平成5(ワ)209 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年9月26日 那覇地方裁判所
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判決文本文19,155 文字)

平成5年(ワ)第209号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成13年7月12日判決 主文 1 被告は、原告に対し、金2333万6452円及びこれに対する平成5年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、原告に生じた費用の10分の3を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告に生じた費用を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、金3253万8007円及びこれに対する平成5年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(1) 原告は、昭和11年4月9日生まれの男性であり、最終学歴は沖縄国際大学法学部法律学科2部卒業(昭和62年3月卒)である。被告病院において、本件の手術を受けた当時53歳で、那覇地方裁判所刑事部事件係長及び庶務係長兼務の職にあり、平成6年ころ、那覇簡易裁判所書記官の職に移動した後、平成9年3月31日に60歳で定年退職した。 被告は、沖縄県中頭郡a町字bc番地に被告病院を開設し、運営している。 (2) 原告は、右肘伸展障害及び右手の環指と小指にしびれの症状が出たので、平成2年1月22日、被告病院を訪ね、整形外科外来診療室で診察及び筋電図の検査を受けた。原告が、中学2年生のころ、鉄棒から転落して右肘を骨折した経験があると医師に話したところ、右肘骨折後尺骨神経麻痺と診断され、手術が必要であると言われた。原告は、手術に同意し、被告との間に、上記疾患治療を目的とする診療契約を締結した。 原告は、検査を同年3月5日、入院を同月12日、手術を同月20日、入院期間約1か月間と指定され、同月12日、被告病院に入院した。 (3) 原告 間に、上記疾患治療を目的とする診療契約を締結した。 原告は、検査を同年3月5日、入院を同月12日、手術を同月20日、入院期間約1か月間と指定され、同月12日、被告病院に入院した。 (3) 原告は、同月20日午後1時25分ころ、手術室に入室し、右肘関節デブリードマン及び尺骨神経前方移行術を施行され(以下「本件手術」という。)、同日午後7時30分に手術は終了した。その後、原告は病室に搬送され、伸展した右腕は、ギブスで固定されて、まっすぐにつるされた姿勢で安静を指示された。 (4) 本件手術後2日目からCPM(リハビリ医療器具)によるリハビリが開始され、同年4月11日から、被告病院理学療法部におけるリハビリが開始されたが、原告は患部の疼痛や腫脹等を訴えていた。同年5月から、肘関節固定装具を装着し、同年6月から肘関節薬物療法を開始したが、右肘部の疼痛は軽減しなかった。 そこで、被告病院の医師らは、原告に対し、疼痛が続く原因を確認するために再手術が必要であるとの説明を行ったところ、原告は同年12月4日、再手術をしないまま、被告病院を退院した。 2 原告の主張(1) 診断の誤り被告病院は、原告の症状について、右肘骨折後尺骨神経麻痺、後に遅発性尺骨神経麻痺と診断したが、レントゲン写真等の検査資料に基づくと、原告の右肘には骨折の跡は見られず、この診断は誤ったものである。この診断の誤りの結果、被告病院は原告に対し、不必要な尺骨神経前方移行術を施し、後記の損害を発生させた。 (2) 不必要な橈骨頭切除橈骨頭切除後の肘関節の不安定性や、腕尺関節の圧が高まり疼痛を来たし、術後の成績が悪化することを考えれば、橈骨頭は温存すべきであり、肘不安定性の原因となる橈骨頭切除は原則として行うべきではない。しかし、被告病院は、橈骨頭に変形がなく、橈骨頭の形成を行う必 を来たし、術後の成績が悪化することを考えれば、橈骨頭は温存すべきであり、肘不安定性の原因となる橈骨頭切除は原則として行うべきではない。しかし、被告病院は、橈骨頭に変形がなく、橈骨頭の形成を行う必要がないにもかかわらず、右肘関節の橈骨頭から約3ないし4㎝くらいの箇所を切断して、その結果、右肘の術後動揺性が左右に強くなり、骨壊死、運動痛の存在、可動域の著しい制限、尺骨神経麻痺の憎悪、肘関節拘縮症を発症させた。 (3) CPM装着方法の誤りCPMは、右腕の前面(尺側手根屈筋側)に腕固定器具をあてて腕を下から支えるようにし、腕の後面(尺側手根伸筋側)を上向きにするように装着すべきものである。しかし、被告病院では、原告の右腕の前側に腕を固定する器具を装着したものの、腕の後側を上向きではなく、身体の外側に向くように(外旋するように)器具を装着してリハビリを続けさせた。この装着方法の誤りにより、原告の右腕は、尺骨橈骨部分を外旋させるような形で固定され、腕がねじれた形のまま、リハビリを行うこととなった。 被告病院は、CPMを適切に装着しなかったことにより原告の右肘化膿性関節炎を惹起し、右肘の骨を壊死させ、瘢痕組織に神経が癒着し、右肘の神経に障害を与え、右肘の可動域が制限を受け、その結果、原告は常時強い疼痛が存在するようになった。 (4) 説明義務違反原告が、本件手術前に、被告病院のA医師にどういう手術を行うのかを尋ねたところ、同医師は、右腕を肩の高さまで上げて、「こう切る。」