平成20(行ウ)18 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件(通称 旭川労基署長遺族補償等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成21年11月12日 札幌地方裁判所
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本件は、旭川労働基準監督署長が原告に対して行った労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料不支給の処分について争われた。原告は、亡夫であるP1の心疾患が業務に起因するものであると主張し、これに対し被告は業務起因性を否定した。裁判所は、業務の過重性とP1の疾病発症との合理的関連性を認め、業務が自然経過を超えて疾病を増悪させたと判断した。結果として、裁判所は被告の処分を取り消し、原告に対する遺族補償給付及び葬祭料の支給を命じた。

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判決文本文22,101 文字)

主文 1 旭川労働基準監督署長が平成16年7月13日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨主文同旨 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張【請求の原因】 1 当事者等(1) 原告は,亡P1の妻である。 (2) P1は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性で,平成14年6月9日当時,北海道旭川市<以下略>で居住していた。 2 P1の経歴(1) P1は,昭和37年4月1日,日本電信電話公社(以下「電電公社」という。)に雇用されたが,P1と電電公社の間の雇用関係は,平成元年4月1日付けで日本電信電話株式会社法により設立された日本電信電話株式会社(以下「旧NTT」という。)に同日付けで,同法の改正による旧NTTの純粋持分会社化(以下,純粋持分会社化された後の旧NTTを「NTT」という。)に伴い設立された東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)に平成1 1年7月1日付けで,順次引き継がれた。 (2) P1は,電電公社旭川電話局電力課,同局施設部試験課,旭川電報電話局第二施設部市内試験課,同部局内保全課,同部神楽局内保全課,同部局内保全課,旧NTT旭川支店設備部機械設備担当,同店お客様サービス部,同社北海道支店お客様サービス部旭川116センタ,NTT東日本北海道支店お客様サービス部旭川116センタを経て,平成14年4月24日当時,同店旭川営業支店に配属替えとなった。 (3) P1は,平成14年6月9日当時,電話の新規加入,移転,増設及び名義変更並びに各種通信機器の設置に 旭川116センタを経て,平成14年4月24日当時,同店旭川営業支店に配属替えとなった。 (3) P1は,平成14年6月9日当時,電話の新規加入,移転,増設及び名義変更並びに各種通信機器の設置について,利用者からの注文内容が正確に処理されているか否かを確認し,電話工事等の注文処理を完了させる業務(結了業務)のうち日締め作業及びバックオーダー処理業務を担当していた。日締め作業とは,電話等の工事約束をした1日分の注文伝票の工事進ちょく状況を点検し,完了検査を行い,未完了となったものはその原因調査・分析を行うというものであり,バックオーダー処理業務とは,利用者やNTT東日本の都合で工事日時等に変更が生じ,工事が持帰りになったものの後処理を行うというものであった。 (4) P1の勤務時間は午前9時から午後5時30分までであり,休憩時間は正午から午後1時まで,休日は原則として日曜日,土曜日及び国民の休日であった。 3 P1の心臓疾患P1は,平成5年5月31日,職場定期健康診断で心電図の異常を指摘され,P2病院において検査した結果,陳旧性心筋梗塞及び高脂血症と診断された。P1は,同年8月9日及び同年12月6日,同病院で経皮的経管的冠状動脈血管形成術(冠状動脈の狭窄部にカテーテ ルを挿入して狭窄部を拡げる手術)を受けた。 それ以降,P1は,高脂血症の治療と併せて,冠状動脈疾患に対する内服治療を続けるとともに,喫煙を止め,激しい運動を控えるなど危険因子を取り除く努力をする一方,規則正しい生活と適度の運動を心がけ,健康維持・管理に努めてきた。 また,旧NTTは,平成5年8月20日,P1について,健康管理規程の「要注意(C)」の指導区分に該当すると判断した。P1は,それまでの交代勤務から常日勤の勤務に変更され,残業及び宿泊を伴う出 。 また,旧NTTは,平成5年8月20日,P1について,健康管理規程の「要注意(C)」の指導区分に該当すると判断した。P1は,それまでの交代勤務から常日勤の勤務に変更され,残業及び宿泊を伴う出張を命ぜられることはなくなった。 4 NTTグループの事業構造改革(1) NTTは,平成13年4月,NTTグループ3か年経営計画を策定し,平成15年5月1日以降,電話からIP・ブロードバンドへの事業転換,固定電話の保全,管理,営業等の業務を新設の都道府県別子会社(以下「新会社」という。)に外注委託することなどを主な内容とするNTTグループの事業構造改革の実施を発表した。 NTT東日本は,上記構造改革の一環として,平成14年3月31日時点で50歳以上の従業員に対し,同年5月1日以降の次の3つの雇用形態・処遇体系のうちひとつを同年1月18日までに選択するように命じた。 ①繰延型平成14年4月30日にNTT東日本を退職し,同年5月1日に新会社に再雇用されるもの。新会社での定年は60歳であるが,61歳以降は契約社員として採用され,最長65歳まで雇用を実現するもの。勤務地が都・道・県内に限定的となる一方で賃金月額は15から30パーセント低下する激変緩和措置として契約社員期間において給与加算が行われる。 ②一時金型雇用形態は①繰延型と同じであるが,激変緩和措置はNTT東日本退職時に一時金(退職金の割増)が支給される。 ③60歳満了型NTT東日本との雇用契約を継続するもので,新会社を除くNTTグループの会社又はNTT東日本において,企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務に従事する。全国転勤が前提となり,成果業績主義が徹底される。60歳定年後に最長65歳までの雇用継続が可能であったキャリアスタッフ制度は,NTT東日 ・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務に従事する。