令和5(ネ)10058 特許権移転登録抹消登録請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年12月11日 知的財産高等裁判所 3部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和3(ワ)8940
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判決文本文15,649 文字)

令和5年12月11日判決言渡 令和5年(ネ)第10058号特許権移転登録抹消登録請求控訴事件(原審東京地方裁判所令和3年(ワ)第8940号)口頭弁論終結日令和5年9月20日判決 控訴人 G-8INTERNATIONALTRADING株式会社 同訴訟代理人弁護士朝倉隆 被控訴人 日本有機物リサイクルプラント株式会社 同訴訟代理人弁護士松村幸生 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は、被控訴人が、控訴人に対し、被控訴人は、発明の名称を「亜臨界水処理装置」とする特許第6737561号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(原判決別紙特許権目録記載の特許権。以下「本件特許権」という。)の権利者であるところ、控訴人に本件特許権を譲渡した事実はないのに、控訴人に対する不実の移転登録がされているなどと主張して、本件特許権に基づき、同特許権の移転登録手続の抹消登録手続をすることを求めた事案である。原審が、被控訴人の請求を認容する判決をしたので、控訴人がその取り消しを求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実、本件譲渡証書の存在(甲5)、争点及び当事者の主張は、次のとおり補正し、 原審が、被控訴人の請求を認容する判決をしたので、控訴人がその取り消しを求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実、本件譲渡証書の存在(甲5)、争点及び当事者の主張は、次のとお り補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の1⑵・⑶、2及び3(原判決2頁3行目ないし同9頁24行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決2頁8行目の「販売」の次に「等」を、同頁26行目の「手続を」の次に「代理人弁理士を通じて」を、同3頁1行目の「申請」の次に「(以下 『本件移転登録申請』という。)」をそれぞれ加え、同頁2行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「⑶ 控訴人代表者印の改印控訴人代表者印について、令和2年10月8日付けAの個人の印鑑登録証明を添えて、亡失及び汚損を理由として、印鑑及び印鑑カードの廃 止届出がされた。これらは、A本人による届け出とされている。 しかし、控訴人代表者印は、実際には亡失等されていなかった(甲6、8)。」⑵ 同3頁3行目の「⑶」を「⑷」と改め、同頁4行目の「前記⑵エの移転登録手続の申請書には」を「本件移転登録申請に係る特許権移転登録申請書(以 下『本件申請書』という。甲4)には」と改め、同頁10行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「 また、本件申請書にも、登録義務者として、被控訴人の名称が記載されているところ、その代表者には、『A1』と記載されている。 本件申請書及びそこに添付の本件譲渡証書には、控訴人及び被控訴人 の会社名や住所、代表者氏名及び特許番号等について手書きでチェック がされているほか、本件申請書には「補正有り」との印が押されている。 こに添付の本件譲渡証書には、控訴人及び被控訴人 の会社名や住所、代表者氏名及び特許番号等について手書きでチェック がされているほか、本件申請書には「補正有り」との印が押されている。 ⑸ 前記のとおり、令和2年10月9日に本件移転登録申請がされた後、同月29日に、特許庁長官宛てに、被控訴人から、代理人弁理士を通じ、上申書(甲30)が提出された。そこには、『弊社はG-8INTERNATIONALTRADING株式会社に特許第6737561号 にかかる特許権を譲渡しておりません。従いまして、令和2年10月09日付けで御庁に提出された移転登録申請書を却下していただきたくお願い申し上げます。』と記載されている。 ⑹ 特許庁長官は、令和2年11月5日付け(同月17日発送)で、控訴人に対し、本件申請書に添付された包括委任状の委任者に係る印影中の 文字が委任者の名称と相違する点につき、代理人の代理権を証明する書面の提出を求める内容の補正を命じた。 