令和3年2月5日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第13703号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和2年12月11日判決原告 X 被告 JFEスチール株式会社同訴訟代理人弁護士近藤惠嗣前田将貴 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,5000万円を支払え。 2 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法」とする発明に係る特許権(特許第5606596号)を有する原告が,被告の製造,販売等する製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法が上記発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,不法行為に基づき,特許法102条3項に よる損害賠償金5000万円の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,後記(2)の発明に係る特許の特許権者である。(甲5) イ被告は,製鉄業を営む株式会社であり,製鉄の際の副産物であるスラグ を用いて,ブロック等を製造,販売している。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(以下「本件特許」又は「本件特許権」という。)を有している。(甲5)特許番号第5606596号 発明の名称製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法出願日平成25年7月2日出願番号特願2 いる。(甲5)特許番号第5606596号 発明の名称製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法出願日平成25年7月2日出願番号特願2013-139029登録日平成26年9月5日(3) 本件特許に係る特許請求の範囲 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1(以下,同請求項に記載された発明を「本件発明」という。)の記載内容は,以下のとおりである。(甲5)「第1次処理として,粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し,スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,その後,同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め,二 酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより,当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において,さらに第2次処理として,上記アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ,該海水又は人工海水によ る弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とする製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法。」(4) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。 A 第1次処理として,粉末化した製鋼スラグをB 所定量の純水に接触させて炭酸化し,C スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,D その後,同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物 A 第1次処理として,粉末化した製鋼スラグをB 所定量の純水に接触させて炭酸化し,C スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,D その後,同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め, E 二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより,F 当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において,G さらに第2次処理として,上記アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体 を海水又は人工海水に接触させ,H 該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを I 特徴とする製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法。 (5) 被告の行為被告は,平成28年6月頃から,業として,別紙被告製品目録記載の製鋼スラグ炭酸固化体ブロック(商品名「マリンブロック」。以下「被告製品」という。)の製造,販売及び販売の申出をしている。(乙3) (6) 被告製品の製造方法の構成被告の主張する被告製品の製造方法(以下「被告方法」という。)