全国転勤が前提となり,成果業績主義が徹底される。60歳定年後に最長65歳までの雇用継続が可能であったキャリアスタッフ制度は,NTT東日本においては廃止するものとされた。 なお,平成14年1月18日までに雇用形態を選択しない者は,③60歳満了型を選択したものとみなされるとされた。 (2) NTT東日本は,③60歳満了型を選択した従業員のうち従前の担当業務が新会社に移行することとなった者については,再配置が必要となることから,平成14年4月24日から同年5月1日にかけて順次法人営業部門に異動させ,その後約2か月をかけて,法人営業に必要な技能等を習得させるため研修を実施した。 5 P1の本件研修への参加(1) P1は,平成14年1月18日までに雇用形態を選択しなかったことから,③60歳満了型を選択したものとみなされ,研修への参加を命じられた(以下,P1が参加した研修を「本件研修」という。)。 (2) 本件研修の実施期間及び実施場所は次のとおりである。 ア平成14年4月24日NTT札幌大通14丁目ビル(札幌市)イ平成14年4月25日から同年5月17日までNTT北海道セミナーセンタ(札幌市) ウ平成14年5月20日から同月31日までNTT東日本研修センタ(東京都調布市)エ平成14年6月3日から同月21日までNTT東日本研修センタ(札幌市)オ平成14年6月24日から同月30日まで各所属事業所(3) 本件研修期間中のP1の宿泊施設等は次のとおりである。 ア平成14年4月24日ホテルルーシス札幌(札幌) ツインルーム同泊者1名イ平成14年4月25日,同年5月7日から同月16日までNT の宿泊施設等は次のとおりである。 ア平成14年4月24日ホテルルーシス札幌(札幌) ツインルーム同泊者1名イ平成14年4月25日,同年5月7日から同月16日までNTT北海道セミナーセンタ(札幌市) 4人部屋同泊者1名ウ平成14年5月20日から同月30日までNTT東日本研修センタ(東京都調布市) 4人部屋同泊者3名エ平成14年6月3日から同月6日までホテルルーシス札幌(札幌市) シングルルーム同泊者なし(4) 本件研修は,午前9時から午後5時30分まで(休憩時間は正午から午後1時まで)実施されたほか,日曜日,土曜日及び国民の祝日の休日が付与されており,研修期間中の時間外労働及び休日労働はなかった。 また,本件研修の内容は,NTT東日本の法人営業業務に関するものであり,主に講義形式によるものであった。 6 P1の死亡P1は,平成14年6月8日及び同月9日の休日を利用して住所のある旭川に帰省していたが,同月9日,北海道樺戸郡<以下略>に所 在する先祖の墓の前で死亡しているのが発見された。 P1の死亡は,急性心筋虚血の発症による。 7 P1の死亡と業務起因性(1) 業務起因性の判断枠組み業務起因性は,通常の民事訴訟と同様の意味での相当因果関係の主張・立証は必ずしも必要がなく,業務の過重性と当該疾病の発症・増悪とそれに基づく死亡との間に合理的関連性があれば認められると解するべきである。最高裁は,基礎疾患のある労働者について労災事故が発生した場合,①自然経過で発症する寸前まで基礎疾患が増悪していないこと,②業務が自然経過を超えて増悪させる要因となり得たこと,③他に確たる発症因子がうかがわれないこと,以上の3つの要件を満たせば,業務起因性が認めら 経過で発症する寸前まで基礎疾患が増悪していないこと,②業務が自然経過を超えて増悪させる要因となり得たこと,③他に確たる発症因子がうかがわれないこと,以上の3つの要件を満たせば,業務起因性が認められるとしている。そして,これら3つの要件のうち②業務が自然経過を超えて増悪させる要因となり得たことを原告において立証すれば,①自然経過で発症する寸前まで基礎疾患が増悪していないこと,③他に確たる発症因子がうかがわれないことは,被告において反証しない限り,業務起因性は認められるべきである。 最高裁は被告の主張する相対的有力原因説を採用していない。業務が共働原因の一つとなって当該結果が発生すれば,業務起因性は認められるべきである。 (2) 業務の過重性ア雇用形態選択によるストレスP1は,NTTグループの事業構造改革に伴い,雇用形態の選択を迫られ,心身に顕著な異変をきたすほどの精神的ストレスを受けた。 P1は,退職と減給を余儀なくされる①繰延型や②一時金型とい う雇用形態を簡単に受け入れることができない一方で,③60歳満了型を選択したとしても,50歳を超えて心臓に冠状動脈疾患という障害を持ちながら全く未経験の仕事に従事しなければならない不安,自らの配属場所が決まっていないことに対する不安があった。特に,遠隔地に転勤になった場合,パニック障害を抱える妻を一人残して単身赴任せざるを得ないのではないかと思い悩んでいた。 P1の健康状態が悪化したのは平成13年4月の事業構造改革の発表後からであり,睡眠不足,独り言,寝言等自律神経に関わると思われる多彩な症状が現れ始めた。 イ本件研修によるストレス本件研修は,健康に問題をかかえていない者に対してすら相当の身体的・精神的ストレスを与えるもので,ましてや生体リズム・生活リズムの と思われる多彩な症状が現れ始めた。 イ本件研修によるストレス本件研修は,健康に問題をかかえていない者に対してすら相当の身体的・精神的ストレスを与えるもので,ましてや生体リズム・生活リズムの管理により心臓の安定を辛うじて保ってきたP1にとって生体リズム・生活リズムに大きな変化を加えられ,心臓に多大な負荷をかけるものであった。 (ア) 位置づけNTT東日本は,P1ら参加者に対し,今後の業務に必要かつ極めて重要であるとして,本件研修を指示・命令した。P1ら参加者は,本件研修の内容を必死に努力をして習得することを余儀なくされた。 (イ) 内容・方法本件研修の内容・方法は,P1ら参加者がまじめに受講してその理解に努めようとすればするほど疲労困憊し,著しい精神的ストレスを招くものであった。 本件研修の内容はIPやブロードバンド関連の業務知識を一 方的に詰め込むものであった。P1ら参加者は長期間にわたり現業部門で稼働してきた者であり,50歳を超えてからこれまでの業務と無関係な知識を習得すること自体が極めて困難なことであった。 また,本件研修の方法は,参加者各人がもともと有するスキル及び今後担当する業務で必要とされる知識に応じたきめ細かい指導をするものではなく,参加者を一括して集めて参加させ,包括的な法人営業に関する講義を行っているにすぎないものであった。 (ウ) 終了後の配属先NTT東日本が参加者に対し,本件研修終了後の配属先を内示したのは本件研修終了直前(P1死亡後)の平成14年6月20日になってからであった。 将来の見通しのない中での本件研修は参加者にとって極めて強い不安,ストレスを与えるものであった。 (エ) 場所,移動手段及び移動時間本件研修の場所である札幌市と東京都はいずれも旭川市在住のP1か 来の見通しのない中での本件研修は参加者にとって極めて強い不安,ストレスを与えるものであった。 (エ) 場所,移動手段及び移動時間本件研修の場所である札幌市と東京都はいずれも旭川市在住のP1からすれば遠隔地にあり,札幌市には特急で2時間超,東京都は飛行機で3時間を優に超える時間を要した。 P1は,持病を持つ妻のため,毎週末自宅のある旭川市に帰宅しなければならず,その負担は大きかった。 (オ) 宿泊本件研修は約45日間にも及ぶ長期の宿泊を伴う研修であり,P1の心身に極めて重度の疲労を与えるものであった。 宿泊場所には1名から3名の同室者がおり,P1は,プライバシーのない,身も知らぬ他人との共同生活を最も長い時で10日 にわたり強いられた。 そして,宿泊施設では,他の参加者らが酒を飲み,談笑する声が他の部屋まで筒抜けであり,同室者のいびき,ドアの音やベッドのきしみまで聞こえる状況であった上,同室者が午前3時に起き出すので寝不足になっていた。P1は,本件研修中,講義が終わると机に顔を突っ伏したり,原告に睡眠不足を訴えるなどしていた。 P1は,十分な睡眠や休養の確保もままならず,生活のリズムを著しく害されたという劣悪な環境の下で,過重な負荷を受けていた。 (3) 業務外の要因ア家族性高コレステロール血症P1は家族性高コレステロール血症に罹患していたが,血清コレステロール値はよくコントロールされており,これが急性心筋虚血のリスクを増加させたとはいえない。 高コレステロール血症が冠動脈疾患に与える影響についての最近の研究(甲30)によれば,血清総コレステロール値が1デシリットル当たり240ミリグラム(以下,コレステロール値の単位は同じであるから省略する。)以上になると冠動脈疾患のリスクが有意に高くなるとされ 研究(甲30)によれば,血清総コレステロール値が1デシリットル当たり240ミリグラム(以下,コレステロール値の単位は同じであるから省略する。)以上になると冠動脈疾患のリスクが有意に高くなるとされているが,P1のコレステロール値は平成6年以降の定期検診及び通院時検査において,わずか2回を除き,上記の数字を下回っていた。 なお,被告は,高コレステロール血症の患者において,経皮的経管的冠状動脈血管形成術等の治療をしても,心筋梗塞への罹患や再発を避けることが困難であるという指摘をする。その指摘の根拠となった調査報告によれば,男性死亡例での血清総コレステ ロール値の平均は371であり,コレステロール値のコントロールに成功していたP1には当てはまらない。 イ喫煙歴P1は,平成5年ころから長期間禁煙をしていたから,急性心筋虚血のリスクは著しく減少していた。 ウ性別・年齢性別・年齢は,業務の過重性の判断に当たって,平均的労働者の観念の中に収まる要素であり,ことさらに業務外要因として取り出しても無意味である。 (4) 小括P1は基礎疾患である冠状動脈疾患が増悪して死亡したのであるが,その直前の業務の過重性は自然経過を超えて基礎疾患を増悪させる要因となり得るものであったところ,被告は,自然経過で発症する直前まで基礎疾患が増悪していたこと,他に確たる発症要因がうかがわれることについて,立証していないから,P1の心筋虚血の発症について業務起因性が認められるべきである。 8 本件処分の経緯原告は,平成15年3月28日,旭川労働基準監督署長に対し,P1が急性心筋虚血を発症して死亡したのはNTT東日本の業務に起因するとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)12条の8第1項4号及び5号に基づき遺族補償給付及び 監督署長に対し,P1が急性心筋虚血を発症して死亡したのはNTT東日本の業務に起因するとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)12条の8第1項4号及び5号に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めたのに対し,同署長は,平成16年7月13日,原告に対し,遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。 原告は,平成16年7月12日付けで,本件処分を不服として北海道労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが,同審査官は, 同年11月26日,これを棄却した。 これに対し,原告は,労働保険審査会に対し,再審査請求を行ったが,同審査会は,平成20年3月14日付けで,これを棄却した。 9 結論このようにP1の死亡には業務起因性があるところ,本件処分を行った旭川労働基準監督署長は業務起因性を否定しており,本件処分は違法である。 よって,原告は,被告に対し,本件処分の取消を求める。 【請求の原因に対する認否】 1 請求の原因1及び2の事実は認める。 2 同3のうちP1が喫煙を止め,激しい運動を控えるなど危険因子を取り除く努力をする一方,規則正しい生活と適度の運動を心がけ,健康維持・管理に努めてきたことは知らず,その余の事実は認める。 3 同4の事実は認める。 4 同5のうち(1)の事実は否認し,その余の事実は認める。 P1は③60歳満了型を自ら選択したのである。 5 同6の事実は認める。 6 同7の事実はいずれも否認し,主張は争う。 P1の急性心筋虚血の発症は業務に起因するものではない。 (1) 業務起因性の判断枠組み労働者の死亡等を業務上のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(死亡等)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足り ない。 (1) 業務起因性の判断枠組み労働者の死亡等を業務上のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(死亡等)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることを要し,相当因果関係が認められるためには,当該死亡等の結果が当該業務に内在する危険の現実化と認められることが必要である。 ところで,当該結果の発症に業務が何らかの寄与をしていることが認められる場合であっても,業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)が,より有力な原因となって当該結果が発生した場合は,業務外に存在した危険が現実化して発症したものであるから,相当因果関係は認められない。