論理上のミスに基づくもの」,会計士協会や主要会計士事務所の監査能力を「お粗末」と表現するなど挑発的な表現が含まれていることが認められ,就業規則7条,8条,行為規範1,2頁に違反するものである。 エ非違行為④,⑤について非違行為④に係る行為については原告も認めるところであり,同⑤についても送付した事実は争わない。同④で会計士協会に送付した書簡(乙131)は,本件留意点を「珍奇」と表現するなど会計士協会を一方的に非難するものであり,5つの監査法人に送付した書簡(乙16の1ないし5)は,本件留意点を盲信して監査業務を行なうことは背信行為であり,国益を害するなどとの表現で監査法人を非難するものであり,その表現はいずれも激越であり,同行為が就業規則7条,8条に違反するとの評価を免れない。 また,証拠(乙25,143)によれば,原告は,⑤について,本件留意点について対外的な行動をとる場合には上司と法務部の承認を得るようP1本部長から指示されていたところ,初歩的な事実認識の誤りに基づく本件留意点を放置することは公認会計士の信用を傷つけるものであるとの表現を含む書簡(乙133 る場合には上司と法務部の承認を得るようP1本部長から指示されていたところ,初歩的な事実認識の誤りに基づく本件留意点を放置することは公認会計士の信用を傷つけるものであるとの表現を含む書簡(乙133)を送付したこと,その際,同本部長の机上に写しを置いたものの,送付することについて格別諾否を求めたものではないことが認められ,送付することについて事前に上司の承認を得たと認めることはできないから,これもまた就業規則7条違反の評価を免れない。 オ非違行為⑥,⑧について非違行為⑥,⑧に係る行為については原告も認めるところであり,上司- 26 -の許可を得ずに弁護士照会の申出をしたとの評価を免れないばかりでなく,弁護士照会の申出書(乙10,134の1ないし3)には,本件留意点の公表によって原告が賃金,昇進などについて不利益な扱いを受け,会計士協会とトーマツが共同して原告の営業活動を阻害し,原告に経済的損失及び精神的苦痛を与えているなどの記載があるところ,本件留意点の公表により原告が賃金や昇進において実際に不利益を受けてはいなかったことが弁論の全趣旨から認められるから,同申出書に虚偽の記載をしたとの評価を免れない。また,原告は,同申出に対する回答があった場合には上司及び法務部に報告するよう求められていたというのであり,弁護士会から回答があったにもかかわらず同報告をしなかったことは上司の指示に反したとの評価を免れない。したがって,非違行為⑥及び⑧も就業規則7条に違反する。 カ非違行為⑦について原告は,非違行為⑦について,P3弁護士及びP2室長と面談したことは認めつつ,その際社外事業届を出すよう指示されたことを否認するが,証拠(乙24,142,144)によれば,同指示がされたことが認められるから,原告の行為は就業規則7条に違反する。 キ非違行 ことは認めつつ,その際社外事業届を出すよう指示されたことを否認するが,証拠(乙24,142,144)によれば,同指示がされたことが認められるから,原告の行為は就業規則7条に違反する。 キ非違行為⑨について非違行為⑨に係る行為については原告も認めるところであり,事前に上司及び法務部に対して報告せずに協会訴訟を提起したのであるから,就業規則7条,8条,行為規範の「民事訴訟または民事上の調停・仲裁の当事者となったときに直属の上司及び法務部に速やかに報告しなければない」(17ないし18頁)との部分に違反する。原告は,訴訟提起しなければ当事者とならないと理解していたので,訴訟提起後直ちに上司及び法務部に報告したのであり,このような対応に不当な点はないと主張するが,「当事者となったとき」との文言は,自ら訴える場合は事前の報告を求め- 27 -る趣旨と解されるから,同主張は採用することができない。 ク非違行為⑩について非違行為⑩に係る行為については原告も認めるところであり,これは被告のコミュニケーションポリシーに違反し,就業規則7条違反となることが明らかである。 ケ非違行為⑪について非違行為⑪に係る行為については原告も認めるところであり,就業規則7条,8条,行為規範(会社を困惑させる行為,不適切に見える行為を避ける義務)に違反するとの評価を免れない。 コ非違行為⑫について非違行為⑫に係る行為については原告も認めるところであり,就業規則7条,8条,行為規範(会社を困惑させる行為,不適切に見える行為を避ける義務)に違反するとの評価を免れない。 サ非違行為⑮について非違行為⑮に係る行為については原告も認めるところであり,行為規範13頁(法律上,税務上の助言の禁止)に違反する。 シ非違行為⑯について非違行為⑯に係る行為については原告も サ非違行為⑮について非違行為⑮に係る行為については原告も認めるところであり,行為規範13頁(法律上,税務上の助言の禁止)に違反する。 シ非違行為⑯について非違行為⑯に係る行為については原告も認めるところであり,行為規範14頁(当社にかわり社外弁護士や法律事務所を選任するには事前に法務部の許可を得なければならない)に違反することが明らかである。 (3) 不支給事由の存否についての判断以上に加え,証拠(乙142ないし144,150,証人P2の証言)によれば,被告は,原告に対し,平成16年4月7日付け譴責書(乙137)により,被告の指示に反し,上司又は法務部に相談することなく協会訴訟を提起した点等について,これらが行為規範及び就業規則に違反するものであることを懲戒するとともに,今後同訴訟又は会社の名声やフラン- 28 -チャイズに不利な影響を与える可能性のある他の訴訟又は論争に関する行為を行う前に上司と法務部にコンタクトすること並びに会社を困惑させる行為をしないよう命じたこと,ところが,原告は,翌4月8日付けで,協会訴訟が行為規範のどの条項に違反するのかを質問する文書(乙138)を被告に送付し,上記命令に従わない姿勢を示したこと,同月14日に開催された本件留意点に関する社内のワーキンググループの会議において,参加者から協会訴訟の取下げを求める要請がされたが,原告は同要請に応じなかったこと(乙97),4月16日,P3弁護士は,被告の代理人のP4弁護士とともに,原告及び原告代理人と面談し,原告に対し,協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれに応じなかったこと(乙144),同月19日,P6法務部長,P7統括本部長は,原告と面談し,改めて原告に対して協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれを拒否したこと,同面談の際,協会訴訟の提起を顧客に伝 