被控訴人は、同月18日、本件移転登録申請に係る書類についての閲覧請求を行ったが、登録がされるまでの間は閲覧に供する書類ではないとして拒絶された。 控訴人は、同月19日付けで、前記代理権を証する書面に係る補正書を提出した。 同月27日に、特許庁において登録についての伺いがされた後、同年12月2日に登録原簿への登録がされた。被控訴人は、同月17日、本件譲渡証書は被控訴人の取締役会決議を経ていないものである旨など を記載した上申書を提出した。被控訴人は、同月18日に至り、本件移転登録申請に係る書面の閲覧が可能である旨の連絡を受け、閲覧をした。 (甲3、30、31)⑺ 「特許譲渡の経緯」と題し、末尾に「A2」と記載し押印のある手書きの書面(乙11)が 至り、本件移転登録申請に係る書面の閲覧が可能である旨の連絡を受け、閲覧をした。 (甲3、30、31)⑺ 「特許譲渡の経緯」と題し、末尾に「A2」と記載し押印のある手書きの書面(乙11)が控訴人から証拠として提出されているところ、同書 面には、「或る日突然G-8C会長から電話を頂き、今日の事態を承知 し驚きました。とにかく、事態を穏便に解決するには何が良いか、考えた結果特許を譲渡するという事ではないかと思い、実行致しました。従ってとりあえず譲渡によって事態を収拾できると考えました。B氏がG-8の副社長である点も考慮して早急な解決を図りたいと思いました。 B氏に電話して、『今ならC会長と直接お会いして話し合いをしてはど うか』と進言した処B氏は『大丈夫です。直接お会いして話し合いますから心配しないで下さい』と言われとりあえず安心致しました。後日、B氏からG-8に連絡して『来週訪問する』との事であったが、結局来社しなかった様です。なお、無償譲渡の件は、何分B氏がG-8の副社長であり、事態収拾が第一であり今回は当方の誠意を示すこととして無 償という形式となりました。その際D社長より取締役議事録を要求されましたが先に記載した様にB氏の『大丈夫です直接お会いして話し合いますから心配しないで下さい』とのB氏の言葉を信じて無償譲渡に同意したと解釈してB氏の言葉を信じ実行しましたがB氏に裏切られました」などと記載されているが、前記⑶の改印の経過、譲渡契約書が作成 されなかった理由及び本件譲渡証書作成の経緯については一切触れるところがない。 ⑻ Aの証人申請原審は、Aを証人として採用したが、Aは呼出しを受けた尋問期日に出頭しない旨を回答し、再度指定され呼出しを受けた尋問期日にも出頭 しなかっ れるところがない。 ⑻ Aの証人申請原審は、Aを証人として採用したが、Aは呼出しを受けた尋問期日に出頭しない旨を回答し、再度指定され呼出しを受けた尋問期日にも出頭 しなかった。」⑶ 同5頁11行目の「民法93条ただし書」を「民法93条1項ただし書」と改める。 ⑷ 同9頁7行目の「した以降」を「して以降」と改める。 3 当審における控訴人の主な補充主張 ⑴ 本件において、民法93条1項ただし書きの規定を類推することが相当で ある(原判決13頁14行目ないし同頁15行目)かについてア原判決は、被控訴人の取締役会における承認決議がなかったことを知ることができたといえるから、民法93条1項ただし書の規定を類推して、被控訴人の代表取締役による本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である旨判断した。これは、取締役会の決議を要する重要な業務執行につ き代表取締役が独断で専行した(以下、「代表取締役の専決」という。)事案に関する最高裁判所昭和36年(オ)第1378号同40年9月22日第三小法廷判決・民集19巻6号1656頁(以下「昭和40年最判」という。)の判断枠組みに従ったものである。すなわち、同判決は、代表取締役が、取締役会の決議を経ないでした取引行為は、内部的な意思決定を欠 くに止まるから、原則として有効であり、相手方が取締役会の決議を経ていないことを知りまたは知りうべかりしとき(相手方が悪意又は有過失の場合)に限って無効であるとする。 しかし、代表取締役の専決の場合にも、代表取締役には会社を代表する意思はあるから、心裡留保とみることはできない。また、上記判例の立場 では、相手方に軽過失があるにすぎない場合にも、会社側から取引を無効とできる結論となり、取引安定の点から には会社を代表する意思はあるから、心裡留保とみることはできない。また、上記判例の立場 では、相手方に軽過失があるにすぎない場合にも、会社側から取引を無効とできる結論となり、取引安定の点から問題がある。 さらに、代表権の行使と第三者保護の問題を解決するための法的構成の根拠としては、会社法の規定の援用可能性がまず探求されるべきであり、民法規定あるいは一般法理に依拠するのは、それが不可能な場合に限るべ きである。