平成13(わ)806 商法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年10月21日 広島地方裁判所
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判決文本文10,808 文字)

主文 被告人を懲役2年6月に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,広島市a区b町c番d号所在の株式会社Aの代表取締役副社長(平成12年5月24日から同社長)として,同社の業務全般を統括掌理していたものであるが,自己が代表取締役社長を務める,同社の子会社である株式会社Bが多量の在庫商品を抱えていたところ,同商品は,流行遅れなどにより商品価値を減じており,同商品を仕入れても百貨店では販売する見込みがなく,かつ,これを仕入れるなどして上記Bの財務支援を行う差し迫った必要もなかったのであるから,同商品の仕入れを差し控えるなど上記Aのため忠実に職務を遂行すべき任務があったにもかかわらず,上記Bの利益を図る目的をもって,その任務に背き,平成8年11月ころから平成12年5月ころまでの間,販売の見込みのないまま,上記Bから,上記商品を購入し,平成8年12月24日から平成12年6月21日までの間,同市a区e町f丁目g番h号所在の株式会社C銀行e町支店等の上記B名義の普通預金口座に上記商品購入代金等として,合計3億1929万4598円を振込送金し,もって,上記Aに対し,同額の財産上の損害を加えたものである。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①被告人の本件買取は,親会社から子会社に対する財務支援としてなされたもので,Aの代表取締役としての任務に違背したものではない,②本件買取により,Aが買取価格相当の損害を被ったとはいえない,③被告人には,任務に違背することやAに損害を与えることの認識がなく,特別背任罪の故意がない,④被告人は,単にBの利益を図ったのではなく,Aの利益をも図る目的があ 相当の損害を被ったとはいえない,③被告人には,任務に違背することやAに損害を与えることの認識がなく,特別背任罪の故意がない,④被告人は,単にBの利益を図ったのではなく,Aの利益をも図る目的があったから,図利加害の目的があったとはいえない旨主張し,いずれの点からみても被告人は無罪であるとして争うので,以下,補足説明を加える。 2 関係証拠によれば,Bが多量の在庫を抱えるに至った経緯,被告人がその在庫品の買取を決意した経緯及び本件買取の状況,本件買取当時のB,A及びDグループの経営状態等について,以下の事実が認められる。 (1) Bが多量の在庫を抱えるに至った経緯等① Aの概要株式会社Aは,昭和40年代に広島市に設立された百貨店で,株式会社Dの代表取締役社長であったEの積極的な出店拡大方針に基づき全国に多数設立されたDグループ百貨店の一つである。大都市を除くと各百貨店は,1店1社の別法人とされ,それぞれが独立の組織を持って独自に営業を行っていたものの,Eが名目上Dグループ各社の代表取締役社長となり,各百貨店の人事権を掌握していたほか,出店の際の建設資金,設備資金,運転資金等を各社間で出資,貸付,銀行借入の保証を行うなど相互に密接なつながりを有していた。 ② Bの前身Fの設立と多量在庫の発生昭和61年5月,A代表取締役専務店長(平成4年5月から代表取締役副社長店長)に就任したGは,当時,Dグループの多角経営化と売上拡大方針を受けて,Aにも種々の子会社を設立することとし,その一環として,昭和61年7月,E及びA取締役会の承認を得て,衣料の製造等を目的とした子会社F株式会社を設立した。そして,自ら同社代表取締役社長に就任し,A内販店次長 こととし,その一環として,昭和61年7月,E及びA取締役会の承認を得て,衣料の製造等を目的とした子会社F株式会社を設立した。そして,自ら同社代表取締役社長に就任し,A内販店次長(昭和62年5月から取締役)のHをF代表取締役専務に据え,A社員をFに出向させた。なお,F会長に就任したEは,A同様経営に直接関与せず,Gが実質的な経営責任者,Hが現場責任者の立場にあった。 