主文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 横浜地方検察庁で保管中のライター1個(平成15年領第3158号符号1)を没収する。 理由 (認定犯罪事実)被告人は,後記A方居宅に放火しようと企て,ガソリンをビニール袋に入れて携え,平成15年9月17日午後10時59分ころ,横浜市港南区(以下略)A方の無施錠の門から同敷地内に侵入したうえ,同所において,同女が現に住居として使用している木造瓦葺平家建居宅(床面積約41.32平方メートル)南西側外壁付近に前記ガソリンを撒き,これに携帯していたライター(平成15年領第3158号符号1)で点火して火を放ったが,張り込み中の警察官らに発見されて消火されたため,トタン板張り外壁の一部を燻焼させるとともに外壁に取り付けられた雨樋の一部を溶解させたにとどまり,同居宅を焼損するには至らなかった。 (証拠)略(法令の適用)被告人の行為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,現住建造物等放火未遂の点は同法112条,108条にそれぞれ該当するところ,この住居侵入と現住建造物等放火未遂との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により重い現住建造物等放火未遂罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,未遂であるから同法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入することとし,横浜地方検察庁で保管中のライター1個(平成15年領第3158号符号1)は,現住建造物等放火未遂の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収することとする。 (量刑の事情) 1 現住建造物に 年領第3158号符号1)は,現住建造物等放火未遂の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収することとする。 (量刑の事情) 1 現住建造物に対する放火は,公共危険犯の中でも最も罪質の重いものであるが,本件は,老女が一人暮らしする木造家屋に現役警察官が放火をしたという重大かつ衝撃的な事案である。 2(1) 被告人の身上経歴等をみると,被告人は,郷里の高校を卒業後上京して大学に進み,その卒業の年である昭和56年から警視庁警察官となり,交番,警察署留置係,駐在所等,警視庁捜査第3課等において精勤し,平成9年巡査部長,平成13年秋からは警部補に昇任し,B警察署で盗犯係長として勤務していたが,まじめで非常に努力家である反面,融通がきかないことなどから職場に過剰に適応してしまうなどして,平成11年ころから職場の人間関係等をきっかけにうつ状態となり,精神科に通院するなどし,平成14年4月以降には,さらに椎間板ヘルニアをも患い,休職して入院するなどして治療に努めていた。しかし,手術後1年以上経ても症状に改善がみられないのみならず,再度の手術も必要となるなどして職場復帰の見通しも立たない状態で焦燥感を募らせていたことが認められる。 (2) 本件の動機,犯行の経過等については,そのような日々を送っていた被告人が,本件当日一旦就寝したものの,のどの渇きで目覚めてタバコに火を付けた際,ライターの炎を見て,近隣で起きている連続放火を思い出し,放火が起きれば警察,消防,近隣の住民等が騒ぎ出し,刑事をしていた際と類似した緊張感,興奮が得られるなどと思いつくや,自ら放火しようと考え,自己の原動機付自転車からガソリン約230ミリリットルをビニール袋に移し替えて携え,自宅から路上に出たが,その際,はす向かいの独り暮ら た緊張感,興奮が得られるなどと思いつくや,自ら放火しようと考え,自己の原動機付自転車からガソリン約230ミリリットルをビニール袋に移し替えて携え,自宅から路上に出たが,その際,はす向かいの独り暮らしの老女(当時77歳)方の灯火が消えて玄関が暗かったうえ,日頃から警察官として被告人を頼りにしている同女が,放火に遭えばさらに頼りにしてくれるだろうなどと思い付いて,同女方への放火に及んだものと認められる。本件のごとき重大な事犯をこのような甚だ自己中心的かつ倒錯した動機から決意したことは,厳しい非難を免れない。 (3) 本件の犯行態様は,前記のとおり,夜遅く,閑静な住宅街の独居老人の居宅を狙い,引火性の高いガソリンを携えてその敷地内に侵入し,古い木造の居宅外壁付近にガソリンを散布して点火したという計画的かつ悪質なものであって,連続放火犯人検挙のため張り込み中の警察官や近隣居住者らによる機敏かつ適切な消火活動がなければ,被害者宅のみならず近隣の居宅等への延焼のおそれも窺え,被害者のみならず近隣住民の生命,身体及び財産に重大な危害を及ぼした可能性は高く,極めて危険な犯行というほかない。しかも,前記のように本件は,個人の生命,身体及び財産の保護を任務とする現職警察官が,休職中とはいえ,敢行したものであるから,警察官に対する国民の信頼を裏切ったものであって,その悪質さは際立っているといわざるを得ない。 (4) 本件により,被害者は,財産的な損害はもちろん,一方的に信頼を裏切られ,精神的な衝撃もことのほか大きかったことは推察に難くない。また,本件が被害者のみならず近隣住民らに懐かせた恐怖・不安感にも看過できないものがあるなど,社会に与えた影響も重大であり,結果も軽視できない。 3 他方,幸い前記のように建物自体の焼損は免れて放火自体は未遂に終わり,被害 らず近隣住民らに懐かせた恐怖・不安感にも看過できないものがあるなど,社会に与えた影響も重大であり,結果も軽視できない。 3 他方,幸い前記のように建物自体の焼損は免れて放火自体は未遂に終わり,被害者方の財産的損害も甚大なものにまでは至らなかったこと,その修理費用約14万円を実兄が負担して財産的損害を賠償していること,妻及び実兄が被害者に謝罪したうえ慰謝料の一部として20万円を支払うなど慰謝の努力をしていること,被告人は,前記のように20年余り警察官として真面目に稼働し,特に八丈島の駐在所勤務中は付近住民に親しまれて高い評価を受け,その住民多数から嘆願書が提出されているうえ,その当時の警察署長も公判廷で被告人の勤務振りを同様に評価し寛刑を求めていること,被告人は,前記のように心身の病気で長期の休職を余儀なくされていたのであり,この鬱屈した心情が本件犯行の背景にあったと窺えること,本件犯行後,当然のこととはいえ,被告人が懲戒免職となったほか本件が広く報道されるなどして相当な社会的制裁を受け,妻子は自宅を引き払わざるを得なくなったうえ,自殺未遂や不登校など子らの心身にも重大な影響を来しており,こうした家族の状況を慮って被害者も被告人の早期社会復帰を望むに至っていること,被告人は,その供述に揺れはみられるものの,本件犯行自体は認めて罪を詫び,反省の態度を示していること,妻及び実兄が公判廷で今後の更生を支援する旨表明していること,被告人は前記病により現在でも腰痛や足の痺れに悩まされ房内での起居すらままならない状態にあること,などの酌むべき事情も認められる。 4 これらの事情に照らすと,本件は,前記のように重大悪質な事案であって,刑に執行猶予を付すことを相当とする事情までは到底認められないものの,被告人に有利な諸事情も相応に斟酌すると,未遂減軽を施 。 4 これらの事情に照らすと,本件は,前記のように重大悪質な事案であって,刑に執行猶予を付すことを相当とする事情までは到底認められないものの,被告人に有利な諸事情も相応に斟酌すると,未遂減軽を施したうえ主文掲記の刑が相当と思われる。 (公判出席)検 察 官矢吹雄太郎私選弁護人水上盛市(求刑懲役6年,ライターの没収)平成16年2月10日横浜地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官廣瀬健二裁判官片山隆夫裁判官村上誠子
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