と言いながら左手でへの字形を示しただけで、手術の内容について全く説明をせず、原告が同医師に再度説明を求めたが断られた。また、平成2年3月16日午後6時ころ、原告は、A医師から手術の承諾用紙の交付を受けたが、手術の目的、手術の内容、手術に伴う危険性について何ら説明がなかっ 原告が同医師に再度説明を求めたが断られた。また、平成2年3月16日午後6時ころ、原告は、A医師から手術の承諾用紙の交付を受けたが、手術の目的、手術の内容、手術に伴う危険性について何ら説明がなかった。 原告が、手術前に施行しようとする本件手術の内容、危険性、特に橈骨の一部の切断について説明を受けていれば、本件手術を拒否することは明らかであり、現在にいたるまで後記の後遺症、神経障害に苦しむことはなかった。 (5) 被告の責任① 債務不履行責任被告は、原告との間に診療契約を締結したのであるから、原告の前記疾患を誠実に治療する義務がある。しかし、前記のとおり、被告病院では、誤った診断をし、手術に関する十分な説明もせず、不必要な右肘橈骨切除を行い、誤ったCPMの装着をして、原告に後記の損害を生じさせたものであるから、被告は診療契約上の債務不履行に基づき損害賠償責任を負う。 ② 不法行為責任被告病院では、前記(1)ないし(4)の過失により、原告に後記の損害を生じさせたものであるから、被告病院の前記行為は不法行為を構成し、被告は原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 (6) 損害原告は平成2年10月20日から同月28日まで外泊許可を得て、同月24日、26日の2日間、B病院整形外科で診察を受け、本件手術の結果、不必要に右肘の橈骨の一部が切断され、右肘の関節が壊れ、そのため右肘の屈伸ができなくなっていること、右肘は化膿性関節炎の疑いがあることを知らされた。原告に生じた損害は次のとおりである。 ① 逸失利益 1462万8055円原告の右肘運動可能領域は健側の2分の1以下に制限されているので、上肢の3大関節中の一つである右肘関節につき、関節の機能に著しい障害を残すもの(10級)に該当する後遺障害が存在する。ただ、同後遺障害に対する治 運動可能領域は健側の2分の1以下に制限されているので、上肢の3大関節中の一つである右肘関節につき、関節の機能に著しい障害を残すもの(10級)に該当する後遺障害が存在する。ただ、同後遺障害に対する治療としては、人工関節術が最も適切な治療法として提言されており、人工関節術を受けた場合は8級に該当することを考えると、現在でも後遺障害等級については9級を相当と認めるべきであり、原告の労働能力喪失率は35%となる。 そして、後遺障害については、少なくとも原告が退職した平成9年3月31日時点で症状は固定していたと認められるところ、原告は退職後も67歳に至るまで7年間就労が可能であるから、平成9年賃金センサス、男子大学卒60ないし64歳の年間収入722万3000円を基準とし、ライプニッツ係数5.7863で計算すると、原告の逸失利益は、次のとおり、1462万8055円となる。 722万3000円×0.35×5.7863=1462万8055円② 後遺障害固定までの慰謝料 450万円原告は、被告病院による医療過誤により平成3年3月5日まで入院加療を要し、更に後遺障害固定時までB病院における入院、長期間の通院加療を要した。これを慰謝するには、450万円が相当である。 ③ 後遺障害による慰謝料 800万円原告は、再手術を要する状況にあり、かつ、再手術をしても5年後には更に手術を要する状況にある。これらの状況を踏まえると、慰謝料については後遺障害8級の人工関節が存する場合と同様の慰謝料を認めるのが相当である。 ④ 治療費 117万2512円⑤ 通院費 127万9440円④及び⑤の治療費、通院費には、平成5年3月から平成13年1月までのC整形外科における通院加療、平成4年11月から平成13年1月までのB病院における通院加療を含む。 ⑥ 弁護士費用 440円④及び⑤の治療費、通院費には、平成5年3月から平成13年1月までのC整形外科における通院加療、平成4年11月から平成13年1月までのB病院における通院加療を含む。 ⑥ 弁護士費用 295万8000円請求損害額の1割を請求する。 合計 3253万8007円(7) よって、原告は被告に対し、不法行為又は債務不履行による損害賠償として、金3253万8007円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成5年8月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 3 被告の主張(1) 原告の初診時の肘関節レントゲン写真上、原告には、関節裂隙の狭小化や関節周囲の骨棘形成、上腕骨小頭の変形など著名な変形症変化が認められた。肘関節の場合、このような高度な変形症変化が誘因なく生じることは考えにくく、一般には過去に脱臼あるいは骨折などの既往があることが多い。被告病院は、原告が診察の際に、中学2年の時に右肘を骨折したと申し立てたことから、変形症を来すような他の原因が見あたらないこともあって、右肘骨折後尺骨神経麻痺と診断したものであり、この診断は妥当である。 (2) 橈骨は、一般に橈骨頭を切除する部位として認められている輪状靱帯の近位縁のレベルで切除されており、実際に切除された橈骨頭は約1㎝である。