平成29(ワ)2472 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年10月1日 名古屋地方裁判所
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判決文本文24,821 文字)

- 1 -令和2年10月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年第2472号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和2年6月18日判決主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して240万円及びこれに対する平成26年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを40分し,その39を原告の負担とし,その 余は被告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成26年1月7 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,「A歯科クリニック」の屋号で歯科医院(以下「本件歯科医院」という。)を営む原告が,被告らが本件歯科医院に関する記事をインターネット 上の掲示板に複数回投稿したことによって名誉を毀損され,売上が大幅に減少したため,総額2億3834万5353円の損害(内訳は,営業上の損害2億1513万5833円,慰謝料1000万円,調査費用等185万9742円,弁護士費用1134万9778円である。)を被ったなどと主張して,被告らに対し,共同不法行為に基づき,連帯して上記損害の一部である1億円及びこ れに対する本件歯科医院に関する記事が最初に投稿された日である平成26年 - 2 -1月7日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び掲記各証拠〔特記が 2 -1月7日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び掲記各証拠〔特記がない限り枝番号を含む〕又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実)⑴ 当事者等 ア原告は,岐阜市内において本件歯科医院を営み,その院長を務める歯科医師である。原告は,ニューロマスキュラー矯正治療という,顎関節治療と矯正治療を組み合わせ,患者の歯を正しいかみ合わせに誘導することを目的とした治療法を積極的に採用していた。また,本件歯科医院においては,歯科医師が患者を診察してから治療計画を立案し,副院長である原告 の妻が,患者が次に受診する際,当該治療計画を基に,その内容,金額等を説明するなどのカウンセリングを実施することとされていた。(甲5,66)イ被告Bは,岐阜県各務原市において「C歯科」の屋号で歯科医院(以下「被告歯科医院」という。)を営む歯科医師である(甲23の3,乙30)。 ウ被告会社は,インターネット広告に関する事業等を行う株式会社であり,被告Dは,同社の代表取締役である。 ⑵ 被告Dによるインターネット投稿ア被告Dは,①平成26年1月7日,②同月28日,③同年2月3日及び④同月7日,インターネット上の掲示板である「2ちゃんねる」(上記①, ③)又は「Yahoo! 知恵袋」(上記②,④)に本件歯科医院に関するコメントや質問記事を投稿した(以下,これらの投稿を「本件各投稿」という。)。そして,上記①及び③の各投稿は,平成29年10月24日頃までには,上記②及び④の各投稿は,平成26年5月末頃には,それぞれ削除された。(甲1ないし4,6,乙30,弁論の全趣旨) イ本件各投稿の内容は, び③の各投稿は,平成29年10月24日頃までには,上記②及び④の各投稿は,平成26年5月末頃には,それぞれ削除された。(甲1ないし4,6,乙30,弁論の全趣旨) イ本件各投稿の内容は,細かな表現に差異はあるものの,いずれも,投稿 - 3 -者が岐阜市で開業している歯科医であり,本件歯科医院に受診した患者3名から相談を受けたことが明らかにされた後,以下のないし又はこれと同旨の文言が記載され,最後に,歯科医師会にも様々な苦情が入っているとした上で,本件歯科医院の実態を知っていただきたいと思い書込みをした旨,あるいは,本件歯科医院において同様の経験をした者がいないか を尋ねる旨が記載されたものであった。 2人はA歯科クリニックで,ひどい顎関節症なので,放置しておくと痴呆とか腎臓疾患とか,あらゆる疾患に今後かかってゆくので,直すべきで,当院の顎関節かみ合わせ治療は日本ではここしかやっていない特別なもので300万円かかるが,今後の人生を考えたらやるしかないと カウンセリングで迫られたそうです(以下「本件記載1」という。)。 a 顎関節症についての世界中の歯科のガイドラインは,精神的な症状であって,かみ合わせを変えるなどの,積極的な治療には意味が無いとなっています。別に放置していても多くは2~3か月で症状が消えるのが普通(以下「本件記載2-1」という。)。 b 顎関節症が放っておけば将来,重大な病気につながるなどという話は全くの偽りで,医者が豊富な知識でだまして高額なお金を得る,詐欺行為と言っていいと感じています(以下「本件記載2-2」といい,本件記載2-1と併せて単に「本件記載2」という。)。 多くの患者さんが,あのやり口におとしいれられ,何の根拠もいない 無用の治療に高額の治療費を支払っ ます(以下「本件記載2-2」といい,本件記載2-1と併せて単に「本件記載2」という。)。 多くの患者さんが,あのやり口におとしいれられ,何の根拠もいない 無用の治療に高額の治療費を支払っているのかと思います。根本的な健康意識にかかわる部分で洗脳されて,ひたすらA歯科クリニックへ通って,高額な治療費を支払い続ける。まるでカルト宗教のようだと感じます。治療を受けていなくても,カウンセリングの言葉で不安を抱えて人生を送り続ける可能性もあります(以下「本件記載3」という。)。 治療費が常識外れに高額で,インプラントを3本入れて,骨造成の手 - 4 -術とあわせて530万円の見積もりに唖然としました(通常はこの治療なら高くても200万円はいかない内容です)。これも顎関節症の話みたいに,あれこれありもしない講釈を言って,だましているのだと思います。市内の歯科医師達との会合の時も,居合わせた岐阜市内のある先生は,A歯科クリニックに患者さんのインプラント治療の依頼をしたら, 患者がインプラント1本90万円と言われたので別のところを紹介したと言っていました。(通常はインプラントは1本35万円ぐらいが平均です)また別の2名の先生も私と同じような,体験をしたことがあると言っていました。(以下「本件記載4」という。)無資格の女性が治療方針をカウンセリングしているとも言っていまし た(以下「本件記載5」といい,本件記載1から本件記載5までを総称して「本件各記載」という。)。 ウ被告Bは,被告Dが本件各投稿をした当時,被告会社に対し,インターネット上に被告歯科医院の広告を掲載することを委託しており,被告Dは,自身が代表者を務める被告会社と被告Bとの間の取引を継続すべく,被告 会社のため,被告Bの依頼を受けて本 社に対し,インターネット上に被告歯科医院の広告を掲載することを委託しており,被告Dは,自身が代表者を務める被告会社と被告Bとの間の取引を継続すべく,被告 会社のため,被告Bの依頼を受けて本件各投稿を行ったものであった。