そして、中小企業等の実態に鑑みると、普段、取締役会を開催したこともなく全ての業務執行を代表取締役に専決させている会社が、たまたま損失の出た取引につき機会主義的に無効主張をなす可能性が高いので、相手方に厳格な注意義務を要求することは公平の見地から妥当でない。 したがって、本件で民法93条1項ただし書きの規定を類推することは 相当ではない。 イそして、代表取締役の専決については、会社法349条5項を適用し、会社は、相手方が悪意でない限り、過失の有無を問題とせず、無効の主張はできない、と解すべきである。 これを前提にすれば、Dは、Aに対し、「取締役会決議等の社内決済手 続は取られているんでしょうね?」と尋ねたところ、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫だ。」との話を聞いているのであるから、本件特許権の譲渡について被控訴人の取締役会における承認決議の不存在について知らなかったといえる。したがって、本件特許権の譲渡は有効である。 ⑵ 争点2「控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたか」についてア仮に、本件で民法93条1項ただし書きの規定を類推することが相当だとみなされる場合に備えて、控訴人は、次のとおり主張する。 (ア) 原判決は、上記争点 又は知ることができたか」についてア仮に、本件で民法93条1項ただし書きの規定を類推することが相当だとみなされる場合に備えて、控訴人は、次のとおり主張する。 (ア) 原判決は、上記争点につき、概ね以下の①②を根拠として、控訴人代 表取締役のDが、少なくとも本件特許権の譲渡について被控訴人の取締役会における承認決議がなかったことを知ることができたといえるとして、被控訴人の代表取締役による本件特許権の譲渡は無効と解するのが相当である旨判断した。 ①被控訴人が競合他社である控訴人に対し、本件特許権を無償で譲渡 することはないと考えるのが通常である。 ②Dにおいて、本件特許権の移転登録手続を経る前に、Aに対し、被控訴人の取締役会における承認決議があったことを裏付ける取締役会議事録を提出させるか、被控訴人の実質的経営者であるBに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているか確認すべきであったが、 それらをしていない。 (イ) しかし、原判決の判断は誤りである。 本件特許権は、Bが、控訴人の取締役等として控訴人装置について知見を得ることがなければ成立しておらず、Bは、控訴人を利用して、本件特許権を取得し不当な利益を得ている、というのがDの認識である。そして、Bが控訴人からの販売受託や控訴人の取締役就任により、 控訴人装置の知見を得た後本件特許権を取得したことや、本件特許権登録の時期、Bが控訴人の取締役であった時期等、本件特許権登録がされた経緯に照らせば、Dが、上記認識を有したことも、もっともなことだといえる。控訴人とBとの関係をよく知るAも、上記Dと同様の認識を有していたからこそ、控訴人に本件特許権の無償譲渡を申し 入れ、Dも、これをもっともな申入れであると考え、本件特許権を無償 とだといえる。控訴人とBとの関係をよく知るAも、上記Dと同様の認識を有していたからこそ、控訴人に本件特許権の無償譲渡を申し 入れ、Dも、これをもっともな申入れであると考え、本件特許権を無償で譲り受けたのである。原判決は、被控訴人が競合他社である控訴人に対し、本件特許権を無償で譲渡することはないと考えるのが通常であるとするが、それは、まさに通常の場合の話である。しかるに、前記事情がある場合には、被控訴人が競合他社である控訴人に対し、 本件特許権を無償で譲渡したとしても、何ら不自然ではない。 また、原判決は、仮に、Bが被告に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の上記義 務違反の責を負う理由はないというべきであるとする。しかし、被控訴人も海外医療旅行株式会社も実質的な経営者はBであり、Bは、両社を使って、控訴人装置の販売や本件特許権の登録をしたのである。 このことや、両者の株主や取締役の構成等に照らしても、両社の行為は、Bの行為と同視することができる。したがって、仮に、Bが被告 に対して競業避止義務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代 表取締役として販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があった場合には、被控訴人が上記義務違反の責を負う。