令和1(ワ)33246 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年6月3日 東京地方裁判所
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判決文本文23,242 文字)

令和4年6月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第33246号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年2月25日判決 原告株式会社Toshin (以下「原告Toshin」という。) 原告笛吹精工株式会社 (以下「原告笛吹精工」という。)上記両名訴訟代理人弁護士逢坂哲也 被告タカハタプレシジョン株式会社 (以下「被告会社」という。)被告G (以下「被告G」という。)上記両名訴訟代理人弁護士小宮司 同小宮清同熊崎誠実同多田津雪同小宮憲 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告Toshinに対し、連帯して、1966万1835円及びこれに対する令和元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告笛吹精工に対し、連帯して、1892万4906円及びこれに対する令和元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、原告らが、被告会社による原告らに対する訴訟の提起(東京地方裁判所平成29年(ワ)第17791号特許権侵害行為差止等請求事件)及び同訴訟の判決に対する控訴の提起(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10088号特許権侵害行為差止等請求控訴事件。以下、第一審の訴訟と併せて「前訴」と総称する。)並びに前訴に 求事件)及び同訴訟の判決に対する控訴の提起(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10088号特許権侵害行為差止等請求控訴事件。以下、第一審の訴訟と併せて 「前訴」と総称する。)並びに前訴における訴訟の追行が不法行為を構成し、被告会社の代表取締役である被告Gは上記不法行為について共同不法行為の責任を負うと主張して、被告らに対し、民法719条1項前段及び民法709条に基づき、連帯して、損害の賠償及びこれらに対する訴状送達日の翌日である令和元年12月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前 の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア原告ら等 (ア) 原告Toshinは、主に家庭用水道メーターの部品等の精密加工製品の企画、開発、製造、販売等を業とする株式会社であり、全国の水道局に納入する家庭用水道メーター用の指示ユニット(計量装置部分)及びその部品を製造し、指示ユニットを水道メーターのメーカーに販売する事業を中核事業としている(甲2、5、弁論の全趣旨)。 原告Toshinの代表取締役であるH(以下「H」という。)は、 被告会社の元請会社であった愛知時計電機株式会社(以下「愛知時計社」という。)において約30年間勤務した後、平成22年12月まで、被告会社のコンサルタントとして約5年間就業し、うち約2年半の間は被告会社の正社員であった者である。Hは、被告会社とのコンサルタント契約の終了後の平成23年2月21日、原告Toshinを設立し、代 表取締役に就任した。 (イ) 原告笛吹精工は、省エネルギ 被告会社の正社員であった者である。Hは、被告会社とのコンサルタント契約の終了後の平成23年2月21日、原告Toshinを設立し、代 表取締役に就任した。 (イ) 原告笛吹精工は、省エネルギー製品やプラスチック製品の企画、設計、製造、販売等を業とする株式会社であり、原告Toshinから水道メーターの部品の製造及びその組立てを受注している。 イ被告ら 被告会社は、計器部品、量水器部品、精密歯車等の製造や販売等を業とする株式会社であり、被告Gは、平成15年から、被告会社の代表取締役を務めている者である。 被告会社の前身は、水道メーターの部品を製作し、東京都水道局等に納入していた合資会社高畑工業所であり、昭和59年2月1日に高畑精工株 式会社の商号で被告会社が設立され、平成22年に「タカハタプレシジョン株式会社」へ、平成24年に「タカハタプレシジョンジャパン株式会社」へ、それぞれ商号変更された後、平成30年に現商号へ変更された(甲1)。 (2) 被告会社が有していた特許権等 ア被告会社は、次の特許(以下「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。また、本件特許に係る特許出願を「本件特許出願」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた。 (ア) 特許番号特許第5554433号 (イ) 発明の名称マグネット歯車及びその製造方法、これを用いた流量計 (ウ) 出願日平成25年4月5日(エ) 出願番号特願2013-080017(オ) 登録日平成26年6月6日(カ) 発明者 I、Jイ本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以 下、同記載に係る発明を「本件発明」という。)。 「 (オ) 登録日平成26年6月6日(カ) 発明者 I、Jイ本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以 下、同記載に係る発明を「本件発明」という。)。 「回転軸線を有する軸部、前記軸部の一端側の外周面に複数の歯を有し、噛みあう相手歯車に回転を伝達する歯部、前記軸部の他端側に軸線方向に突設されたカシメ用突起、からなる樹脂製の歯車と、前記歯車と一体的に回転するマグネット部材と、からなり、前記マグネット部材が貫通孔を有 し、前記軸部の他端側に前記貫通孔を挿通させると共に、前記貫通孔から突出した前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側から熱カシメして、前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された、ことを特徴とするマグネット歯車。」ウ本件発明の構成要件は、以下のとおり分説できる。 