(甲1ないし4,6,乙30) 3 争点及びこれに関する当事者の主張本件各記載が原告の社会的評価を低下させたか(争点1)(原告の主張) 本件各記載は,掲示板の閲覧者に対し,原告が患者に対して詐欺行為を行い,患者から不当に高額な治療費を得ているという印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。 そして,本件記載5は,何らの問題もない事柄をさも問題があるかのように強調することにより,原告の社会的評価を低下させるものである。 (被告らの主張) - 5 -本件各記載は,全体として見ると,匿名の歯科医師が,医学的見解を踏まえて,原告の行う顎関節治療や原告の治療費について否定的な評価を下す内容となっており,本件歯科医院の治療面,経営面の特性(東海地方ではごく少数派である顎関節治療の実施,治療施設の規模の大きさ,テレビ取材等)を踏まえると,通常の読み手からすれば,治療における医学的見解や治療費 あるいは歯科経営について,原告に反対する歯科医師の側から発信された反対意見の表明としての表現と受け取るものである。このように,本件各記載は,原告が拠って立つ医学的見解や歯科経営に対する論争としての表現であり,原告の社会的評価を低下させるような性質のものではない。 事実の公共性及び目的の公益性の有無(争点2) (被告らの主張)本件各記載は,本件歯科医院における顎関節治療やこれに付随するカウンセリング方法や内容,あるいは治療金額等について批判し,原告の行う顎関節治療 の公益性の有無(争点2) (被告らの主張)本件各記載は,本件歯科医院における顎関節治療やこれに付随するカウンセリング方法や内容,あるいは治療金額等について批判し,原告の行う顎関節治療や歯科経営について広く議論の対象とすることで,歯科治療や歯科経営の進歩発展・国民の適切な歯科治療の享受に資するものであり,公共の利 害に関する事実に係るものである。 そして,被告Bは,原告が行う顎関節のかみ合わせ治療やカウンセリングに関し,その内容や金額の適正性に疑問を抱き,患者を救いたいという思いから,被告Dに依頼して本件各投稿をしたのであるから,これが専ら公益を図る目的でなされたことは明らかである。 (原告の主張)原告の治療方法や治療費,個別の患者との治療契約の内容は,あくまで原告と当該患者との間の問題であり,公共性があるとはいえない。 被告Bは,原告の患者を被告歯科医院に誘導して自身の売上につなげるとともに,原告を妬み,その信用を失墜させて業務を妨害する目的で,被告D に本件各投稿をさせたものであり,これが専ら公益に出る目的に出たもので - 6 -ないことは明白である。 ⑶ 真実性,相当性,意見ないし論評としての域の逸脱の有無(争点3)(被告らの主張)以下のとおり,本件各記載のうち事実を摘示した部分については,その重要な部分において真実であり,そうでないとしても,被告らには本件各記載 に摘示された事実を真実と信じるについて相当の理由がある。そして,本件各記載のうち評価を記載した部分については,いずれも意見ないし論評の域を逸脱するものではない。 ア本件記載1について本件記載1は,被告Bが本件歯科医院において治療を受けたことがある 患者から相談を受けた内容に基づくものであるところ,独立 見ないし論評の域を逸脱するものではない。 ア本件記載1について本件記載1は,被告Bが本件歯科医院において治療を受けたことがある 患者から相談を受けた内容に基づくものであるところ,独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)に対して寄せられていた本件歯科医院に関する相談内容や,本件歯科医院の広告,当該患者が本件歯科医院において交付されたニューロマスキュラー矯正治療契約書等の内容と整合している。 イ本件記載2について本件記載2の事実摘示は,一般社団法人日本顎関節学会(以下「日本顎関節学会」という。)のガイドラインや被告B自身の研究経験に基づくものである。 そして,本件記載2のうち,「医者が豊富な知識でだまして高額なお金 を得る,詐欺行為と言っていいと感じています」という部分は,本件記載1及び2において摘示された事実を前提として,本件歯科医院の前提とする顎関節症の理解そのものや,当該理解を断定的に患者に説明して独自の治療に誘導する経営姿勢に対する批判的な評価を加えたものであり,これが意見ないし論評の域を逸脱するものではない。 ウ本件記載3について - 7 -本件記載3は,本件歯科医院の前提とする顎関節症の理解そのものや,当該理解を断定的に患者に説明して独自の治療に誘導する経営姿勢に対する批判的な評価を加えたものであり,これが意見ないし論評の域を逸脱するものではない。 エ本件記載4について 本件記載4のうち,「インプラントを3本入れて,骨造成の手術とあわせて530万円の見積り」及び「通常はこの治療なら高くても200万円はいかない内容」という部分は,被告Bが本件歯科医院において治療を受けたことがある患者からの相談内容に基づくものであり,本件歯科医院にお 30万円の見積り」及び「通常はこの治療なら高くても200万円はいかない内容」という部分は,被告Bが本件歯科医院において治療を受けたことがある患者からの相談内容に基づくものであり,本件歯科医院において治療を受けたことがある別の患者の治療計画書の内容 や,国民生活センターに寄せられた本件歯科医院に関する相談内容等と整合する。 本件記載4のうち,「顎関節症の話みたいに,あれこれありもない講釈をいって,だましているのだと思います」との部分は,本件記載1ないし事実の摘示を前提として,本件歯科医院の前提とす る顎関節症の理解そのものや,当該理解を断定的に患者に説明して独自の治療に誘導する経営姿勢に対する批判的な評価を加えた上,本件歯科医院の治療費そのものや治療費の説明方法にも問題がある可能性を指摘し,本件歯科医院の経営姿勢について,治療費という側面から批判的な評価を加えたものであり,これが意見ないし論評の域を逸脱するもので はない。 本件記載4のうち,「市内の歯科医師達との会合の時も,居合わせた岐阜市内のある先生は,A歯科クリニックに患者さんのインプラント治療の依頼をしたら,患者がインプラント1本90万円と言われたので別のところを紹介したと言っていました。(通常はインプラントは1本3 5万円ぐらいが平均です)また別の2名の先生も私と同じような,体験 - 8 -をしたことがあると言っていました」という部分は,被告Bが歯科医師との集まりで聞いた内容を記載したものであるところ,これら摘示した事実は,被告B自身が,本件歯科医院において治療を受けたことがある患者から相談を受けた内容や,被告Bが本件各投稿の前に閲覧した他の歯医者のホームページの記載,被告訴訟代理人が岐阜県内の歯科医等に 対して実施した調査の結 歯科医院において治療を受けたことがある患者から相談を受けた内容や,被告Bが本件各投稿の前に閲覧した他の歯医者のホームページの記載,被告訴訟代理人が岐阜県内の歯科医等に 対して実施した調査の結果等とも整合している。 オ本件記載5について本件歯科医院においては,全件,原告の妻であり,歯科医師免許を有していない本件歯科医院の副院長によるカウンセリングを受けることになっており,当該カウンセリングにおいて使用される治療契約書には,作成者 として副院長と記載されている。 (原告の主張)以下のとおり,本件各記載は,その重要な部分において真実でなく,被告らが本件各記載に摘示された事実を真実と信じるについて相当の理由もない。 ア本件記載1について本件記載1は,原告が,患者に対し,顎関節症を放置するとあらゆる病気に当然かかっていくと説明したと理解されるものであるが,原告がそのような説明をした事実はない。 また,本件記載1のうち,本件歯科医院における顎関節のかみ合わせ治 療には300万円がかかるという部分については,被告Bが,原告に受診した患者から交付を受けたとする資料に基づいても,顎関節のかみ合わせ治療だけで治療費が300万円に至ることはない。 イ本件記載2について本件記載2-1については,被告Bは,世界中のガイドラインを確認し たわけではないばかりか,日本のガイドラインに匹敵するような外国のガ - 9 -イドラインを確認したこともなかった。さらに,被告Bが参照したガイドラインは初期治療に係るガイドラインにすぎないところ,初期治療に係るガイドラインに基づき,顎関節症が精神的な症状であるとするのは明白な誤りである。 本件記載2-2のうち,「顎関節症が放っておけば将来,重大な病気に つな ラインにすぎないところ,初期治療に係るガイドラインに基づき,顎関節症が精神的な症状であるとするのは明白な誤りである。 本件記載2-2のうち,「顎関節症が放っておけば将来,重大な病気に つながるなどという話は全くの偽り」とする部分について,顎関節症と他の症状や疾患との関係については,数多くの論文や文献が発表・出版されている。他方,被告Bが真実性の根拠とするのは,被告Bの周辺では証明されていないというにすぎず,これをもって「全くの偽り」であるとはいえない。 ウ本件記載3について本件記載1及び2で摘示された事実が真実でない以上,本件記載3の内容も真実であるとはいえない。 エ本件記載4について原告が「インプラントを3本入れて,骨造成の手術とあわせて530万 円の見積り」をしたという部分について,被告Bが本件歯科医院で受診した患者から交付を受けたとする資料は,いずれもその根拠となるものではない。 オ本件記載5について本件記載5は,そもそも何らの問題がない事柄である。 ⑷ 損害額(争点4)(原告の主張)本件各投稿により,原告には以下のアないしエの損害(合計2億3834万5353円)が生じたところ,本訴においては,その一部である1億円を請求する。 ア営業上の損害 2億1513万5833円 - 10 -原告の営業上の損害の内容は,原告が経営する本件歯科医院の医業収益(一般の会社における売上に相当するもの。)から変動費である医業原価を控除した後の医業総利益が本件各投稿により減少したことである。その損害額の算出の方法及び結果は,以下のとおりである。 まず,本件歯科医院の医業収益の額は,本件各投稿の前年である平成 25年には4億6104万4059円であったのに対し,平成2 ことである。その損害額の算出の方法及び結果は,以下のとおりである。 まず,本件歯科医院の医業収益の額は,本件各投稿の前年である平成 25年には4億6104万4059円であったのに対し,平成26年には3億8000万2192円,平成27年には3億2095万1285円,平成28年には2億8629万2658円と大幅に減少した。 次に,本件歯科医院の医業原価の額は,平成25年が2億1781万4926円,平成26年が1億8467万8316円,平成27年が5 114万7807円,平成28年が2636万0849円である。もっとも,平成27年及び平成28年の医業原価が上記のとおり大幅に減少した原因は,原告において医業原価の発生を抑えるための合理化を行ったためである。そこで,上記2年分の医業原価については,平成24年から平成26年までの構成比(各年の医業原価を当該各年の医業収益で 除した値)の平均値である47.43パーセントに上記各年の医業収益を乗ずる方法によって算出するのが相当である。これによれば,上記2年分の医業原価は,平成27年が1億5222万7433円,平成28年が1億3578万8820円となる。 以上により,本件歯科医院の医業総利益の額は,平成25年が2億4 322万9133円,平成26年が1億9532万3876円,平成27年が1億6872万3852円,平成28年が1億5050万3838円となるから,医業総利益の平成25年からの減少分は,平成26年が4790万5257円,平成27年が7450万5281円,平成28年が9272万5295円となり,その合計額(原告の営業上の損害 の額)は,2億1513万5833円となる。 - 11 - 原告が経営する本件歯科医院の医業総利益の減少との間に相当因果関係が 2万5295円となり,その合計額(原告の営業上の損害 の額)は,2億1513万5833円となる。 - 11 - 原告が経営する本件歯科医院の医業総利益の減少との間に相当因果関係があることは,以下のとおり明らかである。 本件歯科医院の患者は,近隣の者が少なく,全国の遠方から通院する者が多いという特徴があり,本件歯科医院の売上実績の多くの部分は,そのウェブ上での良好な評判によって支えられていた。そして,本件歯 科医院における治療内容の重要部分を占める顎関節治療の需要は,高まりこそすれ減少していないし,競争事業者の新規参入もなく,原告の治療失敗等の原告の責めに帰すべき売上減少事由や新型コロナウイルスの蔓延のような突発的な社会現象も存在しなかった。ところが,本件各投稿のうち,「2ちゃんねる」の分が少なくとも3年6か月,「Yaho o! 知恵袋」の分が4か月にわたり,一般の閲覧者による検索・閲覧が容易な状態に置かれ,かつ,その検索結果の順位も相当上位であったことから,本件各投稿(本件各記載)が原因で,ウェブサイト上の原告に対する誤った悪評判に接した患者が本件歯科医院に通院しなくなり,本件歯科医院の売上が減少したといえる。 イ慰謝料 1000万円原告のみならず,原告が経営する本件歯科医院の従業員らも本件各投稿によって動揺し,不安に襲われるなど,著しい精神的苦痛を受け,原告は,従業員らの動揺や不安を緩和・解消することを余儀なくされた。これらの事情を斟酌すると,本件各投稿によって原告に生じた精神的苦痛に対する 慰謝料の額は1000万円を下らないというべきである。 ウ調査費用・削除費用等合計185万9742円コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示等仮処分命令申立事件の費用 99万701 慰謝料の額は1000万円を下らないというべきである。 ウ調査費用・削除費用等合計185万9742円コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示等仮処分命令申立事件の費用 99万7018円本件各投稿の投稿者を特定し,本件各投稿を削除するために,コンテ ンツプロバイダに対する発信者情報開示等の仮処分命令を申し立てる必 - 12 -要が生じ,その弁護士費用,交通費等として,合計99万7018円の支出を余儀なくされた。 前記発信者情報開示等仮処分命令申立事件に要する証拠の獲得に要した事実実験公正証書の作成費用 21万7580円前記の仮処分命令の申立てに当たり,その証拠を獲得するための弁護 士費用,交通費として,合計21万7580円の支出を余儀なくされた。 