昭和63(行ウ)2 協定書無効確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成元年3月14日 水戸地方裁判所 住民訴訟
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本件は、原告らが被告七会村と東京防衛施設局長との間で締結された協定の無効確認を求めた事案である。原告らは、協定が憲法第9条に違反し、自然環境権を侵害し、村民の意見聴取手続を欠いていると主張した。主要な争点は、本件協定が地方自治法242条に基づく「契約」に該当するかどうか、及び原告らの訴えが適法かどうかである。裁判所は、協定は地方自治法242条に該当せず、原告らの訴えは不適法であると判断し、訴えを却下した。判決は、原告らの請求を棄却し、訴訟費用は原告らの負担とするものであった。

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判決文本文7,366 文字)

○ 主文原告らの訴えをいずれも却下する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実第一当事者の求める判決一原告ら 1 原告らと被告らとの間において、被告七会村が昭和六二年二月一四日東京防衛施設局長ほか二名との間で協定した協定書が無効であることを確認する。 2 被告らは右協定書に基づく陸上自衛隊施設学校訓練場の建設、訓練及びこれに関する一切の行為に協力してはならない。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 二被告ら(本案前)主文同旨(本案) 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 第二当事者の主張一原告らの請求原因 1 原告らは、いずれも茨城県西茨城郡<地名略>の住民である。 被告Aは、被告七会村(以下単に「七会村」ともいう。)の村長である。 2 東京防衛施設局長、陸上自衛隊施設学校長、茨城県及び被告七会村は、昭和六二年二月一四日、茨城県西茨城郡<地名略>地内の別紙図面太線の範囲内の土地(約三三ヘクタール、以下「本件区域」という。)を自衛隊の爆破訓練場として使用することを前提として、その訓練の種類、内容等を規制することを骨子とする協定(以下「本件協定」という。)を締結した。 3 しかし、本件協定の締結は、以下のとおり地方自治法二四二条一項の違法な契約の締結に該当する。 (一) 憲法前文、九条違反本件協定は、前記のとおり、本件区域を陸上自衛隊が爆破訓練場として使用することを前提とするものであり、本件区域における陸上自衛隊の爆破訓練を容認するものである。 しかし、陸上自衛隊は、憲法九条にいう陸海空軍その他の戦力に該当するものであるから、本件区域を陸上自衛隊に使用させることを認めることは同条に違反する。 また、本件区域を戦争目的の火薬類の爆破その他の訓練のために使用することは、憲法前文及び九条に違反する 力に該当するものであるから、本件区域を陸上自衛隊に使用させることを認めることは同条に違反する。 また、本件区域を戦争目的の火薬類の爆破その他の訓練のために使用することは、憲法前文及び九条に違反する。 (二) 自然環境権の侵害本件区域は七会村の北部に位置し、御前山自然公園内で、尾根を隔てた南側約三〇〇メートルの所には仏国寺が存在し、その周辺は特別地域に指定されている。 また、本件区域はそこにある動植物とともに豊かな自然環境を作り出しており、県民の数少ない憩いの場所となつている。すなわち、植生は自然林及び自然林に近い状態で、けやきの群落地が存在し、人間の干渉のない自然群落を形成している。また、動植物の生育も盛んで、きつね、てん、日本りす等珍しい哺乳類が確認されており、村民にとつて貴重な自然環境となつている。 本件区域を爆破訓練場として使用することを容認することを内容とする本件協定は、かかる村民の自然環境権を侵害するものである。 (三) 村民の意見聴取手続の欠如本件のように、村民の環境に対する影響が多大であると考えられる場合には、訓練場を村内に認めるか否かについて事前に村民の意見を聴取し、その意見を反映させるべき法律上の義務があるものと解される。