令和6(ネ)229 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年9月11日 札幌高等裁判所 棄却 札幌地方裁判所 令和4(ワ)1462
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判決文本文19,239 文字)

主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人aに対し、550万円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人bに対し、550万円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、略語等は原判決の例による。原判決を引用する場合、「原告」を「控訴人」、「被告」を「被控訴人」とそれぞれ読み替える。) 1 本件は、先天性の聴覚障害があり、被控訴人が設置する札幌聾学校小学部に在籍し又は在籍していた控訴人らが、①公務員である札幌聾学校校長が、日本手話を十分に使用することのできない教員を控訴人らの担任として配置し、そ の後も適切な対応をしなかったことは違法である、②道教委(北海道教育委員会)及び札幌聾学校が日本手話を基調とした授業を行う旨を入学前に説明していたのに、札幌聾学校校長がこれに反して日本手話を十分に使用することのできない教員を配置し、その後も適切な対応をしなかったことは違法である、これらにより控訴人らが精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人に対し、国家 賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、損害賠償として各550万円及びこれに対する令和5年3月31日(不法行為の終了の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審の争点は、⑴札幌聾学校校長がc教諭及びd教諭を控訴人らの担任としたこと並びにその後に適切な対応をしなかったことが、控訴人らの憲法上の権 利を侵害するものとして国賠法1条1項の適用 原審の争点は、⑴札幌聾学校校長がc教諭及びd教諭を控訴人らの担任としたこと並びにその後に適切な対応をしなかったことが、控訴人らの憲法上の権 利を侵害するものとして国賠法1条1項の適用上違法か、⑵札幌聾学校校長が c教諭及びd教諭を控訴人らの担任としたこと並びにその後に適切に対応をしなかったことは、道教委及び札幌聾学校の控訴人らの保護者に対する入学前の説明に反するものとして、国賠法1条1項の適用上違法か、⑶控訴人らの損害及び因果関係であった。 原審は、次のとおり札幌聾学校校長には国賠法1条1項の適用上違法となる 行為は認められないと判断し、控訴人らの請求を棄却した。争点⑴については、憲法26条は、国民が必要な学習をすることを公権力から阻害されない権利や公権力に対し必要な教育制度、教育施設その他の教育条件の整備を求める権利を定めるところ、これを学習権として保障するものと解される。後者については、その具体的な内容・方法は、教育に関する専門的な知見を踏まえ、人的資 源の確保、国や地方公共団体の財政事情など多方面にわたる要素を考慮して決定しなければならないから、第一言語による教育を受ける権利は直ちに保障されていない。もっとも、札幌聾学校が控訴人らに対し、日本手話でひととおりの授業を提供せず、その他のコミュニケーション手段を用いていることが、憲法26条1項は「その能力に応じてひとしく」教育を受ける権利を定めること から、これに反しないかも問題となる。この点、憲法14条の趣旨を踏まえて、教育条件整備の内容・方法について、教育に関する専門的な知見を踏まえ、人的資源の確保、国や地方公共団体の財政事情など多方面にわたる要素を考慮して決定する必要があるが、教育条件は、憲法26条の背後に存する学習権の趣旨に照らし ついて、教育に関する専門的な知見を踏まえ、人的資源の確保、国や地方公共団体の財政事情など多方面にわたる要素を考慮して決定する必要があるが、教育条件は、憲法26条の背後に存する学習権の趣旨に照らし、区別する目的に合理性があり、かつ、その区別の内容が目的との 関係で合理性を有するのであれば同条1項に反しない。区別の目的は教育関係法令及び学習指導要領に沿った教育と手話を活用した教育の両立であって、目的は合理的であり、その目的を達するために多様なコミュニケーション手段を用いることも合理的であることから、憲法26条1項に反しない。憲法13条違反の主張については、言語がアイデンティティの基盤となる存在であるとし ても、特定の言語での教育を求めることが個人の人格の重要な要素であるとは いえず、同条に違反しない。また、聴覚に障害のない児童は第一言語である日本語教育を受けられたにもかかわらず、控訴人らが第一言語である日本手話での授業を受けられないことについても、不合理な取扱いとはいえないから、憲法14条に反するとはいえない。争点⑵については、札幌聾学校が入学前に説明を受けた内容を実施しなければ、児童の期待、信頼が損なわれることになる から、不法行為が成立することはあり得る。しかし、学校教育の内容については、諸法令や学習指導要領の下における教育専門家である学校設置者、校長、教員の裁量があり、二言語クラスの説明としては日本手話の学習グループ、日本手話を基盤とするという内容があるものの、保護者向けの説明ではないことから、札幌聾学校又は道教委が控訴人ら及びその保護者らに対し、日本手話を 基軸とする旨の説明をしたとは認められない。 