の構成は,以下のとおりである。 a 第1次処理として,破砕した製鋼スラグをb 所定量の工業用水に接触させて製鋼スラグ破砕物の表面を濡らし, d 製鋼スラグ破砕物を所定の形状の型枠内に詰め, e 二酸化炭素を含む排ガスに水分を含ませた常温の気体を通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより,f 当該製鋼スラグ 形状の型枠内に詰め, e 二酸化炭素を含む排ガスに水分を含ませた常温の気体を通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより,f 当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムを形成して炭酸カルシウムによって製鋼スラグ破砕物が結合した炭酸固化体を形成した後,g さらに第2次処理として,当該炭酸固化体を海水(pH≒8,弱アルカ リ性)に漬けて引き揚げることにより,h 製鋼スラグから溶出するカルシウムイオンと大気中の炭酸ガスの反応による炭酸カルシウムの生成を促進したi 製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法。 3 争点 (1) 被告方法の構成要件充足性(争点1)(2) 損害額(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告方法の構成要件充足性)について〔原告の主張〕 被告方法は,本件発明の構成要件を充足するので,本件発明の技術的範囲に属する。 (1) 構成要件Aについて被告は,被告方法では,製鋼スラグは粉砕物を利用していると主張するが,製鋼スラグを粉末化して粉状にしてから炭酸化し,ブロックを製造すること は,現代では常識とされている。粒状から加工するブロックは亀裂が生じやすく,ブロックの性能上劣っているので,被告方法においては,本件発明と同様,製鋼スラグを粉末状にすることが必要である。 (2) 構成要件Bについて被告は,被告方法では製鋼スラグの破砕物の表面を工業用水で濡らすだけ で炭酸化はしていないと主張するが,被告方法でも二酸化炭素を使用してい る。 (3) 構成要件Cについて被告は,被告方法において製鋼スラグを加熱溶融することはないから,構成要件Cに対応する工程は存在しないと主張するが,争 化炭素を使用してい る。 (3) 構成要件Cについて被告は,被告方法において製鋼スラグを加熱溶融することはないから,構成要件Cに対応する工程は存在しないと主張するが,争う。 (4) 構成要件Dについて 被告は,被告方法では,製鋼スラグの溶融物ではなく破砕物を型枠に詰めていると主張するが,製鋼スラグを型枠に詰めるという点で本件発明と類似している。 (5) 構成要件Fについて被告は,被告方法では,方解石(カルサイト)は確認されたがあられ石(ア ラゴナイト)は確認されなかったと主張するが,争う。 (6) 構成要件Hについて被告は,被告方法では,炭酸固化体の開気孔率を向上させることを目的としていないと主張するが,正確な数字が主張されているわけではない。 〔被告の主張〕 被告方法は,以下のとおり,本件発明の構成要件A~D,F及びHを充足していないので,本件発明の技術的範囲に属することはない。 (1) 構成要件A構成要件Aにおける製鋼スラグは粉末化したものであるが,被告方法aにおける製鋼スラグは砂粒程度(粒径0.1~0.5mm)から小砂利程度(粒 径10mm程度)の破砕物であり,粉末化したものではない。 (2) 構成要件B構成要件Bでは純水に接触させて炭酸化しているが,被告方法の構成bでは工業用水(純水とは異なり多くの不純物を含む。)で表面を濡らしているだけであり,純水に接触させて炭酸化していない。 原告は,被告方法でも二酸化炭素が用いられていると主張するが,構成要 件Dの冒頭に「その後」との文言があることから明らかなように,本件発明では,二酸化炭素の使用は構成要件Dに先立って行わなければならないところ,被告方法では型枠に詰める前に二酸 成要 件Dの冒頭に「その後」との文言があることから明らかなように,本件発明では,二酸化炭素の使用は構成要件Dに先立って行わなければならないところ,被告方法では型枠に詰める前に二酸化炭素を使用することはない。 (3) 構成要件C被告方法は,製鋼スラグを破砕してから破砕物の含水量を10%前後に調 整して型枠に詰め,水蒸気の存在下でほぼ常温で二酸化炭素と製鋼スラグ中の酸化カルシウムを反応させて炭酸カルシウムを生成させ,炭酸カルシウムによって製鋼スラグの破砕物を結合して成形体を得るというものであり,製鋼スラグを加熱溶融することはないから,構成要件Cに対応する工程は存在しない。 (4) 構成要件D構成要件Dにおいて型枠に詰める製鋼スラグは溶融物であるが,被告方法の構成dにおいて型枠に詰める製鋼スラグは破砕物であって,溶融物ではない。 (5) 構成要件F 構成要件Fでは製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしているが,被告方法の構成fでは製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしていない。実際,被告は,実験室レベルで被告方法の構成fまでを模擬して製鋼スラグを炭酸化してみたが,方解石(カルサイト)は確認することができたものの,あられ石(アラゴナ イト)は確認することができなかった。 (6) 構成要件H構成要件Hでは弱アルカリ性の環境下で酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに,炭酸固化体の開気孔率を向上させるようにしている。 これに対し,被告方法では,加熱溶融された製鋼スラグ溶融物ではなく, 製鋼スラグ破砕物を所定の形状の型枠内に詰めている もに,炭酸固化体の開気孔率を向上させるようにしている。 これに対し,被告方法では,加熱溶融された製鋼スラグ溶融物ではなく, 製鋼スラグ破砕物を所定の形状の型枠内に詰めているので,被告方法の構成hは,炭酸固化体の開気孔率を向上させることを目的としたものではない。 被告方法ではばらばらの製鋼スラグの破砕物の空隙を炭酸カルシウムで架橋することによって炭酸固化体を形成しているから,炭酸カルシウムの形成を弱アルカリ性の環境下で促進することによって空隙が埋められるものと考え られる。空隙が埋められれば,炭酸固化体の表面と連結していた空隙が表面と切り離されて,内部に閉じ込められる場合もある。被告は被告製品の開気孔率を測定したことはないが,被告方法の構成gによって開気孔率が低下することはあっても,向上することはない。 2 争点2(損害額)について 〔原告の主張〕被告が被告製品を販売したことにより得た売上げは,1000億円を下回らない。また,本件発明の技術分野,被告製品の市場,コスト構造,類似事例,実務慣行に鑑みれば,本件発明の実施について相当な実施料は5%を下回るものではない。 したがって,原告は,被告に対し,少なくとも5000万円の損害賠償請求権を有している(特許法102条3項)。 〔被告の主張〕争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容(1) 本件特許出願に係る願書に添付された明細書及び図面には,以下の記載等が存在する。 ア技術分野「本願発明は,二酸化炭素の吸収性能を向上させた製鋼スラグ炭酸固化 体ブロックの製造方法に関するものである。」(段落【0001】) イ背景技術「近年日本の海岸部では,護岸用または消 の吸収性能を向上させた製鋼スラグ炭酸固化 体ブロックの製造方法に関するものである。」(段落【0001】) イ背景技術「近年日本の海岸部では,護岸用または消波用,藻場形成用等の各種の海浜用ブロック(マリンブロック)が多く設置されている。」(段落【0002】)「しかし,これらブロック類の殆どのものは,コンクリート製のもので あり,重量も大きく,構造自体もポーラスな構造とはなっていない。したがって,当然ながら,地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(C02) などの吸収機能はなく,また海中に於ける藻場等の形成機能も小さい。」(段落【0003】)「一方,製鉄工場などでは,鉄鋼製造時の副産物として,製鋼スラグ(高 炉スラグともいう)が多量に発生する。この製鋼スラグは,酸化カルシウム(CaO)を含むため,長時間戸外に放置すると,当該酸化カルシウムが空気中の水分や二酸化炭素を吸収し,水酸化カルシウムと炭酸カルシウムになって硬化し,処理しにくくなってしまう。」(段落【0004】)「そこで最近では,このような製鋼スラグを利用して上述のようなブロ ック材を製造することも行なわれている。」(段落【0005】)「その一つとして,例えば粉末化した製鋼スラグに適度な純水水分を添加したうえで,所定の形状の型枠内に詰め,その下部から二酸化炭素(C02)を多く含む排ガスを吹き込む。」(段落【0006】)「すると,当該製鋼スラグ中の酸化カルシウム(CaO)と排ガス中の二酸 化炭素(C02)とが反応して,炭酸カルシウム(CaC03)が生成する。そして,この炭酸カルシウムがカルサイト構造を形成して,各スラグ粒子の間をネットワーク状に結合一体化するとともに,各スラグ粒 化炭素(C02)とが反応して,炭酸カルシウム(CaC03)が生成する。そして,この炭酸カルシウムがカルサイト構造を形成して,各スラグ粒子の間をネットワーク状に結合一体化するとともに,各スラグ粒子の表面を緻密に覆ってブロック状に固化する。」(段落【0007】)「これにより,ポーラスな構造を有する炭酸固化体としてのブロック材 が形成される(先行技術文献として,例えば特許文献1の構成を参照)。」 (段落【0008】)「このように,製鋼スラグを利用して上述のようなブロック材を製造するようにすると,これまで廃棄処理が困難であった製鋼スラグの有効なリサイクルが可能になることはもとより,従来だと大気中に排出されていた燃焼排ガス中の二酸化炭素(C02)をスラグ中に吸収させることができ,地 球温暖化の防止対策にもなる。」(段落【0009】)「また,同構成のブロック材は,珊瑚の主成分でもある炭酸カルシウムにより,製鋼スラグ粒子間が強固に結合されたカルサイト構造を呈し,かつ粒子表面も炭酸カルシウムで被覆されているので,海中でも,大気中でも安定しており,膨張して崩壊したり,アルカリ性を強めたりすることも ない。」(段落【0010】)「また,強制的に二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウム生成反応を生じさせるので,開気孔で,気孔率の高いポーラスな構造のものとなり,海中で藻等の海草が着生し易く,漁礁などを形成するのにも適している。」(段落【0011】) 「また,コンクリートブロックなどに比べて重量も軽いために設置も容易で,扱い易い。したがって,相当に大形のものでも比較的楽に設置することができる。」