A 回転軸線を有する軸部、B 前記軸部の一端側の外周面に複数の歯を有し、噛みあう相手歯車に回転を伝達する歯部、C 前記軸部の他端側に軸線方向に突設されたカシメ用突起、からなる樹脂製の歯車と、 D 前記歯車と一体的に回転するマグネット部材と、からなり、E 前記マグネット部材が貫通孔を有し、前記軸部の他端側に前記貫通孔を挿通させると共に、前記貫通孔から突出した前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側から熱カシメして、前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された、 F ことを特徴とするマグネット歯車 (3) 前訴の概要及び審理経過等ア前訴の概要前訴は、本件特許権を有する被告会社が、遅くとも平成29年1月の時点で、原告Toshinの製造委託を受けて原告笛吹精工が製造を行っていた別紙物件目録記載1のマグネット歯車(以下 ア前訴の概要前訴は、本件特許権を有する被告会社が、遅くとも平成29年1月の時点で、原告Toshinの製造委託を受けて原告笛吹精工が製造を行っていた別紙物件目録記載1のマグネット歯車(以下「本件マグネット歯車」 という。)が本件発明の技術的範囲に属し、これを製造等する原告らの行為が本件特許権を侵害すると主張して、原告らに対し、特許法100条1項及び2項に基づき、本件マグネット歯車及び同部品を使用する別紙物件目録記載2の流量計用指針ユニットの製造等の差止め並びに同指針ユニットの完成品及び半製品の廃棄を求め、民法709条に基づき、連帯して、 損害賠償金5830万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるというものであった。 イ前訴の審理経過等(ア) 第一審(東京地方裁判所平成29年(ワ)第17791号)被告会社は、平成29年5月30日、原告らを相手方とする訴訟を提 起した(甲7の1)。 東京地方裁判所は、平成30年11月9日、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施をされ、又は公然知られた水道メーター(「器物番号08-646432・型式番号L9910号21」のもの及び「器物番号08-646437・型式番号L9910号21」の もの(以下、これらのメーターを併せて「本件各メーター」という。))に組み込まれた本件マグネット歯車に係る発明と同一の発明であるから、本件発明に係る本件特許は、新規性欠如の無効理由があり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、被告会社の請求をいずれも棄却する判決を言い渡した(甲13の1。以下「前訴第一審判 決」という。)。 (イ) 控訴審(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10088号)被告会社は、平成30年12月3日、前 却する判決を言い渡した(甲13の1。以下「前訴第一審判 決」という。)。 (イ) 控訴審(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10088号)被告会社は、平成30年12月3日、前訴第一審判決を不服として、控訴を提起した。 知的財産高等裁判所も、本件発明は、本件特許出願前に公然実施をされた本件マグネット歯車に係る発明と同一の発明であると認められ、本 件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、被告会社の請求は理由がないとして、令和元年6月6日、被告会社の控訴を棄却する判決を言い渡した(甲13の2。以下「前訴控訴審判決」という。)。 前訴控訴審判決は、同月25日に確定した。 3 争点(1) 前訴の提起及び追行の違法性(争点1)(2) 損害額(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(前訴の提起及び追行の違法性)について (原告らの主張)(1) 被告会社についてア本件発明は、マグネット歯車に関する発明であって、マグネット部分と設置する樹脂部分に一定の間隙を確保して熱カシメをすることにより、マグネット部分の回転性能を上げ、これにより羽根車のマグネットとの磁気 結合力がより高まり、羽根車の回転に対する追従性を飛躍的に向上させ、計量誤差を著しく改善するという技術思想を有するものである。 もっとも、本件発明と同じ内容の発明は、平成2年頃、当時愛知時計社に勤務していたHによって発見されており、その後、当該発明は、愛知時計社が、その下請会社であった被告会社に対し、水道メーターの指示ユニ ット等の部品の製造販売を発注したことを契機として実用化され、水道メ ーターの構造に関する当たり前の技術思想として、水道業界全体が共有していた。したがって、本件発 メーターの指示ユニ ット等の部品の製造販売を発注したことを契機として実用化され、水道メ ーターの構造に関する当たり前の技術思想として、水道業界全体が共有していた。したがって、本件発明は、本件特許出願の日である平成25年4月5日以前に、日本国内において公然実施され又は公然知られたものであったから、本件特許には新規性欠如の無効理由が存在し、特許無効審判により無効にされるべきものに該当する。そのため、被告会社が、原告らが 製造販売した水道メーターの指示ユニットに組み込まれた本件マグネット歯車及びそれを用いた指示ユニットが本件発明の技術的範囲に属するとして、原告らに本件特許権を行使することは、特許法104条の3第1項により、許されないものであった。 以上のとおり、前訴において被告会社の主張した権利又は法律関係は、 事実的、法律的根拠を欠くものであった。 イ被告らは、次のとおり、前記アの事情が存在することを知っていたか、容易にそのことを知り得たというべきである。 すなわち、①被告会社が平成10年9月19日に株式会社阪神計器製作所(以下「阪神計器社」という。)に提供した流量計(水道メーター)指 示ユニットの図面(甲14。以下「本件DN図面」という。)には、「熱カシメ後のマグネットにはがたつきがあること」と記載されていた。また、②被告会社は、平成16年5月、阪神計器社に対し、上記の記載がある平成13年11月27日付けの作業標準(甲12の3)を提供し、阪神計器社は、同作業標準に基づき、マグネット歯車に間隙のある水道メーターを 製造、販売していた。さらに、③被告らは、水道メーター又はその部品の製造、販売に長年従事してきたものであるところ、被告会社においても、遅くとも平成21年には、軸部の回転軸線方向に間隙を ーを 製造、販売していた。さらに、③被告らは、水道メーター又はその部品の製造、販売に長年従事してきたものであるところ、被告会社においても、遅くとも平成21年には、軸部の回転軸線方向に間隙を持たせたマグネット歯車を有する水道メーター(本件各メーター)を製造、販売していた(なお、熱カシメの際に上記のような間隙が生じることは避けられず、間 隙のないマグネット歯車を製作することは困難であること、被告会社が平 成13年11月27日付けの作業標準(甲12の10。上記作業標準(甲12の3)と同内容のものである。)や、被告会社が平成23年に立川プレス工業所に交付した組立品出荷検査規格書・成績書(甲12の12。以下「本件検査規格書」という。)には、間隙の存在を前提とする記載があること等を総合すると、被告会社が製造、販売していた本件各メーターの マグネット歯車の間隙が、長期使用による経年劣化により生じたとは認められない。)