本件は、有限会社キャッツメイク(原告)が、株式会社プリムローズ(被告)に対し、原告が有する商標権の侵害を理由に、商標法に基づく差止請求及び廃棄請求、さらに不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案である。主要な争点は、原告商標と被告標章との類似性、原告商標の無効審判、被告の先使用権、権利濫用の有無、及び損害の有無であった。裁判所は、原告商標と被告標章が称呼及び観念において同一であり、商標権の侵害が認められると判断した。結果として、被告に対し商標の使用禁止、標章の抹消、広告物の廃棄、及び金50万円の支払いを命じ、訴訟費用は被告の負担とした。
平成24年9月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第38884号商標権侵害行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成24年6月13日判決さいたま市<以下略>原告有限会社キャッツメイク同訴訟代理人弁護士中澤佑一同松本紘明同訴訟代理人弁理士岩 﨑 博孝名古屋市<以下略>被告株式会社プリムローズ同訴訟代理人弁護士高山光雄同西村竜一 主文 1 被告は,別紙被告店舗目録記載の各店舗の看板(店頭表示板),案内板,外壁,内壁,扉及び入口ガラス壁面,その運営するウェブサイト,インターネット上のウェブ広告,パンフレット,チラシなどの広告物並びに取引書類に別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。 2 被告は,別紙被告店舗目録記載の各店舗の看板(店頭表示板),案内板,外壁,内壁,扉及び入口ガラス壁面,その運営するウェブサイト,インターネット上のウェブ広告から,別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。 3 被告は別紙被告標章目録記載の各標章を付したパンフレット,チラシなどの広告物及び取引書類を廃棄せよ。 4 被告は,原告に対し,金50万円及びこれに対する平成23年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 。 4 被告は,原告に対し,金50万円及びこれに対する平成23年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,原告が有する商標権を侵害している旨主張して,①商標法36条1項に基づく差止請求として,別紙被告店舗目録記載の各店舗(以下,併せて「被告4店舗」という。)の看板等,被告運営のウェブサイト,インターネット上のウェブ広告,パンフレット,チラシなどの広告物及び取引書類につき別紙被告標章目録記載の各標章(以下,併せて「被告標章」といい,個別に同目録記載の番号に従って「被告標章1」などという。)の使用禁止,②同法2条に基づく廃棄請求として,被告4店舗の看板等,被告運営のウェブサイト,インターネット上のウェブ広告から被告標章の抹消と被告標章を付したパンフレット,チラシなどの広告物及び取引書類の廃棄を求めるとともに,③不法行為に基づく損害賠償請求として,弁護士費用相当額50万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年12月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 原告原告は,さいたま市に本店を置く,ネイルサロンの経営等を業務とする有限会社である(甲12の1,12の2,弁論の全趣旨)。 (2) 被告被告は,名古屋市に本店を置き,平成23年11月現在,東海・関西地方において直営店・ライセンス店合計14店舗のネイルサロンを経営・管理する株式会社である。 (3) 原告の商標権 被告は,名古屋市に本店を置き,平成23年11月現在,東海・関西地方において直営店・ライセンス店合計14店舗のネイルサロンを経営・管理する株式会社である。 (3) 原告の商標権 原告は,別紙商標権目録記載の商標権を有している(以下,「原告商標権」といい,原告商標権に係る商標を「原告商標」という。)。 (4) 被告の行為ア被告は,ネイルサロン直営店として被告4店舗(本店,金山店,名駅店,一宮店)を運営するとともに,ライセンス店として10店舗(富士店,静岡店,沼津店,四日市店,岡崎店,星ヶ丘店,アンジュ栄店,和歌山店,和歌山北店,岸和田店)を管理監督している。 イ被告は,被告4店舗の店名として,被告標章2を使用するとともに,被告が管理するライセンス店10店舗に対しても,被告標章の使用を許諾し,ライセンス店10店舗の店名として被告標章2が使用されている。 ウ被告は,被告4店舗の内外装,看板,案内板,ギフトカード,ウェブサイト等に被告標章を付している。 (5) 被告4店舗とライセンス店の所在地等被告4店舗とライセンス店の所在地及び開店時期は,別紙被告店舗状況記載のとおりである(乙1,弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 原告商標と被告標章との類否(争点1)(2) 原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)(3) 被告の先使用権の有無(争点3)(4) 原告の商標権行使が権利濫用に当たるか(争点4)(5) 原告の損害の有無及び損害額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張(1) 原告商標と被告標章との類否(争点1)(原告の主張)ア原告商標(ア) 外観 原告商標は 額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張(1) 原告商標と被告標章との類否(争点1)(原告の主張)ア原告商標(ア) 外観 原告商標は「アイネイル」と標準文字で横書きして構成される。 (イ) 称呼原告商標は「あいねいる」との称呼を生じる。 (ウ) 観念原告商標は「私の爪」との観念を生じる。 イ被告標章1(ア) 外観被告標章1は,「INAIL」の文字が横書きに,かつ,「I」の文字のみがその他の「NAIL」の文字よりもやや大きめの態様で構成される。また,各文字の上部にはそれぞれ丸い図形が配されている。この丸い図形は,語頭の「I」から語尾の「L」に向かってアーチ状に,かつ,徐々に小さくなるように構成される。また,語頭から4文字目の「I」の上部に配される丸い図形のみが全体が塗りつぶされたいわゆる「丸型」の図形であり,それ以外の丸い図形は中空のいわゆる「ドーナツ型」の図形で構成される。 (イ) 称呼被告標章1は,「あいねいる」との称呼を生じる。 (ウ) 観念被告標章1は,「私の爪」との観念を生じる。 ウ被告標章2(ア) 外観被告標章2は「アイネイル」と横書きして構成される。 (イ) 称呼被告標章2は「あいねいる」との称呼を生じる。 (ウ) 観念被告標章2は「私の爪」との観念を生じる。 エ原告商標との対比被告標章1と原告商標とは,称呼及び観念が同一であり,類似している。 また,被告標章2と原告商標とは,外観,称呼及び観念が同一であるから,同一であ 。 エ原告商標との対比被告標章1と原告商標とは,称呼及び観念が同一であり,類似している。 また,被告標章2と原告商標とは,外観,称呼及び観念が同一であるから,同一である。 オ原告商標権の指定役務との対比被告が被告標章を使用しているネイルサロンにおいて提供している役務は,原告商標権の指定役務である「美容,理容」に含まれる。 カ被告の主張に対する反論(ア) 被告標章1の外観について被告は,被告標章1の上部にアーチ状に描かれた5つの丸い図形につき「五指を表し,うち塗りつぶされたものはネイルアートが施された様子を表す」と述べ,被告標章1の図形部分も含めた外観全体を観察すれば,原告商標の外観とは全く異なると主張している。 しかし,上記の主張は,被告がそのようなイメージで商標を作成したというにすぎない。現実的には上記図形が存在しても,需要者が直ちに被告が思い描いたイメージを連想する可能性は極めて低く,出所識別標識としての外観上,要部とはなり得ないものである。 被告の主張する原告商標と被告標章1との外観上の差異は,需要者にとっての出所識別標識としての機能という観点から判断すれば,ほとんど意味がないものであって,外観全体を見たとしても,原告商標と被告標章1との誤認混同を避けることはできない。 (イ) 被告標章の観念について被告は,被告標章の観念につき被告商標から生じる観念は「愛のあるネイル」であって,「私の爪」とは異なると主張する。 被告標章から「愛のあるネイル」との観念が生じることについては,原告も争わないが,原告商標と被告標章とは称呼が同一であり,かつ, 称呼以外に特定の観念を生じる要素が存在 張する。 