- 1 -平成30年9月27日判決言渡平成27年(行ウ)第102号,第106号,第107号,第118号不当利得返還請求事件主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告Aは,原告に対し,50万円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Bは,原告に対し,112万5000円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告Dは,原告に対し,112万5000円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Eは,原告に対し,50万円及びこれに対する平成25年8月1日から 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,被災者生活再建支援法(以下「支援法」という。)の規定に基づき,宮城県から被災者生活再建支援金(以下「支援金」という。)の支給に関する事務の全部の委託を受けた被災者生活再建支援法人(以下「支援法人」という。)である ところ,東日本大震災に係る地震が発生した平成23年3月11日当時,仙台市α区(以下「α区」という。)に所在する建物(以下「本件マンション」という。)に居住していた被告らから,同震災後に本件マンションの被害の程度を大規模半壊とする仙台市α区長(以下「α区長」という。)の発行に係るり災証明書が添付された支援金の支給の申請を受け,被告らに対し,同年10月から平成24年1 月までの間に,それぞれ支給決定(以下,被告らに対してされた各支給決定を併 - 2 -せて「本件支給決定」という。)をして支援金を支給したが,その後,α区長から本 10月から平成24年1 月までの間に,それぞれ支給決定(以下,被告らに対してされた各支給決定を併 - 2 -せて「本件支給決定」という。)をして支援金を支給したが,その後,α区長から本件マンションの被害の程度を一部損壊に修正するり災証明書が発行されたことを理由に,平成25年4月26日付けで本件支給決定を取り消す旨の各決定(以下,これらの各決定を併せて「本件取消決定」という。)をした。 本件は,原告が,行政事件訴訟法4条の当事者訴訟(公法上の法律関係に関す る訴訟)として,被告らに対し,本件取消決定によって本件支給決定の効力が失われたことにより,支援金の支給を受けた被告らは法律上の原因なく当該支援金に相当する額の利益を受け,原告に同額の損失を及ぼしたこととなると主張して,同額の不当利得の返還及びこれに対する原告が定めた返還期限の翌日である平成25年8月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求める事案である。 1 関係法令等の定め本件に関する法令の定めは別紙1(枝番を含む。)のとおりであり,その概要は次のとおりである。なお,以下,被災者生活再建支援法施行令(別紙1-2)を「支援法施行令」といい,被災者生活再建支援法施行規則(別紙1-3) を「支援法施行規則」という。)(1) 支援法は,自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対し,都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して支援金を支給するための措置を定めることにより,その生活の再建を支援し,もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的とする(同法1条)。 都道府県は,当該都道府県の区域内において被災世帯となった世帯の世帯主に対し,当該世帯主の申請に基づき,支援金の支給を行う(支援 と被災地の速やかな復興に資することを目的とする(同法1条)。 都道府県は,当該都道府県の区域内において被災世帯となった世帯の世帯主に対し,当該世帯主の申請に基づき,支援金の支給を行う(支援法3条1項)。 (2) 支援法に定める被災世帯とは,自然災害(暴風,豪雨,豪雪,洪水,高潮,地震,津波,噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害をいう〔同法2 条1号〕。以下同じ)で政令(支援法施行令1条)で定めるものにより被害 - 3 -を受けた世帯であって,支援法2条2号イからニまでに掲げるものをいう(同号柱書)とされている。 すなわち,支援法2条2号は,自然災害による住宅の被害の程度に応じて,① 当該自然災害によりその居住する住宅が全壊した世帯や,当該住宅の倒壊による危険を防止するなどのやむを得ない事由により当該住宅を解体し た世帯等(同号イ及びロ。以下,これらの世帯を併せて「全壊世帯」という。),② 当該自然災害によりその居住する住宅が半壊し,基礎,基礎ぐい,壁,柱等であって構造耐力上主要な部分として政令(支援法施行令2条)で定めるもの(建築基準法施行令1条3号に規定する基礎,基礎ぐい,壁,柱, 小屋組,土台,斜材〔例えば,筋かい等〕,床版,屋根版又は横架材〔例えば,はり,けた等〕で,建築物の自重若しくは積載荷重,積雪荷重,風圧,土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるもの)の補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難であると認められる世帯(支援法2条2号ニ。以下「大規模半壊世帯」と いう。)等を被災世帯として定めている。 (3) 支援法に定める支援金には,住宅の被害の程度に応じて支給される基礎支援金と,住宅の復旧方法(建設・購入か,補修か,貸借か)に応 壊世帯」と いう。)等を被災世帯として定めている。 (3) 支援法に定める支援金には,住宅の被害の程度に応じて支給される基礎支援金と,住宅の復旧方法(建設・購入か,補修か,貸借か)に応じて支給される加算支援金の2種類があり,支援対象者には両支援金の合計額が支給 される(同法3条2項)。 被災世帯のうち,自然災害の発生時においてその属する者の数が2以上である世帯(以下「複数世帯」という。)の世帯主に対する基礎支援金の額は,全壊世帯につき100万円,大規模半壊世帯につき50万円とされており,加算支援金の額は,住宅を建設又は購入する場合には200万円,補修する 場合には100万円,賃借する場合には50万円とされている(支援法3条 - 4 -2項)。 被災世帯のうち,自然災害の発生時においてその属する者の数が1である世帯(以下「単数世帯」という。)の世帯主に対する支援金の額は複数世帯の支援金額の4分の3に相当する額であり,具体的には,基礎支援金の額が,全壊世帯につき75万円,大規模半壊世帯につき37万5000円であり, 加算支援金の額が,住宅を建設又は購入する場合には150万円,補修する場合には75万円,賃借する場合には37万5000円であるとされている(支援法3条5項)。 (4) 支援法3条1項の規定による支援金の支給の申請は,基礎支援金については,当該支援金の支給に係る自然災害が発生した日から起算して13か月を 経過する日までに,申請書に,当該世帯が被災世帯であることを証する書面等を添えて,これを都道府県又はその事務の委託を受けた支援法人に提出してしなければならない(支援法施行令4条1項,支援法施行規則1条)。 また,加算支援金については,当該支援金の支給に係る自然災害が発生した日から起 道府県又はその事務の委託を受けた支援法人に提出してしなければならない(支援法施行令4条1項,支援法施行規則1条)。 また,加算支援金については,当該支援金の支給に係る自然災害が発生した日から起算して37か月を経過する日までに,申請書に支援法3条2項各 号に掲げる世帯に該当することを証する書面を添えて,これを都道府県又はその事務の委託を受けた支援法人に提出してしなければならない(支援法施行令4条2項)。 (5)ア都道府県は,議会の議決を経て,支援金の支給に関する事務の全部を支援法人に委託することができる(支援法4条1項)。支援法人は,被災者 の生活再建を支援することを目的とする一般社団法人等であって,支援業務を適正かつ確実に行うことができるとして内閣総理大臣により指定を受けたものである(同法6条1項)。支援法人が支援業務を行うときは,当該業務の開始前に,同法10条1項の規定により設置した運営委員会の議決を経た上で当該業務の実施に関する規程(以下「業務規程」という。) を作成し,内閣総理大臣の認可を受けなければならない(同法10条1項, - 5 -2項,11条1項)。 イこれらの規定を受けて,支援法人である原告は,支援法11条1項所定の業務規程として,被災者生活再建支援事業業務規程(以下「本件業務規程」という。)を定めている(甲5。その抜粋については別紙1-5のとおり。)。 本件業務規程は,支援業務に関する基本方針として,原告が,都道府県及び市町村(特別区を含む。)と協力し,支援業務の迅速かつ適正な執行を図り,もって自然災害による被災者の生活再建を支援することにより,住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資するものとすることを定めている(2条)。 本件業務規程は,原告が支援法7 を図り,もって自然災害による被災者の生活再建を支援することにより,住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資するものとすることを定めている(2条)。 本件業務規程は,原告が支援法7条2号に定める支援金の支給に関する業務を行うものとし(4条2号,5号),原告が都道府県から委託を受ける支援金の支給に関する事務の具体的内容として,支給の申請に係る書類の審査,支給決定,支給決定の取消し等の事務を掲げている(8条)。 そして,原告が支援金の支給決定の全部又は一部を取り消すことができ る場合として,本件業務規程11条は,①偽りその他不正の手段により支援金の支給を受けたとき(同条1号),②その他支援金の支給決定の内容若しくはこれに附した条件に違反し,又は同規程に基づく請求に応じないとき(同条2号)の二つを定めている。原告がこれらの規定により支援金の支給決定を取り消した場合において,当該取消しに係る部分につき既に 支援金が支給されているときは,原告は,期限を定めて,その返還を請求するものとされている(12条)。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者 ア原告(平成30年4月1日の変更前の名称は「公益財団法人都道府県会 - 6 -館」)は,自然災害により被災した都道府県民の生活再建支援,都道府県行政の活動支援,その他地方自治の円滑な運営と進展に寄与する事業を行うことにより,災害による被害者の支援及び国政の健全な運営の確保に資することを目的とする公益財団法人であり,前記1(5)アの支援法人として支援法6条1項に基づく内閣総理大臣の指定を受けて支援業務等を行い, 宮城県から同法4条1項に基づき支援金の支給に関する事務の全部 とを目的とする公益財団法人であり,前記1(5)アの支援法人として支援法6条1項に基づく内閣総理大臣の指定を受けて支援業務等を行い, 宮城県から同法4条1項に基づき支援金の支給に関する事務の全部の委託を受けている(甲5,6)。 イ被告らは,東日本大震災に係る地震(東北地方太平洋沖地震。以下,「東日本大震災」というときは,同震災に係る災害のうち,地震を指すものとする。)が発生した平成23年3月11日当時,α区に所在する本件マン ションに居住していた者である。なお,本件マンションは,「F」という名称の合計9棟から成るマンション群(以下「本件マンション群」という。)のうちの1棟である。 (2) 本件支給決定及び本件取消決定に至る経緯ア α区は,本件マンションの管理組合の申請により,平成23年5月11 日,東日本大震災による本件マンションの被災状況の調査(以下「本件第1回調査」という。)を実施し,α区長は,本件第1回調査の結果に基づき,被告らを含む本件マンションの住民に対し,本件マンションの被害の程度を一部損壊とする同月27日付けり災証明書(以下「第1回り災証明書」という。)を発行した(乙3,37)。 なお,本件マンションのような集合住宅については,原則として,1棟の建物ごとに行われる外観目視調査(第1次調査)によって判定された被害の程度をもって,その建物における各住戸の被害の程度とするものとされ,各住戸の被災者による申請に基づき各戸の内部立入調査(第2次調査)が行われた場合に限り,各住戸ごとにその被害の状況に応じた被害の程度 が判定された。本件マンションに係る各調査(本項及び後記イ,エにおけ - 7 -る本件第1回~第3回調査)は,いずれも上記の第1次調査として実施されたものである(第1次調査及び 害の程度 が判定された。本件マンションに係る各調査(本項及び後記イ,エにおけ - 7 -る本件第1回~第3回調査)は,いずれも上記の第1次調査として実施されたものである(第1次調査及び第2次調査についての詳細は,後記第3の1(2)エ参照)。 イその後,第1回り災証明書の交付を受けた者(被告ら以外の者)から,再調査の申請がされ,α区は,平成23年8月20日,本件マンションの 被災状況の調査(以下「本件第2回調査」という。)を実施した。 α区長は,その結果に基づき,被告らに対し,同月30日から同年10月31日までの間に,本件マンションの被害の程度を大規模半壊とするり災証明書(以下「第2回り災証明書」という。)を発行した(乙3,38,弁論併合前の平成27年(行ウ)第102号,第106号,第107号及 び第118号事件の各甲1。以下,これらの事件につき弁論併合前に提出された書証については,「106号事件甲1」などと表記する。)。 ウ(ア) 被告Aは,原告に対し,平成23年9月29日に第2回り災証明書を添付して支援金の支給を申請し,原告は,被告Aに対し,同年10月26日,基礎支援金50万円を支給する旨の決定をし,同年11月1日, これを支給した(102号事件甲2)。 (イ) 被告Bは,原告に対し,平成23年11月13日に第2回り災証明書を添付して基礎支援金の支給の申請を,同年12月20日に住宅を補修する世帯であることを証する書面を添付して加算支援金の支給の申請をし,原告は,被告Bに対し,同月9日に基礎支援金37万5000円 を,平成24年1月24日に加算支援金75万円を支給する旨の各決定をし,平成23年12月15日に上記基礎支援金を,平成24年1月30日に上記加算支援金をそれぞれ支給した(106号事件甲 0円 を,平成24年1月24日に加算支援金75万円を支給する旨の各決定をし,平成23年12月15日に上記基礎支援金を,平成24年1月30日に上記加算支援金をそれぞれ支給した(106号事件甲2の1及び2)。 (ウ) 被告Dは,原告に対し,平成23年11月19日に第2回り災証明 書を添付して基礎支援金の支給の申請を,同年12月20日に住宅を補 - 8 -修する世帯であることを証する書面を添付して加算支援金の支給の申請をし,原告は,被告Dに対し,同月13日に基礎支援金37万5000円を,平成24年1月24日に加算支援金75万円を支給する旨の各決定をし,平成23年12月19日に上記基礎支援金を,平成24年1月30日に上記加算支援金をそれぞれ支給した(107号事件甲2の1及 び2)。 (エ) 被告Eは,原告に対し,平成23年10月17日に第2回り災証明書を添付して支援金の支給を申請し,原告は,被告Eに対し,同年11月21日,基礎支援金50万円を支給する旨の決定をし,同月28日,これを支給した(118号事件甲2)。 エ(ア) α 区は,平成23年12月15日,本件マンションの被災状況の調査(以下「本件第3回調査」といい,本件第1回及び第2回調査と併せて「本件各調査」という。)を実施し,本件マンションの被害の程度が一部損壊に当たると判定した。 (イ) α区は,平成24年2月15日以降,4度にわたり,住民説明会を 実施し,本件マンションの住民に対して,本件第3回調査の結果,第2回り災証明書における大規模半壊との判定を一部損壊に修正することとなったこと等についての説明を行った(乙5~9)。 (ウ) α区長は,本件第3回調査の結果に基づき,本件マンションの被害の程度を一部損壊とする平成24年2月10日付けり災 を一部損壊に修正することとなったこと等についての説明を行った(乙5~9)。 (ウ) α区長は,本件第3回調査の結果に基づき,本件マンションの被害の程度を一部損壊とする平成24年2月10日付けり災証明書(以下 「第3回り災証明書」という。)を発行し,α区は,同年3月26日,被告らに対して第3回り災証明書を送付した(乙3,4)。 オ原告は,平成25年4月26日付けで,被告らに対して,本件支給決定を取り消す旨の決定(本件取消決定)をするとともに,支給済みの支援金全額を同年7月31日までに返還するよう請求した(乙19,102号, 106号,107号及び118号事件の各甲3,4)。 - 9 -(3) 本件取消決定について,被告らから取消しの訴えの提起がされないまま,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間が経過した。 3 争点(1) 被告らの世帯が大規模半壊世帯に該当するか(2) 本件取消決定の無効事由の有無 4 争点に関する当事者の主張の要旨は別紙2のとおりである。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,被告らの世帯は大規模半壊世帯に該当せず,本件支給決定は支援法の定める支援金の支給要件を充足しないものであったものの,本件支給決定を取り消すことによる不利益と,本件支給決定の取消しをしないことによってその 効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量すると,前者の不利益は後者の不利益を上回るというべきであり,本件支給決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認めることはできないから,本件支給決定を取り消すこととした本件取消決定は違法であり,また,その違法は支援法の根幹に関わる重大なものであって,本件取消決定は当然無効であるといえるため,本 件支給決定は依然としてその効力 件支給決定を取り消すこととした本件取消決定は違法であり,また,その違法は支援法の根幹に関わる重大なものであって,本件取消決定は当然無効であるといえるため,本 件支給決定は依然としてその効力を有し,原告の被告らに対する不当利得返還請求権は発生せず,原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断する。 その理由の詳細は,以下のとおりである。 1 り災証明書及び被害認定に関する認定事実 (1)アり災証明書は,災害による住家に係る被害認定をした結果を証明する文書として全国の各市町村において作成され,本件当時は,その発行について法的根拠を定める規定はなかったものの(平成25年法律第54号による改正後の災害対策基本法90条の2第1項参照),各種被災者支援制度(税や国民年金保険料の減免等を含む。)において,適用の判断の際の基 礎資料として利用され,支援法に基づく支援金の支給申請においても,当 - 10 -該申請に係る世帯が被災世帯であることを証する書面(支援法施行令4条1項)として扱われていた(乙2,3,17)。 イ仙台市の定める「り災証明等取扱要領」(乙34,以下「取扱要領」という。)によれば,り災証明書は,災害による住家及び非住家の被害発生の事実が確認できる場合に,災害により生じた住家等の被害の程度を証明 するものとして発行することとされている(取扱要領2条(1),3条)。 また,り災証明書の交付を受けた関係者等が,それまでに認定を受けた住家等の被害の程度について相当の理由をもって修正を求めるときは,市長に対し,再調査の申請をすることができることとされ(取扱要領7条1項),市長は,その申請があった場合,その内容を当初の調査資料等と照 合し又は再度実地調査等を行った結果,それまでに認定した住 長に対し,再調査の申請をすることができることとされ(取扱要領7条1項),市長は,その申請があった場合,その内容を当初の調査資料等と照 合し又は再度実地調査等を行った結果,それまでに認定した住家等の被害の程度に錯誤のあること又は当該申請を行った者の責に因らない状況の変化が当該住家等に生じたことが認められるときは,被害の程度を修正することとされている(取扱要領8条1項)。 (2) 被害認定の基準及び調査方法について ア本件当時,り災証明書が証明する被害の程度は,国が定める「災害の被害認定基準(平成13年6月28日付府政防第518号内閣府政策統括官〔防災担当〕通知)」を受けて内閣府が定めた「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(平成21年6月改定後のもの。乙31,以下「内閣府運用指針」という。)に基づき判定することとされていた。 内閣府運用指針は,行政が災害による被害の把握や対応のために用いていた従前の被害認定基準につき,その内容を実状に合うように見直すとともに,同基準のうちの住家に係る部分が,市町村においてり災証明を発行するための被害調査の基準として活用されるようになり,同基準に基づいた被害調査結果がり災証明書に記載され,住家の被害の程度に関する支援 法の適用の判断材料とされるなど,各種被災者支援策と密接に関連するよ - 11 -うになってきたという状況を踏まえて,住家の被害認定に係る標準的な調査方法及び判定方法を示すことを目的として,平成13年6月に内閣府により作成され,その後平成21年6月に改定されたものである(乙30,31)。 イ内閣府運用指針は,災害の現況を迅速かつ的確に把握し対応するための 情報の目安という面と,各種被災者支援策の適用の判断材料となる被害調査の基準としての面を有す のである(乙30,31)。 イ内閣府運用指針は,災害の現況を迅速かつ的確に把握し対応するための 情報の目安という面と,各種被災者支援策の適用の判断材料となる被害調査の基準としての面を有するところ,住家の被害調査に基づいて発行されるり災証明書は被災者支援策の適用の判断材料として個々の住家の被害程度に着目するものであるから,この場合の被害認定の基準は的確性に重点を置いた形で使用されることが求められるとされている(同指針の総則 2頁)。 ウ内閣府運用指針は,住家の被害認定基準として,住家の被害の程度を「全壊」,「大規模半壊」,「半壊」及び「半壊に至らない(一部損壊)」の4種類に分類し,そのうち「大規模半壊」については,「居住する住宅が半壊し,構造耐力上主要な部分の補修を含む大規模な補修を行わなければ 当該住宅に居住することが困難なもの。具体的には,損壊部分がその住家の延床面積の50%以上70%未満のもの,または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し,その住家の損害割合が40%以上50%未満のものとする。」と定めており(同指針の総則1頁),支援法2条2号ニに定める大規模半壊世帯(第2の1(2)②)にほぼ対応 する。 もっとも,上記の被害認定基準は,これを忠実に適用しようとすれば,著しい労力と膨大な時間を要し,また,建築の専門的知識を要することとなることから,内閣府運用指針においては,一般的な住家を想定し,各部位にかかる施工価格等を参考に設定した部位別構成比を採用し,被災した 住家の部位ごとの損傷率(Ⅰ~Ⅴ〔10%,25%,50%,75%,1 - 12 -00%〕の5段階で判定)を当該部位の構成比に乗じてそれぞれの損害割合を算定し,損害割合の合計によって住家の被害の程度を判 位ごとの損傷率(Ⅰ~Ⅴ〔10%,25%,50%,75%,1 - 12 -00%〕の5段階で判定)を当該部位の構成比に乗じてそれぞれの損害割合を算定し,損害割合の合計によって住家の被害の程度を判定することとしている(同指針の総則3~4頁)。なお,調査及び判定の実施主体については,建築士等の資格を有する者であることを必要としておらず,そのような資格を有しない者も調査及び判定を行い得ることが前提とされて いる。 エ内閣府運用指針の定める地震による住家の被害の調査方法及び判定方法の具体的な内容は,以下のとおりである。 (調査方法)内閣府運用指針は,地震による被害の原則的な調査方法について,第1 次調査,第2次調査という2段階の調査を定めている。第1次調査は,外観目視調査により,外観の損傷状況の目視による把握,住家の傾斜の計測及び住家の主要な構成要素(外観から調査可能な部分に限る。)ごとの損傷程度等の目視による把握を行うというものである。第2次調査は,第1次調査を実施した住家の被災者から申請があった場合に実施するものであ り,原則として申請者の立会いの下,外観目視調査及び内部立入調査により,外観の損傷状況の目視による把握,住家の傾斜の計測及び住家の主要な構成要素ごとの損傷程度等の目視による把握を行うというものである(同指針の総則2~3頁)。したがって,被災者から第2次調査の申請がない場合には,第1次調査のみが行われることになる(本件マンションに ついて実施された本件第1回~第3回調査は,いずれも第1次調査として行われたものである。)。 (判定方法)内閣府運用指針は,一般的な住家を想定し,各部位にかかる施工価格等を参考に設定した部位別構成比及び部位ごとの損傷率(上記ウ参照)につ いて,次のとおり れたものである。)。 (判定方法)内閣府運用指針は,一般的な住家を想定し,各部位にかかる施工価格等を参考に設定した部位別構成比及び部位ごとの損傷率(上記ウ参照)につ いて,次のとおり定めている。 - 13 -すなわち,地震による被害に係る第1次調査では,非木造住家の部位別構成比は,柱(又は梁)が60%,雑壁・仕上等が25%,設備等(外部階段を含む。)が15%とされている(同指針の第1編1-47頁)。梁の損傷率は,梁の被害が建物全体で面的に拡がることが想定されるため,損傷梁を含む部分の面積の住家全周の見附面積に対する割合をまず算出 し,これに各梁の損傷程度を掛けることにより算出する。梁の損傷程度については,鉄筋コンクリート造につき,①損傷程度Ⅰ(損傷程度10%)の損傷として「近寄らないと見えにくい程度のひび割れ(幅約0.2㎜以下)が生じている。」,②同Ⅱ(損傷程度25%)の損傷として「肉眼ではっきりと見える程度のひび割れ(幅約0.2㎜~1㎜)が生じているも のの,コンクリートの剥落は生じていない。」,③同Ⅲ(損傷程度50%)の損傷として「比較的大きなひび割れ(幅約1㎜~2㎜)が生じているが,コンクリートの剥落は極くわずかであり,鉄筋は露出していない。」,④同Ⅳ(損傷程度75%)の損傷として「大きなひび割れ(2㎜を超える)が多数生じ,コンクリートの剥落も激しい。鉄筋が露出しているものの鉄 筋の変形は見られない。」,⑤同Ⅴ(損傷程度100%)の損傷として「鉄筋が大きく露出しており,鉄筋の曲がり・破断が見られる。内部のコンクリートも崩れ落ち,部材の軸心がずれている。」と例示されている(同指針の第1編1-53頁)。 また,第2次調査の部位別構成比は,柱(又は耐力壁)が50%,「床 ・梁」「外部仕上 内部のコンクリートも崩れ落ち,部材の軸心がずれている。」と例示されている(同指針の第1編1-53頁)。 また,第2次調査の部位別構成比は,柱(又は耐力壁)が50%,「床 ・梁」「外部仕上げ・雑壁・屋根」「内部足上・天井」が各10%,建具が5%,設備等が15%(うち住家外が5%)とされている。 (3) 被害認定調査票について東日本大震災による住家の被害の認定については,内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(以下「内閣府参事官」という。)の「平成23年東北地 方太平洋沖地震に係る住家被害認定迅速化のための調査方法について(平成 - 14 -23年3月31日事務連絡)」(乙17,以下「本件事務連絡」という。)