原判決は、会社と実質的経営者の関係について、一方では、「原告の実質的経営者であるBに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを確認しておけば」(13頁4行目ないし同頁6行目)との実質論を用 いながら、他方で、「本件特許権の特許権者は原告であり、原告がB又は海外医療旅行株式 許権を譲渡することに承諾しているのかどうかを確認しておけば」(13頁4行目ないし同頁6行目)との実質論を用 いながら、他方で、「本件特許権の特許権者は原告であり、原告がB又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないというべきである」(13頁23行目ないし同頁25行目)などと形式論を用いている。このように、原判決は首尾一貫しておらず、その意味でも原判決の理由付けは説得力を欠くというべきである。 (ウ) 被控訴人のような、株主、取締役ともに数人程度の中小企業では、取締役会議事録が作成されないことが多い。さらに、そうした会社では、取締役会すら開催されず、代表取締役が重要な業務執行を専決していることも多い。これらは公知の事実である。 こうした中、Dにおいて、本件特許権の移転登録手続を経る前に、 Aに対し、被控訴人の承認決議があったことを裏付ける取締役会議事録の提出を求めさせることは、現実的ではない。 被控訴人が、Aに関して、取締役解任決議をしたとする臨時株主総会の議事録(令和2年10月9日付け「臨時株主総会議事録」)では、会場がFとされている(乙13)。しかし、同場所は、E氏の住居部分 にあたり、同人が被控訴人に同場所の使用を許諾した事実もない(乙14)。したがって、同議事録における会場の記載は事実に反する。また、同議事録では、開催日が令和2年10月9日とされているが、これも、被控訴人が自認する同年10月28日と異なっている(甲26、10頁)。しかも、開催日の日付けは、9日→28日→9日と何度も訂 正されており不自然極まりない(乙13)。以上の事実からしても、同 議事録が適正に作成されたかについては疑問が残る。そして、被控訴人において、こうした臨時株主総会議事録が作成されていること 正されており不自然極まりない(乙13)。以上の事実からしても、同 議事録が適正に作成されたかについては疑問が残る。そして、被控訴人において、こうした臨時株主総会議事録が作成されていることからしても、仮に、被控訴人が取締役会議事録を作成していたとしても、それが適正に作成されているかについて疑問を抱かざるを得ない。かかる事実も、Dにおいて、本件特許権の移転登録手続を経る前に、A に対し、被控訴人の承認決議があったことを裏付ける取締役会議事録の提出を求めさせることが、現実的でないことを推認させる一事情といえる。 (エ) Dにおいて、Aに対し被控訴人の取締役会議事録の提出を求めさせるためには、被控訴人が、適時適切に取締役会議事録を作成している ことが前提になるはずである。しかし、被控訴人において、適時適切に取締役会議事録が作成されていることは、証拠上明らかになっていない。 本件特許権の移転登録手続時、Dは、Bが控訴人のノウハウを利用して本件特許権の登録に至ったと認識しており、Bに悪感情を抱いて いた。当時、両者の関係は極端に悪化し、Dは、Bとは口も聞きたくない状況であった。そして、Dは、BからDに、謝罪と併せて本件特許権の譲渡を承諾する旨連絡してくるのが筋だと考えていた。こうしたDの考えも、Dが認識する被控訴人による本件特許権登録の経緯に照らせば、もっとものこととして了解できる。 それにもかかわらず、Dに対し、自ら、Bに連絡をとらせ、同人に真実本件特許権を譲渡することを承諾しているかにつき確認させることは酷というものである。 (オ) また、原判決は、控訴人とBとが既知の関係にあったことに照らせば、確認をとることは容易であったとする。 しかし、それは控訴人とBの関係が良好な場合の話であり というものである。 (オ) また、原判決は、控訴人とBとが既知の関係にあったことに照らせば、確認をとることは容易であったとする。 しかし、それは控訴人とBの関係が良好な場合の話であり、両者の 関係が極端に悪化していた本件には、あてはまらない。 さらに、原判決は、本件特許権の移転登録手続を経ることが、控訴人にとって急を要するものであったとはうかがわれないとする。 しかし、それはDによるBへの確認が容易であることを前提とするものであるから、DからBへの確認が容易とはいえない本件では、こ の理由付けも意味をなさない。なお、本件特許権の移転登録手続の時期について付言すれば、Dは、「早急な解決を図りたい」というAの意向(乙11)を受けて、それも妥当だと考え、迅速に本件特許権の移転登録手続を履践したにすぎない。 (カ) そして、被控訴人の代表取締役の地位を有するAが、「Bも了解して いるし、社内手続も大丈夫だ」と断言しているにもかかわらず、Dが、Aに対し、被控訴人の取締役会議事録の提出を求めたり、Bに確認を求めることは、Aに対して失礼にあたる。それゆえ、Dが、Aの言葉を信じて、同人に事態の収拾を委ねたことは極めて自然である。 以上の事情に照らせば、本件では、Dにおいて、本件特許権の移転 登録手続を経る前に、Aに対し、被控訴人の承認決議があったことを裏付ける取締役会議事録を提出させるか、被控訴人の実質的経営者であるBに対し、真実本件特許権を譲渡することに承諾しているか確認すべきであった、とはいえない。そして、このように認定の前提となる根拠が誤りであることから、原判決による判断も誤りである。した がって、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたとはいえない。 なお、 のように認定の前提となる根拠が誤りであることから、原判決による判断も誤りである。した がって、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたとはいえない。 なお、A、B以外の被控訴人の取締役は名目的な存在にすぎないから、Dが、Aから「Bも了承している。社内手続も大丈夫だ」旨聞いたことにより、本件特許権の無償譲渡につき、実質的に、被控訴人の 取締役会決議を経たものと考えても問題はない。 また、代表取締役の専決につき民法93条1項ただし書きの規定を類推する際には、取引の安全の見地から、相手方の過失の認定は緩やかに判断されるべきである。その意味でも、前記事実関係のもとで、控訴人に過失を認めるのは相当ではない。 イ控訴人が、被控訴人による本件特許権の登録を認識したのは、複数の第 三者から、Bが控訴人装置と類似する別の装置の売り込みをしている旨の情報を得たからである。それら第三者はBの行為に疑問を抱いたからこそ、控訴人に情報を寄せたといえる。また、本件特許権の控訴人への無償譲渡の手続は、控訴人側ではなく被控訴人側の人間(被控訴人の代表取締役)であるAが、本件特許権を控訴人に取得させることが適切であると判断し た上で行ったものである。これらの事情からすれば、本件特許権の移転登録手続時、本件特許権を控訴人が取得することが適切であるというべき、客観的な状況が存在していたと考えるのが合理的である。 そして、Bは実質的経営者であるにもかかわらず被控訴人の代表取締役に就任せず、あえてAを代表取締役に据えたのであるから、取引の安全を 重視し、Aの行為によって生じた結果について、B(被控訴人)に責を負わせても、不合理とはいえない。 そこで、結論の妥当性からしても、本件特許権の無 締役に据えたのであるから、取引の安全を 重視し、Aの行為によって生じた結果について、B(被控訴人)に責を負わせても、不合理とはいえない。 そこで、結論の妥当性からしても、本件特許権の無償譲渡を有効とすべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人の請求は認容すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 (1) 争点1(Aにより本件特許権譲渡の意思表示がされたか)について以下のとおり補正するほかは、原判決第3の1⑴及び⑵(原判決10頁1行目ないし同11頁1行目)のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決10頁1行目の「⑶」を「⑷」と改め、同頁4行目の「亡失」の 次に「等」を加える。 イ同頁22行目から23行目の「弁理士が作成した」を「弁理士が具体的な日付け以外の項目を作成した」と改める。 ⑵ 争点2(控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたか)について ア民法93条1項ただし書は、「相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」と規定しているところ、代表取締役が取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合においては、上記取引行為は内部的意思決定を欠くに止まるから、原則とし て有効であるが、民法93条1項ただし書に準拠し、相手方が同決議を経ていないことを知り又は知ることができたときに限って無効であると解するのが相当である(昭和40年最判参照)。 イこれを本件についてみると、前記前提事実等並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。 (ア) Bは、海外医療旅行株式会社 ある(昭和40年最判参照)。 