(段落【0012】)「しかし,上記構成のブロックの場合,外部か ックなどに比べて重量も軽いために設置も容易で,扱い易い。したがって,相当に大形のものでも比較的楽に設置することができる。」(段落【0012】)「しかし,上記構成のブロックの場合,外部から燃焼排ガスを製鋼スラグ中に吹き込む構成であるために,ブロック形状が大きくなると,必ずし も内部まで均一に二酸化炭素を反応させることができない問題があり,成形後の強度不足に基づくハンドリング時の崩壊等を招く懸念があった。」(段落【0013】)「そこで,この問題を改良したものとして,さらに上記型枠内に充填する粉末スラグを予め所定の湿度のものに調湿した上で型枠内に充填し,水 蒸気飽和した二酸化炭素燃焼ガスを均一かつ強制的に供給することにより, 型枠内中心部まで均一に炭酸固化反応を生じさせ,大形のブロック材を形成できるようにしたものも提案されている。」(段落【0014】)ウ発明が解決しようとする課題「ところが,上記先行技術文献に示されるような製鋼スラグを用いたブロック材の製造に際し,製鋼スラグが固化する時にはカルシウムイオンが 溶出され,また炭酸カルシウムが析出するが,これらカルシウムイオンの溶出や炭酸カルシウムの析出メカニズムを含めた製鋼スラグ固化時における物理化学的反応機構については,現在のところ必ずしも明確に解明されているわけではない。」(段落【0016】)「このため,上述のような方法で製造されたブロック材の有効性,耐久 性について,未だに一定の懸念が残されている。」(段落【0017】)「本願発明の製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法は,このような事情に基づいてなされたもので,同製鋼スラグ固化時の物理化学的反応機構を解明することにより,上記従来のものに 【0017】)「本願発明の製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法は,このような事情に基づいてなされたもので,同製鋼スラグ固化時の物理化学的反応機構を解明することにより,上記従来のものに比べて二酸化炭素吸収能力が高く,かつブロック材の耐久性を決定するカルサイト構造が炭酸固化体内 部に十分に張り巡らされて,耐久性にも優れた製鋼スラグ炭酸固化体ブロックを提供することを目的とするものである。」(段落【0018】)エ課題を解決するための手段「本願発明の製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法は,上記の目的を達成するために,次のような課題解決手段を備えて構成されている。」 (段落【0019】)「すなわち,この発明の課題解決手段は,第1次処理として,粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し,スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,その後,同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め,二酸化炭素を含む排ガスを通 して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させる ことにより,当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において,さらに第2次処理として,上記アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ,該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生 する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させるとともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴としている。」(段落【0020】)「このように,本願発明の課題解決手段の構成では,まず粉末化された製鋼スラ 造形成作用を促進させるとともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴としている。」(段落【0020】)「このように,本願発明の課題解決手段の構成では,まず粉末化された製鋼スラグに添加される第1次的な処理水として,純水を使用している。 純水を使用して製鋼スラグに二酸化炭素を反応させると,炭酸カルシウムの析出と共に,スラグ粒子の表面にアラゴナイトが析出する。その結果,炭酸化率が向上し,二酸化炭素の吸収能力が向上する。」(段落【0021】)「そして,同純水を用いて炭酸化し,アラゴナイトを析出させた製鋼ス ラグを加熱,溶融し,所定の形状の型枠内に詰め,二酸化炭素を含む排ガスを通して,当該製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応させると,当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造が形成される。その結果,炭酸化率がより向上し,さらに二酸化炭素の吸収能力が向上する。」(段落【0022】) 「しかし,他方,同アラゴナイト構造を有して冷却固形化した製鋼スラグは,そのままでは当該アラゴナイトの生成により,崩壊,亀裂が生じやすく,内部に吸収した二酸化炭素やカルシウム成分が漏出する恐れがある。」