原告の場合、術前にレントゲンにより、腕尺関節及び腕橈関節の関節裂隙の狭小化と関節周囲の骨棘形成、関節内遊離体の出現、上腕骨小頭と橈骨頭の変形が見られ、これらが肘関節の伸展障害及び肘関節の運動時痛の原因となっていると考えられたことから、尺骨神経移行術と関節運動の障害物の除去を目的とした関節デブリードマンが行われ、術中の所見は、全関節面に及ぶ関節軟骨の変性及び橈骨頭と上腕骨小頭に骨破壊が認められ、腕橈関節が肘の伸展障害の主原 ら、尺骨神経移行術と関節運動の障害物の除去を目的とした関節デブリードマンが行われ、術中の所見は、全関節面に及ぶ関節軟骨の変性及び橈骨頭と上腕骨小頭に骨破壊が認められ、腕橈関節が肘の伸展障害の主原因と考えられたので、橈骨頭の切除を施行した。 よって、肘関節の破壊や不必要な形成ではなく、本件手術に過失はない。 (3) 被告病院が、原告主張のようにCPMを誤って装着した事実はない。 (4) 被告病院は、原告に対し、手術に際して、右肘関節デブリードマンと尺骨神経前方移行術を行うことを説明し、実際に両手術を行った。被告病院は、手術内容について説明義務を尽くしている。 第3 当裁判所の判断 1 本件の経緯甲第672ないし第677号証、乙第1ないし第29、第32号証、証人D及び同FEの証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 原告は、平成2年1月22日、被告病院整形外科外来を受診した。受診当時の原告の症状は、主に右手環指と小指のしびれと右肘伸展障害であった。 検査の結果、原告の右肘関節可動域は屈曲135°と良好であったが、右肘関節の著しい伸展障害(-40°)が存在し、また右肘関節の運動痛がみられた。さらに、右骨間筋の萎縮、筋力低下、右手環指と小指の知覚低下(2点識別の結果が、正常値5㎜以下に対し、小指15㎜以上、環指12㎜)、右肘部管部放散痛著明で、X線写真では右肘関節の著しい骨棘形成、関節内遊離体の存在と第5、第6頚椎間に著明な椎間板変性が認められた。被告病院医師は、関節デブリードマン、同時に尺骨神経前方移行術を津下式アプローチで行うことを決め、原告は、同年3月12日に被告病院に入院することになった。 なお、このときの診断は、右肘骨折後尺骨神経麻痺となっているが、被告病院入院時の診断は、右肘骨折後 術を津下式アプローチで行うことを決め、原告は、同年3月12日に被告病院に入院することになった。 なお、このときの診断は、右肘骨折後尺骨神経麻痺となっているが、被告病院入院時の診断は、右肘骨折後伸展障害及び尺骨神経麻痺となっている。その後の診断書等には遅発性尺骨神経麻痺との記載になっているものもあり、同年11月20日の診断書になって、右変形性肘関節症及び右尺骨神経麻痺との診断になっている(証拠保全記録)。 (2) 原告は、同年3月12日、被告病院に入院した。入院当日の原告の状態は、右肘関節の伸展障害が-45°、骨間筋の萎縮、筋力低下はいずれも初診時より進行していた。同日、被告病院手の外科グループの医師らのミーティングでは、橈骨頭切除、関節内瘢痕組織除去、CPMを使用することが検討されている。また、被告病院の医師らは、同月15日、原告についての術前検討会を行ったが、右肘部管部での尺骨神経の障害は高度であり、右肘関節の変形症も著しいので自然回復は望めず、今後ますます悪化する可能性が高いため、右尺骨神経前方移行術が必要であること、右肘関節の遊離体の除去及び骨棘の切除並びに前方の関節包切開を行うことにより、肘関節の伸展障害を改善できる可能性があることを確認した。また、このような手術が同時に行えるアプローチの方法として津下式アプローチを採用することも併せて決定した。 被告病院の医師らは、同月19日、再度原告についての術前検討会を行い、右尺骨神経前方移行術並びに右肘関節の伸展障害及び疼痛改善のために関節内遊離体の除去及び骨棘の切除並びに前方関節包切開を行うこととし、術中の所見によっては橈骨頭の切除を行うこと、仮に肘関節の関節軟骨の変性が著しければ筋膜を関節内に挿入することとした。 (3) 同月20日、原告に対し、津下式アプローチによる尺骨神経 を行うこととし、術中の所見によっては橈骨頭の切除を行うこと、仮に肘関節の関節軟骨の変性が著しければ筋膜を関節内に挿入することとした。 (3) 同月20日、原告に対し、津下式アプローチによる尺骨神経剥離・前方移行術、肘関節デブリードマン(関節内遊離体除去術、骨棘切除術、橈骨頭切除術及び肘関節伸展のための新たな肘頭窩の形成手術)が行われた。 被告病院の医師らは、まず尺骨神経を剥離して保護した後、関節内遊離体を除去した。原告の場合、肘関節内の軟骨が広範囲に変性しており、骨棘形成も著明で、上腕骨小頭部及びこれに対する橈骨頭にも骨破壊を認めたので、橈骨頭切除及び右肘頭辺縁部の骨棘を切除し、伸展を試みたところ、-30°まで伸展可能となった。次に、尺骨と上腕骨の両関節面に段々ができていたため、その面を削って、滑らかな状態にし、更に前方関節包を約1㎝幅で切除したが、伸展制限の改善は見られなかったので、新しく肘頭窩の形成術を行った結果、伸展制限は-5°程度となった。そこで、剥離した尺骨神経を前方に移行して創を閉鎖し、肘関節を約10°屈曲位でギブスシーネを当て、手術は終了した。 (4) 被告病院の医師らは、本件手術後2日目から原告に対し、CPMによるリハビリを開始し、同年4月11日からは、被告病院理学療法部においてリハビリを開始した。その結果、肘関節の可動域の改善は認められたが、その間、原告は患部の疼痛や腫脹等を訴えていた。 被告病院の医師らは、同年5月22日に原告に対する検討会を行ったが、この時点において、屈曲が115°まで可能となり、右腕に浮腫が存してこれがしばらく継続するかもしれないが、将来的には問題ないであろうとの結論になった。さらに、同月29日に原告に対して行った2点識別の結果、右環指は術前が12㎜だったのが10㎜、小指は術前15㎜以上で れがしばらく継続するかもしれないが、将来的には問題ないであろうとの結論になった。