平成14(う)314 有印私文書偽造被告事件

裁判年月日・裁判所
平成14年5月28日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文4,246 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人門西栄一が提出した控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。 論旨は,要するに,原判決は,要旨,「被告人は,B(以下「B」という。)らと共謀の上,国際運転免許証の作成権限がないのに,Bから入手した『国際旅行連盟』と英語で刻された印章様のものが印字された国際運転免許証様の白色冊子中の運転可能な車両に関する頁の牽引車が表示されたE欄に,『I.T.A』と刻した印鑑を冒捺し,運転者に関する頁に,その姓名等をゴム印を使って冒書するなどした上,Cの顔写真1枚を貼付して『I.T.A』と刻した印鑑及び『国際旅行連盟』と英語で刻すなどした圧着印を同写真との割り印として冒捺するなどし,もって,Cが牽引車両の運転資格を得たことを証明する内容の『国際旅行連盟』作成名義の国際運転免許証様の物1通(以下「本件文書」という。)を偽造した。」旨認定したが,被告人は,前記「国際旅行連盟」(INTERNATIONALTOURINGALLIANCE,以下「ITA」などという。)から本件文書の作成権限を付与されていたから,偽造罪は成立せず,被告人は無罪であるから,原判決には事実の誤認がある,というのである。 そこで,検討するに,原判決挙示の関係証拠によれば,原判示の罪となるべき事実が優に認められ,原判決が「弁護人の主張に対する判断」の項で説示するところも相当として是認することができる(ただし,同項の第2の3の1行目に「平成13年10月18日」とあるのは,「平成12年10月18日」の誤記と認める。)。 所論にかんがみ補足する。 1 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年1月下旬ころから,日本国内で,ITAなる組織を発行名義人と 0月18日」の誤記と認める。)。 所論にかんがみ補足する。 1 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年1月下旬ころから,日本国内で,ITAなる組織を発行名義人とする国際運転免許証様の物を販売するようになり,当初は,依頼者にパスポートや自動車運転免許証の各コピー,写真等の必要書類を提出させ,これらを米国ロサンゼルスに居住する実弟のBに送付し,同人から5年間の有効期間が記入された青色冊子型とカード型の各国際運転免許証様の物の送付を受けて依頼者に販売していた。そのような中,平成12年春ころ,Bから,「日本用として,有効期限を1年間とする白色冊子の国際運転免許証の台紙を送るから東京事務所で必要事項を記入し,依頼者に交付してくれ。」などと言われ,そのころ,ITAなる組織の作成名義にかかる,英語で記載された認定証明書と題する書面が届けられたことなどから,以後,前記青色冊子型の国際運転免許証様の物等と一緒にBから送付されてくる白色冊子型の台紙に,青色冊子型の国際運転免許証様の物を参考にしながら,アラビア数字やアルファベットのゴム印等を使用して有効期間や運転者に関する事項等を記入するなどして,本件文書同様の国際運転免許証様の物を作成し,これも併せて依頼者に交付するようになり,その一環として,本件文書を作成した。 (2) 本件文書は,以下の形状と記載内容等を有するものである。 ① 白色冊子型で,大きさは,縦約153ミリメートル,横約106ミリメートルである。 ② 第1頁(表紙)には,英語と仏語による「国際自動車交通」,「国際運転免許証」,「1949年9月19日の国際道路交通に関する条約」の文字等が印字され,また,「INTERNATIONALTOURINGALLIANCE」の文字の入った印章様のものが印刷されている。 ③ 証」,「1949年9月19日の国際道路交通に関する条約」の文字等が印字され,また,「INTERNATIONALTOURINGALLIANCE」の文字の入った印章様のものが印刷されている。 ③ 最終頁は,二つ折りにされており,折り目の左側には,当該免許証で運転できる車両の種別等の事項が仏語で記載され,折り目の右側には,免許所持者とされる者の姓名等が記載され,その署名欄も設けられているとともに,顔写真が貼付されている。 ④ その余の頁(第2頁を除く。)には,英語,日本語等により,最終頁の折り目の左側と同様の事項が記載されている。 2 他方,「1949年9月19日の国際道路交通に関する条約」(通称「ジュネーブ条約」)は,同条約に基づく国際運転免許証の様式を定めており(同条約附属書十),その規定の要旨は,以下のようなものである。 ① 同免許証の形状は,縦148ミリメートル,横105ミリメートルとし,表紙を灰色,各頁を白色とする。 ② 第1頁(表紙)には,発給国の1又は2以上の国語で,「国際自動車交通」,「国際運転免許証」,「道路交通に関する条約」の文字等を記載し,さらに,当局又は権限を与えられた団体の署名又はシールを付する。 ③ 最終頁は,仏語で作成し,その「第1部」(同頁左側)に,当該免許証で運転できる車両の種別等を記載し,「第2部」(同頁右側)に,当該免許証所持者の姓名等を記載する欄や署名欄を設けるとともに,写真を貼付する。 ④ 追補の頁には,発給国の法令で定める言語や国際連合の公用語等の言語により,最終頁「第1部」と同内容の事項を記載する。 上記の規定と対比すると,本件文書は,ジュネーブ条約が定める正規の国際運転免許証の様式に酷似していることが明らかである。 3 ところで,本件文書中,形式的にその作成名義人を示すものとしては,ITAが,「 の規定と対比すると,本件文書は,ジュネーブ条約が定める正規の国際運転免許証の様式に酷似していることが明らかである。 3 ところで,本件文書中,形式的にその作成名義人を示すものとしては,ITAが,「INTERNATIONALTOURINGALLIANCE」,「I.T.A」などと,資格や肩書等を伴わずに表記されているにとどまっている。 【要旨】しかしながら,文書偽造罪の本質は,文書の作成名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることによって,文書に対する公共の信用を害することにあると解されることからすると,当該文書の作成名義人が誰であるかは,単に名義人記載部分だけを局所的に取り上げて判断するのではなく,公共の信用の観点から,文書全体の記載や形状,及び,これらの点から窺われる当該文書の機能,性質等をも含め,総合的かつ合理的に判断する必要があるというべきである。 そうすると,前記のとおり,本件文書は,文書全体の記載内容と形状が,ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証と酷似している上,第1頁(表紙)には,正に同条約を示す「1949年9月19日の国際道路交通に関する条約」の記載も見られることなどからして,これが,ジュネーブ条約に基づいて正規に発給された国際運転免許証様の物として使用される機能,性質を有するものであることは,一目瞭然というべきである(現に,本件文書は,そのような目的で,依頼を受けて作成され,交付されたものである。)。このような点を踏まえて,公共の信用の観点から,その作成名義人を,文書全体から総合的かつ合理的に判断すると,それは,「ジュネーブ条約に基づき国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA」とみるのが相当というべきである。 4 しかしながら,関係証拠によれば,ITAすなわちINTERNATIONALTOURING 約に基づき国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA」とみるのが相当というべきである。 4 しかしながら,関係証拠によれば,ITAすなわちINTERNATIONALTOURINGALLIANCEの名称を有する団体が,ジュネーブ条約に基づき,その締約国から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はないと認められるから,「ジュネーブ条約に基づき国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA」なる団体が存在しないことは明らかである。 そうすると,結局,本件は,被告人が,いわゆる虚無人名義の文書を,その作成名義人が実在し,真正に作成したと誤信させるようなものとして作成したことに帰するのであり,被告人がITAなる組織から,本件文書の作成権限を付与されているか否かにかかわらず,文書偽造罪が成立することは明らかというべきである(所論がいうように,被告人が同組織から作成権限を付与されていたとしたら,その組織の構成員と被告人が共犯関係に立つことになる可能性があるだけである。)。 5 なお,被告人は,原審において,偽造の故意がなかった旨の主張もしているが,関係証拠によれば,被告人は,Bから,最初に,国際運転免許証様の物を販売する仕事を誘われた際,「国際運転免許証を裏で取得できるシステム」である旨聞いていたこと,また,同人は,ITAなる組織の構成員ではなく,被告人自身も同組織の者と直接接触したことがない上,同組織との間に契約書や免許証の作成要領の書類も存在せず,被告人らは,我が国で市販されていたアルファベットや数字のゴム印,三文判の「I.T.A」と刻した印鑑等を使用していたにすぎず,販売価格も被告人において適当に決めていたことなどが認められるのであり,これらの事情に照らせば,被告人が,正規の国際運転免許証を作成していないこと,すなわ A」と刻した印鑑等を使用していたにすぎず,販売価格も被告人において適当に決めていたことなどが認められるのであり,これらの事情に照らせば,被告人が,正規の国際運転免許証を作成していないこと,すなわち,「ジュネーブ条約に基づき国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA」が実在しないのに,その名義を用いて,免許証を作成する認識があったものと推認できるから,偽造の故意も優に認められる。 以上によれば,被告人に有印私文書偽造罪が成立するとした原判決は正当であり,その他,所論にかんがみ関係証拠を子細に検討しても,原判決に所論指摘の事実の誤認は認められない。 論旨は,理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官仙波厚裁判官芦澤政治裁判官前田巌)

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