。なお、④水道メーターの製造を業とする東洋計器株式会社、アズビル金門株式会社、柏原計器工業株式会社及び大豊機工株式会社の各社が平成21年から平成23年までの間に製造、販売した乾式水道メーターについても、そのマグネット歯車には間隙が設けられていた。 さらに、被告会社は、平成12年6月20日、マグネット付歯車について特許出願したところ、特許庁の拒絶理由通知書に対し、平成16年8月31日、「この発明のマグネット付き歯車は、マグネットがハブの外周のリブのカシメによって保持されていて、カシメられたリブはマグネットが落下しないように保持しているだけであって、マグネットを溶接などの ように強固に固定しているわけではない」、「又回転を伝えるためにハブの角軸にマグネットの角孔を差し込んでいるが、これも精密機 が落下しないように保持しているだけであって、マグネットを溶接などの ように強固に固定しているわけではない」、「又回転を伝えるためにハブの角軸にマグネットの角孔を差し込んでいるが、これも精密機械のように密接に嵌合しているわけではなく、可成りのガタを持たせているものである」、「即ちカシメというのは溶接などのように強固に固定しているわけではない。さらに又水道メーターなどでは回転を伝える角軸も可成りのガ タを持たせてある」、「マグネットは相手側のマグネットの磁力との反応により両マグネットの磁束が互いに対応するように移動して磁束密度を確保し、マグネット間の伝達効率を上げる機能を有するようになる」などと回答し、かつ、平成17年4月26日、「カシメで取り付けても、固着されるものではなく、ある程度の相対移動は行い得るものである」、「もし マグネットと歯車が一体であれば、車軸上端のマグネットに正しく対応す るように歯車を取り付けることは不可能」などと回答している。したがって、被告らは、平成16年8月31日及び平成17年4月26日の時点で、マグネット歯車の熱カシメは溶接のようにマグネットを強固に固定するものではなく、間隙を持たせ、それにより両マグネットの磁束が互いに対応するように移動して磁束密度を確保し、マグネット間の伝達効率を上げる 機能を有すること、カシメで歯車とマグネットを固着すると伝達効率のよい位置に相対移動できなくなること等の技術ないし工夫について、十分熟知し、これを外部に対して説明していたことは明らかである。 以上によれば、被告らは、本件特許出願の日である平成25年4月5日以前、具体的には、被告会社が阪神計器社に本件DN図面を交付した平成 10年9月19日の時点(上記①)、被告会社が阪神計器社に作業標 によれば、被告らは、本件特許出願の日である平成25年4月5日以前、具体的には、被告会社が阪神計器社に本件DN図面を交付した平成 10年9月19日の時点(上記①)、被告会社が阪神計器社に作業標準(甲12の3)を提供した平成16年5月の時点(上記②)、被告会社が本件各メーターの製造販売を開始した平成21年(上記③)又は東洋計器株式会社等が間隙のあるマグネット歯車を使用した水道メーターを製造販売した平成21年ないし平成23年(上記④)のいずれかの時点において、 本件発明が公然と実施されている事実を当然に認識し、ひいては、本件特許出願の出願日である平成25年4月5日の時点で、本件特許には新規性欠如の無効理由が存在することを知っていたか、容易にそのことを知り得たというべきである。 ウよって、被告会社が前訴を提起し、追行する行為は、裁判制度の趣旨目 的に照らして著しく相当性を欠くと認められ、原告らに対する違法な行為といえる。 そして、被告会社は、上記の違法行為について故意又は過失があると認められ、原告らは、当該違法行為によって損害を被ったものであるから、被告会社の原告らに対する不法行為が成立する。 (2) 被告Gについて 法人である株式会社は観念的な存在であり、代表取締役が設置された株式会社においては、自然人である代表取締役の行為をもって当該株式会社の行為とされるものである(会社法349条4項)。そうすると、被告会社が前訴を提起し、追行する行為は、被告会社の行為であると同時に、訴訟代理人に前訴の提起と追行を実際に委任し、責任と権限をもってこれらを行った被 告会社の代表取締役である被告Gの行為とされるものである。したがって、前記(1)のとおり被告会社の行為に不法行為が成立する以上、被告会社と被告 実際に委任し、責任と権限をもってこれらを行った被 告会社の代表取締役である被告Gの行為とされるものである。したがって、前記(1)のとおり被告会社の行為に不法行為が成立する以上、被告会社と被告Gの共同不法行為となる。 (3) 被告らの主張についてア被告らは、前訴の争点にはいずれにも多分に法的技術的評価が含まれて いることを根拠として、前訴の提起及び追行は不当訴訟に当たらず、不法行為が成立しないと主張する。 しかし、本件発明の技術は極めて単純であるし、前訴では本件発明が本件特許出願の当時に業界周知の技術であったか否かが実質的に唯一の争点であったから、本件特許に無効理由があるか否かという争点に多分に法的 技術的評価が含まれているとはいえず、不法行為の成立は否定されない。 したがって、被告らの上記主張には理由がない。 イ被告らは、被告会社が愛知時計社との間で本件発明について実施許諾契約を締結したことを理由に、本件発明は既存の公知の技術ではなく、本件特許につき無効理由が存在することが前訴を提起した時点において明確で はなかった旨主張する。 しかし、特許が登録されている場合には、当該特許に係る発明が公知の技術であったとしても、実施許諾契約を締結することは何ら不自然ではない。特に、愛知時計社は被告会社の長年の主要取引会社であったのであるから、なおのこと、上記実施許諾契約が締結されたという一事をもって本 件発明が公知の技術でなかったという根拠にはなり得ない。 したがって、被告らの上記主張には理由がない。 ウ被告Gは、被告会社への入社時期から、被告会社が製造、販売する水道メーターのマグネット歯車の細部及び本件発明の構成や背景技術について把握しておらず、反面、愛知時計社との実施許諾契約の内容を把握 ウ被告Gは、被告会社への入社時期から、被告会社が製造、販売する水道メーターのマグネット歯車の細部及び本件発明の構成や背景技術について把握しておらず、反面、愛知時計社との実施許諾契約の内容を把握していたことから、本件特許が有効であると理解していたことを根拠として、共 同不法行為責任を負うことはないと主張する。 しかし、前訴の提起自体は、被告Gが被告会社の代表者としてこれを行ったことは明らかである。そして、被告Gは、平成14年1月に被告会社に入社し、平成15年6月5日に、被告会社代表取締役に就任しているのであるから、阪神計器社に作業標準(甲12の3)を提供した時点(平成 16年5月頃)、特許庁に「カシメというのは溶接などのように強固に固定しているわけではない。