これに対して、控訴人らが本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、後 が控訴人ら及びその保護者らに対し、日本手話を 基軸とする旨の説明をしたとは認められない。 これに対して、控訴人らが本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、後記3のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の1及び2並びに第3のとおりであるからこれを引用する。 3 当審における控訴人らの主張⑴ 日本手話を第一言語とする児童が日本手話で学習する権利が憲法26条1項及び13条において保障されることア児童は、第一言語で学習を受けるからこそ、学習内容を習得できるのであって、障害者としての権利や児童の権利が確立された現代社会において、 第一言語で授業を受けることができるのは当然であり、このことは憲法26条によって保障される。 イ個人にとって言語の習得は、自己の存在そのものと不可分一体のものであるから、言語は個人が人格的自立の存在として自己を主張し、そのような存在であり続けるために必要不可欠である。このような第一言語を習得 する権利は憲法13条後段で保障される。また、この権利は、国際人権B 規約27条、子どもの権利条約30条、障害者の権利に関する条約24条3項(C)でも規定されている。 ⑵ 学校設置者、校長、教員らの裁量権が限られることア控訴人らが所属していた札幌聾学校の二言語クラスは、上記のように憲法上保障された第一言語による教育を受ける権利に対応するために設置さ れ、日本手話で授業することを前提として、児童の残存聴力によって音声日本語も活用して学ぶことを可能にするためのクラスである。したがって、このような教室に在籍する生徒に対する教育について日本手話をほとんど使えない教員を配置することは、上記の第一言語で教育を受ける権 日本語も活用して学ぶことを可能にするためのクラスである。したがって、このような教室に在籍する生徒に対する教育について日本手話をほとんど使えない教員を配置することは、上記の第一言語で教育を受ける権利を侵害し、又は、札幌聾学校入学前の説明に反して、生徒、保護者の信頼を害 するから、国賠法1条1項の適用上違法となる。 イ札幌聾学校の二言語クラスが日本手話を基軸としたクラスではないとしても、日本手話を用いた授業を行い、日本手話を第一言語とする児童に対しても受け入れをしているクラスである以上、同様に違法である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、次のとおり判断する。争点⑴については、憲法26条が定める学習権の具体的な内容は法律等によって定められることになり、これを踏まえた教育関係法令によっても、日本手話で授業を受ける権利が具体的に規定されているとはいえないし、控訴人らのクラスの担任教員らを配置したこと等について札幌聾学校校長の裁量権の逸脱濫用があるともいえないこと等から、国賠 法1条1項の適用上違法があるとは認められない。争点⑵については、控訴人らのクラスの担任教員らを配置したこと等について、道教委と札幌聾学校が控訴人らとその父母に対する入学前の説明に反することを理由に国賠法1条1 項の適用上違法行為に当たるとは認められない。そうすると、争点⑶(損害)について判断するまでもなく控訴人らの請求については理由がない。 その理由は、当審における控訴人らの主張に対する判断を含め、次のとおり である。 2 認定事実認定事実については、後記⑴ないし⑹のとおり、手話の位置付け、聴覚障害者教育の歴史(手話の位置付け)、教育関係法令について、道教委及び札幌聾学校の手話活用の考え方、控訴人らの学習状況、各教 実認定事実については、後記⑴ないし⑹のとおり、手話の位置付け、聴覚障害者教育の歴史(手話の位置付け)、教育関係法令について、道教委及び札幌聾学校の手話活用の考え方、控訴人らの学習状況、各教諭の日本手話を付加する(原 審認定事実と重なる部分もある。)ほかは、原判決「事実及び理由」第4の1のとおりであるからこれを引用する。 ⑴ 手話の位置付け障害者基本法(平成25年法律第65号による改正後のもの。)3条は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人として その尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提として、全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られなければならない旨を定めている(同条3号)。 ⑵ 聴覚障害者教育の歴史(手話の位置付け)明治時代以降、聴覚障害者に対する教育が初めて行われたのは、明治11年5月に京都に開校した盲唖院においてであり、多少発音できる者には発音指導を行い、言語を全く発し得ない者には手まねと文字を用いる教育を行っていた。明治13年には東京に楽善会訓盲院が開校し、聴力の利用に努力し たが、手話と書記日本語の結び付きを主体とした手話法による教育が中心となった。その後、明治20年代、30年代には、各地に盲唖学校が設立され、手話法による教育が行われた。 大正期には、手話法に加え、発音指導と読唇指導などを並行する口話指導も積極的に行われるようになっていった。大正13年4月には、「盲学校及び 聾唖学校令」が施行され、口話法の導入が図られた。 昭和15、16年頃には 読唇指導などを並行する口話指導も積極的に行われるようになっていった。大正13年4月には、「盲学校及び 聾唖学校令」が施行され、口話法の導入が図られた。 