主文 1 防衛大臣が,原告に対し,平成29年10月6日付けでした行政文書の一部不開示決定処分のうち,別紙2対象文書目録記載の本件対象文書1ないし16の各文書に含まれる「曜日」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」, 「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単身赴任」,「単身」,「単身期間」,「連鎖性」,「新職務」,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」(ただし,このうち本件対象文書2ないし5に含まれるものを除く。),「備考(遺書)」の各項目について記載した部分を不開示とした部分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを二分し,その一を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 防衛大臣が,原告に対し,平成29年10月6日付けでした行政文書の一部不 開示決定処分について,不開示とした部分のうち,氏名以外の部分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要原告は,防衛大臣に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成 11年法律第42号)に基づき,陸上自衛隊北部方面隊所属の自衛隊員の自殺者数等が記載された行政文書の開示請求をしたところ,防衛大臣は,同請求に係る文書には,同法5条1号前段及び同号後段の不開示情報に該当する情報が含まれているとして,その一部を開示しない旨の決定を行った。 本件は,原告が,被告に対し,前記一部不開示決定のうち,氏名以外の不開示 とした部分の取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下,単に「法」という。)には 記一部不開示決定のうち,氏名以外の不開示 とした部分の取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下,単に「法」という。)には,以下の定めがある。 ⑴ 開示請求権(第3条)何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長(中略)に対し,当 該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。 ⑵ 行政文書の開示義務(第5条)行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。 一個人に関する情報(中略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただ し,次に掲げる情報を除く。 イ (以下略)⑶ 部分開示(第6条)1項行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分し て除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。 2項開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のう ち,氏名,生年月日その他の特定の この限りでない。 2項開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のう ち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとな る記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。 3 前提事実以下の事実は,当事者間で争いがないか,後掲各証拠又は弁論の全趣旨により 容易に認められる事実である。 ⑴ 開示請求原告は,平成29年8月10日,防衛大臣に対し,法4条1項に基づき,自衛隊北部方面隊所属の自衛隊員の自殺者に関して,①平成13年から平成28年までの間における年度ごとの人数,②所属駐屯地ごとの人数,③自殺者の年 齢,④未婚・既婚の別が記載された行政文書の開示請求を行った(甲1。以下「本件開示請求」という。)。 ⑵ 一部不開示決定本件開示請求に対し,防衛大臣は,下記のとおり行政文書の一部を不開示とする決定(以下「本件一部不開示決定」という。)をし,原告に対し,平成29 年10月6日付け行政文書開示決定通知書により,同決定の内容を通知した(甲2)。 ア文書の特定別紙2対象文書目録記載の本件対象文書1ないし16(甲3の1ないし3の16。以下,これらを総称して,単に「本件対象文書」という。)。 イ不開示とした部分本件対象文書の表中,項目並びに「連番」及び「No.」の列のそれぞれ一部を除く部分(甲3の1ないし3の16の黒塗り部分。以下「本件不開示部分」という。)。 ウ不開示の理由 本件不開示部分に記録されている情報は,個人に関する情報で No.」の列のそれぞれ一部を除く部分(甲3の1ないし3の16の黒塗り部分。以下「本件不開示部分」という。)。 ウ不開示の理由 本件不開示部分に記録されている情報は,個人に関する情報であり,特定 の個人が識別され,又は特定の個人を識別することはできないが,これを公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあることから,法5条1号に該当するため,不開示とした。 ⑶ 本件訴えの提起本件一部不開示決定を不服とした原告は,平成30年4月6日,本件訴えを 提起した。 4 争点本件の争点は次のとおりである。 ⑴ 本件不開示部分に記録された情報の不開示情報該当性(法5条1号)ア本件不開示部分に記録された情報が,法5条1号前段の「個人に関する情 報(中略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」(以下「個人識別情報」という。)に該当するか否かイ本件不開示部分に記録された情報が,同号後段の「特定の個人を識別する ことはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(以下「個人権利利益侵害情報」という。)に該当するか否か⑵ 本件不開示部分に係る部分開示(法6条2項)の可否ア本件不開示部分に記録された情報に含まれる各項目の記載が,法6条2項のいう「特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分」(以 下「個人識別部分」という。)に該当するか否かイ本件不開示部分に記録された情報に含まれる各項目について,個人識別部分に当たるものを除くことにより,同項の「公にしても,個人の権利 」(以 下「個人識別部分」という。)に該当するか否かイ本件不開示部分に記録された情報に含まれる各項目について,個人識別部分に当たるものを除くことにより,同項の「公にしても,個人の権利利益が害されるおそれ」(以下「個人権利利益侵害可能性」という。)がないといえるか否か 5 当事者の主張 ⑴ 不開示情報該当性(法5条1号)について(争点⑴)ア個人識別情報該当性(争点⑴ア)(被告の主張)法5条1号は,「個人に関する情報(中略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別するこ とができるもの」(個人識別情報)を不開示情報として定めている。