令和2年11月17日宣告広島高等裁判所令和2年(う)第93号覚せい剤取締法違反被告事件原審広島地方裁判所平成30年(わ)第347号 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 控訴趣意本件控訴の趣意は,主任弁護人定者空ほか作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官澤田潤作成の答弁書に,これに対する反論は,主任弁護人定者空ほか作成の答弁書に対する反論書に,それぞれ記載されたとおりであるからこれらを引用する。 本件は,覚醒剤の自己使用2件(原判示第1,第2)及び覚醒剤の所持1件(同第3)からなる事案である。 論旨は,原判示第1の覚醒剤使用の認定に供された鑑定嘱託書謄本,鑑定書について,職務質問から強制採尿令状に基づく尿の差押に至るまでの警察官の一連の行為は,被告人に対する実質的逮捕及び違法な留め置きに当たり,その間の有形力の行使等にも違法な点があるから,違法収集証拠として証拠能力を否定されるべきものであり,また,原判示第2の覚醒剤使用の認定に供された鑑定嘱託書謄本,鑑定書及び原判示第3の覚醒剤所持の認定に供された鑑定嘱託書謄本,鑑定書は,前記鑑定嘱託書謄本,鑑定書などにより請求された原判示第1の覚醒剤使用を被疑事実とする逮捕状に基づく逮捕の結果得られたものであって,前記違法収集証拠と密接な関連性を有するものとして証拠能力を否定されるべきものであるから,これらの証拠(以下,これらをまとめて「本件各証拠」という。)の証拠能力を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるという趣旨のものである。 第2 原審の判断等 1 本件捜査経緯等について原審の令和2年4月10日 能力を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるという趣旨のものである。 第2 原審の判断等 1 本件捜査経緯等について原審の令和2年4月10日付証拠決定(以下「本件証拠決定」という。)及び原判決の(証拠能力に関する補足説明)の項で説示する概要は,次のとおりである(以下,若干,記録に基づき補足しつつ説示する。)。 ⑴ 被告人は,平成27年9月当時,広島市内のアパート(以下「本件アパート」という。)□□□号室に居住していた。なお,被告人は,肺結核,脳梗塞,脳出血の既往歴を有し,本件頃は,高血圧,肺気腫,脳梗塞について,投薬治療を受けるとともに,酸素吸入器を自室に置き,必要に応じて使用していた(以下,平成27年9月の日時については,年月の記載を省略する。)。 ⑵ 10日夜,A警部補,B巡査部長及びC巡査部長の3人は,かねてから暴力団組織による規制薬物の密売場所として把握していた本件アパートに被告人が入っていくのを見かけ,被告人の薬物使用前科を把握していたことや,自転車の漕ぎ方に規制薬物常用者の特徴がみられたことなどから被告人に覚醒剤使用の嫌疑を抱き,10日午後11時36分頃,本件アパート敷地内において職務質問を開始した。 ⑶ 職務質問を開始した際,被告人は,目が充血し,目の下にくまがあり,頬はこけていた。A警部補らは,こうした被告人の様子から薬物使用の嫌疑を深め,説得により同意を得て所持品検査を行ったが薬物や禁制品は見つからず,腕部注射痕を確認したものの古いものしか見つからなかった。A警部補は,更に尿検査を行う必要があると考え,被告人に尿の任意提出を求めた。被告人は,「札を持って来たら出す。」などと言ってこれを拒み,A警部補らを押しのけるようにして駐輪場から階段へ移動し,2階に向か は,更に尿検査を行う必要があると考え,被告人に尿の任意提出を求めた。被告人は,「札を持って来たら出す。」などと言ってこれを拒み,A警部補らを押しのけるようにして駐輪場から階段へ移動し,2階に向かって階段を昇り始めた。そこで,B巡査部長が追いかけ,「待ってください。」と言って被告人の背後から肩に右手をかけて制止したところ,被告人は,その場で階段の下方向を向いて座り込んだ。A警部補は,被告人に対して尿の任意提出に応じるように説得を続ける一方,強制採尿の可能性なども想定して応援要請をした。