昭和15、16年頃には、大半のろう学校が口話法を採用していた。話し言葉に絶対の価値を置き、発語習慣や読話習得の妨げとなるという理由から手話の使用が禁止された。 戦後、学校教育法により、ろう学校と小中学校の難聴特殊学級がろう教育を担うことになった。昭和30年頃になると補聴器の高性能化、小型化や、 後天性のろう児であるストマイ難聴児についての研究が進み、先天性の重度聴覚障害児の言語習得には、言語を獲得する幼い時期から、聴覚を活用して言語発達を促す教育を行う必要があるという認識が広まった。昭和37年度には、幼稚部の設置が始まり、早期教育が広まっていった。その結果、昭和40年代には、聴覚の活用と読話を併用し、音声言語によるコミュニケーシ ョンを中心とした聴覚口話法がろう学校で取り入れられた。聴覚口話法の定着につれ、ろう学校では手話や指文字ではなく、音声を中心として教育することが常識となり、手話や指文字は聴覚の活用や口話の取得の妨げとなるという考え方が一般となった。 聴覚口話法の定着に伴って、聴覚口話法ではうまくいかないろう児の教育 方法が問題となり、聴覚口話法を補うものとして、手の形と動きを使い、音声と指文字や手話を同時に用いる教育もされ、文部省は、昭和46年度から順次実施された、ろう学校小学部、中学部、高等部学習指導要領において、教育課程の中に養護、訓練を設け、個々の児童生徒の障害の状態や発達段階に即して、その障害の状態の改善、克服、社会的適応を目指した教育課程の 編成、指導計画の作成を行うことを指導した。 この後も、小学部・中学 訓練を設け、個々の児童生徒の障害の状態や発達段階に即して、その障害の状態の改善、克服、社会的適応を目指した教育課程の 編成、指導計画の作成を行うことを指導した。 この後も、小学部・中学部学習指導要領の解説では、聴能や読話能力に加え、動作的記号、サイン言語記号、あるいはキュード・スピーチ等の言語記号を活用して養成していくことなどとされた。 平成5年3月には、聴覚障害児の教育について検討していた文部省の「聴 覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者会議」で報告書 が作成され、手話について「手話そのものの捉え方には、いろいろな考えがあるところであるが、現在我が国で用いられている手話には、大別にて日本手話、話し言葉に対応して使用される国語対応手話、これら両者の中間に位置する手話があるといえる」とされ、中学部におけるグループ活動や重複障害の生徒に対するコミュニケーションについて手話を導入し、養護・訓練の 時間におけるコミュニケーション指導の一つについて、「日常の生活の中で使われている指文字や手話の情報に関すること」を挙げている。また、高等部では、「社会での成人聴覚障害者のコミュニケーション状況に応じて、手話についてもその活用を検討する必要がある」とされ、手話の社会的有用性を確認し、中・高等部段階の指導に取り入れることが可能とされている。 現在、ろう学校は、私立のろう学校が東京に一つ、その余の105校は公立学校であり、聴覚口話法による指導を行う学校が多数であり、手話を取り入れている学校においても、手話による教育ができる環境が整っていないとか、日本語にどうつなげていくのかのノウハウが確立されていないとの課題があるとされる。 (甲1〔別紙1、2〕)⑶ 教育関係法令について も、手話による教育ができる環境が整っていないとか、日本語にどうつなげていくのかのノウハウが確立されていないとの課題があるとされる。 (甲1〔別紙1、2〕)⑶ 教育関係法令について教育基本法は、障害のある者の教育につき、国及び地方公共団体が障害のある者の状態に応じて教育上必要な支援を講ずべきとして、その支援の具体化については他の法令に委ねている。(4条2号、18条) 学校教育法は、特別支援学校においては、聴覚障害者に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とするとともに、その教育課程に関する事項は、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準じて、文部科学大臣が定めるとする(72条、77条)。 これを受けて学校教育法施行規則は、これらの教育課程については、文部科 学大臣が公示する特別支援学校小学部・中学部学習指導要領によると定めている(129条)。その学習指導要領は、原判決「事実及び理由」の第4当裁判所の判断の1認定事実⑹のとおりである。 また、公立特別支援学校(聴覚障害)における指導について、特別支援学校教諭免許状(聴覚障害教育領域)の所有は推奨にとどまり、同免許状の取 得のための教員養成大学等における国所定のカリキュラムにおいても日本手話に係る技能に関する単位の取得は必要とされていない。(弁論の全趣旨)⑷ 道教委及び札幌聾学校の手話活用の考え方ア手話の活用について手話の捉え方は、理念的には独自の文法と語彙を有した手話と日本語の 語順に合わせた手話は明らかに異なって区別することができるが、実際に手話を使う言語運用の場面でいえば、手話は連続体であり て手話の捉え方は、理念的には独自の文法と語彙を有した手話と日本語の 語順に合わせた手話は明らかに異なって区別することができるが、実際に手話を使う言語運用の場面でいえば、手話は連続体であり、この間で手話は本人の手話力や聞き手の手話力によって、様々に変容し、位置付くと捉えられる。 聴覚障害のある児童は、乳幼児期からの聴覚活用や手話によるコミュニ ケーションを通じて生活言語を身に付ける一方で、学齢期以降の学習言語の習得については相応の困難が生じやすい。