平成8(オ)232 賃料増額確認請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年3月28日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 平成7(ネ)617
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判決文本文25,495 文字)

主文 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人多田実,同横田保典の上告理由について 1 本件は,都市計画法7条1項に規定する市街化区域内にある農地を所有し,上告人らに賃貸している被上告人が,その農地に対する固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の合計額が平成4年度以降大幅に増加したことを理由として,農地法(以下「法」という。)23条1項に基づき,上告人らに対して小作料を増額する旨の意思表示をし,同5年分及び同6年分の小作料の額がその意思表示に係る額であることの確認を求める事件である。 市街化区域内にある農地の固定資産税等については,昭和46年に行われた地方税法の改正によって,その課税標準となるべき価格を当該農地と状況が類似する宅地の課税標準とされる価格に比準する価格によって定めた上で,農地に対して課する固定資産税等の特例を適用せず,上記課税標準となるべき価格に基づき算出した金額を課税標準として課税を行う措置(以下この措置を「宅地並み課税」という。)が定められた。この措置は同48年度に実施されて以降,その対象が段階的に拡大されてきたところ,本件の農地に対する固定資産税等の額が大幅に増加したのは,平成3年に行われた地方税法の改正により,同4年度以降,市街化区域内の農地から生産緑地地区の区域内の農地等を除いたもの(以下「市街化区域農地」という。)のうち,いわゆる3大都市圏の特定市に所在するすべての市街化区域農地について,宅地並み課税がされるようになったことによるものである(同3年法律第7号に- 1 -よる地方税法附則19条の2,19条の3,29条 わゆる3大都市圏の特定市に所在するすべての市街化区域農地について,宅地並み課税がされるようになったことによるものである(同3年法律第7号に- 1 -よる地方税法附則19条の2,19条の3,29条の5,29条の6等の改正)。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 被上告人は,第1審判決別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地(一)」という。)及び同目録記載(二)の土地(以下「本件土地(二)」という。本件土地(一)と合わせて,以下「本件各土地」という。)を所有し,上告人A1は本件土地(一)を,同A2は本件土地(二)を,それぞれその先々代の時代から賃借して耕作している。上告人A1は,本件土地(一)で稲作等を行っており,肥料代,苗代,農薬代等の経費を除いて本件土地(一)から得られる利益は年額3万円程度である。上告人A2は,本件土地(二)で自家消費用の野菜等を栽培している。 (2) 本件土地(一)の小作料の額は,昭和56年から同63年までは年額2万1794円,平成元年以降は年額2万0312円であり,本件土地(二)の小作料の額は,昭和56年から同63年までは年額1万6522円,平成元年以降は年額1万5400円であった。上記各小作料は,おおむね法24条の2第1項に基づいてD委員会が定めた小作料の標準額に沿って算出されたものであった。 (3) 本件各土地は,いずれも市街化区域内の農地であったが,その固定資産税等については,従前は,宅地並み課税がされていなかったところ,平成3年の地方税法の改正により,生産緑地法に定める生産緑地地区に指定された場合を除き,同4年度以降,宅地並み課税の対象とされることになった。 (4) 上記地方税法の改正に当たり,生産緑地地区の指定は平成4年12月末日までに行うこととされ,各市町村で 緑地地区に指定された場合を除き,同4年度以降,宅地並み課税の対象とされることになった。 (4) 上記地方税法の改正に当たり,生産緑地地区の指定は平成4年12月末日までに行うこととされ,各市町村では,農地所有者等の意向を把握して,必要な都市計画の手続を行うことになった。被上告人も,本件各土地につき,生産緑地地区の指定を受けることを希望し,上告人らに対して生産緑地地区の指定に必要とされる賃借人としての同意を求めた。しかし,上告人らがこれに同意しなかったために,生産緑地地区の指定を受けることができなかった。 - 2 -(5) その結果,本件土地(一)に対する固定資産税等の額は,平成4年度及び同5年度は11万9119円,同6年度は12万5074円に,本件土地(二)に対する固定資産税等の額は,同4年度及び同5年度は10万0240円,同6年度は12万5241円にそれぞれ増加した。なお,宅地並み課税がされなかったとした場合の同4年度の固定資産税等の額は,本件土地(一)は2万0100円,本件土地(二)は1万6661円であった。 (6) 上告人らが生産緑地地区の指定に同意しなかったのは,生産緑地地区の指定によって土地の評価額が低く抑えられ,将来の合意解約の際の離作補償の点で不利になることを危ぐしたからであった。 (7) 上記宅地並み課税の結果,固定資産税等の額が小作料の額を上回るいわゆる「逆ざや現象」が起こったことから,被上告人は,固定資産税等の額が増加したことを理由として,上告人らに対し,平成4年12月,同5年分の本件土地(一)の小作料の額を年額11万9119円に,同年分の本件土地(二)の小作料の額を年額10万0240円に増額する旨の意思表示をし,さらに,同5年12月,同6年分の本件各土地の小作料の額をそれぞれ年額15万円に増額する旨の意思表示 9119円に,同年分の本件土地(二)の小作料の額を年額10万0240円に増額する旨の意思表示をし,さらに,同5年12月,同6年分の本件各土地の小作料の額をそれぞれ年額15万円に増額する旨の意思表示をした。 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判示し,被上告人の請求を宅地並み課税によって増加した固定資産税等の額の限度で認容すべきものとした。 (1) 法23条1項等の規定は,小作料の額は主として当該小作地の通常の収益を基準として定めるべきものとしているが,小作地に対して宅地並み課税がされた場合には,事案によっては,固定資産税等の額が増加したことが,同項にいう「その他の経済事情の変動」に該当するものと解すべきである。なぜならば,固定資産税等の額と小作料の額との間に生じた逆ざや現象を解消することが一切許されないとすると,賃貸借という有償契約でありながら,賃借人が小作料名下に支払う金員が農地の使用の対価といえなくなる不当な結果が生じるからである。 - 3 -(2) 本件においては,上告人らは,生産緑地地区の指定を受けたとしても本件各土地を従前どおり耕作できる点で何ら不利益を被るものではないにもかかわらず,将来の離作補償の点で不利になるとの利己的な思惑から,被上告人が希望しているのに生産緑地地区の指定に同意しなかったとの事情があり,この事情の下では,信義,公平の原則により,本件各土地の小作料は,被上告人の増額の意思表示により,増額を求める年度の固定資産税等の額と同額に増額されたものと認めるのが相当である。