被告標章から「愛のあるネイル」との観念が生じることについては,原告も争わないが,原告商標と被告標章とは称呼が同一であり,かつ, 称呼以外に特定の観念を生じる要素が存在しない以上,仮に被告商標から「愛のあるネイル」という観念が生じるとするならば,原告商標からも「愛のあるネイル」という同じ観念が生じるのであり,結果として同一の観念が生じることは避けられない。特定の需要者が原告商標に触れたときに思い浮かべる観念と,同じ需要者が被告標章に触れたときに思い浮かべる観念は同一である。 (ウ) 被告の商標類否の判断方法について被告は,外観・観念について,商標を使用する者の「思い入れ」や「思い込み」を勝手に商標の類否に持ち込んで判断している。しかし,商標の類否は,それを出所識別標識として見る需要者の立場から判断されるべきである。 また,被告は,役務の性質に基づき,「宣伝媒体としては,ホームページ,雑誌等の視覚に訴えるものが主力となる」と主張しているが,それは商標が出所表示機能を発揮し得る一態様を述べているにすぎず,被告の考える効果的な宣伝方法を述べているだけであって,商標の機能についての理解を欠いた主張にすぎない。商標の出所表示機能は,商標の使用者側が意図した使用の場面のみで発揮されるのではなく,例えば,雑誌等を見た需要者が友人,知人等にその店舗の存在を会話として伝達するような場合も商標は識別標識として機能し得る。このような場面では当然ながら商標から生じる「称呼」をもって伝達されるのであって,「称呼の重要性は,限りなく低い」との被告の主張は失当である。 被告は,役務の性質,原告の商標使用の有無,地理的な距離を持ち出して原告商標と被告商標の間に出所混同は生じておらず非類 て,「称呼の重要性は,限りなく低い」との被告の主張は失当である。 被告は,役務の性質,原告の商標使用の有無,地理的な距離を持ち出して原告商標と被告商標の間に出所混同は生じておらず非類似である旨主張しているが,かかる主張は損害論において論じるなら格別,商標の類似性においては的外れな主張である。 商標法は,商標権の取得に際して使用を前提としない登録主義を採用 しており,登録後に一定の使用条件を満たさない場合に限って事後的に権利を消滅させるという法律構成を採用している。仮に原告が商標権を使用していないとしても(出所混同の可能性すら存在しないとしても),それにより商標権の効力が制限されることはないのである。 (エ) 商標類否の判断における称呼の重要性(特に被告標章1)についてa 被告標章1は,表音文字であるアルファベットに図形を付加して作成されたいわゆる「ロゴ」であり,その内容として表音文字を含む以上,そこから称呼が生じ,需要者にとってもその称呼を中心に理解されるものである。被告が主張するように,被告標章1が上部の円形の図形によって原告商標と異なる外観を有するとしても,被告標章1はあくまで「アイネイルのロゴ」なのであり,需要者がこれに接する場合には,まず一番に称呼が思い浮かぶことは自明である。 文字を含む被告商標1について,外観を中心に認識・理解する需要者は存在したとしても,ごくごく少数であり,「アイネイルのロゴ」と認識・理解する需要者が圧倒的多数である。 b 被告標章1も文字を含む標章である以上,被告が主たる宣伝方法としている雑誌広告・インターネット上のホームページであっても必ず称呼が生じ,需要者はその称呼も含めて出所識別を行わざるを得ない。 さらに,他の方法 1も文字を含む標章である以上,被告が主たる宣伝方法としている雑誌広告・インターネット上のホームページであっても必ず称呼が生じ,需要者はその称呼も含めて出所識別を行わざるを得ない。 さらに,他の方法であっても,口頭では称呼によって伝達が行われ,電子メール等の場合であっても生じた称呼に基づいてテキスト入力して伝達される。 そして,人間の思考や記憶において言語(称呼)が支配的な影響力を持つことは,公知の事実であるから,被告標章1が全く称呼を生じさせないというならばともかく「あいねいる」という称呼を生じさせている以上,出所識別においても称呼の影響力が大であることは疑いようがない。 c 被告は,外観が重要であって称呼は重要ではなく,本件は外観が異なるから類似ではないと主張する。 しかし,上記の主張が認められれば,標準文字として登録済みの商標があったとしても,その文字に加えて多少図形を付加すればその商標を自由に使用できることになってしまう。これは,文字商標を事実上無価値なものにすることにほかならず,結論として妥当性を欠くことは明らかである。 (被告の主張)ア原告の主張に対する認否原告の主張ア(ア)及び(イ)は認め,同ア(ウ)は知らない。同イ(ア)及び(イ)は認め,同イ(ウ)は争う。同ウ(ア)及び(イ)は認め,同ウ(ウ)は争う。 同エは争う。同オは認める。 イ被告標章1について(ア) 被告標章1の外観について正確に指摘すると,被告標章1は,別紙被告標章1色彩図記載のとおりである。 アーチ状に描かれた5つの円形は,左から順に親指から小指に至る五指を表しており,左から4番目の円形が塗りつぶされているのは,薬指にネイルアートが 被告標章1色彩図記載のとおりである。 アーチ状に描かれた5つの円形は,左から順に親指から小指に至る五指を表しており,左から4番目の円形が塗りつぶされているのは,薬指にネイルアートが施されていた様子を表すものである。そして,アルファベットにつき,左端の「I」の文字が,「NAIL」の文字より大きく,かつ,太字で記載されており,加えて,5つの円形のうち,左端の円形が一番大きく,左端の「I」の文字の真上に配置されており,いずれも桃色となっている。以上のレイアウトにより,左端の「I」の文字とその上部に配置された円形とが,ひときわ強調され,需要者からは一体として見えるものであるが,これは,アルファベットの小文字「i」を表現している。 以上のとおり,英字表記された「INAIL」を含めた外観全体を見れば,原告商標の外観とは全く異なる,被告独自の外観である。 (イ) 被告標章1の観念について被告は,「愛のあるネイル」を目指して,さらには,「愛」と同音の「I」をあてて,「INAIL」としたものである。この点,「I」は主格であり,所有格「my」とは異なる。すわなち,「INAIL」が,直ちに,「私の爪」なる観念を生じさせるものではなく,むしろ,日本人がその称呼から判断するに,「愛のあるネイル」との観念を生じさせるものである。 原告は,称呼が同一であり,かつ,称呼以外に特定の観念を生じる要素が存在しない以上,原告商標からは,「私の爪」のほか,被告標章と同じ「愛のあるネイル」という観念が生じ得るとして,結果として同一の観念が生じることが避けられないと主張する。しかし,そうであるならば,需要者にとって,観念(ないしはその前提となる称呼)は,多義性を有することになるから,本件における同一性 として,結果として同一の観念が生じることが避けられないと主張する。しかし,そうであるならば,需要者にとって,観念(ないしはその前提となる称呼)は,多義性を有することになるから,本件における同一性・類似性の判断にとって,称呼ないし観念は,さほど重要なものではないはずである。 ウ被告標章2について被告標章2の観念について,上記イ(イ)と同じ。 エ原告商標との対比について(ア) 取引の実情(被告標章共通)についてa 役務の性質ネイルサロンの役務の性質とは,客がネイルアートの施術を受けるべく店舗に来店する必要があるものである。具体的には,客は,事前に,ホームページや,雑誌広告,紹介等により,各ネイルサロンにおけるネイルアートの技法・施術例,店内雰囲気,価格,店舗所在地を比較検討し,来店予約をした上,来店するものである。ゆえに,客層 は,店舗所在地の地域住民に限定される傾向にある。 b 事前の店舗検索・検討の段階においてこの点,需要者が,事前の店舗検索・検討を行うにあたり,ホームページ広告が,非常に有効な手段となる。そして,ネイルサロン業界において,複数の都道府県にわたり店舗を展開する業者は乏しく,その大半は,単独かつ小規模店舗である(原告はその最たるものである)。 そして,ネイルサロンの客層は,店舗所在地の地域住民に限定される傾向にある以上,需要者は,店舗所在地を主たる手がかりとして,役務の出所を識別するものである。言い換えれば,両者の店舗所在地が大きく異なっていれば,需要者が,役務の出所を誤認混同するおそれは,まずあり得ない。だからこそ,ネイルサロン業者は,その店舗所在地をあえてインターネット検索結果に表示させて, ば,両者の店舗所在地が大きく異なっていれば,需要者が,役務の出所を誤認混同するおそれは,まずあり得ない。だからこそ,ネイルサロン業者は,その店舗所在地をあえてインターネット検索結果に表示させて,同一のキーワードで検索される他者との差別化を図っているのである(乙4の1及び2を見る限り,「アイネイル」のキーワードにより,原告・被告以外にも,東京,横浜,奈良,神戸,福岡の業者が検索されている。)。 本件をみるに,上記検索結果において,被告は「名古屋で人気のネイルサロン」となっているのに対し,原告は「さいたま市大宮のネイルサロン」となっている(乙4)。