Fは,製造に関しては素人である出向社員が大半を占めていたため,外注によって完成商品を仕入れる方針をとり,その後,商社を介して海外製品を仕入れるようにもなったが,販路の確保が不十分であった上,国内製品は量販店向けのものであり,海外製品も不良品が多かったことなどから販売が進まず,Fは設立当初から多量の商品在庫を抱え込むこととなった。 ③ 被告人の入社とIとの業務提携昭和62年2月,Eの誘いで営業部長としてFに入社した被告人は,東京支社長を経て,同年8月には代表取締役副社長に昇格したが,海外製品に関する商社との紛議の解決に尽力した際,商品企画から製造までの一切を外部に委託していたFのやり方に問題があったと考え,かねてより親交のあった学校法人Iの理事長Jにアパレル製品の企画製造について助言を求めた。 Iは,服飾学部のある女子大学や服飾専門学校を経営し,多年にわたってBモード等の高級婦人服を製造販売し,Bブランドとして実績を上げていたところ,被告人は,Jから,高級婦人服を製造販売しているファッション部の事業を引き受けないかと提案され,G及びEの賛同を得て,これを譲り受けることとした。そして,同年12月1日ころ,FとIとの間で業務提携に合意し,これにより しているファッション部の事業を引き受けないかと提案され,G及びEの賛同を得て,これを譲り受けることとした。そして,同年12月1日ころ,FとIとの間で業務提携に合意し,これにより,Fは,Bブランドの営業権を丸ごと譲り受けると共に,昭和61年春夏物以前の古い在庫についても簿価で引き取ることとなった。 ④ 在庫品の増加と被告人の対応Fは,Iからの出向職員を含む新体制で業務を始めたが,Gは,Eのグループ年間売上1兆円構想を達成するためには,Fにおいて五,六十億円の売上が必要であると考え,昭和63年度売上目標を100億円に設定するなど強気の経営方針をとり,Bブランドの各種商品(以下,「B商品」という。)の販路拡大を目指してBショップを多数新規に出店したり,B商品を販売する高級ブティック等の開拓のため,被告人やHに命じて全国の百貨店をまわらせ,同時に,F独自の量販店向きの新商品(以下,「N商品」という。)を開発し,N商品の販路開拓を行うなどしながら,積極的にB商品やN商品の増産を行った。 被告人は,F入社以前の経験から,具体的な販売見込みのないまま過剰生産することの危険を知っていたが,アパレル業界に明るくないこと,売上を重視するAからの出向社員の士気をそぐことをおそれたこと,Iからの出向社員の商品企画力を信用していたことなどから,販路を確保しない商品開発や生産計画を承認していた。しかし,N商品は,企画が悪かったことや不良品があったことなどから,販路の確保が困難となり,また,B商品も,新規出店に応じて増産したものの,顧客のニーズに合わず,生産量の約半分程度しか売れなかった。 そこで,被告人は,Gの指示に たことなどから,販路の確保が困難となり,また,B商品も,新規出店に応じて増産したものの,顧客のニーズに合わず,生産量の約半分程度しか売れなかった。 そこで,被告人は,Gの指示により,昭和63年12月ころまでに,全てのN商品の生産を中止して,B商品の製造販売に集中し,平成3年ころにはB商品の生産も大幅に制限したが,平成元年ころから平成3年ころの間に,3億円近いN商品と,約11億円のB商品の大量在庫が発生した。 ⑤ Bの設立とFの吸収合併等Gは,平成3年ころから,在庫処理を第1の課題とし,現場責任者である被告人やHに在庫処理を厳しく求めるようになったが,被告人は,Fの生産をB商品1本に絞ったことから,会社名をBにした方が営業戦略上好ましいと考え,名称使用につきJの了承を得た。 そして,Gは,新会社を設立して債務超過の状態にあったFを吸収合併し,その際同社の固定資産の評価額を上げる帳簿上の修正を施せば,債務超過を表面化させないことができると考え,平成3年6月,株式会社Bを設立し,自らは同社代表取締役社長に就任し,被告人を代表取締役副社長に就任させた。そして,平成4年12月,BがFを吸収合併し,このようにして,Fは大量在庫と共にBに引き継がれた。その際,IがBの株式1000万円を引き受けた。 ⑥ Bの在庫品処分状況Gは,Bになってからも,長期在庫の処理を被告人らに強く求め,被告人らは,N商品については量販店に卸したり,Aで催事用に仕入れてもらうなどし,B商品については,ブランドを傷つけるような安売りはできないため,特別招待セールやB従業員バザーを催したが,大きな成果は上がらず,思い切って廃棄処 催事用に仕入れてもらうなどし,B商品については,ブランドを傷つけるような安売りはできないため,特別招待セールやB従業員バザーを催したが,大きな成果は上がらず,思い切って廃棄処分にすることもなかったため,在庫はほとんど減らなかった。 また,被告人らは,Aで在庫品を買い取ってもらうことをGに提案したが,同人は基本的にこれに応じなかった。 なお,売れる見込みのない長期在庫は,廃棄処分するのが通常であり,Aでは,服飾品は概ね1年半ごとに廃棄処分されていたが,F及びBは,平成5年ころまで赤字を出し続けていたため,在庫品を廃棄処分するとすれば,損失処理により五,六億円程度の損失計上は覚悟しなければならない状態であり,Dグループ内で清算の対象とされるおそれもあった。そのため,劣悪な財務状態を表面化させる廃棄処分をすることは,事実上困難であった。 ⑦ 本件買取直前の在庫状況Bの在庫商品は,平成8年10月31日,B商品約8億8700万円分,N商品約2億円分,合計約10億9000万円分となり,うち,約7億3880万円分は,平成6年以前の長期在庫商品であった。 (2) 被告人が本件買取を決意した経緯及び本件買取の状況① 被告人のA代表取締役就任Gは,平成7年ころ,被告人に対し,在庫問題をいつまでも解決できないのでは現場責任者を任せられないとして,被告人を降格する旨伝え,同年5月ころ,被告人は,取締役会決議によりB代表取締役相談役に降格されたが,Eは,Gが子会社経営に失敗して巨額の損失を生じさせたとして,同人を更迭し,平成8年5月,被告人は,B代表取締役社長に就任すると共に,A代表取締役副社長店長に就任した。 ② 被告人 Eは,Gが子会社経営に失敗して巨額の損失を生じさせたとして,同人を更迭し,平成8年5月,被告人は,B代表取締役社長に就任すると共に,A代表取締役副社長店長に就任した。 ② 被告人が本件買取を決意した状況Bの幹部社員の間では,B出身で同社の在庫問題を熟知している被告人がA店長に就任したのを機に,Aに不良在庫消化の協力を頼めないかとの声が高まった。これを受けたHは,平成8年8月か9月ころ,A及び関連会社の役員が出席して,関連会社の業績報告や問題点の検討等が行われる経営連絡会議の終了後,店長室の被告人を訪ね,AでBの在庫品を買い取って欲しい旨要望したところ,被告人は,五,六億円程度の在庫を二,三年以上の時間をかけて買い取れば,Aの屋台骨が揺らぐような事態は起こらないと考え,その場で,その要望に応じる旨答えた。 この際,被告人は,買取りの是非について,Aの取締役会及び株主総会に諮ったことはなく,D本部の指示を仰ぐこともしなかった。その後も,Bからの在庫商品買取の案件が,取締役会,株主総会において議題とされることはなかった。なお,Aにおいては,取締役が全員出席する正式な取締役会は,年1回,株主総会に備えて行われるのみであり,毎月,広島で業務を行っている被告人,K銀行から派遣された経理財務管掌の代表取締役専務であるLらの3人だけが出席して「取締役会」と称する会議が行われていたが,いずれにおいても,被告人が買取りの是非を議題とすることはなかった。 ③ 本件買取の指示状況被告人は,Aの営業部を統括する内販店次長のMを店長室に呼び,Bの在庫を買い取ることにした旨告げたところ,Mから,「婦人服は鮮度が命であり,長 った。 ③ 本件買取の指示状況被告人は,Aの営業部を統括する内販店次長のMを店長室に呼び,Bの在庫を買い取ることにした旨告げたところ,Mから,「婦人服は鮮度が命であり,長期間在庫になっていたような商品は売れない。」旨言われたが,「将来性のあるBを親会社として助けてあげよう。営業に無理が出ない範囲で順次買い取ってもらったらよい。」旨述べて,買取りを指示した。Mは,買取りの現場担当者にBの在庫商品を確認させ,自らも確認に赴いた上,被告人に対し,「店頭に出せる商品ではないが,それでもよいのか。」旨確認したが,被告人は,「これはBやその従業員に対する支援であるから,何とか頼む。」旨答え,簿価での買取りを指示した。 ④ 本件買取の実行と損失処理そこで,Mは,Lに対し,被告人から受けた指示の内容及びBから買い取った在庫品は販売が困難で廃棄するほかない旨説明し,その了承を得て,各担当部署に買取りを指示すると共に,買取商品を特別値下げ損失(以下,「特損」という。)