平成24(わ)882 強制わいせつ致傷

裁判年月日・裁判所
平成26年3月28日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,976 文字)

平成26年3月28日宣告裁判所書記官平成24年第882号強制わいせつ致傷被告事件 判決 主文 被告人を懲役2年8月に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,帰宅中のA(当時18歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成24年8月17日午後11時頃,兵庫県明石市a町b丁目c番d号にあるBのエレベーター内において,同女に対し,いきなり同女の右腕を両手でつかみ,「静かにせな殺すぞ。」などと言って脅迫し,同女の右腕を両手でつかんだまま同女を上記エレベーター内から上記マンションe階エレベーター横階段踊り場まで連行し,同所において,同女の口を手で塞いでその場に仰向けに転倒させるなどの暴行を加え,強いてわいせつな行為をしようとしたが,同女が抵抗したためその目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に全治約1週間を要する後頭部打撲及び皮下血腫,頸部・左膝擦過傷,外傷性頸部症候群の傷害を負わせた。 【争点に対する判断】 1 争点本件では,被告人が,被害者に対し,わいせつな行為をする目的で公訴事実記載の暴行を加え,被害者に傷害を負わせたことについては争いがない。争点は,犯行当時,被告人が軽度知的障害及び広汎性発達障害等の影響により,心神耗弱の状態にあったか否かである。 弁護人は,被告人は軽度知的障害及び広汎性発達障害等の影響によりもともと常識的な判断能力が劣っていた上,犯行時には,後者の障害に特有のパニック状態(精神的混乱状態)に陥っていたため,心神耗弱の状態にあったと主張した。 当裁判所は,以下のとおり,軽度知的障害及び広汎性発達障害等が本件犯行に影響を与えているとしても,その影響は限定的なものであり, 神的混乱状態)に陥っていたため,心神耗弱の状態にあったと主張した。 当裁判所は,以下のとおり,軽度知的障害及び広汎性発達障害等が本件犯行に影響を与えているとしても,その影響は限定的なものであり,被告人には完全責任能力が認められると判断した。 2 前提事実 被告人は,中学生の頃から性非行,性犯罪を繰り返し,昭和63年から平成7年にかけて,少年院や刑務所に複数回入所していた(なお,平成元年頃,医療少年院入所中に統合失調症の診断を受けている。)。平成7年2月にも強姦未遂事件で検挙されたが,不起訴処分となり,同年2月17日,他者加害の危険があるとして,C病院に措置入院することとなった。平成16年3月31日,被告人はC病院を退院したが,その後もD病院に定期的に通院していた。なお,診断日は不明であるが,同病院では,被告人は統合失調症,広汎性発達障害,軽度知的障害の診断を受けている。  C病院退院後,被告人は,自宅で自慰行為にふけり,母親の目の前でも自慰行為をするようになった。平成19年頃からは,母親にソープランドに行くための金を要求するようになり,要求を拒否されると,母親に暴力をふるうこともあった。また,この頃から,幻聴や被害妄想のような症状も目立つようになった。  平成24年1月3日,被告人は,些細なことから母親に暴力をふるい,母親が警察に通報したことから,同日から同月24日までE病院に入院した。同年6月24日にも,D病院での外来診察時,妄想興奮状態で病院内で暴れたことから,そのまま同病院に入院した。その後,症状は軽快し,同年8月15日に退院した。  本件犯行当日の状況ア同月17日,被告人は,昼食後と夕食後に自慰行為を行い,夜食後にも自慰行為を行ったが,生身の女性の体に触りたいとの欲求にかられ,母親にソープランドに行 に退院した。  本件犯行当日の状況ア同月17日,被告人は,昼食後と夕食後に自慰行為を行い,夜食後にも自慰行為を行ったが,生身の女性の体に触りたいとの欲求にかられ,母親にソープランドに行くための金を要求した。母親にこれを拒否されると,被告人は,その欲求を抑えきれず,かねてから若い女性が多く入居していそうなマンションとして把握していた本件マンションに向かった。 イ被告人は,エレベーター内で女性を襲うことにし,本件マンションに到着すると,1階エレベーターホールの脇の集合ポスト付近で女性を待っていた。 ウ 1人目の女性が通りかかった際,被告人は,先にエレベーターに乗り込み,女性を待ったが,女性がそのエレベーターに乗ってこなかったため,失敗に終わった。 エその後,被告人が集合ポスト付近で女性を待っていると,被告人の好みのタイプであった被害者がエレベーターホールに現れ,エレベーターに乗り込んだことから,被告人も引き続いてエレベーターに乗り込み,公訴事実記載の犯行に及んだ。 