当該結果の発生が業務に内在する危険の現実化といえるためには,当該発症に対して,業務による危険性(過重性)が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となったことが必要である。この現実化の要件は,当該労働者に係る業務外の要因の内容及び程度によって左右されるものであるから,当該労働者本人の事情を基礎に個別・具体的に判断されるべきである(相対的有力原因説)。 当該結果が脳・心臓疾患である場合において,業務上のものと認定されるための具体的条件について,厚生労働省は,最新の医学的知見を踏まえた専門検討会報告書(以下「専門検討会報告書」という。)に基づき,平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く)」(以下「新認定基準」という。)を定め,本件処分もこれに依拠して行われた。 この専門検討会報告書は,医学的に極めて信頼性の高い資料であるから,業務起因性の有無は同報告書に記載された最新の医学的知見に基づいて判断され 準」という。)を定め,本件処分もこれに依拠して行われた。 この専門検討会報告書は,医学的に極めて信頼性の高い資料であるから,業務起因性の有無は同報告書に記載された最新の医学的知見に基づいて判断されるべきである。 (2) 業務の過重性ア新認定基準による検討新認定基準は,認定要件につき,①発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇し(異常な出来事),あるいは,②発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において,特に過重な業務に就労したこと(短 期間の過重業務)か,③発症前の長期間(発症前おおむね6か月)にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)によって,明らかな過重負荷を受けたことにより発症した場合,脳・心臓疾患と業務災害との相当因果関係を肯定し,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号に該当する疾病と扱うとしている。 そこで,新認定基準を踏まえ,P1の業務の過重性を検討すると,次のとおりとなる。 ① 異常な出来事P1は,急性心筋虚血発症当日(平成14年6月9日)及び発症前日(同月8日)は本件研修期間中の休日であったから,業務に関連する異常な出来事に遭遇したとは認められない。 ② 短期間の過重業務P1は,急性心筋虚血発症当日(平成14年6月9日),発症前日(同月8日)並びに発症7日前(同月2日)は休日であって,業務に従事していない。発症6日前(同月3日)から発症2日前(同月7日)までNTT北海道セミナーセンタ(札幌市)で実施された本件研修に出席したが,時間外労働時間はない。 また,本件研修は,後記のとおり,精神的・肉体的に過重な負荷を与えるものではなかった。 ③ 長期間の過重業務P1の ンタ(札幌市)で実施された本件研修に出席したが,時間外労働時間はない。 また,本件研修は,後記のとおり,精神的・肉体的に過重な負荷を与えるものではなかった。 ③ 長期間の過重業務P1の発症前6か月間の時間外労働時間は別紙1の1ないし6のとおりであり,時間外労働時間は発症前3か月前の1か月間(平成14年3月11日から同年4月9日まで)の5時間あるのみである。 したがって,P1の業務と急性心筋虚血発症との間の関連性は 到底認められない。 イ雇用形態選択によるストレスP1が③60才満了型を選択したのは遅くとも平成14年1月18日であり,仮に雇用形態選択について精神的ストレスがあったとしても,急性心筋虚血発症の約半年前のことにすぎない。 P1は平成14年3月19日には睡眠導入剤処方の中止を申し入れているのであり,雇用形態選択によるストレスは軽減傾向にあったと推認できる。 したがって,雇用形態選択について,業務の過重性判断に当たり評価すべき過重な精神的負担があったとはいえない。 ウ本件研修によるストレス(ア) 内容・方法札幌市における本件研修の目的は,法人営業の基礎知識を習得する程度のもので,レベルも低いところに設定しており,研修終了後に居室で自習しなければならない内容ではなく,P1も居室で自習していた事実はない。 東京都における本件研修では,参加者は予習をしていたようであるが,業務に関する知識を習得するのにある程度努力するのは至極当然であるし,予習の指示があったわけでもない。P1は休日を利用して参加者数名と旅行をしていたのであって,極度の緊張感に覆われていた事実もない。 したがって,本件研修の内容が過重なものであったとは認められない。 (イ) 本件研修の場所,移動手段及び移動時間P1の 数名と旅行をしていたのであって,極度の緊張感に覆われていた事実もない。 したがって,本件研修の内容が過重なものであったとは認められない。 (イ) 本件研修の場所,移動手段及び移動時間P1の移動の状況は別紙2のとおりであり,P1が東京都と旭川市を移動したのは1往復のみであり,その時期も5月であるか ら,自然環境の変化は大きくない。また,旭川・札幌間は,特急電車で最長でも約1時間30分で移動することができ,自然環境が異なることもない。 したがって,本件研修期間の場所,移動手段及び移動時間を過重業務と評価することはできない。 (ウ) 宿泊P1の同室者で午前3時に起きていた者はいない。 また,本件研修の46日間(平成14年4月24日から同年6月7日まで)で,P1に同室者があったのは19日間のみであり,そのほかはP1は自宅又はホテルのシングルルームに宿泊していたから睡眠を十分にとれる環境にあった。 したがって,本件研修において,P1が睡眠を十分にとれない環境にあったとは認められない。 (3) 業務外要因ア家族性高コレステロール血症P1は家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患し,陳旧性心筋梗塞の合併症を有していた。 そして,家族性高コレステロール血症は,粥状動脈硬化を引き起こし,虚血性心疾患を発生させる危険性が高い疾病であって,実際にも,P1のコレステロール値は別紙3のとおり常に高い値で推移していた。 また,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者は,経皮的経管的冠状動脈血管形成術等の治療をしても,心筋梗塞への罹患や再発を避けることが困難であり,冠状動脈性心疾患により50歳代で死亡に至る確率が高い。 したがって,業務外要因であるP1の基礎疾患が,急性心筋虚血 発症の極めて有力な原因であ 塞への罹患や再発を避けることが困難であり,冠状動脈性心疾患により50歳代で死亡に至る確率が高い。 