さらに,原告と被告とのホームページは,別個独立であり(乙1,甲12),その内容を見れば,掲げられた「標章」が違うことに加え,店舗情報,料金体系などから,需要者にとって,両者が全く別物であることは,容易に分かるといえる。 需要者が,以上のようなホームページ広告を介し,事前の店舗検索・検討を行う限り,出所を誤認混同することは,まずあり得ない。 c 実際の来店の段階においてネイルアートは,主として若い女性を対象としたファッションであ り,時間の経過とともに劣化するものであるから,これを継続して楽しみたい者にとっては,再施術を必要とする。 よって,ネイルサロンとは,客の来店を要し,さらには,リピーターとなれば,継続的な来店を要するものである。ゆえに,客層は,自ずと店舗所在地の地域住民に限定される傾向にあり,これが物販営業と大きく異なる点である。 この点,原告店舗は,埼玉県内に所在するのに対し,被告4店舗は,愛知県内に所在する。そもそも両者には,関東・東海地方という文化圏・商圏の違いがある。そして,大宮駅( 異なる点である。 この点,原告店舗は,埼玉県内に所在するのに対し,被告4店舗は,愛知県内に所在する。そもそも両者には,関東・東海地方という文化圏・商圏の違いがある。そして,大宮駅(埼玉県)と名古屋駅(愛知県)とは,約400kmの隔たりがあり,公共交通機関にて,片道約2時間30分,片道運賃約1万1000円を要する(乙11)。原告店舗の客単価につき,甲12号証の2を基に数千円程度と仮定した場合,主たる需要者である若い女性客が,数千円程度の施術を受けたいがため,地理的・時間的・費用的制約がある状況下で,原告商標と被告標章につきその出所を誤認混同した結果,わざわざ被告4店舗に来店することは,到底あり得ない。 d 小括原告商標と被告標章とは,図形部分も含め外観が著しく相違しており,さらには,取引の実情に鑑みれば,需要者が,役務の出所を誤認混同するおそれは全くない。 よって,原告商標と被告標章とは,同一又は類似ではない。 (イ) 被告標章1についてa 役務の性質を踏まえた検討役務の性質が上記(ア)aのとおりである以上,宣伝媒体としては,自社におけるネイルアートの技法・施術例,店内雰囲気を需要者に伝えるべく,ホームページ,雑誌といった視覚に訴えるものが主力とな る(被告もホームページ,雑誌を主たる宣伝方法としている。)。例えばラジオ宣伝をしたとしても,何ら宣伝効果はない。 そうすると,需要者が出所の混同をするか否かの観点から商標の同一性・類似性を判断するにあたり,外観が圧倒的に重要である反面,称呼の重要性は,限りなく低いといわざるを得ない。そして,被告標章1と原告商標とは,外観が大きく異なり,観念も異なっている。 性・類似性を判断するにあたり,外観が圧倒的に重要である反面,称呼の重要性は,限りなく低いといわざるを得ない。そして,被告標章1と原告商標とは,外観が大きく異なり,観念も異なっている。 以上のとおり,役務の性質を踏まえ,外観・称呼・観念等から具体的実質的に検討されたならば,被告標章1と原告商標とは類似しない。 b 取引の実情を踏まえた検討(a) 被告標章1に対する需要者の認識ある商標の中で,識別力を有する部分を要部とするならば,役務をネイルサロンとする限り,「ネイル」の部分は,要部たり得ない。 さらに,「アイ」の部分につき,「私」「愛」「藍」といった具合に多義的であり,様々な観念が想起されるため,やはり要部たり得ない。そうすると,これらの文字を組み合わせたのみでは,得られる識別力にも自ずと限界がある。 そこで,被告標章1に付された,「アルファベットと一体化された図形部分」も合わさって,被告標章1は,独自の識別力を獲得するのである(いわゆる全体的観察)。 (b) 被告標章1に対する被告の取引業者の認識被告の名刺には,被告標章1が印刷されている(乙13)。そして,被告の名刺は,被告の取引業者等に配布されるところ,被告の取引業者は,被告標章1につき,アルファベットと図形部分とを一体のものとして,これを認識する。 (c) 被告標章1に対する被告の顧客の認識被告は,顧客に対し,被告4店舗それぞれにおいて,被告標章1 が印刷されたスタンプカードを配布している(乙14の1~4)。 ただし,被告4店舗それぞれの区別がしやすいように,台紙は,店舗ごとに,別の配色が施されている。また,被告の新規顧客が作成する同 が印刷されたスタンプカードを配布している(乙14の1~4)。 ただし,被告4店舗それぞれの区別がしやすいように,台紙は,店舗ごとに,別の配色が施されている。また,被告の新規顧客が作成する同意・登録書に関しても,右下に被告標章1が印刷されている(乙8の4)。そこで,被告の顧客は,被告標章1につき,アルファベットと図形部分とを一体のものとして,これを認識する。 (d) 以上のような取引の実情を踏まえ,取引における経験則に基づいて,時と場所とを異にした場合,原告商標と被告標章1とに接した者は,両標章につき誤認混同を生じない(いわゆる離隔的観察)。 よって,原告商標と被告標章1とは類似しない。 (ウ) 被告標章2について原告商標と被告標章2は,観念が異なり,同一ではない。 (2) 原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)(被告の主張)ア被告は,原告商標登録出願前から,被告標章を使用していた。その結果,後記のとおり,被告標章は,原告商標登録出願時において,周知性を有していた。したがって,仮に原告商標と被告標章が同一又は類似と認められる場合には,原告の商標登録は無効である。 イ被告が被告標章を用いホームページによる宣伝を行ってきたこと(ア) ホームページは,需要者に対し,被告標章,店舗所在地のみならず,来店を決意させるに重要な,「ネイルアートの技法・施術例,店内雰囲気,価格」を伝えるに適しており,重要な宣伝媒体となる。 被告ホームページにおいても,「今週のお客様」と題して来客の施術例の写真を公開し,店内の雰囲気を理解してもらうため店内の写真を公開している(乙1)。さらに,従来のネイルサロンでは施術前に料金が分か 被告ホームページにおいても,「今週のお客様」と題して来客の施術例の写真を公開し,店内の雰囲気を理解してもらうため店内の写真を公開している(乙1)。さらに,従来のネイルサロンでは施術前に料金が分かりにくく,料金の不透明さが集客の障害となっていたが,被告は, 業界に先駆けて,本店開店当初より「わかりやすい料金システム」を謳い(乙1),これが需要者の支持を得て,短期間に間に業界大手に成長したものである。 (イ) 被告は,平成21年3月,本店を開店させるのと同時に,被告標章を使用してホームページを開設した(乙1,2)。 (ウ) 被告ホームページに対する平成22年7月以降のアクセス数は以下のとおりである。 平成22年 7月 29万8473回(乙3の1)平成22年 8月 28万6673回(乙3の2)平成22年 9月 27万4302回(乙3の3)平成22年10月 27万7521回(乙3の4)確かに,原告商標登録出願時点における,被告ホームページへのアクセス数は,解明できていない。しかし,その半年後には,毎月約30万回弱のアクセス数を誇っているのであって,原告商標登録出願時点においても,相当数のアクセス数に上っていたことは明白である。 (エ) さらに,平成24年1月6日現在,「アイネイル」のキーワードで検索した場合,Yahoo検索,Google検索ともに,被告ホームページが最上位となることも付け加える(乙4の1及び2)。この点,同日現在,被告標章と,称呼が同一のネイルサロンが複数存在するようであるが,その中でも,被告が全国的に見て,最も著名かつ大手のネイルサロンなのである。 (オ) 以上のとおり,上記(ウ)及び(エ)から推測す 章と,称呼が同一のネイルサロンが複数存在するようであるが,その中でも,被告が全国的に見て,最も著名かつ大手のネイルサロンなのである。 (オ) 以上のとおり,上記(ウ)及び(エ)から推測すれば,原告商標登録出願時においても,被告ホームページが,相当数のアクセス数を有していたことは明らかである。すなわち,被告標章は,原告商標登録出願時において,被告ホームページを介し,既に全国的に周知されていたのである。 ウ被告が被告標章を用い雑誌による宣伝を行ってきたこと(ア) ホットペッパー名古屋版は,RECRUITの発行する地域情報誌であり,平成21年7月現在,発行部数は月15万部に上る雑誌である(乙5)。この点,雑誌広告は,需要者に対し,被告標章,店舗所在地のみならず,来店を決意させるに重要な,「ネイルアートの技法・施術例,店内雰囲気,価格」を伝えるに適しており,重要な宣伝媒体となる。 (イ) 被告は,被告標章を使用し,被告本店につきホットペッパー名古屋版平成21年4月号から平成22年7月号まで,被告金山店につき同雑誌平成21年10月号から平成22年7月号まで,毎月,広告を出している(乙6の1,6の2)。 (ウ) 以上により,原告商標登録出願時において,被告標章は,雑誌広告を通じ,「少なくとも東海地方」において周知されていたものである。 エ被告店舗における新規顧客来店数の推移・その住所地について(ア) 被告本店開店後,約10か月における新規顧客数(リピーターを含まない)は1355人に上る。そして,来客の住所地分布につき,名古屋市が全体の67.16パーセントである。さらに,名古屋市を除く愛知県につき,全体の24.35パーセントであり,県内全域に及んでいる。加えて,愛知県外 人に上る。そして,来客の住所地分布につき,名古屋市が全体の67.16パーセントである。さらに,名古屋市を除く愛知県につき,全体の24.35パーセントであり,県内全域に及んでいる。加えて,愛知県外につき,全体の7.01パーセントである(乙8の1)。 (イ) 被告金山店開店後,約5か月における新規顧客数(リピーターを含まない)は748人に上る。そして,来客の住所地分布につき,名古屋市が全体の54.68パーセントである。さらに,名古屋市を除く愛知県につき,全体の37.03パーセントであり,県内全域に及んでいる。 加えて,愛知県外につき,全体の7.35パーセントである(乙8の2)。 (ウ) 被告名駅店開店後,1か月における新規顧客数(リピーターを含ま ない)は297人に上る。そして,来客の住所地分布につき,名古屋市が全体の37.04パーセントである。そして,名古屋市を除く愛知県につき,全体の26.60パーセントであり,県内全域に及んでいる。 加えて,愛知県外につき,全体の18.86パーセントである(乙8の3)。 (エ) 原告商標登録出願時において,被告本店,金山店のいずれとも,新規顧客数は多数に上り,さらには,愛知県全域から来客を得ており,加えて,愛知県外からの新規顧客も7パーセント程度存在する。ネイルサロンの役務の性質(地域的限定性),上記2店舗の立地条件(県外からのアクセスの悪さ)を考慮すれば,「周知性」を認めるのに十分である。 もっとも,「周知性」にいうところの需要者とは,実際に来店した者に限定される訳ではない。すなわち,原告商標登録出願からわずか半月後に開店した名駅店においては,開店後1か月間における愛知県外からの新規顧客が19パーセント程度に達する。これは,原告商標登録出願時におい される訳ではない。すなわち,原告商標登録出願からわずか半月後に開店した名駅店においては,開店後1か月間における愛知県外からの新規顧客が19パーセント程度に達する。これは,原告商標登録出願時において,被告の経営するネイルサロンに対し,県外居住者からの潜在的需要があったことを示している。さらに,実際の来客の背後には,より多くの需要者が存在する。 要するに,原告商標登録出願時において,被告標章が,広く県外の需要者にも周知されていたことは,明白である。 オその他周知性を裏付ける事情(ア) ネイルアートの専門誌(全国誌)である「ネイルマックス」の12周年特別企画において,日本全国の人気ネイルサロンが特集された際,被告店舗(本店)が紹介された(乙7)。これは,東京都に所在する出版社から,東海地方の人気店であった被告に対し,原告商標登録出願前に,取材がされたものである。 この点,上記特集にて紹介された日本全国の人気ネイルサロン64店 舗のうち,半数が関東地方であるところ,東海地方で紹介されたネイルサロンは,被告を含め,名古屋所在の2社しかない。被告の営業は,その被告標章を含め,原告商標登録出願時において,東京都に所在する専門誌編集者にも知れるところとなっていたこと,さらには,同時点において,被告が東海地方を代表するまでになっていたことを示している。 (イ) 被告は,別紙被告店舗状況記載の順序により,順調に直営店を開店させた。さらには,被告が,東海地方における人気店に成長したことを受け,被告標章を用いたネイルサロン開業を要望する者が増えた。 そこで,被告は,希望者に被告標章の使用を許諾し,平成22年4月から平成23年8月までに,ライセンス店が急速に拡大したものである。 その 章を用いたネイルサロン開業を要望する者が増えた。 そこで,被告は,希望者に被告標章の使用を許諾し,平成22年4月から平成23年8月までに,ライセンス店が急速に拡大したものである。 その結果,被告は,短期間の間に,ネイルサロン業界の大手に成長した。 上記ライセンス店拡大の事情は,原告商標登録出願時において,既に被告標章が周知され,被告の営業が独自の信用を獲得していたことを裏付けるものである。 カ周知性のまとめ以上により,原告が商標登録出願をした際において,被告標章は,愛知県全域を超え,広く東海三県たる岐阜県・三重県,ひいては,他県にも周知されていた。そして,ネイルサロンという役務の性質(地域的限定性)を加味すれば,周知性を有するものであったことは明白である。 (原告の主張)ア被告の主張に対する認否被告の主張は争う。 イ周知性の判断基準について商標法4条1項10号による周知商標の保護は,登録主義をとる同法の下で,例外的に,未登録商標であっても周知である場合には,既登録商標と同様に,これとの間で出所の混同のおそれを生じさせる商標の登録出願 を排除することを認めようとするものである。しかも,商標登録出願が排除されると,出願人は,当該出願商標を,我が国のいずこにおいても,登録商標としては使用することができなくなるという意味において,排除の効力は全国に及ぶものである。これらのことに鑑みると,周知であるといえるためには,全国的にかなり知られているか,全国的でなくとも,数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られていることが必要であると解すべきである(東京高裁平成13年(行ケ)第430号)。 上記裁判例における商 国的でなくとも,数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られていることが必要であると解すべきである(東京高裁平成13年(行ケ)第430号)。 上記裁判例における商標権の指定商品(役務)は,第36類「建物の貸与,建物の売買,土地の売買,土地の貸与」であるが,土地や建物を売買等する際に現地に出向いて現況確認や契約等することが通常行われているという点においては,被告が主張する「店舗に来店する必要がある」点において共通する。そうであるならば,役務の性質を考慮したとしても,同様に「周知であるといえるためには,全国的にかなり知られているか,全国的でなくとも,数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られていることが必要」であると解される。 ウ被告標章の周知性についてホットペッパー誌(乙6)は,名古屋地区限定で僅か15万部/月の発行である。しかもフリーペーパーという性質上,料金を支払って購入する雑誌等に比べて需要者はそれ程子細に雑誌を読み込まないし,配布された雑誌を一旦は手にしても中身も見ずに処分する場合も多いのが現実である。 そうすると,実質的な発行部数は相当程度少なく見積もられるべきであり,かかる観点からも他人の商標登録を無効にするほどの周知性は存在しない。 また,被告は,「ネイルマックス」(乙7)なる専門誌に紹介されたことを理由に周知性を主張するが,被告主張によれば当該専門誌は平成22年1月30日に発行されており,原告の商標登録出願日(同月13日)よ りも後であるから,掲載された雑誌が発行されたことによる周知性は考慮に値しない。さらに,専門誌の編集者の目に留まって取材を受けたこと,東海地方で紹介されたネイルサロンが2社しかないことを理由に周知性を主張 あるから,掲載された雑誌が発行されたことによる周知性は考慮に値しない。さらに,専門誌の編集者の目に留まって取材を受けたこと,東海地方で紹介されたネイルサロンが2社しかないことを理由に周知性を主張するが,編集者が取材をする基準も何ら示されておらず不明確であるし,雑誌の内容を充実させるために偶然目に留まったネイルサロンを紹介することもあり得ることを考慮すれば,取材を受けたことが一義的に周知性を獲得している証拠とはなり得ない。 被告は,被告ウェブサイトのアクセス数(乙3)を根拠に周知されていたと主張するが,提出された証拠は全て原告の商標登録出願日(平成22年1月13日)よりも後のものばかりであって,検討するに値しない。ウェブサイトへのアクセス数を左右する数々の要素は日々変化しているのであるから(外的要因として検索エンジンのアルゴリズム変動などもある),商標登録日より半年も後のアクセス数など,商標登録時点での周知性に関しては全く証拠価値のないものである。 (3) 被告の先使用権の有無(争点3)(被告の主張)ア不正競争の目的はないこと被告は,被告標章を使用し,平成21年3月に本店を開店し,同年8月に金山店を開店した。そして,原告商標登録出願後においても,直営店・ライセンス店を含め,概ね東海地方から関西地方に出店し,ネイルサロン業界の大手に成長した。