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)ア法は,昭和45年に行われた改正(同45年法律第56号による改正。同年10月1日施行)によって,同14年の小作料統制令による統 は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)ア法は,昭和45年に行われた改正(同45年法律第56号による改正。同年10月1日施行)によって,同14年の小作料統制令による統制以来行われてきた小作料の最高額の統制を廃止し,小作料を当事者の自由な決定にゆだねるとともに(ただし,同55年9月30日まで統制を存続する旨の経過規定がある。同45年法律第56号附則8項,同45年政令第255号附則6項),当初定められた小作料の額がその後の事情の変更によって不相当となった場合における小作料の増減請求に関する規定として23条を置き,同条1項は,「小作料の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の小作料の額に比較して不相当となつたとき」には,当事者は,将来に向かって小作料の額の増減を請求することができる旨を規定した。この規定は,継続的契約関係における当事者間の利害を調整しようとする規定であって,借地借家法附則2条により廃止された借地法12条1項や借地借家法11条1項と同一の趣旨のものであるが,これらの規定が土地に対する租税その他の公課の増減を地代の額の増減事由として明定しているのに対し,経済事情の変動の例として「農産物の価格若しくは生- 4 -産費の上昇若しくは低下」を挙げているにすぎず,小作地に対する公租公課の増減を増減事由として定めていない。 また,法は,小作料の統制廃止後においても,不当に高額の小作料が取り決められて耕作者の地位の安定を害することがないようにするため,上記改正に当たり新たに小作料の標準額の制度を設け,農業委員会は,小作料の額の標準となるべき額(小作料の標準額)を定め(24条の2第1項),契約で定める小作料の額が小作料の標準額に比較して著しく高額であると 当たり新たに小作料の標準額の制度を設け,農業委員会は,小作料の額の標準となるべき額(小作料の標準額)を定め(24条の2第1項),契約で定める小作料の額が小作料の標準額に比較して著しく高額であると認めるときは,当事者に対し,その小作料を減額すべき旨を勧告することができるものとした(24条の3)。そして,小作料の標準額を定めるに当たっては,「通常の農業経営が行なわれたとした場合における生産量,生産物の価格,生産費等を参酌し,耕作者の経営の安定を図ることを旨としなければならない」と規定した(24条の2第2項)。さらに,法は,災害等による一時的な減収があった場合の耕作者の地位の安定を図るために,小作料の額が不可抗力により,田にあっては収穫された米の価額の2割5分,畑にあっては収穫された主作物の価額の1割5分を超えることになった場合には,小作農は,上記割合に相当する額になるまで小作料の減額を請求することができる旨を定めている(24条)。 これらの規定に加え,法が耕作者の地位の安定をその目的の一つとしていること(1条)を合わせて考慮すると,法は,小作料の統制廃止後においても,耕作者の地位ないし農業経営の安定を図るため,当該農地において通常の農業経営が行われた場合の収益を基準として小作料の額を定めるべきものとしていると解するのが相当であり,法23条1項もこの趣旨に沿って解釈すべきである。そして,前記のように昭和46年に農地に対する宅地並み課税の制度が創設され,同48年度以降,その対象が拡大されてきた過程においても,法の上記各規定には何らの変更も加えられなかったのであるから,宅地並み課税の対象とされる農地の小作料の額につい- 5 -ても,上記説示と異なるところはないというべきである。 イまた,農地に対する宅地並み課税は,市街化区域農地の価格が なかったのであるから,宅地並み課税の対象とされる農地の小作料の額につい- 5 -ても,上記説示と異なるところはないというべきである。 イまた,農地に対する宅地並み課税は,市街化区域農地の価格が周辺の宅地並みに騰貴して,その値上がり益が当該農地の資産価値の中に化体していることに着目して導入されたものであるから(最高裁昭和52年(オ)第773号同55年1月22日第三小法廷判決・裁判集民事129号53頁参照),宅地並み課税の税負担は,値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきものと解される。賃貸借契約が有償契約であることからみても,小作料は農地の使用収益の対価であって,小作農は,農地を農地としてのみ使用し得るにすぎず,宅地として使用することができないのであるから,宅地並みの資産を維持するための経費を小作料に転嫁し得る理由はないというべきである。 ウもっとも,農地所有者が宅地並み課税による税負担を小作料に転嫁することができないとすると,農地所有者は小作料を上回る税を負担しつつ当該農地を小作農に利用させなければならないという不利益を受けることになる。しかし,宅地並み課税の制度目的には宅地の供給を促進することが含まれているのであるから,農地所有者が宅地並み課税によって受ける上記の不利益は,当該農地の賃貸借契約を解約し,これを宅地に転用した上,宅地として利用して相応の収益を挙げることによって解消することが予定されているのである。また,賃貸借契約の解約後に当該農地を含む区域について生産緑地地区の指定があったときは,宅地並み課税を免れることができるから,農地所有者は,これによっても不利益を解消することができる。そして,当該農地の賃貸借契約について合意解約ができない場合には,農地所有者は,具体的な転用計画があるときには法20 れることができるから,農地所有者は,これによっても不利益を解消することができる。そして,当該農地の賃貸借契約について合意解約ができない場合には,農地所有者は,具体的な転用計画があるときには法20条2項2号に該当するものとして,あるいは当該農地が優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である市街化区域内にあることや逆ざや現象が生じていることをもって同項5号に該当するものとして,解約について知事の許可(同条1項)を申請し,具体的事案に応じた適正な離- 6 -作料の支払を条件とした知事の許可を得て(同条4項。農地法施行規則14条1項7号参照),解約を申し入れることができるものと解される(民法617条)。 農地所有者には宅地並み課税による不利益を解消する方法として,上記のとおりの方途が存在するのに対し,宅地並み課税の税負担を小作料に転嫁した場合には,小作農にはその負担を解消する方法が存在せず,当該農地からの農業収益によって小作料を賄うこともできないことから,小作農が離農を余儀なくされたり小作料不払により契約を解除されたりするという事態をも生じ兼ねないのであって,小作農に対して著しい不利益を与える結果を招くおそれがあるというべきである。 (2) 以上説示したところからすれば,【要旨】小作地に対して宅地並み課税がされたことによって固定資産税等の額が増加したことは,法23条1項に規定する「経済事情の変動」には該当せず,それを理由として小作料の増額を請求することはできないものと解するのが相当である。