で処理するよう指示した。そして,買取りを行った営業各課が,半期ごとに,特損で処理する商品の一覧表を作成して,Lに報告し,その金額が経常利益の範囲内であることの確認を得た上で,Lや被告人の決裁を受け,Bからの買取り及び買取商品の特損処理を継続し,こうした処理は,内販店次長の交替によって変更されることはなかった。 このようにして,Aは,平成8年11月ころから平成12年5月ころまでの間,判示のとおり,Bから継続的に在庫品を購入し,平成8年12月24日から平成12年6月21日までの間,その購入代金等として,合計約3億2000万円をB名義の普通預金口座に振込送 の間,判示のとおり,Bから継続的に在庫品を購入し,平成8年12月24日から平成12年6月21日までの間,その購入代金等として,合計約3億2000万円をB名義の普通預金口座に振込送金した。 (3) 本件買取当時のB,A及びDグループの経営状態① Bの経営状態Bは,F時代から経常利益は赤字が続いていたが,不採算店の閉鎖や人員削減などのリストラにより,平成5年度から借入金は減少に転じ,平成6年度からは黒字が続き,平成10年度及び同11年度に赤字となったものの,それは,投資の失敗など本来の営業外で特別損失を出したことや,百貨店の売り場面積縮小対策でBショップの撤退を余儀なくされたことによるもので,Bは,不良在庫による含み損はあるものの,Dグループ内においても,再び黒字に転化することが可能な,将来的に期待できる会社であると認められていた。 ② Aの経営状態Aは,平成3年度以降売上が減少する一方借入金が増加し,金利負担に苦しむ状況にあったが,メインバンクから金利支援を受け,貸し倒れ引当金を計上しないなどの措置を講ずることにより,かろうじて当期利益を出していた。しかしながら,これはAの実態を反映したものではなく,新会計基準による連結決算の導入に備えて,平成11年度,不良債権化している貸付金等の損失見込額を計上した結果,1285億円の損失となった。 ③ Dグループの経営状態Dグループでは,積極的な店舗拡大や売上を優先する方針によって財務内容が悪化していたため,財務体質改善の基本方針としてリストラ3カ年計画を策定し,各店がそれぞれ独立性をもって経営を行う個店主義を止めてグループ経営会議が各百貨店を指導するグ 財務内容が悪化していたため,財務体質改善の基本方針としてリストラ3カ年計画を策定し,各店がそれぞれ独立性をもって経営を行う個店主義を止めてグループ経営会議が各百貨店を指導するグループ本部制を導入し,また,Dグループ各社間で,D本部の方針に拘束力を付与する内容のDグループ基本協定が締結された。これにより,Dグループ本部の方針に従ってグループ全体の再建をはかっていくことがAとしての方針となり,Aは,Dグループ内の再建可能な赤字会社のために資金提供に全面的に協力する義務を負うこととなり,子会社支援の方針についても,グループ経営会議が決定し,Aが単独で判断することは許されなくなった。 しかし,これらの諸策も根本的な解決とはならず,平成12年7月12日,D百貨店各社が一斉に民事再生法の適用申請をするに至り,Bも,同年8月18日,広島地方裁判所に自己破産の申立をするに至った。 3 以上の事実を前提として,検討を加える。 (1) 任務違背の点について① 本件買取行為は,百貨店であるAが服飾品製造販売会社のBから,約3年半の間,販売見込みのない不良在庫品を製造当時の価値を前提とした簿価で買い取ったもので,売主であるBに利益が生じるのみで,買主であるAにとっては,一方的に不利益な取引であったことが認められるから,被告人は,特段の事由のない限り,Aの代表取締役としての任務に違背したものといわなければならない。 ② 弁護人は,本件買取は,商取引の形を取ってはいるが,実質的には親会社による子会社への財務支援であり,将来的には親会社であるAの利益につながるものであるから,被告人に任務違背はない旨主張する。確かに,子会社への財務支援 てはいるが,実質的には親会社による子会社への財務支援であり,将来的には親会社であるAの利益につながるものであるから,被告人に任務違背はない旨主張する。