同規定の文言に照らせば,当該情報に係る個人を識別させることとなる氏名その他の記述等の部分のみならず,氏名その他の記述等により識別される特定の個人に関する情報の全体が個人識別情報に当たることになる。すなわち,個人を識別し得る記述等以外の記述等も,個人識別情報に含まれ,不開示 とされるのである。 本件不開示部分に記録されている事項は,いずれも自殺した自衛隊員の個人に関する情報であるところ,本件対象文書には,表形式で,1行につき1人の自殺した自衛隊員に係る情報が項目ごとに区分されて記録されており,そのうちの一項目として自殺者の氏名が記載されている。そのた め,1行に記載された自殺した自衛隊員に関する情報が,全体として,氏名の記載により個人を識別することができる情報に当たることとなり,個人識別情報として不開示となる。 したがって,本件不開示部分に記録された情報は,いずれも法5条1号前段の個人識別情報に当たる。 仮に,本件不開示部分が,直ちに「特定の個人を識別することができる」個人に関する情 なる。 したがって,本件不開示部分に記録された情報は,いずれも法5条1号前段の個人識別情報に当たる。 仮に,本件不開示部分が,直ちに「特定の個人を識別することができる」個人に関する情報に当たらないとしても,次の理由により,「特定の個人を識別することができる」個人に関する情報に当たる。 氏名以外の記述等単独では必ずしも特定の個人を識別することができない場合であっても,当該情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わさ れることにより,特定の個人を識別することができれば,法5条1号の「そ の他の記述等により特定の個人を識別することができる」個人に関する情報に当たる。 また,当該情報単独では特定の個人を識別することができないとしても,「他の情報と照合すること」(法5条1号前段)(いわゆるモザイク・アプローチ)により特定の個人を識別することができるときには,個人識別情 報として不開示情報となる。 モザイク・アプローチにおいて照合の対象となる「他の情報」の範囲については,法が何人にも開示請求権を認めており,当該個人の同僚,親族等の当該個人と特殊な関係にある者も開示請求をする可能性があることからすれば,一般人が通常入手し得る情報ではなく,当該個人の同僚,親 族等のみが知り得る情報を基準に,特定の個人を識別することができるか否かを判断すべきである。 なお,これらによる個人識別性の判断に際しては,対象となる集団の規模が考慮要素となることは否定しないが,あくまでも当該個人の同僚,親族等のみが知り得る情報を基準として特定の個人を識別することができ るか否かを判断するに当たっての考慮要素となり得る場合があるというのにとどまる。 (原告の主張)本件不開示部分に記録された情報のうち,自殺した自衛隊員の「氏 定の個人を識別することができ るか否かを判断するに当たっての考慮要素となり得る場合があるというのにとどまる。 (原告の主張)本件不開示部分に記録された情報のうち,自殺した自衛隊員の「氏名」が法5条1号前段の個人識別情報に当たることは争わないが,それ以外の 全ての項目までもが個人識別情報に当たるとの主張は争う。 法の目的は,政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすること及び国民の的確な理解と批判の下に公正で民主的な行政の推進に資することにある。そして,法5条1号前段が,個人識別情報を例外的に不開示としている趣旨は,個人の正当な権利利益,とりわけプライバシー の保護にある。 法は,不開示情報を定めるに当たり,プライバシー侵害の有無ではなく,個人の識別可能性を基準として,不開示情報の範囲を定めているが,このような個人識別情報型の定めによる場合,不開示情報の範囲が広範になってしまうことは,多数の文献において指摘されているところである。かかる指摘に加えて,前記のような法の趣旨を鑑みれば,個人識別情報の範囲 を画する上では,行政の説明責任として十分か,国民の理解と批判が可能か,個人のプライバシーを侵害することがないかという観点からの実質的な解釈が必要である。 そして,法5条の趣旨がプライバシーの保護にあることから,そもそも,プライバシーに関する情報を認識していることが想定される者に開示を したところで,新たなプライバシー侵害が生じるわけではない。 法5条1号前段が個人識別情報型を採用したのは,プライバシー型ではその範囲が不明確になり,開示・不開示の決定の円滑,安定を損なう結果となるためである。行政が,国民からの開示請求に対し,効率的かつ安定的な判断を行うためには,当該個人の同僚や は,プライバシー型ではその範囲が不明確になり,開示・不開示の決定の円滑,安定を損なう結果となるためである。行政が,国民からの開示請求に対し,効率的かつ安定的な判断を行うためには,当該個人の同僚や親族等の関係者が知り得る情 報を基礎として特定の個人を識別できるか否かという極めて個別具体的な判断を行うのではなく,一般人にとって入手可能な情報を基礎として,特定個人を識別できるか否かという客観的になし得る判断を行うことが合理的である。他方で,特定個人の同僚や親族が入手可能な情報であるか否かなどは,5条1項本文後段の「特定の個人を識別することはできない が,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」の解釈において考慮することができる。 したがって,モザイク・アプローチの際に考慮する「他の情報」の範囲は,あくまで一般人が通常の調査により入手可能な情報に限定して理解すべきである。 なお,個人識別性の判断に際しては,対象となる集団の規模が重要な考 慮要素となる。開示の対象となる集団の構成員が極めて大きい場合には,当該個人が識別される可能性は一般的に低いというべきである。 本件不開示部分に記録されている各項目は,当該情報が開示されたとして直ちに特定の個人を識別することができる情報とはならない。氏名を秘した状態で,「方面」「所属」「年齢」「階級」等の欄のいずれか,あるいは 複数が開示されたとしても,およそ特定の個人を識別することは困難だからである。 本件一部不開示決定は,他の事例における防衛省の運用だけでなく,厚生労働省,文部科学省,総務省,また,国と同じ個人識別情報型の不開示情報の規定を置いている札幌市の運用とも異なる解釈運用を行うもので あって(甲5,6,11,14ないし23) 用だけでなく,厚生労働省,文部科学省,総務省,また,国と同じ個人識別情報型の不開示情報の規定を置いている札幌市の運用とも異なる解釈運用を行うもので あって(甲5,6,11,14ないし23),法の趣旨に反する。 イ個人権利利益侵害情報該当性 (被告の主張)上記ア(被告の主張)のとおり,本件不開示部分は,全て個人識別情報であり,不開示情報に当たるが,仮にそうでないとしても,法5条1号後段の 個人権利利益侵害情報に当たる。 法5条1号後段は,特定の個人を識別できない情報であったとしても,個人の人格と密接に関連したり,公にすれば財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがあると認められるものを,不開示情報として規定している。 