イこれを本件についてみると、前記前提事実等並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。 (ア) Bは、海外医療旅行株式会社の代表取締役として、平成28年7月11日、控訴人との間で、委託期間を2年間とする本件販売業務委託契約を締結し、控訴人装置の販売業務を遂行していたが、控訴人装置を販売する上で、Bに、控訴人における役員の肩書を付与する必要があるとの理由から、平成29年11月30日、控訴人の取締役に就任した。 (イ) Bは、令和元年10月31日、本件特許に係る発明を実施して製品を開発、製造及び販売するため、被控訴人を設立して取締役に就任し、遅くとも令和2年9月1日までには、控訴人に辞任届を提出して控訴人の取締役を辞任した(甲16、25、26、乙2)。 (ウ) 被控訴人は、令和2年4月17日、発明者をB、発明の名称を「亜臨 界水処理装置」とする特許出願をし(特願2020―73937)、同年 7月20日、本件特許権の設定登録を受けた(甲21)。 (エ) 控訴人においては、Bの行動から何らかの特許権等が成立している可能性があることを想定し、令和2年9月下旬から10月初旬にかけて、被控訴人に関する情報収集をして特許情報を検索したところ、本件特許の出願や、被控訴人が設定登録を受けた事実等を確認した(乙12、原審被 告準備書面2(令和4年4月20日付け)、弁論の全趣旨)。 控訴人の取締役であるCは、そのころ、複数の第三者から、Bが控訴人製品とは異なる有機廃棄物処理装置を販売しようとしているとの情報を得て、被控訴人の代表取締役であるAに対し、事実関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。 (オ) Dは、令和2年10月5日頃、Aと電 機廃棄物処理装置を販売しようとしているとの情報を得て、被控訴人の代表取締役であるAに対し、事実関係の確認をするとともに、抗議をした(乙11)。 (オ) Dは、令和2年10月5日頃、Aと電話をし、本件特許権の譲渡に話が及んだ。その際、Dは、本件特許権の譲渡については取締役会決議を経ることが必要であることを認識していたため、取締役会議事録をAに要求した(乙11)。 (カ) Dは、本件移転登録申請の代理人となったG弁理士に対し、本件特許 権に係る譲渡証書の起案を依頼し、そのデータが、令和2年10月6日頃、控訴人に送付された。Dは、同日頃、Aに連絡を取り、譲渡証書への押印を依頼したところ、Aは、同月8日であれば在宅しているので、書類を持ってくれば押印する旨を返答した。そこで、控訴人において事務を担当するH(以下「H1」という。)において、前記データに「令和2年10 月08日」の日付けを入力し、本件譲渡証書の書式を完成させた。(原審被告準備書面3(令和4年8月8日付け)11頁、弁論の全趣旨)(キ) Aは、令和2年10月8日付けでA個人の印鑑登録証明書を取得し、同日、被控訴人代表者印につき、それが亡失等されておらず、実際にはBが保管していたにもかかわらず、亡失等を理由として、印鑑及び印鑑カー ドの廃止届出をし、改印後被控訴人代表者印を登録した(甲8、26)。 (ク) Dは、令和2年10月8日、H1 をAの自宅に赴かせ、Aに本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印の押印をさせた。 (ケ) 控訴人の当時の取締役であるIは、令和2年10月9日の午前9時に、特許庁の前でG弁理士と待ち合わせて同弁理士に本件譲渡証書を交付し、G弁理士において、本件移転登録に係る申請をした(原審被告準備書面3 (令和4年8月8日 Iは、令和2年10月9日の午前9時に、特許庁の前でG弁理士と待ち合わせて同弁理士に本件譲渡証書を交付し、G弁理士において、本件移転登録に係る申請をした(原審被告準備書面3 (令和4年8月8日付け)11頁、弁論の全趣旨)。 (コ) 本件移転登録申請に対し、被控訴人から、特許庁に対し、令和2年10月29日、本件特許権につき控訴人に対する譲渡はされていない旨の上申書が提出された。 (サ) 令和2年11月5日付け(同月17日発送)で、控訴人に対し補正を 命ずる指令がされ、補正後の同年12月2日に移転登録につき登録原簿への登録がされた。 ウ前記認定事実に基づき、控訴人が、被控訴人の取締役会決議がないことを知り、又は知ることができたかについて、以下検討する。 本件特許権の譲渡が会社法362条4項1号に規定する「重要な財産」 として、本件特許権の譲渡当時取締役会設置会社であった被控訴人において取締役会決議を経る必要があったことについては当事者間に争いがない。 