したがって,業務外要因であるP1の基礎疾患が,急性心筋虚血 発症の極めて有力な原因であったと認められることは明らかである。 イ喫煙歴P1は,愛煙家で,約30年間,1日約25本のたばこを吸っており,2回目の入院でも禁煙に踏み切ることができず,3回目の入院を契機に禁煙を実行した。 そして,禁煙することによって,心筋梗塞等の虚血性心疾患の発症リスクは喫煙継続者と比較すると減少するが,禁煙効果はそれまでの喫煙量が深く関与しており,生涯の喫煙本数が20万本以上の者は5年以上喫煙したとしても,虚血性心疾患による死亡のリスクは非喫煙者よりも1.82倍高いとの調査報告がある。 P1は,禁煙まで約27万本(25本×365日×30年)を喫煙していたから,仮に平成5年12月以降約8年半禁煙していたとしても,喫煙歴が動脈硬化の進展に寄与し,リスクファクターとなっていたといえる。 したがって,業務外要因であるP1の喫煙歴も,急性心筋虚血発症の有力な原因であったと認められる。 ウ性別・年齢虚血性心疾患の発症率は男性は女性の3から10倍である。また,虚血性心疾患の発症頻度は加齢により増加し,心臓性突然死のピークは45歳から75歳である。 したがって,急性心筋虚血発症の業務外要因として,P1が58才であったこと,男性であったことも挙げられる。 (4) 小括P1が急性心筋虚血を発症したことについては,基礎疾患(家族性高コレステロール血症,陳旧性心筋梗塞等)そのものが最大の原因 となっており,これに過去の喫煙歴,性別も原因となっていたと考えられる。 したがって,P1の急性心筋虚血の発症は業務に内在する危険の現実 ール血症,陳旧性心筋梗塞等)そのものが最大の原因 となっており,これに過去の喫煙歴,性別も原因となっていたと考えられる。 したがって,P1の急性心筋虚血の発症は業務に内在する危険の現実化であると評価することはできない。仮に,業務がひとつの原因であったとしても,最大の原因は家族性高コレステロール血症等の基礎疾患及びその他の業務外要因にあるのだから,業務が相対的に有力な原因となって発症したとは認められず,業務起因性を認めることはできない。 7 同8の事実は認める。 理由 第1 事実関係について請求の原因1,2,4,5(2),6及び8の各事実は当事者間に争いがなく,P1は平成14年6月9日急性心筋虚血を直接の原因として死亡したものである。 そこで,その急性心筋虚血が発症するに至った経過についてみるに,上記争いのない事実,証拠(証拠番号は括弧内に掲記した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 1 事業構造改革(平成13年4月)以前のP1の症状等(1) P1は,平成5年5月31日の職場の定期健康診断で心電図の異常を指摘され,同年6月14日,P2病院を受診した。心電図と心エコー検査の結果から,陳旧性心筋梗塞と診断され,心臓カテーテル検査など精査のため入院することとなった(乙4の69)。 (2) P1は,平成5年7月5日から同月16日までの間,P2病院に1回目の入院をした。冠状動脈造影により,右冠状動脈の#1(番号については別紙4参照。以下同じ。)で100パーセントの閉塞,左前下行枝の#9で50パーセントの狭窄,左回旋枝の#13で9 9パーセントの狭窄が認められた。また,左室造影により,#4(下壁),#5(後壁基部)及び#7(後側壁)で壁運動の低下が見られた。そこで,同年8月 0パーセントの狭窄,左回旋枝の#13で9 9パーセントの狭窄が認められた。また,左室造影により,#4(下壁),#5(後壁基部)及び#7(後側壁)で壁運動の低下が見られた。そこで,同年8月に再入院して経皮的経管的冠状動脈血管形成術(以下「PTCA」という。)の手術を行う予定となった。 なお,第1回目の入院中に行われた胸部レントゲン写真によると,心胸郭比(CTR)は49パーセント(50パーセント以下が正常値)であった。 あわせて,P1には,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)が認められたため,P1に対し,虚血性心疾患だけでなく高脂血症のための投薬が開始された(乙10)。 (3) P1は,平成5年8月6日から同月17日までの間,P2病院に2回目の入院をした。同月9日,左回旋枝の#13のPTCAの手術を受け,その結果,左回旋枝の#13の狭窄が99パーセントから25パーセントに改善した(乙11)。 (4) 旧NTTは,平成5年8月9日,P1につき健康管理規程上の指導区分「C(要注意)」に該当するものと決定した(乙4の23)。 その後も「C(要注意)」としての管理が続き,最終的に,NTT東日本は,平成13年9月25日,同月20日から平成15年3月31日までの期間につき「C(要注意)」としての健康管理を行うことを決定した(乙4の32)。 NTT東日本の健康管理規程上,「C(要注意)」の服務については,「過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせない。ただし,やむを得ぬ理由で宿泊出張させる場合は,組織の長と管理医が協議して決める。」とされている(乙7,8)。 (5) P1は,平成5年12月2日から同月14日までの間,P2病院に3回目の入院をした。同月6日に実施した冠状動脈造影によると, 左回旋枝の#13が再び90パーセントの狭 (乙7,8)。 (5) P1は,平成5年12月2日から同月14日までの間,P2病院に3回目の入院をした。同月6日に実施した冠状動脈造影によると, 左回旋枝の#13が再び90パーセントの狭窄,右冠状動脈の#1から#2が100パーセントの閉塞,左前下行枝の#9が90パーセントの狭窄となっていて,二枝病変と認められた。この入院期間中に再び左回旋枝の#13のPTCAを受けたが,同手術によっても左回旋枝の#13は100パーセント閉塞のまま改善は認められなかった。 なお,同年12月8日に行われた心臓超音波検査の結果によれば,左室収縮能を示す左室駆出分画(EF)は,48パーセント(50ないし80パーセントが正常値)であり,同月3日に行われたエルゴメータの運動負荷試験による心筋シンチグラフィーでは新たな虚血所見は見られなかった(乙12)。 (6) 3回目の入院後の職場の定期健診等での心電図所見は,平成8年5月14日が「要経過観察」,平成9年5月15日が「下壁梗塞」,平成10年5月26日が「下壁梗塞疑い」,平成11年6月16日が「下壁梗塞」,平成12年6月22日が「高位後壁梗塞」であった(乙4の45)。 平成13年1月26日にP2病院で行われた心臓超音波検査の結果によれば,左室駆出分画(EF)は47パーセントであった(乙14の6)。 