A警部補が応援要請のためにその場を離れた際,被告人 が立ち上がってC巡査部長の体を押しのけて階段を昇り始めたため,B巡査部長が前記同様に被告人の肩に右手をかけて制止したところ,被告人は再びその場に座り込んだ。A警部補は,被告人に尿の任意提出を促したが,被告人が応じる様子を見せなかったため,広島東警察署に連絡して強制採尿令状の請求準備を依頼した(時刻は記録上,不明である。)。 ⑷ 被告人は,尿の任意提出の説得の最中に体調不良を訴え始め,警察官らは,当初,これがその場を切り抜けるための口実に過ぎないなどと考えていたが,その後,被告人の体調が本当に悪いのではないかと考え,被告人に対して救急車を呼んだ方がよいか尋ねた。 当初,被告人は,不要である旨答えていたが,何度も説得されるうち,「呼んでくれ。」と答えたので,警察官が11日午前0時5分頃に119番通報し,同日午前0時10分頃,救急車が到着した。この頃,A警部補とB巡査部長は,強制採尿令状請求のための捜査報告書を作成するため,本件アパートを離れて広島東警察署へ向かった。 ⑸ 救急隊員Dが,別の隊員とともに血圧などのバイタルチェックや問診を行うなどした際には,被告人は「病院へ行きたい。」と述べ,ぐ 告書を作成するため,本件アパートを離れて広島東警察署へ向かった。 ⑸ 救急隊員Dが,別の隊員とともに血圧などのバイタルチェックや問診を行うなどした際には,被告人は「病院へ行きたい。」と述べ,ぐったりしてしんどそうな様子であった。救急隊員Dは,被告人が既往症として肺気腫,胃がん,脳出血を述べたほか,後頭部に鈍い痛みがあって,呼吸が苦しくて吐き気がする旨体調不良を訴えたことから,脳血管障害の疑いがあり,被告人から「病院へ行きたい。」との訴えもあることから,搬送の必要があると考えた。そこで,E巡査部長や救急隊員Dらが被告人に救急車に乗るように促したが,被告人は,「しんどい。」,「病院へ行く。」などと言いつつも,「警察官が周りにいたら救急車には乗りたくない。」などと言って拒み,E巡査部長と被告人との間で救急車に乗るか否かをめぐって20分から30分程度のやり取りが続いた。なお,E巡査部長は,このやり取りに先立ち,座りながらふらついていた被告人の左上腕を右手で1回つかんだほか,救急車に乗るよう促すために被告人の左前腕を右手で引き寄せるようにしたところ被告 人が痛がったので手を放した。 ⑹ 11日午前0時51分頃,E巡査部長ら4名の警察官は,被告人が手すりを強くつかんでいたため,その指を一本ずつ引きはがし,それぞれ被告人の両脇と両太腿を持って階段から降ろし,救急隊員が階段の横に用意したストレッチャーに乗せた(この搬送は,救急隊員の依頼によるものではない)。被告人は,階段から降ろされてストレッチャーに乗せられるまでの数十秒間,大声を上げたり,体を左右に揺さぶったりして抵抗していた。救急隊員Dらは,病院に搬送することについて被告人に意思確認したところ,被告人が了承したので,被告人が乗っているストレッチャーを救急車内に搬入した。 ⑺ F を左右に揺さぶったりして抵抗していた。救急隊員Dらは,病院に搬送することについて被告人に意思確認したところ,被告人が了承したので,被告人が乗っているストレッチャーを救急車内に搬入した。 ⑺ F巡査部長は,救急隊員に同乗の要否を尋ね,必要との回答を受けて救急車後部に乗り込み,被告人が所持していた携帯電話機の背面ライトが光ったのを見て,「機器に悪影響が出るかもしれない。」と言って電源ボタンを押して通信を切った。 その後,被告人は,救急隊員に,「電話をかけてもよいか。」と尋ね,「後にしましょう。治療を優先しましょう。」と言われて断念した。F巡査部長に代わって救急車に乗車したG巡査長は,被告人が再度,携帯電話機でいずれかに電話をかけ始めたのを見て,医療機器に影響を及ぼす可能性を危惧し,被告人に対して携帯電話機を救急隊員に渡すように指示し,被告人は,これに従い,救急隊員は,電話の相手に対して被告人の症状や搬送先病院を伝えた。被告人を乗せた救急車は,11日午前1時36分頃,●●病院(以下「本件病院」という。)に到着した。 ⑻ 11日午前1時39分頃,本件病院の処置室(ベッド約10台の大部屋)において,被告人の治療が開始され,被告人は,点滴治療を受けるなどした。