そのため、言語指導を行うに当たっては、子ども一人一人の障害の状態や特性及び発達の程度等に応じて、音声や手話から得た知識や概念を日本語の読み書きへとつなげていくための個に応じた指導方法の工夫に取り組むことなど、学習の基盤となる 言語概念の形成や活用に向けての意図的かつ計画的な取組が求められる。 国は、実際の指導場面における手話の活用について、コミュニケーションをする上で最も適した唯一の方法というのは存在せず、児童生徒の実態に合わせて適切な方法を選択したり、組み合わせて使ったりしていくことが教師に求められる、学校教育において手話の活用を考える場合、幼児児 童生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の程度や段階等を十分に考慮し て教育の目標が達成されるようにしなければならない、日本手話だけ、日本語対応手話だけを使って授業をするのではなく、児童生徒に何をさせたいのか、何を学ばせたいのかという指導のねらい等に応じて、日本手話や日本語対応手話を場面ごとに使い分けることが教師に求められる等としており、このような考え方を踏まえて指導のねらいに応じて適切な方法を用 い、教育の目標を達成することが必要である。 イ二言語グループについて児童の聴覚障害 とが教師に求められる等としており、このような考え方を踏まえて指導のねらいに応じて適切な方法を用 い、教育の目標を達成することが必要である。 イ二言語グループについて児童の聴覚障害の状態等に応じ、音声、文字、手話等のコミュニケーションの方法を適切に活用し、意思の相互伝達が活発に行われるように指導内容を工夫するものとして、日本手話を活用した教育を求める保護者と児 童の意向を最大限尊重しつつ、指導のねらいに応じて多様な手段を用いながら公教育を進めていく取組として、二言語グループを設けた。 札幌聾学校の二言語グループにおいては、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使うこととしており、聴覚の活用及び手話のいずれも重要であるとの教育方針で授業を実施 している。 その指導に当たっては、コミュニケーションの場面では日本手話を活用しつつ、場面に応じて指文字、手話付きスピーチ(日本語対応手話)、音声言語を活用している。ただし、特別支援学校(聴覚障害)では、児童の言語能力の育成に向け、国語科を要としつつ各教科等の特質に応じて、児童 又は生徒の言語活動を充実するとの前提があり、これは二言語グループと「聴覚口話+手話付きスピーチグループ」とで変わらない。 (乙25~29、弁論の全趣旨)⑸ 控訴人aの学習状況、c教諭の日本手話ア控訴人a母とその家族はろう者であり、日本手話で生活をしてきた。 そのため、控訴人aも、母語が日本手話であり、日本語対応手話を読み 取ることができなかった。小学部1年から札幌聾学校に在籍し、同年及び2年次の担任は、e教諭であった。同教諭は、ろう者であり日本手話を母語としていた。なお、1、2年次の二言語クラスの生徒は 取ることができなかった。小学部1年から札幌聾学校に在籍し、同年及び2年次の担任は、e教諭であった。同教諭は、ろう者であり日本手話を母語としていた。なお、1、2年次の二言語クラスの生徒は控訴人aのみであり、他の生徒2名は、口話クラスに在籍していた。 イ控訴人aの3年次の担任はc教諭であった。控訴人aは、c教諭の手話 が分からず、令和4年4月11日から登校を控えることがあった。控訴人a母は、同月以降、控訴人aの授業を参観した。算数(掛け算)の授業では、c教諭は、控訴人aに対し、日本語対応手話で「星印は書ける?」と尋ねたが、控訴人aは、「☆」が書けるにもかかわらず、c教員の手話を理解できずに、質問の意図が分からないために「書けない」と答えた。その 後、控訴人aは、c教諭がホワイトボードに「☆」を書いたことにより質問を理解することができた。また、他の授業では、c教諭は、iPadを用いて授業を行った後に、控訴人aに対してその内容についての声がけをせず、「電源を消して」と日本語対応手話で伝えたが、控訴人aがその意味をできずそのままにしていたところ、控訴人aのiPadに手を伸ばして 電源を切ってしまった。総合的な学習の時間では、c教諭は、控訴人aに対して、年度初めの活動として、学級目標、個人目標、係活動、当番活動を決めることになっており、そのうちの学級目標を定めることを日本語対応手話で説明したが、控訴人aは、これを理解できず、c教諭から、昨年の目標が何だったかを日本語対応手話で尋ねられたが、「忘れた」と答えた。 その後、c教諭は、「先生が去年担任をしていた5-6年3組は、「おともだちをおうえんしよう」だったよ。今年はどんなのにする?」と日本語対応手話で尋ねたが、控訴人aは「分からない」を繰り返した。結局、こ の後、c教諭は、「先生が去年担任をしていた5-6年3組は、「おともだちをおうえんしよう」だったよ。今年はどんなのにする?」と日本語対応手話で尋ねたが、控訴人aは「分からない」を繰り返した。結局、このように、c教諭の手話を用いた質問の意図が控訴人aに伝わらないことが多かった。 控訴人aは、令和4年5月17日から一部の授業だけに出席するように なった。同月25日に控訴人a母、同代理人弁護士、札幌聾学校のf教頭は話し合いを持ち、c教諭が一人で行う授業(国語、算数、社会、道徳)については、日本手話ができるサブの教諭が入ることとなった。もっとも、授業中のc教諭と控訴人aのコミュニケーションは改善されなかった。 控訴人aには令和4年12月に補習が行われたり、翌年1月からは授業 の一部がc教諭から変更されたりしたことがあった。 (甲75、控訴人a母)⑹ 控訴人bの学習状況、d教諭の日本手話ア控訴人b父母は聴者である。控訴人bは生まれながらの難聴であった。 