本件不開示部分に記録されている各項目には,自殺した自衛隊員の死亡に 関する情報が含まれており,しかも,自殺者個人の属性に関する事項のほか,自殺の原因,自殺の方法,遺書の有無など自殺者の人格と密接に関連する情報が記録されている。このような情報は,自殺した自衛隊員の親族等の同意なくして第三者に流通させることは適切でない。 したがって,本件不開示部分に記録されている情報は,いずれも「公にす ることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある」情報に当たる。 (原告の主張)争う。被告の主張は,「公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある」の解釈を不当に広げるものである。 仮に被告の主張する解釈を前提とするとしても,本件不開示部分に含まれる各項目の記載欄は狭く,そこに記載されている文言は極めて抽象的なもの と推認される。そうすると,かかる記載が開示されたとしても,個人の権利利益を害するおそれがあるとはいえない。 ⑵ 部分開示(法6条2項)の可否につい こに記載されている文言は極めて抽象的なもの と推認される。そうすると,かかる記載が開示されたとしても,個人の権利利益を害するおそれがあるとはいえない。 ⑵ 部分開示(法6条2項)の可否について ア個人識別部分該当性ア)(被告の主張) 個人識別情報の範囲は,氏名その他の記述等により識別される特定の個人に関する情報の全体を含むものであるところ,個人識別情報は,①氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなる情報を含む。)の部分(個人識別部分)と,②その他特定の個人に関する情報 の部分(以下「その他部分」という。)から成り立っている。 このうち個人識別部分について,氏名以外に個人の識別につながり得る記述等の例として,住所,電話番号,個人に付された記号・番号等があげられるところ,これらの各記述等単独では,必ずしも特定の個人を識別することができない場合もあるが,当該情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わ されることによって,特定の個人を識別することができることとなる場合が多い。このことからすれば,当該記述等単独では特定の個人を識別できないが,個人識別情報に含まれる他の記述等と組み合わされることによって特定の個人を識別することができる場合にも,当該記述等は個人識別部分に当たると解すべきである。 また,特定の個人を識別することができるか否かの検討に当たっては,「他 の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなる」か否かの検討(モザイク・アプローチ)が行われるが,ここにいう「他の情報」との照合は,当該個人の同僚,親族等のみが知り得る情報を基準に行われるべきであるこ 定の個人を識別することができることとなる」か否かの検討(モザイク・アプローチ)が行われるが,ここにいう「他の情報」との照合は,当該個人の同僚,親族等のみが知り得る情報を基準に行われるべきであることは,前記⑴ア(被告の主張)のとおりである。 本件不開示部分に記録されている各項目のうち,(ア)「事故日時」,「自殺 月日及び曜日」,「報告月日」,「所属」,「駐屯地」,「氏名」,「階級」,「場所」,「補職」は,当該記述等単独で特定の個人を識別することのできる記述等である。そして,(イ)「方面」,「性別」,「職種」,「年齢」,「年齢区分」,「任用区分」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」,「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単身赴任」,「単身」,「単身期間」, 「連鎖性」,「新職務」は,当該記述等単独では必ずしも特定の個人を識別することができないが,個人識別情報に含まれる他の情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わされることによって特定の個人が識別することのできる記述等である。 (原告の主張) 被告は,当該記述等単独では必ずしも特定の個人を識別することはできないが,当該情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わされることによって特定の個人を識別することのできる記述等も,個人識別部分として,部分開示が認められないと主張する。しかし,かかる被告の主張によれば,被告は,将来なされるかもしれない情報開示請求を斟酌し,その点を考慮しながら開 示請求に対する判断を行っているということになる。被告の主張は,開示請求者が何らかの人的あるいは組織的つながりを持ち,共謀を図って情報開示請求を行うことを想定するものというべきであるところ,被告がこのような不合理な想定に基づいて開示請求に対 る。被告の主張は,開示請求者が何らかの人的あるいは組織的つながりを持ち,共謀を図って情報開示請求を行うことを想定するものというべきであるところ,被告がこのような不合理な想定に基づいて開示請求に対する判断を行うとすれば,行政の説明責任及び民主的な行政の推進という法の趣旨が損なわれる。したがって,か かる被告の解釈は相当性を欠くというべきである。 また,「他の情報と照合」(法5条1号前段)するモザイク・アプローチの際に考慮する「他の情報」について,あくまで一般人が通常の調査により入手可能な情報に限定して理解すべきであることは,前記⑴ア(原告の主張)のとおりである。 被告は,本件不開示部分に含まれる各項目につき,個人識別部分に当たる と主張するが,被告の説明はいずれも一般的かつ抽象的であり,個人識別可能性を具体的に明らかにするものではない。 イ個人権利利益侵害可能性 (被告の主張)本件不開示部分のうち,上記⑵アの被告の主張において個人識別部分に該 当するとした以外の項目(「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」,「処分歴」,「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」,「備考(遺書)」)は,いずれも自殺者の人格等と密接に関連する事項であり,自殺した自衛隊員等の親族等の同意なくして第三者に流通させることは適切でない。したが って,公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれがある。 (原告の主張)法6条2項が「個人の権利利益が害されるおそれ」について規定しているのは,情報コントロール権ないしプライバシー権の保護を趣旨とするものである。 プライバシー権は,特定個人の識別を通じ,そ 法6条2項が「個人の権利利益が害されるおそれ」について規定しているのは,情報コントロール権ないしプライバシー権の保護を趣旨とするものである。 プライバシー権は,特定個人の識別を通じ,その個人の情報が公開されることで侵害されるのであって,特定個人が識別できない場合には,当該情報を公開してもプライバシーの侵害となることは,原則としてない。したがって,「公にしても,個人の権利利益が害されるおそれ」の判断は,限定的に考えられるべきであり,内容が極めてセンシティブなもの,個人の人格的尊厳 に関わる極めて高度なプライバシー情報のみがこれに当たると解すべきで ある。