経由プロバイダに対する発信者情報消去禁止仮処分命令申立事件の費用 29万6244円前記の仮処分命令によって開示された投稿者のIPアドレスを保全し,投稿者の氏名,住所等を特定するために,経由プロバイダに対する 発信者情報消去禁止の仮処分命令を申し立てる必要が生じ,その弁護士費用,交通費等として,合計29万6244円の支出を余儀なくされた。 経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の費用 2万0380円前記の仮処分命令の後,本案の訴えの提起手数料等として,2万03 80円の支出を余儀なくされた。 刑事告訴費用 32万8520円原告は,本件各投稿の投稿者が不明である状態の下で,捜査機関に刑事告訴をしたところ,その後,捜査機関の捜査によって,被告らが本件各投稿を行ったことが判明した。したがって,刑事告訴に要した弁護士 費用及び交通費についても,本件各投稿と相当因果関係を有する損害に該当する。 エ弁護士費用 1134 よって,被告らが本件各投稿を行ったことが判明した。したがって,刑事告訴に要した弁護士 費用及び交通費についても,本件各投稿と相当因果関係を有する損害に該当する。 エ弁護士費用 1134万9778円被告らが負担すべき弁護士費用は,前記アからウまでの総合計額の5パーセントに当たる1134万9778円が相当である。 (被告らの主張) - 13 -いずれも否認し,争う。 ア営業上の損害まず,そもそも,平成27年及び平成28年における本件歯科医院の医業総利益の金額は,本件各投稿前である平成24年及び平成25年の医業総利益の金額を上回っており,原告に営業上の損害は生じていない。次に, 平成26年の医業総利益の金額は,平成24年及び平成25年の医業総利益の金額を下回っているが,これは,平成26年4月1日に消費税率が5パーセントから8パーセントに上昇した影響によるものであり,同年の医業総利益の減少が本件各投稿によって生じたものであるとはいえない。 イ慰謝料 本件歯科医院には,本件各投稿以前より,患者から多数の苦情が寄せられており,本件歯科医院を経営する原告の社会的評価は,本件各投稿時において,相当程度低下した状態にあった。したがって,仮に本件各投稿によって原告の社会的評価が低下したとしても,その程度は限られたものである。 ウ調査費用・削除費用原告が本訴において請求する調査費用・削除費用は,いずれも被告らの民事上の責任を追及するために必要な支出とはいえず,本件各投稿と相当因果関係を有する損害ということはできない。 エ弁護士費用 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各記載が原告の社会的評価を低下させたか)について⑴ ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低 害ということはできない。 エ弁護士費用 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各記載が原告の社会的評価を低下させたか)について⑴ ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判 断すべきものであり(最高裁判所昭和31年7月20日第二小法廷判決・民 - 14 -集10巻8号1059頁参照),記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について,そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも,当該部分の前後の文脈や,記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮 し,前記部分が,修辞上の誇張ないし強調を行うか,比喩的表現方法を用いるか,又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどしつつ,間接的,えん曲的に前記事項を主張するものと理解される場合や間接的な言及はなくとも,前後の文脈等の事情を総合考慮すると,当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解される場合には,同部分は, 事実を摘示するものと見るのが相当である(最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。 ⑵ 本件記載1 及び2について本件記載1及び2-1の事実摘示は,本件歯科医院側が,患者に対し,世界中の歯科のガイドラインに反する虚偽の説明をして,必要性のない高額な 治療を受けるよう勧めているという印象を与えるものであり,本件記載2-2は,これらの摘示事実を前提として,本件歯科医院側の行為を詐欺行為と厳しく批判するものであるから,本件記載1及び2は, 治療を受けるよう勧めているという印象を与えるものであり,本件記載2-2は,これらの摘示事実を前提として,本件歯科医院側の行為を詐欺行為と厳しく批判するものであるから,本件記載1及び2は,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。 ⑶ 本件記載3について ア本件記載3第1文は,「多くの患者さんが,あのやり口におとしいれられ,何の根拠もいない無用の治療に高額の治療費を支払っているのかと思います」というものであるところ,これは,感想又は推測という形式を採用しつつ,黙示的に,多くの患者が,本件記載1で摘示したような虚偽の説明を信じ込み,無用な治療を受けるために本件歯科医院に受診し続け, 高額の治療費を支払い続けることになっていることという,証拠等をもっ - 15 -てその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものであるから,事実を摘示するものである。また,本件記載3第2文以降は,同第1文の摘示事実を前提に,本件歯科医院の手法は洗脳やカルト宗教に類似し,患者に不安を与えるものであるという評価を記載したものである。 そして,このような事実摘示及び論評から成る本件記載3は,本件歯科医 院が,多数の患者に対し,その不安をあおるような虚偽の説明し,それを信じ込ませて必要性のない治療を受けさせることで,高額な治療費を支払わせているという印象を与え,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。 イこれに対し,被告らは,本件記載3全体を,本件記載1及び2の摘示事 実を前提とした評価である旨主張するが,本件各投稿の内容は,投稿者が歯科医師であることを明らかにし,最後に,歯科医師会にも様々な苦情が入っているとした上で,本件歯科医院の実態を知っていただきたいと思い,書込みをした旨 ある旨主張するが,本件各投稿の内容は,投稿者が歯科医師であることを明らかにし,最後に,歯科医師会にも様々な苦情が入っているとした上で,本件歯科医院の実態を知っていただきたいと思い,書込みをした旨又は本件歯科医院において同様の経験をした者がいないか尋ねる旨が記載されているものであり(前記前提事実),本件歯科医 院における治療内容や説明内容について注意喚起をする趣旨で投稿されたものと理解されること,本件記載3第1文は,本件記載1で言及されている2名の患者を超えて,本件歯科医院に受診する患者一般患者について言及しているのであり,これに引き続いて,本件歯科医院に受診する患者一般について厳しい論評がなされていることからすれば,前記アのとおり, 本件記載3第1文は,黙示的に,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものというべきであるから,事実の摘示に当たる。