オ被告人は,被害者が悲鳴をあげたため,誰かが110番通報をして警察が来るのではないかと考え,わいせつ行為を諦めて逃走した。自宅に逃げ帰った被告人は,母親にマンションのエレベーターで女性を襲ったことを告白したが,警察には言わないように口止めをした。さらに,被告人は,母親の助言を受け,犯行時に着用していた帽子を袋の中に入れ,ズボンやTシャツと一緒に押し入れの奥に隠した。 3 精神障害の有無・程度について F医師の供述の要旨①被告人は,ICD-10の診断基準に照らし,犯行時,軽度知的障害,非社会性パーソナリティ障害,妄想型統合失調症であったと診断できる。②このうち妄想型統合失調症については,犯行当時に幻覚妄想はなく,犯行への影響はほとんど無視できる。 照らし,犯行時,軽度知的障害,非社会性パーソナリティ障害,妄想型統合失調症であったと診断できる。②このうち妄想型統合失調症については,犯行当時に幻覚妄想はなく,犯行への影響はほとんど無視できる。③軽度知的障害については,理解力が多少人より劣っており,短絡的な思考傾向がみられる。④非社会性パーソナリティ障害については,社会のルールを守ることができず,自らの欲求に従って行動しがちな人格構造がみられる。⑤これらの障害は,上記のような思考傾向や人格構造に基づいて犯行を行ったという限度では本件犯行に影響を与えているといえるが,著しくはない。また,⑥広汎性発達障害については,被告人の幼少期の資料が不足していること等から確定診断はできないが,犯行時,広汎性発達障害であった可能性は否定できない。⑦もっとも,相手と目をあわさないとか,会話をしないというような極端な症状はなく,コミュニケーションにさほど難はないことから,症状は軽い部類と考えられる。⑧広汎性発達障害であるとした場合,人の感情に対する理解の低さ等が犯行に影響を与えているとも考えられるが,その程度は著しくはない。なお,発達障害の影響でパニック症状(混乱状態)が出ることはあるが,本件においては,犯行時及びその前後の言動からすると,そのような症状(状態)があったとは考えにくい。  上記供述の信用性F医師は,精神科の専門医であり,その学識,経験等に照らし,精神鑑定の鑑定人として十分な資質を備えている。同医師は,鑑定にあたって,捜査機関から提供された被告人の入通院歴等を含む一件資料を精査し,被告人と複数回面談を行うだけでなく,被告人の母親とも面談を行うなど慎重な検討を行っている。その判断過程をみても,信頼性のある診断基準(ICD-10)に基づき,具体的かつ合理的な診断根拠が示されている 人と複数回面談を行うだけでなく,被告人の母親とも面談を行うなど慎重な検討を行っている。その判断過程をみても,信頼性のある診断基準(ICD-10)に基づき,具体的かつ合理的な診断根拠が示されている上,その診察方法や前提資料の検討について特に不合理な点は見あたらない。 なお,弁護人は,前記⑧について,被告人は,犯行直前に,母親からソープランドに行くための金をもらえなかったことが,被告人にとって想定外の事態であり,これがきっかけとなって被告人は広汎性発達障害特有のパニック状態(混乱状態)に陥っていたなどと主張し,被告人もこれに沿う供述をする。 確かに,広汎性発達障害に特徴的な症状の一つとして,想定外の事態が生じた際にパニック状態(錯乱状態や思考が停止した状態)に陥るということが挙げられる。しかし,他方で,広汎性発達障害の臨床経験が豊富な専門医である証人G医師(H大学大学院医学研究科)は,人が当初の目的に合致した合理的な行動を行っている場合には,パニック状態にあったとは言い難いと公判で供述している。そして,母親に要求を拒否された後の被告人の行動をみると,被告人は,若い女性が多く入居していると考えたマンションを犯行場所として選び,集合ポストの周辺で若い女性が現れるのを待ち,被害者と二人きりのエレベーター内で被害者を「静かにせな殺す」などと脅し,さらに人目につかない階段踊り場に被害者を連れこみ,助けを求めようとする被害者の口を塞ぐなど,マンション住民等に犯行が発覚しないように被告人なりに注意を払いつつ,女性の体を触るという目的を達成するために相応に合理的な行動をとっている。こうしたことからすると,被告人がパニック状態にあったと認めることはできない。 以上のことからすると,F医師の上記供述は十分に信用できるものである。 4 責任能力の判断 合理的な行動をとっている。こうしたことからすると,被告人がパニック状態にあったと認めることはできない。 以上のことからすると,F医師の上記供述は十分に信用できるものである。 4 責任能力の判断以上を前提に犯行時の被告人の責任能力について検討する。