(段落【0023】)「そこで,これを防止するために,本願発明の課題解決手段の構成では, 上記冷却固形化後の第2次的な処理水としては,海水または人工海水を採 用し,上記冷却固形化された製鋼スラグのスラグ粒子間にカルサイト結晶構造が張り巡らされた密な構造を実現するようにしている。」(段落【0024】)「このように,第2次的な処理水として,海水または人工海水を用いた場合,上記アラゴナイト構造を有する製鋼スラグ中の酸化カルシウムと二 酸化 するようにしている。」(段落【0024】)「このように,第2次的な処理水として,海水または人工海水を用いた場合,上記アラゴナイト構造を有する製鋼スラグ中の酸化カルシウムと二 酸化炭素の反応がpH 弱アルカリ性の環境下で生じることになり,二酸化炭素の吸収能力が向上するとともに,炭酸カルシウム発生時の膨張率が増大し,よりカルサイトの生成が促進されるようになる。」(段落【0025】)「その結果,従来に比べて遥かに二酸化炭素の吸収能力が高く,高気孔 率のハイポーラスな構造を有する製鋼スラグ炭酸固化体ブロックが形成されるようになることから,一層軽量で設置し易くなり,また,より海中での貝類や海草,藻などの着生が良くなり,海中環境の改善,復元に一層有効に寄与するようになる。」(段落【0026】)「また,この製鋼スラグ炭酸固化体ブロックからは,水酸化イオン(OH-) が放出されることから,海水自体のpH 値をも改善することができ,魚類の生育環境の改善にもなる。」(段落【0027】)「また,それと同時に,同カルサイト生成機能の促進により,製鋼スラグ本体中には炭酸カルシウムのカルサイトが縦横無尽に張り巡らされ,製鋼スラグ中の各スラグ粒子間が極めて強固に結合された一層有効なカルサ イト構造が形成されると共に,製鋼スラグ各粒子の表面も一層緻密に炭酸カルシウムで被覆されるので,海中でも,大気中でも一層安定度が増し,二酸化炭素吸収性能が向上するとともに,従来のもののように膨張して崩壊したり,アルカリ性を強めたりすることもなくなり,耐久性が大きく向上する。」(段落【0028】) 「さらに,このように製鋼スラグ内部に析出した炭酸カルシウムが高密 度なカルサイト構造になっている こともなくなり,耐久性が大きく向上する。」(段落【0028】) 「さらに,このように製鋼スラグ内部に析出した炭酸カルシウムが高密 度なカルサイト構造になっていると,当該炭酸カルシウムのカルサイト構造が外部へのバリアとなって,炭酸カルシウム固化体からの二酸化炭素やカルシウムの溶出が効果的に抑制されるようになる。」(段落【0029】)「その結果,当該製鋼スラグ内からの二酸化炭素漏出による地球温暖化作用をも防止することができる。」(段落【0030】) オ発明の効果「以上の結果,この出願の発明の製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法によると,アラゴナイト構造による二酸化炭素の吸収能力の高さを有効に生かすことができる,高気孔率で,ハイポーラス,かつスラグ粒子間の結合が密な強度の高いカルサイト結晶構造の製鋼スラグ炭酸固化体ブロ ックを提供することができるようになる。」(段落【0031】)「そして,同製造方法によって製造された製鋼スラグ炭酸固化体ブロックは,二酸化炭素の吸収能力が高く,軽量で,設置しやすく,しかも耐久性が高い,実用性に富んだものとなる。」(段落【0032】)カ発明を実施するための形態 「図1~図15は,この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの構成およびその製造方法の一例(実験例)を示すものである。」(段落【0034】)「この出願の発明の実施の形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法および同製造方法によって製造される製鋼スラグ炭酸固化体ブ ロックは,その基本的な構成として,例えば,第1次処理として,粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し,スラグ粒子表面にア び同製造方法によって製造される製鋼スラグ炭酸固化体ブ ロックは,その基本的な構成として,例えば,第1次処理として,粉末化した製鋼スラグを所定量の純水に接触させて炭酸化し,スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,その後,同加熱溶融された製鋼スラグ溶融物を所定の形状の型枠内に詰め,二酸化炭素を含む排ガスを通して製鋼スラグ中の酸化カルシウムに排ガス中の二酸化炭素を反応さ せることにより,当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造 を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において,さらに第2次処理として,上記アラゴナイト構造を形成した炭酸固化体を海水又は人工海水に接触させ,該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生する炭酸カルシウムのカルサイト構造形成作用を促進させると ともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを特徴とするものである。 <製造設備の構成および製造方法>まず,図1は,この出願の発明を実施するための形態に係る製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法を実施する製造設備の構成の概略と,それ を用いた製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法を示している。」(段落【0035】)【図1】 「図中,符号1A,1Bは,当該製造設備の中心となる耐熱性の高い第 1,第2のブロック製造ケース(型枠)であり,まず第1のブロック製造ケ ース1Aには,原料スラグ供給部2から,所定の製造サイクルで必要な量の粉末化した所定の粒径の製鋼スラグ3が供給されるようになっているが,その間には同製鋼スラグ3を純水を用いて加湿する第1の製鋼スラグ加湿手段4A, 料スラグ供給部2から,所定の製造サイクルで必要な量の粉末化した所定の粒径の製鋼スラグ3が供給されるようになっているが,その間には同製鋼スラグ3を純水を用いて加湿する第1の製鋼スラグ加湿手段4A,同第1の製鋼スラグ加湿手段4Aで加湿された製鋼スラグ3を加熱溶融する加熱手段(製鋼スラグ溶融炉)5が設けられており,そ れらを介して所定の湿度レベルに加湿調整され,加熱溶融された後に供給されて,図示のような状態に充填される。」(段落【0036】)「ここで,上記製鋼スラグ加湿手段4Aによる製鋼スラグ3の加湿は,海水ではなく,純水を用いて行なわれるようになっており,粉末状態の製鋼スラグ3を,例えば常温状態で,湿度100%の純水に何日か接触させるこ とにより,当該製鋼スラグ3を効率よく炭酸化させるともに,スラグ粒子表面にアラゴナイトを多量に生成させて,二酸化炭素CO2 を効率よく吸収させる。」(段落【0037】)「他方,加熱手段5では,同炭酸化され,アラゴナイトが生成した製鋼スラグ3を所定の溶融温度で加熱溶融して,第1のブロック製造ケース1 A内に流し込む。」(段落【0038】)「第1のブロック製造ケース1Aは,例えば下面側から上面側に向けて,高圧状態で排ガス8を流すことができるようになっており,その底部側に製鉄工場等の排ガス施設7からの二酸化炭素C02 を多量に含む高温の排ガス8が,加圧手段9,排ガス加湿手段10を介して,所定の高圧状態,か つ飽和水蒸気状態にして導入され,溶融状態にある製鋼スラグ3A中を均一に通過するように流される。」(段落【0039】)「そして,その後,当該第1のブロック製造ケース1Aの上部より外部に流出する溶融状態の製鋼スラグ3A通過後の排ガス8は,所定の排ガス処理施設11に供給されて処理 に流される。」(段落【0039】)「そして,その後,当該第1のブロック製造ケース1Aの上部より外部に流出する溶融状態の製鋼スラグ3A通過後の排ガス8は,所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。」(段落【0040】) 「これにより,上記第1のブロック製造ケース1A内における溶融状態 の製鋼スラグ3A中の酸化カルシウムCaO は,排ガス8中の多量の二酸化炭素C02 と反応して,炭酸カルシウムCaC03 を生成する。このとき,生成される炭酸カルシウムCaCO3 は,製鋼スラグ3Aの冷却固形化後,例えば図5のようなカルサイト結晶構造を形成して,スラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化するとともに,それらスラグ粒子の表面を確 実に被覆する。」(段落【0041】)「ところで,上記二酸化炭素CO2 の吸収に有効なアラゴナイトは,上述のように第1次処理としての純水との接触で効果的に発生するが,他方,それだけでは成形された炭酸スラグ固化体の亀裂を招き,吸収した二酸化炭素CO2 やカルシウムCa 成分の溶出を招く恐れがある。」(段落【004 2】)「そこで,この発明の実施の形態では,上記固形化後の第2次的な処理として,当該固形化後の製鋼スラグ3Bを海水を用いて加湿する第2の製鋼スラグ加湿手段4Bに通し,常温,湿度100%の海水で加湿し,固形化した製鋼スラグ3B中のスラグ粒子を蜜にし,亀裂等の発生を防止する。」 (段落【0043】)「また,海水によるpH 弱アルカリ性の環境下で酸化カルシウムCaO と二酸化炭素CO2 とを反応させることにより,二酸化炭素吸収能力を大きくするとともに,生成する炭酸カルシウムCaC03 を膨張させ,カルサイトの形成を促進させる。」(段落【00 カルシウムCaO と二酸化炭素CO2 とを反応させることにより,二酸化炭素吸収能力を大きくするとともに,生成する炭酸カルシウムCaC03 を膨張させ,カルサイトの形成を促進させる。」(段落【0044】) 「その後,同海水により加湿された固形化後の製鋼スラグ3Bは,乾燥後,第2のブロック製造ケース1B内に移送され,ここで再び二酸化炭素CO2 を含む排ガス8と接触される。」(段落【0045】)「すなわち,この第2のブロック製造ケース1Bも,上記第1のブロック製造ケース1Aと同様に,下面側から上面側に向けて,高圧状態で排ガ ス8を流すことができるようになっており,その底部側に製鉄工場等の排 ガス施設7からの二酸化炭素C02 を多量に含む高温の排ガス8が,加圧手段9,排ガス加湿手段10を介して,所定の高圧状態,かつ飽和水蒸気状態にして導入され,固形化状態にある製鋼スラグ3B中を均一に通過するように流される。」(段落【0046】)「そして,その後,当該第2のブロック製造ケース1Bの上部より外部 に流出する固形化した製鋼スラグ3B通過後の排ガス8は,所定の排ガス処理施設11に供給されて処理される。」