平成11(ワ)2334 入院治療費

裁判年月日・裁判所
平成14年2月12日 神戸地方裁判所
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本件は、原告が被告らに対し、交通事故による入院治療費を請求した事案である。原告は、被告甲に対して418万9036円、被告乙に対して239万7438円の治療費を請求したが、被告らは過剰診療を主張し、入院の必要がなかったと反論した。裁判所は、診療契約に基づく治療費の請求が認められるとし、原告の請求を一部認容した。具体的には、被告甲に91万4513円、被告乙に86万0513円の支払いを命じ、その他の請求は棄却した。判決は、診療報酬の計算方法についても言及し、原告が主張した1点20円の計算が合理的であると認めた。最終的に、原告は一部勝訴し、被告らはそれぞれの金額を支払うこととなった。

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判決文本文7,736 文字)

判決平成14年2月12日平成11年(ワ)第2334号入院治療費請求事件 主文 一被告甲は原告に対し,金91万4513円及びこれに対する平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二被告乙は原告に対し,金86万0513円及びこれに対する平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 三原告のその余の請求を棄却する。 四訴訟費用はこれを4分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の負担とする。 五この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び争点第一申立一被告甲は原告に対し,金418万9036円及びこれに対する平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二被告乙は原告に対し,金239万7438円及びこれに対する平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 三仮執行の宣言第二事案の概要本件は,原告が被告らに対し,被告らがそれぞれ原告経営の病院に入院中の治療費を請求した事案である。 一争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は争いがない。) 1 原告は,A病院の名称で,肩書地において病院を経営している。 2 被告らは,交通事故(以下,「本件事故」という。)により負傷して,平成10年5月21日A病院に入院した。 3 被告甲は,平成10年8月11日までA病院に入院した。傷病名は,頸椎骨折,脊髄損傷(不全麻痺)及び肝機能障害とされた。 4 被告乙は,平成10年7月31日までA病院に入院した。傷病名は,右大腿打撲,頸椎捻挫,頭部打撲及び肝機能障害とされた。 5 被告甲は,平成10年7 損傷(不全麻痺)及び肝機能障害とされた。 4 被告乙は,平成10年7月31日までA病院に入院した。傷病名は,右大腿打撲,頸椎捻挫,頭部打撲及び肝機能障害とされた。 5 被告甲は,平成10年7月27日と同年8月10日の2回B病院で受診した。(乙7) 6 被告甲は,平成10年7月13日以降C病院整形外科で受診した。(乙8) 7 平成11年2月25日,加古川簡易裁判所において,本件事故の加害者及び加害車両所有者と被告らとの間で,A病院における被告らの治療費については,加害者側でA病院と交渉して,その額を確定した上直接同病院に支払うこと等を内容とする調停が成立した。(乙64)二争点に関する双方の主張(原告) 1 被告甲は,入院中,頸椎骨折,脊髄損傷(不全麻痺)及び肝機能障害であり,その治療を必要とした。その間に要した診療に対する報酬は合計418万9036円であり,その明細は診療報酬明細書(甲1)のとおりである。 同被告は,強い神経症状(麻痺,高度のしびれ,筋力低下)を伴っており,脊髄損傷を合併しているものとして治療する必要があった。 2 被告乙は,入院中,右大腿打撲頸椎捻挫,頭部打撲及び肝機能障害であり,その治療を必要とした。その間に要した診療に対する報酬は合計239万7438円であり,その明細は診療報酬明細書(甲2)のとおりである。 同被告は,原告が退院を勧めてもこれを拒否した。 3 1点20円の計算について交通事故に伴う自由診療の点数を1点20円で計算することは,民間の救急病院において広く行われていることであり,原告と被告らとの間でも黙示にこうした計算方法により診療報酬を定める合意があったというべきである。 (被告ら) 1 被告甲について同被告には,頸椎骨折,脊髄損傷(不全 ていることであり,原告と被告らとの間でも黙示にこうした計算方法により診療報酬を定める合意があったというべきである。 (被告ら) 1 被告甲について同被告には,頸椎骨折,脊髄損傷(不全麻痺)は存在しなかった。軽度の肝機能障害はあったが,このために入院する必要はなかった。原告は誤診した上過剰診療したものである。 すなわち,長期の入院治療の必要はなく,あるとしてもせいぜい1ないし2週間程度の検査入院で十分であったもので,1か月程度の通院治療で足りたと考えられる。絶対安静にしたり,絶食とする必要もなく,点滴治療等の必要もなく,不必要な検査も数多く行われた。 同被告に対する投薬について,同被告が医師の裁量の範囲内にあるものとして合理性を認めるものは別紙「甲内服薬一覧」記載のとおりであり,また,本件事故と相当因果関係のある合理的な治療内容の結果として発生する診療報酬として認めるものは,別紙1ないし4記載のとおりであって,その合計額は1点10円で計算すると10万4320円に過ぎない。 2 被告乙について同被告は,頸椎捻挫等のいわゆるむち打ち症程度の受傷に過ぎず,入院の必要もなかった。せいぜい経過観察のため数日程度の入院とする判断があり得た程度であり,1か月程度の通院治療で治癒し得たものである。原告は不必要な検査,投薬等の過剰診療をしたものである。 同被告は退院を希望したが,原告は,退院するなら保険請求に協力しないなどといって,同被告を強引に入院させていた。 同被告に対する投薬について,同被告が医師の裁量の範囲内にあるものとして合理性を認めるものは別紙「乙内服薬一覧」記載のとおりであり,また,本件事故と相当因果関係のある合理的な治療内容の結果として発生する診療報酬として認めるものは,別紙5ないし の範囲内にあるものとして合理性を認めるものは別紙「乙内服薬一覧」記載のとおりであり,また,本件事故と相当因果関係のある合理的な治療内容の結果として発生する診療報酬として認めるものは,別紙5ないし7記載のとおりであって,その合計額は1点10円で計算すると4万6920円に過ぎない。 3 1点20円の計算について原告は,被告らの診療報酬を単価1点20円で計算しているが,被告らは健康保険並の1点10円程度で計算されると考えていたものであり,原告のような計算方法により治療費を支払うとの契約は成立していないし,このような計算方法により算定された報酬請求を認めるべき合理的根拠もない。 理由 一 1点20円の計算等弁論の全趣旨によれば,被告らは本件事故により負傷してA病院に搬送されて診療を受けることとなり,原告と被告らとの間に診療契約がそれぞれ締結されたことが認められる。診療の目的は,一次的には本件事故による負傷であるが,被告らに他の疾患等が存在した場合,その診療を除外するというものではなかったと認められる。 原告が被告らに対し請求できる治療費の金額については,診療に問題がない限りにおいては,患者側においても,当時の一般的に行われている金額の範囲内において徴収されることを予め承諾しているものと考えられるから,事前に患者側の承諾を得ていなくとも,上記金額の範囲内において請求することができると解するのが相当である。 証人丙(A病院副院長,被告らの担当医)と弁論の全趣旨によれば,自由診療の場合に1点20円で計算して診療報酬を計算することは相当広く行われており,例外的であるとはいえないこと,A病院でもこのような計算をしてきたことが認められる。そうすると,以上の見地によれば,1点20円の計算方法により診療 算して診療報酬を計算することは相当広く行われており,例外的であるとはいえないこと,A病院でもこのような計算をしてきたことが認められる。そうすると,以上の見地によれば,1点20円の計算方法により診療報酬を算定して請求することも許されるものと解される。本件は,診療契約に基づく治療費の請求事件であり,交通事故による損害賠償請求の場合のように,事故と相当因果関係にある損害を損害の公平な分担という観点からも検討の上算定すべき場合と異なるから,以上のように解するのが相当である。 もっとも,診療に問題がある場合は,当然に全部の診療報酬を請求できるものではない。医師には,その時期における平均的な医学水準に従い最善の診療をなすべき義務があり,患者も医師のこのような診療を期待して,それを目的に診療契約を締結するものであるから,医師がこの義務に違反した場合は債務不履行責任を問われる場合があるだけでなく,診療報酬の請求自体ができなくなる場合もあると解するのが相当である。しかし,医師には合理的範囲内での一定の裁量があることも否定できないから,医師がこの裁量の範囲を逸脱して不必要な診療を行ったと認められる場合に限り,これに対応する診療報酬の請求をすることは許されないこととなると解するのが相当である。 二被告甲関係 1 以下の認定,説示によれば,被告甲には頸椎骨折,脊髄損傷(不全麻痺)があったとは認められず,むしろなかったものと認められる。 (1) 証人丙は,平成10年5月21日の被告甲の頸椎のX線写真(乙10の1)上第3頸椎と第4頸椎相互の位置関係がずれていることから,第4頸椎の骨折を疑い,骨折があった場合非常に高い確率で脊髄損傷を合併すること及び手足の痺れ,四肢の筋力低下等の臨床症状から,頸椎骨折及び脊髄損傷(不全麻痺)と診断したと供述する。しかし, とから,第4頸椎の骨折を疑い,骨折があった場合非常に高い確率で脊髄損傷を合併すること及び手足の痺れ,四肢の筋力低下等の臨床症状から,頸椎骨折及び脊髄損傷(不全麻痺)と診断したと供述する。しかし,同証人は,その後のX線写真では頸椎骨折を確認できないこと及び筋電図は撮っておらず,同被告に医師の手を握らせたり,足を伸ばして蹴ってみさせたりしたに過ぎないことを供述している上,診療録(乙1)上の臨床症状についての記載は質量とも不十分であり,看護記録中には5月段階で既に痺れ感なし等の記載が見られるのであり,同証人の証言と診療録を総合してみても,頸椎骨折との診断が正当であったとは認められない。 (2) 乙3,8によれば,C病院整形外科では,被告甲を平成10年8月11日診察した結果,X線写真上頸椎骨折を認めず,また,他覚的な神経症状も認めなかったことが認められる。更に,乙7によれば,B病院でも,頸椎骨折は確認されていないことが認められる。 (3) 乙63(医師丁の意見書)によると,同医師は,被告甲に関して,乙1(A病院診療録),乙10ないし57中の同病院における同被告の頸椎X線写真等,乙3(C病院整形外科医師戌の平成11年2月8日付け回答書)及び乙7(同被告のB病院外来診療録)の各資料を検討し,次のように述べていることが認められる。すなわち,① どの画像を見ても,頸椎骨折があったとは考えられず,受傷直後認められたとされる麻痺についても強い疑念を感じること② A病院診療録には症状についての記載がほとんどないので,入院の必要性の判断は困難であるが,少なくとも3か月近くという長期の入院が必要であったとは考えられず,せいぜい1ないし2週間程度の入院で十分ではなかったかと考えられること③ 投薬,点滴,安静の指示等の治療内容の妥当性 あるが,少なくとも3か月近くという長期の入院が必要であったとは考えられず,せいぜい1ないし2週間程度の入院で十分ではなかったかと考えられること③ 投薬,点滴,安静の指示等の治療内容の妥当性には強い疑念を持たざるをえないこと④ 肝機能障害は認められるが,本件事故と無関係であり,このため入院する必要性もなく,絶食にする必要もないこと⑤ 頻回に諸検査をしているが,その必要性があったとは考えられないこと (4) 以上によれば,被告甲に頸椎骨折,脊髄損傷(不全麻痺)があったとは認められず,むしろなかったものと認められる。平成10年5月21日の時点で,佐々木彰彦医師が上記のように確定診断したとすれば,拙速に過ぎたというべきであるが,この時点でこのような疑いを持ち,入院させた上経過を観察することが医師の裁量の範囲を逸脱するものであるとまでいえるかは疑問であり,そのように認めるに足りる証拠はないというべきである。また,この間同医師は被告甲に安静の指示を出していた(証人丙)が,早期にこの指示を解除すべきであったとはいえても,この指示をしたこと自体が医師の裁量の範囲を逸脱するものであるとまではいえない。 もっとも,前記の看護記録の記載やその後のX線写真(乙11の平成10年5月29日撮影のもの)によれば,少なくとも平成10年5月末には入院の必要がないものとの判断を下すことが,丙医師には可能であり,そのように判断すべきであったというべきである。 2 乙1,63と弁論の全趣旨によれば,被告甲は入院当初からGPT,γ-GTPの数値が基準値を超えてり,肝機能障害があったこと,しかし,これにより入院するまでの必要はなかったことが認められる。 3 また,乙63中の前記記載によれば,A病院では,被告甲の診療に関して,不必要と考えら 基準値を超えてり,肝機能障害があったこと,しかし,これにより入院するまでの必要はなかったことが認められる。 3 また,乙63中の前記記載によれば,A病院では,被告甲の診療に関して,不必要と考えられる投薬,検査等もなされていたと認められる。しかし,乙8によれば,被告甲には平成10年8月11日の時点でも頸部等に痛みが持続しており,同年6月以降においても,全ての診療が不必要であったとまでは認められない。 4 乙1と証人丙によれば,被告甲が平成10年6月以降のA病院入院中に発症した胆管炎,MRSA感染症等は入院継続により発症したものであり,入院継続がなければその発症も治療の必要性もなかったものであることが認められる。 5 以上を総合すると,甲1の診療報酬明細書中,以下に掲げる部分の合計91万4513円の診療報酬(治療費)請求は理由があるが,それ以外の部分は,医師の裁量の範囲を逸脱する診療に対する対価であって,その請求には理由がないものと判断される。 (1) 被告甲が認める初診料(但し1点20円)1万4600円(2) 平成10年5月分のその他(入院により必要となる病衣貸出料等。被告甲が認める院内証明書料3150円を含む。)2万6753円(3) 平成10年5月分の入院料29万3660円及び診断書及び明細書料各8400円(4) 平成10年5月分のその他の料金(投薬料,注射料,処置料,手術料,検査料,画像診断料。以下「投薬料等」という。)32万7700円の約3分の2である21万8400円(5) 平成10年6月分の明細書料8400円と投薬料等61万3840円の約4分の1である15万3400円(6) 平成10年7月分の明細書料8400円と投薬料等64万4900円の約5分の1である12万8900円(7) 平成10年8月分 薬料等61万3840円の約4分の1である15万3400円(6) 平成10年7月分の明細書料8400円と投薬料等64万4900円の約5分の1である12万8900円(7) 平成10年8月分の明細書料8400円と投薬料等22万1360円の約6分の1である3万6800円三被告乙関係 1 以下の認定,説示によれば,被告乙については,治療の必要はあったものの,入院の必要は,せいぜい平成10年5月末までの間の経過観察のための入院を除いてはなかったものと認められる。 (1) 乙2,証人丙及び弁論の全趣旨によれば,被告乙は本件事故により右大腿打撲,頸椎捻挫等の傷害を負ったが,意識消失はなかったこと,当初頭部や肩等の痛みを訴えていたが,入院直後から外出できる状態であったこと,平成10年5月末には痛みも軽減していたことが認められる。 (2) 証人丙は,被告乙が入院継続を希望したと供述するが,被告甲本人に照らして採用できず,むしろ,このような事実はなかったものと認められる。 (3) 乙63によると,丁医師は,被告乙に関して,乙2(A病院診療録),甲3ないし7の同病院における同被告のX線写真等の資料を検討し,次のように述べていることが認められる。すなわち,① 傷病名から判断して,経過観察のため数日間の入院はあり得ても,2か月以上の入院の必要はなかったこと② 診療録にも,入院の必要性を窺わせる記載は全くなく,入院を必要とするような治療も行われていないようであること③ 肝機能障害は認められるが,本件事故と無関係であり,そのために入院する必要もないこと④ 必要性のない諸検査が頻回に行われていること(4) 乙2と弁論の全趣旨によれば,被告乙は,入院直後からGOT,GPTの数値が基準値を超えており,肝機能障害の治 入院する必要もないこと④ 必要性のない諸検査が頻回に行われていること(4) 乙2と弁論の全趣旨によれば,被告乙は,入院直後からGOT,GPTの数値が基準値を超えており,肝機能障害の治療の必要はあったが,これにより入院する必要まではなかったことが認められる。 2 そして,乙2に見られる被告乙に対するA病院の診療内容と乙63の丁医師の前記意見によれば,A病院の診療中には不必要な諸検査が多く含まれているといわざるを得ない。なお,被告乙は,本件事故と無関係な治療も多く含まれていると主張するが,本件各診療契約は本件事故による傷害のみを目的とするものではないから,被告甲の肝機能障害の治療と同様,これを不必要な治療であるということはできない。 3 以上を総合すると,甲2の診療報酬明細書中,以下に掲げる部分の合計86万0513円の診療報酬(治療費)請求は理由があるが,それ以外の部分は,医師の裁量の範囲を逸脱する診療に対する対価であって,その請求には理由がないものと判断される。 (1) 被告乙が認める初診料(但し1点20円)1万4600円(2) 平成10年5月分のその他(入院により必要となる病衣貸出料及び被告乙が認める院内証明書)3953円(3) 平成10年5月分の入院料28万1460円及び診断書及び明細書料各8400円(4) 平成10年5月分の投薬料等29万0940円の約4分の3である21万8200円(5) 平成10年6月分の明細書料8400円と投薬料等28万6840円の約2分の1である14万3400円(6) 平成10年7月分の明細書料8400円と投薬料等33万0760円の約2分の1である16万5300円四結論以上の次第で,原告の請求は,被告甲につき金91万4513円,被告乙につき金86万05 成10年7月分の明細書料8400円と投薬料等33万0760円の約2分の1である16万5300円四結論以上の次第で,原告の請求は,被告甲につき金91万4513円,被告乙につき金86万0513円及び各金員に対する平成11年11月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 神戸地方裁判所第5民事部裁判官前坂光雄

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