確かに,子会社への財務支援として,子会社に有利な取引をすることはあり得ると解されるが,正当な財務支援行為として認められるためには,親会社の側に,当面の損失を生じてでもなお子会社を支援するだけの余力があり,子会社の側に,そのような支援を行うべき必要性が認められる場合であって,かつ,親会社において当面の損失を生ずるものである以上,組織内において,そのような支援を行う必要性や支援方法の妥当性が認められるか否かなどにつき慎重に調査,検討を行うなどの手続を経ることが不可欠である。しかし,本件買取当時,Aは,売上が減少する一方で借入金は増加しており,経営状況は芳しくなかった上,Dグループ全体としても,財務体質の改善を図るための諸策(大幅なリストラや,優良店から不振店への融資を行うなどD各店間の相互支援等)を打ち出しており,Aとして,これに協力すべき立場にあり,余力に乏しかったこと,これに対し,Bは,平成6年以降営業損益が黒字となり,借入金も徐々に減少し,経営状況は好転しつつあったもので,早期に支援しなければならない緊急性,必要性はなかったこと,被告人は,本件買取を行うにあたり,Aの正規の取締役会はもちろん常勤の3名による「取締役会」の承認を得ることなく,また,B支援の必要性,支援方法の妥当性,支援の適正な規模,期間などについて調査や検討をすることもなく,Bの専務から在庫品の買取りを依頼されて即座に決断したことが認められ,これらの事情に照らすと,本件買取は,財務支援としても 適正な規模,期間などについて調査や検討をすることもなく,Bの専務から在庫品の買取りを依頼されて即座に決断したことが認められ,これらの事情に照らすと,本件買取は,財務支援としても許容されるものではなく,被告人は,Aの代表取締役としての任務に違背したものというべきである。 ③ 弁護人は,また,本件買取は,Bの前身であるFがBブランドを有するIと業務提携した際に負った親会社としての義務の履行という側面がある上,Bにおける多量の在庫発生に原因を与えた親会社としての責務に基づくものであるから,被告人に任務違背はない旨主張するが,Aが所論のような法的義務を負っていたとは解されず,被告人の上記任務に影響を及ぼすものとはいえない。 (2) 財産的損害について① 本件買取商品は,F及びBにおいて,長期間販売することができずに在庫となっていたものであり,何度か割引きするなど正規の売り方とは異なる方法で販売しようとしたが,ほとんど消化することができなかったこと,製造から数年経過すると顧客の志向が変わるため販売が困難になることなど,在庫発生の経緯や服飾品の性質に加えて,現に,買い取られた商品が一度もAの各売場において販売されなかったことなどの事情に照らせば,本件買取商品には,百貨店において販売する商品としての価値がなかったものと認められ,したがって,これを買い取ったAには,買取代金相当の財産的損害が生じたことが認められる。 ② 弁護人は,親子会社間の商品取引は本支店間の取引同様,損益に関係しないというが,親子関係にあるといえども,法的には別人格である上,ましてBはAの100パーセント子会社ではないから,同一会社内の商品の移動と 取引は本支店間の取引同様,損益に関係しないというが,親子関係にあるといえども,法的には別人格である上,ましてBはAの100パーセント子会社ではないから,同一会社内の商品の移動とは同視できない。 (3) 故意について被告人は,本件買取を開始する以前から9年余りにわたって,F及びBの経営に携わっていたものであり,Bの長期在庫発生の経緯及び販売努力が効を奏さなかったことにつき十分に認識していた上,本件買取を部下に指示した後,同人から,買取の対象となる商品が販売困難であるとの指摘を受けていたこと,被告人は,本件買取を行うにあたり,B支援の必要性等について調査や検討をせず,Aの取締役会の承認も得なかったことは前記のとおりであるから,被告人に任務違背の認識があり,また,本件買取がAに財産上の損害を与えることについての認識もあったことが認められる。 (4) 第三者図利目的について① 本件買取が,Bにとって利益をもたらすものであるのに対し,Aにとっては,商品価値のないものに代金を支払うこととなって損失のみを生ずるものであることは前記のとおりであるから,被告人において,本件買取によってBに利益をもたらすことを意図していたことが推認できるところ,被告人が長期間B等の経営に携わっていた経緯や,被告人が,Aの代表取締役に就任したわずか数か月後に,本件買取を指示したものであり,Bの専務から在庫品の買取りを依頼されて即座に決断したことなどの事情を併せ考えれば,被告人は,Bの利益を図ることを主たる目的として本件買取を行ったものと認められる。 ② 弁護人は,被告人は,当時Bの財務を圧迫していた長期在庫を取り去ってやり,製造機能を有する子会社であるBを Bの利益を図ることを主たる目的として本件買取を行ったものと認められる。 ② 弁護人は,被告人は,当時Bの財務を圧迫していた長期在庫を取り去ってやり,製造機能を有する子会社であるBを発展させることが,長期的にはAの利益にもなると考えて本件買取を行った旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。 被告人が,Aの担当部署の仕入れ枠を加重に圧迫しない範囲で買い取るよう指示するなど,Aの損失に一定の配慮をしていたことは認められるものの,本件買取によるAの不利益と,これによってもたらされる将来的な利益などについて,具体的に検討した形跡はなく,本件買取により将来Aに利益が生ずることを被告人が期待していたとしても,Aの利益を図ることが本件買取の動機となっていたとはいえず,上記①の認定判断を左右するものではない。 (5) 結論よって,判示のとおり認定した。 (量刑の理由)本件は,親会社である百貨店及びその子会社である衣料品製造販売会社の代表取締役を兼務していた被告人が,子会社に利益を得させる目的で,商品価値を失っていた同社の長期在庫品を,親会社である百貨店に買い取らせ,同社に代金相当額の損害を生じさせた特別背任の事案である。 被告人は,子会社において長期間在庫として放置されていた衣料品を,親会社である百貨店において,簿価で買い取るよう指示したものであるが,その取引内容は,子会社に対する融資などの通常の救済策とは異なり,子会社に多大な利益を得させる反面,親会社である百貨店に一方的な損失を生じるものに他ならないのであるから,百貨店の代表取締役という重要な役職にあって,同社の利益を追求すべき責務を負っていた被告人としては,財政支援行為としても相当慎重に行わなければならないところ,ほ 生じるものに他ならないのであるから,百貨店の代表取締役という重要な役職にあって,同社の利益を追求すべき責務を負っていた被告人としては,財政支援行為としても相当慎重に行わなければならないところ,ほとんど検討しないまま本件を敢行したことは,重大な任務違背と言わなければならない。また,本件買取の期間は約3年半と長期にわたっており,買取りによって百貨店に生じた損害は合計約3億2000万円と軽視しえない額であることからすれば,被告人の責任は決して軽いものではない。 しかしながら,本件は,被告人の私利私欲に基づく犯行ではなく,子会社の在庫発生に対して責任を感じていたことが一因となっていることが認められるのであって,動機に同情すべき点があること,その在庫の発生には,被告人がBの代表取締役社長になる以前に行われた増産拡大路線や,その背景となるDグループの積極的拡大政策が大きく影響しており,被告人は,その負の遺産を負わされたという側面があること,本件は,親子会社間の取引に関するものであり,子会社でない第三者の利を図った事案とは犯情に差異があること,子会社の利益は,長期的には親会社の利益につながる面があること,本件買取による損失が,百貨店の経営破綻の直接の原因となったものではないこと,被告人には前科前歴はなく,長年真面目に職務に精励してきた企業人であったこと,その他被告人の年齢など,被告人のために斟酌すべき事情も多々認められる。 そこで,被告人を主文の刑に処した上,その執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑-懲役2年6月)平成15年10月21日広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官田邉直樹裁判官飯畑正一郎裁判官三澤節史 広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官田邉直樹裁判官飯畑正一郎裁判官三澤節史

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