が発出され,未曾有の災害である同震災に係る住家の被害について,迅速に被害認定を実施し,速やかにり災証明書を発行するため,標準的な調査方法及び判定方法を定める内閣府運用指針よりも簡便な調査方法が示された。仙台市においても,東日本大震災による住家の被害の認定に関し,簡易で効率 的な運用を可能とするため,内閣府運用指針の内容に基づきつつこれを簡素化した東北地方太平洋沖地震被災建物被害認定第1次調査票〈非木造建物〉(乙36の1,以下「第1次調査票」という。)及び同第2次調査票〈非木造建物〉(乙36の2,以下「第2次調査票」という。)が作成された。 第1次調査票では,①まず建物の外観により全壊に該当するか否かを判定 し,全壊に該当しない場合に,②「柱・耐力壁・基礎」(構成比60%),③「屋根・外部仕上」(同25%),④「設備等」(同15%)の各項目の部位別損害割合(Ⅰ~Ⅴの5段階で認定)の合計により損害割合を算定することとされている。例えば,上記②「柱・耐力壁・基礎」については,鉄筋コンクリート造(RC)の建物 設備等」(同15%)の各項目の部位別損害割合(Ⅰ~Ⅴの5段階で認定)の合計により損害割合を算定することとされている。例えば,上記②「柱・耐力壁・基礎」については,鉄筋コンクリート造(RC)の建物の損傷につき,損傷程度Ⅰの損傷として「一 部でひび割れが発生」(部位別損害割合6%),同Ⅱの損傷として「明らかなひび割れ」(同15%),同Ⅲの損傷として「大きなひび割れ」及び「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」(同30%),同Ⅳの損傷として「著しい剥落の発生」及び「鉄筋の露出(変形なし)」(同45%),同Ⅴの損傷として「鉄筋の露出かつ曲折や破断の発生」及び「内部コンクリートの崩 落」(同60%)が例示されている。 また,第2次調査票では,①まず建物の外観により全壊に該当するか否かを判定し,全壊に該当しない場合に,②「柱・耐力壁・基礎」,③「屋根・外部仕上」,④「設備等」,⑤「床・梁」,⑥「天井・内部仕上」,⑦「建具」の各項目の部位別損害割合の合計により損害割合を算定することとされ ている。 - 15 -そして,第1次調査票,第2次調査票とも,損害割合が0%では損害が認められないものとし,20%未満では一部損壊,20%以上40%未満では半壊,40%以上50%未満では大規模半壊,50%以上では全壊と判定することとされている(乙41の1頁)。 このように,第1次調査票及び第2次調査票は,東日本大震災による住家 の被害について簡素で効率的な調査を実施するために,損傷長や損傷面積といった計測や計算を伴う調査手法を採用せず,目視による状況把握により判定ができるようにしている。なお,仙台市財政局税務部資産税課が作成した「建物被害認定調査のポイント」(乙41,以下「調査ポイント」という。)は,建築に関する専門的知識を有しな による状況把握により判定ができるようにしている。なお,仙台市財政局税務部資産税課が作成した「建物被害認定調査のポイント」(乙41,以下「調査ポイント」という。)は,建築に関する専門的知識を有しない職員が被害認定調査を行う場合を考 慮して,建築用語等の基礎知識を含め,調査の具体的な実施について説明するものであるところ,その中には,「損傷程度に例示した事象の中で用いられる『一部』,『半分』,『著しい』,『全面的』,『細い』,『太い』等の文言については,一律に何cm から何cm までなどという制約を課すものではないため,社会通念を前提とした調査担当者としての自覚と責任をもって 判断を行うこととします。」との説明がある。 2 本件各調査及び本件取消決定に至る経緯等に関する認定事実(1) 東日本大震災における住家の被害認定調査について,α区では約5万件の第1次調査が行われ,α区役所区民部固定資産税課(以下「α区固定資産税課」という。)の職員(合計22名)のほか,仙台市の他部局からの応援職 員,他の市町村等からの派遣職員及び臨時的任用職員が,り災証明書の発行に係る事務を担当した。そのうち,建物の被害認定調査を担当した者は50~60名であり,各調査はそれぞれ複数の調査員によって行われた(乙61の2頁)。 本件マンションについて行われた本件各調査も,これらの被害認定調査の 一つとして行われたものである。 - 16 -(2) 本件第1回調査について平成23年5月11日に実施された本件第1回調査では,第1次調査票に基づき,①建物の外観により全壊に相当する被害は確認されないとした上で,部位別の損害のうち,②「柱・耐力壁・基礎」については損傷が確認されなかったが,③「屋根・外部仕上」について,外部仕上げの明らか 基づき,①建物の外観により全壊に相当する被害は確認されないとした上で,部位別の損害のうち,②「柱・耐力壁・基礎」については損傷が確認されなかったが,③「屋根・外部仕上」について,外部仕上げの明らかなひび割れ (損傷程度Ⅱ。損害割合6%)が,④「設備等」について,高架水槽・受水槽の損傷及びエレベーターの損傷(損害割合合計10%)がそれぞれ確認された。その結果,本件マンションは,部位別損害割合の合計が16%であり,被害の程度が一部損壊に当たると判定された。 α区長は,平成23年5月27日,被告らに対し,被害の程度を一部損壊 とする第1回り災証明書を発行した。(乙7,61~63,66 )(3) 本件第2回調査について第1回り災証明書の発行を受け,その判定に不服を抱いた本件マンションの住民(被告ら以外の者)から,平成23年7月23日,α区に対し,同証明書において被害の程度が一部損壊と判定されたことにつき再調査の申請 がされたため,平成23年8月20日午後1時30分頃から午後3時50分頃までの間,いずれも建築士の資格を持たない3名の職員により,本件マンションの共用部分(外壁・廊下等)について本件第2回調査が実施された。 本件第2回調査では,第1次調査票に基づき,部位別の損害のうち,②「柱・耐力壁・基礎」について,一部で剥離(鉄筋の露出なし)が発生するとの 損傷(損傷程度Ⅲ。損害割合30%)が,③「屋根・外部仕上」について,外部仕上げの明らかなひび割れ(損傷程度Ⅱ。損害割合6%)が,④「設備等」の項目について,高架水槽・受水槽の損傷及びエレベーターの損傷(損害割合合計10%)がそれぞれ確認された。上記②「柱・耐力壁・基礎」について確認された損傷は,具体的には,本件マンションの共用部分の階段底 部と梁の接合部 水槽の損傷及びエレベーターの損傷(損害割合合計10%)がそれぞれ確認された。上記②「柱・耐力壁・基礎」について確認された損傷は,具体的には,本件マンションの共用部分の階段底 部と梁の接合部に剥離(以下「本件剥離」という。)を認めたことによるも - 17 -のであった。その結果,本件マンションは,部位別損害割合の合計が46%となり,被害の程度が大規模半壊に当たると判定された(なお,本件第2回調査において,当初来訪した2名の職員は本件マンションにつき一部損壊に当たると評価していたが,これらの職員と同調査を申請した住民との間にトラブルが発生したとの連絡を受けて来訪したα区固定資産税課長も加わり, 3名の職員による調査が行われた結果,大規模半壊に当たると判定されたものである。)。 α区長は,被告らに対し,平成23年8月30日から同年10月31日までの間に,本件マンションの被害の程度を大規模半壊とする第2回り災証明書を発行した。 (乙8,38,57,61,62,66)(4) 建築士による調査についてア α区では,本件マンション群のうち本件マンション以外の8棟の管理組合から再調査の申請を受け,平成23年11月13日,上記8棟の建物について改めて被害認定調査を行ったところ,その結果は,いずれも大規模 半壊に至らないものであった。 このように,本件マンション群のうち本件マンションのみが大規模半壊と判定される結果となったことを受け,α区固定資産税課長は,本件第2回調査の判定に疑問を抱き,本件マンションの被害認定につき専門家の意見を求めるため,日本建築家協会宮城地域会を通じて紹介を受けたG一級 建築士(以下「G建築士」という。)に調査を依頼し,G建築士は,平成23年11月22日,本件マンションの調査を実施し 家の意見を求めるため,日本建築家協会宮城地域会を通じて紹介を受けたG一級 建築士(以下「G建築士」という。)に調査を依頼し,G建築士は,平成23年11月22日,本件マンションの調査を実施した(以下「G建築士調査」という。)。(甲9,乙56,57,61)イ G建築士の意見G建築士の意見の概要は,次のとおりである(乙15,56,59,以 下「G建築士意見」という。)。 - 18 -『本件マンションの階段下部(底部)には,2m程ある階段下全体に増しコンクリートが打設されているところ,増しコンクリート及び梁にそれぞれ一部の欠け落ち(本件剥離)が認められ,その他の一部の欠け落ち部分については,その範囲が増しコンクリートの欠け落ちの範囲と一致しており,鉄筋の露出は認めらない。 この打設された増しコンクリートは相当な重量になっていると思われ,無筋のため,地震の影響も受けやすい。また,本来,鉄筋に付着されていないコンクリートは経年劣化で施工当初より剥離しやすい状態になっていても不思議ではない。そうしたところ,東日本大震災における地震の揺れにより,増しコンクリートが梁方向にぶつかり,その衝撃で一部が剥離し て落下し,これに追従して梁の一部も剥離し落下したものであると考えられる。 内閣府運用指針において鉄筋コンクリート(RC)造の梁の損傷程度Ⅲの例示とされている損傷は,建築の構造的な見地から,構造体として受けた曲げやせん断力により生じた亀裂や剥離を想定しているものと考えられ る。また,第1次調査票にRC造の損傷程度Ⅲとして記載されている「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」は,内閣府運用指針と同様,構造体として受けた曲げやせん断力により比較的大きなひび割れが起こった結果,一部で剥離が発生したものを指すと 度Ⅲとして記載されている「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」は,内閣府運用指針と同様,構造体として受けた曲げやせん断力により比較的大きなひび割れが起こった結果,一部で剥離が発生したものを指すと解すべきであろう。そうしたところ,本件においては,階段下部の梁にはひび割れは存在せず,増しコンク リートの剥離に追従して起こった一部の欠けがあるのみであるから,これには該当しない。そして,この欠けは,増しコンクリートの一部の剥離に追従して起こったごく一部のものであり,構造耐力上の影響はほとんどないのは明らかであることから,損傷程度Ⅲと同等の損傷とみなすことができない。』(乙59) (5) 本件第3回調査について - 19 -ア本件第3回調査は,平成23年12月15日に実施され,α区固定資産税課の職員のほか,同区建設部街並み形成課の一級建築士の資格を有する職員を加えて行われた。 イ本件第3回調査では,第1次調査票に基づき部位別の損害を確認したところ,②「柱・耐力壁・基礎」については損傷が確認されず,③「屋根・ 外部仕上」について,外部仕上げの明らかなひび割れ(損傷程度Ⅱ。損害割合6%)が,④「設備等」について,高架水槽・受水槽の損傷及びエレベーターの損傷(損害割合合計10%)がそれぞれ確認された。 その結果,本件マンションは,部位別損害割合の合計が16%となり,被害の程度が一部損壊に当たると判定された(乙39)。 ウまた,本件第3回調査では,第2次調査票を用いた検討もされたところ,部位別の損害のうち,②「柱・耐力壁・基礎」について,一部につきひび割れ(損傷程度Ⅰ。損害割合5%)が,③「屋根・外部仕上」について,外部仕上げの明らかなひび割れ(損傷程度Ⅱ。損害割合3%)が,④「設備等」について,高架水 ・耐力壁・基礎」について,一部につきひび割れ(損傷程度Ⅰ。損害割合5%)が,③「屋根・外部仕上」について,外部仕上げの明らかなひび割れ(損傷程度Ⅱ。損害割合3%)が,④「設備等」について,高架水槽・受水槽の損傷及びエレベーターの損傷(損害 割合合計4%)が,⑤「床・梁」について,コンクリートの剥離を伴わない亀裂(損傷程度Ⅱ。損害割合3%)がそれぞれ確認され,⑥「天井・内部仕上」については損傷が確認されず,⑦「建具」について,開閉が困難であること(損傷程度Ⅰ。損害割合1%)が確認された。 その結果は,部位別損害割合の合計が16%であり,被害の程度は一部 損壊に当たるというものであった(乙52)。 エ仙台市長が内閣府参事官に宛てて作成した平成24年3月30日付け書面によれば,①本件マンションの被害の判定における誤認発生の原因は,本件第2回調査を実施した際,階段と梁の接合部の仕上げにすぎない部位のコンクリート剥離・欠落及び一部鉄筋の露出を,梁のコンクリート剥離 ・欠落等と誤認し,構造上重要な損傷に当たると誤認したことにある,② - 20 -もっとも,本件第3回調査に同行した一級建築士の資格を有する職員(前記ア参照)によれば,本件マンションは階段が梁に直接接合するという類例の少ない造りとなっており,建築の専門的知識がなければ誤認しやすい損傷箇所であるとのことである,との説明がされている(甲9)。 オ α 区は,平成24年2月15日以降4度にわたり,住民説明会を実施し, 本件マンションの住民に対して,第2回り災証明書において大規模半壊とされた本件マンションの被害の程度について,本件第3回調査の結果,一部損壊に修正すべきものとされたこと等に関し,以下の説明をした。(乙5~9)(ア) 本件第2回調査において,階 いて大規模半壊とされた本件マンションの被害の程度について,本件第3回調査の結果,一部損壊に修正すべきものとされたこと等に関し,以下の説明をした。(乙5~9)(ア) 本件第2回調査において,階段と梁の接合部分の本件剥離を,構造 耐力上主要な部分の損傷と誤認した。誤認の原因は,本件マンションにおける階段と梁の接合部分の施工が大変珍しい工法のものであり,梁に近いところの損傷であったため,誤認しやすかったことにある(乙6~8)。 (イ) 本件マンションの被害の程度を大規模半壊と誤って判定したこと は,本件マンションの住民の過失によるものではなく,α 区の誤りによるものである(乙8・9頁)。 