そして,かかる意味でのセンシティブで高度なプライバシー情報に当たるためには,一定程度具体的で詳細な内容でなければならない。 本件不開示部分に含まれる各項目のうち,公にすることにより個人の権利利益を侵害するおそれがあると被告が主張する各項目は,いずれも高度なプライバシー情報には当たらないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 本件対象文書は,防衛省が,自衛隊員の自殺防止施策の検討等を行うために, 陸上幕僚監部人事教育部人事教育計画課服務室の自殺防止担当者が,各年度に発生した自衛隊員の自殺に関する情報を取りまとめ,年度ごとに作成した文書である。なお,本件対象文書の閲覧者は,同服務室室長及び自殺防止担当者等に限定されており,陸上自衛隊の部隊等へは一切提供されていない(甲2,3の1ないし3の16,弁論の全趣旨)。 ⑵ 本件対象文書には,いずれも自殺した自衛隊員に関する情報が表形式で記載されている。 表には,1行につき1人の自殺した自衛 供されていない(甲2,3の1ないし3の16,弁論の全趣旨)。 ⑵ 本件対象文書には,いずれも自殺した自衛隊員に関する情報が表形式で記載されている。 表には,1行につき1人の自殺した自衛隊員に関する情報が,項目ごとに区分されて記載されている。防衛省における自殺防止施策の検討等は,年度によって検討項目が異なるため,年度ごとに本件対象文書に記録されている項目も 異なっており,本件対象文書1ないし16には,別紙3の「○」が付された「項目名」欄について,「項目の意味」欄記載の内容が記載されている(甲3の1ないし3の16,弁論の全趣旨。以下,別紙3記載の各項目のうち,「氏名」以外のものを総称して,「本件各項目」という)。 2 争点に対する判断 ⑴ 法5条1号の不開示情報該当性について(争点⑴) ア個人識別情報該当性(同号前段)について(争点⑴ア)法5条1号前段は,「個人に関する情報(中略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」を不開示情報として定めてい る。 同規定の文言に照らせば,同規定により不開示となる情報は,「当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別することができる」「個人に関する情報」であるところ,ある個人に関する情報のうちに,氏名,生年月日等の特定の個人の識別を可能にする記 述等が含まれている場合には,当該記述等以外の部分をも含めた情報全体が,特定の個人を識別することができる情報として不開示になるものと解される。 これを踏まえて本件について検討するに,前記第3.1認定事実⑵のとお る場合には,当該記述等以外の部分をも含めた情報全体が,特定の個人を識別することができる情報として不開示になるものと解される。 これを踏まえて本件について検討するに,前記第3.1認定事実⑵のとおり,本件不開示部分には,表形式で,1行につき1名の自殺した自衛隊 員の個人に関する情報が記録されており,別紙3の表のとおり,各自衛隊員に関する情報には,いずれにも当該自衛隊員の氏名が含まれている。法5条1号前段から明らかなとおり,氏名は個人の識別を可能にする記述等に当たるから,本件不開示部分を含めた各自衛隊員に関する情報は,いずれも氏名の記載によって特定の個人を識別することができることとなる。 そうすると,本件不開示部分に記録されている各自衛隊員の情報は,氏名以外の項目も含めて,全体として法5条1号の個人識別情報に該当するものと解される。 これに対し,原告は,氏名を秘した状態で他の項目を開示しても,およそ特定の個人を識別することは困難であることから,本件不開示部分に記 録されている情報のうち氏名以外の項目に係る部分は,個人識別情報には 当たらないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,当該情報の中に,特定の個人の識別を可能にする氏名,生年月日その他の記述等が含まれていれば,かかる記述等以外の部分も含めて全体として個人識別情報に当たるというのが法の定めであって,原告の前記主張は,法5条1号前段の定めと整合しないから, 採用することができない。 以上より,本件不開示部分に記録された情報は,いずれも法5条1号前段の個人識別情報に該当する。 イそうすると,本件不開示部分に記録された情報が,法5条1号後段の個人権利利益侵害情報に該当するか(争点⑴イ)について判断するまでもなく, 本件不開示部分に 段の個人識別情報に該当する。 イそうすると,本件不開示部分に記録された情報が,法5条1号後段の個人権利利益侵害情報に該当するか(争点⑴イ)について判断するまでもなく, 本件不開示部分に記録されている情報は,法5条1号により不開示情報となる。 そこで,以下,本件不開示部分に記録されている情報に含まれる各項目につき,法6条2項に基づく部分開示がされるべきか否かについて検討する。 ⑵ 法6条2項の部分開示の可否について(争点⑵) ア部分開示(法6条2項)の対象法6条1項は,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない」と定め,行政機関の長の部分開示 の義務を定めている。 そして,法6条2項は,開示請求の対象となった行政文書に個人識別情報が含まれている場合における部分開示について定めており,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書に個人識別情報が記録されている場合でも,当該個人識別情報に含まれる「氏名,生年月日その他の特定の個人を識別すること ができることとなる記述等の部分」(個人識別部分)を除くことで,「公にし ても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるとき」には,個人識別情報から個人識別部分を除いた部分につき,部分開示の義務を負うこととされている。 前記⑴アのとおり,本件不開示部分に記録されている自殺した自衛隊員の情報は,いずれも個人識別情報に該当するが,同情報に含まれる本件各項目 について,個人識別部分に当たるものを除くことで「公にしても,個人の権利利益が害されるおそれ」(個人権利利益侵害 自衛隊員の情報は,いずれも個人識別情報に該当するが,同情報に含まれる本件各項目 について,個人識別部分に当たるものを除くことで「公にしても,個人の権利利益が害されるおそれ」(個人権利利益侵害可能性)がないと認められるのであれば,法6条2項に基づき,個人識別部分以外の部分は,部分開示の対象となる。 被告は,上記と同様の解釈を前提にしつつ,本件不開示部分に含まれる本 件各項目はいずれも①個人識別部分に当たる,又は,②個人権利利益侵害可能性があるから,部分開示の対象とはならない旨主張するので,以下,本件各項目について,①個人識別部分に該当するか否か,②個人権利利益侵害可能性が認められるか否かを検討する。 イ個人識別部分該当性(争点⑵ア) 個人識別部分該当性の判断基準a 被告の主張被告は,本件各項目のうち,以下の項目について,個人識別部分に該当すると主張する。 (A)「事故日時」,「自殺月日及び曜日」,「報告月日」,「所属」,「駐屯 地」,「階級」,「場所」,「補職」(B)「方面」,「性別」,「職種」,「年齢」,「年齢区分」,「任用区分」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」,「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単身赴任」,「単身」,「単身期間」,「連鎖性」,「新職務」 被告は,このうち(A)については,当該記述等単独で特定の個人を 識別することのできる記述等であると主張し,(B)については,当該記述等単独では必ずしも特定の個人を識別することができないが,個人識別情報に含まれる他のいくつかの記述等が組み合わされることによって特定の個人を識別することのできる記述等であると主張する。 かかる被告の主張を検討するに当たり,個人識 別することができないが,個人識別情報に含まれる他のいくつかの記述等が組み合わされることによって特定の個人を識別することのできる記述等であると主張する。 かかる被告の主張を検討するに当たり,個人識別部分該当性をいかに 判断すべきかについて検討する。 b 他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる記述等法5条1号前段の個人識別情報に該当するか否かの判断に当たっては,他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる か(モザイク・アプローチ)の検討を要するところ,法6条2項の個人識別部分についてもこれと別異に解すべき理由はない。したがって,個人識別部分に該当するか否かの判断に当たっても,同様に,かかる他の情報との照合による個人の識別可能性を検討する必要があると解される。 そこで,ここにいう「他の情報」の範囲をいかに解すべきかが問題となるが,法3条が,「何人も」行政文書の開示請求を行うことができると定めていることからすれば,親族や同僚等,特定の個人に近しい関係にある者から開示請求がされることも法は想定しているのであって,法5条1号前段の趣旨に照らせば,かかる特定の個人に近しい人物によって 個人が識別されることも避けられなければならない。そうすると,前記の「他の情報」の範囲は,親族,同僚等の特定の個人が現に保有し又は入手可能な情報も含むものと解すべきである。 したがって,他の情報との照合に当たっては,親族,同僚等の特定の個人が現に保有し又は入手可能な情報を基準に,個人識別可能性を判断 すべきである。 これに対し,原告は,「他の情報」の範囲について,一般人にとって入手可能な情報を指し,特定の個人が入手可能な情報については,「公にすることにより,なお個人の すべきである。 これに対し,原告は,「他の情報」の範囲について,一般人にとって入手可能な情報を指し,特定の個人が入手可能な情報については,「公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある」か否かの判断で考慮すれば足りると主張する。情報の公開とプライバシーの保護とのバランスを図る1つの方法として傾聴に値するが,法は,個人のプ ライバシーを保護する方法として個人の識別可能性を問題としており,個人権利利益侵害可能性についても,「特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより」(法6条2項)として,個人識別可能性がないことを前提とした判断をすることを予定していると解されるから(なお,法5条の個人権利利益侵害情報の判断も同様 と解される。),原告の前記主張は採用できない。 c 当該情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わされることによって特定の個人の識別が可能となる記述等各記述等単独では特定の個人を識別することができないが,それらが組み合わされることによって特定の個人を識別することのできる場合, 法5条1号前段が,個人を識別することのできる情報を不開示とすることによって,個人のプライバシー等の権利利益を保護する趣旨の規定であることからすると,このような場合にも,個人の権利利益を保護する必要があると解される。そうすると,このような場合には,特定の個人の識別に結び付くそれらのいくつかの記述等の全体が「その他の特定の 個人を識別することができることとなる記述等の部分」として,部分開示においても不開示となると解するのが相当である。 以上の検討を踏まえて,以下,被告が個人識別部分に該当すると主張する前記(A)(B)の各項目に関して,それぞれ個人識別部分に該当 」として,部分開示においても不開示となると解するのが相当である。 以上の検討を踏まえて,以下,被告が個人識別部分に該当すると主張する前記(A)(B)の各項目に関して,それぞれ個人識別部分に該当するかについて検討する。 a 「事故日時」「自殺月日」 「事故日時」「自殺月日」には,当該自衛隊員が自殺した日付が記載されている。 自殺した日付は,当該自衛隊員の親族及び同僚であれば知っているか又は容易に知り得る情報であると考えられるから,当該自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別すること ができる記述等であると認められる。 b 「曜日」「曜日」には,当該自衛隊員が自殺した曜日が記載されている。 曜日は日付を構成する要素ではあるものの,曜日の摘示のみによって日付を特定することは困難である。そうすると,自殺した曜日のみが開 示されたとしても,当該自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することは困難というべきである。 したがって,「曜日」は個人識別部分には当たらない。 c 「報告月日」「報告月日」には,自殺の発生について部隊等から陸上幕僚監部へ報 告がなされた月日が記載されている。 報告がなされるのは,自殺が発生した日から近接した時期であると考えられるから,報告月日の記載によって,自殺した日をある程度推測することが可能である。そのため,前記「事故日時」「自殺月日」と同様に,当該自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって 個人を識別することができる記述等であると認められる。 d 「所属」「所属」には,自殺した自衛隊員の所属する部隊等が記載されており,最小単位では中隊等のレベルまで記載されている って 個人を識別することができる記述等であると認められる。 d 「所属」「所属」には,自殺した自衛隊員の所属する部隊等が記載されており,最小単位では中隊等のレベルまで記載されている。そして,中隊等であると,少ないものでは所属人数が50人程度というものもある(乙7)。 自殺した自衛隊員の親族及び同僚は,当該自衛隊員の所属する部隊等, 自殺した事実及び年度を知っていると考えられる。そして,前記の程度の人数の集団において,1年間に複数人が自殺することは稀であると考えられるから,「所属」の記載は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 e 「駐屯地」「駐屯地」には,自殺した自衛隊員が所属していた部隊等が所属する駐屯地が記載されている。駐屯地の規模は,小規模なものだと,所属人員が200名程度である(乙8)。 