控訴人bは、平成23年12月から札幌聾学校の乳幼児相談室に通い、日 本手話の指導を受けた。控訴人bは、2歳ころには、他の児童とも日本手話でコミュニケーションが取れるようになるとともに、保護者も、日本手話を覚えて控訴人bと日常生活を過ごした。 控訴人bは、平成25年12月、次年度に札幌聾学校幼稚部に入学を検討している保護者らと一緒に、日本手話と口話(日本語)の両方の言語を 取り入れた授業(バイリンガル授業)を継続するよう求める嘆願書を提出した。 控訴人bは、札幌聾学校幼稚部に入学し、バイリンガル授業を受けた。 また、幼稚部から小学部に進学する前には、札幌聾学校からコミュニケーション手段に係るアンケートがあり、日本手話クラスでの授業を希望した。 人bは、札幌聾学校幼稚部に入学し、バイリンガル授業を受けた。 また、幼稚部から小学部に進学する前には、札幌聾学校からコミュニケーション手段に係るアンケートがあり、日本手話クラスでの授業を希望した。 その後の校長との面談でも二言語による指導の継続を要望した。 控訴人bは、小学部1年次から4年次まで(クラス6人)、二言語クラスとして音声言語と日本手話を用いた二言語での指導を受けた。 イ控訴人bの5年次(クラス4人)の担任はg教諭であった。g教諭は、聴者であるが、日本手話も使うことができた。控訴人bは、g教諭の授業 について、令和3年6月頃から日本手話が減り、音声が多くなったと感じ、 学校での疲労感・疎外感を覚えるようにもなって、同年12月14日以降2学期終業式まで欠席することになり、その後も欠席を続けることになった。12月にはg教諭が長期休暇に入った。このため、札幌聾学校は、今後の指導体制について、小学部及び中学部の教員が指導に当たるとの説明をした。 ウ控訴人bの6年次の担任はd教諭であった。控訴人bは、登校していなかったが、札幌聾学校と協議を行い、ビデオ通話システムであるZoomを用いて授業を行ってみることになった。 d教諭は、Zoomでは、好きなものなどの日常会話から始めたが、控訴人bがd教諭の日本手話を読み取れないことも多く、控訴人b母に確認 することもあった。この後、控訴人bは、Zoomでの学習を提案し、教材や板書の提示等が困難であるとして一旦断られたが、その後にZoomでの授業が実現した。もっとも、小学6年生で行う授業の内容を実現することまではできなかった。 なお、d教諭は、Zoomでの社会の歴史の授業において、口話での表 現と手話での表現が相違するなどしたことがあり 。もっとも、小学6年生で行う授業の内容を実現することまではできなかった。 なお、d教諭は、Zoomでの社会の歴史の授業において、口話での表 現と手話での表現が相違するなどしたことがあり、受け手である控訴人bは、意味内容を十分に理解できなかった。 その後、控訴人bは、令和4年6月27日、登校して、3名のクラスでd教諭の国語の授業を受けたが、授業では日本手話はほとんど使われず、音声を主体としての授業と受け止めた。学校側は、控訴人bの求めに応じ て、個別指導を実施した。もっとも、控訴人bは、休み時間に手話で雑談をすることができたが、ほぼ音声による指導を受けたと受け止めた。控訴人bは、時々欠席したが、小学部の卒業まで登校した。札幌聾学校の中学部には進学しなかった。 (甲84、92~94) 3 争点⑴(c教諭及びd教諭を控訴人らの担任としたこと並びにその後の対応 は、控訴人らの憲法上の権利を侵害するものとして、国賠法1条1項の適用上違法か)について⑴ 憲法26条違反についてア憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定め、同条2項にお いて、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と定める。そして、この規定の背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、自ら学習することのできない 子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる(最高裁 利を有すること、特に、自ら学習することのできない 子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。 このとおり、憲法26条1項2項は、国民は学習をする固有の権利を有 し、特に子どもは教育を要求する権利を有するとの観念を前提として定められていると解することができる。したがって、これらの権利が侵害されたり、教育を要求する権利が実現されずに、その給付が行われていなかったりするときには、憲法26条の違反の有無が問題になる。しかしながら、憲法26条は、これらの権利については、法律の定めるところによること になるとも規定している。このことは、学習をする固有の権利や教育を要求する権利といっても、学習や教育が行われる場面というのは、人が生まれてから、発達の各段階において、その能力や程度に応じ、様々な場所や機会において検討されるべき事柄であり、その権利も侵害を受けない自由から、国から一定の給付を受けるべきものまで内容が多種多様に渡ると考 えられることを理由にすると思われる。そうすると、憲法26条1項2項 が定める学習権は、同条項を受けた教育関係法令によって具体的な権利性が定められるものであって、国賠法1条1項適用上の違法性の判断に当たっても、公務員の個々具体的な行為についてこれらの法令違反の有無が検討されるべきと解される。控訴人らが主張する児童の第一言語で授業を受ける権利についても、一般的には日本語による授業が想定されていると考 えられるが、上記の枠組みで検討するのが相当である。 