カ α区長は,本件第3回調査の結果に基づき,本件マンションにつき被害の程度を一部損壊とする平成24年2月10日付けり災証明書(第3回り災証明書)を発行し,α区は,同年3月26日,被告らに対して第3回り 災証明書を送付した(乙3,4)。 (6) 本件取消決定に至る経緯ア α区固定資産税課長は,平成24年3月26日付け書面(乙3)をもって,本件マンションの住民らに対し,第3回り災証明書を交付する旨,これに伴い,同住民らが受けている各種被災者支援制度について取扱いの変 更が生ずる旨の連絡をした。 - 21 -同書面に添付された「各種支援制度一覧表」によれば,「1.納付等をお願いする制度」として,市税・国税の減免等,国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・国民年金保険料の減免等,介護保険料の減免等,保育料の減免が掲げられるとともに,「2.遡って納付・返還を求めない制度」として,災害義援金(住家被害を含む。),住宅の応急修理(既に工事が 完了した物件につき),国民健康保険一部負担金・後期高齢者医療一部負担金の免除,介 に,「2.遡って納付・返還を求めない制度」として,災害義援金(住家被害を含む。),住宅の応急修理(既に工事が 完了した物件につき),国民健康保険一部負担金・後期高齢者医療一部負担金の免除,介護サービス利用料等の減免,延長保育料の減免等が掲げられていた。そして.「3.その他」として,「被災者生活再建支援制度」については,「対応について県を通じて,内閣府に照会中」とされていた。 イ内閣府参事官は,平成24年3月16日付け書面(乙51)をもって, 原告に対し,同年2月15日付け内閣府(防災担当)災害復旧・復興担当作成の「仙台市α区のマンションに係る『り災証明書の被害の程度』の修正に伴う被災者生活再建支援金の支給の不利益変更等に関する取扱いについて(メモ)」を,内閣法制局の確認を経た上での内閣府における法的見解であるとして送付した(以下「内閣府見解」という。)。 内閣府見解には,概要次のとおり,本件マンションの住民らに支給済みである基礎支援金93件,加算支援金31件に係る各支給決定につき,これらを原告において職権により取り消して当該住民に返還請求をすることは困難である旨が記載されていた。 『支援金が一旦支給されると,受給した住民は,これを基にまたはこれを 前提として,生活を再建するための出費等の計画をたて,受給後の期間の経過に伴い受給した支援金を既に支出等している世帯があることも想定されるなど,法関係その他の様々な諸関係や諸事実が形成される。この場合,この点を考慮せずに職権取消しによる支援金の返還請求を行うと,これらの諸関係・諸事実のなかで相手方やその利害関係人に生じている利益や信 頼が損なわれることになる。 - 22 -支援金の支給の取消しについては,こうした観点と,都道府県が相互扶助の観 の諸関係・諸事実のなかで相手方やその利害関係人に生じている利益や信 頼が損なわれることになる。 - 22 -支援金の支給の取消しについては,こうした観点と,都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用し,未申請で支給を受けていない人との公平性に配慮して,支援金を支援法に従い適正に支給するという公益との間での利益衡量となってくる。この点について,業務規程11条は,例外的に不利益変更である支援金の支給の取消しや返還請求等をすることがで きる場合として,被災者に帰責事由がある場合を定めているものである。 今回の事案は,仙台市がり災証明の発行に当たっての被害認定調査の際に誤りがあったことが原因であり,住民側に帰責事由はないことから,業務規程11条の「偽りその他不正な手段により支援金の支給を受けたとき」に該当すると解することは困難である。 また,もし交付決定を取り消し,返還請求を行えば,住民の生活安定に支障をきたし,住民との間での制度への信頼性が損なわれることになり,これと比べれば,支援金の適正な支給という公益が優先する状況にあるとは言い難いと考えられる。 以上より,今回の事案については,交付決定の取消し及び支援金の返還 請求を行うことは困難であると考えられる。 なお,これまでも,都道府県会館において,被災者に帰責事由がない場合であっても,取消しや返還請求を行っているケースもあるが,これらは,被災者から支援金の辞退について同意を得ている場合に,支援金の支給の決定を取り消し,その返還を求めているものであり,業務規程11条や1 2条に反するものではない。』ウ一方,内閣府は,平成24年3月14日付け書面(甲12)をもって,①支援法2条に定める被災世帯でない世帯の世帯主に支給されたものにつ 規程11条や1 2条に反するものではない。』ウ一方,内閣府は,平成24年3月14日付け書面(甲12)をもって,①支援法2条に定める被災世帯でない世帯の世帯主に支給されたものについては,同法に基づく支援金とは認められず,当該経費を除いた金額をもって実績報告を行うことが原告に求められることになり,既に交付した補 助金の金額がこれを上回っている場合には原告に対しその返還を命じなけ - 23 -ればならない,②受給者から返還を求めないこととした支給金の費用負担については,原告又は委託者である都道府県が,り災証明書を発行した市町村に対し求償するかどうかを判断すべきものである,との見解を示した。 エ原告は,弁護士橋本勇(本件訴訟における原告代理人)に対し,支援金の支給後にその支給要件を満足しないことが判明したときに,被災者に対 して交付した支援金の返還を求めることができるか否かにつき意見照会をしたところ,同弁護士は,平成24年4月2日付け書面(甲11)で,交付した支援金の返還を求めることができる旨の回答をした。 オ原告は,平成25年4月26日付けで,被告らに対し,本件支給決定を取り消す旨の決定(本件取消決定)をした(前提事実(2)オ)。 (7) 各住戸の専用部分の被害の概要及び支援金の使途等ア東日本大震災により,本件マンションのうち被告B及び被告Dが居住する専用部分については,玄関,通路,洋間の壁に亀裂が生じ,住宅の補修を要するとして,上記両名は加算支援金の支給をそれぞれ申請し,各75万円の支給を受けた。同専用部分では,上記のほか,テレビや食器・食器 棚,本棚が破損するなどの損害があり,支援金は,洋室の改修工事費用,壊れた家電製品の購入費用,市県民税,年金等の支払に充てられた。被告B及び 。同専用部分では,上記のほか,テレビや食器・食器 棚,本棚が破損するなどの損害があり,支援金は,洋室の改修工事費用,壊れた家電製品の購入費用,市県民税,年金等の支払に充てられた。被告B及び被告Dには,自宅以外に見るべき資産はない(乙74の26・27〔枝番を含む。以下同じ。〕)。 イ被告Aが居住する専用部分については,東日本大震災により,ベランダ の扉が開けにくくなったほか,玄関のドア脇のコンクリートにひびが入るなどの被害が生じた。被告Aは,本件マンションの被害の程度の判定が一部損壊に修正されることを知った頃には,既に支援金の全額を生活費等に費消していた。同被告には,自宅以外に見るべき資産はない(乙74の46)。 3 争点(1)(被告らの世帯が大規模半壊世帯に該当するか)について - 24 -(1)ア支援法2条2号ニは,大規模半壊世帯につき,自然災害によりその居住する住宅が半壊し,基礎,基礎ぐい,壁,柱等であって構造耐力上主要な部分として政令で定めるものの補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難であると認められる世帯と定めるところ,この規定の文言に照らせば,大規模半壊世帯に該当するためには,その居住 する住宅が半壊し,柱,梁等の構造耐力上主要な部分(支援法施行令2条,建築基準法施行令1条3号参照)について補修を行わなければ居住が困難な状態にあることが客観的に認められる必要があると解される。 そして,支援法施行令4条1項は,支援金の支給の申請書には,被災世帯であることを証する書面を添付しなければならないこととし,その書面 に当たるものとして,り災証明書が活用されているところ,り災証明書の被害認定に係る標準的な調査方法及び判定方法を定める内閣府運用指針(前記1(2)) 添付しなければならないこととし,その書面 に当たるものとして,り災証明書が活用されているところ,り災証明書の被害認定に係る標準的な調査方法及び判定方法を定める内閣府運用指針(前記1(2))は,市町村におけるり災証明に記載された住家の被害の程度が支援法の適用等による各種被災者支援策と密接に関連するようになってきたという状況を踏まえて作成されたものであり,その中で「大規模半壊」 の認定基準を「居住する住宅が半壊し,構造耐力上主要な部分の補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難なもの」としているのは,支援法2条2号ニの大規模半壊世帯に該当する住宅の被害の程度と対応させるためであると解される。 また,第1次調査票及び第2次調査票(前記1(3))は,東日本大震災に よる住家に係る被害を簡易かつ効率的に認定することを目的として,内閣府運用指針を基に作成されたものであり,内閣府運用指針と第1次調査票及び第2次調査票は,いずれも,①調査方法について,外観目視調査等により,住家の主要な構成要素ごとの損傷程度等の目視による把握を行うこととし,②判定について,一般的な住家を想定し,各部位にかかる施工価 格等を参考にした部位別構成比に各部位ごとの損傷率を乗じてそれぞれの - 25 -損害割合を算定し,その合計により,住家の被害の程度を客観的に算出することとするものであり,③それらの構成比,損傷程度,損害割合の数値についても共通性が認められることからすれば,第1次調査票及び第2次調査票による調査及び判定は,内閣府運用指針によるそれと基本的に共通性を有し,質的に異なるものではないといえる。 そして,内閣府運用指針や第1次調査票及び第2次調査票が,例えば,地震による被害を受けた鉄筋コンクリート造の住 運用指針によるそれと基本的に共通性を有し,質的に異なるものではないといえる。 そして,内閣府運用指針や第1次調査票及び第2次調査票が,例えば,地震による被害を受けた鉄筋コンクリート造の住家における柱や梁の外観上の損傷の所見について,ひび割れやコンクリートの剥落,鉄筋の露出に着目し,それらの有無及び程度に応じて損害割合を5段階(Ⅰ~Ⅴ)に分けているのは,地震による力が作用して柱や梁の構造耐力を低下させる程 度の損傷が生じた場合には,その損傷の程度に応じて,ひび割れやコンクリートの剥落,鉄筋の露出といった外観上の所見が順次現れ,その程度が顕著になるという構造力学上の理論ないし経験則に基づくものと解されるところ(乙56・20~21頁等参照),このような専門的知見に裏付けられた被害の判定の在り方は,大規模半壊世帯と認められるために必要と される構造耐力上主要な部分について補修を行わなければ居住が困難な状態にあるか否かを判断する方法として合理性を有するというべきである。 したがって,内閣府運用指針や第1次調査票及び第2次調査票に準拠して,的確な外観目視により被害部位毎の損傷の程度を把握した調査に基づき発行されたり災証明書の内容は,被災世帯該当性を判断するに当たって, 基本的に信頼性を有するものといえる。 また,これらの調査以外に信頼性のある調査が実施された場合には,かかる調査の結果をも考慮することができるものとするのが相当である。 イ(ア) 東日本大震災による本件マンションに係る被害状況について,本件各調査が実施されたところ,そのいずれの調査にあたっても第1次調査 票が用いられたものである。 - 26 -本件マンションの共用部分の階段と梁の接合部分に本件剥離が認められたところ,その大部分は,階段下部 ころ,そのいずれの調査にあたっても第1次調査 票が用いられたものである。 - 26 -本件マンションの共用部分の階段と梁の接合部分に本件剥離が認められたところ,その大部分は,階段下部(底部)に打設された2m程度の幅の増しコンクリート部分に生じたものであり,本件第2回調査は,建築士の資格を持たない職員が,本件剥離は梁に損傷が生じたものであると誤認し(甲9),第1次調査票の②「柱・耐力壁・基礎」の項目につ いて,「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」(損傷程度Ⅲ。損害割合30%)に該当するとして,本件マンションの被害の程度が大規模半壊に当たると判定したのに対し,G建築士調査及び本件第3回調査は,本件剥離が梁に生じたものではないと認めたものである。 そうすると,外観目視による被害の部位の認定という点において,本 件第3回調査は正確であり,これに反する本件第2回調査は,結果として不正確なものであったというべきである。 (イ) G建築士意見は,本件剥離が生じた機序について,地震の揺れにより,増しコンクリートが梁方向にぶつかり,その衝撃で一部が剥離して落下し,これに追従して梁の一部も剥離し落下して生じたとし,その理 由について,2m程度の幅の増しコンクリートが相当な重量となっており,経年劣化で剥離しやすい状態でもあったと考えられる上,無筋であるために地震の影響を受けやすいことから,増しコンクリートにまず剥離が生じたとするところ,これらは合理的な説明であるといえる。 また,G建築士意見は,内閣府運用指針において鉄筋コンクリート造 の梁の損傷程度Ⅲとして例示されている損傷は,建築の構造的な見地から構造体として受けた曲げやせん断力によって生じた亀裂や剥離を想定しており,第1次調査票にRC造の損傷程度Ⅲとして記載 ート造 の梁の損傷程度Ⅲとして例示されている損傷は,建築の構造的な見地から構造体として受けた曲げやせん断力によって生じた亀裂や剥離を想定しており,第1次調査票にRC造の損傷程度Ⅲとして記載される「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」との記述は,構造体として受けた曲げやせん断力により比較的大きなひび割れが起こった結果,一部で剥離 が発生したものを指すと解すべきであり,本件マンションにおいては, - 27 -階段下部の梁にひび割れはないから,梁のごく一部に起こった本件剥離は,構造耐力上の影響がほとんどないとする。