じなかったこと(乙144),同月19日,P6法務部長,P7統括本部長は,原告と面談し,改めて原告に対して協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれを拒否したこと,同面談の際,協会訴訟の提起を顧客に伝えているか否かを質問された際,原告はP7統括本部長に伝えていないが,協会訴訟を知っている顧客は原告を激励してくれていると答えたこと,同月21日午前中,P6法務部長,P3弁護士及びP2室長が面談し,原告に対し,協会訴訟の取下げを命じたが,原告はこれを拒否したこと,被告は,同日午後,文書(乙139の2)により同月23日までに協会訴訟を取り下げるよう命じたが,原告はこれに従わなかったこと,以上の事態を踏まえて被告は同月26日本件懲戒解雇に及んだことが認められる。 以上を総合すると,原告の非違行為は,行為規範に違反して事前の報告なく協会訴訟を提起したばかりでなく,その訴訟の内容も,本件留意点が原因で自己の取り扱う金融商品の販売が不振となり,顧客との対応に苦慮したことや勤務先で賃金や昇進等における不利益を被ったとして損害賠償を求めるというものであって,私的利益を追及した訴訟であるとの印象を与えるに十分なものであり,これを取り下げるよう何度も被告から命ぜら- 29 -れたにもかかわらずこれにも従わず,また,その訴訟に至る過程においても会計士協会を含む第三者を揶揄するような表現で批判したり,これをやめさせようとした被告に対しても反抗的態度を続けたというのであり,極めて悪質であるといわざるを得ず,SRP規定7条ただし書の「会社の利益又は名声に実質的な損害を与える行為」に該当することが明らかである。 なお,原告は,対外的に自己の意見を公表することは表現の自由により保障されている旨主張するので,その点について言及すると,確かに,原告が対外的に自己の意見を公表 行為」に該当することが明らかである。 なお,原告は,対外的に自己の意見を公表することは表現の自由により保障されている旨主張するので,その点について言及すると,確かに,原告が対外的に自己の意見を公表する自由を有することは原告の主張するとおりであるが,本件留意点により影響を受けるのは原告の私的利益ではなく,あくまでも被告の利益であるから,被告が組織として対応すべきであって,そのために被告の指示に従うべきであり,その結果個人としての表現の自由が制約されることがあってもやむを得ないというべきである。 また,原告は,SRPの全額不支給という重大な効果をもたらしてもよいといえる程度に被告の利益又は名声を害したとはいえないと主張する。 しかし,非違行為③に係る書簡(乙9)に,本件留意点について,「「専門家」と称される幾名かの会計士が犯した極めて初歩的な論理上のミスに基づくもの」,会計士協会や主要会計士事務所の監査能力を「お粗末」と表現するなど挑発的な表現が含まれていること,非違行為④に係る会計士協会に送付した書簡(乙131)は,本件留意点を「珍奇」と表現するなど会計士協会を一方的に非難するものであり,5つの監査法人に送付した書簡(乙16の1ないし5)は,本件留意点を盲信して監査業務を行なうことは背信行為であり,国益を害するなどとの表現で監査法人を非難するものであり,その表現がいずれも激越であることは前記のとおりであり,これらを内容証明郵便で送りつけた行為が,信用を害する行為であることは明らかである。また,非違行為⑧に係る行為は虚偽の事実を前提に弁護士会照会をしたのであり,協会訴訟の提起も虚偽の事実を主張して自己の- 30 -利益を図ろうとしたと評価されてもやむを得ないものであることは前記のとおりであるから,これもまた信用を害する行為である。そして をしたのであり,協会訴訟の提起も虚偽の事実を主張して自己の- 30 -利益を図ろうとしたと評価されてもやむを得ないものであることは前記のとおりであるから,これもまた信用を害する行為である。そして,これらの行為はいずれも原告が被告の従業員であることを明記して行なっているわけではないが,金融機関でデリバティブ業務に従事する者であることを明記しており,純粋な私的行為とはみられず,これらの行為によって最終的には原告が所属する被告の名声が害されたこともまた明らかである。 さらに,原告は,原告にSRPが支給されないとすると,被告が,平成14年2月,作為的相場形成を行ったことにより営業停止処分を受けた際の担当者が,普通解雇という処分を受けたにすぎず,SRPも全額支給を受けたことに比して著しく均衡を欠くと主張する。証拠(甲35,証人P8,同P2の各証言)によれば,被告が,平成14年2月,作為的相場形成を行ったことにより営業停止処分を受けたこと,その際の担当者を普通解雇したにとどめ,SRPも全額支給したことが認められる。確かに,営業停止処分は金融機関にとって深刻な事態であることは原告の主張するとおりであるが,同証拠によれば,同担当者の行為が意図的ではなかったこと,同担当者が被告の社内調査及び金融庁に対する説明に真摯に協力したことも認められるのに対し,原告は,上記非違行為にみられるとおり被告に対して終始反抗的態度をとり続けたばかりでなく,本件訴訟における主張立証をみてもこれらに対する反省の態度は全くみられない。これらの点を考慮すると,原告に対してSRPを支給しないことが,上記担当者との間で処分の均衡を欠くとはいえない。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部- 第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部 裁判官蓮井俊治

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