しかるに被告らは、本件協定締結に際しかかる手続をとらず、かえつて村議会に対し施設内容及び訓練内容について虚偽の事実の説明を行い、その同意を取り付けたものであるから、本件協定にはかかる村民の意見聴取手続を欠いた違法があるものである。 4 本件協定の締結により、七会村は村民の享有する自然環境権を侵害する国の行為に加担したものとして、村民に対し不法行為による損害賠償義務を負うものであつて、財政負担を免れない。 5 そこで、原告らは被告七会村監査委員に対し、昭和六二年一二月一五日本件協定の無効確認と、被告らが本 担したものとして、村民に対し不法行為による損害賠償義務を負うものであつて、財政負担を免れない。 5 そこで、原告らは被告七会村監査委員に対し、昭和六二年一二月一五日本件協定の無効確認と、被告らが本件協定に基づく陸上自衛隊施設学校訓練場の建設、訓練その他一切の行為に協力してはならない旨の監査請求を行つたが、昭和六三年二月四日棄却された。 6 よつて原告らは、被告らに対し、地方自治法二四二条の二第一項に基づき、本件協定の無効確認と、被告らが本件協定に基づく陸上自衛隊施設学校訓練場の建設、訓練及びこれに関する一切の行為に協力する行為の差止めを求める。 二被告らの本案前の主張 1 本件協定の無効確認の訴えについて(一) 本件協定は、次のとおり地方自治法二四二条一項所定の「契約」に該当しないから、同条の二第一項二号による本件協定の無効確認の訴えは不適法として却下を免れない。 (1) 地方自治法二四二条の二による住民訴訟は、地方自治体の執行機関による違法な財務会計上の管理運営をただすことによつて地方財政の公正と住民全体の利益を確保することを目的としたものであるから、その対象としての同法二四二条一項所定の事項は地方公共団体が積極消極の損害を受けた場合もしくは受けるおそれがある場合に限られるものである。 しかるところ、本件協定は、国が私人から土地の譲渡及び賃貸を受けて右土地上に陸上自衛隊施設学校の訓練場を作つて訓練するに際して、東京防衛施設局長及び陸上自衛隊施設学校長が付近の自然環境及び生活環境の保全に努め、住民の生命、身体及び財産に対して損害を与えないよう十分配慮すること(三条)を主眼として大綱的な事項を定めたものに過ぎず、これによつて七会村が財産的出損を伴うような何らかの具体的義務を負うものではないから、同法二四二条一項の「契約」には該当しないも 分配慮すること(三条)を主眼として大綱的な事項を定めたものに過ぎず、これによつて七会村が財産的出損を伴うような何らかの具体的義務を負うものではないから、同法二四二条一項の「契約」には該当しないものである。 (2) 仮に、本件協定から何らかの具体的な権利義務が発生するとしても、本件協定は地方自治法二四二条一項の「契約」には該当しないものである。なぜならば、本件協定は、訓練場の区域(一条)及び訓練の種類、内容を制限し(四条)、火薬類を使用する際には陸上自衛隊施設学校長が事前に村長に通知することとし(五条)、事故発生の際には同学校長に復旧義務を課すとともに、村長又は関係市町村及び茨城県へ通知するものとしているうえ(七条)、住民に生じた損害は東京防衛施設局長及び陸上自衛隊施設学校長の責任において解決するものとしており(三条)、住民の損害への配慮のみならず、七会村の財政に負担が生じることを避けるべく配慮がされているからである。すなわち本件協定は、七会村に財産的損害を及ぼすものでないばかりか、むしろ、本来国が負担すべき損害賠償義務を七会村が負担することのないよう責任主体を明示することによつて将来被るかもしれない損害を免れようとするものであるから、地方自治法二四二条一項の「契約」に該当しないものである。 (二) 本件無効確認の訴えは、次のとおり訴えの利益を欠き、却下を免れない。 (1) 本件協定により七会村に何らかの損害が現実に発生するか否かは多分に憶測の域を出ず、未だ無効確認の訴えを提起するだけの即時確定の利益は存しない。 (2) 本件訓練場の設置及び訓練の実施は何ら本件協定と関係なくされるものであるから、本件無効確認の訴えによつてこれに伴う損害の発生を防止することはできない。これは、原告らが無効確認の訴えの対象の選択を誤つたからにほかならない。 