かかる意見は,内閣府運用指針が定める基準(損傷程度Ⅰ~Ⅴ)に沿うものといえ,特に不合理な点は見当たらない。 このように,G建築士意見は,基本的に信頼性を有するものといえ, 同意見を踏まえて実施された本件第3回調査において,本件マンションの被害の程度が一部損壊にとどまると判定したことは相当というべきであり,本件マンションの被害の程度が大規模半壊に当たるものと認めることはできない。 (2) 被告らの主張について ア被告らは,第1次調査票は,東日本大震災による被災建物の数が膨大であることを踏まえ,簡易迅速な調査・判定を実現するために内閣府運用指針を簡素化して作成されたものであるから,第1次調査票に基づき現況の目視を一義として調査・判定を行うべきであり,それ以上の詳細な調査や評価は予定されていないとした上で,現況目視によれば,梁の一部である 階段と梁の接合部に本件損傷があることは明らかであるため,本件マンションの被害の程度は大規模半壊に当たると主張する。 しかし,大規模半壊世帯に該当するためには,その居住する住宅が半壊し,柱,梁等の構造耐力上主要な部分について補修を行わなければ居住が困難な状 ンションの被害の程度は大規模半壊に当たると主張する。 しかし,大規模半壊世帯に該当するためには,その居住する住宅が半壊し,柱,梁等の構造耐力上主要な部分について補修を行わなければ居住が困難な状態にあることが客観的に認められる必要があることは,上記(1) で判示したとおりであるところ,かかる点に照らせば,大規模半壊該当性を判断するにあたり,第1次調査票の通常の想定とは異なり,建築士の資格を有する者が調査をし,損傷が地震による曲げやせん断力によるものかを評価した結果を考慮することが許されないものとはいえない。そして,G建築士調査の結果,構造耐力上の影響がほとんどないことから本件マン ションの被害の程度が一部損壊にとどまるとしたG建築士意見が基本的に - 28 -信頼できるものであることは上記(1)で判示したとおりである。 また,本件第2回調査で梁の剥離とされた本件剥離の大部分は,階段の増しコンクリート部分に生じており,梁の部分に生じた剥離は梁全体のうちの狭い範囲にとどまっているのであって(乙54等),本件剥離が発生した機序に係るG建築士意見が合理的であるといえること(上記(1))から すれば,本件剥離をもって,梁に損傷が生じたものと認めることはできない。 イ被告らは,H一級建築士(以下「H建築士」という。)の意見書(乙44,60及び85)を提出し,①地震による建物の損傷として梁に損傷が生じるのはひび割れが生じている場合に限定することができず,第1次調 査票はひび割れと損傷を別個にしてそれぞれの損傷の例を示しているとし,②本件マンションについては,東日本大震災により,想定外の箇所に想定外の作用によって損傷が生じており,第1次調査票の基準どおり,梁の損傷が認められることから大規模損壊に当たると主張する。 るとし,②本件マンションについては,東日本大震災により,想定外の箇所に想定外の作用によって損傷が生じており,第1次調査票の基準どおり,梁の損傷が認められることから大規模損壊に当たると主張する。 しかし,①地震による力が作用して柱や梁の構造耐力を低下させる程度 の損傷が生じた場合には,コンクリートの剥落や鉄筋の露出よりも前に,まずはひび割れが生じるのが一般的であり,被告らが主張するように,ひび割れが生じなくとも梁の損傷が生じる場合があり得ること自体は否定できないとしても,ひび割れが生じる場合と同様に一般的によく見られるものとまでは認められない。第1次調査票は,損傷程度Ⅲの損傷として「大 きなひび割れ」及び「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」を挙げるところ,第1次調査票が基とした内閣府運用指針では,同程度の損傷として「比較的大きなひび割れ(幅約1㎜~2㎜)が生じているが,コンクリートの剥落は極わずかであり,鉄筋は露出していない。」と定め,ひび割れとコンクリートの剥落を一つの基準の中で判定することとしており,第1 次調査票が,内閣府運用指針の考え方とは異なる判定方法を採用したとは - 29 -認められない(乙69,70参照)。 ②被告らは,想定外の箇所に想定外の作用によって損傷が生じたことの具体的機序として,本件マンションは,柱・壁と別の構造体である床版が,梁の側面に斜めに,しかも増しコンクリートで梁の側面前面に接合するという形状で造られているため,東日本大震災により,柱からではない作用 が梁に加わり,しかも梁は水平床が抜けている状態で梁の水平拘束が働かないため,梁への斜め方向の圧力によるねじり的な作用により梁の下に損傷が生じ ,これと同じ作用により,梁の上部にも損傷が生じたと主張するが,H建築士の上記 水平床が抜けている状態で梁の水平拘束が働かないため,梁への斜め方向の圧力によるねじり的な作用により梁の下に損傷が生じ ,これと同じ作用により,梁の上部にも損傷が生じたと主張するが,H建築士の上記意見書によっても,東日本大震災により,そのような機序により,ひび割れを生ずることなく梁に損傷が生じたことが具体的に 裏付けられているとはいえない。また,梁の上部に生じたとする損傷は被害認定の外観目視の対象ではなかったものであるところ,被告らは,同損傷により梁の側面に相当な作用があったとも主張するが,上記意見書は,梁が受けたダメージや耐震性能の低下の程度は明らかではないとしている。 被告らは,本件マンションの梁には東日本大震災により多数のひび割れが生じているとも主張するが,被告らが提出する証拠(乙53~55,65,67等)によっても,具体的に梁のどの箇所にどの程度のひび割れがあるかが不明であり,本件第3回調査の判定が誤りであることを基礎付けるに足りるものではない。 ウしたがって,被告らの上記主張はいずれも採用することができず,被告らの世帯が大規模半壊世帯に該当すると認めることはできない。 4 争点(2)(本件取消決定の無効事由の有無)について(1) 一般に,行政処分は適法なものでなければならず,一旦された行政処分も,後にそれが違法であることが明らかになった場合には,法律による行政の原 理又は法治主義の要請に基づき,行政の適法状態を回復するため,法律上の - 30 -特別の根拠なく,処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁において職権によりこれを取り消すことができるというべきである。原告は,支援法6条1項に基づく内閣総理大臣の指定を受けた支援法人であって,宮城県から支援金の支給に関する事務の全部の 限を有する行政庁において職権によりこれを取り消すことができるというべきである。原告は,支援法6条1項に基づく内閣総理大臣の指定を受けた支援法人であって,宮城県から支援金の支給に関する事務の全部の委託を受け,自ら処分行政庁として行政処分である支援金の支給決定を行うものであり,上記と別異に解すべき 理由はないから,支援金の支給決定が違法であることが明らかになった場合に,法律上の特別の根拠なく,職権によりこれを取り消す権限を有するものと解される。 (2) 一方,支援金の支給決定のような授益的な行政処分については,一般に,これが取り消されることによって,当該処分による既得の権利利益や,当該 処分が適法であり有効に存続するものと期待した者の信頼を害することとなるため,こうした利益や信頼を保護すべき要請から,当該処分の違法が明らかになったとしても,その取消しが許されず,又は制限される場合があるというべきである。 すなわち,処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては, 処分の取消しによって生ずる不利益と,取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し,当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り,これを取り消すことができるものと解するのが相当である(最高裁昭和28年(オ)第375号同31年3月2日第二小法廷 判決・民集10巻3号147頁,最高裁昭和39年(行ツ)第97号同43年11月7日第一小法廷判決・民集22巻12号2421頁参照)。 そして,かかる判断の枠組みにおいて比較考量されるべき不利益の内容や程度は,処分の根拠となる法令の趣旨や,当該処分に係る具体的事情により決せられるべきであり,以下において,本件支 421頁参照)。 そして,かかる判断の枠組みにおいて比較考量されるべき不利益の内容や程度は,処分の根拠となる法令の趣旨や,当該処分に係る具体的事情により決せられるべきであり,以下において,本件支給決定の取消しの可否につき, 同決定の根拠法令である支援法の趣旨及び本件支給決定に係る具体的事情を - 31 -踏まえて検討を加えることとする。 (3)ア本件支給決定の取消しによって生ずる不利益について(ア) 支援法は,自然災害による被災者の生活再建を支援し,もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的として(1条),自然災害により多数の住宅が損壊するなどの被害が生じた場合に つきその被災世帯に対する支援金の支給を定めている(3条)。そして,これに基づく支援金の支給は,住宅の再建や補修等の復旧のために実際に要する費用にかかわらず,住宅の被害の程度,被災世帯の構成員の数及び住宅の復旧方法に応じて定められた,当面の生活再建資金として必要と考えられる比較的低額な所定の額の支援金を支給することとされて いる(前記第2の1(3)参照)。このように支援法が定めているのは,上記のような比較的低額な所定の額の支援金を一律かつ迅速に被災者に支給することにより,住宅という重要な生活基盤に被害が生じた多数の被災者について,その支援の必要性が高い時期に生活再建のために必要な資金を援助し,もって,被災者の生活再建を支援し住民の生活の安定と 被災地の速やかな復興を図るという同法の目的を達成しようとするものと解される。 このような支援法の趣旨及び目的に鑑みると,同法に基づき支給される支援金は,支給を受けた被災者において,速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されているものであり,また,これに加えて, うな支援法の趣旨及び目的に鑑みると,同法に基づき支給される支援金は,支給を受けた被災者において,速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されているものであり,また,これに加えて, 同法に支援金の返還に関する規定がないことに照らすと,支給を受けた被災者において後に返還することを要しないことを当然の前提として支給されるものであると解される。 (イ) しかるに,支援金の支給後において住宅の被害の程度が修正される場合,例えば,市町村が行う被害認定調査により住宅の被害の程度が大 規模半壊に当たると判定されたため支援金が支給されたが,その後の再 - 32 -調査により上記の判定が誤りであったとされた場合に,支援金の支給要件を欠くものとして支給決定が取り消され,支援金を返還しなければならないとすれば,支援金の支給を受ける被災者は,住宅の被害の程度に関する事後的な修正の有無によって支給決定が維持されるか否かが左右されるという不安定な立場に置かれるばかりでなく,そのような修正が されていないときであっても,後に支援金の返還を求められる可能性を考慮して,これを速やかに生活再建のために支出することにちゅうちょを覚えるという事態に陥りかねないこととなる。そのような事態は,自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者の生活再建のため,その支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援金制度の 実効性を失わせ,ひいては,支援法に基づく支援金制度そのものに対する信頼を損なうものとなりかねない。 また,自然災害による被災者に対する各種の支援策の中でも,税の減免のように本来納付しなければならない負担を免れる場合と比べて,支援金の支給のような生活再建資金の援助は,これを原資として生活再建 に向けた消費活動を促進さ 対する各種の支援策の中でも,税の減免のように本来納付しなければならない負担を免れる場合と比べて,支援金の支給のような生活再建資金の援助は,これを原資として生活再建 に向けた消費活動を促進させる面を有することから,被災者に支給された支援金が生活再建のために支出された後になってその返還を求めることは,被災者における生活再建のための支出計画に少なからぬ影響を及ぼすとともに,支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者に負わせることにもなり,かえって,被災者の生活再建に対する阻害要因 となりかねず,被災者の生活再建を支援する支援法の趣旨及び目的に反することになる。 (ウ) このように,支給された支援金について返還を要しないことに対する被災者の信頼は,それが保護に値しないというべき特別の事情が認められない限り,保護する必要性が高いものというべきである。 イ本件支給決定の効果を維持することの不利益について - 33 -他方で,支援法3条1項は,同法2条2号が定める被災世帯に該当するか否かにより支援金の支給対象を画しているところ,被災世帯該当性の判断に関して,被害の実態とのそごが明らかであれば,支援金の支給が同法の規定に従い適正に実施されることに対する社会一般の信頼が損なわれるおそれが生じ得るほか,支給を受けられなかった他の被災者において不満 や不公平感が高じる結果、多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことが困難となるおそれが生じ得る。