まず,病状については,前記3のとおり,被告人は,犯行当時,妄想型統合失調症に罹患していたものの,幻覚妄想はなく,軽度知的障害,非社会性パーソナリティ障害及び広汎性発達障害の症状はいずれも日常生活に支障がない程度のものといえる。 そして,被告人は,自慰行為を繰り返すうちに生身の女性の体に触りたいという気持ちを抑えられなくなって犯行に及んでいる。確かに,母親にソープランドに行く金をもらえなかったということから直ちに犯行を決意している点はあまりに短絡的であり,軽度知的障害等の影響がみられるが,犯行動機は十分了解可能である。若い女性が多いと考えたマンションに向かい,エレベーターに若い女性が乗り込むのを待ち,エレベーター内で女性を襲うという本件犯行はそれなりに計画的なものであった。また,被告人が犯行直前に母親の目の前で自慰行為を行っていたことについては,通常の感覚では理解し難いが,被告人は日常的にそのような行為をしており,本件犯行当日において,特に異常な精神状態にあったということはない。 加えて,前記3のとおり,被告人は,若い女性の体を触るという目的に応じた相応に合理的な行動をとっており,これらの犯行状況について,比較的具体的な記憶を留めてもいる。また,被告人は,犯行後,逃走し,犯行を告白した母親に口止めをした上,証拠を隠すなど,本件犯行発覚防止のための行動をとっている。 以上のとおり,女性の体に触りたいという本件犯行の動機は了解可能なものであり,本件犯行には一応の計画性が認められる。被 に口止めをした上,証拠を隠すなど,本件犯行発覚防止のための行動をとっている。 以上のとおり,女性の体に触りたいという本件犯行の動機は了解可能なものであり,本件犯行には一応の計画性が認められる。被告人の犯行時の精神状態はパニック状態(混乱状態)といえるものではなく,平素のものと質的に異なるものではなかった。具体的な行動も女性の体に触るという目的に相応した合理的なものである。そして,被告人は本件犯行が違法なものであるとの認識を有していた。 以上のことからすれば,被告人は,軽度知的障害,非社会性パーソナリティ障害及び広汎性発達障害の影響があったとしても,善悪の判断能力,行動制御能力が多少低下していたという程度であり,これらが著しく低下した状態にはなかったというべきである。したがって,被告人は犯行時,完全責任能力を有していたと認められる。 【法令の適用】被告人の判示行為は刑法181条1項(179条,176条前段)に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年8月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中360日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】密室となるマンションのエレベーターで若い女性を狙った犯行であり,この点で悪質な犯行である。それなりに計画的な一面もあり,犯行により被害者に与えた精神的な苦痛も大きく,不安は未だに癒されていない。暴行内容だけをみると,腕を引っ張ったり,手で口を塞いだりした程度のものであり,傷害結果も軽く,また,被告人は犯行当時軽度知的障害等の精神障害の影響で善悪の判断能力,行動制御能力が幾分低下していたとはいえるが,こうし と,腕を引っ張ったり,手で口を塞いだりした程度のものであり,傷害結果も軽く,また,被告人は犯行当時軽度知的障害等の精神障害の影響で善悪の判断能力,行動制御能力が幾分低下していたとはいえるが,こうしたことからすると,本件は決して軽微な事案であるとはいえず,同種事案の量刑傾向に照らしても,実刑と執行猶予のいずれもあり得る事案といえる。 そこで,社会内での更生環境について検討すると,被告人の更生を支えるための適当な監督者は見あたらず,被告人を受け入れる施設等も手配されていないことからすると,現状では更生環境はかなり心許ないといわざるを得ない。また,被告人は一応反省の態度を示しているものの,服役を免れたい気持ちが表に出ている。加えて,前刑からは相当長期間が経過しているものの,本件の犯行の経緯や手口等から考えれば,この種の性犯罪傾向は根深い。 以上のことからすると,被告人について,現状では社会内で更生する条件が整っているとはいえず,実刑を選択することによって被告人の刑責の重さを明らかにすべきである。他方,刑期については,前記のように被告人のために酌むべき事情もあるから,酌量減軽の上,主文の刑を量定した。 (検察官の求刑は懲役4年,弁護人の科刑意見は懲役2年執行猶予5年)平成26年3月28日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官宮崎英一 裁判官冨田敦史 裁判官高島剛 高島剛

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