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 ⑷ 本件記載4について ア本件記載4は,本件歯科医院によるインプラント等の治療の見積りが常 - 16 -識外れに高額であること(第1文),インプラント等の治療についても,本件記載1の摘示事実と同様に,本件歯科医院が患者に対して虚偽の説明をしていること(第2文),投稿者以外の岐阜市内の複数の歯科医も,本件歯科医院において,インプラント治療について通常よりも高額な治療費を提示された患者に接していること(第3文)という事実をそれぞれ摘示 したものであり,本件歯科医院が,インプラント等の治療についても,少なくない患者に虚偽の説明をして不相当に高額な治療費を支払わせているという印象を与えるから,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。 イ被告らは,本件記 ラント等の治療についても,少なくない患者に虚偽の説明をして不相当に高額な治療費を支払わせているという印象を与えるから,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。 イ被告らは,本件記載4第2文の「これも顎関節症の話みたいに,あれこ れありもしない講釈を言って,だましているのだと思います」という記載が評価や可能性の指摘である旨主張をしているが,前示のとおり,本件各投稿は,本件歯科医院における治療内容や説明内容について注意喚起をする趣旨で投稿されたものと理解されることに加え,表現としても,反対の可能性について何らの留保を付していないことに照らせば,本件記載4第 2文は,単なる評価や可能性の指摘にとどまらず,黙示的に,顎関節症の治療と同様に,インプラント等の治療についても,本件歯科医院が患者に対して意図的に虚偽の説明をしていることという,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものというべきであるから,事実の摘示に当たる。したがって,被告らの上記主張は, 採用することができない。 さらに,被告らは,本件各投稿の時点で,原告に関して,治療費が高額だとか,治療費に関連する紛争が多発しているとのイメージが既に広まっていた旨主張するが,一般の読者がそのような前提知識を有していたと認めるに足りる証拠はないから,被告らの主張は,採用することができない。 ⑸ 本件記載5について - 17 -本件記載5は,本件歯科医院において,歯科医師等の資格を有しない女性が患者の治療方針をカウンセリングしている事実を摘示するものである。一般の読者からすれば,本件記載1ないし4のような事実摘示及び論評に引き続いていることから,批判的な文脈で当該事実が摘示されているということは理解できる ンセリングしている事実を摘示するものである。一般の読者からすれば,本件記載1ないし4のような事実摘示及び論評に引き続いていることから,批判的な文脈で当該事実が摘示されているということは理解できるが,投稿者がそのことについて批判する根拠が何ら示されてお らず,投稿者による批判の趣旨やその適否が分からないから,これだけで原告の社会的評価が低下するとまで認めることはできない。 ⑹ 被告らの主張についてこれに対し,被告らは,本件記載1ないし5全体について,本件歯科医院の特性(東海地方ではごく少数派である顎関節治療の実施,治療施設の規模 の大きさ,テレビ取材等)を踏まえると,本件各記載に接した通常の読み手からすれば,本件各記載は,治療における医学的見解や治療費あるいは歯科経営について,原告に反対する歯科医師の側から発信された反対意見の表明としての表現だと受け取る旨主張するが,一般の読者らが,被告らの指摘するような本件歯科医院の特性を知っていたとは認められない。また,これま で個別に説示してきたとおり,本件記載1ないし4は,本件歯科医院側が患者に虚偽の説明をして高額な治療費を支払わせている事実を摘示し,又はそのことを前提として論評をするものであるから,投稿者と医学的見解や歯科経営の理念が異なる本件歯科医院に対する批判にとどまるものではない。したがって,被告の主張は,採用することができない。 ⑺ 小括以上によれば,本件記載1ないし4は,いずれも原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。 2 争点2(事実の公共性及び目的の公益性の有無)について⑴ 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事 実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示され - 18 及び目的の公益性の有無)について⑴ 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事 実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示され - 18 -た事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,前記行為には違法性がなく,仮に前記証明がないときにも,行為者において前記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・ 裁判集民事140号177頁参照)。 また,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,前記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に 及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,前記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に前記証明がないときにも,行為者において前記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁,前掲最高裁平成9年9月9日第三小 法廷判決参照)。 ⑵ 本件各記載は,本件歯科医院における治療行為の内容及び患者への説明内容に対する批判を記載したものである。そして,歯科医師による治療行為は患者の健康に関わるものであるし,専門家である歯科医師が専門的な知見がない患者に対して虚偽の説明をして高額な医療を受けさせることがあれば, 社会的な責任のみならず,法律上の責任も生じ得るも は患者の健康に関わるものであるし,専門家である歯科医師が専門的な知見がない患者に対して虚偽の説明をして高額な医療を受けさせることがあれば, 社会的な責任のみならず,法律上の責任も生じ得るものである。そうすると,いずれの事項も,国民,特に本件歯科医院に現に受診している者又はこれから受診する可能性のある者の正当な関心の対象であるから,本件各記載は公共の利害に関する事実に係るものである。 ⑶ そして,前記⑵のとおり,本件各投稿の内容に公共性があることに加え, 被告Bは,平成24年9月26日,岐阜県保険医協会の歯科社保・研究部合 - 19 -同部会において,本件歯科医院について,顎関節症の患者に対し,このままでは痴呆になる,がんになると脅して法外な治療費を請求している旨の報告をしたが,同協会としては,情報収集を進めるという対応にとどまったこと(乙27)にも照らせば,被告Bは,本件各投稿につき,専ら公益を図る目的を有していたと認められる。 これに対し,原告は,本件歯科医院と被告歯科医院は相当近距離にあること,被告Bが被告Dに対して被告歯科医院の広告も依頼していたことなどを指摘し,本件歯科医院に受診していた可能性が高い見込み患者を被告Bが経営する歯科医院に誘導し,売上につなげる目的で本件各投稿をした旨主張する。しかし,本件各投稿の内容は,被告歯科医院への受診を勧めるものでは ないこと,患者が本件歯科医院への受診を差し控えることが被告歯科医院の患者が増加することに直ちに結びつくものではなく,本件各投稿が広告の手段としては相当に迂遠であることに照らせば,原告の指摘する事情は前記判断を左右するものではない。また,原告は,被告Bが,原告を妬み,その信用を失墜させて業務を妨害する目的を有していた旨主張するが,そのことを 相当に迂遠であることに照らせば,原告の指摘する事情は前記判断を左右するものではない。また,原告は,被告Bが,原告を妬み,その信用を失墜させて業務を妨害する目的を有していた旨主張するが,そのことを 認めるに足る証拠はない。 ⑷ 次に,被告会社及び被告Dについては,前記前提事実⑵ウのとおり,被告会社の代表者である被告Dは,被告会社と被告Bとの間の取引を継続するべく,被告会社のために,被告Bによる本件各記事の投稿の依頼に応じたのであり,本件各記事の投稿につき,専ら公益を図る目的を有していたとは認め られない。したがって,被告会社及び被告Dは,争点3について判断するまでもなく,共同不法行為に基づき,損害賠償責任を負う。 3 争点3(真実性,相当性,意見ないし論評としての域の逸脱の有無)について⑴ 本件記載1ないし3について ア認定事実 - 20 -本件歯科医院に受診した患者に交付された平成24年8月8日付けのニューロマスキュラー矯正治療契約書おいては,病名として「叢生開咬交差咬合顎関節症」が記載され,費用として,診断料20万1600円,治療費204万3300円,調整管理料47万2500円,保定装置7万3500円が記載されていた(乙6の2。以下,この患者を 「患者E」という。)。 原告が本件各記事の投稿以前に出稿した広告には,顎関節症について,原因はさまざまであるが,顎の症状だけにとどまらず,手や指先のしびれ,アトピー,頭痛,生理痛等の多くの全身症状,原因が特定できない不定愁訴等を引き起こすこともある旨の記載がある(乙17)。 国民生活センターは,平成19年8月から平成25年12月までの間に,本件歯科医院に関する相談事例を31件受け付けており,その中には,本件歯科医院において, ある旨の記載がある(乙17)。 国民生活センターは,平成19年8月から平成25年12月までの間に,本件歯科医院に関する相談事例を31件受け付けており,その中には,本件歯科医院において,顎関節症の治療契約を勧められた際,このまま放置したら大変なことになると家族が言われたとするものが2件,今,治療しないと脳梗塞の危険があると友人が言われたとするものが1 件あった。なお,被告Bは,本件各記事の投稿の当時,これらの相談事例の存在及び内容を知らなかった。(乙8)イ被告らは,本件記載1について,被告Bが患者Eから,本件各記事の投稿に先立ち,本件歯科医院の副院長から本件記載1と同旨の内容を言われた旨の相談を受けたところ,患者Eの相談内容は,前記アの各事実と整合 していることから,本件記載1には真実性ないし真実相当性が認められる旨主張し,被告Bもこれに沿う供述をしている。 しかしながら,被告Bが,本件各記事の投稿に先立ち,患者Eからそのような相談を受けていたこと自体は真実であったとしても,患者Eの相談内容は,顎関節のかみ合わせ治療の治療費が300万円であるという説明 を受けたとする点で,患者Eが交付を受けたニューロマスキュラー矯正治 - 21 -療契約書において,治療費は204万3300円とされ,診断料20万1600円,調整管理料47万2500円及び保定装置7万3500円を加算しても合計額が279万0900円にとどまることと必ずしも整合しておらず,患者Eが,本件歯科医院において説明された内容を正確に理解して被告Bに伝えたのか疑義があること,原告による広告の内 容は,顎関節症と重大な疾患との関連性を指摘したものではなく,国民生活センターに対する相談内容も,相談内容が家族や友人からの伝聞に基づく可能 に伝えたのか疑義があること,原告による広告の内 容は,顎関節症と重大な疾患との関連性を指摘したものではなく,国民生活センターに対する相談内容も,相談内容が家族や友人からの伝聞に基づく可能性がある上,相談者自身が真実を相談していることを担保する事情もないことに照らせば,本件記載1の摘示事実の重要な部分が真実であるとは認められないし,被告Bにおいて,患者E に交付された前記ニューロマスキュラー矯正治療契約書等の書面を見る以外に,患者Eの相談内容の真実性を調査したというような事情はうかがわれないことに照らせば,これを真実と信ずるについて相当の理由があったとも認められない。 ウ被告らは,本件記載2-1の事実摘示は,日本顎関節学会のガイドライ ンや被告B自身の研究経験に基づくものであり,重要な部分においては真実性ないし真実相当性が認められる旨主張している。 この点,確かに,被告らが指摘するガイドラインである「顎関節症患者のための初期治療ガイドライン」(乙3)には,顎関節症は,大規模な疫学調査の結果,進行する疾患ではなく時間の経過とともに(数日から数週 間で)症状が軽くなる疾患であることが明らかになっており,顎関節症患者において,症状改善を目的とした咬合調整(歯を削って行うかみ合わせの調整)は行わないことを推奨する旨の記載がある。 しかしながら,本件記載1及び2は,世界中のガイドラインにおける見解を根拠にして,本件歯科医院における顎関節のかみ合わせ治療に意味が ないと述べるものであるところ,前記ガイドラインのほかに,同旨の見解 - 22 -が示されたガイドラインが存在することを認めるに足る証拠はない。また,前記ガイドラインも,およそあらゆる場合においてかみ合わせの治療の有効性を否定したものとまでは評 ,同旨の見解 - 22 -が示されたガイドラインが存在することを認めるに足る証拠はない。また,前記ガイドラインも,およそあらゆる場合においてかみ合わせの治療の有効性を否定したものとまでは評価できない。そうすると,客観的に,顎関節症の治療にかみ合わせの治療が有用であるか否かはさて措き,本件記載2-1の摘示事実の重要な部分が真実であるとは認められない。 そして,被告Bは,その本人尋問において,世界中のガイドラインを確認したわけではなく,一般的な顎関節学会の見解は,他国のガイドラインの内容を加味している旨供述するにすぎないことに照らせば,これを真実と信ずるについて相当の理由があったと認めることもできない。 さらに,以上判示したところからすれば,本件記載2-2に関する被告 らの主張に理由がないことは明らかである。 エ本件記載3は,前示のとおり,本件記載1及び2の摘示事実を前提とするものであるから,その摘示事実及び論評の前提事実の重要な部分が真実であるとは認められないし,これを真実と信ずるについて相当の理由があったとも認められない。