そして,自然災害による被害は広域にわたり得るものであり,支援金制度の適用が検討されるべき対象者も多数かつ広範となり得るものであることからすれば,上記のようなおそれが生じることを回避するためには,被災世帯該当性の判断が,その調査手 続も含め,公平・公正に行われる が検討されるべき対象者も多数かつ広範となり得るものであることからすれば,上記のようなおそれが生じることを回避するためには,被災世帯該当性の判断が,その調査手 続も含め,公平・公正に行われることが重要である。 したがって,被災世帯該当性の判断について,被害の実態とのそごが明らかで判断手続の公平・公正を欠く場合には,上記のような適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことが困難となるおそれがあるといえるた め,このような瑕疵のある支給決定については,これを取り消すべき要請があるといえる(支援法における支援業務は,基本的に都道府県の拠出による基金により運営され〔同法9条〕,支援金は,当該基金と国からの補助〔同法18条〕により賄われているところ,最終的には国民一般の負担となる,限りある財源の下で支援金の支給等の支援業務を運営する必要が あるという側面からも,上記のような瑕疵のある支給決定は,これを維持すべき要請が乏しいものといえる。)。 ウそこで,以下,上記アのような支援金の支給を受けた被災者の信頼保護の要請と上記イのような適正かつ公平・公正な支給の実施の要請について,いかに衡量を図るべきかという観点から,本件支給決定の取消しの可否に ついて検討を加える。 - 34 -(ア) 本件業務規程は,支援法人である原告が,内閣総理大臣の認可を受けた際に支援法11条1項の規定に基づき作成したものであるところ,支給決定の取消しに関しては,原告において法律上の特別の根拠なく,職権により取り消す権限を有する(前記(1)参照)ことを前提に,支給決定を取り消すことのできる場合について定めているものと解される。も っとも,本件業務規程は,支援金の支給要件が欠 の根拠なく,職権により取り消す権限を有する(前記(1)参照)ことを前提に,支給決定を取り消すことのできる場合について定めているものと解される。も っとも,本件業務規程は,支援金の支給要件が欠けていることが判明した場合に直ちに支給決定を取り消すことができる旨の定めを置いておらず,むしろ,被災世帯の世帯主が,①「偽りその他不正の手段により支援金の支給を受けたとき」(11条1号),②「その他支援金の支給の決定の内容若しくはこれに附した条件に違反し,又はこの規程に基づく 請求に応じないとき」(同条2号)に該当する場合に,支給決定の全部又は一部を取り消すことができる旨を定めている。本件業務規程がこのように定めているのは,上記イのような適正かつ公平・公正な支給の実施の要請を踏まえつつ,上記アのような支援金の支給を受けた被災者の信頼保護の要請にも配慮して,上記①及び②のような被災者に帰責すべ き事由が認められる場合に支給決定を取り消し得ることを定めたものいうべきである。また,このように支給決定の取消事由を明らかにして示すことにより,これらの事由に当たらない被災者において,後に支援金の返還を求められる可能性を考慮してちゅうちょすることなく,支給された支援金を速やかに生活再建のために支出することを促し,もって, 自然災害による被災者の生活再建を支援する支援金制度の実効性を確保しようとするものと解される。 もとより,本件業務規程11条各号は支援金の支給決定を職権により取り消し得る場合を例示したものと解され,上記各号に該当しない場合の支給決定の取消しが一切許されないものとする趣旨とは解されない が,上記各号における例示がいずれも被災者の帰責事由を挙げているこ - 35 -とは,本件支給決定の取消しの可否を検討するに当 支給決定の取消しが一切許されないものとする趣旨とは解されない が,上記各号における例示がいずれも被災者の帰責事由を挙げているこ - 35 -とは,本件支給決定の取消しの可否を検討するに当たり,上記ア及びイの各要請の比較考量をする上で留意すべきものといえる。 (イ) そこで,まず,被告らについて,支援金の支給を受けたことにつき帰責事由があるか否かについてみると,前記2の認定事実のとおり,被告らに支援金が支給されるに至ったのは,α区の職員が行った本件第2 回調査において,本件マンションの階段と梁の接合部に見られた本件剥離を建物の構造上重要な部分である「柱・耐力壁・基礎」の損傷であるとする誤った判定がされたことによるものであり,本件業務規程11条各号に該当しないのみならず,被告らにおいて何らの帰責性を有しないことは明らかである。 (ウ) 次に,本件マンションに係る被害認定調査(本件支給決定の原因となった本件第2回調査)の手続及び内容について検討するに,本件第2回調査は,本件マンションの被害の程度を一部損壊とする第1回り災証明書の判定に不服を抱いた本件マンションの住民から再調査の申請を受けて行われたものであるところ,途中から合流したα区固定資産税課長 を含む3名の職員により,十分な時間をかけて,第1次調査票に基づき建物の外観の損傷状況を目視により確認して実施された(前記2(3))のであるから,調査手続の公平・公正に欠けるところはなかったものと認められる。 また,調査の内容について見ても,本件第2回調査においては本件マ ンションの階段と梁の接合部に本件剥離が確認されているところ,第1次調査票には鉄筋コンクリート造の建物に係る損傷につき,損傷程度Ⅲの損傷として「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」と記 件マ ンションの階段と梁の接合部に本件剥離が確認されているところ,第1次調査票には鉄筋コンクリート造の建物に係る損傷につき,損傷程度Ⅲの損傷として「一部で剥離が発生(鉄筋の露出なし)」と記載されている(前記1(3))。G建築士意見によれば,かかる記載は,構造体として受けた曲げやせん断力により比較的大きなひび割れが起こった結果,一 部で剥離が発生したことを指すものとされている(前記2(4)イ)が,建 - 36 -築の専門的知識を有しない職員において,このような機序を理解の上,本件剥離が建物の構造上重要な部分に係る損傷であるか否かを判断することは困難であったといえる。また,本件第3回調査に同行した一級建築士の資格を有する職員も,本件マンションの構造が類例の少ないものであり,建築の専門的知識がなければ誤認しやすいとしている(前記2 (5)エ参照)。そうすると,本件マンションの被害の程度の判定に誤りがあることが判明したのは,第1次調査票又は第2次調査票に基づく調査としては本来予定されていない建築の専門家による調査検討を経て初めて判明したものということができ,少なくとも本件第2回調査の当時において,第1次調査票に基づく適正な調査が行われたとされていたもの である。 すなわち,り災証明書を発行するための被害の調査方法及び判定方法について,内閣府運用指針は,一般的な住家を想定し,各部位にかかる施工価格等を参考に設定した部位別構成比を採用することにより,建築の専門的知識を有しない者でも被害の程度の判定をなし得るようにして いるところ,さらに,未曾有の災害である東日本大震災については,極めて多数の被災者に対する各種支援策の適用の検討を要することから,仙台市においては第1次調査票及び第2次調査票を定めて,内閣府運用 いるところ,さらに,未曾有の災害である東日本大震災については,極めて多数の被災者に対する各種支援策の適用の検討を要することから,仙台市においては第1次調査票及び第2次調査票を定めて,内閣府運用指針の調査方法及び判定方法をさらに簡素化し,目視による状況把握により判定ができるようにしたものである(前記1(3)参照)ところ,本件 第2回調査において実際に行われた調査の方法及び内容は,このような内閣府運用指針及び第1次調査票等が定められた趣旨に沿うものといえる。 以上に鑑みると,本件第2回調査は,その手続が公平・公正であったといえるのみならず,その内容についても,東日本大震災の被害に係る 迅速かつ大量の被害認定調査が求められる状況下での限られた態勢にあ - 37 -っては,少なくとも調査の当時においては適正性の観点から問題とされるものではなかったと認めるのが相当である。 (エ) そこで,さらに,本件支給決定を取り消さずに維持することによって,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるお それが生ずるか否かについて検討する。 一般に,建築物は,その素材や構造等が建築物ごとに異なり,また,地震の揺れ等によりどのような作用が建築物に働いて,建築物の各部位の損傷に至るかが必ずしも一様ではないことからすれば,その被害の程度の判定に一定の困難が伴うことは否定できない。まして,第1次調査 票及び第2次調査票のように,迅速かつ大量の被害認定調査の要請から簡素化された調査・判定方法により,建築の専門的知識を有しない職員が調査等を担当する場合には,専門家が個々の建築物の具体的構造等を踏まえ,その損傷状況について十分な費用と時間をかけて調査をする場 ら簡素化された調査・判定方法により,建築の専門的知識を有しない職員が調査等を担当する場合には,専門家が個々の建築物の具体的構造等を踏まえ,その損傷状況について十分な費用と時間をかけて調査をする場合に比べれば,調査・判定の的確性は相対的に低くならざるを得ないも のといえる。 このように,東日本大震災の被害について行われた被害認定調査は,極めて多数の被災者に対する各種支援策を速やかに行うという要請のために,調査・判定の的確性については一定程度犠牲にせざるを得ないものとして実施されたものであるから,これらの調査に基づく被害の程度 が再調査により修正される可能性が相当程度存すること,特に建築の専門家による再調査が行われる場合には,被害の程度が修正される可能性がより一層高まることは,第1次調査票に基づく調査・判定の実施においては当然の前提とされているものといえる。 そうすると,上記(イ)及び(ウ)のとおり,本件支給決定においては, 支援金の支給を受けた被告らに帰責性がない上,その被害認定調査の手 - 38 -続について公平・公正に欠けるところはなく,その内容についてもその調査の当時において適正性の観点から問題とされる点はなかった以上,その調査の結果に基づく被害の程度の判定が建築の専門家による再調査の結果と異なるために事後的に修正されたというだけでは,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,他の被災者の不 満や不公平感が高じる結果,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずると認めるには足りないものというべきである(仮に,これらのおそれが認められるとしても,その程度は,前記アのような支援金の支給を受けた被災者の信頼保護の要請との関係において,特に重視すべきもの 生ずると認めるには足りないものというべきである(仮に,これらのおそれが認められるとしても,その程度は,前記アのような支援金の支給を受けた被災者の信頼保護の要請との関係において,特に重視すべきものということはできない。)。 なお,このことは,本件第3回調査により本件マンションの被害の程度が修正された後も,住宅被害に係る災害義援金の支給や住宅の応急修理を含む複数の支援策について,遡っての返還等を求めないとされていること(前記2(6)ア)や,内閣府見解においても本件マンションの住民に支給された支援金の支給決定を取り消してその返還を求めることは困 難である旨の見解が示されていること(前記2(6)イ)からも裏付けられているものといえる。 (オ) これに対し,原告は,本件マンション群のうち本件マンション以外の8棟は,いずれも被害の程度が一部損壊と判定され,その住民らは支援金の支給を受けることができなかったところ,このような状況下にお いて,被告らを含む本件マンションの一部の住民についてのみ過大な被害認定に基づく違法な支援金の支給決定が維持されれば,同一のマンション群の住民の中でさえ大きな不平等が放置される結果となり,正しい被害認定を前提として震災からの復興に努力している他の棟に居住する住民に強い不満を生じさせると主張する。 しかし,原告の主張を前提としても,本件支給決定を維持することに - 39 -よる他の被災者の不満とは本件マンション群における他の8棟のマンションの住民の不満をいうものであるところ,東日本大震災により被災した地理的範囲は広範であり,被災者も極めて多数に上るのであって,本件支給決定を維持することにより多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが直ちに生ずるとは認め難 り被災した地理的範囲は広範であり,被災者も極めて多数に上るのであって,本件支給決定を維持することにより多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが直ちに生ずるとは認め難い。ま た,本件マンションと,本件マンション群における他の8棟とは別の建物であるから,地震による損傷状況は異なり得るものであり,被害認定調査や被害の程度の判定も建物ごとにされることからすれば,同じマンション群にある複数の建物の間で,被災世帯該当性の判断に差異が生じることが直ちに不平等に当たるものともいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (カ) また,原告は,①被告らは,支援法所定の支給要件を満たしておらず,支援金の支給を受けられない立場にあるから,被告らにおいて支援金を保持する正当な理由はなく,本件支給決定の取消しによって生ずる不利益は大きいものとはいえない,②被告らが,支援金の支給を受けた ことにより不要な支出をするわけもなく,被告らの生活の支障の除去や財産価値の上昇等の効果が生じたことからすれば,支援金の返還を求められたとしても新たな経済的負担とはいえない旨主張する。 