1令和4年1月25日宣告 広島高等裁判所令和3年(う)第63号 覚醒剤取締法違反被告事件原審 山口地方裁判所 令和3年(わ)第54号,第72号主 文本件控訴を棄却する。 理 由1 本件控訴の趣意は検察官藤本瑞穂が提出した山口地方検察庁検察官和田裕己作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は弁護人清水博が作成した答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。論旨は,要するに,被告人を懲役1年6月の実刑に処した原判決の量刑が軽過ぎて不当であるというものである。 そこで,記録を調査して検討する。 2⑴ 本件は,原判決が「罪となるべき事実」で認定したとおり,令和3年5月,被告人が当時の自宅において,覚醒剤約0.134gを所持し(原判示第1),覚醒剤を自己の身体に注射して使用した(原判示第2)という覚醒剤取締法違反2件から成る事案である。 ⑵ なお,被告人の前科関係を見ると,被告人は,異種前科による執行猶予期間中である平成17年,覚醒剤約0.05gを1万円で譲渡した罪(覚せい剤取締法違反)により懲役1年の実刑に処せられてその刑の執行を受け終わった後,①平成25年6月,覚醒剤の自己使用1件及び覚醒剤約0.09gの単純所持1件から成る事案(覚せい剤取締法違反)により懲役1年4月の実刑に処せられて(以下,この前科を「前科①」という。)その刑の執行を受け終わり,②平成30年9月,覚醒剤の自己使用1件及び覚醒剤約0.299gの単純所持1件から成る事案により懲役2年(うち6月について2年間保護観察付執行猶予)の刑に処せられ(以下,この前科を「前科②」という。),約1年2か月間の服役後,令和元年12月の仮釈放を経て令和2年2月 持1件から成る事案により懲役2年(うち6月について2年間保護観察付執行猶予)の刑に処せられ(以下,この前科を「前科②」という。),約1年2か月間の服役後,令和元年12月の仮釈放を経て令和2年2月に実刑部分の期間の 2執行を終え,一部執行猶予の期間中である令和3年5月に本件各犯行に及んだものである。 3 原判決について検討する。 ⑴ 原審において公訴事実に争いはなく,量刑のみが争われた。そして,検察官が懲役3年を求刑したところ,原判決は,「量刑の理由」において,⑵のとおり説示して被告人を懲役1年6月に処した。 ⑵ 被告人には,同じ罪名の前科3犯を含む前科4犯があり,直近前科として,覚せい剤取締法違反により平成30年9月に懲役2年(その刑の一部である懲役6月について2年間保護観察付執行猶予)の実刑に処せられたにもかかわらず,その一部執行猶予期間中に本件各犯行に及んでおり,厳しい非難に値する。 覚醒剤に対する親和性・依存性,使用の常習性は根深く,この種事犯についての規範意識の低さも明らかであり,刑事責任は軽くない。 そうすると,被告人が本件を認め反省していること,かつての職場の先輩が今後の雇用・監督を約束していることなど被告人のために酌むべき事情を考慮しても,懲役1年6月の実刑に処することはやむを得ない。 ⑶ 以上の原判決の説示について見ると,原判決の指摘する量刑事情及びその評価に誤りはないといえる。そして,原判決の量刑は,検察官の求刑を大幅に下回っていることはもとより,本件犯情等によって構成される量刑傾向の大枠の中にあって下限ともいうべき軽さであるところ,このような量刑に至った刑を軽減する事情が全く示されていない点で,不適切なものといわざるを得ないが,後述のとおり,その量刑自体は,いまだ軽過ぎて不当なものとまではい 下限ともいうべき軽さであるところ,このような量刑に至った刑を軽減する事情が全く示されていない点で,不適切なものといわざるを得ないが,後述のとおり,その量刑自体は,いまだ軽過ぎて不当なものとまではいえない。 4 所論について検討する。 ⑴ 所論は,次のとおり主張する。 覚醒剤自己使用事犯では,覚醒剤使用量や使用態様については事案ごとの差異はそれほど大きいものではなく,覚醒剤を使用した経緯に酌量できる事情のあることはほとんど考え難いことから,2犯目以降は,再犯に及んではならな 3いという反対動機を打ち破って犯罪を行うに至った意思決定への非難を中心とする行為責任の加重を基本として,直近処罰後の経過期間が,同種前科の感銘力減弱が避けられないほどに長期化している場合を除き,前刑より重い刑が科されるという一般的傾向が認められ,行為責任に基づく量刑の大枠を決めるに当たっては,このような量刑傾向を目安とすることが,量刑判断の公平性とそのプロセスを担保する上で重要となる。上記の量刑傾向は,前刑の一部執行猶予期間中に再犯が行われた場合にも同様に妥当し,その際に基準とされるべき前刑の刑期は,前刑の実刑部分でなく宣告刑全体と解すべきである。調査結果によれば,覚醒剤取締法違反の事実のみを罪となるべき事実とする前刑の刑の一部執行猶予期間中に覚醒剤取締法違反の事実のみで有罪が宣告された事案339件(刑の一部執行猶予制度施行日から原判決宣告日までの間に確定したもの)のうち,前刑の宣告刑を上回る事案は295件,同一刑の事案は32件,下回る事案は12件であり,その12件の多くには特段の事情が認められた。 そして,上記339件のうち,被告人に覚醒剤取締法違反の同種前科が3犯ある事案は83件であり,このうち,前刑の宣告刑を上回る事案が74件で,下回る事 り,その12件の多くには特段の事情が認められた。 そして,上記339件のうち,被告人に覚醒剤取締法違反の同種前科が3犯ある事案は83件であり,このうち,前刑の宣告刑を上回る事案が74件で,下回る事案は3件のみであり,この3件のうち2件には特段の事情が認められた。 