また,同病院で同年1月31日に行われた心電図検査の検査記録紙には,P1の心電図の波形の記録とともに,「3633 陳旧性(?)の下壁心筋梗塞〔II.AVFでQ巾40ms以上,ST.T異常のいずれか〕」,「4012 中程度のST低下〔0.05mV以上のST低下〕」,「9150**abnormalECG**」,「医師の確認が必要です。」などというコメントが自動で印字されていた。あわせて行われた胸部レントゲ 2 中程度のST低下〔0.05mV以上のST低下〕」,「9150**abnormalECG**」,「医師の確認が必要です。」などというコメントが自動で印字されていた。あわせて行われた胸部レントゲン写真によれば,心胸郭比 (CTR)は43パーセントであった(乙14の6)。 (7) 3回目の入院後も,P1の総コレステロール値(管理目標値は180未満)は,平成9年5月15日に252,平成12年9月29日に263を記録したが,平成13年1月26日には197にまで低下した。LDLコレステロール値(管理目標値は100未満)も,平成9年5月15日には185(計算によって求めた値),平成12年9月29日には176であったが,平成13年1月26日には130(計算によって求めた値)まで低下した(乙4の45,14の6)。 (8) P1は,28歳のころから約30年間,1日に約25本のタバコを吸ってきたが,3回目の入院を契機に禁煙を実行した(甲29,乙12)。P1は,3回目の入院以降,定期的に診察,投薬を受け,医師の指示に従って,好きだった登山や旅行のような過激な運動を避け,年1回の小旅行にとどめるなどし,あわせてウォーキングを続けるなど,健康に留意した生活に徹していた(甲29)。 2 事業構造改革発表後本件研修までの状況(1) 平成13年4月,NTTの事業構造改革が発表され,固定電話の保全,管理,営業等の業務を新会社に外注委託することが予定された。 同年12月3日には,50歳以上の従業員に対し,平成14年1月18日までに,繰延型,一時金型,60歳満了型のいずれかの雇用形態を選択することが命ぜられた。 (2) P1は,平成13年春以降も平成14年4月19日までP2病院に月約1回の割合で通院していた(平成14年5月17日は妻が薬をもらい 歳満了型のいずれかの雇用形態を選択することが命ぜられた。 (2) P1は,平成13年春以降も平成14年4月19日までP2病院に月約1回の割合で通院していた(平成14年5月17日は妻が薬をもらいに行っただけでP1は通院していない。)。そして,同病院のP3医師に対し,平成13年6月15日には「脈がときおりゆ っくりになるが早いときもある。」旨を,同年8月10日には「体調良い。不整脈は出ているが(欠滞)気にしないようにしている(せいぜい1分間に1~2回)。家では脈拍は50から60の間で,血圧は110くらい」である旨を,同年11月6日には「途中で目ざめることが多い(入眠して2,3時間経つと目ざめる)。」旨を,平成14年1月25日には「毎日ではないが,脈がとぶ。」,「1分間に2個くらい。」,「夜に発汗して目覚めることがある。」旨を,同月31日には前日の嘔吐,下痢のため受診し,「夜,脈が速かった。」旨を,同年4月19日には「ときに脈が100くらいまでふえることがある。」旨を,それぞれ訴えていた(乙4の26,乙14の6)。 (3) 他方,P1からP3医師に対し,狭心症の訴えはなかった。死亡前約1年間に行われた心臓関係の検査としては,平成13年6月6日の心電図(所見は「下壁梗塞」),平成14年1月31日の心電図,胸部レントゲンのみである(乙14の6)。 (4) P1は,転勤によって主治医の診察を受けられなくなることなど健康上の不安を抱え,さらには,妻がパニック障害であって単身赴任が困難と思われたことを深刻に悩んでいた。平成13年秋ころからは,「そうか。」,「やっぱりな。」,「そうだよな。」,「そうしないとだめか。」,「俺が我慢すればいいのか。」といった独り言を言ったり,「遠くになんか行きたくない。」,「東京には行きたくない。」な は,「そうか。」,「やっぱりな。」,「そうだよな。」,「そうしないとだめか。」,「俺が我慢すればいいのか。」といった独り言を言ったり,「遠くになんか行きたくない。」,「東京には行きたくない。」などという寝言まで言うようになり,眠りが浅く,睡眠途中に目ざめることがあった。また,平成14年2月初旬から中旬ころにかけて,「肩が凝る,眠れない,胃が動かない,食欲がない,食べ物が消化しない。」などの症状を訴えることもあり,近所のP4治療院で6回ほどマッサージを受けた(甲29)。このほ か,同年1月25日は,P3医師に対して「働きすぎだなあと思っている。」旨を述べたこともあった(乙14の6)。 (5) P1は,雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択した(甲28)。平成14年4月24日で北海道支店旭川営業支店に配置換えとなった。NTTの基幹業務であった固定電話等の業務を新会社に外注委託するとの方針が実行されたことにより,P1が従前担当していた日締め作業やバックオーダー作業のような業務は存在しなくなった。P1は新たにソリューション業務(提案型業務)と呼ばれ,法人に対してそれぞれにあった情報システムを提案し販売することを主とする業務を担当することとなった。そして,その業務(法人業務)に必要な技能等を習得することを目的として,P1は本件研修への参加を命じられた。なお,同研修終了後の同年7月以降,P1らは新たな業務に就くことが予定されていたものの,研修参加者に対し事前通知があったのは同年6月20日のことであった(甲16,25,28)。 (6) P1は,P2病院において,平成13年11月6日から催眠鎮静剤ベンザリンの投与を受けていたが,平成14年3月19日には「ベンザリンもういらない」とのP1の申し出により同剤の投与は中止され (6) P1は,P2病院において,平成13年11月6日から催眠鎮静剤ベンザリンの投与を受けていたが,平成14年3月19日には「ベンザリンもういらない」とのP1の申し出により同剤の投与は中止された。 3 本件研修中の状況(1) 本件研修は,平成14年4月24日から同年6月30日まで,札幌及び東京で実施された。そのうち,同年6月9日までの研修場所,研修開始・終了の時刻,旭川への帰省の状況,宿泊状況等は別紙2のとおりである。 同年4月24日から同年5月17日,同年6月3日から同月30日までの札幌での研修には42名が参加し(乙4の53),そのうち 宿泊者は14名であり,P1ら旭川在住者がほとんどであった。札幌研修の参加者中,P1を含め3名が健康管理規程の指導区分「C(要注意)」該当者であった。 同年5月20日から同月31日までの東京研修には,約300名が参加した(甲27,28)。 (2) 本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所定時間内で実施され,研修時間が延長されたり,課題が出されることはなく,テストもなかった。研修担当者はほとんどの研修参加者が法人営業の未経験者で,心労の蓄積も相当あると考え,時には15分から30分程度研修時間を短縮することがあった。また,多くの研修資料が事前に配布された。これらは法人営業の基礎知識を習得させるためのものであったが,これまでの業務とは異なる全く新たな分野に関するものであり,参加者の中には研修後しばらくは研修で扱った知識を必要としない仕事を割り当てられる者もあった(甲17の1,27,乙9)。 (3) P1は,平成14年4月24日,同月25日及び同年5月7日から同月17日までは北海道セミナーセンタにP5と同部屋で宿泊し,週末には旭川の自宅に帰ってい もあった(甲17の1,27,乙9)。 (3) P1は,平成14年4月24日,同月25日及び同年5月7日から同月17日までは北海道セミナーセンタにP5と同部屋で宿泊し,週末には旭川の自宅に帰っていた(乙4の26)。また,同年4月27日から同年5月6日の間は,年次休暇3日を含め,連続した休日を取得していた。研修内容は,座学,パソコン操作による自学自習,中央研修センタからの配信によるウェブ研修であった(乙4の38)。 同年5月20日から同月31日までの東京での研修中は,NTT東日本研修センタに宿泊し,P6ら3人と同室であった。また,同月25日及び同月26日の週末には,同僚と那須高原に旅行に行った。 札幌に戻ってきた後である同年6月3日から同月7日までは1人 部屋に宿泊していた。内容は座学であった(乙4の38)。 (4) P1は,本件研修期間中,研修についていくために自習をすることもあり(甲25,乙4の16),休憩時間になると机に突っ伏して休むなどの姿が認められ(甲16),札幌での研修中,土曜,日曜に旭川の自宅に帰宅した際には,原告に対して,「疲れた。」と訴えていた。札幌での研修が始まって3日間ほどは,脈拍が100以上になり,平成14年4月27日には「ちょっと調子が悪い。」と言ってP7病院を受診し,疲労によるものだと診断された。同月30日及び同年5月2日には,P4治療院でマッサージを受けた。 また,P1は,旭川に帰省中の同年5月18日(土曜日),目の毛細血管が切れて赤くなったことから,近所のP8を受診し,点眼剤の処方を受けた。 (5) 平成14年5月13日,東京研修に参加できるかどうかを判断するため,管理医であるP9医師がP1と面談し,特別体調上の問題がないことから,東京研修に参加できると判断され,P1は同月20日から東 5) 平成14年5月13日,東京研修に参加できるかどうかを判断するため,管理医であるP9医師がP1と面談し,特別体調上の問題がないことから,東京研修に参加できると判断され,P1は同月20日から東京研修に参加した。 P1は,普段は午後10時には就寝していたが,東京での研修中は,夜間に飲酒する者もあり,午前零時前後までトイレ等で出入りする者もあるという環境であった(甲25,26)。P1は非常に疲れた様子で顔色も良くなく,同僚や原告に対して,「寮が古いので,4人部屋の2段ベッドがギシギシする。」,「同室の人が早朝に起き出すので寝不足になっている。」などと訴えており,同月31日に東京での研修から旭川の自宅に戻った際には,目に隈ができており憔悴しきった様子であった。翌6月1日は自宅で過ごし,マッサージを受けようとしたが受けられなかったため,翌2日にマッサージを受けた。翌3日は,「なかなか疲れがとれない。」といいなが ら札幌へ移動した(甲29)。 (6) P1は,札幌での研修の担当者であったP10課長と平成14年6月5日に面談した際には,研修内容について新鮮な気持ちで受講できたなどと述べていた(乙9)。 (7) 札幌での研修を終えて同月7日に旭川に帰宅したP1は,翌8日は自宅で過ごし,朝食時,原告に「脈がとぶ。」と言っていたが,その症状はしばらくすると治まった。 死亡当日である同月9日は,転勤になるとしばらく行けないからと言って,午前中から先祖の墓参りに出かけていた(甲29)。 第2 業務起因性について 1 労災保険法は,労働者が業務上死亡した場合において,補償を受けるべき遺族等の請求に基づき,遺族補償給付及び葬祭料を支給する旨を定めており(労災保険法7条1項1号,12条の8第1項・2項,労働基準法79条,80条),ここにい 上死亡した場合において,補償を受けるべき遺族等の請求に基づき,遺族補償給付及び葬祭料を支給する旨を定めており(労災保険法7条1項1号,12条の8第1項・2項,労働基準法79条,80条),ここにいう業務上の死亡とは,業務と死亡に至らせた負傷又は疾病との間に相当因果関係が認められるものをいう(最高裁判所第二小法廷昭和51年11月12日判決・裁判集民事119号189頁参照)。 心筋虚血(虚血性心臓疾患)は,通常,基礎となる血管病変等が,日常生活上の種々の要因により,徐々に進行・増悪して発症に至るものであるが,労働者が従事した業務が過重であったため,血管病変等をその自然の経過を超えて増悪させ,急性心筋虚血を発症させた場合には,業務に内在する危険が現実化したものとして,業務と急性心筋虚血との相当因果関係を認めることができる。 以下,この観点に基づき,P1の急性心筋虚血による死亡について,業務との間の相当因果関係が認められるか否かを判断する。 2 雇用形態の選択について 前記認定のとおり,P1は,平成13年4月のNTT東日本の事業構造改革が発表されてから,雇用形態の選択について悩み,健康状態を悪化させたことが認められる。 たしかに,雇用形態の選択自体は平成14年4月までに終了し,P1も同年3月には睡眠薬の服用を止めており,一定の落ち着きを取り戻したことが認められる。しかし,平成14年6月20日まで新しい配属場所が決まっていなかったこと,P1は死亡当日も転勤になったら墓参ができないと言って転勤を気にしていたことから,雇用形態選択に端を発するストレスは平成14年4月以降も続き,これがP1の心疾患に悪影響を及ぼしたというべきである。 3 本件研修の内容について本件研修中は時間外労働はなく,労働時間の点では大きな負荷はなかった 発するストレスは平成14年4月以降も続き,これがP1の心疾患に悪影響を及ぼしたというべきである。 3 本件研修の内容について本件研修中は時間外労働はなく,労働時間の点では大きな負荷はなかったものと認められる。 そうだとしても,心臓に疾患を抱えるP1にとって,50歳を過ぎて全く新しい分野の知識の習得を強いられる本件研修は,心身に負担のかかるものであったことは否定できない。 