自殺した自衛隊員の親族及び同僚は,当該自衛隊員の所属する駐屯地, 自殺した事実及び年度を知っていると考えられる。そして,前記の程度の人数の集団において,1年間に複数人が自殺することは稀であると考えられるから,「駐屯地」の記載は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 f 「階級」「階級」には,自衛隊員については階級,事務官等については俸給表の種別及び級が記載されている。 自衛隊員には,2士から将までの階級があるところ,平成30年度3月末の時点で,そのうち将は30人,将補は110人となっており(乙 9),階級が高いとその階級に属する者が少数となる。 自殺した自衛隊員の親族及び同僚は,当該自衛隊員の属 ころ,平成30年度3月末の時点で,そのうち将は30人,将補は110人となっており(乙 9),階級が高いとその階級に属する者が少数となる。 自殺した自衛隊員の親族及び同僚は,当該自衛隊員の属する階級,自殺した事実及び年度を知っていると考えられる。そして,前記のように少数人しか属さない階級において,1年間に複数人が自殺することは稀であると考えられるから,「階級」の記載は,自殺した自衛隊員の親族及 び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することが できる記述等であると認められる。 g 「場所」「場所」には,当該自衛隊員が自殺した場所が記載されている。 自殺した自衛隊員の同僚は,当該自衛隊員が自殺した場所を知り得ると考えられる。また,自殺した自衛隊員の親族は,自衛隊から,自殺し た際の状況についての説明を受け,自殺した場所を知っているものと考えられる。そうすると,自殺した場所が開示されることによって,当該自衛隊員の親族及び同僚において,個人を特定することが可能と考えられる。したがって,「場所」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等 であると認められる。 h 「補職」(以上,前記(A)の項目)「補職」の欄には,自殺した自衛隊員の具体的な補職名が記載されている。補職は,階級に比べて該当する者がより少数であると考えられ,前記「階級」と同様に,ある補職から年に複数人が自殺することは稀で あると考えられるから,自殺した自衛隊員の補職を知り得る親族及び同僚において,個人を識別することが可能と考えられる。したがって,「補職」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができ 隊員の補職を知り得る親族及び同僚において,個人を識別することが可能と考えられる。したがって,「補職」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 i 「方面」(以下,前記(B)の項目) 「方面」の欄には,自殺者が所属する部隊等が所属する方面隊等(北部方面隊(北海道地域を管轄している),東北方面隊,東部方面隊,中部方面隊,西部方面隊,その他直轄部隊の別)が記載されている。方面隊は,駐屯地及び部隊を包含する単位であるところ,1つの方面隊に所属する自衛隊員の人数は駐屯地及び部隊に比して多数である。 しかし,本件対象文書に記載されている各年度の自殺者は多くても6 0人強であること(甲3の1ないし3の16)に鑑みると,方面隊の記載によって少なくとも自殺者を数人単位まで特定することが可能である。そうすると,方面隊の記載のみで自殺者個人を識別することができなくても,「性別」,「職種」,「年齢」「年齢区分」等の項目における記載を合わせると,当該他の項目に係る情報を知っている親族及び同僚にお いては,特定個人を識別することが可能と考えられる。したがって,「方面」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 j 「性別」「性別」には,自殺した自衛隊員の性別が記載されている。全自衛隊 員に占める女性自衛隊員の割合は少数であるから(乙4),自殺した自衛隊員に占める女性の割合も低いものと考えられ,自殺者総数が少ない年度においては,自殺者のうち女性が1名しかいないということも考えられる。そうすると,自殺者の自殺した年度を知っている親族及び同僚からすれ に占める女性の割合も低いものと考えられ,自殺者総数が少ない年度においては,自殺者のうち女性が1名しかいないということも考えられる。そうすると,自殺者の自殺した年度を知っている親族及び同僚からすれば,自殺者の性別(女性であること)が開示されることによっ て,当該自殺者個人を識別することが可能と考えられる。また,仮に女性の自殺者が複数いた場合であっても,女性自衛隊員の割合の低さに照らせば,「方面」,「職種」,「年齢」等の情報と合わせることで,自殺者を特定することが可能と考えられる。したがって,「性別」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を 識別することができる記述等であると認められる。 k 「職種」「職種」には,自衛隊員については職種(普通科,特科,機甲科等の14種。乙5),事務官等については俸給表の種別及び級の別が記載されている。職種の中には,音楽,警務など所属する者が極めて少数のも のがある。また,年度によっては,職種ごとに自殺者数に偏りが出るこ ともあり得る。このようなことからすれば,職種が開示されることによって,自殺者を数人単位まで特定することが可能になると考えられる。 そうすると,職種に加えて,「方面」,「性別」,「年齢」,「入隊後年」等の項目の記載を合わせることによって,これらの項目に係る情報を知っている親族及び同僚において,特定の個人を識別することが可能と考えら れる。したがって,「職種」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 l 「年齢」「年齢区分」「年齢」には,自殺した自衛隊員の年齢が記載されている。本件対象 文書に記載されている各年度に によって個人を識別することができる記述等であると認められる。 l 「年齢」「年齢区分」「年齢」には,自殺した自衛隊員の年齢が記載されている。本件対象 文書に記載されている各年度における自殺者が多くても60人強であることからすれば,当該年度において,同一年齢の自殺者が存在しないことがあると考えられる。そうすると,年齢が開示されることによって,当該自殺者の年齢を知っている親族及び同僚において,当該自殺者個人の識別が可能であると考えられる。 また,「年齢区分」は,自殺した自衛隊員の年齢区分(5歳区切り)が記載されているが,これについても,年齢と同様に,開示されることによって少なくとも自殺者を数人単位まで特定することができると考えられる。これに「方面」,「性別」,「職種」等の項目に係る記載を合わせることで,これらの項目に係る情報を知っている親族及び同僚において, 特定の個人を識別することが可能と考えられる。したがって,「年齢」及び「年齢区分」は,自殺した自衛隊員の親族及び同僚が保有する情報と照合することによって個人を識別することができる記述等であると認められる。 m 「任用区分」 「任用区分」には,自衛隊員の採用時の試験区分が記載されるが,当 該区分によって階級の昇進の度合が異なり,任用区分と年齢を組み合わせることによってある程度階級を推測することができる。また,任用区分によっては職種が限定される場合もある(防衛医科大学校で任用されている者であれば医療分野など)。