そして,上記83件のうち,本件同様に前刑の宣告刑が懲役2年である事案について見ると,合計34件であり,そのうち懲役2年を下回る事案は1件のみで,懲役2年4月を宣告したものが最も多く14件であることから,本件と同様の事案における量刑傾向としては,懲役2年を上回り,懲役2年4月がその中心といえる。そして,本件において,上記の量刑傾向と異なる刑に処すべき特段の事情は全く認められない。 ⑵ そこで検討すると,所論は,懲役2年以上との量刑傾向を導くに当たって,同種前科3犯の事案を参照しているが,被告人の前科関係は2⑵のとおりであり,最初の覚醒剤前科は本件から15年以上前で,前科①とも相当程度期間が離れた平成17年宣告のものであり,かつ,事案としても前科①②及び本件と 4は異なる覚醒剤の少量譲渡であって,これを被告人の量刑上,大きく考慮に入れることが相当とは解されず,所論はその前提に疑問の余地がある。 次に,所論は,「覚醒剤自己使用の再犯については,前刑よりも重い刑が科される」という量刑傾向が存在するとし,これを量刑判断の目安とすべきであり,そのことが量刑の公平を確保するために重要であると主張する。 しかしながら,量刑判断は,飽くまで,個々の事案についての行為責任にふさわしい刑を明らかにすることを中核とし,そのことにより量刑の公平が確保されるものであるところ,同一の事案において,前刑の刑期の差異によって今回の量刑上の差異が生じることが,必ずしも量刑の公平の確保につながるも 明らかにすることを中核とし,そのことにより量刑の公平が確保されるものであるところ,同一の事案において,前刑の刑期の差異によって今回の量刑上の差異が生じることが,必ずしも量刑の公平の確保につながるものと解することはできない。すなわち,前刑の刑期についても,その判決裁判所の量刑裁量によって一定程度の軽重の差異があり得る現状を前提とする限り,今回の刑の大枠を決めるに当たり,その下限について,前刑の刑期を上回るものとして設定することは,かえって不公平をもたらしかねないものといわなければならない。その意味で,前刑の宣告刑が,今回の事案の行為責任の重さに直ちに結び付くものとは解されない。 所論はいずれも採用できない。 5 もっとも,「同種再犯については,直近処罰後の経過期間が,同種前科の感銘力減弱が避けられないほどに長期化している場合を除き,再犯に及んではならないという反対動機を打ち破って犯罪を行うに至った意思決定への非難を中心とする行為責任の加重が認められる。」との所論の指摘は正当である。こうした所論の指摘に鑑み,以下,原判決の量刑が,行為責任によって定められる量刑の大枠を逸脱した軽過ぎるものであるかについて検討する。 被告人の前科関係は2⑵のとおりであり,被告人は,前科①②についての各有罪判決を受けて前科①の刑及び前科②の実刑部分の執行を受け終わったのみならず,前科②の刑の一部執行猶予期間中に再犯防止プログラムを受講していたにもかかわらず,再犯に及んだものであって,厳しく非難されるべきであり,相応期 5間の実刑は免れない。 しかしながら,被告人については,平成17年の覚醒剤譲渡の前科を除けばいずれも覚醒剤の自己使用及び単純所持の同種前科2犯であるところ,本件が刑の一部執行猶予期間中,かつ保護観察期間中の同種再犯である しかしながら,被告人については,平成17年の覚醒剤譲渡の前科を除けばいずれも覚醒剤の自己使用及び単純所持の同種前科2犯であるところ,本件が刑の一部執行猶予期間中,かつ保護観察期間中の同種再犯であるという点を考慮しても,覚醒剤の自己使用及び単純所持の事案については,1回目の犯行(前科①)の刑期についても,また同種再犯(前科②)の際にどの程度加重するかについても,それぞれの判決裁判所の量刑裁量による一定の幅があり得ることを前提として考察すれば,本件において,懲役1年6月の刑期が,量刑傾向の大枠を逸脱した軽過ぎて不当なものとまでは解されない。 検察官の主張する前刑の刑期との比較や前刑の感銘力という観点を踏まえても,懲役2年の前刑に係る犯罪事実は,本件同様,併合罪関係にある覚醒剤の自己使用及び単純所持であったところ,単純所持に係る覚醒剤の量は,本件の2倍を超える約0.299gであり,単純所持についての犯情に一定の格差があることや,被告人は,前刑の懲役2年の宣告刑のうち懲役1年6月の実刑部分の執行は終了したものの,宣告刑全部の執行を受け終わる前に本件犯行に及んだものであるから,前刑の懲役2年という宣告刑の感銘力について,宣告刑の執行を全部受け終わった後に犯行に及んだ場合(この場合は,本件と異なり,上記懲役2年の前科は累犯加重を根拠付ける累犯前科となる。)と同列に論じることができないことなどに照らせば,原判決の量刑が軽過ぎて不当なものとまではいえない。 結局,論旨は理由がない。 6 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑訴法181条3項本文により当審における訴訟費用を被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。 令和4年1月26日広島高等裁判所第1部 6 文により当審における訴訟費用を被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。 令和4年1月26日広島高等裁判所第1部 6裁判長裁判官 伊 名 波 宏 仁 裁判官 富 張 真 紀 裁判官 廣 瀬 裕 亮
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