言い換えれば,被告は,原告商標の有する信用に関係なく,その営業努力により,被告標章の信用を獲得してきたものである。被告には,原告の信用を利用して利益を得ようとする目的はない。 イ周知性の範囲(ア) 先使用権の趣旨商標法32条1項前段の趣旨は,先使用者の既得的な地位を後発の登 録商標の禁止権から保護することにあ する目的はない。 イ周知性の範囲(ア) 先使用権の趣旨商標法32条1項前段の趣旨は,先使用者の既得的な地位を後発の登 録商標の禁止権から保護することにあり,先発の使用者の努力によって信用が蓄積されたと評価できるような商標が存在するときは,その商標が未登録であっても,その事実状態(社会的関係)は保護されるべきことに基づくものである(イ) 周知性に関する裁判例・学説商標法32条1項前段の周知性の認定は,同法4条1項10号に比べ緩やかに解し,取引の実情に応じ,具体的に判断するものとされている(東京高裁平成5年7月22日判決)。 そして,新・商標法概説初版(青林書院)288頁によれば,周知性の範囲につき,「1県より広い程度」でよいとされている。さらには,別冊ジュリスト188号商標・意匠・不正競争判例百選(有斐閣)の「31先使用権」解説によれば,周知性の範囲につき,商標法4条1項10号ほどの地域的範囲,浸透度は要しないというべきであり,「役務の性質等によっては,一県よりも狭くとも認められる場合もある」とされている。 (ウ) ネイルサロン(役務)の性質を踏まえた周知性の範囲ネイルサロン(役務)の性質とは,客がネイルアートの施術を受けるべく店舗に来店する必要があるものである。具体的には,客は,事前に,ホームページや,雑誌広告,紹介等により,各ネイルサロンにおけるネイルアートの技法・施術例,店内雰囲気,価格,店舗所在地を比較検討し,来店予約をした上,来店するものである。ゆえに,客層は,店舗所在地の地域住民に限定される傾向にある。さらに,ネイルサロン業界全体をみても,複数の都道府県に渡り店舗を展開する業者は乏しいのが現状である。 来店するものである。ゆえに,客層は,店舗所在地の地域住民に限定される傾向にある。さらに,ネイルサロン業界全体をみても,複数の都道府県に渡り店舗を展開する業者は乏しいのが現状である。 以上のネイルサロンの性質からすれば,先使用者の営業努力によって,当該標章に,少なくとも「店舗所在地たる一県程度」にわたり信用が蓄 積されていれば,商標法32条1項前段の趣旨に照らし,さらには,需要者保護の観点からも,かかる事実状態(社会的関係)は保護されるべきであると思料する。 そこで,商標法32条1項前段の周知性につき,ネイルサロンにおいては,少なくとも「店舗所在地たる一県程度」であれば足りるというべきである。 ウ被告標章の周知性上記(2)(被告の主張)イ~カと同じ。 (原告の主張)ア被告の主張に対する認否被告の主張は争う。 イ周知性の範囲について被告は,先使用権(商標法32条)における周知性の範囲につき,「4条1項10号ほどの地域的範囲,浸透度は要しない」と主張する。確かに,そのような見解があることは認めるが,文言上同一の表現で規定されている「広く認識されている」との要件を区別して取り扱うだけの合理的根拠はなく失当である(竹田稔・知的財産権侵害要論特許・意匠・商標編第4版674頁,松尾和子「先使用権の要件である『広く認識せられたる』(旧商標法第九条一項,現行法第三十二条一項)の意義」判例商標法858頁以下に同旨)。 ウ被告標章の周知性について上記(2)(原告の主張)ウと同じ。 また,被告が営業を開始したとする平成21年3月から原告の商標登録出願日(平成22年1月13日)まではわずか10か月という1年にも満 いて上記(2)(原告の主張)ウと同じ。 また,被告が営業を開始したとする平成21年3月から原告の商標登録出願日(平成22年1月13日)まではわずか10か月という1年にも満たない短い期間であって,この期間内におけるホットペッパー誌程度の宣伝広告で(相当程度に狭い地域であったとしても)他人の商標権に対抗で きる権利を認めるのは商標制度の根幹を揺るがし得るものである。被告は,事業者とすれば当然知るべき商標登録制度を知りながらも,自己が営業上出所表示として使用する標章につき商標登録出願という行為を怠っていた者である。要するに,商標権を取得しないことによるリスクを把握しながらも,手間や費用を惜しんで手続を怠っていたのである。一方,原告は,事業展開を見据えてより早期に手間と費用をかけて商標登録出願を行い,正当に権利を取得した者である。このように法に則り真面目に手続をして取得した権利に対して,手続を怠った者のごくごく短期間かつわずかの宣伝広告行為で先使用権が発生するとなれば,真面目に手続をする者はいなくなり,商標法における登録主義は崩壊することになる。 エ先使用権の範囲について仮に被告が先使用権を有している場合でも,その範囲は原告の商標登録出願日(平成22年1月13日)において使用していた範囲(店舗)に限られるべきであって,出願日以降に営業を開始した直営店(並びにライセンス店)の使用についてはその範囲外である。 (4) 原告の商標権行使が権利濫用に当たるか(争点4)(被告の主張)アウィルスバスター事件(東京地裁平成11年4月28日判決)は,「本件商標は出所識別力が乏しくYの標章の使用によって識別能力を害されることは殆どないのに対して,Yの標章の使用を差止めたときは,Yの アウィルスバスター事件(東京地裁平成11年4月28日判決)は,「本件商標は出所識別力が乏しくYの標章の使用によって識別能力を害されることは殆どないのに対して,Yの標章の使用を差止めたときは,Yの標章の商品の識別能力を著しく害し,商標の出所識別能力の保護を目的とする商標法の趣旨に反する」とする。 イ原告には,平成22年6月,埼玉県さいたま市において開業した1店舗があるのみである。そして,その店舗立地,店舗外観からして,高級感・特別感・清潔感を感じさせるものとはいい難く,数多あるネイルサロンの中で,あえて原告店舗を選んで来店する女性客が,いかほど存在するのか についても疑問を抱かざるを得ない(乙10)。ゆえに,原告商標の出所識別能力は,元より乏しいものと見るべきである。 これに対し,平成22年6月には,既に愛知県において被告4店舗が開店していた。そして,大宮駅(埼玉県)と名古屋駅(愛知県)とは,約400kmの隔たりがあり,公共交通機関にて,片道約2時間30分,片道運賃約1万1000円を要する(乙11)。上記のような地理的・時間的・費用的制約がある状況下で,被告標章が使用されたとしても,これによって,原告商標の識別能力を害されることはほとんどないのである。 ウこの点,原告は,いわゆる「デジタルネイル」といったネイルアートの一般的手法に関しても,商標登録を目論む者であって(乙9),本訴の目的も専らライセンス料の獲得にあるものと思われる。しかしながら,被告4店舗は,原告店舗より先に開店しているのであって,被告標章は,専ら被告の営業努力によって,原告商標とは無関係に,出所識別能力を培ってきたものである。 言い換えれば,原告商標が,被告の売上げに全く寄与していないことは明らかであり,ライセンス料 は,専ら被告の営業努力によって,原告商標とは無関係に,出所識別能力を培ってきたものである。 言い換えれば,原告商標が,被告の売上げに全く寄与していないことは明らかであり,ライセンス料を要求されるいわれもないはずである。にもかかわらず,被告標章の使用を差し止めるならば,その識別能力を著しく害し,需要者にとっても不利益が著しいものである。 エ以上により,商標の出所識別能力の保護を目的とする商標法の趣旨に照らし,上記イ及びウを比較考量したならば,本件差止請求は,権利濫用として許されない。 (原告の主張)ア被告の主張に対する認否被告の主張は争う。 イそもそも,商標を実際に使用していなかったとしても,商標法が登録主義を採用している以上,差止請求が権利濫用になるわけではない(大阪地 裁昭和54年9月14日判決・無体裁集13巻1号82頁参照)。 しかも,原告は,埼玉県さいたま市<以下略>所在のネイルサロン「Inail(アイネイル)」を経営しており,店舗名や広告媒体等において商標を使用している(甲12~15)。原告は,上記場所の店舗を平成21年3月1日から用途をネイル店として賃借の上,平成22年6月よりネイルサロンを営業している(甲16)。 原告店舗は,埼玉県内の経済・商業の中心地である大宮駅から徒歩30秒という一等地に所在し,一人でも貸し切りが可能な少人数制のサロンとして営業している。原告店舗のコンセプトは,少人数制ゆえのプライベート感,顧客一人一人に対する丁寧なサービスである。アイネイルという店舗名も,このようなプライベート感を押し出すコンセプトから考えられたものである。 被告は,原告が不正競争の目的をもって商標出願を行った,被告の業務を不当 ービスである。アイネイルという店舗名も,このようなプライベート感を押し出すコンセプトから考えられたものである。 