これに反し,農地所有者が宅地並み課税による固定資産税等の額の増加を理由として小作料の増額を請求した事案において,小作料の増額を認めた原審の判断を正当なものとして是認した最高裁昭和58年(オ)第1303号同59年3月8日第一小法廷判決は,変更すべきものであ の増加を理由として小作料の増額を請求した事案において,小作料の増額を認めた原審の判断を正当なものとして是認した最高裁昭和58年(オ)第1303号同59年3月8日第一小法廷判決は,変更すべきものである。 (3) 生産緑地法3条1項の規定による生産緑地地区の区域内の農地は宅地並み課税の対象から除外されるが(地方税法附則19条の2第1項),当該農地に対抗要件を備えた賃借人がいる場合には生産緑地地区に関する都市計画の案について賃借人の同意が必要とされているため(生産緑地法3条2項),当該農地の所有者が生産緑地地区の指定を受けることを希望したとしても,賃借人が同意しない限り,当該農地を含む区域が生産緑地地区に指定されることはない。しかし,所有者が生産緑地地区の指定を受けることを希望している場合に,賃借人にこれに同意すべき義務を認める規定は見当たらない。また,生産緑地地区の区域内の農地が賃貸され- 7 -ているときにこれを農地として管理する義務を負うのは,当該農地について使用収益権を有する賃借人であり(同法7条1項),生産緑地における農業経営は原則として30年間継続することが予定されているのであるから(同法10条参照),同意をするかどうかは各自の生活設計にわたる事柄というべきであって,賃借人の意向が尊重されるべきものである。そうすると,賃借人には同意をすべき信義則上の義務があるということはできず,上告人らが同意をしなかったことをもって,信義,公平に反するとして,これを理由に小作料の増額を認めることもできないというべきである。 (4) そして,被上告人は,小作料の増額を請求する理由として,本件各土地に対して宅地並み課税がされた結果固定資産税等の額が増加したことのみを主張し,他に小作料を増額すべき事由を主張しないから,被上告人の請求はいずれも理由 は,小作料の増額を請求する理由として,本件各土地に対して宅地並み課税がされた結果固定資産税等の額が増加したことのみを主張し,他に小作料を増額すべき事由を主張しないから,被上告人の請求はいずれも理由がない。 5 以上によれば,原審の前記判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,前記敗訴部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。 よって,裁判官千種秀夫,同元原利文の各補足意見,裁判官福田博,同藤井正雄,同大出峻郎の反対意見,裁判官亀山継夫,同町田顯,同深澤武久の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 裁判官千種秀夫の補足意見は,次のとおりである。 私は,多数意見に同調するものであるが,福田裁判官,藤井裁判官,大出裁判官の反対意見にかんがみ,多数意見の趣旨を補足しておきたい。 - 8 - 1 小作契約は,農地又は採草放牧地を賃貸する契約である。この際,農地に限って述べるが,このように農地の所有者以外の者が当該農地を耕作するについての権利関係は,古く民法制定以前から存在し,その内容も様々であった。民法は,農地の賃貸借契約を特に小作契約とは称しなかったが,これが宅地の賃貸借とは異なるものであることを前提として,特に609条を設け,「収益ヲ目的トスル土地ノ賃借人カ不可抗力ニ因リ借賃ヨリ少キ収益ヲ得タルトキハ其収益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得但宅地ノ賃貸借ニ付テハ此限ニ在ラス」と規定したのである。そして,農地法は,耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図る目的(1条)から,農地の使用収益 益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得但宅地ノ賃貸借ニ付テハ此限ニ在ラス」と規定したのである。そして,農地法は,耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図る目的(1条)から,農地の使用収益の対価である小作料について,原則として定額の金銭以外のものの支払を禁じ(21条,22条),さらに,「小作料の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の小作料の額に比較して不相当となつたときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向つて小作料の額の増減を請求することができる。」(23条1項本文)とし,小作料の額が不可抗力により収穫物の価額の一定割合を超えることとなったときは,その割合に相当する額まで小作料の減額を請求することができる(24条)として,減額の具体的基準を示した外,農業委員会に小作料の標準額を定める権限を与え,かつ,その算定に当たっての考慮事項として,「通常の農業経営が行なわれたとした場合における生産量,生産物の価格,生産費等を参酌し,耕作者の経営の安定を図ることを旨としなければならない。」(24条の2第2項)と規定しているのである。これら民法及び農地法の規定からすれば,小作契約は,その対象とする農地を耕作することによって得た収益を基本として,その一定割合の価格に相当する金銭を小作料として所有者に支払うことを内容とする契約であって,小作料が当初からその収益を超える事態は想定されていないといえるのである。 小作料増額請求に関する前掲の規定の文言が,借地借家法の地代の増額請求に関す- 9 -る規定の文言と異なるのも故なしとしない。 2 反対意見は,原則として,以上の前提を否定するものではないと思われるが,農地所有者にとって当該農地の固定資産税の負担は,小作契約の目的である農地の -る規定の文言と異なるのも故なしとしない。 2 反対意見は,原則として,以上の前提を否定するものではないと思われるが,農地所有者にとって当該農地の固定資産税の負担は,小作契約の目的である農地の提供を維持する費用であるから,その対価である小作料の算定に当たっては,これを含めてその額を決すべきであるとし,固定資産税額が従前の小作料額を上回る事態が生ずれば,その理由のいかんを問わず,耕作者たる小作農がこれを負担すべきものとするようである。しかし,そのように小作農に収益を超える小作料の支払義務を認めることは,前記の小作契約の趣旨に反し,解釈論の域を超えるものと考える。 3 確かに,反対意見もいうように,「小作料と公租公課の関係については,法は何ら規定するところがない」。そして,反対意見がその理由として述べているところも,理解し得ないものではない。しかし,固定資産税は,地方税法に基づき市町村が当該不動産の資産価値に応じてその所有者に課する普通税であって,課税台帳に登録された価格を課税標準として算出されるものである。農地の資産価値は農地として利用されることを前提として定められるのであるから,通常は,現実の農業収益を超える利益を生む資産として評価されることはあり得ない。もし,これを農地としてではなく,宅地として評価するのであれば,そのようにすべき特別の理由がなければならず,その理由は法律によって認められていなければならない。そのことは,小作ではなく自作である場合を考えれば余りにも明らかである。収益を超える公租公課を課せられるならば,農業は存立し得ない。事実,今日までの実務の運用において,通常の場合,農地の固定資産税が小作料を上回るような事態は生じていないはずであり,本件における従前の課税額もまたその例に漏れるものではなかった。 - 10 - 。事実,今日までの実務の運用において,通常の場合,農地の固定資産税が小作料を上回るような事態は生じていないはずであり,本件における従前の課税額もまたその例に漏れるものではなかった。 - 10 -しかしながら,本件のように法律に基づいて宅地並み課税が行われる場合は事情は異なる。反対意見もいうとおり,地方税法の改正が意図するところは,「市街化区域農地について,近傍宅地との課税の均衡を図るとともに,農地の宅地化を推進するため,・・・・農地としての収益性を度外視した宅地並みの課税を実施すること・・・・により農業経営の不採算の状態を招来して,耕作者の離農を余儀なくさせ,農地の宅地としての放出を税制面から促進しようとする」ものであることに違いはない。その限りにおいて,改正法はもはや対象農地を農地として存続することを期待していないのである。しかし,そのことは,取りも直さず,改正法が小作契約の存続もまた期待していないことを意味する。収益を超える固定資産税の負担を小作農に転嫁することによって小作契約を永続することは法の趣旨とするところではない。市街化区域農地への宅地並み課税の措置は小作地に限ったものではないのであって,農地法が原則としている自作農こそがその対象なのである。自作農において,収益を超える固定資産税を課せられた場合,その負担を解消するには,農地をより収益の高い用途に転用するかこれを手放すしか方法はないのである。たまたま,これが小作に出してあったからといって,小作農にその負担を転嫁し,営農を継続させることは改正法の趣旨とするところではないことはもちろん,前述の小作契約の趣旨にも反する。農地所有者は,自ら所有する農地を他の用途に転用し,あるいは処分する権能を有するから,即時とはいかないまでも,自己の資産の運用として,しかるべき時期と方法によ ろん,前述の小作契約の趣旨にも反する。農地所有者は,自ら所有する農地を他の用途に転用し,あるいは処分する権能を有するから,即時とはいかないまでも,自己の資産の運用として,しかるべき時期と方法によってこの事態に対応し,結果としてその損失を補てんすることが可能である。しかし,小作農としては,農地として借りた土地をより収益の高い別の用途に転用することはできず,また,自らこれを処分することもできないのであって,この負担を免れるためには,小作契約を解約し,農地を農地所有者に返還するしか方法はない。もちろん,その場合でも,小作農が小作契約の存続を希望し,収益以上の対価を支払って当該農地による営農を申し出た場合,こ- 11 -れを禁ずる理由はない。ただ,その場合に支払われる対価のうち適正小作料の額を超える部分は,仮にこれを小作料と称しても,本来の小作料ではなく,小作契約継続のための対価とでもいうべきものである。したがって,その額は,農地所有者と小作農との間において将来の精算方法も含めて協議されるべきものであって,農地法23条によって農地所有者の一方的意思により,小作農に負担させ得るものではなく,農業委員会が考慮すべきものでもない。そうでないと,小作農は,農業を営むことによって,一方的に回収不能の負担を負わされる結果となり,もしこれを支払わなかった場合には債務不履行として契約を解除され,離作料さえ受領できない立場に立たされるからである。 4 本件は,改正地方税法により,市街化区域内の農地に宅地並み課税がされた結果,固定資産税の額が従来の小作料を超えるに至った事例である。上述のように,法の趣旨とするところは,その区域内においては,生産緑地等の例外を除いては,自作,小作の別を問わず,農地の存続を期待していないのである。ただ,法はその直接の効果として った事例である。上述のように,法の趣旨とするところは,その区域内においては,生産緑地等の例外を除いては,自作,小作の別を問わず,農地の存続を期待していないのである。ただ,法はその直接の効果として当該区域内の農地を廃止したり,あるいはこれに農地法の適用を除外する方法をとらず,宅地化の手続は営農従事者の責任と判断にゆだねたのである。したがって,法の趣旨とするところは,当該区域内の農地の早期の宅地への転用であって,その永続ではない。農業経営が継続することを前提として小作料額をどう決するかは,改正法の予定していないところである。しかし,農地が存続し,小作契約が存続する限りにおいては,小作契約をめぐる法律関係は従来と変わるものではなく,ただ,その状態が早期に終了することが期待されているだけである。 多数意見がその意味において農地法20条の解釈適用を考慮しているのは当然の帰結であり,これによってこそ,「逆ざや」といわれる異常な状態は解消されるべきであると考える。 5 なお,小作農が農地所有者の意図に反し,生産緑地法3条2項の同意をしな- 12 -かった場合には,固定資産税分を小作料に転嫁するため小作料の増額を請求できるとする亀山裁判官,町田裁判官,深澤裁判官の反対意見については,元原裁判官の補足意見の該当部分を援用する。 裁判官元原利文の補足意見は,次のとおりである。 私は,多数意見に同調するものであるが,反対意見にかんがみ,多数意見の趣旨を補足しておきたい。 1 福田裁判官,藤井裁判官,大出裁判官の反対意見(以下「積極説」という。)について(1) 積極説は,要するに,都市計画法7条1項により市街化区域に組み入れられた農地に対する宅地並み課税による逆ざやという事態の下では,経済的合理性を有する賃料の決定という要請を満たすことができな (1) 積極説は,要するに,都市計画法7条1項により市街化区域に組み入れられた農地に対する宅地並み課税による逆ざやという事態の下では,経済的合理性を有する賃料の決定という要請を満たすことができないから,小作料の決定に際しては,小作農の地位の安定という農地法の目的と,宅地並み課税を通じた宅地化の促進という地方税法の目的のいずれかの一方を犠牲にするほかはないというに帰するものであって,宅地並み課税の導入によって,小作農の地位の安定の要請は後退し,宅地並み課税の負担を小作料に転嫁することは許されるとし,その法律上の根拠を農地法23条1項の「その他の経済事情の変動」が生じたと認められることに求める。その結果,小作農が小作料の負担に耐えかね,何らの補償を受けることなく離農のやむなきに至る事態が生じても,むしろ,そのような事態は宅地化を促進するために望ましく,立法者意思に沿うというのである。 (2) そこで,都市計画法の制定時あるいはその後に,都市計画法と農地法との関係についてどのような手当がされているかをみると,まず現在の都市計画法の制定時にその附則において農地法を一部改正し,市街化区域内の農地について転用制限の緩和を定め(同法4条1項5号),次いで昭和45年に農地法を一部改正し,- 13 -市街化区域内の農地について小作地の所有制限を撤廃することを定めている(同法7条1項14号)。 (3) 次に,農地法23条1項が従来どのように解釈され運用されてきたかをみると,借地借家法11条,32条のように,公租公課の増減が地代若しくは建物の借賃の増減の理由となる旨が明示されておらず,また,農地法の目的や同法に定める小作料に関する諸規定から,農地に対する公租公課の増減は小作料増減の理由とはならず,同法23条1項にいうその他の経済事情の変動には,農地に となる旨が明示されておらず,また,農地法の目的や同法に定める小作料に関する諸規定から,農地に対する公租公課の増減は小作料増減の理由とはならず,同法23条1項にいうその他の経済事情の変動には,農地に対する公租公課の増減は含まないと解釈され,現在まで,農業委員会を含む農地の賃貸借契約の現場において,そのように運用されてきたことは公知の事実である。 (4)積極説は,このような状況の下で,宅地並み課税の対象となる市街化区域内の農地(市街化区域農地)について,小作料の算定に当たり,農地法23条1項に関する長年の解釈と運用を大きく変更しようとするものである。しかも,このような重要な変更を,都市計画法制定時のように,あるいは昭和45年の農地法一部改正時のように,農地法自体の改正を経ることなく,地方税法の改正の機会に,農地法23条1項に関する確定した解釈と運用を変更することによって実現しようとするものである。しかし,市街化区域農地の賃貸借について小作料の算定基準の変更が必要であれば,地方税法改正時にその附則において,その趣旨の農地法の一部改正を行うことに何ら障害がなかったはずである。かえって,地方税法附則29条の5においては,市街化区域農地の所有者が農地の計画的な宅地化を図る場合には固定資産税等を軽減する措置を設けているところからみると,宅地並み課税制度は,農地の所有者が,税負担の不利,有利を勘案しつつ宅地化を志向することを期待しているものと思われ,このことは,農地が賃貸借契約の目的となっているか否かによって異なるところはないと解されるのである。したがって,立法者の意思は,少なくと- 14 -も,積極説が想定する内容ではなかったということができよう。 (5) また,積極説は,賃貸借契約の解約の際にはいわゆる離作料の支払が必要となり,それが往々 て,立法者の意思は,少なくと- 14 -も,積極説が想定する内容ではなかったということができよう。 (5) また,積極説は,賃貸借契約の解約の際にはいわゆる離作料の支払が必要となり,それが往々にして高額であるから,実際には農地所有者による賃貸借契約の解約は困難であり,農地所有者は逆ざやの不利益を解消できず,宅地化は進まないとして多数意見を批判する。 なるほど,合意解約に伴って高額な離作料が授受される例が世上見掛けられないでもない。しかし,他方,小作農に農業の後継者がない場合には,農地は無償あるいはほとんど無償に近い条件で解約される例も存在する。要は,離作料の多寡は,合意解約をめぐる当事者間の個別具体的な事情や打算・思惑によって決定されているのが実態であり,これが高額となる場合としては,たまたま宅地の買い手などが現われ,農地の所有者が取引の完結を急ぐ例などが考えられよう。 市街化区域農地の賃貸借契約は,土地の使用目的が農地としての利用に限定されており,宅地に準ずる土地としての最有効利用が認められていない。この事実は,農地の賃貸借契約の解約に当たり賃借人に交付される離作料の額については,宅地の借地関係の終了に際して借地人に交付されるいわゆる立退料の算定方法とは異なった視点で考えるべきことを示しているのであり,知事が農地法20条2項2号ないし5号に該当するとして賃貸借契約の解約を許可する際に定める離作料の額についても,これらの事情が考慮されるべきものである。 (6)以上のとおり,市街化区域農地の賃貸借契約の合意による解約ができないときは,農地所有者が逆ざやを解消するみちは,現行法上農地法20条による許可を得て解約する以外にはないと考えるものであるが,市街化区域内の農地の現況にかんがみ- 15 -更に付言しておきたい。 都 ,農地所有者が逆ざやを解消するみちは,現行法上農地法20条による許可を得て解約する以外にはないと考えるものであるが,市街化区域内の農地の現況にかんがみ- 15 -更に付言しておきたい。 都市計画法施行時の市街化区域と市街化調整区域の指定(いわゆる線引き)の当時,市街化区域に編入されても農地に賦課される公租公課の額に変動はなく,また,近い将来これが増加するとも想定されていなかったため,農地の所有者のみならず,線引きにかかわった行政の担当者においてすら,線引きの場所については厳格に考えず,緩やかであった地域があったことは否めない。 その証左として,都市計画法が市街化区域の指定基準として「すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」と定めていたにもかかわらず,同法施行後既に30年余を経過した今日においてすら,なお宅地化が達成されていない市街化区域内の農地が存在しているのである。 その理由は,農地の所有者あるいはその賃借人において,宅地化を望まない場合を別として,当初の線引きが緩やかに過ぎたため,農地の周辺において,ガス,上下水道,道路等の都市設備が十分でなく,仮に解約のために離作料を支払い,造成費用を投下しても,宅地としての使用が不能ないし困難な農地が市街化区域に取り込まれていたことにあると思われる。 そうだとすると,宅地の供給不足も沈静化した今日,宅地化されていない市街化区域内の農地について改めて実情調査を実施し,線引きが緩やかに過ぎて今後も宅地化が期待できないことが明らかな農地については,市街化調整区域への編入(いわゆる逆線引き)を考慮すべきではないかと考えられ,そうすることが,本件類似の争いの減少につながると思うのである。 2 亀山裁判官,町田裁判官,深澤裁判官の反対意見につ ,市街化調整区域への編入(いわゆる逆線引き)を考慮すべきではないかと考えられ,そうすることが,本件類似の争いの減少につながると思うのである。 2 亀山裁判官,町田裁判官,深澤裁判官の反対意見について- 16 -(1)農地法23条1項の立法趣旨と,それがどのように解釈されてきたか,また,宅地並み課税の対象とされる農地についても,その解釈を変更する理由がないこと,宅地並み課税の実施後も,農地の賃貸借におけるいわゆる逆ざや部分は農地の所有者が負担するものと解すべきことは,多数意見の4の(1)及び(2)に述べたとおりである。 (2)上記反対意見は,本件のような事情の下においては,信義公平の原則にかんがみ,農地法23条1項の解釈に例外を認め,逆ざや部分を小作料に上乗せして小作農が負担すべきものとする。すなわち,生産緑地法3条2項の適用に当たり,農地の所有者が,賃貸借の目的である農地について,生産緑地法による生産緑地地区の指定を受けるため賃借人に同意を求めたところ,賃借人が,将来の契約の合意解約に当たり,離作補償の点で不利となることを危ぐして同意しなかったため,生産緑地地区の指定を受けることができなかったのであるから,これによって生ずる賃貸人と賃借人の利害を比較考量すれば,賃貸人は賃借人に対し,宅地並み課税による負担の増加を理由として,増加分を限度として,小作料の増額請求をすることができるというのである。 (3)そこでまず,生産緑地法3条2項による同意を求められた際,同項に列挙された農地の利害関係人が,農地の所有者の申出に同意すべき義務があるか,もし同意できないときは,その理由を所有者に開示する義務があるかについて考えると,これを肯定する法律上の定めはないのみか,事は利害関係人の自らの権利の管理の問題であって,農地の所有者の 務があるか,もし同意できないときは,その理由を所有者に開示する義務があるかについて考えると,これを肯定する法律上の定めはないのみか,事は利害関係人の自らの権利の管理の問題であって,農地の所有者の容かいできる事項ではないのであるから,いずれも否定すべきであろう。 - 17 -(4)また,農地の賃借人に限定して考えてみても,生産緑地に指定されると原則として30年間の営農義務を負うことになるところ,30年の期間中には少なくとも1回の代替りを予想するのが通常であろう。また,相続人が農業を承継せず,都会での勤務を望むのも最近の傾向である。