その治療中,合計6名程度の警察官が本件病院に滞在していたが,G巡査長は,被告人の治療開始から強制採尿令状の提示に至るまで本件病院に滞在し,被告人のいる処置室の隅(被告人の病床から四,五メートル程度離れた場所)に着座して待機するなどしていた。処置室には,G巡査長のほか3名の警察官が入ることもあったが,被告人の使用するベッドを取り囲むようなことはなく,治療中,被告人が本件病院か らの退去を希望するようなことはなかった。また,被告人は,来訪した内妻や知人男性と職務質問の状況等について ,被告人の使用するベッドを取り囲むようなことはなく,治療中,被告人が本件病院か らの退去を希望するようなことはなかった。また,被告人は,来訪した内妻や知人男性と職務質問の状況等について会話していたが,警察官は特にこれを制止しなかった。 ⑼ 11日午前4時3分頃,H巡査部長は,医師に治療終了を確認した上で,強制採尿令状を被告人に提示したところ,被告人が自ら尿を出して提出したので,これを差し押さえた。 2 原判決の証拠能力についての判断前記経過を前提に,原判決は,警察官が救急搬送を被告人の身柄確保のため利用したと評価する余地はなく,被告人の身柄の留め置きは,最長で職務質問の開始から救急搬送までの約75分間であり,その間の警察官の有形力の行使に違法な点はないなどとして,本件各証拠について違法収集証拠を問題とする余地はないとの判断を示した。 なお,原審の証拠決定の理由中,本件捜査の経過の説示について,被告人が大量の汗をかいていたとする点や,被告人のろれつが回らない状態にあったとする点,被告人がストレッチャーに乗せられる際に抵抗していないとする点は,救急搬送に際して被告人の状態等に接した救急隊員Dの証言内容と対比してにわかには是認しがたい部分はある。しかし,前記に引用した限度において,原審の証拠決定及び判決中の事実認定に,論理則,経験則等に照らして不合理な点はない。 また,本件警察官らの一連の行為の中には,後記のとおり,違法と評価する余地のあるものも含まれてはいるが,いずれも重大な違法とはいえず,強制採尿令状に基づく尿の差押処分との間に密接な関連性もないから,結論において違法収集証拠の主張を排斥した原判決の判断に誤りはない。 第3 所論の検討所論は,本件における警察官の一連の行為が被告人の身体の自由を著しく侵害す 分との間に密接な関連性もないから,結論において違法収集証拠の主張を排斥した原判決の判断に誤りはない。 第3 所論の検討所論は,本件における警察官の一連の行為が被告人の身体の自由を著しく侵害するものであり,実質的逮捕又は違法な留め置きに当たると主張し,その根拠として,①被告人の留め置きの時間が4時間27分と長時間に及ぶこと,②警察官らが,管 理者の許可なく本件アパートの敷地内に立ち入り,長時間にわたって留まったこと,③警察官らが被告人に対し薬を飲むことを制限したこと,④警察官らが職務質問中に何度も有形力を行使したこと,⑤警察官らが,被告人に対し救急車内で携帯電話機で通話することを制限したことなどの事情を主張する。 1 留め置きが4時間27分間に及ぶとの点について確かに,本件では,午後11時36分頃の職務質問の開始から翌日午前4時3分頃の強制採尿令状の提示に至るまでに約4時間27分の時間を要している。しかし,このうち,救急車により搬送された午前0時51分頃から本件病院での強制採尿令状の提示までの間,被告人は救急搬送に同意し,本件病院から退去する意思を示したこともないのであるから,本件アパートの敷地内で職務質問等に費やされた約75分間(そのうちの二,三十分間は,前記のとおり救急隊到着後に救急搬送に応じるよう被告人の説得等に要した時間である。)を除いた救急搬送以降の3時間10分余りの時間経過について警察官の留め置き行為が問題となる余地はなく,不当に長時間被告人を留め置いたとの所論は失当である。 なお,本件病院では被告人のいた処置室に1名以上の警察官が常時滞在していたが,被告人は,内妻や知人との面会も自由に行える状況にあり,警察官により行動が制約されていたものではなく,他方,当時,捜査機関は既に強制採尿令状の請求手続に 置室に1名以上の警察官が常時滞在していたが,被告人は,内妻や知人との面会も自由に行える状況にあり,警察官により行動が制約されていたものではなく,他方,当時,捜査機関は既に強制採尿令状の請求手続に入っており,被告人の所在を把握しておく必要性があったことなどからすると,本件病院内での警察官による被告人の動静の把握は任意捜査として許容できるものである。 