被告は,原告が不正競争の目的をもって商標出願を行った,被告の業務を不当に妨害する目的で訴訟を提起したなどと主張しているが,全く根拠のない憶測である。原告は,積極的に自己の商号を権利化し,その正当な権利に基づき事業者として至極当然の権利行使をしているにすぎない。 ウ原告店舗は,上記のようなコンセプトを重視し,小規模な店舗での目の行きとどいた経営を行っている。その結果,顧客一人一人がプライベートサロン感覚で施術を受けられるネイルサロンとして,一定程度の需要者の認識と信用を獲得している。 ところが,被告はフランチャイズ店も含め多数の店舗を立て続けにオープンさせるなどしており,原告のコンセプトからすれば,このような事業展開は到底許容できず,両者の間の出所混同が生じることは原告の商標が備える信用にとって予測不可能な点も含めて回復困難な悪影響を及ぼしかねない。 被告は,ネイルサロンには「地域限定性」なる特性があるため,関東地 方で事業展開を行う原告店舗との出所混同は生じ得ないと主張するが,失当である。被告も主張するとおり,ネイルサロンの宣伝としては,消費者に対して視覚的に訴えることができるウェブサイトが非常に重要な位置を占めており,原告も経営するネイルサロンに関してウェブサイトを公開して広告を行っている(甲12)。 ウェブ上での広告において最も重視されるのは検索エンジンでの検索結果である。原告店舗の名称である「アイネイル」というキーワードで検索した場合の検索エンジンでの表示結果については乙4号証各号のとおりであり,yahoo・googleの代表的な両検索エンジンのいずれに 果である。原告店舗の名称である「アイネイル」というキーワードで検索した場合の検索エンジンでの表示結果については乙4号証各号のとおりであり,yahoo・googleの代表的な両検索エンジンのいずれにおいても,原告の店舗名称で検索を行った際に被告のウェブサイトが第1位に表示されている。需要者が検索エンジンを利用する際の認識からすれば,店舗名称を検索キーワードとして検索を行えば,最上位に表示されるサイトが目的の店舗のサイトと考えるのが自然である。よって,少なくともyahoo・googleの両検索エンジンにおいては,需要者にとって原告と被告の出所混同を現に生じさせているといえる。そして,被告も主張するネイルサロンにおけるウェブページの重要性,ウェブ広告における検索エンジンの重要性を考えれば,原告の商標と被告が使用する標章が出所混同を生じていないなどとは,ネイルサロンという提供役務の性質を考慮しても到底認めることはできない。 エ被告標章には周知性・著名性は認められない。原告には,被告標章の著名性を利用しようとする意思は論理的に存在しえない上,ごくごく一部の関係者にのみ知られているにすぎない被告標章が消滅したとしても商標法の目的に反するほどの不利益を需要者に与えるとは到底考えられない。 被告に損害が生じることについては原告としては特に争うつもりはないが,それは権利取得を怠った者が当然甘受すべきものであって,商標法の目的からしても本件において考慮すべき事情ではない。 オ以上のとおり,原告は自己の経営するネイルサロンの店名を商標登録し,この商標権に基づいて商標権侵害者である被告に対して使用差止めを求めているのである。そして,差止の対象たる被告標章も周知性・著名性があるとはいえないものであるから,差止による不利 店名を商標登録し,この商標権に基づいて商標権侵害者である被告に対して使用差止めを求めているのである。そして,差止の対象たる被告標章も周知性・著名性があるとはいえないものであるから,差止による不利益もごくごく一部の被告関係者にのみ生じるものである。 よって,原告の請求が権利濫用に当たる要素はなく,権利濫用の抗弁は成立しない。 (5) 原告の損害の有無及び損害額(争点5)(原告の主張)原告は,本訴の遂行を原告訴訟代理人弁護士・同弁理士に委任した。このうち,被告による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用額は50万円である。 したがって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく50万円の損害賠償債務を負う。 (被告の主張)原告の主張は争う。 弁護士費用は,侵害行為と相当因果関係ある損害として認められるものであって,本件では,被告による商標権侵害がない。 第3 当裁判所の判断 1 原告商標と被告標章との類否(争点1)について(1) 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。上記のとおり,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点 のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行 の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。 (2) 以上に基づいて,原告商標と被告標章とを対比する。 ア原告商標原告商標は,片仮名(横書き)の標準文字で「アイネイル」と表記する構成であるから,「アイネイル」というカタカナ横書き文字の外観を有し,「あいねいる」の称呼が生じる。 また,原告商標の「アイネイル」の文字は,一連の文字として表記されているものではあるが,一般に,「ネイル」という英語が「爪」を意味することは広く理解されているところから,取引者・需要者には「アイ」と「ネイル」を区切って,個別に観念されるのが通常であると考えられる。 そして,「アイ」が英語の「I」として日本語の「私」を連想させるところから,被告標章1からは「私の爪」との観念が生じる。また,後記取引の実情によれば,美容としてのネイル装飾についての需要者には比較的若年の女性層が多いものと推認され,また,「幸福」や「結婚」,「お姫様気分」といった宣伝がされていることに照らせば,「アイ」は,日本語の「愛」を連想させ,「愛のあるネイル」との観念も生じさせるものといえる。 イ被告標章1被告標章1は,アルファベット大文字(横書き)で「INAIL」と表記し,「I」の文字のみがその他の「NAIL」の文字よりもやや縦に長く,かつ,他の文字よりも太字で表記されている。また,各文字の上部に はそれぞれ丸図形が配され, 書き)で「INAIL」と表記し,「I」の文字のみがその他の「NAIL」の文字よりもやや縦に長く,かつ,他の文字よりも太字で表記されている。また,各文字の上部に はそれぞれ丸図形が配され,5つの丸図形は,語頭の「I」から語尾の「L」に向かってアーチ状に,徐々に小さくなっており,語頭から4文字目の「I」の上部に配される丸図形のみが塗りつぶされ,それ以外の丸図形は中空のドーナツ型の図形である。 このように,被告標章1は,文字と図形とが結合した標章であって,上記の外観を有する。 称呼については,図形部分から特定の称呼が生じるとは認められない。 文字部分については,「I」と「NAIL」の文字が上記のとおりその大きさが異なるところから,それぞれ別個のまとまりとして認識され,「あいねいる」の称呼が生じる。 被告標章1の観念については,「I」は日本語の「私」を連想させ,「NAIL」「ねいる」は日本語の「爪」を連想させるから,被告標章1からは「私の爪」の観念が生じる。 なお,被告は,正確には被告標章1が別紙被告標章1色彩図のとおりと主張するが,他の色彩パターンのもの(甲5の1,5の2,乙14の1~14の4)もあることを考慮すると,被告標章1は別紙被告標章目録記載1の標章をもって確定するのが相当である。 ウ被告標章2被告標章2は,片仮名(横書き)で「アイネイル」と表記する構成であるから,「アイネイル」というカタカナ横書き文字の外観を有し,「あいねいる」の称呼が生じる。 また,被告標章2の「アイネイル」の文字は,一連の文字として表記されているものではあるが,一般に,「ネイル」という英語が「爪」を意味することは広く理解されているところから,取引者・需要者には「アイ」と「 被告標章2の「アイネイル」の文字は,一連の文字として表記されているものではあるが,一般に,「ネイル」という英語が「爪」を意味することは広く理解されているところから,取引者・需要者には「アイ」と「ネイル」を区切って,個別に観念されるのが通常であると考えられる。 そして,「アイ」が英語の「I」として日本語の「私」を連想させると ころから,被告標章1からは「私の爪」との観念が生じる。 また,後記取引の実情によれば,美容としてのネイル装飾についての需用者には比較的若年の女性層が多いものと推認され,また,「幸福」や「結婚」,「お姫様気分」といった宣伝がされていることに照らせば,「アイ」は,日本語の「愛」を連想させ,「愛のあるネイル」との観念も生じさせるものといえる。 