(段落【0047】)「これにより,上記第2のブロック製造ケース1B内における固形化後の製鋼スラグ3B中の酸化カルシウムCaO は,ここでも排ガス8中の多量の二酸化炭素C02 と反応して,炭酸カルシウムCaC03 を生成する。」(段 落【0048】)「このようにして,最終的に,十分な量の二酸化炭素CO2 を吸収し,かつスラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化してケース構造(型枠構造)に一体化させた所望の大きさの製鋼スラグ炭酸固化体ブロック(マリンブロック)3C,3C・・が形成される。…」 吸収し,かつスラグ粒子相互間を強固にネットワーク上に結合一体化してケース構造(型枠構造)に一体化させた所望の大きさの製鋼スラグ炭酸固化体ブロック(マリンブロック)3C,3C・・が形成される。…」(段落【00 49】)(2) 本件発明の特許請求の範囲及び上記(1)の記載によれば,本件発明は,①製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法に関するものであり,②粉末化した製鋼スラグに適度な純水水分を添加した上で,所定の形状の型枠内に詰め,その下部から二酸化炭素を多く含む排ガスを吹き込むということによりポー ラスな構造を有する炭酸固化体としてのブロック材を形成するという従来の製造方法においては,製鋼スラグが固化する際に生じるカルシウムイオンの溶出や炭酸カルシウムの析出の物理化学的反応機構が未解明のため,製造されたブロック材の有効性,耐久性に懸念が残されているという課題を解決するため,③本件発明の請求項1記載の製造方法を採用することにより,④ア ラゴナイト構造による二酸化炭素の吸収能力の高さを有効に生かすことがで きる,高気孔率で,ハイポーラス,かつスラグ粒子間の結合が密な強度の高いカルサイト結晶構造の製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの提供を可能にするものであると認められる。 2 争点1(被告方法の構成要件充足性)について(1) 構成要件Bについて 被告は,被告方法においては工業用水で表面を濡らしているだけであり,純水に接触させて炭酸化をする工程は含まないので,構成要件B(「所定量の純水に接触させて炭酸化し,」)を充足しないと主張するところ,被告方法が「純水に接触させて炭酸化」する工程を含むと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告方法は,構成要件Bを充足しない。 (2) 構成要件C ,」)を充足しないと主張するところ,被告方法が「純水に接触させて炭酸化」する工程を含むと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告方法は,構成要件Bを充足しない。 (2) 構成要件C及びDについて被告は,被告方法においては製鋼スラグを加熱溶融する工程を含まないので,構成要件C(「スラグ粒子表面にアラゴナイトを析出させた上で加熱溶融し,」)を充足しないと主張するところ,被告方法が「スラグ粒子表面に アラゴナイトを析出させた上で加熱溶融」する工程を含むと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告方法は,構成要件C及び製鋼スラグが「加熱溶融された」ことを前提とする構成要件Dを充足しない。 (3) 構成要件Fについて 被告は,被告方法は「製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成する」工程を含まないので,構成要件F(「当該製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成するようにしてなる製鋼スラグ炭酸固化体ブロックの製造方法において,」)を充足しないと主張するところ,被告方法が「製鋼スラグ中に炭酸カルシウムのアラゴナイト構造を形成する」 工程を含むと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告方法は,構成要件Fを充足しない。 (4) 構成要件Hについて被告は,被告方法は炭酸固化体の開気孔率を向上させるものではないので,構成要件H(「該海水又は人工海水による弱アルカリ性の環境下で上記酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させることにより,発生する炭酸カルシウム のカルサイト構造形成作用を促進させるとともに,その開気孔率を向上させるようにしたことを」)を充足しないと主張するところ,被告方法が炭酸固化体の「開気孔率を向上させるように」するものであると認めるに のカルサイト構造形成作用を促進させるとともに、その開気孔率を向上させるようにしたことを」)を充足しないと主張するところ,被告方法が炭酸固化体の「開気孔率を向上させるように」するものであると認めるに足りる証拠はない。したがって,被告方法は,構成要件Hを充足しない。 以上によれば,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告方法は本件発明の技術的範囲に属しない。 結論よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 齊藤敦
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