さらに又水道メーターなどでは回転を伝える角軸も可成りのガタを持たせてある」等記述した手続補正書等を提出した時点(平成16年8月31日及び平成17年4月26日)、被告会社が本件各メーターを製造した時点(平成21年頃)等の各時点よりも前に代表取 締役に就任したこととなる。加えて、被告Gは、被告会社のトップメッセージにおいて、水道メーターや高精度歯車について中核的に述べている。 そうすると、被告Gの入社時期を根拠として、被告Gが本件発明の構成やその技術的背景について詳細には把握していなかったとする被告らの上記主張には明らかに理由がない。 (被告らの主張)(1) 被告会社について前訴においては、①本件マグネット歯車が本件発明の技術的範囲に属するか否か、②本件特許に無効理由(新規性欠如、明確性要件違反)が認められるか否か等が争点とされていた。そして、構成要件Eの「前記貫通孔から突 出した前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側か ②本件特許に無効理由(新規性欠如、明確性要件違反)が認められるか否か等が争点とされていた。そして、構成要件Eの「前記貫通孔から突 出した前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側から熱カシ メして、前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された」のクレーム解釈が主要な争点となっていた上記①も、新規性欠如の無効理由があるかどうかが主要な争点となっていた上記②も、法的技術的評価を要する争点であって、直ちにその結論を判断することはできないものであった。 この点、被告会社は、平成21年頃に被告会社自身が製造していた本件各 メーターに用いられるマグネット歯車には、固定のために強く熱カシメが施されていたため、物理的な隙間はないと認識していた。また、本件発明が奏する作用効果を実現するためには、構成要件Eについて、「羽根車40の先端部に埋め込まれたマグネット11から磁気力を受けた場合に、角軸4の軸線と直交する方向の間隙の範囲内で、磁気結合力が最も高まるように移動し て調心作用が発生する」ように「間隙」が設けられる必要があるという限定解釈をすべきところ、少なくとも、被告会社においては、当該マグネット歯車には、上記「間隙」に該当する隙間があるとは認識していなかった。したがって、当該マグネット歯車の構造及び上記のクレーム解釈を前提とすれば、当該マグネット歯車には、本件発明の構成要件Eを充足するような隙間は存 在しなかったこととなる。このように、前訴の上記②の争点について、本件各メーターが製造されていたことを根拠として本件発明が日本国内において公然知られ又は公然実施をされたものであると認定されるか否かは、前訴を提起した時点においては明確ではなかった。 加えて、被告会社と愛知時計社との間 ことを根拠として本件発明が日本国内において公然知られ又は公然実施をされたものであると認定されるか否かは、前訴を提起した時点においては明確ではなかった。 加えて、被告会社と愛知時計社との間で本件発明の実施許諾契約を締結し た事実からも、愛知時計社自身が本件発明の実施許諾を受けることに経済的合理性があると判断しており、被告会社においても本件特許に無効理由が存在しないものと認識していたこと、すなわち、本件発明に無効理由があるかどうかが明確とはいえなかったことがうかがわれる。 他方で、被告会社は、本件発明について無効理由が存在するか否かについ て、技術的な検討を経た上で、前訴の提起に至ったものである。 以上の次第で、結果的に、本件発明が新規性欠如の無効理由を有することを根拠に被告会社の原告らに対する請求を排斥した前訴控訴審判決が確定したとしても、被告会社が本件特許権に基づき原告らに対し前訴を提起し、追行することが、権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるとは認められないし、被告会社がそのことを知りながら又は通常人であれば容 易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したとも認められないから、被告会社による前訴の提起及び追行が、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとは認められない。 (2) 被告Gについて被告Gは、平成15年頃に被告会社に入社しており、被告製品の細部につ いて詳細を把握していなかった。かえって、被告Gは、前記(1)の実施許諾契約の内容を把握していたから、本件発明は有効であると認識していたものである。 したがって、被告Gが、被告会社と共同不法行為責任を負うことはない。 (3) 原告らの主張について ア原告らは、本件発明が業 ていたから、本件発明は有効であると認識していたものである。 したがって、被告Gが、被告会社と共同不法行為責任を負うことはない。 (3) 原告らの主張について ア原告らは、本件発明が業界において公知のノウハウであったと主張する。 しかし、平成2年頃に東京都水道局の統一規格として採用されたとされるマグネット歯車は、熱カシメ自体は採用していたものの、4か所を別々に熱カシメし、その結果、4か所でマグネット部材をしっかりと固定して、脱落を抑制していた。このように、平成2年頃の統一規格としてのマグネ ット歯車では、マグネット部材自体が破損しない程度に、熱カシメが強く施されていたものであって、構成要件Eの「前記軸部の回転軸線方向に移動可能」な「間隙」が確保されたものではなかった。このことは、同年8月頃に愛知時計社によって作成され、平成7年3月7日に設計変更された図面(乙15)に「マグネットのガタツキ無きこと」と記載されているこ とからも明らかである。 むしろ、本件特許出願に至る経緯は以下のとおりである。すなわち、本件発明は、被告会社の従業員で、本件発明の発明者であるI(以下「I」という。)が、マグネット歯車における軸部の回転軸線方向に間隙を持たせないようにするよりもむしろ間隙を持たせた方が、追従性能が向上し、不良品を減らすことができることに着目し、年月をかけて追従性能と間隙 の調整に関する研究を進めた結果、間隙を0.05mm以上0.5mm以下とすることによって、マグネット歯車としての追従性能と固定との両面を満足するものであることを発見し、平成25年4月5日に本件特許出願をするに至ったものである。 このような経過から明らかなように、本件発明が公知であったとの原告 らの上記主張には理由がない。 イ するものであることを発見し、平成25年4月5日に本件特許出願をするに至ったものである。 このような経過から明らかなように、本件発明が公知であったとの原告 らの上記主張には理由がない。 イ原告らは、本件DN図面、作業標準(甲12の3)及び本件検査規格書に、がたつきの存在を前提とするような記載があることを根拠として、本件各メーターが用いるマグネット歯車には「間隙」が存在したと主張する。 しかし、前記(1)のとおり、本件発明の構成要件Eについては、「羽根 車40の先端部に埋め込まれたマグネット11から磁気力を受けた場合に、角軸4の軸線と直交する方向の間隙の範囲内で、磁気結合力が最も高まるように移動して調心作用が発生する」ように「間隙」が設けられる必要があると限定解釈すべきである。