イ憲法26条を踏まえて制定された教育関係 の第一言語で授業を受ける権利についても、一般的には日本語による授業が想定されていると考 えられるが、上記の枠組みで検討するのが相当である。 イ憲法26条を踏まえて制定された教育関係法令が定める諸規定、これらにおいて聴覚障害者の児童が日本手話により授業を受けることができる旨の規定が定められていないこと、したがって、このような具体的な権利があるといえないことは、原判決「事実及び理由」の第4当裁判所の判断 の2争点⑴の⑴イ(ア)から(オ)までのとおりであるから、これを引用する。 なお、控訴人らは、札幌聾学校が二言語クラスを設けることにより、控訴人らに対して日本手話で授業を受ける権利を具体的権利として保障した旨の主張をするが、札幌聾学校校長が法令と同等の権利を設定することはできないのであるから、上記主張は採用できない。 ウ以上を前提として、控訴人らの上記の日本手話による授業を受ける権利がある旨の主張について、札幌聾学校校長が控訴人らのクラスの担任教員を配置したことが国賠法1条1項の適用上違法行為に当たるかどうかを検討する。 特別支援学校において、校務をつかさどり、所属職員を監督するのは、 校長の職務である(学校教育法82条、27条、37条4項、49条、62条)(原判決「事実及び理由」の第2事案の概要の1前提事実⑶)。そうすると、校長は、在職する職員の育成・経験等の諸般の事情を総合考慮して、校内全体の人事配置の均衡等を図る観点から、教員の配置を具体的に決定することになるから、教員配置の決定についても、校長に裁量権があ ると認めるのが相当である。 そして、教育関係法令によっても、聴覚障害者の児童が日本手話による授業を受けることができると定められていないことは上記認定のとおりである。また があ ると認めるのが相当である。 そして、教育関係法令によっても、聴覚障害者の児童が日本手話による授業を受けることができると定められていないことは上記認定のとおりである。また、日本手話による授業を受ける権利が憲法上又は教育関係法令によって定められているとの見解が一般的であるともいえない。そうすると、日本手話の能力を踏まえて教員を配置するかどうかは、法令上の義 務違反として違法行為を構成するということにならない。控訴人が主張する控訴人らの第一言語で授業を受ける権利についても、同様の判断が当てはまる。 エもっとも、札幌聾学校は、聴覚障害者の児童を対象として授業を行い、クラスについても二言語クラスを設け、同クラスでは日本手話も用いて授 業を行っており、日本手話を含めた授業を想定していることから、学校が予定している授業内容を踏まえて、二言語クラスの教員の配置について、札幌聾学校校長に裁量権の逸脱濫用がないかどうかは問題になり得ると考えられる。 そこで原審認定事実及び当審における前記認定事実をもとに検討する。 国は、指導場面における手話の活用について、児童生徒の実態に合わせて適切な方法を選択し、児童の障害の状態や特性及び心身の発達の程度や段階等を十分に考慮して教育目標を達成し、指導のねらい等に応じて日本手話や日本語対応手話を使い分けることを求めるとしている。これを受け、札幌聾学校は、平成24年頃からバイリンガルろう教育を掲げ、日本手話 を活用した指導に対する取組を始めた(甲6、87の1と2)。その後、二言語グループを設け、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使うことにして、聴覚の活用と手話のいずれもが重要であるとの方針で授業を実施し、指導に当たっては、日 言語グループを設け、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使うことにして、聴覚の活用と手話のいずれもが重要であるとの方針で授業を実施し、指導に当たっては、日本手話を活用しつつ、場面に応じて指文字、手話付きスピーチ(日本語対応手 話)、音声言語を活用している。二言語クラスでは、児童が1名のときも、 数名のときもある。実際に、控訴人らの担任教員らは、二言語クラスの授業において、日本手話を活用し、そのほかに指文字、日本語対応手話、音声言語を用いて授業を行っている。控訴人らと担任教員らとの間では日本手話を含めて一定の意思疎通をすることができた。担任教員の日本手話の能力、児童の聴覚障害の状態等により、意思疎通の困難な場面があること も想定され、その場合にはこれに対する対応を取ることが考えられる。本件でも授業において日本手話による意思疎通がより必要と判断された場合には、日本手話を補助することができる教員を立ち会わせるなどの対応が取られた。他方、教員においては、日本手話の能力向上に努めることが求められるとしても、採用試験において日本手話の能力があることは必要 とされているわけでなく、特別支援学校においても、制度上日本手話の能力を身に付ける研修制度が設けられていない。日本手話による意思疎通を含めて教員と児童の間で授業を行うのが難しい事情が生じたとしても、教員の交代によって、支障がすべて解決するものでもない。むしろ、特別支援学校であっても、一般的な教員としての資質と能力が要求される上に、 同学校では、様々な、かつ程度の異なる障害の児童に対応することから、日本手話以外にも備えるべき能力が求められている。 これらによると、札幌聾学校校長は、日本手話の活用を図る二言語クラスにおいて 同学校では、様々な、かつ程度の異なる障害の児童に対応することから、日本手話以外にも備えるべき能力が求められている。 