30年間の営農義務の発生を前にして,将来の予想も立たないまま同意をためらうことは十分あり得ることであり,これが故に賃借人を責めることはできない。本件の賃借人が将来の離作料額に思いを及ぼしたのも,将来の営農継続の可能性を離れては考えられない。 (5)以上のとおり,本来,生産緑地法3条2項による同意の申出に対しこれに応ずる義務もなく,同意しない理由を開示する義務もない賃借人について,たまたま同意しない理由が判明し,それが将来の離作補償に対する配慮であったとしても,その故に,増額請求が許されるとは考えられないのである。 裁判官福田博,同藤井正雄,同大出峻郎の反対意見は,次のとおりである。 私たちは,多数意見と異なり,宅地並み課税による固定資産税等の増加を理由として,小作料の増額を請求することができると考える。その理由は,次のとおりである。 1 土地の賃貸借における賃借人の使用収益に対する対価としての賃料は,これを経済的にみると,賃料を支払う賃借人にとっては費用であるが,賃料を受領する賃貸人にとっては収入である。農地の賃貸借(小作関係)においては,小作農は,農業生産によって得るものを収入とし,生産費のほ を経済的にみると,賃料を支払う賃借人にとっては費用であるが,賃料を受領する賃貸人にとっては収入である。農地の賃貸借(小作関係)においては,小作農は,農業生産によって得るものを収入とし,生産費のほかに小作料をその費用として支出するのであり,他方,農地所有者は,小作農から支払われる小作料を収入とし,当該農地に課せられる固定資産税等をこの収入を得るために必要な費用として負担する。そうすると,小作料は,小作農が得る農業収益を上回るものであってはなら- 18 -ないと同時に,当該農地に対する固定資産税等を下回るものであってもならないことになる。 法は,小作料統制の制度の撤廃後も,小作農の経営安定のために,生産量,生産物価格,生産費等を参酌して小作料の標準額を定め,これを指針として小作料の高騰を抑制する方策をとるとともに,一般的な経済事情の変動等による小作料の増減請求のほか,特に不可抗力による減収を理由とする小作料の減額請求を認め,農業収益と小作料の関係に十分な配慮をしてきた。これに対して,小作料と公租公課の関係については,法は何ら規定するところがない。これは,わが国の税制上,農地については,それが農地である限りにおいては収益力がごく低いことにかんがみ,固定資産税等を低額に抑える政策が長く維持継続されており,その税額が小作料を上回るような事態の発生は予想されていなかったからであると考えられる。 ところが,時代が変わって,市街化区域内の農地については,農地としての収益力にかかわりなく,類似宅地の価格に比準する価格を課税標準としていわゆる宅地並み課税が実施されることとなり,その適用範囲が順次拡大されてきた。こうなると,宅地並み課税が行われている農地の小作料を定めるに当たって,前述の経済法則にのっとって,農業収益より上回らず,かつ固定資産税等より 実施されることとなり,その適用範囲が順次拡大されてきた。こうなると,宅地並み課税が行われている農地の小作料を定めるに当たって,前述の経済法則にのっとって,農業収益より上回らず,かつ固定資産税等より下回らないという二つの要請をともに満たすことはもはや不可能となり,いずれか一方の要請は無視せざるを得ないことになる。この場合に,どちらを生かしどちらを犠牲にするかは,そのような矛盾した事態を生み出した立法者の意思を推知して決めるほかはない。 2 法は,耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ることを目的として制定され,農地をめぐる税制もこれと整合性を保つように定められ,長年にわたりそのように運用されてきたのであるが,都市への人口集中による宅地需要の増大が,農地と税の関係に大きな変化をもたらした。すなわち,地方税法は,市街化区域農地について,近傍宅地との課税の均衡を図るとともに,農地の宅地化を推進するため- 19 -,農地に対する従前の低廉な課税を改め,農地としての収益性を度外視した宅地並みの課税を実施することとし,これにより農業経営の不採算の状態を招来して,耕作者の離農を余儀なくさせ,農地の宅地としての放出を税制面から促進しようとするに至ったのである。ここに農業保護に関連する立法政策の明らかな転換を見ることができる。 市街化区域農地に対する宅地並み課税がこのように国の離農・宅地化政策の手段として位置づけられるものであることからすると,それは現実の耕作者の負担に帰せしめられるのでなければ,実効は期し難い。小作地の場合において,土地所有者に対し宅地並みに課せられた固定資産税等を小作農に転嫁することを認めないならば,小作農は大幅に増加した課税の痛みを感ずることなく営農利益を確保し,土地所有者のみが小作料を上回る逆ざやの大きな金銭的負担を背負い, みに課せられた固定資産税等を小作農に転嫁することを認めないならば,小作農は大幅に増加した課税の痛みを感ずることなく営農利益を確保し,土地所有者のみが小作料を上回る逆ざやの大きな金銭的負担を背負い,離農は促進されない。また,そのような課税の負担の下では,自己所有地で自作農として営農するよりも,他人の農地を賃借して小作農として農業を営む方が有利となる。これらはいずれも合理的な事態とはいえない。これを要するに,耕作者の地位の安定を志向した法の理念は,宅地並み課税が実施された場面においては大きく後退を余儀なくされているのであって,固定資産税等を小作料に転嫁し,小作料が農業収益を上回る状態を現出させるのもやむを得ないとしたものと解するのが,立法者の意思にかなうというべきである。 3(1) 多数意見は,市街化区域農地の値上がり益が当該農地の資産価値の中に化体しているから,宅地並み課税の税負担は,値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきであるという。しかし,当該農地は現に小作農の使用収益にゆだねられてその支配下にあり,土地所有者は資産の値上がり益を現実に享受する機会を当面有していないのであり,宅地並み課税による増税分を小作料に上乗せすることを当然に否定する理由とはなり得ない。 - 20 -(2) また,多数意見は,賃貸借契約が有償契約であることからみても,小作料は農地の使用収益の対価であって,小作農は農地を農地としてのみ使用し,宅地としての使用はできないのであるから,宅地並みの資産を維持するための経費を小作料に転嫁し得る理由はないという。しかし,これは契約の一方当事者の立場だけからの議論である。小作料は,借主である小作農の側から見れば,農地を契約の目的に従って使用することによって得る収益に見合ったものでなければならないが いという。しかし,これは契約の一方当事者の立場だけからの議論である。小作料は,借主である小作農の側から見れば,農地を契約の目的に従って使用することによって得る収益に見合ったものでなければならないが,他方,貸主である所有者の側からすれば,農地を契約の目的に従い他人に使用させるについて掛かる費用に見合ったものでなければならない。農地であるからといって専ら小作農の側にのみ経済的合理性のあるものでなければならないとする理由はなく,有償契約性という観点から当然に課税の転嫁を不可とする答えが導き出せるものではない。 (3) さらに,多数意見は,固定資産税等が小作料を上回る逆ざやを解消するには,法20条2項2号又は5号により知事の許可を得て賃貸借を解約する方法によるべきであるという。