したがって、仮に当該マグネット歯車に微小な隙間が存在していたとしても、上記調心作用が発生するような隙間で なければ「間隙」には該当しないから、原告らが指摘する記載が存在したとしても、直ちに当該マグネット歯車が本件発明の構成要件を充足するものではない。また、当該マグネット歯車は、ポリアセタールなどの合成樹脂を用いて製造した場合には、その表面が滑らかであるため、回転軸線方向の間隙がない状態であっても、回転軸線方向に直交する方向においてガ タつくことはあり得る。 したがって、原告らの上記主張には理由がない。 2 争点2(損害額)について(原告Toshinの主張)(1) 無形損害原告Toshinは、前訴において、中核事業である水道メーターの指針 ユニットの製造販売の差止め、在庫の廃棄及び高額な損害賠償を請求されたことから、役員や担当従業員が前訴の応訴の準備のために多大な時間を費やすことを余儀なくされ、対応に当たった 道メーターの指針 ユニットの製造販売の差止め、在庫の廃棄及び高額な損害賠償を請求されたことから、役員や担当従業員が前訴の応訴の準備のために多大な時間を費やすことを余儀なくされ、対応に当たった役職員は精神的苦痛を被った。 また、原告Toshinは、前訴について取引先に説明することを余儀なくされた。そうした中、阪神計器社や前澤給装工業株式会社からは、平成2 9年に、平成30年以降の水道メーターの指示ユニットの注文数量を倍増させるなどの提示を受けていたにもかかわらず、前訴が提起されたことを受けて注文の増加は見送られる結果となり、前訴第一審判決後になって、阪神計器社との指示ユニットの注文数量が倍増された。このように、原告Toshinは、取引先から前訴が終結するまでは製品の発注を差し控えられ、約3 600万円の逸失利益が生じたなど、当時設立からわずか6年しか経過していない原告Toshinの水道メーター関係業界における信用は著しく毀損され、取引の中止や縮小などの具体的な実害が発生し、重大な経営危機に直面した。こうした経過に照らすと、原告Toshinが被った無形損害の額は1000万円を下らない。 (2) 前訴の交通費及び日当原告Toshinは、前訴に応訴する中で、取引先への説明や訴訟代理人との打合せのために、役員らを何度も出張させたことから、当該交通費及び出張日当の支出によって、計93万2020円の損害を被った。 (3) 前訴の弁護士費用 前訴は、特許権侵害を請求原因事実とするものであったため、原告Tos hinは、特許専門の法律事務所に訴訟代理人を依頼することを余儀なくされた。そして、原告Toshinは、前訴が提起された平成29年7月から前訴の控訴審の審理が終結した令和元年6月までの間に、弁護士 hinは、特許専門の法律事務所に訴訟代理人を依頼することを余儀なくされた。そして、原告Toshinは、前訴が提起された平成29年7月から前訴の控訴審の審理が終結した令和元年6月までの間に、弁護士報酬その他の弁護士費用として、計694万2376円(振込手数料を含む。)を支出し、これによって、同額の損害を被った。 被告らは、上記損害が過大であって相当因果関係が認められる範囲を超える旨を主張する。しかし、前訴は特許訴訟という専門性の高い訴訟であること、前訴における損害賠償請求額が約6900万円に上ること、前訴控訴審判決の確定までに長期間を要したことに照らすと、上記請求額の1割程度の額を原告らがそれぞれ前訴訴訟代理人に弁護士費用として支払ったとしても、 これが過大であるとはいえない。 (4) 本件の弁護士費用原告Toshinは本件訴えの提起のために弁護士を選任しているところ、被告らの不法行為と相当因果関係がある当該弁護士費用としては、前記(1)ないし(3)の合計額の1割(178万7439円)を下らない。 (5) 小括よって、原告Toshinは、被告らに対し、共同不法行為の損害賠償請求権に基づき、連帯して、前記(1)ないし(4)の合計額である1966万1835円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日に当たる令和元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金 の支払を請求することができる。 (原告笛吹精工の主張)(1) 無形損害原告笛吹精工においても、原告Toshinと同様に、前訴の応訴の準備のために多大な時間を費やしたほか、取引先に対する説明に奔走した。また、 被告会社が前訴を提起し、追行したことにより、前記(原告Toshinの 主張)(1)の逸失利 前訴の応訴の準備のために多大な時間を費やしたほか、取引先に対する説明に奔走した。また、 被告会社が前訴を提起し、追行したことにより、前記(原告Toshinの 主張)(1)の逸失利益が原告Toshinに発生した結果、同社から水道メーターの指示ユニットの製造等の下請けをする原告笛吹精工においても逸失利益が生じるなどの具体的な実害が発生し、重大な経営危機に直面するとともに原告笛吹精工の水道メーター関係業界における信用は著しく毀損された。 こうした経過に照らすと、原告笛吹精工が被った無形損害の額は1000万 円を下らない。 (2) 前訴の交通費及び日当原告笛吹精工は、前訴に応訴する中で、訴訟代理人との打合せのために、役員らを何度も出張させたことから、当該交通費及び出張日当の支出によって、計28万7680円の損害を被った。 (3) 前訴の弁護士費用前訴は、特許権侵害を請求原因事実とするものであったため、原告笛吹精工においても、原告Toshinと同様に、特許専門の法律事務所に訴訟代理人を依頼することを余儀なくされ、平成29年7月から令和元年6月までの間に、弁護士報酬その他の弁護士費用として、計691万6780円(振 込手数料を含む。)を支出し、これによって、同額の損害を被った。 被告らは、上記損害が過大であり、相当因果関係が認められる範囲を超える損害である旨を主張するが、前記(原告Toshinの主張)(3)のとおり、当該主張には理由がない。 (4) 本件の弁護士費用 原告笛吹精工は本件訴えの提起のために弁護士を選任しているところ、被告らの不法行為と相当因果関係がある当該弁護士費用としては、前記(1)ないし(3)の合計額の1割(172万0446円)を下らない。 (5) 小括よって、原告笛吹 に弁護士を選任しているところ、被告らの不法行為と相当因果関係がある当該弁護士費用としては、前記(1)ないし(3)の合計額の1割(172万0446円)を下らない。 (5) 小括よって、原告笛吹精工は、被告らに対し、共同不法行為の損害賠償請求権 に基づき、連帯して、前記(1)ないし(4)の合計額である1892万490 6円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日に当たる令和元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。 (被告らの主張)(1) 無形損害 原告Toshinは、平成29年5月以降も、依然として前澤給装工業株式会社及び阪神計器社との取引を継続できていた。また、原告らにおいては、同月以降も売上は増加しており、今後の成長が見込まれるとの評価もされていた。以上によれば、原告らの営業上の信用は害されていないといえる。 また、原告らの主張が、原告らに生じた逸失利益や前訴の対応に当たった 原告らの役職員の精神的苦痛も無形損害に含まれる趣旨をいうのであれば、主張自体失当というべきである。 (2) 前訴の弁護士費用原告らが支払ったと主張する前訴の弁護士費用は高額にすぎる。また、原告らは、ほぼ同一の訴訟活動について、同一の前訴訴訟代理人に弁護士費用 を支払っている。以上によれば、原告らの主張に係る損害額は、相当因果関係が認められる損害の額を超えるものである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(前訴の提起及び追行の違法性)について(1) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則とし て正当な行為であり、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実 的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則とし て正当な行為であり、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められると きに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第12 2号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁、最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁、最高裁平成21年(受)第1539号同22年7月9日第二小法廷判決・裁判集民事234号207頁参照)。 (2) 前記前提事実並びに証拠(甲5、9、12、14、乙1、証人I、被告G 本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア本件明細書の記載本件明細書には、以下の記載がある(乙1)。 【技術分野】【0001】 本発明は、マグネット歯車及びその製造法、これを用いた流量計に関する。 【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は、羽根車の回転に確実に追従することができ、かつ長期使用に おけるマグネットの脱落を防止することができるマグネット歯車及びその製造方法、これを用いた流量計を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】【0006】前記課題を解決するために、請求項1に記載のマグネット歯車は、回転 軸線を有する軸部、前記軸部の一端側の外周面に複数の歯を有し、噛みあう相手歯車に回転を伝達する歯部、前記軸部の他端側に軸線方向 前記課題を解決するために、請求項1に記載のマグネット歯車は、回転 軸線を有する軸部、前記軸部の一端側の外周面に複数の歯を有し、噛みあう相手歯車に回転を伝達する歯部、前記軸部の他端側に軸線方向に突設されたカシメ用突起、からなる樹脂製の歯車と、前記歯車と一体的に回転するマグネット部材と、からなり、前記マグネット部材が貫通孔を有し、前記軸部の他端側に前記貫通孔を挿通させると共に、前記貫通孔から突出し た前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側から熱カシメ して、前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された、ことを特徴とする。 【発明の効果】【0012】請求項1記載の発明によれば、羽根車の回転に確実に追従することがで き、指示機構に正確に回転を伝達することができる。 【発明を実施するための形態】【0026】角軸4の外面とマグネット5の貫通孔5aの内面のそれぞれ対向する方向の間隙は0.05mmないし0.3mmとなるように調整され、マグネ ット5がその自重で角軸4の軸線方向に移動できる程度の嵌合状態とされている。 【0027】図3(c)に示すように、マグネット5は、羽根車40のマグネット11と対向してマグネットカップリングを形成する着磁面5bが、例えば等 方4極で磁束密度として30mTないし100mTに着磁されている。そして、非着磁面5cが角軸4の軸心と直交するフランジ3の当て付け面(表面)3aに0.05mmないし0.5mmの間隙を確保して保持されている。 間隙が0.05mmよりも小さい場合は、後述するように急激な流量変 化があったときに、マグネットカップリングの結合が外れ計量誤差を生じやすくなる。また、間隙が0.5mmよりも大きい場合には、軸線方向の .05mmよりも小さい場合は、後述するように急激な流量変 化があったときに、マグネットカップリングの結合が外れ計量誤差を生じやすくなる。また、間隙が0.5mmよりも大きい場合には、軸線方向の上下振動により貫通孔5aの角部によって熱カシメして折り返された折り返し部4bが削られ、マグネット5が脱落する虞がある。 そのために、安定したマグネットカップリングが維持され、長期に亘っ て、マグネット5が脱落する虞がない間隙の範囲としては、0.05mm ないし0.5mmが好ましく、0.1mmないし0.2mmがより好ましい。 【図1】 【図3】 イマグネット歯車の製造、構造等に関する書面の記載(ア) 愛知時計社は、新型の水道メーターであるDA型水道メーターの品質保証試験を実施し、その試験結果に関する平成2年1月31日付け「DA20都水納入報告」と題する書面(甲5の2)を作成した。同書面には、上記水道メーターの指示ユニットの追従性について、「復活追従の 値が低く、…今後性能改善が必要である。」として、計量誤差をもたらすことから改善が必要である旨が記載されていた(甲5の1、5の2)。 その後、東京都水道局に水道メーターを納入していた水道メーター製造関係会社23社で組織された都型メータ開発協議会から、東京都水道局に対し、平成2年5月29日付けの「乾式直読型水道メータDA13、 DA20、DA25承認図面の変更について」と題する書面(甲5の3)が提出されたところ、同書面には、「マグネット歯車」について、マグネット保持力の改善と、耐久性及び追従性の改善のため、マグネットの保持の方法をスナップフィットから熱カシメへと変更する旨が記載されていた(甲5の1、5の3)。 グネット歯車」について、マグネット保持力の改善と、耐久性及び追従性の改善のため、マグネットの保持の方法をスナップフィットから熱カシメへと変更する旨が記載されていた(甲5の1、5の3)。 