また,救急搬送に先立つ前記職務質問についてみても,後記のとおり被告人に対する一定の嫌疑に基づく適法な行為であって,その際に停止等のためにとられた有形力の行使も任意処分として許容できる程度のものであって,同所での留め置きにも違法な点はない。 2 警察官らが,管理者の許可なく本件アパートの敷地内に立ち入り,長時間にわたって留まったとの点について 本件アパートの敷地は,門扉等の設置はなく,自由な出入りが可能な状態にあったところ,職務質問は,道路から入ってすぐの駐輪場で開始され,被告人の移動に伴い本件アパートの建物部分にまで及んだが,その範囲は共用部分である外階段にとどまったこと,被告人の覚醒剤使用の嫌疑には相当高度のものがあり,職務質問の継続には相応の必要性があったことなどからすると,警察官の本件アパート敷地内に立ち入っての職務質問は,任意処分として許容される範囲にあり,正当な業務行為といえる。 3 警察官らが被告人に対し薬を飲むことを制限したとの点について関係証拠によれば,救急隊の到着後,被告人が「自室に薬を取りに行きたい。」と述べ,その言を受けて,救急隊員Dも,病院に行くのにお薬手帳や薬の現物が必要だと思い,被告人に薬を取りに行くように告げたが,警察官らは,「救急車に乗って病院で診てもらった方がよい。」などと説得し,結局,被告人はこれに納得した様子を見せたことが認められる 帳や薬の現物が必要だと思い,被告人に薬を取りに行くように告げたが,警察官らは,「救急車に乗って病院で診てもらった方がよい。」などと説得し,結局,被告人はこれに納得した様子を見せたことが認められる。警察官らの説得の目的は,主として罪証隠滅行為の防止にあったものと考えられるが,有形力を行使することなく口頭での説得にとどまっている以上,警察官らの措置は,当時の状況下では,任意処分として許容されるというべきである。 4 警察官らが職務質問中に何度も有形力を行使したとの点について⑴ 所論が指摘する有形力行使のうち,B巡査部長の,被告人の肩に2回手をかけた行為,E巡査部長が被告人の左腕をつかんだ行為については,いずれも,職務質問実施の上で必要かつ相当な実力行使として,任意処分として許容される限度内の行為といえる。この点に関する本件証拠決定の説示は,これと同旨と解され,その判断に誤りはない。 ⑵ 次に,所論が指摘する,警察官が,階段の手すりを掴んでいる被告人の指を一本一本剥がした上,警察官4人で被告人の両手両足を持ち上げ,被告人を宙に浮かした状態でストレッチャーまで運んだ措置(以下「本件搬送措置」という。)について検討する。 本件搬送措置における有形力行使自体は,相当強度のものであったことは否めない。 しかしながら,本件の経緯を見ると,職務質問中に被告人が自ら体調不良を訴え,その様子を案じた警察官らの説得により被告人の同意を得た上で警察官らが救急車を呼び,現場に到着した救急隊員も被告人の意向を受けて搬送の必要性を認めていた中で,被告人が,警察官らが現場から立ち去らなければ搬送に応じないという趣旨の条件を付けて救急車に乗ることを拒否するに至ったものである。そして,被告人のこのような言動を受けて警察官らは,救急隊員らが本件アパート が,警察官らが現場から立ち去らなければ搬送に応じないという趣旨の条件を付けて救急車に乗ることを拒否するに至ったものである。そして,被告人のこのような言動を受けて警察官らは,救急隊員らが本件アパートの外階段の下にストレッチャーを準備して搬送に備えて待機している状況で,二,三十分間にわたり,救急車に乗るように説得を続けていたところ,被告人自身公判廷で認めるように時間の経過とともに体調が悪化し,その様子を見た警察官らが最終的に前記の有形力の行使に踏み切る決断をしたものと認められる。こうした経緯に照らせば,警察官らの行為は,任意捜査として行われていた職務質問の最中での突発的な対象者の体調不良に対応してのものであり,個人の生命,身体の安全を護るという警察の責務(警察法2条)を果たす目的の下に行われたものと評価でき,身柄確保等の目的でされたものでないことは明らかである。この点に関し,原審において弁護人は,警察官職務執行法3条1項2号には,病者の保護につき,本人がこれを拒んだ場合はできない旨の規定があるとして,本件の有形力の行使は保護手続の要件を具備しない違法な措置であると主張する。