しかし,被災者が支援金を保持する正当な理由を有するかどうかは,前記アのような支援金の支給を受けた被災者の信頼保護の要請と前記イ のような適正かつ公平・公正な支給の実施の要請との衡量によって定まるものであり,これらを置いて,支援金の支給要件を満たしていないというだけで直ちに支援金を保持する正当な理由を有しなくなるものではない。また,被災者が支援金を生活再建のために支出した後になって,支援金の支給要件を充たしていないことが明らかになった場合に,支援 金を返還しなければならないとすれば,返還を求められた時点では手元 また,被災者が支援金を生活再建のために支出した後になって,支援金の支給要件を充たしていないことが明らかになった場合に,支援 金を返還しなければならないとすれば,返還を求められた時点では手元 - 40 -に支援金が残っておらず,他に返還の原資を調達することが容易でないときには,新たに借入れ等をしなければ返還することができないなどの不利な立場に置かれる事態が容易に想定される。原告の主張は,法的な権利義務ないし経済的価値の収支という抽象的・観念的な観点から被告らに不利益がないとするものであり,被災者の置かれた現実の経済的状 況を十分に踏まえないものというべきである(そのような状況にある被災者を上記のような不利な立場に置くことが,ひいては支援法の趣旨及び目的に反するものとなることは,前記アで説示したとおりである。)。 また,被告らが支給を受けた支援金をもって不要な支出をしないからといって,予算が異なれば支出の優先順位や規模が異なり得ることは, 自然な経済活動の在り方として理解されるところである。特に加算支援金は,居住する住宅を建設,購入又は補修する被災者に支給されるものであり,当該被災者は,住宅の被害の程度を大規模半壊とするり災証明書の発行を受け,加算支援金の支給を受けたからこそ,それらの費用を支出するとの判断をしたものというべきである。支援金の支給がなくと も同様の消費活動を行ったはずであることを前提とした原告の主張は,採用することができない。 なお,被告らに対し基礎支援金の支給がされたのは,平成23年11月から12月までであるところ,α区が,第3回り災証明書を発行するに先立ち住民説明会を開催したのは平成24年2月から3月までであ り,この時点において基礎支援金の支給から既に数か月が経過していることに 月までであるところ,α区が,第3回り災証明書を発行するに先立ち住民説明会を開催したのは平成24年2月から3月までであ り,この時点において基礎支援金の支給から既に数か月が経過していることに照らせば,震災後の速やかな生活再建を要する状況にあった被告らにおいて,生活再建のための支出によって支援金を費消するのに十分な時間が経過したものといえる。 したがって,原告の主張はいずれも採用することができない。 (4) 小括(本件取消決定の違法性について) - 41 -以上によれば,自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助することにより,速やかな生活再建を支援するという支援法の趣旨及び目的に照らし,同法に基づく支援金は,その支給を受けた被災者において速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されており,住宅の被害の程度が事後的に修正された 場合に支援金の返還を求められるとすれば支援金制度の実効性が失われ,同法の趣旨及び目的に反することになるから,支給された支援金について返還を要しないことに対する被災者の信頼は,支援金制度の根幹に関わるものであって,これを保護する必要性は高く,本件支給決定を取り消すことによる被告らの不利益は大きいといえる。他方,本件支給決定の効果を維持するこ との不利益について,適正かつ公平・公正な支給の実施という観点からみると,被告らは本件業務規程に定める支援金の支給決定を取り消し得る事由に該当せず,支援金の支給について被告らに帰責性はないこと,また,被害認定調査の手続及び内容もその調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかったことに照らすと,事後的な調査の結 果に基づき被害の程度が修正されたとい ,また,被害認定調査の手続及び内容もその調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかったことに照らすと,事後的な調査の結 果に基づき被害の程度が修正されたというだけでは,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずるとはいえず,他にこのようなおそれをうかがわせる事情は認められない。 そうすると,本件支給決定を取り消すことによる不利益と,本件支給決定 の取消しをしないことによってその効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量すると,前者の不利益は後者の不利益を上回るというべきであり,本件支給決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認めることはできない。したがって,本件支給決定は,前記(2)に照らし,これを取り消すことができないものであるから,本件支給決定を取り消した 本件取消決定は,違法である。 - 42 -(5) 行政処分が法定の処分要件を欠き違法である場合に,法定の出訴期間を経過した後は,原則としてもはや当該処分の瑕疵を理由としてその効力を争うことはできないものとされているが,その瑕疵が重大かつ明白で当該処分が無効と評価される場合には,このような出訴期間による制約は課されないものとされている。このような無効事由として瑕疵の明白性が要求される理由 は,重大な瑕疵による処分によって侵害された国民の権利保護の要請と,これに対するものとしての法的安定及び第三者の信頼保護の要請との調和を図る必要性にあるということができる。しかるところ,支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は,支援金の支給を申請した当該被災世帯の世帯主に対してのみ効力を有するものであり,当該処分 請との調和を図る必要性にあるということができる。しかるところ,支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は,支援金の支給を申請した当該被災世帯の世帯主に対してのみ効力を有するものであり,当該処分の存在を信頼する第三者の 保護を考慮する必要に乏しいものといえる。そうであるとすれば,当該処分の瑕疵が支援法の根幹についてのものであり,かつ,支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該世帯主に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外 的な事情のある場合には,上記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても,当該処分は当然無効であると解するのが相当である(最高裁昭和42年(行ツ)第57号同48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁参照)。 これを本件についてみると,本件取消決定は,被告らに支援金を支給する 旨の本件支給決定について,本来これを取り消すことができないにもかかわらず,その取消しをするというものであり,その結果,被告らに対し,支給した支援金の返還義務を課すこととなるものである。しかし,前記(3)アのとおり,支援法は,自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助することにより,速やか な生活再建を支援するものであり,このような趣旨及び目的等に照らし,支 - 43 -援金は,一旦支給されれば,その後返還する必要がないものとして,被災者に支給されるものであることは明らかである。そして,支給後に住宅の被害の程度が修正されたとして本件支給決定を取り消し,被告らに支援金の返還義務を課すことは,被災者の速やかな生活再建 のとして,被災者に支給されるものであることは明らかである。そして,支給後に住宅の被害の程度が修正されたとして本件支給決定を取り消し,被告らに支援金の返還義務を課すことは,被災者の速やかな生活再建を図る支援金制度の実効性を失わせるとともに,被災者における生活再建のための支出計画に影響を及ぼ し,支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者に負わせる点において,かえってその生活再建を阻害する要因となりかねないものであるから,支援法の趣旨及び目的に反し,支援法の根幹に関わる重大な瑕疵を有するものというべきである。 また,仮に,支給決定の取消決定につき無効事由があるというためには明 白性を要するという見解に立つとしても,本件において支援金の支給に関し被告らに帰責事由がなく,被害認定調査の手続及び内容もその調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかったことは明らかであることに照らせば,本件取消決定の違法は明白であるということができる。 そうすると,本件取消決定には,出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として,被告らに同決定による重大な不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があるというべきである。 したがって,本件取消決定は当然無効と解するのが相当であり,本件支給決定は依然としてその効力を有しているから,被告らは法律上の原因なく利 益を受けたものに当たらず,原告の被告らに対する不当利得返還請求権は発生しないものというべきである。 5 結論以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 - 44 - 裁判長裁判官清水知恵 で,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 - 44 - 裁判長裁判官清水知恵子 裁判官村松悠史 裁判官松長一太 - 45 -(別紙2)争点に関する当事者の主張の要旨 1 争点(1)(被告らの世帯が大規模半壊世帯に該当するか)(被告らの主張の要旨)本件マンションの被害の程度は,大規模半壊に当たるというべきである。 (1) 仙台市において東日本大震災による住家の被害の程度の認定に関し作成された第1次調査票(本文第3の1(3)参照。乙36の1)は,東日本大震災による被災建物の数が膨大であり,り災証明書の申請件数が著しく増加することが見込まれたことから,簡易迅速な調査・判定を実現するために内閣府運用指針を簡素化して作成されたものであり,測量を必要とする判定基準を一切採用せ ず,社会通念を前提として,現況の目視を一義として調査・判定を行うこととしたものである。このような経緯からすれば,り災証明書における被害の判定は,第1次調査票に則ってされるべきであり,それ以上の詳細な調査や評価(損傷が地震による曲げやせん断力によるものか)を予定していないところ,現況目視によれば,梁の一部である階段と梁の接合部に損傷があることは明らかで あり,第1次調査票で採用している判定基準によれば,本件マンションの被害の程度は大規模半壊に該当する。 (2) 地震により建物が横揺れする場合に,部材の引っ張り側は,ひび割れで目視の対象となる一方,圧縮側は,目視では分からないが,歪みが進み破裂という損傷に近づいていく。また,地震による 該当する。 (2) 地震により建物が横揺れする場合に,部材の引っ張り側は,ひび割れで目視の対象となる一方,圧縮側は,目視では分からないが,歪みが進み破裂という損傷に近づいていく。また,地震による建物の損傷には未解明な事項が残さ れていることからも,梁に損傷が生じるのはひび割れが生じている場合に限定できない。第1次調査票が,ひび割れとその他の損傷を別個にしてそれぞれの類似例を含むこととしているのは,このことを踏まえたものである。 本件マンションは,東日本大震災により,想定外の箇所に想定外の作用によって損傷が生じた。すなわち,本件マンションは,柱・壁と別の構造体である 床版が,梁の側面に斜めに,しかも増しコンクリートで梁の側面前面に接合す - 46 -るという形状で造られているため,東日本大震災により,柱からではない作用が梁に加わり,しかも梁は水平床が抜けている状態で梁の水平拘束が働かないため,梁への斜め方向の圧力によりねじり的な作用により梁の下に本件剥離が生じ,これと同じ作用により,梁の上部にも損傷が生じたものである。梁の上部の損傷は,被害認定の外観目視の対象ではなかったものではあるが,梁の側 面に相当な作用があったことを裏付けている。実際に,梁には多数のひび割れが生じていたが,G建築士調査(本件第3回調査に先だって行われたもの。本文第3の2(4)参照)では,これがないものと誤認された。 (原告の主張の要旨)被告らの主張は争う。 2 争点(2)(本件取消決定の無効事由の有無)(被告らの主張の要旨)(1) 原告による支援金の支給決定の取消権限の有無(本件業務規程11条によらずに支援金の支給決定を取り消すことの可否)について以下のとおり,原告は,その権限がないにもかかわらず本件取消決定をした ) 原告による支援金の支給決定の取消権限の有無(本件業務規程11条によらずに支援金の支給決定を取り消すことの可否)について以下のとおり,原告は,その権限がないにもかかわらず本件取消決定をした ものであり,本件取消決定は違法である。 ア支援法1条が住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的としていることからすれば,原告が支援金の支給決定を取り消し得るのは,本件業務規程11条所定の要件(本文第2の1(5)イ参照)に該当する場合に限られる。 