なお、上記のいずれの書面にも、マグネット歯車の軸部の回転軸線方向に間隙やガタつきがある旨の記載はなかった(甲5の2、5の3)。 (イ) 被告会社が平成3年10月7日付けで作成した従動マグネット及びマグネット歯車に関する図面(甲9の18)には、リブの折り返し部について、「マグネット圧入後カシメのこと」との注記がされており、マグ ネットの内側に突出した4か所リブを熱カシメすることでマグネットを固定する旨の記載がある。また、マグネットと熱カシメ部が接する部分について、「すき間無きこと」との注記がされている。(甲9の18、9の19)(ウ) 原告が阪神計器社に送付した平成10年9月19日付けの本件DN図 面には、「熱カシメ後のマグネットにはがたつきがあること」との記載 がある(甲14)。 (エ) 被告会社が作成した平成13年11月27日付けの作業標準(甲12の3)及びこれと同内容の作業標準(甲12の10)には、「使用治工具名」に「マグネット歯車熱カシメ機」との記載がある。また、「作業手順と注意点」欄の「注意点」として「カシメ過ぎ(溶けすぎ)なきこ と」との記載が、同欄の「作業手順」及び「注意点」として「カシメ後、鉄片等を使用しマグネットのガタがあることを確認する」、「マグネットに左右のガタツキあること」との記載がある。さらに、「管理点」欄の「自工程のポイント」として「マグネットのガタ確認」、「左右のガタツキがあること」、「鉄片:ピンセット等で良い」との記載があり、「作業 要図」欄には、「鉄片(ピンセット等)を左 「管理点」欄の「自工程のポイント」として「マグネットのガタ確認」、「左右のガタツキがあること」、「鉄片:ピンセット等で良い」との記載があり、「作業 要図」欄には、「鉄片(ピンセット等)を左右に振りガタつくことを確認する」との注記がされ、マグネット、熱カシメ部及び鉄片が記載された図が存在する。 (オ) 立川プレス工業所が被告会社から受託したマグネット歯車の組立作業について、立川プレス工業所が平成23年3月、同年8月及び同年9月 に作成した「組立品出荷検査規格書・成績書」(12の12の1、12の12の2、12の12の4、12の12の5)には、「検査項目」として「カシメ後のマグネットのガタ」が挙げられており、その「規格値」は「ガタツキがあること」とされ、検査方法は「手感、目視」とされている。また、平成13年11月27日付けの作業標準(甲12の3)及 びこれと同内容の作業標準(甲12の10)と同様の、マグネット、熱カシメ部及び鉄片が記載された図が引用され、「鉄片(ピンセット、ドライバーの先等)を左右に振りガタつくことを確認する」との注記がされている。(甲12の3、12の10、12の12の1、12の12の2、12の12の4、12の12の5) (カ) 被告会社が平成22年10月8日付けで作成したマグネット歯車ユニ ットの図面(甲9の17)には、承認者(「Approved」)の欄にI(「I」)の記載があり、熱カシメ部がマグネットの内側の全周を覆うように設けられている様子が描かれている。また、「注記」として、「熱カシメ後の球R部先端から、かしめリブ先端までの寸法hは、0.5~0.9とする。」との記載がある。なお、図面上は、マグネットと熱カ シメ部との間に回転軸線方向の間隙は描かれていない。(甲9の17、 シメ後の球R部先端から、かしめリブ先端までの寸法hは、0.5~0.9とする。」との記載がある。なお、図面上は、マグネットと熱カ シメ部との間に回転軸線方向の間隙は描かれていない。(甲9の17、9の19)ウ本件特許出願に至る経緯(ア) 本件特許に係る発明者であるIは、平成8年4月に被告会社に入社し、入社の数か月後から平成26年までは被告会社の水道メーターの技術部 門で勤務した(証人I)。 (イ) 平成9年頃から平成12年頃までの間、水道メーターの羽根車に付いたマグネットと歯車のマグネットとが脱落するという苦情が発生し、Iは、その苦情の対応するため、マグネット歯車の追従性能を高めるための研究開発を進めた。そうしたところ、Iは、マグネット歯車において、 マグネットを、軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持することによって、水道メーター内の水の流れによる磁力線の乱れにも追従し、マグネットカップリングが外れることをより防止することができること、マグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に、歯車の回転軸線方向(垂直方向)に0.05ないし0.5ミリメートルの間 隙を設けることで、追従性能と固定との均衡を保つことができることを発見した。そこで、Iは、かかる発明(本件発明)について特許出願(本件特許出願)をした。(証人I)エ前訴の審理経過(ア) 被告会社は、前訴の提起に先立ち、本件マグネット歯車を取り寄せ、 被告会社の顧問弁理士等とも相談して検討した結果、本件マグネット歯 車は本件特許権を侵害するとの結論に至った(証人I、被告G)。 (イ) 前訴における争点は、①原告ら(前訴被告ら)が製造等する本件マグネット歯車が本件発明の構成要件C及びEを充足するか否か、②本件発明に特許法 権を侵害するとの結論に至った(証人I、被告G)。 (イ) 前訴における争点は、①原告ら(前訴被告ら)が製造等する本件マグネット歯車が本件発明の構成要件C及びEを充足するか否か、②本件発明に特許法29条1項1号又は2号による無効理由があるといえるか否か、③本件発明に明確性要件違反の無効理由があるか否かであった。そ して、上記②について、原告ら(前訴被告ら)から、本件特許出願前に被告会社(前訴原告)が自ら製造するなどして東京都水道局に納入した水道メーターに組み込まれたマグネット歯車(以下「前訴原告マグネット歯車」という。)は、本件発明と同一の構成を備えていたものであるから、本件発明は、公然知られた発明であるか又は公然実施された発明 であるとの主張がされた。 この点、被告会社(前訴原告)は、上記②の新規性欠如の抗弁について、前訴原告マグネット歯車が、本件発明の構成要件Eのうち、「前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された、」との構成要件を具備していることを否認し、その根拠として、①被告会社(前 訴原告)が平成21年当時において製造していた前訴原告マグネット歯車には、軸部の回転軸線方向に移動可能な間隙は存在しなかったこと、②経年劣化によって、マグネット歯車における軸部の回転軸線方向の間隙が生じる可能性が極めて高いこと、③平成2年以降に開発されてきたマグネット歯車は、熱カシメでマグネット部材を強固に保持し脱落を抑 制しようという技術思想によるものであったのに対し、被告会社(前訴原告)は、マグネット歯車の製造等の業務部門をベトナム法人に移管した平成22年頃以降、当時の開発担当者であるIが、マグネット歯車における軸部の回転軸線方向に間隙を設けた方が追従性能をより向上させて不良品を減らすことを発見し、本件 の業務部門をベトナム法人に移管した平成22年頃以降、当時の開発担当者であるIが、マグネット歯車における軸部の回転軸線方向に間隙を設けた方が追従性能をより向上させて不良品を減らすことを発見し、本件特許出願をしたものであることを 主張した。 (以上につき、甲7ないし13)(3)ア前記(2)ウのとおり、被告会社の従業員であり、本件発明の発明者でもあるIは、水道メーターの羽根車に取り付けられたマグネットと歯車に取り付けられたマグネットのカップリングが外れることなく、歯車が上記羽根車の動きに的確に追従することと、マグネットを歯車に固定すること との均衡を保つことを企図して、マグネット歯車本体の樹脂部材とマグネットの間隙の方向や程度について試行錯誤した結果、本件発明をするに至り、これに基づき、被告会社が本件特許出願をしたものである。こうした経過に照らせば、被告会社において、前訴の提起及び追行に際し、被告会社が本件特許出願以前に製造等していた水道メーターのマグネット歯車の 本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙があるとは認識していなかったとしても不自然とはいえず、また、本件発明の請求項Eの「前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して」について、単にマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に、回転軸線方向に間隙が存在するというだけでは足りず、上記の均衡が保たれるような間隙であることが必 要であると解釈していたとしても、不自然とはいえない。 また、上記のような被告会社の認識及び解釈は、本件明細書の段落【0012】、【0026】及び【0027】の記載に沿うほか、前記(2)イ(イ)のとおり、被告会社が平成3年10月7日付けで作成した従動マグネット及びマグネット歯車に関する図面(甲9の18)において 012】、【0026】及び【0027】の記載に沿うほか、前記(2)イ(イ)のとおり、被告会社が平成3年10月7日付けで作成した従動マグネット及びマグネット歯車に関する図面(甲9の18)において、熱カシメ 部について「マグネット圧入後カシメのこと」との注記、マグネットの内側に突出した4か所リブを熱カシメすることでマグネットを固定する旨の記載、及びマグネットと熱カシメ部が接する部分について「すき間無きこと」との注記があること、被告会社が前訴において前記(2)エ(イ)①ないし③のとおり主張していたこととも整合するというべきである。 イこの点、前記(2)イ(ア)及び(ウ)ないし(オ)のとおり、本件特許出願以前 に被告会社が作成した平成13年11月27日付けの作業標準(甲12の3)等には、マグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙があることをうかがわせる記載がある。しかし、かかる間隙が水平方向のものか、回転軸線方向のものかについての記載はないから、上記作業標準等の記載が前記アの被告会社の認識及び解釈と矛盾するものとまではいえ ない。 また、前記(2)イ(カ)のとおり、被告会社が平成22年10月8日付けで作成したマグネット歯車ユニットの図面には、「注記」として、「熱カシメ後の球R部先端から、かしめリブ先端までの寸法hは、0.5~0.9とする。」との記載がある。しかし、熱カシメによる場合には、寸法に多 少のばらつきが生じることは避けられないものであるから、上記「注記」の記載は、そのようなばらつきを織り込んだものとみる余地があり、必ずしもマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙を生じさせることを指示する記載とまでは認められず、他にそのような指示の存在を認めるに足りる証拠もない。し 込んだものとみる余地があり、必ずしもマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙を生じさせることを指示する記載とまでは認められず、他にそのような指示の存在を認めるに足りる証拠もない。したがって、上記「注記」の記載も、前記 アの被告会社の認識及び解釈と矛盾するものとまではいえない。 ウ以上に加え、前記前提事実(2)のとおり、本件発明については、特許庁による審査を経て特許登録されたものであること、前記(2)エ(ア)のとおり、被告会社においては、前訴の提起に先立ち、本件マグネット歯車が本件特許権を侵害するものであるか否かについて、現物を取り寄せ、弁理士 を交えて検討したことなどを踏まえると、本件全証拠によっても、被告会社において、前訴の提起及び追行に際し、本件特許に新規性欠如の無効原因があると容易に知り得たものとは認めることはできないというべきである。 2 小括 以上によれば、被告会社による前訴の提起及び追行は、裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くとまでは認められないというべきであるから、原告らに対する違法な行為とはいえない。同様に、被告Gが被告会社の代表取締役として前訴の提起及び追行に関与したことについても、原告らに対する違法な行為とはいえない。 したがって、被告会社による前訴の提起及び追行について、被告会社の原告 らに対する不法行為が成立するとは認められず、かつ、被告Gの原告らに対する不法行為も成立するとは認められない。 第5 結論以上の次第で、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 小川暁 裁判官佐々木亮は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官 國分隆文 別紙物件目録 1 前澤給装工業株式会社の品名「乾式水道メータ13S」かつ器物番号「17-10004」乃至「17-10006」により示される各流量計13ミリ、 及び前澤給装工業株式会社の品名「乾式水道メータ20mm」かつ器物番号「16-324318」乃至「16-324320」により示される各流量計20ミリ、並びに株式会社阪神計器製作所の番号「1608683」乃至「1608685」により示される各流量計に使用されるマグネット歯車 2 前澤給装工業株式会社の品名「乾式水道メータ13S」かつ器物番号「17-10004」乃至「17-10006」により示される各流量計13ミリ、及び前澤給装工業株式会社の品名「乾式水道メータ20mm」かつ器物番号「16-324318」乃至「16-324320」により示される各流量計20ミリ、並びに株式会社阪神計器製作所の番号「1608683」乃至「1 608685」により示される各流量計に組み込まれる各流量計用指針ユニッ 至「16-324320」により示される各流量計20ミリ、並びに株式会社阪神計器製作所の番号「1608683」乃至「1 608685」により示される各流量計に組み込まれる各流量計用指針ユニットであって、その内部にマグネット歯車が使用されているもの以上

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