これらによると、札幌聾学校校長は、日本手話の活用を図る二言語クラスにおいて、教育関係法令の趣旨を踏まえて、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使って授業を 行い、日本手話を活用しつつ、場面に応じて日本語対応手話をも活用しているところ、控訴人らの担任として配置された教員もこれに沿って授業を行い、児童の障害の状態から日本手話による意思疎通がさらに必要と判断されたときには補助の教員を立ち会わせるなどの対応が取られたのであるから、札幌聾学校校長には二言語クラスの教員配置と児童への対応につ いて裁量権の逸脱濫用があったということはできない。上記説示によれば、 日本手話に堪能な教員が定年を迎え、その再延長による対応があり得たとしても、上記判断を左右するものではない。なお、控訴人ら(保護者らを含む。)は担任教員らの授業の方法が相当でない旨の陳述もするが、この点は日本手話による意思疎通の問題とは別の事柄であって、この点も上記認定に影響しない。 オこれに対し、控訴人らは、担任であるc教諭とd教諭が日本手話をできず、授業が成り立たなかったと主張し、同旨の陳述をする(甲75、84、94、95)。 しかしながら、二言語クラスは聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方を使い、聴覚の活用及び手話のいずれ も重要であるとの方針で授業をしているのであるし、配置された担任教員の日本手話による意思疎通に困難な場面があったとしても、これに対処する措置を講ずることによってその解消を図ることもあり得るところである。また、二言語クラスにおいて日本手話 あるし、配置された担任教員の日本手話による意思疎通に困難な場面があったとしても、これに対処する措置を講ずることによってその解消を図ることもあり得るところである。また、二言語クラスにおいて日本手話を含めて意思疎通が難しくなって授業が進まないことがあったとしても、このような状況となる理由は 様々な要因が考えられるのであって、教員の日本手話の能力が原因で授業が成り立たないと直ちに認められるものではない。学校側は、控訴人aについては担任教員以外の教員を授業に立ち合わせたり、控訴人bについては登校していない間はオンラインで授業をしたり、登校後は個別指導をしたりしたことは上記認定のとおりである。授業を録画した記録についても (甲93、94)、教員(d教諭)と控訴人bの間の意思疎通が困難な状況が見られ、授業に支障が生じたことがあったとしても、学校生活の一場面にすぎないのであって、同教諭が担任教員として配置されてからの授業全体を通して検討すべきであり、上記録画記録のみで困難な状況の原因を特定することは相当でない。このとおり授業に支障が生じた場面があったと しても、その要因は様々考えられる上に、控訴人らが日本手話の意思疎通 に困難を覚えても、これを解消することがあり得るのだから、教員の配置がそれ自体で違法になるとはいえない。したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。 なお、付け加える。重い聴覚障害を有するなどして、幼少時から主に日本手話による意思疎通をしてきた児童にとっては、学校の授業の内容を理 解するには日本語の理解が必要であり、そのためには、まずもって児童が日本手話を用い、教員からも日本手話を用いて意思伝達を受け、その指導内容を理解することが必要不可欠である。児童がいずれ日本語対応手話による意思 本語の理解が必要であり、そのためには、まずもって児童が日本手話を用い、教員からも日本手話を用いて意思伝達を受け、その指導内容を理解することが必要不可欠である。児童がいずれ日本語対応手話による意思疎通ができるようになり、これにより日本語対応手話も合わせた授業が成り立つことがあるとしても、それまでの間に健常児と同じ程度の 教育内容による授業を受ける場合、聴覚障害の程度等に応じて、児童のうち特に日本手話による意思疎通を要する者については、日本手話によって教員児童相互の意思伝達が十分にできるようにすることが大切である。控訴人らは、日本手話による意思疎通ができないために授業も分からなくなり、心的な負担も増して、札幌聾学校に通えなくなってしまった旨陳述し ているところである(上掲陳述書)。この点、歴史を通じて障害者に対する教育とその中での聴覚障害者に対する手話の位置付けには議論があり、現状でも日本手話が堪能な教員の確保が困難とされる事情があって、控訴人らと保護者は、聴覚障害を持ち日本手話を用いる児童の学習機会が十分に保障されていないのではないかとの真摯な思いを陳述していると受け止 めることができる。そうすると、上記のとおり、健常児が日本語による会話(口話)によって国語を学ぶように、少数者であったとしても、日本手話による意思疎通が必要な児童に授業を行うに当たっては、やはり日本手話による意思疎通を行うことが肝要な場合があり、しかも教員との間で意思疎通を欠くことになれば、成長発達期にある児童にとっての心身の負担 も重くなるのだから、札幌聾学校の取組には現在の制度下での制約や課題 があって、その克服に多大の苦労もあろうが、児童を教育する側の者は、障害を抱えた児童に対して適切な配慮を尽くし、学習意欲を持続させるようい 札幌聾学校の取組には現在の制度下での制約や課題 があって、その克服に多大の苦労もあろうが、児童を教育する側の者は、障害を抱えた児童に対して適切な配慮を尽くし、学習意欲を持続させるよういっそうの努力を続けることを望むものである。 カ以上によれば、c教諭及びd教諭を控訴人らの担任とし、さらに控訴人らの授業の対応に当たった札幌聾学校校長に裁量権の逸脱濫用があって違 法があるということはできない。 ⑵ 憲法13条について控訴人らは、日本手話で授業を受ける権利が憲法13条で保障されていると主張する。 