エ原告商標に関する取引の実情証拠(枝番号を含めて甲12~16,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成21年3月,さいたま市<以下略>所在の建物(木造2階建て)の一部を,ネイルサロンを使用目的として賃借し,平成22年6月からネイルサロン「Inail(アイネイル)」を経営していること,原告は,当該ネイルサロンの看板・入口,ウェブサイト,雑誌広告(ホットペッパーさいたま版平成23年9月号~平成24年5月号)において,原告商標を使用していることがそれぞれ認められる。 また,原告のホームページ冒頭の「ごあいさつ」のページには,「残業続きのOLさん・・・爪がもう限界でサロンに行きたくてもいけない,そんなOLさんがお仕事帰りに気軽に寄れるサロンです。ロココ調家具で統一された店内はお姫様気分で居心地バッグン!」との記載がある。 オ被告標章に関する取引の実情被告4店舗の所在地及び開店時期は,別紙被告店舗状況 寄れるサロンです。ロココ調家具で統一された店内はお姫様気分で居心地バッグン!」との記載がある。 オ被告標章に関する取引の実情被告4店舗の所在地及び開店時期は,別紙被告店舗状況のとおりである(前提事実(5))。また,前提事実(4)に加え,証拠(枝番号を含めて甲2~6,乙1,6,13,14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告4店舗の各店舗の内外装・看板・案内板・入口等,ウェブサイト,雑誌広告(ホットペッパー名古屋版,本店につき平成21年4月号~平成22年7月号,金山店につき平成21年10月号~平成22年7月号)において,被告標章を使用するほか,被告取締役の名刺,顧客のスタンプカード,ギ フトカードにおいても,被告標章を使用していること,被告は,被告4店舗の名称として,単独で被告標章2を使用しているものの,それ以外では,被告標章1の「N」又は「IL」の直上部に,アルファベット大文字部分と比較して小さい文字で被告標章2を付け加える態様をもって被告標章を使用している例が多いことがそれぞれ認められる。 被告のホームページの冒頭のページには,「指先から輝く幸せ」「幅広い年代のお客様のニーズに応えられる様,スタッフ一丸となって接客させて頂きます。」との記載や,ネイルギフト券のご案内として「誕生日や母の日・結婚式・結婚記念日など大切な方へのプレゼントにお薦めです。」との記載がある。 また,被告のホットペッパーにおける宣伝広告の内容をみると,「カワイイアート♪どれだけのせても均一料金!!幅広い年齢層をターゲットに,シンプル系からカワイイ系のあらゆるデザインを揃えています!!」との記載がある。 カネイルサロンについての宣伝広告等乙4号証の1によれば,平成24年1月6日の時点に ゲットに,シンプル系からカワイイ系のあらゆるデザインを揃えています!!」との記載がある。 カネイルサロンについての宣伝広告等乙4号証の1によれば,平成24年1月6日の時点において,「Yahoo!検索」で「アイネイル」を検索すると,被告の経営する店舗が,「ネイルサロンINAIL名古屋で人気のネイルサロン」としてトップで表示され,原告の経営する店舗が,「さいたま市大宮のネイルサロンInail(アイネイル)として店舗としては5番目に表示されている。その中間の2番目ないし4番目に記載されている店舗の所在地は,東京都渋谷区恵比寿,奈良県西大寺駅そば,奈良西大寺・生駒・西宮北口であり,このほか,横浜市や福岡県小郡市の店舗も掲載されている。 また,乙7号証によれば,インフォレスト株式会社が発行する「NAILMAX」平成22年2月号では,12周年特別企画として,「全国のネイルサロンご招待!」という企画が組まれ,被告店舗を含め,北海道か ら長崎までの60余りの店舗が紹介されている。 キ原告商標と被告標章1との対比上記アのとおり,原告商標は,「あいねいる」の称呼が生じ,「愛のあるネイル」「私の爪」の観念が生じる。これに対し,上記イのとおり,被告標章1は,「あいねいる」の称呼が生じ,「私の爪」の観念が生じる。 以上のとおり,原告商標と被告標章1は称呼が同一である。また,原告商標においては,「私の爪」,「愛のあるネイル」という観念が生じるのに対し,被告標章1からは「私の爪」との観念が生じるから,原告商標と被告標章1とは観念の一部が類似する。 外観については,原告商標が「アイネイル」という横書きの標準文字からなるのに対し,被告標章1は上記イのとおりの結合標章であって,その外観 原告商標と被告標章1とは観念の一部が類似する。 外観については,原告商標が「アイネイル」という横書きの標準文字からなるのに対し,被告標章1は上記イのとおりの結合標章であって,その外観は類似しない。 以上のとおり,原告商標と被告商標1は,その外観は異なるものの,称呼と観念の一部が同一である。上記エ及びオのとおり,原告店舗がさいたま市,被告4店舗が名古屋市及び一宮市であって原告及び被告の各店舗の距離が離れているものの,上記カのとおり,インターネットの検索画面や雑誌などにおいては,ネイルサロンが全国的に取り上げられており,役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められる。 そうすると,原告商標と被告標章1は全体として類似していると認めるのが相当である。 この点,被告は,ネイルサロンの役務の性質からみて,宣伝媒体として,ホームページ,雑誌といった視覚に訴えるものが主力となるとした上で,需要者が出所の混同をするか否かの観点から商標の同一性・類似性を判断するにあたり,外観が圧倒的に重要である反面,称呼の重要性は,限りなく低いといわざるを得ない旨主張する。確かに,視覚に訴える宣伝が有効であろうことは理解できるが,そのような宣伝は標章使用の態様の1つに すぎないのであって,これをもって称呼の重要性が低いということはできないし,少なくとも文字部分を含む標章であれば,視覚に訴える宣伝であったとしても称呼が生じるのであるから,被告の主張は採用できない。 また,被告は,顧客等が被告標章1のアルファベットと図形部分を一体として認識するから,原告商標と誤認混同が生じない旨主張する。しかしながら,上記イのとおり,被告標章1は,文字部分を要部と捉えることなく比較しても,図形部分から特定の称呼 ファベットと図形部分を一体として認識するから,原告商標と誤認混同が生じない旨主張する。しかしながら,上記イのとおり,被告標章1は,文字部分を要部と捉えることなく比較しても,図形部分から特定の称呼及び観念が生じるとは認められないために,文字部分から「あいねいる」の称呼を生じ,また「私の爪」との観念を生じるのであって,その結果,原告商標と誤認混同が生じるのであるから,被告の主張は採用できない。 ク原告商標と被告標章2との対比上記アのとおり,原告商標は,片仮名(横書き)の標準文字で「アイネイル」と表記する構成であり,「あいねいる」の称呼が生じ,「愛のあるネイル」「私の爪」の観念が生じる。これに対し,上記ウのとおり,被告標章2は,片仮名(横書き)で「アイネイル」と表記する構成であり,「あいねいる」の称呼が生じ,「愛のあるネイル」「私の爪」の観念が生じる。 このように,原告商標と被告標章2は外観,称呼及び観念のいずれもが同一である。したがって,上記エ及びオのとおり,原告店舗がさいたま市,被告4店舗が名古屋市及び一宮市であって原告及び被告の各店舗の距離が離れていることを考慮しても,役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められ,同一又は類似していると認めるのが相当である。 ケ原告商標権の指定役務との対比被告が被告標章を使用しているネイルサロンにおいて提供している役務について,原告商標権の指定役務である「美容,理容」に含まれることに当事者間に争いはなく,被告が提供する役務は同一又は類似であると解さ れる。 (3) 以上のとおり,原告商標と被告標章とは同一又は類似する。 被告は,被告4店舗の各店舗の内外装・看板・案内板・入口等,ウェブサイト,雑誌広告(ホットペッ と解さ れる。 (3) 以上のとおり,原告商標と被告標章とは同一又は類似する。 被告は,被告4店舗の各店舗の内外装・看板・案内板・入口等,ウェブサイト,雑誌広告(ホットペッパー名古屋版,本店につき平成21年4月号~平成22年7月号,金山店につき平成21年10月号~平成22年7月号)において,被告標章を使用している(上記(2)オ)。そして,被告標章はいずれも,被告の商号等の営業主体を表示する態様で使用されているものではなく,被告のネイルアートという美容,理容に関する役務を表すものと解されるから,被告標章は,被告の役務に関する広告に被告標章を付して展示したものであって(商標法2条3項8号),これらの被告標章の使用は原告商標権を侵害するものとみなされる(同法37条1号)。そして,商標法36条1項に基づく差止請求及び同条2項に基づく廃棄請求について,その必要性を否定するような事情は見当たらない。 したがって,商標法36条1項に基づく差止請求及び同条2項に基づく廃棄請求はいずれも理由がある(主文1~3項)。 