前記認定事実によれば、令和2年10月5日頃に、Dは、Aに対し、本件特許権の譲渡につき取締役会議事録の提出を要求しているところ(乙1 1)、Dの供述によれば、同日、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫です」との説明を受けた(原審における控訴人代表者Dの陳述記載書面3頁)とするが、仮にDの上記供述が事実であったとしても、Dは、そもそも本件特許権の譲渡について取締役会の決議が必要であると十分に認識していたのであるから、Aの上記説明だけを聞いてそれをうのみに したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十分可能であったし、議事録の提出が得られないのであれ したというのであればあまりに軽率というほかなく、上記説明を前提とす れば同日から本件移転登録申請までの間にその提出を求めることも十分可能であったし、議事録の提出が得られないのであれば、B本人に確認することも容易であったというべきである。にもかかわらず、そのような行動に出ることはなく、本来、特許権譲渡の移転登録手続を急がなければならない事情は何ら存しないのに、Aとの間で本件特許権の譲渡の話に及ん だ翌日には、弁理士に譲渡証書の作成を依頼し、その二日後にはAに対し本件譲渡証書に改印後被控訴人代表者印を押印させ、その翌日には本件移転登録申請手続に及ぶというように、移転登録申請を早急に進めたことは極めて不自然というほかない。 この点に関して、控訴人は、被控訴人において適時適切に取締役会議事 録を作成していたかは疑わしいから、Dにおいて、本件特許権の移転登録手続を経る前に取締役会議事録の提出を求めることは現実的ではなかったし、移転登録手続を急いだ理由は、「早急な解決を図りたい」というAの意向を受けてそれが妥当だと考えたからにすぎないなどと主張する。 しかし、取締役会議事録が作成されていないとの疑念を抱いていたので あれば、なおさらのこと、本件特許権の譲渡につき取締役会の承認があったかどうかをA以外の被控訴人の取締役などに確認しなければならないはずであるし、ましてや、控訴人はB以外の被控訴人の取締役は名目的な存在にすぎないと主張するのであるから、Bが本件特許権の譲渡を承認していない限り、取締役会の承認は得られないと認識していたはずであるから、 B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認することなく、被控訴人の取締役会の承認 していたはずであるから、 B本人に確認すべきであったというべきである。また、いかに早急な解決を図りたいといわれたとしても、会社内の十分な意思疎通を確認することなく、被控訴人の取締役会の承認が必要な本件特許権の移転登録手続を上記のような異常な速さで実現しなければならない理由にはならないというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 また、本件特許権が被控訴人にとって重要な財産であることは控訴人も 認めるところであり、前記イ(イ)ないし(エ)に照らせば、控訴人は、被控訴人が本件特許権を実施することにより収益を得ようと企図していたと認識していたとするものである。これらの事情に照らすと、控訴人において、被控訴人が競合他社である控訴人に対し本件特許権を無償で譲渡することはないと考えるのが通常である。仮に、Bが控訴人に対して競業避止義 務違反となる行為又は海外医療旅行株式会社の代表取締役として本件販売業務委託契約違反となる行為を行った事実があるとしても、本件特許権の特許権者は被控訴人であり、被控訴人がB又は海外医療旅行株式会社の上記義務違反の責めを負う理由はないし、仮に被控訴人として上記Bの義務違反に責任を感じ、謝罪の意味で何らかの対応をとるべきと認識したと しても、たとえ謝罪の意味であったとしても本件特許権を無償で譲渡しなければならない必然性はないというべきであるから、Aにおいてこれを理由として本件特許権を控訴人に譲渡するとDに話したのであれば、Dとしてはまずはそれが真実なのかを確認するのが当然といえ、D自身もそう思ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。 そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検索して確認していた控訴人に 然といえ、D自身もそう思ったからこそ、Aに対して取締役会議事録を要求したものと認められる。 そして、そのことは、前記イ(エ)のとおり、本件特許権に関し特許情報を検索して確認していた控訴人においても、当然に認識していたものというべきである。 この点に関して控訴人は、被控訴人の実質的な経営者はBであり、被控訴人の株主や取締役の構成に照らしても、被控訴人の行為はBの行為と同 視できるから、被控訴人が上記義務違反の責任を負うなどと主張する。 