さらに、同月29日に原告に対して行った2点識別の結果、右環指は術前が12㎜だったのが10㎜、小指は術前15㎜以上であったのが10㎜へと改善し、神経伝導速度も術前40.6m/sが46.6m/sへと回復していた。 被告病院の医師らは、原告に対し、同年5月から肘関節固定装具を装着し、6月からは肘関節薬物療法を開始した。その結果、尺骨神経麻痺症状は改善が認められたが、右肘部の疼痛は軽減しなかった。そこで、被告病院の医師らは、原告に対し、これまでの治療の経過についての説明を行い、疼痛が続く原因を確認するためには再手術が必要である旨の説明をした。しかし、原告は同年12月4日、被告病院を退院した。 2 被告による治療の適否(1) 診断名について被告病院では、前記認定のとおり、原告の症状を肘骨折後尺骨神経麻痺又は遅発性尺骨神経麻痺と診断していたものと認められる。この点について被告は、初診時から被告病院のE医師が原告の症状を右変形性肘関節症及び尺骨神経麻痺と診断していたと主張しているが、診療録及び診断書等からは被告の主張を裏付ける事実は認められない。 当裁判所が選任した鑑定人F大学医学部付属医療センター病院長教授Gによる鑑定の結果によれば、肘骨折後尺骨神経麻痺とは、骨折後間もなく、それが原因となって起こる場合をいい、遅発性尺骨神経麻痺とは、小児期の骨折が原因となって、成長するに連れて外反変形を生じて尺骨神経麻痺症状を呈するものであるが、本件では外反肘変形が認められず、骨折時から年月が経っているため、どちらの診断名も誤りであると認められる。 本件手術前の原告の肘関節X線像によれば、骨硬化像、骨肥厚、骨棘、骨縁堤及び関節裂隙狭小化といった高度変形性肘関節症の所見が見 時から年月が経っているため、どちらの診断名も誤りであると認められる。 本件手術前の原告の肘関節X線像によれば、骨硬化像、骨肥厚、骨棘、骨縁堤及び関節裂隙狭小化といった高度変形性肘関節症の所見が見られること、上腕骨小頭と上腕骨滑車間が広く窪みが異常に大きく、上腕骨小頭は遠位に突出して、上腕・橈関節は上腕・尺関節と段違いになっており、成長期の肘関節内骨折に起因するものと推測されること、健側に比べて患側尺骨に著明な短縮が既に認められ、成長期骨折時の外傷によると推察される尺骨の長軸成長障害が見られることからすると、原告の場合、成長期の右肘関節部骨折後の変形治癒に起因する関節不適合遺残を基盤として、日常生活動作における右上肢使用と加齢を通して、軟骨の変性・摩耗と共に骨縁堤・骨棘や骨増殖が生じ、徐々に変形性関節症変化が進展してきたものと考えられる。右肘関節の伸展制限も、これにより徐々に生じてきたものと推認される。また、尺骨神経が骨に接して通過する尺骨神経溝も、床部骨肥厚のため浅くなっており、尺骨神経は、骨性溝とその上を覆った靱帯性線維によるトンネル内で絞扼されていることが推察され、そのために尺骨神経の麻痺症状が生じていると考えられる。 以上の事実からすると、本件での原告に対する診断名は、「右変形性肘関節症及び右肘部管症候群(肘部の変化に起因する尺骨神経麻痺症候群)」あるいは「変形性肘関節症による右肘部管症候群」とすべきものと認められ、被告病院による前記診断名は、いずれも誤りであったといわなければならない。 ただし、被告病院においては、後述のように手術の選択は適切であったと認められるので、結果的に上記診断名の誤りが不適切な治療を招来したものとは認められない。 (2) 手術の選択の適否前記認定のとおり、被告病院は、原告に対し、右肘関節デブリー の選択は適切であったと認められるので、結果的に上記診断名の誤りが不適切な治療を招来したものとは認められない。 (2) 手術の選択の適否前記認定のとおり、被告病院は、原告に対し、右肘関節デブリードマン・尺骨神経前方移行術を選択施行しているところ、関節デブリードマンとは、関節可動域の改善を目的とし、運動を妨げている骨縁堤・骨棘や骨肥厚を削除して解剖学的に造形したり、運動を阻害する関節内遊離体を摘出する余剰骨削除手術であり、尺骨神経前方移行術とは、神経麻痺の改善を目的とし、尺骨神経の絞扼や癒着状態を開放し(神経剥離術)、反復する引張で緊張を受けやすい遠回りな神経走行を、より短いルートに移行して神経の緊張を緩めて血行改善を図り、尺骨神経麻痺が回復しやすい状態にするものである。本件手術では、この2種類の手術を1度に行い、後外側侵入法(津下式アプローチ)による肘関節デブリードマンを選択し、この侵入法で選択できる尺骨神経前方移行術として、神経剥離術と皮下前方移行術を行ったものと認められる。 そして、原告の場合、術前X線像で広範囲にわたる骨増殖が認められることから、変形性肘関節症の治療として、後外側侵入法による肘関節デブリードマンを選択したことは妥当であったと認められる(鑑定の結果)。 また、肘部管症候群の治療としては、神経剥離術に加え、尺骨神経に加わっている過度の張力を回避するために、King変法(肥厚した神経溝部を削って平滑な床面を作り出すことで尺骨神経に圧迫がかからないようにする方法)と尺骨神経前方移行術を併せ行うのが一般的であるが、外反肘を伴う場合には、King変法による骨削除で骨性の尺骨神経溝の骨肥厚を平坦にするだけでは尺骨神経の緊張を緩めることが困難であるので、神経走行のルートを短くして尺骨神経の緊張を緩めるために、尺骨神経前方移 場合には、King変法による骨削除で骨性の尺骨神経溝の骨肥厚を平坦にするだけでは尺骨神経の緊張を緩めることが困難であるので、神経走行のルートを短くして尺骨神経の緊張を緩めるために、尺骨神経前方移行術により上腕骨内上顆の前方に神経走行のルートを移動させることが多いものと認められる。 