しかし、個人の言語には人格やアイデンティティとの結び付きがあるとし ても、憲法は26条において教育を受ける権利として学習権を定めていると解されることは上記のとおりであり、その内容以上に具体的な権利について、憲法13条が子どもの学習権等の教育に関する権利を定めていると解することはできない。したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。 ⑶ 憲法14条について 控訴人らは、日本手話を第一言語とする聴覚障害者である児童が、口話日本語を第一言語とする健常児の児童と異なる取扱いを受けており、これは憲法14条に違反すると主張する。 しかしながら、憲法26条の教育を受ける権利と子どもの学習権、これらを踏まえた教育関係法令の定めは上記のとおりであって、日本手話による授 業を受ける権利が憲法上及び法令上具体的に定められているといえず、控訴人らには日本手話で授業を受ける権利について憲法14条の対象となる保護法益があるということはできない。また、健常児と聴覚障害児ではその聴覚能力に差があるのだから、これに応じて授業を行うことは、何ら不合理な差別ということもできない。 4 争点⑵(c教諭及 護法益があるということはできない。また、健常児と聴覚障害児ではその聴覚能力に差があるのだから、これに応じて授業を行うことは、何ら不合理な差別ということもできない。 4 争点⑵(c教諭及びd教諭を控訴人らの担任としたこと並びにその後の対応 は、札幌聾学校の控訴人らの保護者に対する入学前の説明に反するものとして、国賠法1条1項の適用上違法か。)について⑴ 控訴人らは、道教委や札幌聾学校が控訴人らの札幌聾学校入学前に、控訴人らとその保護者に対し、二言語グループでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたにもかかわらず、札幌聾学校校長はそのような説明に反して、日本 手話ができない教員を配置し、その配置を継続しており、違法行為があると主張する。 ⑵ この点、校長を含む学校関係者による児童とその保護者に対する入学前の説明については、説明といっても様々な方法と内容があるのだから、入学後の授業の説明が具体的な内容であって、そのとおりに授業をすることがほぼ 確実であると説明したのでなければ、説明の内容を約束したといえないし、児童と保護者に保護されるべき利益が生じたともいえない。また、入学前に一定の説明があったとしても、事情によっては、校長の裁量による説明内容の変更が相当な場合もあり得ると考えられる。そうすると、国賠法1 条1 項適用上の違法行為があるというには、少なくとも、入学前の説明について、 具体的な授業内容をほぼ確実に実施すると説明したことを要するものと解するのが相当である。 ⑶ そして、道教委と札幌聾学校の説明については、次項のとおり付加するほかは、違法行為の前提となるような説明があったと認められないことは、原判決の「事実及び理由」第4当裁判所の判断の3争点⑵の⑶ないし⑸のとお りである。なお、控訴 いては、次項のとおり付加するほかは、違法行為の前提となるような説明があったと認められないことは、原判決の「事実及び理由」第4当裁判所の判断の3争点⑵の⑶ないし⑸のとお りである。なお、控訴人らの担任教員として配置された教員らの日本手話の能力については上記争点⑴の判断のとおりであり、道教委と札幌聾学校の入学時の説明を踏まえても、その配置についての違法(裁量権の逸脱濫用)は認められない。 ⑷ 札幌聾学校が作成した公式ホームページには、平成28年6月頃、日本手 話クラスでは「日本手話環境を整え、日本手話を基盤として日本語の読み・ 書きの力、学ぶ力を育てます」との記載がある(原判決「事実及び理由」の第4当裁判所の判断の1認定事実(10)ア)。 このとおり、札幌聾学校は、控訴人らの入学前に、控訴人らの父母らに対し、日本手話環境を整え、日本手話を基盤とした教育を行う旨の説明をしたと認められる。 しかしながら、日本手話環境にしても、日本手話を基盤とした教育にしても、その説明内容は具体的なものではない。教員、授業内容について特定の事項を示しているものではないし、担任教員の日本手話の能力についても、その能力を測って、一定の能力がある教員を配置すると保障しているものでもない。なお、控訴人らとその担任教員らとの間では日本手話による意思疎 通が困難な場面も多くみられたものの、担任教員らは二言語クラスにおいて日本手話を活用して意思疎通を行い、これが難しいときにはほかの教員を立ち会わせるなどの対応が取られていることは上記認定のとおりである。 これらによると、札幌聾学校が上記のホームページにより説明をした上で、控訴人らの担任教員らの配置がされたとしても、札幌聾学校校長による当該 教員の配置が上記説明に反し 定のとおりである。これらによると、札幌聾学校が上記のホームページにより説明をした上で、控訴人らの担任教員らの配置がされたとしても、札幌聾学校校長による当該教員の配置が上記説明に反して違法行為に当たると認めることはできない。したがって、この点についての控訴人らの主張には理由がない。以上により、争点を検討するまでもなく、控訴人らの請求には理由がない。 第4 結論 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれらを棄却することとして主文のとおり判決する。 札幌高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官 齋藤清文 裁判官 山原佳奈 裁判官 伊藤康博

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