しかし,新しい業務分野の研修が参加者にとって通常業務以上の負担となることは通常のことである。本件研修では課題やテストはなく,研修終了直後から研修で学んだこと全てが必要となるわけではなかったことからすると,本件研修が新しい業務分野の研修として特に負担の重いものであったと認めることはできない。参加者を一括して集めて受講させるという方法にしても,法人営業全般にとっての基本となる知識を習得させるという本件研修の性質上,やむを得ないというべきである。したがって,本件研修はその内容面で過重なストレスであったとは認められない。 4 本件研修の場所,移動手段及び移動時間について 本件研修は札幌及び東京で行われたため,旭川在住のP1にとっては遠距離の移動を伴うものとならざるを得なかったことが認められる。 しかし,移動に要する時間それ自体は,旭川・札幌間は特急で1時間30分,旭川・東京間も飛行機で2時間であり,P1に旭川・東京間を飛行機で移動させることについては管理医の許可もあったのである。したがって,本件研修の場所,移動手段及び移動時間が,自然的経過を超えてP1の心疾患を悪化させるほど負担が大きいものだったとは認められない。 5 本件研修中の宿泊状況についてP1は,本件研修中,5泊を除いて2人又は4人部屋で宿泊していたため,普段の生活リズムが乱され,心身 患を悪化させるほど負担が大きいものだったとは認められない。 5 本件研修中の宿泊状況についてP1は,本件研修中,5泊を除いて2人又は4人部屋で宿泊していたため,普段の生活リズムが乱され,心身が休まらない状態にあったことがうかがわれる。 しかし,P1は東京研修中の休日には他の研修参加者とともに旅行に行き,東京研修後のP10課長との面談でも研修について前向きな話しかしていなかったことからすると,東京研修中の宿泊環境が死亡につながるほど大きなストレスを与えるものであったとは考えにくい。また,死亡直前の札幌での研修中は1人部屋に宿泊していたことから,それまでの2人又は4人部屋での宿泊によるストレスが残存して死亡につながったとは認められない。 6 本件研修の日程や場所について前記認定のとおり,本件研修は,連休後は札幌での10泊11日のあと東京での11泊12日,さらに札幌での4泊5日の研修が続くという日程であった。この間,P1は,旭川から札幌へ移動し(5月7日午前),札幌と旭川を往復し(5月10日夕方と5月13日早朝),札幌から旭川に移動し(5月17日夕方),旭川から東京に移動し(5 月20日午前),東京から旭川に移動し(5月31日午後),旭川から札幌に移動し(6月3日午前),札幌から旭川に移動している(6月7日夕方)。 P1は,3回目の入院(平成5年12月)で心臓手術を受けた後,医師の指導に従い,レジャーとしての旅行も避けていたことからすると,出張の連続はP1の心臓にとって大きな負担となったことがうかがわれる。5月18日は,毛細血管が切れて目が赤くなったとして眼科を受診したのも,疲労と無関係とはいえないであろうし,P1は,東京研修の前半は休日に旅行に行くなど活動的であったのに,東京研修から帰った際はとりわけ憔悴した様 細血管が切れて目が赤くなったとして眼科を受診したのも,疲労と無関係とはいえないであろうし,P1は,東京研修の前半は休日に旅行に行くなど活動的であったのに,東京研修から帰った際はとりわけ憔悴した様子であった。 これらの事実から考えると,週末に旭川の自宅で息抜きをする機会があったにせよ,宿泊を伴う長期の研修と頻繁な移動によって,普段であれば生じない(特に注意して避けていた)疲労がP1の身体に蓄積し,これが休養によって回復しない状態が約1か月にわたって続き,P1の循環器にとって過大な負担が生じていたものと認められるのである。 したがって,本件研修は,その日程や実施場所に照らし,P1の心臓疾患を自然的経過を超えて増悪させ,急性心筋虚血を発生させたものというべきである。 なお,P1の心臓の状態は比較的安定していたこと,管理医のP9医師がP1と面談して研修に参加させることは問題ないと判断していたことが認められる。これらの事実から,P1の主治医であるP3医師も,研修参加が基礎疾患に影響を与えるとは考えにくいと判断しており(乙4の69),産業医のP11医師もP1の死亡は業務とは関係のない基礎疾患の突然の悪化であるとしている(乙4の51,21)。 しかしながら,P9医師の面談は東京で研修を受けさせることの可 否を決めるために行われたのであって,P1の心臓が前述のような出張が連続する日程に耐えられるかどうかについては必ずしも判断していないと考えられる。また,P2病院でP1が最後に診察を受けたのは平成14年4月19日であり,本件研修前であったことから,P3医師は出張の連続によるP1の疲労を的確に把握していたとは言い難い。したがって,P9医師の面談をふまえたP11医師の見解やP3医師の見解は,上記認定判断を妨げるまでのものと評価することは から,P3医師は出張の連続によるP1の疲労を的確に把握していたとは言い難い。したがって,P9医師の面談をふまえたP11医師の見解やP3医師の見解は,上記認定判断を妨げるまでのものと評価することはできない。 7 P1の危険因子について前記のとおり,P1は,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患し,30年近い喫煙歴がある58歳の男性であったことが認められる。被告は,こうした危険因子が業務とは関係なく心疾患の急激な悪化を招いたと主張する。 しかし,前述のとおり,P1の心臓は比較的安定していたこと,事業構造改革発表前はコレステロール値を下げてきていたことから,業務とは関係なく家族性高コレステロール血症等の危険因子が心疾患を突然悪化させたとは認められない。 8 以上をまとめると,P1にとっては身体への負担が大きかった本件研修に参加したこと,雇用形態の選択を求められたことからはじまり本件研修中も続いていた異動の可能性への不安が,P1にとって大きな肉体的ストレス,精神的ストレスとなり,その結果,P1の陳旧性心筋梗塞をその自然の経過を超えて増悪させ,急性の虚血性心臓疾患を発症させたということができ,P1の死亡と業務の間には相当因果関係があるというべきである。 第3 結論以上の次第で,P1の死亡を業務上のものと認めなかった処分行政 庁の判断は誤っており,本件処分は違法であるから,原告の請求を認容してこれを取り消し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官橋詰 均 裁判官鈴木敦士 裁判官木口麻衣 第3部 裁判長 裁判官橋詰均 裁判官鈴木敦士 裁判官木口麻衣

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