そして、本件手術のように、関節デブリードマンにおける前記の後外側侵入法の下で選択できる尺骨神経前方移行術としては、筋肉下移行術及び筋肉間移行術が操作の点で困難性が高いことから、被告病院において、神経剥離術と併せて操作が容易で簡便な皮下前方移行術を選択したことも妥当であったと認められる。ただし、皮下前方移行術では、後述するとおり、皮下の脆弱な組織縫合を行うだけであるから、その保持の上で確実性に乏しいことを注意しておかねばならない。 (3) 橈骨頭切除の適否被告病院では、肘関節デブリードマンにおいて、関節鼠の摘出から、肘頭、肘頭窩、滑車部鉤状突起、鈎突窩とそれらの辺縁の骨棘、骨堤が切除されており、肘頭と肘頭窩の不適合性の矯正操作が行われている。また、輪状靱帯の近位で橈骨頭を切除し、さらに、前方関節包処理による関節伸展性の改善が確認されている。術後のX線像でも、骨棘や肘頭窩の骨肥厚などは削除されており、術前より明瞭な関節裂隙が形成されている。 鑑定の結果によれば、変形性肘関節症に関して、橈骨頭の変形が高度で近位橈尺関節障害が強く、前腕の強い回内・回外制限が高度な場合は橈骨頭切除を行う旨記載された文献もあるが、橈骨頭が肘関節における重要な橈側の骨性支持を担っていることは事実であり、切除後の靱帯性支持のみでは、健常者の上肢使用における肘関節の不安定性を十分に代償することはできない(甲668、乙33)ことから、実際に橈骨頭を切除した報告は少なく、同部位の切除には慎 は事実であり、切除後の靱帯性支持のみでは、健常者の上肢使用における肘関節の不安定性を十分に代償することはできない(甲668、乙33)ことから、実際に橈骨頭を切除した報告は少なく、同部位の切除には慎重を要することが認められる。本件では、橈骨頭にかなり高度な骨棘形成と上腕骨小頭の形態異常が認められ、腕橈関節裂隙は狭小化して、適合性は決して良好とはいえないが、橈尺関節の関係はそれなりに保たれており、特に術前に行われている前腕の回内・回外運動計測値はどちらも90°で制限が認められないことを考慮すると、橈骨頭は切除すべきではなく、骨棘を切除する範囲の橈骨頭を解剖学的に造形するにとどめるべきであったと認められる。 被告は、橈骨頭切除の理由として、痛みの原因の除却、肘関節の不安定性が認められず橈骨頭を切除しても特に問題はないこと、関節形成をより十分に行うためには切除した方がよいことなどを主張し、被告病院のD医師は、橈骨頭切除をした理由として、「痛みの原因ではないか、拘縮を徐々に解放していくときに、段階としてまず橈骨頭を切除した方がいいだろう、関節包の切除等のときに、関節包の前には血管とか神経とか、もっと重要な臓器があるので、それを傷つけずにうまくやるためにも橈骨頭は切除しておいたほうがいいのではないか、関節遊離体等を摘出する場合に、中にもっと細かい遊離体があるかもしれないから、そういうものを摘出するためにもない方がいいだろう。」などと考えたと供述する。 しかしながら、前示のとおり、橈骨頭の骨性支持が極めて重要であるだけでなく、尺側側副靭帯が温存されたとしても骨性支持を失った状態で長期間を経過すると、日常動作における安定性が損なわれ、徐々に外反変形になっていくのが一般的な経過である(鑑定の結果)以上、顕著な運動障害の認められなかった原告の場合、痛 ても骨性支持を失った状態で長期間を経過すると、日常動作における安定性が損なわれ、徐々に外反変形になっていくのが一般的な経過である(鑑定の結果)以上、顕著な運動障害の認められなかった原告の場合、痛みの解消の可能性及び手術遂行の容易性を理由として橈骨頭の切除を行うことは、極めて慎重に検討されねばならない。しかも、骨棘の切除等により、通常、痛みの軽減がなされることや、津下式アプローチ自体が、橈骨頭を温存しつつ滑膜切除を容易に行う手法として開発されてきた(甲1650)こと、橈骨頭そのものが病巣である場合などと異なりこれを切除する必然性に乏しいことを考慮すれば、本件手術において、橈骨頭の切除は行われるべきではなく、被告の主張は採用することができない。 また、被告は、仮に橈骨頭の切除が、結果として不適当であったとしても、平成2年当時、橈骨頭切除術は一般に広く行われており、当時の医療水準に照らせば、橈骨頭切除が不相当であるとはいえないと主張し、切除法が、疼痛の軽減や可動域増大の目的で広く行われてきたとする平成5年1月発行の文献(乙33)を挙示する。 しかし、本件手術で施行された津下式アプローチ法(後外側侵入法)を開発した津下健哉教授グループによる報告文献(甲1650)によれば、同グループでは、津下式アプローチによって1985年以来橈骨頭を切除することなく手術を行ってきたと報告されており、既に昭和60年ころから、橈骨頭切除を温存できる方法として、津下式アプローチが考案されるほど、橈骨頭温存の必要性が認識されていたと認められる上、被告挙示の上記文献においても、術式として橈骨頭を解剖学的位置にできる限り温存することとされ、結論として切除には慎重であるべきと指摘されているものである。その他、平成2年当時、橈骨頭切除が一般に広く行われていたことを認める も、術式として橈骨頭を解剖学的位置にできる限り温存することとされ、結論として切除には慎重であるべきと指摘されているものである。その他、平成2年当時、橈骨頭切除が一般に広く行われていたことを認めるに足る証拠はなく、したがって、被告の主張は認められない。 (4) 尺骨神経前方移行術の適否被告病院では、前記認定のとおり、後外側侵入法(津下式アプローチ)で、尺骨神経の皮下前方移行術が行われたものであるが、皮下前方移行術は、筋肉の膨隆の表面を通して前方へ移行するため、場合によっては逆に神経の緊張を強めることもあり得るし、また、移行した神経が元の位置に戻るのを防止するため、皮下の脆弱な組織縫合を行うことから、その保持の上で若干確実性に乏しいという難点が指摘されている(鑑定の結果)。 そして、本件手術の場合も、後日、原告の尺骨神経溝にTinel兆候が現れていることからして、移行時の縫合の失敗又は皮下前方移行術において生じやすい移行神経緊張過多の結果、固定縫合がはずれて尺骨神経は元の位置に戻ってしまったものと考えられ(鑑定の結果)、尺骨神経が元の位置に戻った可能性は、被告病院の医師らも予測しているところである(D証言)。 したがって、本件で行われた尺骨神経前方移行術が、所期の目的を達成していない以上、同手術は失敗したものといわなければならない。ただし、同手術の過程で尺骨神経を変形した尺骨神経溝から剥離する神経剥離術が行われており、この操作で神経が、癒着、絞扼から開放されたことから、神経麻痺の進行阻止と回復にある程度役立ったと考えられる(鑑定の結果)。 (5) CPM装着の適否CPMは、関節外科手術後のリハビリテーションの一環であるが、肘関節デブリードマン後、旧来のようにギブス固定を行うと可動域の回復を遅らせることから、出血しやすい場合を除いて 5) CPM装着の適否CPMは、関節外科手術後のリハビリテーションの一環であるが、肘関節デブリードマン後、旧来のようにギブス固定を行うと可動域の回復を遅らせることから、出血しやすい場合を除いて、術後比較的早期から使用されているのが現状であり(鑑定の結果)、被告病院でも、本件手術後2日目から、原告に対し、CPMが装着されている。 原告は、被告病院の医師によるCPM装着ミスを主張する。 しかし、被告病院で使用されたのは、TrontoMedical社製の肘CPMであり、肩及び手関節で縦軸に装着し、過大の抵抗がかかると自動的に制動がかかる構造のものであり、多少の前腕回内・外運動も可能ではあるが、主に肘の他動的屈伸運動器であり、特に複雑な運動をさせる器具ではないので、通常、不適切な装着を行うことは起こり難いし、それによって重大な結果が発生することも想定し難いものと認められる(甲669、670、乙31の1ないし6、鑑定の結果)。したがって、原告の主張は採用することができない。 3 原告の後遺症とその原因(1) 原告の現在の症状甲第673ないし第677号証、乙第1ないし第27、第29号証及び鑑定の結果によれば、以下の事実が認められる。 原告が被告病院を退院した平成2年12月当時の原告の症状は、B病院の診断によると、持続する疼痛、肘頭部熱感及び著しい術後肘関節破壊様所見であるが、血清学的検査結果では、鋭敏な炎症指標の一つであるCRPが0.7(正常値1.0以下)であり、結局、変形性肘関節症と尺骨神経炎と診断された。その結果、B病院で肘関節デブリードマンを再度行うことになり、術中所見では肉芽形成が見られた。 右肘関節運動域は、本件手術前の平成2年3月12日で、屈曲135°、伸展-40°であり、同手術後の同年4月20日は、屈曲80°、伸展-30 ンを再度行うことになり、術中所見では肉芽形成が見られた。 右肘関節運動域は、本件手術前の平成2年3月12日で、屈曲135°、伸展-40°であり、同手術後の同年4月20日は、屈曲80°、伸展-30°といったん低下した後、同年5月2日から屈曲110°になっている。同年12月5日のB病院入院時には、屈曲60°、伸展0°と可動域は60°の範囲であり、本件手術前より35°減少している。B病院で再度肘関節デブリードマンを受けてからは、退院時屈曲85°、伸展-60°であったが、それ以降平成10年の終わりころまで、屈曲40ないし55°、伸展-15ないし20°と可動域は一段と狭くなっている。したがって、本件手術後、伸展はやや改善したが、屈曲の減少が著しく、そのため運動域も被告病院退院時で35°の減少があり、明らかに右肘関節の動きは悪化したといえる。 握力については、被告病院入院時の平成2年3月12日計測で、右13㎏、左20㎏であり、平成3年5月27日には、右11㎏、左34㎏、平成4年11月26日では右9㎏、左38.5㎏となり、右の握力は左の約 1/3とほとんど回復していない。 神経伝導速度に関しては、肘中枢でMCV(motorconductionvelocity、運動神経刺激伝導速度)が、本件手術前において40.6m/s (左側62.5m/s)と低下していたが、入院中の平成2年5月29日には、46.6m/s、同年6月27日には50.0m/s、同年11月19日には48.1m/s(左側54.0m/s)と回復している。さらに、平成6年1月10日の測定では50.8m/s(左側57.9m/s)となり、ほとんど正常域に近い範囲にまで回復を示している。しかし、知覚神経に関するSCV(sensoryconductionvelocity、知覚神経伝導速度)に .8m/s(左側57.9m/s)となり、ほとんど正常域に近い範囲にまで回復を示している。しかし、知覚神経に関するSCV(sensoryconductionvelocity、知覚神経伝導速度)については、確かな経時的測定がされていないので、判断が困難である。 (2) 後遺症及びその原因上記認定のように、原告の症状は、神経伝達速度が回復しているものの、右肘関節の運動制限は手術の前後でかえって悪化しており、疼痛もひどく、右前腕と手内筋の萎縮や右手の筋力も回復していない状態にあり、原告には、以下のとおり、右肘関節拘縮、右尺骨神経麻痺及び外傷性関節炎症状の後遺症があるものと認められる(鑑定の結果)。 