しかしながら、本件全証拠を精査しても、被控訴人の法人格を否認して、被控訴人の行為をBの行為と同視することを認めるに足りる証拠は存しないというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 加えて、そのような本件特許権の譲渡について、契約当事者双方が署名 し押印する譲渡契約書が作成されていないのは、会社間の契約として著し く不自然であるし、それを措くとしても、本件譲渡証書の作成に当たり、Aが被控訴人代表者印を改印したこと自体も極めて不自然というべきである。なぜなら、当時、改印前被控訴人代表者印はBが保管していたのであるから、もし、Dが、Aから「Bも了解しているし、社内手続も大丈夫です」との説明を受けたというのが事実であるならば、本件譲渡証書の押印 に当たり、AがBから改印前被控訴人代表者印を借りるなどして押印すればよく、特許庁に本件譲渡証書を提出する前日にわざわざ代表者印を改印しなければならない必要性は何ら認められないからである。 以上の事実を総合考慮すると、上記のような極めて不自然な本件特許権の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役 会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に進めた控訴人代表者のD のような極めて不自然な本件特許権の移転に関し、取締役会議事録の提出を受けず、A以外の取締役に取締役 会の承認の事実を確認することもなく、あえて本件移転登録申請を早急に進めた控訴人代表者のDは、本件特許権の譲渡がAの単独行為であって、Bの承諾なしにされたこと、すなわち、取締役会決議が存しないことを知っていた(悪意)ものと認めるのが相当である。 以上によれば、控訴人は、本件特許権の控訴人への譲渡につき、被控訴 人の取締役会決議を経ていないことについて悪意であったと認められるから、本件特許権の譲渡は民法93条1項ただし書に準拠して無効となると認めるのが相当である。 エ控訴人の当審における補充主張に対する判断(ア) 控訴人は、第2の3⑴のとおり、本件において民法93条1項ただし 書を類推適用するのは相当でなく、会社法349条5項を適用し、相手方が悪意の場合のみ無効とすべきである旨を主張する。 民法93条1項ただし書の準拠については既に述べたとおりであるところ、仮に会社法349条5項の適用を優先すべきであるとしても、前記ウのとおり、取締役会決議が存しないことについてDは悪意であった と認められるから、被控訴人は控訴人にその無効を対抗し得るというべ きであり、結論においては同様である。 したがって控訴人の上記主張は採用することができない。 (イ) 控訴人は、第2の3⑵のとおり、被控訴人のような会社では取締役会すら開催されず、代表取締役が重要な業務執行を専決しているのが常態であること、本件特許権の控訴人への無償譲渡の手続は、控訴人側では なく被控訴人側の人間(被控訴人の代表取締役)であるAが、本件特許権を控訴人に取得させることが適切であると判断した上で行ったものであるという事情からすれば、 への無償譲渡の手続は、控訴人側では なく被控訴人側の人間(被控訴人の代表取締役)であるAが、本件特許権を控訴人に取得させることが適切であると判断した上で行ったものであるという事情からすれば、本件特許権を控訴人が取得することが適切であるというべき客観的な事情があったという結論の妥当性からしても本件特許権の譲渡は有効と解すべきであるなどと主張する。 しかし、本件特許権の譲渡が取締役会決議を要する重要な財産の譲渡に当たることについては当事者間に争いがなく、それゆえにDもAに対し、取締役会議事録の提出を求めたものであると解されるところである。 そうすると、被控訴人の規模の会社の実情や取締役会の開催の有無といった事情が、本件特許権譲渡に関する取締役会決議不存在についてのD の悪意の認定を左右するものではないというべきである。 また、本件特許権の譲渡が前記のとおり重要な財産の譲渡に当たり、譲渡の経緯も著しく不自然であることなどに照らすと、結論の妥当性から本件特許権の譲渡を有効とすべきとは到底解されないというべきである。 したがって控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。 2 結論よって、原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林 保 裁判官今井弘晃 裁判官水野正 今井弘晃 裁判官水野正則

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