本件においては,被上告人は,現時点では農地の具体的な転用計画を有しているとはうかがわれないから,これがあることを必要とする行政上の運用(平成3年9月10日付け3構改B第998号農林水産省経済局長・構造改善局長通達)を前提とする限り,2号に当たるとはいい難いが,市街化区域内にあって前述の逆ざや現象が生じていることをもって5号の正当事由に該当すると解することは,(現状では未だそのような議論が熟しているとはいえないけれども,)十分考慮に値するといえよう。しかし,2号又は5号のいずれにより許可される場合であっても,同条4項により,許可の条件として,いわゆる離作補償(離作料)の支払義務を課されるのが一般である。離作料とは,本来,農地の賃貸借の終了によって賃借人が被る農業経営上,生計上の損失を補う目的をもって,慣行上,賃借人に支払うものとされる金銭である。ところが,市街化区域農地の場合には,往々- 21 -にして,これを宅地見込地として評価した額の何割という離作料が要求され,ま 損失を補う目的をもって,慣行上,賃借人に支払うものとされる金銭である。ところが,市街化区域農地の場合には,往々- 21 -にして,これを宅地見込地として評価した額の何割という離作料が要求され,また,そのような算定の仕方を支持する見解が示されることが少なくないようである(本件においても,上告人らがそのような額の離作料を期待していることは明らかである。)。これは,宅地の借地関係におけるいわゆる立退料の算定に準じた考え方によっているものと思われる。借地の場合にあっては,法律上借地契約の継続が強く保護され,容易に契約が終了しない構造になっていることから,土地の価格の一部を把握する借地権価格というものが観念され,立退料の算定においてこれが考慮されるようになったものである。これに対し,市街化区域農地の小作の場合には,上述したように,現行法制上,営農の継続につき原則として否定的な評価がされ,小作関係が早晩終了に至ることが予測され期待されているのであり,小作農が土地について借地権者に類するような強固な権利を持っているわけではないのであるから,あたかも小作農が土地の価格の一部を把握しているかのような前提の下に離作料を算定しなければならないとする理由はない。離作料についてはそのあり方を再考してみる必要があると思うが,現行の運用の下では,市街化区域農地の所有者は,賃貸借の解約ができるといっても相当高額の離作料の負担を免れず,結局,その解約権の行使は事実上制約される可能性が高いといわざるを得ない。 4 以上述べたようなことからして,私たちは,市街化区域農地については,所有者が宅地並み課税により増加した税額を小作料に転嫁して逆ざやを解消することは妨げられないと解するものであり,そのような増額請求をすることができる法律上の根拠を,法23条1項の「その他の経済 は,所有者が宅地並み課税により増加した税額を小作料に転嫁して逆ざやを解消することは妨げられないと解するものであり,そのような増額請求をすることができる法律上の根拠を,法23条1項の「その他の経済事情の変動」に求めたいと思う。 逆ざや解消のために増額請求をしたことにより形成される小作料の額は,多くの場合,固定資産税等の額を限度とすることで満足しなければならないであろう。何故ならば,小作料は,本来,農業収益より少なく,固定資産税等より多いものでなければならないのに,宅地並み課税によりこの両者を同時に満たすことができず,- 22 -一方を犠牲にするほかはないので,犠牲となる側の損失をできるだけ小さいものにする必要があるからである。 よって,これと同旨に帰する原審の判断は正当であり,論旨は理由がないから,本件上告を棄却すべきである。 裁判官亀山継夫,同町田顯,同深澤武久の反対意見は,次のとおりである。 1 いわゆる宅地並み課税による固定資産税等の増額分を小作料に転嫁するため,その増額を理由に小作料の増額を請求することは,通常は許されないものと解すべきであり,その理由は,多数意見が4の(1)及び(2)に述べるとおりである。 しかし,本件においては,この一般論で律することが,被上告人に著しい不利益を課し,他方上告人らに不当な利益を与えることとなると解すべき特段の事情があるから,法における信義,公平の原則の上から,例外的に宅地並み課税による固定資産税等の増額を理由に,これを転嫁するため小作料の増額を請求することが許されるものというべきである。 2 その理由は,次のとおりである。 (1) 被上告人は,本件各土地が生産緑地法に定める生産緑地地区に指定された場合を除き,宅地並み課税の対象とされることになったことから,天理市が行った意向調査に応じ その理由は,次のとおりである。 (1) 被上告人は,本件各土地が生産緑地法に定める生産緑地地区に指定された場合を除き,宅地並み課税の対象とされることになったことから,天理市が行った意向調査に応じて,本件各土地につき生産緑地地区の指定を受けることを希望することとし,上告人らに対して指定に必要な賃借人としての同意を求めたところ,上告人らが生産緑地地区の指定によって土地の評価額が低く抑えられ,将来の合意解約の際の離作補償の点で不利になることを危ぐして同意しなかったため,生産緑地地区の指定を受けることができなかった。 本件土地(一)に対する固定資産税等の額は,宅地並み課税が実施された結果,平成4年度及び同5年度は11万9119円,同6年度は12万5074円であり,本件土地(二)に対する固定資産税等の額は,同4年度及び同5年度は10万024- 23 -0円,同6年度は12万5241円であるが,本件各土地につき生産緑地地区の指定があると,宅地並み課税が課されないため,同4年度の固定資産税等の額は,本件土地(一)は2万0100円,本件土地(二)は1万6661円となるところであった。 (2) 生産緑地制度の概要は,次のとおりである。 生産緑地地区は,都市における農地等の持つ緑地機能を積極的に評価し,市街化区域内の農地等を計画的に保全することにより良好な都市環境を形成することを目的として,都市計画に定められるものであり,その指定に当たっては,当該農地等の所有者,対抗要件を備えた賃借権者等の同意を得なければならない(生産緑地法2条の2,3条)。生産緑地地区の指定を受けると,生産緑地について使用又は収益をする権利を有する者は,当該生産緑地を農地等として管理しなければならない(同法7条1項)が,これを怠った場合の罰則はない。生産緑地地区内においては, の指定を受けると,生産緑地について使用又は収益をする権利を有する者は,当該生産緑地を農地等として管理しなければならない(同法7条1項)が,これを怠った場合の罰則はない。生産緑地地区内においては,建築物の新築,宅地の造成等が原則として禁止され,これに違反したときは,市町村長により原状回復命令が発せられる(同法8条,9条)。禁止又は命令に違反した者には刑事罰がある(同法18条,19条)。生産緑地の所有者は,指定から30年が経過したとき,又は農業等の主たる従事者が死亡し,若しくは農業等に従事することを不可能にさせる故障として建設省令で定めるものを有することとなったとき等には,市町村長に当該生産緑地を時価で買い取るよう申し出ることができるものとされている(同法10条。なお,同法15条)。 (3) 上告人らは,被上告人から本件各土地を耕作の目的で賃借しているが,本件各土地につき生産緑地地区の指定があっても,賃借の目的を何ら損なわれることはない。すなわち,生産緑地地区の指定があると,地区内の農地は,原則として30年間は農地として利用することしか許されないこととなるが,耕作目的で賃借している上告人らは,もともと本件各土地を農地としてのみ使用できるにすぎないの- 24 -であるから,この制約は,上告人らに不利益を課するものとはいえない。