すなわち、まず前記2(3)認定のとおり、肘関節デブリードマンにおいて橈骨頭を切除したために肘関節が不安定となり(前記のとおり、尺側側副靱帯が温存されたとしても、原告のように橈骨切除によって骨性支持を失った状態にあると、長期間の経過で日常動作における安定性が損なわれ、徐々に外反変形になっていくのが一般的な経過である。しかも、B病院で後日行われている同関節デブリードマンの術中所見では、尺側側副靱帯は消失していたと記載されている。)、右肘関節に不安定性を残した状態で術後リハビリテーションのための過度な運動を繰り返すこととなったが、痛みのために急に関節に外固定をしたり(原告が痛みに耐えかね、しばしばCPMを外しており、午前2時間、午後2時間、夜2時間のCPMの作動が精一杯であったこと、平成2年3月22日午後11時ころ、原告が痛みに耐えられず、当直の医師にCPMを外してもらい、包帯の上に更に厚く包帯を巻いて固定したことも認められる〔甲671、乙25、D証言及び原告本人〕。)、急にあせって無理な可動域訓練をしたりの繰返しのために、比較的強い外傷性関節炎 PMを外してもらい、包帯の上に更に厚く包帯を巻いて固定したことも認められる〔甲671、乙25、D証言及び原告本人〕。)、急にあせって無理な可動域訓練をしたりの繰返しのために、比較的強い外傷性関節炎が持続していたものと想定される。その結果、変形性肘関節症及び外傷性関節炎による疼痛性運動制限に引き続いて、関節周囲組織の拘縮による運動制限(関節拘縮)が生じたものと考えられる。 また、神経伝達速度が回復したのは、肘関節デブリードマン及び尺骨神経前方移行術に伴う神経剥離術が効果的であったからと考えられるが、その他の右前腕と手内筋の萎縮の回復や右手の筋力の回復が見られないのは、尺骨神経前方移行術の失敗によるものと考えられる。 これらの点について被告は、退院時の平成2年11月16日ころのレントゲン写真(乙21)で、原告の肘に骨破壊、骨棘の変形等が生じていることは認めているものの(D証言)、橈骨頭切除で不安定性は生じておらず、このような短期間で尺側側副靱帯が消失することはありえず、被告病院の手術に問題はないと主張する。 しかし、血清学的検査結果では、CRPが正常値であり、細菌性関節炎が生じたことを示す証拠はなく、被告の主張自体も、このような短期間で原告の肘が破壊された原因は全く不明とするのみであって、他の合理的な理由を開示するものではないから、上記の認定判断を覆すに足りるものとは到底認められない。 4 説明義務違反の有無甲第671号証、乙第25号証、証人D及び同Eの証言並びに原告本人尋問の結果によれば、被告病院の医師らは、原告に対し、初診時に、尺骨神経がかなり悪化しているので手術の必要がある旨を説明し、平成2年3月15日には、術前検討会の内容として、橈骨頭部分に、非常に強い圧痛があり、その変形がかなり顕著で上腕骨にも硬化像が出ていたことなどから かなり悪化しているので手術の必要がある旨を説明し、平成2年3月15日には、術前検討会の内容として、橈骨頭部分に、非常に強い圧痛があり、その変形がかなり顕著で上腕骨にも硬化像が出ていたことなどから、関節を開けた所見によっては橈骨頭を切除する必要が出ることも説明し、さらに、同月19日にも術前検討会の内容を原告に説明した上、D医師により、夕方の回診の際にも再び同様の説明がされているものと認められる。 上記の認定事実によれば、被告病院の医師らにより、手術の内容について一応の説明が行われたものといえる。もっとも、E医師の証言では、「第1回検討会のときには、神経が圧迫されているからこれを前方に移すとか、骨棘があるのできれいにするとか、その程度の話しかしていないので、数分も話していない、第2回目の検討会のときには、説明はしたものの1分くらいのもので、原告が100%理解しているとは思えなかった。」と供述しており、他方、原告本人尋問においても、2度にわたる検討会の際に、カンファレンス室に呼ばれたことは認めているが、「カンファレンス室に入っても説明もなく、医師同士が検討しているみたいだった、何も言われず、ただ座って4,5分した後に帰ってよいと言われた。」と供述しているから、このような説明の態様からすると、患者に対する手術内容の説明としては簡略にすぎるところがあったことが窺われる。しかし、大学卒業の学歴を有し、当時裁判所書記官の職にあった原告が、手術の内容について全く何も知らされないまま手術を受けるとは考え難く、手術内容については、前記のとおり一応の説明はなされたものと推認するのが相当である。 原告は、橈骨頭切除について、不安定性が生じると知っていれば手術は受けなかったと主張する。確かに橈骨頭を切除した場合に肘関節が不安定になることは前記のとおりであ れたものと推認するのが相当である。 原告は、橈骨頭切除について、不安定性が生じると知っていれば手術は受けなかったと主張する。確かに橈骨頭を切除した場合に肘関節が不安定になることは前記のとおりであり、原告の後遺症もこれを原因の一つとしていることからすれば、後遺症に苦しむ原告が、橈骨頭切除の危険性についての説明の不足を非難する心情も理解できる。しかし、前記認定のとおり、本件手術前の時点では、被告病院の医師らとしても橈骨頭を切除するか否かは確定していなかった上、橈骨頭を切除したことによる前記後遺症の発生は、術後の措置によるところも大きいと認められるから、手術内容について一応の説明がなされている以上、手術前の段階で、更に将来の後遺症の発生を見越して、橈骨頭切除の危険性について予め説明しておくべき義務があったとはいうことはできない(ただし、このことと、橈骨頭切除を行ったこと自体の注意義務違反及び後遺症発生との因果関係の有無とは別問題である。)。 