また,本件記載3の論評のうち,本件歯科医院が 患者を洗脳し,まるでカルト宗教のようだとする部分は,原告に対する人身攻撃に及ぶものであり,意見ないし論評としての域を逸脱しているといわざるを得ない。 ⑵ 本件記載4についてア本件記載4第1文について,証拠(乙29,原告本人)によれば,本件 歯科医院は,患者に対し,平成28年1月19日付けの治療計画書において,インプラント5本と骨造成の手術を含む治療内容について,総費用が611万6040円とする見積りを提示したことが認められる。そうすると,本件歯科医院において,本件記載4第1文に記載された内容の治療を行う場合に,その治療費は相応 術を含む治療内容について,総費用が611万6040円とする見積りを提示したことが認められる。そうすると,本件歯科医院において,本件記載4第1文に記載された内容の治療を行う場合に,その治療費は相応に高額なものになると推認される。 もっとも,本件記載4第1文は,本件歯科医院における治療が不相当に - 23 -高額であることを摘示して原告の社会的評価を低下させるものであるから,一般的な治療費の水準についても重要な部分に当たると解される。 ところが,本件記載4第1文のうち一般的な治療費の水準を摘示した部分である,通常は前記内容の治療であるならば高くても治療費が200万円に至らないという事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,結局,本件記載4第1文の摘示事実の重要な部分が真実であると認めることはできないし,これを真実と信ずるについて相当の理由があったと認めることもできない。 イ本件記載4第2文は,インプラント等の治療についても,本件記載1の摘示事実と同様に,本件歯科医院が患者に対して意図的に虚偽の説明をし ていることをも摘示したものであるが,本件全証拠に照らしても,その重要な部分が真実であるとは認めるに足りる証拠はなく,これを真実と信ずるについて相当の理由があったとも認めるに足りる証拠もない。 ウ本件記載4第3文のうち,岐阜市内の歯科医から聴取した内容として記載された事実は,被告Bの供述以外に,これを裏付ける証拠がなく,重要 な部分が真実であると認めることはできず,これを真実と信ずるについて相当の理由があったと認めることもできない。 ⑶ 小括以上によれば,本件記載1から4につき,その重要な部分が真実であると認めることはできず,被告Bにおいて,これを真実と信ずるについて相当の 理由があっ ったと認めることもできない。 ⑶ 小括以上によれば,本件記載1から4につき,その重要な部分が真実であると認めることはできず,被告Bにおいて,これを真実と信ずるについて相当の 理由があったと認めることはできないから,被告Bは,被告会社及び被告Dとともに,原告に対し,名誉毀損を理由とする共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 4 争点4(損害額)について⑴ 営業上の損害について ア本件歯科医院の医業収益,医業原価及び医業総利益の推移等 - 24 -本件歯科医院の医業収益(雑収入を除いた額)は,本件各投稿の前年である平成25年が4億6104万4059円(保険診療分4883万0976円と自由診療分4億1221万3083円の合計)であったのに対し,平成26年が3億8000万2192円(保険診療分4667万4094円と自由診療分3億3332万8098円の合計),平成27年が3億2 095万1285円(保険診療分5362万3689円と自由診療分2億6732万7596円の合計),平成28年が2億8629万2658円(保険診療分5244万0233円と自由診療分2億3385万2425円の合計)であり(甲14,45ないし48),本件各投稿後,減少傾向にあるといえる。 もっとも,本件歯科医院の医業原価は,平成25年が2億1781万4926円であるのに対し,平成26年が1億8467万8316円,平成27年が5114万7807円,平成28年が2636万0849円と減少傾向にある(甲14,45ないし48)。なお,本件歯科医院に係る原告の平成25年分ないし平成28年分の所得税青色申告決算書(一般用) における損益計算書の売上原価欄の仕入金額(製品製造原価)の金額(以下,これを「仕入金額」という。)は,平成2 医院に係る原告の平成25年分ないし平成28年分の所得税青色申告決算書(一般用) における損益計算書の売上原価欄の仕入金額(製品製造原価)の金額(以下,これを「仕入金額」という。)は,平成25年が2億0717万9529円,平成26年が1億9411万3602円,平成27年が5227万9798円,平成28年が2735万1179円であるところ(甲45ないし48),平成27年及び平成28年の医業原価(上記損益計算書の 売上原価欄の差引原価の金額と同額)の減少は,上記のとおりの仕入金額の減少に伴うものであり,また,この仕入金額の減少は,売上金額の減少傾向を踏まえたものであることがうかがわれる。 そして,本件歯科医院の医業総利益(医業収益から医業原価を控除した額)は,平成25年が2億4322万9133円であるのに対し,平成2 6年には1億9532万3876円に減少したものの,平成27年には2 - 25 -億6980万3478円,平成28年には2億5993万1809円と増加している。 イ平成26年分の営業上の損害について本件歯科医院の月別売上(収入)金額(雑収入を除く。)は,平成24年3月及び平成25年3月はいずれも3000万円台,平成26年1月は 2000万円台,同年2月は3000万円台であったのに対し,本件各投稿の開始後である同年3月には1億2000万円台と飛躍的に増加し,その後,同年4月から同年11月までは1000万円台から2000万円台に落ち込んでいる(甲44ないし46)。 以上のとおりの本件歯科医院の売上金額(医業収益)の変動状況等に加 えて,一般に,同年4月1日の消費税増税を目前にした,いわゆる駆け込み需要により,売上額が,同年3月に大幅に増加するものの,翌月以降は,その反動により減少する傾 (医業収益)の変動状況等に加 えて,一般に,同年4月1日の消費税増税を目前にした,いわゆる駆け込み需要により,売上額が,同年3月に大幅に増加するものの,翌月以降は,その反動により減少する傾向があり(公知の事実),かつ,本件歯科医院においても上記駆け込み需要が見られたこと(原告本人(同本人調書45頁))を併せ考えると,上記のとおりの同年における本件歯科医院の売上 金額(医業収益)の変動は,消費税の増税による影響を大きく受けたものである可能性が十分にあるから,同年1月から2月にかけて始まった本件各投稿による影響によるものであるかどうか疑問が残る。 これに対し,原告は,本件歯科医院に来院する患者の8割はインターネット上の情報を参考にしており,本件歯科医院における医業収益の多くの 部分はインターネット上で原告の治療の評判が良かったことに支えられていた旨主張し,原告本人もこれに沿う供述をする。しかし,これを裏付ける客観的な証拠はなく,むしろ,平成23年11月付けの健康保険組合連合会による報告書に記載されたアンケートの結果(甲57)によれば,医療機関を選ぶ際に利用するインターネットサイトとしては,医療機関のホ ームページ,都道府県・市区町村のホームページ,医療機関検索サイトが - 26 -上位に上がり,インターネット上の掲示板は挙げられておらず,本件各投稿の実際の閲覧数について見ても,平成26年4月時点での本件各投稿の閲覧数が数百回程度にとどまっていたことからすれば(甲2,4),本件各投稿が本件歯科医院の売上金額に与えた影響の程度を重視することは相当でないというべきである。 