このように,任用区分は,職種や階級と関連し,特定の個人の識別を可能にするものである。 n 「学歴」「手段」「方法」「時間」「入隊後年」「出身」「既,未婚」「妻」「海外派遣」「営内外」「家族」「単身赴任」「単身」 種や階級と関連し,特定の個人の識別を可能にするものである。 n 「学歴」「手段」「方法」「時間」「入隊後年」「出身」「既,未婚」「妻」「海外派遣」「営内外」「家族」「単身赴任」「単身」「単身期間」「新職務」標記の各項目の記載内容は,それぞれ別紙3の表の「記載内容」欄のとおりである。 これらの各項目は,いずれも当該自衛隊員個人の属性について記載し たものであるところ,これらが開示されることによって,開示された内容に該当する個人が限定されていくことは,抽象的には理解できないではない。しかしながら,これらの項目は,肩書,年齢,性別など通常個人を特定する要素としても利用されている内容に関連する上記iないしmの各記述に比して,個人の特定に資する程度が一般的に弱いといえ る上,被告の主張に照らしても,これらの各項目がそれぞれどのようにして個人の特定につながるのかが具体的に明らかになっているとは認められない。そうすると,これらの各項目が開示されることによって,特定の個人が識別される可能性があると認めることはできない。 したがって,「学歴」「手段」「方法」「時間」「入隊後年」「出身」「既, 未婚」「妻」「海外派遣」「営内外」「家族」「単身赴任」「単身」「単身期間」「新職務」は,個人識別部分には当たらないと解される。 o 「連鎖性」「連鎖性」の項目には,連鎖自殺に該当するか否かが記載されている。 被告は,連鎖自殺に該当するとの情報が開示されることにより,自殺 した自衛隊員の同僚や親族等が知り得る情報とあいまって,自殺した自 衛隊員個人を特定することが可能であると主張するが,連鎖自殺に当たるかというのは,事実そのものではなく,事実の評価にわたるものといえるところ,自殺した自衛隊員の親族や同 ,自殺した自 衛隊員個人を特定することが可能であると主張するが,連鎖自殺に当たるかというのは,事実そのものではなく,事実の評価にわたるものといえるところ,自殺した自衛隊員の親族や同僚等が,当該自衛隊員の自殺が連鎖自殺であったか否かについて当然に認識しているとは考え難い。 したがって,連鎖自殺該当性の有無が開示されることによって,特定の 個人が識別されるとは認められない。 したがって,「連鎖性」の項目は,個人を識別することができる記述等には当たらない。 小括以上の検討に照らせば,被告が個人識別部分と主張する項目のうち, a 「事故日時」,「自殺月日」,「報告月日」,「所属」,「駐屯地」,「氏名」,「階級」,「場所」,「補職」,「方面」,「性別」,「職種」,「年齢」,「年齢区分」,「任用区分」は,個人識別部分に当たる。 b これに対し,「曜日」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」,「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単 身赴任」,「単身」,「単身期間」,「連鎖性」,「新職務」は,個人識別部分に当たるとはいえない。 ウ個人権利利益侵害可能性(争点⑵イ)被告は,本件各項目のうち,以下の項目について,公にすることにより,個人の権利利益が害されるおそれ(個人権利利益侵害可能性)があると主 張する。 「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」,「処分歴」,「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」,「備考(遺書)」法6条2項は,前記のとおり,個人識別情報から個人識別部分を除いた 部分について,「公にしても,個人の権利利益が害さ 「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」,「備考(遺書)」法6条2項は,前記のとおり,個人識別情報から個人識別部分を除いた 部分について,「公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと 認められるとき」に部分開示を義務付けており,個人識別部分を除いた部分について,個人の権利利益を害するおそれが認められる場合には,当該部分は部分開示の対象とはならない。このように,法6条2項が,個人の権利利益侵害のおそれに着目し,部分開示の対象を制限しているのは,法5条1号後段が,個人権利利益侵害情報を不開示情報としたのと同一の趣 旨に出たものと解される。 そうすると,法6条2項の「個人の権利利益が害されるおそれ」は,法5条1号後段の個人権利利益侵害情報該当性と同様に判断すべきと解される。そして,法5条1号後段の個人権利利益侵害情報,すなわち,「個人に関する情報であって」「特定の個人を識別することはできないが,公に することにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは,個人の人格的利益に密接に関連する情報であり,当該個人の意思によることなく流通させることが相当でないと認められるものを指すと解される。 したがって,法6条2項の個人権利利益侵害可能性が認められるかどうかは,当該記述等が個人の人格的利益と密接に関連するもので,当該個人 の意思によることなく流通させることが相当でないといえるか否かという観点から判断すべきである。 これを踏まえて,以下,被告が,個人権利利益侵害可能性があると主張する前記各項目について検討する。 a 「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」,「処分歴」, 「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」これらの項目 する前記各項目について検討する。 a 「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」,「処分歴」, 「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」これらの項目に記載されている事項は,いずれも,当該自衛隊員の自殺の要因となったと推定される事実である。 自殺は,自らの意思で死を選択する極めて機微にわたる行為であって,その意思決定に当たっては,当該個人の取り巻く環境や将来に対する全 人格的判断が伴うと考えられるから,自殺者が自殺に至った要因は,当 該自殺者の人格的利益と密接に関連するものというべきである。そして,自殺に係る意思決定が,個人の内心におけるものであり,極めて私的な事柄であることに照らせば,当該自殺者の意思を離れて,その意思決定の内容を流通させることは相当でないというべきである。 そして,前記各項目記載の事項は,いずれも,自衛隊員の自殺につい て調査をした部隊が推定した自殺の要因に関して記載されたものと考えられるから,それら事実は,各自衛隊員が自殺するに至った意思決定の内容を推知させるものとして,個人の人格と密接に関連を有するものというべきである。 したがって,「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」, 「処分歴」,「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」の各項目は,いずれも個人権利利益侵害可能性が認められる。 