被災世帯が同条所定の要件に該当しないにもかかわらず,支給決定を取り消して,支援金の返還を請求することが許されるのであれば,被災世帯の住民は,生活を再建するために支援金を使うことをちゅうちょせざるを得ず,支援法の趣旨,目的が達成されないことになるから,支援金の支給後にり災証明書の内容が変更されたことを理由に原告において支援金の支給決定を取 り消すことは許されないというべきである。 - 47 -イ原告は,内閣総理大臣により指定を受けることによってはじめて都道府県から支援金の支給業務について委託を受けることができるところ,その業務に関する原告の権限の範囲は,内閣総理大臣により認可を受けた本件業務規程が定める範囲により画されるというべきである。したがって,原告が本件業務規程に記載されていない処分を独自の判断でした場合には,当該処分は, 支援法所定の委託の趣旨に反した権限逸脱行為として違法であるというべきである。 (2) 第3回り災証明書に基づき本件支給決定を取り消すことの可否第3回り災証明書は,違法な本件第3回調査に基づくものであり,同証明書に基づき,本件支給決定を取り消すことはできない。 ア仙台市がり災証明書の発行の取扱いに関して定めた り消すことの可否第3回り災証明書は,違法な本件第3回調査に基づくものであり,同証明書に基づき,本件支給決定を取り消すことはできない。 ア仙台市がり災証明書の発行の取扱いに関して定めた取扱要領(本文第3の1(1)イ参照)によれば,職権による再調査は,被災世帯の住民ないしり災証明書の交付を受けた者から申請があった場合にのみ実施するとされているところ,これに反し,本件第3回調査は,被災世帯の住民ないしり災証明書の交付を受けた者である被告らが再調査を申請していないにもかかわらず実施 された手続的瑕疵があり,違法である。 イ本件マンションに対する本件第3回調査は,支援法により具体化された被告らの簡易迅速な調査により支援金の支給決定を受ける権利を侵害するものである。また,仙台市が被災世帯の住民からの申請によらずに職権による再調査を行ったのは本件マンションのみである。仙台市では,同一建物につき 1回目の調査と2回目の調査の調査結果が異なる場合,そのうち最も被害の程度が大きい調査結果を採用する運用を行っていた。仙台市が,本件マンションについて本件第3回調査を行い,本件マンションの被害の程度の判定を大規模半壊から一部損壊に下げたことは,平等原則及び適正手続原則に反するものであり違法である。 (3) 本件支給決定の取消しの可否について - 48 -本件支給決定のような授益的処分は,処分の取消しによって生ずる不利益と,取消しをしないことによってかかる処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較衡量し,当該処分を維持することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる場合に限り,これを取り消すことができると解されるところ,本件取消決定は,以下の事情からすれば,上記の 取り消し得 ,当該処分を維持することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる場合に限り,これを取り消すことができると解されるところ,本件取消決定は,以下の事情からすれば,上記の 取り消し得る場合に該当せず,重大な瑕疵があるから無効であるというべきである。 ア本件取消決定が被告らに与える不利益の程度(ア) 本件取消決定は,被告らに甘受し難い不利益を与えるものである。 すなわち,被告らは,東日本大震災により,本件マンションの損壊にと どまらず,物理的にも精神的にも甚大な被害を受け,その生活基盤が破壊されたものであり,その生活を迅速に再建するための支援金が支給されてから1年以上経過し,全て費消した段階になって,原告が被告らに対し本件取消決定に基づき支援金相当額の返還を請求することは,支援法の趣旨に反し,被告らの生活の再建を妨げるものである。 (イ) 支援金の支給決定は,被災者の経済的負担を速やかに軽減し,生活の再建及び被災地域の復興を迅速に実現することを目的とするものであるところ,仙台市によるり災証明書の判定の誤りについて被災者である被告らに何ら落ち度がないにもかかわらず,支給決定が行政庁の裁量により容易に取り消され得るのであれば,被災者は,常に当該授益的処分が取り消さ れる可能性を念頭に置かなければならず,支援金を生活再建のために支出することはおよそ不可能となる。ましてや,支援金の支給決定から相当期間経過後に同決定が取り消されれば,軌道に乗りかけた生活再建が妨害されることになる。 (ウ) 被告らをはじめとする本件マンションの住民は,支援金を,修繕費・ 買い替え費用等の原状回復費用や生活再建のための生活費として費消した - 49 -のであり,その使途は,支援法の定める支援金制度が予定している る本件マンションの住民は,支援金を,修繕費・ 買い替え費用等の原状回復費用や生活再建のための生活費として費消した - 49 -のであり,その使途は,支援法の定める支援金制度が予定している範囲内のものである。被告らは,東日本大震災により広範かつ甚大な被害を受けたところ,すべてにつき一挙に修繕や買い替えをするのではなく,これらを行う緊急性・必要性と資金の有無や金額により順位付けをして出費の計画を立て,生活を再建していくことになる。支援金には補修工事を行うこ とにより支給される加算部分(加算支援金)があるが,これは加算部分があるからこそ補修工事をしたものであり,そうでなければ補修工事をしなかったものといえ,支援金の支給がなければ支出するはずのなかった支出を余儀なくされたものといえる。 イ支給決定を取り消さないとしても不平等・不公平とはならないこと (ア) 支援金の支給決定について法律上の利害関係を有する第三者は存在しない。支給決定を取り消さないことによる不利益として,他の被災住民との平等・公平を原告は主張するが,仙台市は,取扱要領上の根拠がないにもかかわらず,25万件以上に及ぶ被災物件のうち,本件マンションのみを対象として職権による再調査(本件第3回調査)を実施した上で従前の 判定を覆したものであるから,これにより本件支給決定を取り消すことこそが,他の被災者との関係において不平等,不公平であるというべきである。また,建物が建っている土地の性質や地盤に差異があることや建物の位置・向き,地震の強さやその方向の関係いかんにより被害の程度は異なるから,本件マンション群のうち,本件マンション以外の8棟が一部損壊 と判定されているとしても,支援法の定める支援金制度に対する不信が生じるとはいえない。 (イ) り により被害の程度は異なるから,本件マンション群のうち,本件マンション以外の8棟が一部損壊 と判定されているとしても,支援法の定める支援金制度に対する不信が生じるとはいえない。 (イ) り災証明書は,簡易迅速な救済の観点から,判定や調査方法が地方自治体により異なるものであり,仙台市では建築の専門家ではない素人による目視によって判定が行われたものであり,絶対的に正しいり災証明など あり得ない。したがって,他の被災者と単純に比較することはできず,判 - 50 -定に差異があるとしても相対的なものにすぎない。 (ウ) 原告は,本件支給決定の支給金の原資となった国庫補助金の返還を求められているとするが,その返還のために,調査について過失のある仙台市に損害賠償請求するのではなく,全く落ち度のない被告らに支援金の返還請求をすることは許されない。 (原告の主張の要旨)(1) 原告による支援金の支給決定の取消権限の有無(本件業務規程11条によらずに支援金の支給決定を取り消すことの可否)について本件業務規程8条には,原告が都道府県から委託を受ける事務として支援金の支給の決定の取消しが掲げられ,支援金の支給申請者に不正があった場合に おける支給決定の取消しと損害賠償について定める本件業務規程11条から13条までの規定は,原告が一般の法原則により支給決定を取り消すことを禁止するものではない。したがって,支援金の支給決定がその根拠を欠くことが判明した場合には,同決定を取り消し,支援金相当額の返還を求めることができるというべきである。 (2) 本件支給決定の取消しの可否(本件取消決定の無効事由の有無)について被告らに対する本件取消決定については,行政事件訴訟法所定の出訴期間を経過しているため,本件取消決定の効力 る。 (2) 本件支給決定の取消しの可否(本件取消決定の無効事由の有無)について被告らに対する本件取消決定については,行政事件訴訟法所定の出訴期間を経過しているため,本件取消決定の効力が否定されるのは,同決定に重大かつ明白な瑕疵があることにより無効となる場合に限られるというべきである。そして,上記(1)のとおり,本件支給決定はその根拠を欠き取り消されるべきも のであるから,これを取り消した本件取消決定は適法かつ有効である。 ア本件支給決定の取消しをしないことによる不利益(ア) 支給金支給の目的の実現と制度の維持支援法は,自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対し,都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して支援金を支給 することにより,その生活の再建を支援することを直接の目的とするもの - 51 -であるところ,支援法所定の支援金の支給要件に該当しない者に対する支援金の支給決定は,支援法の目的に合致しない違法ものであるから,この状態を放置するときは,相互扶助の観点から構築された支援金制度に対する相互不信が生じるとともに,支援金の支給を受けられなかった被災者に不満が生じるなどし,結果として支援金制度そのものの存在意義が問われ るおそれがある。 (イ) 平等原則の確保東日本大震災のような大規模災害における被災者支援においては,その被害が広範かつ多数人に及ぶことから,支援の平等性(同程度の被害を受けた者には同程度の支援をすること)が強く要請され,本件支給決定の取 消しをしないことは,平等原則(憲法14条参照)に違反する。また,取消しをしなければ,適正・適法な支援の下で生活再建のために力を尽くしている他の大多数の被災者(特に,支援法の要件に該当しないことから,支援法の受給 は,平等原則(憲法14条参照)に違反する。また,取消しをしなければ,適正・適法な支援の下で生活再建のために力を尽くしている他の大多数の被災者(特に,支援法の要件に該当しないことから,支援法の受給をあきらめている多数の被災者)の理解と納得を得ることはできない。 殊に,被告らが居住する本件マンションは,9棟から成る本件マンション群の1棟であるところ,上記9棟のうち大規模半壊と判定されたものは一つもないから,このような状況下において,被告らを含む本件マンションの住民についてのみ過大な被害認定に基づく違法な支援金の支給決定が維持されれば,同一のマンション群の住民の中でさえ大きな不平等が放 置される結果となり,正しい被害認定を前提として震災からの復興に努力している他の棟に居住する住民に強い不満が生じ,ひいては支援法の定める支援金制度そのものに対する不信を招来することは明白である。 (ウ) 公正な行政の確保支援金の原資は,被災者を含む国民が都道府県を通じて負担するもので あるから,違法な支給決定が放置された場合には,一部の被災者の利得を - 52 -他の被災者を含む国民が負担することになり,極めて不当な結果が生じ,公正な行政を確保することができなくなるから,このような観点からも,本件支給決定は取り消される必要性が高いというべきである。内閣府から原告に対し,本件支給決定に基づく支援金の原資となった国庫補助金の返還を求める文書が発出された状況において,原告は,本件支給決定を取り 消し,支援金の返還を求めることが相当であると判断した。 イ本件支給決定の取消しによる不利益本件支給決定を取り消すことによる被告らの不利益は大きいものではない。 (ア) 被告らは,本来,支援法所定の要件を満たしておらず,支援金の と判断した。 イ本件支給決定の取消しによる不利益本件支給決定を取り消すことによる被告らの不利益は大きいものではない。 (ア) 被告らは,本来,支援法所定の要件を満たしておらず,支援金の支給 を受けられない立場にあり,本件支給決定により被告らに支給された支援金は不当利得として返還されなければならないものであるから,被告らにおいて上記支援金を保持する正当な理由はなく,本件支給決定の取消しによって生ずる不利益は大きいものとはいえない。 (イ) 被告らが,支給金の支給を受けたことにより不要な支出をするわけも なく,被告らの生活の支障の除去や財産価値の上昇等の効果を生じさせており,被告らは経済的利益を享受しているというべきである。被告らは,本件取消決定により,事後的に本件支給決定が不利益に変更されると経済的負担を求められると主張するが,それは新たな経済的負担ではない。 また,本件マンションを大規模半壊とした第2回り災証明書には「被害 の程度が変更になった場合には,それより前に発行された証明書はその効力を失います」との注意書きがあり,その後,本件マンションを一部損壊とした第3回り災証明書が発行されたのはその7か月足らず後の平成24年3月26日である。そして,仙台市は,第3回り災証明書を発行するに先立ち開催した住民説明会で,支援金の返還が必要であるかは内閣府に 照会中であるとしていたから,本件支給決定が取り消される可能性がある - 53 -ことは,この時点で明らかになっていたといえる。 支援金の返還を求められた被告らの生活安定に支障を来すかどうかは,個別の事情により判断されるべきものである。本件マンションの住民のうち返還義務を認めている22世帯から返還を受けている。 以上 告らの生活安定に支障を来すかどうかは,個別の事情により判断されるべきものである。本件マンションの住民のうち返還義務を認めている22世帯から返還を受けている。 以上
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