以上判示したところを総合して考慮すると,本件各投稿が,本件歯科医院の平成26年における医業収益の減少,ひいては,医療総利益の減少に 影響の程度を重視することは相当でないというべきである。 以上判示したところを総合して考慮すると,本件各投稿が,本件歯科医院の平成26年における医業収益の減少,ひいては,医療総利益の減少に結び付いたと認めることはできない。 ウ平成27年分及び平成28年分の営業上の損害について前記アのとおり,本件歯科医院の医業総利益は,平成27年及び平成2 8年には,本件各投稿の前年である平成25年よりも増加しており,本件各投稿後の減少の事実自体が認められないから,営業上の損害が発生したとは認められない(もっとも,この点につき,原告は,本件歯科医院の平成27年及び平成28年の医業原価が大幅に減少した原因は,原告が医業原価の発生を抑える合理化を行ったことにあるから,本件歯科医院の医業 総利益の算定に当たり,前示アの両年の医業原価をそのまま採用することは相当でなく,平成24年ないし平成26年の構成比(医業原価を医業総利益で除した値)を用いるべきであり,この算定方法によれば,医業総利益の減少が認められる旨主張する。しかし,本件全証拠(原告本人(同本人調書33頁)その他)を検討しても,原告の上記算定方法を採用すべき 合理的な理由は見当たらないから,原告の上記主張は,採用することができない。)。 また,以下に述べるとおり,本件各投稿が,本件歯科医院の平成27年及び平成28年における医業収益(自由診療分)の減少に結び付いたと認めることはできない。すなわち,第1に,前記イのとおり,本件各投稿が 本件歯科医院の医業収益に与えた影響の程度を重視することは相当でな - 27 -い。加えて,第2に,本件各投稿の内容は,本件歯科医院が患者に対し虚偽の説明をして不必要な治療を受けさせるというものであり,その内容に照らせば,保険診療 を重視することは相当でな - 27 -い。加えて,第2に,本件各投稿の内容は,本件歯科医院が患者に対し虚偽の説明をして不必要な治療を受けさせるというものであり,その内容に照らせば,保険診療と自由診療とを問わず,本件歯科医院の医業収益の額に影響し得るものであるから,もし,原告の主張のとおりに,本件各投稿が原因で,患者が本件歯科医院に通院しなくなったというのであれば,自 由診療分のみならず,保険診療分についても減少するのが自然である。ところが,本件歯科医院の医業収益のうち,保険診療分の額は,前記アのとおり,平成25年が4883万0976円,平成26年が4667万4094円,平成27年が5362万3689円,平成28年が5244万0233円であり,平成27年及び平成28年には,むしろ,増加傾向にあ る。 エ以上により,営業上の損害に関する原告の主張はいずれも理由がない。 ⑵ 慰謝料について前示のとおりの本件各投稿の内容,本件記載2及び4の閲覧数からうかがわれる本件各投稿の内容が伝播した範囲,本件各投稿の当時,原告が受けて いた社会的評価,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,本件各投稿によって原告に生じた精神的損害を慰謝するための金額は,200万円とするのが相当である。 ⑶ その他の費用についてア証拠(甲33の1,甲34の1,甲35,36の1,甲40ないし43) 及び弁論の全趣旨によれば,原告は,①本件記事2及び4について,これらが匿名で投稿されていたことから,コンテンツプロバイダであるヤフー株式会社に対して発信者情報の開示を命ずる仮処分を得た上で,②同社から開示された発信者情報を基に,経由プロバイダであるエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に対する発信者情報消去禁止の仮処分を 社に対して発信者情報の開示を命ずる仮処分を得た上で,②同社から開示された発信者情報を基に,経由プロバイダであるエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に対する発信者情報消去禁止の仮処分を 申し立て,同仮処分申立事件の手続外で,同社との間で,同社が保有する - 28 -発信者情報を保管する旨合意し,③その後,岐阜北警察署に対し,本件記事2及び4が名誉毀損罪及び信用毀損罪に該当するとして告訴をしたこと,④同署からの要請に基づいて,エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に対し発信者情報開示請求訴訟を提起したこと,⑤同署から,被告B及び被告Dが本件記事2及び4を投稿したとの情報提供を受け,本 件訴訟を提起するに至ったこと,⑥これらの手続についていずれも弁護士に委任していることが認められる。 イ進んで,本件各投稿と上記アの各手続に要した費用との間の相当因果関係の有無について検討する。 まず,上記アの①のヤフー株式会社に対する仮処分及び上記アの②のエ ヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に対する仮処分については,民事上の損害賠償請求訴訟の前提として(投稿者の特定のために)必要不可欠な手続であるといえる。これに対し,上記アの③の告訴については,刑事処罰を求めるための手続であり,民事上の損害賠償請求訴訟の前提として必要不可欠な手続ではないし(なお,原告は,結果として,告訴 後に捜査機関から投稿者の特定に係る情報提供を受けることができたにすぎない。),弁護士に依頼しなければこれをなし得ないものでもないことからすると,当該告訴のために要した弁護士費用及び交通費並びに上記アの④の告訴後に岐阜北警察署からの要請に基づいて提起した発信者情報開示請求訴訟の費用は,本件各投稿との間に相当因果関係がある損害 とからすると,当該告訴のために要した弁護士費用及び交通費並びに上記アの④の告訴後に岐阜北警察署からの要請に基づいて提起した発信者情報開示請求訴訟の費用は,本件各投稿との間に相当因果関係がある損害と認め ることはできない。 そして,原告は,上記アの①,②の各仮処分手続のため,弁護士に対する報酬だけでも,前者について86万4000円,後者について27万円を支払うとともに,上記アの①の仮処分申立事件に関する証拠収集のために作成した事実実験公正証書の作成費用及び交通費等の実費を支払ってい るところ(甲33の1,甲34の1,甲36の1),このうち本件各記事 - 29 -の投稿と相当因果関係のある損害としては,本件訴訟の弁護士費用を含めて,前示⑵の慰謝料額の2割である40万円の限度でこれを認めるのが相当である。 ⑷ 小括以上によれば,原告に生じた損害は240万円となる。なお,遅延損害金 の起算日は,本件各投稿の最終日である平成26年2月7日とすべきである。 5 結論よって,原告の被告らに対する請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部 裁判長裁判官加島滋人 裁判官久田淳一 裁判官治部宏樹

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