これに対し,原告は,本件対象文書の標記各項目の欄が狭いことから,自殺の要因が具体的に表されているものではなく,個人の人格的利益と密接に関連するものとはいえないと主張する。しかしながら,自殺の要 因は,ある程度端的な記載によっても表現することが可能なものと考えられるから,項目欄が狭いことをもって,項目欄に記載さ 利益と密接に関連するものとはいえないと主張する。しかしながら,自殺の要 因は,ある程度端的な記載によっても表現することが可能なものと考えられるから,項目欄が狭いことをもって,項目欄に記載されている自殺の要因が個人の人格的利益と密接に関連しないということはできない。 よって,原告の主張は採用することができない。 b 「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」 これらの項目欄は,いずれも,自衛隊入隊時に実施した適性検査の結果を記載したものである。そして,同記載は検査により明らかとなった当該自衛隊員の知能の程度,人格的特徴,性格傾向を表すものである。 知能の程度,人格的特徴,性格的傾向といった事柄が,個人の人格に関連性を有するものであることは否定できないが,前記項目に記載され ているのは,複雑な様相を呈する個人の知能の程度,人格的特徴,性格 傾向といったものを,一定の科学的知見に基づいて類型的に把握し,その結果を数値的に表現したものに過ぎない。そうすると,当該検査の結果をもって,個人の人格的利益に密接に関連するものということはできない。 したがって,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」の各項目 は,いずれも公にすることにより,個人権利利益侵害可能性があるとは認められない。 c 「備考」,「備考(遺書)」「備考」の項目は,本件対象文書2ないし8の不開示部分に含まれているところ,そのうち,本件対象文書2ないし5においては,自殺の遠 因及び遺書の有無等の特記事項の記載がされており,他方,本件対象文書6ないし8は,遺書の有無のみが記載されている。 「備考(遺書)」の項目は,本件対象文書9ないし16に含まれており,遺書の有無が記載されている。 本件対象文書2ない されており,他方,本件対象文書6ないし8は,遺書の有無のみが記載されている。 「備考(遺書)」の項目は,本件対象文書9ないし16に含まれており,遺書の有無が記載されている。 本件対象文書2ないし5に記載された自殺の遠因は,前記a で説示し たとおり,当該自衛隊員の自殺の原因を推知させるものとして,個人の人格的利益と密接に関連するものというべきである。 したがって,本件対象文書2ないし5記載の「備考」欄は,個人権利利益侵害可能性が認められる。 他方,本件対象文書6ないし8の「備考」欄及び本件対象文書9ない し16の「備考(遺書)」欄に記載された遺書の有無は,遺書の内容とは異なり,それ自体が個人の人格的利益と密接に関連するということはできない。 したがって,本件対象文書6ないし8の「備考」欄及び本件対象文書9ないし16の「備考(遺書)」欄の記載は,いずれも公にすることによ り,個人の権利利益を害するおそれのあるものとは認められず,部分開 示が義務付けられる。 小括以上のとおり,被告が,個人権利利益侵害可能性があると主張する各項目のうち,「部隊の判断」,「診断」,「主要因」,「関連要因」,「原因」,「処分歴」,「借財」,「疾病・通院歴」,「特記事項(離婚,昇任等)」,「備考」(た だし,本件対象文書2ないし5に含まれるものに限る。)については,個人権利利益侵害可能性があるものとして,部分開示の対象とはならない。 他方で,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」(ただし,本件対象文書2ないし5を除く。),「備考(遺書)」は,個人権利利益侵害可能性が認められないため,部分開示が義務付けられる。 エまとめ以上の検討に照らせば,本件において,部分開示が義務付けら 象文書2ないし5を除く。),「備考(遺書)」は,個人権利利益侵害可能性が認められないため,部分開示が義務付けられる。 エまとめ以上の検討に照らせば,本件において,部分開示が義務付けられる項目は以下のとおりである。 「曜日」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」,「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単身赴任」,「単身」,「単 身期間」,「連鎖性」,「新職務」,「偏差値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」(ただし,このうち本件対象文書2ないし5に含まれるものを除く。),「備考(遺書)」したがって,本件一部不開示決定のうち,上記の各項目について記載した部分を不開示とした部分は,法6条2項に反する違法があるから,取り消さ れるべきである。 第4 結論以上より,原告の請求は,本件一部不開示決定のうち,「曜日」,「学歴」,「手段」,「方法」,「時間」,「入隊後年」,「出身」,「既,未婚」,「妻」,「海外派遣」,「営内外」,「家族」,「単身赴任」,「単身」,「単身期間」,「連鎖性」,「新職務」,「偏差 値」,「段階点」,「型」,「傾向」,「Y-G」,「備考」(ただし,このうち本件対象文 書2ないし5に含まれるものを除く。),「備考(遺書)」の各項目を不開示とした部分の取消しを求める限度では理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官谷口哲也 裁判官亀井佑樹 裁判官木村大慶 別紙2対象 谷口哲也 裁判官亀井佑樹 裁判官木村大慶 別紙2対象文書目録略称行政文書の名称本件対象文書1H13本件対象文書2平成14年度自殺者一覧表(14.4.1~15.3.31)本件対象文書3平成15年度自殺者一覧表(15.4.1~16.3.31)本件対象文書4平成16年度自殺者一覧表(16.4.1~17.3.31)本件対象文書5平成17年度自殺者一覧表(17.4.1~18.3.31)本件対象文書6平成18年度自殺者一覧表(18.4.1~19.3.31)本件対象文書7平成19年度自殺者一覧表(19.4.1~20.3.31)本件対象文書8平成20年度自殺者一覧表(20.4.1~21.3.31)本件対象文書9平成21年度自殺者一覧表(21.4.1~22.3.31)本件対象文書10平成22年度自殺者一覧表(22.4.1~23.3.31)本件対象文書11平成23年度自殺者一覧表(23.4.1~24.3.31)本件対象文書12平成24年度自殺者一覧表(24.4.1~25.3.31)本件対象文書13平成25年度自殺者一覧表(25.4.1~26.3.31)本件対象文書14平成26年度自殺者一覧表(26.4.1~27.3.31)本件対象文書15平成27年度自殺者一覧表(27.4.1~28.3.31)本件対象文書16平成28年度自殺者一覧表(28.4.1~29.3.31) 度自殺者一覧表(28.4.1~29.3.31)
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