しかし,警察官らの措置は,被告人自身が希望していた救急搬送の実現に向けて行われたものであり,警察官が主体となる保護手続そのものではなく,救急隊の搬送業務への協力の意図で行われたものとみるのが相当である。一方,被告人は,警察官によりストレッチャーまで運ばれた直後,救急隊員の意思確認に対し,救急搬送に応じる意思を改めて示していたことが認められ,この救急搬送自体は被告人の真意に反するものではなかったことが明らかである。警察官らは,救急車に乗ろうとしない被告人を放置した場合における病状の悪化等の不測の事態を想定し,説得という手段を講じた後に,体調悪化が進んでい く被 ものではなかったことが明らかである。警察官らは,救急車に乗ろうとしない被告人を放置した場合における病状の悪化等の不測の事態を想定し,説得という手段を講じた後に,体調悪化が進んでい く被告人の状態にかんがみ,救急搬送のため,転落等の危険を伴う階段という現場の状況に応じて必要な限りでの有形力の行使を行ったものとも評価できるところであり,その措置は,警察の責務(警察法2条)に反するものではないという見方も成り立つと考えられる。 仮に,本件搬送措置が,その態様,強度等から有形力の行使の限度を超えており,警察官の職務行為として許容できる範囲にはなく違法であると評価すべきものであるとしても,当時の被告人が示していた意思は,「警察官が立ち去らなければ救急車には乗りたくない。」という趣旨の不合理なものであった上,その事前及び事後において病院への救急搬送自体には一貫して同意していたという状況を踏まえると,その違法の程度は,さほど大きいとはいえない。いずれにせよ,警察官の本件搬送措置の目的が捜査ではなく,その後,被告人が救急隊や病院の管理下に置かれており,警察による留め置きの状態になかったことからすれば,これが実質的逮捕であると見る余地はない。所論は採用できない。 5 警察官らが被告人に対し救急車内で携帯電話機で通話することを制限したとの点について救急車内での携帯電話機をめぐる警察官らの対応は前記認定のとおりである。救急隊員から同乗を求められて車内に入ったF巡査部長が,携帯電話機の使用が機器に悪影響を及ぼすかどうかを救急隊員に確認することもなく,また,被告人に口頭で諭すこともなく,被告人の携帯電話機の通信をいきなり切断する措置を執ったという点等において,行き過ぎた措置であることは否めない。しかし,その後,再び被告人が携帯電話機で外部に電 また,被告人に口頭で諭すこともなく,被告人の携帯電話機の通信をいきなり切断する措置を執ったという点等において,行き過ぎた措置であることは否めない。しかし,その後,再び被告人が携帯電話機で外部に電話をかけ始めた際に,F巡査部長と交替して同乗していたG巡査長がこれを同様の理由で口頭で制止したところ,被告人はこれに応じ,救急隊員が代わって電話の相手方に搬送先の病院等を連絡している。F巡査部長の措置自体は違法とみる余地があるとしても,最終的には救急隊員の適切な対応により通話の相手方に被告人が伝えようとした情報の伝達はできているのであるから,その違法の程度は大きいとはいい難い。 前記のとおり,被告人自身が救急搬送に同意しており,搬送以降は,被告人の身柄は救急隊及び本件病院の管理下に置かれ,警察官による留め置きの状態にはなかったものであるから,この間に,要請を受けて救急車に同乗した警察官の行為に行き過ぎがあり,これを違法と評価する余地があるとしても,強制採尿令状に基づく尿の差押との間に密接な関連性がないことは明らかであるから,この点は証拠能力に影響を与えるものではない。 その他の所論も記録に照らし採用できない。論旨は理由がない。 第4 結論よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入することとして,主文のとおり判決する。 令和2年11月17日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官多和田隆史 裁判官水落桃子 裁判官廣瀬裕亮 裁判官 水落桃子 裁判官 廣瀬裕亮
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