2 原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)及び被告の先使用権の有無(争点3)について(1) まず,商標法32条1項の周知性の範囲について検討する。 商標法32条1項は,先使用が認められた者に「その商品又は役務についてその商標を使用する権利」を認めるにすぎず,無限定にその商標を使用することができるわけではないこと,同条2項の規定により,商標権者は,誤認混同防止措置を付すことを請求することができること,同条1項の周知性が同法4条1項10号における周知性と同じ意味であれば,当該商標権は無効とされるべきものとなり,そもそも商標権者は商標権を行使することができず(同法39条 請求することができること,同条1項の周知性が同法4条1項10号における周知性と同じ意味であれば,当該商標権は無効とされるべきものとなり,そもそも商標権者は商標権を行使することができず(同法39条,特許法104条の3),先使用権を認める必要はないことからすれば,商標法32条1項にいう「需要者の間に広く認識されてい る」地理的な範囲は,同法4条1項10号より狭いものであってもよいと解するのが相当である。 (2) 以上に基づいて,被告標章が商標法32条1項の周知性を有するかを検討する。 アまず,本件における商標法32条1項の周知性の範囲について検討する。 原告商標権は,平成22年1月13日商標登録出願された(以下,当該時点を「本件出願時点」という。)ものであり(前提事実(3)),被告は,平成21年3月本店,同年8月金山店をそれぞれ開店しており(前提事実(5)),本件出願時点において,本店及び金山店を経営していたことが認められる。 以上に加え,ネイルサロンは顧客が役務の提供を受けるために来店する必要があることや,比較的若い女性が対象の役務であることを考慮すると,本件における商標法32条1項の周知性の範囲は,本件出願時点において,被告本店及び金山店の所在地である愛知県内のネイルサロンの需要者である比較的若い女性の間で広く認識されていれば足りると解するのが相当である。 イそこで,更に検討するに,被告は,被告ホームページにおける宣伝,雑誌広告等を根拠として,被告標章の周知性を主張する。 確かに,証拠(乙2)によれば,被告は,平成21年4月ころ,業者に依頼して,被告ホームページを作成するとともに,被告標章1をデザインしたことが認められる。そして,証拠(甲11,乙3の1~3の4)によ かに,証拠(乙2)によれば,被告は,平成21年4月ころ,業者に依頼して,被告ホームページを作成するとともに,被告標章1をデザインしたことが認められる。そして,証拠(甲11,乙3の1~3の4)によれば,被告ホームページのアクセスは,本件出願時点の後である平成22年7月から同年10月までにおいて,1か月27万4302回~29万8473回であること(ただし,ページビュー数〔1人の訪問者がホームページのうち5ページを閲覧するとアクセス数が5となる。〕をカウントしたものである。)が認められ,本件出願時点におけるアクセス数が一定数 あったことが推測できるものの,ページビュー数とは異なる実際のアクセス数は不明であるというほかないから,上記ページビュー数の数字をもって,被告ホームページにおける宣伝を周知性の根拠とすることはできない。 また,証拠(乙5,6の1,6の2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,雑誌広告として,ホットペッパー名古屋版に,被告本店の広告(平成21年4月号~平成22年7月号)及び被告金山店の広告(平成21年4月号~平成22年7月号)をそれぞれ掲載したこと,ホットペッパー名古屋版の発行部数はおおよそ15万部であることがそれぞれ認められる。しかしながら,証拠(乙6の1,6の2)によれば,ホットペッパー名古屋版における被告の広告スペースは限られたものであると推認されるから,ホットペッパー名古屋版の広告を周知性の根拠とすることはできない。 さらに,証拠(乙8の1,8の2)によれば,被告本店開店後,約10か月における新規顧客数(リピーターを含まない)が1355人であり,その住所地分布は,名古屋市が67.16パーセント,名古屋市を除く愛知県が24.35パーセント,愛知県外が7.01パーセントであること,被告金山 規顧客数(リピーターを含まない)が1355人であり,その住所地分布は,名古屋市が67.16パーセント,名古屋市を除く愛知県が24.35パーセント,愛知県外が7.01パーセントであること,被告金山店開店後,約5か月における新規顧客数(リピーターを含まない)は748人であり,その住所地分布は,名古屋市が54.68パーセント,名古屋市を除く愛知県が37.03パーセント,愛知県外が7.35パーセントであることがそれぞれ認められる。しかしながら,被告本店及び金山店の新規顧客数はそれぞれ1日5人程度であり,愛知県全体の人口(平成21年約740万人)を考慮すると,ネイルサロンの需要者である比較的若い女性の人口は全体の人口より少なくなるとはいえ,被告本店及び金山店の新規顧客数を周知性の根拠とすることはできない。 加えて,証拠(乙7)によれば,「NAILMAX」平成22年2月号(発行日付・同年1月30日)において,全国のネイルサロンの1つとして,被告を紹介する記事が被告標章とともに掲載されていることが認め られる。しかしながら,上記雑誌の発行部数が不明であるし,上記記事は1頁の24分の1程度のスペースに掲載されたものにすぎないから,上記記事を周知性の根拠とすることはできない。 その他本件全証拠を検討しても被告標章の周知性を根拠付ける証拠は見当たらないから,被告標章が商標法32条1項の周知性を有するとは認められない。 (3) 以上のとおり,被告標章が商標法32条1項の周知性を有するとは認められないから,その余について判断するまでもなく,被告が先使用権を有するとは認められない。 また,被告標章は,商標法32条1項の周知性を有するとは認められない以上,同法4条1項10号の周知性を有するとも認められないから,そ るまでもなく,被告が先使用権を有するとは認められない。 また,被告標章は,商標法32条1項の周知性を有するとは認められない以上,同法4条1項10号の周知性を有するとも認められないから,その余について判断するまでもなく,原告商標が無効審判により無効にされるべきものであるとも認められない。 3 原告の商標権行使が権利濫用に当たるか(争点4)について被告は,原告商標の出所識別能力が乏しいのに対し,原告店舗が開業した平成22年6月には,既に被告4店舗は開店しており,被告標章は,専ら被告の営業努力によって,原告商標とは無関係に,出所識別能力を培ってきたなどとして,権利濫用を主張する。 確かに,被告は,平成22年6月までに,被告4店舗を開店しており(前提事実(5)),被告4店舗と原告店舗の距離も考慮すると,原告の信用にただ乗りすることなく,被告標章を使用してきたものと認められる。しかしながら,前記2のとおり,被告標章は,商標法32条1項の周知性を有するとは認められないものであるし,現時点において需要者の間で認識されている程度も定かではない。 そうすると,被告標章の使用において不当な目的がないとしても,原告商標の出所識別能力に比較して,被告標章の出所識別能力が顕著であるとも認めら れない。また,原告の商標権行使が不当な目的を有していることを認めるに足りる証拠もないし,本件全証拠をみても,その他原告の商標権行使が権利濫用であることを根拠付ける事情は見当たらない。 したがって,被告の権利濫用の主張は理由がない。 4 原告の損害の有無及び損害額(争点5)について前記1のとおり,被告標章の使用は原告商標権を侵害するものであり,原告は,当該侵害の差止めとともに,侵害物件等の廃棄を求めるために,本 。 4 原告の損害の有無及び損害額(争点5)について前記1のとおり,被告標章の使用は原告商標権を侵害するものであり,原告は,当該侵害の差止めとともに,侵害物件等の廃棄を求めるために,本件訴訟を提起したものであると認められる。 また,原告は,本件訴訟の遂行のために,原告訴訟代理人2名に訴訟委任したことが認められるから,その弁護士費用等相当額は,不法行為である被告標章の使用により生じた損害であると認められる。そして,本件訴訟の内容,進行等に鑑みれば,弁護士費用等相当額は50万円と認めるのが相当である。 したがって,不法行為に基づく損害賠償請求は理由がある。 5 結論よって,原告の請求は,いずれも理由があるから認容し,主文のとおり判決する。なお,仮執行の宣言については,相当ではないから,これを付さない。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官小川雅敏 裁判官西村康夫
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