かえって,転用目的のための賃貸人による解約(法20条2項2号)が制限されることとなる結果,上告人らは,賃借関係が安定するという利益を受ける立場にあるものということができる。確かに,上告人らは,生産緑地地区の指定により営農義務を負うこととなるが,営農義務違反については罰則等の制裁はなく,賃借人である上告人らは,賃借権の譲渡(生産緑地法7条2項は,このような場合の市町村長の援助をも予定しているものと解される。)又は合意 を負うこととなるが,営農義務違反については罰則等の制裁はなく,賃借人である上告人らは,賃借権の譲渡(生産緑地法7条2項は,このような場合の市町村長の援助をも予定しているものと解される。)又は合意解約等によって,賃貸借関係を脱することにより営農義務を免れることも可能である。 他方,農地所有者である被上告人は,生産緑地地区の指定により本件各土地を30年間農地等として維持する義務を負担することとなるが,宅地並み課税から除外されるため,上記のとおり宅地並み課税の場合の6分の1程度の低い負担ですむこととなる。したがって,長期間農地等として土地を保有し続けたい希望を持つ土地所有者にとっては,生産緑地地区の指定を受ける利益は極めて大きく,土地所有者の土地利用についての意思ないし希望と宅地並み課税制度の政策目的とをできる限り合理的に調整するという観点からすれば,上記の利益は十分に顧慮されてしかるべきである。 (4) 以上を前提に,本件において宅地並み課税による固定資産税等の増加分を小作料に転嫁するため小作料の増額を請求することに理由があるかを検討する。 本件において,上告人らが生産緑地地区の指定が賃貸借契約を維持する上で格別の不利益をもたらすものではないのに,指定に同意しなかったのは,指定により土地の評価額が低く抑えられ,将来の合意解約の際の離作補償の点で不利になることを危ぐしたことによる。確かに,市街化区域内の農地を宅地化するため所有者の申出により当該農地の賃貸借契約を合意解約するに当たり,離作料が授受されることが広く行われ,その額が土地の価額の3割ないし5割に達することが少なくないこ- 25 -とはよく知られているところであるから,上告人らが生産緑地地区の指定に同意しなかったことも一見無理もないように見えないでもない。しかし,賃借人である上 いし5割に達することが少なくないこ- 25 -とはよく知られているところであるから,上告人らが生産緑地地区の指定に同意しなかったことも一見無理もないように見えないでもない。しかし,賃借人である上告人らの権利は,当該土地を使用,収益することであり,かつ,これを耕作することにおいて農地法上の特別の取扱いを受けるものであるところ,賃貸人が生産緑地地区の指定を希望したことは,土地の農地としての使用,収益を長期にわたり安定したものとして保証することになるのであるから,賃貸人からの解約の申出があることを予定して指定に同意しないことに合理性があるものとはいえない。また,上告人らが生産緑地地区の指定により地価が低く抑えられ,離作補償の点で不利になることを避けるため同意をしなかったということは,市街化に伴う土地の資産価値の増加を離作補償を通して享受する意思を表すものである。したがって,上告人らがこの資産価値の増加を根拠とする宅地並み課税の負担を負わないと解することは,上告人らに不当に利益を与えるものといわねばならない。 他方,被上告人は,所有者として,本件各土地を農地等として長期間保有し,併せて土地の税負担を低くするため,生産緑地地区の指定を希望したものと認められるが,市街化区域内の農地の持つ緑地機能としての価値を考えれば,この希望は正当なものとして評価される。平成3年の税制改革による宅地並み課税の対象の拡大に伴う生産緑地地区の指定は,その運用上は,同4年12月末日までに行うものとされ,関係各市町村の意向調査に応じ指定を希望したものについては,要件を満たす限り原則として指定が行われたが,同5年以降はごく例外的にしか指定は行わないこととされている(同5年1月27日付け建設省都公緑発第7号建設省都市局長通達「生産緑地法の運用について」)。したがって,本 限り原則として指定が行われたが,同5年以降はごく例外的にしか指定は行わないこととされている(同5年1月27日付け建設省都公緑発第7号建設省都市局長通達「生産緑地法の運用について」)。したがって,本件各土地につき,被上告人が指定を希望したときに上告人らが同意をしておれば,生産緑地地区の指定が行われたことはほぼ確実であったと認められるが,将来本件各土地が被上告人に返還され,又は上告人らが同意することに態度を変えても,生産緑地地区に指定されるこ- 26 -とはほとんど期待できない。そのため,生産緑地地区の指定が行われていれば,被上告人は,ほぼ従前の小作料に相当する低い額の固定資産税等を負担すれば足りたのに,今後長期にわたりその約6倍もの税の負担を余儀なくされ,また,多数意見のいうように,小作料の増額が許されないものとすれば,固定資産税等の6分の1程度の小作料を甘受しなければならないこととなり,受ける不利益は極めて大きい。 そして,被上告人がこれら不利益を解消するには,多数意見が指摘するとおり,本件賃貸借契約を合意解約し,または法20条2項2号又は5号により解約するほかないが,その場合には離作料の支払をする必要があり,その額も現在慣行として行われているところによれば,相当な額に上ることが予想され,かつ,その後に本件各土地につき生産緑地地区の指定が行われる可能性が乏しいことを考慮すると,結局被上告人としては,農地等として長期にわたり保有を続けたいとの希望を放棄し,その意思に反し,本件各土地を宅地化して利用することを余儀なくされることとなるものと思われる。 以上のことに,本件のような農地の賃貸借は,長期間継続することが予定され,それだけに当事者間の信頼関係が強く要請されることをも併せ考えれば,本件においては,法の基本に存する信義,公平の原則にか 。 以上のことに,本件のような農地の賃貸借は,長期間継続することが予定され,それだけに当事者間の信頼関係が強く要請されることをも併せ考えれば,本件においては,法の基本に存する信義,公平の原則にかんがみ,被上告人は,上告人らに対し,宅地並み課税による負担の増加を理由として,小作料の増額請求をすることができるものと解すべきである。 もっとも,このように解すると,上告人らは本件各土地での農業収入を超える小作料の支払をしなければならないこととなることが予想されるが,これを避けるためには,法20条2項5号により上告人らから解約を求めるほかない。この場合に,上告人らが当面の離作補償を求めるときは,同条4項により許可の条件として被上告人からの離作料の支払を命ずることもできるものと解することは可能であろう。 ただし,その場合の離作料の額が賃貸人である被上告人からの解約の申入れの場合- 27 -よりも相当低額となることが考えられるが,同項の許可の条件が解約の経緯等を総合して判断されるべきことよりすれば,当然である。 3 よって,これと同旨の原判決は正当であり,論旨は理由がないから,本件上告を棄却すべきである。 (裁判長裁判官山口繁裁判官千種秀夫裁判官河合伸一裁判官井嶋一友裁判官福田博裁判官藤井正雄裁判官元原利文裁判官大出峻郎裁判官金谷利廣裁判官北川弘治裁判官亀山継夫裁判官奥田昌道裁判官梶谷玄裁判官町田顯裁判官深澤武久)- 28 -

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