平成19年(ワ)第5266号吸収合併無効請求事件判決主文 被告と有限会社A(解散時の本店所在地名古屋市a区b通c丁目d番地)との間において平成19年10月1日にされた合併は,これを無効とする。 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実 第1請求の趣旨主文同旨第2当事者の主張 請求原因(1) 提訴資格原告は,被告の取締役である。 (2) 合併契約ア被告は,旧商号を株式会社Bといい,旧本店所在地は,名古屋市e区f町g番地であったが,合併の登記と同時に,商号を現商号に,本店所在地を肩書地に変更する旨の登記をした会社である。 イ被告は,平成19年8月17日,有限会社A(解散時の本店所在地名古屋市a区b通c丁目d番地)との問で,合併により被告を存続し,有限会社Aを解散するという合併契約を締結した(以下「本件合併契約」というほか,単に「本件合併」ということがある。)。 (3) 合併承認決議ア被告は,平成19年9月26日,臨時株主総会を開催し,出席株主5名 の全員一致により本件合併契約を締結することを承認する決議を行った。 イ有限会社Aは,同日,臨時株主総会を開催し,出席株主4名全員一致により本件合併契約を締結することを承認する決議を行った。 (4) 公安委員会の承認についてア有限会社Aは,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風俗営業法」という。)3条に基づき愛知県公安委員会の許可のもとに合計3店舗において昭和59年3月の設立以来パチンコ等遊技場を経営する業務を行ってきた。 イ風俗営業法7条の2は,「風俗営業者たる法人がその合併により消滅することとなる場合において、あらかじめ合併について国家公安委員会規則で定めるところにより公安委員会の承認を受けたときは、合併後存続し、又は合併によ の2は,「風俗営業者たる法人がその合併により消滅することとなる場合において、あらかじめ合併について国家公安委員会規則で定めるところにより公安委員会の承認を受けたときは、合併後存続し、又は合併により設立された法人は、風俗営業者の地位を承継する。」旨規定している。 ウ有限会社Aは,本件合併前に風営法7条の2に規定する公安委員会の承認を受ける手続を行っていなかった。 エ存続会社である被告が消滅会社である有限会社Aの経営していた遊技場の経営を引き継ぐことは本件合併の当然の前提であり,被告が有限会社Aの承認を引き継がないとすると,被告の経営が成り立たなくなる。 なお,有限会社Aの経営していた3店舗のうち1店舗は,近隣商業地域として風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第3条の許可がなされたものであるが,後発的に,同店舗の敷地の約2分の1が第一種住居専用地域に指定されたため,新たに許可を受けることは不可能である。 (5) 合併承認決議の無効ア有限会社Aの社員総会,被告の社員総会において,いずれも出席株主ないし社員の全員一致の決議により本件合併契約が承認されているが,前記公安委員会の承認を受けなければ,風俗営業者の地位が承継されないこと, 新たな許可を得ることもできないこと等の事情は,まったく知らされていなかった。これらの事情は,被告の存亡に関わることであるからこれらの事情が明らかにされていればいずれの株主も社員も決議はしなかったであろうことは明らかである。 イ株主総会ないし社員総会の決議に重大な瑕疵があったのであるから,本件合併契約を承認する被告の株主総会の決議及び有限会社Aの社員総会の決議はいずれも無効である。 (6) 合併契約の無効被告の代表取締役は,本件合併契約を締結するに当たり,吸収合併であるから,有限会社Aの権利義務 認する被告の株主総会の決議及び有限会社Aの社員総会の決議はいずれも無効である。 (6) 合併契約の無効被告の代表取締役は,本件合併契約を締結するに当たり,吸収合併であるから,有限会社Aの権利義務の承継に合わせて,風俗営業法の許可についても何らの手続を要さず,当然に被告に承継されると考えていた。 前記(3)エのとおり,合併後存続する被告が有限会社Aの経営していた遊技場の経営を引き継ぐことは本件合併の当然の前提とされており,被告の上記動機は表示されていた。 ところが,実際は,前記(4)イ・ウのとおり,あらかじめ公安委員会の承認を受ける必要があるところ,有限会社Aはかかる手続を怠っていた。 したがって,本件合併契約は,被告の要素の錯誤により無効である。 (7) よって,原告は,被告に対して,本件合併を無効とする判決を求める。 請求原因に対する認否請求原因事実は認める。 理由 処分権主義及び弁論主義の適用の有無会社の組織に関する関する訴えに係る請求を認容する確定判決は,第三者に対してもその効力を有する(会社法838条)。 かかる請求については,当事者が紛争を自主的に解決する権能(処分権主義及び弁論主義)が制限されていると解すべきであり,本件において,被告は, 請求の認諾をなしえず,裁判上の自白も裁判所を拘束しない。 請求原因(1)ないし(4)について(1) 証拠(甲12の1)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(1),(2)アが認められる。 (2) 証拠(甲1,甲12の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(2)イが認められる。 (3) 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(3)アが認められる。 (4) 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(3)イが認められる。 (5) 証拠(甲4の1ないし3,甲10)及び弁論の全 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(3)アが認められる。 (4) 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(3)イが認められる。 (5) 証拠(甲4の1ないし3,甲10)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(4)アが認められる。 (6) 請求原因(4)イは当裁判所に顕著である。 (7) 証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(4)ウが認められる。 (8) 証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(4)エが認められる。 請求原因(5)及び(6)について請求原因(5)及び(6)は選択的な請求原因と考えられる。 そして,証拠(甲10,11)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(6)が認められる。 したがって,請求原因(5)については判断を要しない。 会社法51条2項の類推適用について(1) 吸収合併においては,合併契約に,その「効力発生日」を記載しなければならないところ(会社法749条1項6号),その日に効力が発生する(会社法750条1項)。 また,各会社は,合併契約締結の日から上記効力発生日までの間に,合併承認決議,債権者の異議手続等の手続を終了させなければならない(会社法783条1項,750条6項)。 そして,株式会社が吸収合併をしたときは,効力発生日から2週間以内に, 存続会社の本店所在地において,消滅会社につき解散の登記,存続会社につき変更の登記をしなければならない(会社法921条)。 (2) ところで,株式会社は,その本店の所在地において設立の登記をすることにより成立するものであり(会社法49条),同設立の登記(すなわち会社の成立)後は,錯誤を理由とする設立時発行株式の引受けの無効の主張は制限される(会社法51条2項)。 そうすると,錯誤を理由とする合併契約の無効の主張も,合併の登記がなされた後は,会 (すなわち会社の成立)後は,錯誤を理由とする設立時発行株式の引受けの無効の主張は制限される(会社法51条2項)。 そうすると,錯誤を理由とする合併契約の無効の主張も,合併の登記がなされた後は,会社法51条2項の類推によって許されないとする考えがありうるところである。 そこで検討するに,会社法51条2項は,民法95条の特則として,特定の株主(すなわち発起人)からの無効主張を制限することを規定するものであり,認容判決が対世効を有する設立無効の訴えの制度(会社法828条1項1号,838条)と相俟って会社の成立が不安定の状態に置かれることを防止している。したがって,会社法51条2項の目的は,究極的には取引の安全,すなわち,他の株主,会社債権者を含めた関係者の保護にあると解される。 (3) これを本件にみるに,本件合併契約の効力発生日は平成19年10月1日であり(甲1),同日,被告につき変更の登記が,有限会社Aにつき解散の登記が,それぞれなされている(甲12の1・2)。 他方,本件においては,請求原因(4)ウ・エのとおり,存続会社である被告が消滅会社である有限会社Aの経営していた遊技場の経営を引き継ぐことは本件合併の当然の前提であったにもかかわらず,有限会社Aが本件合併前に風俗営業法7条の2に規定する公安委員会の承認を受ける手続を行っていなかったことにより,被告が,現時点で,合法に遊技場経営をなすことができず,かつ,1店舗については,今後も,被告自身が,有限会社Aと同様の営業許可を取得することが困難であるという事情がある。 かかる事情があるにもかかわらず,会社法51条2項の類推適用により,錯誤無効の主張を制限することは,被告の営業価値を著しく毀損する結果につながることは明らかであり,合併前の各会社の株主はもとより,各会社の債権者にも重大な わらず,会社法51条2項の類推適用により,錯誤無効の主張を制限することは,被告の営業価値を著しく毀損する結果につながることは明らかであり,合併前の各会社の株主はもとより,各会社の債権者にも重大な損害を発生させることになる。 したがって,本件において,会社法51条2項を類推適用すべきではなく,原告において,本件合併契約の錯誤無効を主張することは許される。 結論 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部裁判官安田大二郎
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