5 被告の責任前記2認定のとおり、被告病院の治療は、尺骨神経前方移行術を失敗した点及び切除の必要のない橈骨頭部を切除した点において、注意義務違反があると認められる。そして、前記3認定のとおり、橈骨頭を切除したために肘が不安定になり、外傷性関節炎が生じ、その結果、右肘関節拘縮の後遺症が残ったと認められ、また、尺骨神経前方移行術の失敗により、右尺骨神経麻痺の症状も残存していると考えられるから、原告の後遺症と被告病院の治療には因果関係が認められる。 したがって、被告には、不必要な橈骨頭切除によって、原告に外傷性関節炎の原因となり得る肘関節の不安定性を生じさせた点及び目的とする前方移行術を失敗した点について、過失が認められ、債務不履行及び不法行為に基づき、原告に後記の損害を賠償すべき責任が認められる。 節炎の原因となり得る肘関節の不安定性を生じさせた点及び目的とする前方移行術を失敗した点について、過失が認められ、債務不履行及び不法行為に基づき、原告に後記の損害を賠償すべき責任が認められる。 6 損害(1) 症状固定原告は、被告病院退院後、B病院に平成2年12月5日から入院して、同月18日に関節形成術を受け、平成3年3月5日に退院している(甲677)。B病院退院時には、右肘の屈曲85°、伸展0°であったが、平成7年11月8日には屈曲55°、伸展20°、平成8年3月6日には屈曲58°、伸展18°、平成11年2月3日には屈曲55°、伸展22°とさほど変わっていないこと、平成7年11月8日の診断書で再手術予定となり(甲1619)、平成11年1月14日に再手術が予定されるまで話が進んだが(甲1624)、同年2月3日には、手術をせず経過観察中となり(甲1625)、その後、現在まで経過観察中の状態が続いている(甲1628)ことからすると、B病院では、これ以上加療しても症状が好転しないため再手術が予定されたと推認されるので、遅くとも平成7年11月8日には、原告の症状は固定していたと認められる。 (2) 後遺症による逸失利益 1128万4500円原告は、本件手術後も裁判所書記官として平成9年3月に60歳で定年退職するまで勤務し、給与を受け取っていたものであって、在職中は前記後遺症により利益を逸失したとは認められない。したがって、退職後の就労可能期間についてのみ、後遺症による逸失利益を認めれば足りるものである。 原告の右肘運動可能領域は、健側の2分の1以下に制限されているので、上肢の3大関節中の一つである右肘関節につき、関節の機能に著しい障害を残すもの(第10級10号)に該当する後遺障害が存在する。 原告は、人工関節術を受けた場合は8級に該当 以下に制限されているので、上肢の3大関節中の一つである右肘関節につき、関節の機能に著しい障害を残すもの(第10級10号)に該当する後遺障害が存在する。 原告は、人工関節術を受けた場合は8級に該当することを考えると、現在でも後遺障害等級については9級を相当と認めるべきであると主張するが、実際に平成9年3月まで書記官として大過なく勤務していた事実にかんがみれば、上記のとおり後遺障害は10級が相当と認められる。 就労可能期間定年退職後7年間基礎収入平成9年賃金センサス産業計、男性労働者学歴計、年齢別平均賃金額(大卒)722万3000円を相当と認める。 ライプニッツ係数 5.7863後遺症(第10級10号)による労働能力喪失率 27%これに基づき計算すると、722万3000円×0.27×5.7863=1128万4500円となる。 (3) 後遺症慰謝料(第10級10号) 510万円(4) 傷害慰謝料 250万円原告は、平成2年3月12日から同年12月4日まで被告病院に入院し(乙25)、同月5日から平成3年3月5日までB病院に入院し(甲676)、退院後は年1、2回通院している。また、平成3年9月7日からC整形外科に現在まで通院し続けている。これらの事実を総合的に考慮して、傷害慰謝料は250万円を相当と認める。 (5) 治療費 117万2512円通院費 127万9440円被告病院における治療費及び通院費のほか、平成3年9月7日から平成13年1月末までのC整形外科における通院費及び治療費、平成2年12月5日から平成13年1月末までのB病院における入院通院費及び治療費を含む(甲1ないし665、678ないし1613、1629ないし1639)。 なお、症状固定後の治療費については、前記のとおり、原告の症状固定後も、再手術を視野に のB病院における入院通院費及び治療費を含む(甲1ないし665、678ないし1613、1629ないし1639)。 なお、症状固定後の治療費については、前記のとおり、原告の症状固定後も、再手術を視野に入れて経過が観察されており、一時期は実際に手術日まで決まっていたが、その後再び経過観察をすることに至ったものであり、診断書にも治療上右上肢の使用は避けることが望ましいと記載されている(甲1614ないし1628)ことなどからすると、症状の悪化を防ぎ、少しでも改善の余地を模索しての治療のための費用であると認められるから、損害として認めるのが相当である。 (6) 弁護士費用 200万円原告が訴訟を提起せざるを得なかった事情及び訴訟進行等にかんがみ、200万円を被告に負担させるのを相当と認める。 よって、損害額の合計は、2333万6452円となる。 7 結論以上のとおりであるから、原告の請求を一部認め、その余の請求を棄却することとし、担保を条件とする仮執行免脱宣言は相当でないので付さないこととして、主文のとおり判決する。 那覇地方裁判所民事第1部裁判長裁判官清水節裁判官高松宏之裁判官瀬戸さやか

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