実施は何ら本件協定と関係なくされるものであるから、本件無効確認の訴えによつてこれに伴う損害の発生を防止することはできない。これは、原告らが無効確認の訴えの対象の選択を誤つたからにほかならない。 (三) 地方自治法二四二条の二第一項二号に規定する行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいうものである。しかるところ、本件協定はいかなる意味においても行政処分に該当しないから、本件無効確認の訴えは不適法として却下を免れない。 仮に、右の行政処分性の要件を厳格に解さず、行政処分的性質を有する契約をも含むと解したとしても、そもそも地方自治法二四二条一項の「契約」とは同法二三四条以下に定めるものをいうのであつて、本件協定がこれに該当しないことは前記(一)の(1)、(2)から明らかである。 2 被告らに対する差止請求にかかる訴えについて右訴えは、次のとおり地方自治法二四二条の二第一項一号の訴訟要件を欠き、却下を免れない。 (一) 地方自治法二四二条の二第一項一号の差止請求にかかる訴えが認められるためには、「当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合」(同法二四二条一項かつこ書)でなければならないところ、本件協定は当事者間に抽象的な義務を生じさせるにとどまり、被告らが訓練場の建設、訓練に協力すべき義務を具体的に規定したものではないから、原告らの主張するような被告らの行為は右にいう「相当の確実さをもつて予測される場合」には当たらない。 (二) また、右の差止請求にかかる訴えが認められるためには、「当該行為により地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」(同法二四二条の二第一項ただし書)でなければならないところ、前記のように、本件において原告らの主張するような損害が発生するかどうかは多分に憶測の域を出ないもので 困難な損害を生ずるおそれがある場合」(同法二四二条の二第一項ただし書)でなければならないところ、前記のように、本件において原告らの主張するような損害が発生するかどうかは多分に憶測の域を出ないものであるから、右にいう「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」には当たらない。 仮に、原告らの主張するような損害が生ずるとしても、そもそも生活環境の破壊によつて生ずる損害は住民が被る損害であり住民訴訟の対象となる地方公共団体の被る損害ではないし、七会村は本件協定三条により自衛隊施設学校の訓練によつて生ずる住民に対する損害賠償義務を負わないものとされているから、前記の「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」には当たらない。しかも、原告らの主張する損害は、村長の行為を差し止めてもどのみち自衛隊施設学校の訓練によつて生ずるものであるから、この意味でも本件は右の要件に当たらない。 (三) さらに、右の差止請求にかかる訴えにおいて被告適格を有するのは当該執行機関又は職員とされているところ、被告七会村は地方公共団体であつてこれらに該当しないから、右訴えの被告適格を有しないものといわなければならない。 三本案前の主張に対する原告らの答弁 1 (一)本案前の主張1項(一)は争う。 本件協定は、以下のとおり七会村の財政的負担をもたらすものであるから、地方自治法二四二条一項の「契約」に該当する。 (1) 行政担当者は、憲法、法律等を遵守し、適法に行政を執行すべき責務を有するところ、本件区域は憲法九条で禁止された戦争を遂行するための訓練場となるものであるから、七会村はかかる施設が村内に建設されることを防止すべき法律上の義務があるものである。しかるに七会村はかかる義務を尽くさず、国による違憲な施設の建設に協定締結という形で協力し、村民の自然環境権を侵害する国の行為に 施設が村内に建設されることを防止すべき法律上の義務があるものである。しかるに七会村はかかる義務を尽くさず、国による違憲な施設の建設に協定締結という形で協力し、村民の自然環境権を侵害する国の行為に加担したものであるから、村民に対し、国と共同で不法行為による損害賠償義務を負担するものである。 (2) なお、本件協定は、住民に生じた損害は国の責任において解決すると定めているが、これは責任の内部負担を定めたものに過ぎず、これにより七会村が村民に対する損害賠償義務を免れることになるものではない。 (二) 同1項(二)は争う。 原告らが主張している損害は環境権の侵害であつて、右損害は現実に発生しているものであり、ただその損害の額の評価が定まつていないだけである。したがつて、損害の発生は、被告の主張するように憶測の域を出ないというものではない。 また、本件協定が違憲な協定であることは前記のとおりであり、このような違憲な協定を維持することは継続的不法行為に当たるものであつて、本件無効確認の訴えはかかる継続的不法行為を停止させるために必要なものであり、訴えの利益がある。 (三) 同1項(三)は争う。 2 同2項は争う。被告らの行為は継続的共同不法行為であつて、現に環境権を客観的に侵害しているものである。したがつて、不法行為の継続を中断させる差止請求は、具体的かつ必要な請求である。 四請求原因に対する被告らの認否 1 請求原因1、2項の事実は認める。 2 同3項(一)は争う。 同3項(二)前段、中段の事実は認め、後段は争う。 同3項(三)は争う。 3 同4項の事実は否認する。 4 同5項の事実は認める。 第三証拠(省略)○ 理由一請求原因1項及び2項の各事実(原告らが<地名略>の住民であり、被告Aが同村の村長であること及び本件協定が締結されたこと)はいずれ する。 4 同5項の事実は認める。 第三証拠(省略)○ 理由一請求原因1項及び2項の各事実(原告らが<地名略>の住民であり、被告Aが同村の村長であること及び本件協定が締結されたこと)はいずれも当事者間に争いがない。 二被告らは、本案前の主張として、本件協定は地方自治法二四二条一項の「契約」に該当しないと主張するので、この点についてまず判断する。 1 地方自治法二四二条の二の定める住民訴訟は、地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もつて地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。かかる住民訴訟制度の制定趣旨に照らすと、地方自治法二四二条一項の「契約の締結」にいう契約とは財務的処理を直接の目的とする契約に限られ、非財務的な行政上の事務処理の一環として行われる契約はたとえそれが結果的に地方公共団体の財産上の損害をもたらすものであつても、これに含まれないと解するのが相当である。 2 そこで、本件協定がかかる財務的処理を直接の目的とした契約であるかどうかについてみるに、前記当事者間に争いのない事実と成立に争いのない乙第一ないし第二〇号証及び弁論の全趣旨によれば、本件協定は、防衛施設庁が民有地である本件区域に陸上自衛隊施設学校の訓練場を設置し、これを同施設学校が訓練場として使用するについて、七会村長が訓練場周辺の環境保全と住民の安全確保とを図るため、東京防衛施設局長と陸上自衛隊施設学校長との間で、東京防衛施設局長及び陸上自衛隊施設学校長は右訓練場を設置し、使用するに当 用するについて、七会村長が訓練場周辺の環境保全と住民の安全確保とを図るため、東京防衛施設局長と陸上自衛隊施設学校長との間で、東京防衛施設局長及び陸上自衛隊施設学校長は右訓練場を設置し、使用するに当たつては、自然環境及び生活環境の保全に努めるとともに、住民の生命、身体、財産に対し損害を与えないよう十分配慮する(三条)、陸上自衛隊施設学校長が訓練場において行う訓練は築城等の一般訓練及び火薬類を使用する小規模な基礎的訓練とし(四条一項)、訓練場の年間使用日数は原則として一般訓練にあつては一〇〇日、火薬類を使用する訓練にあつては一一〇日とする(同条二項)、火薬類を使用する訓練を行う場合には、陸上自衛隊施設学校長は訓練の実施日の一〇日前までに訓練の実施日時、訓練の内容その他必要な事項を七会村長に通知し(五条一項)、事故発生時には直ちに応急措置を講じ、速やかにその復旧を行うものとする(七条)などと約した一般行政上の目的に基づく公法上の契約であると認められるから、これが財務的処理を直接の目的とした契約に当たらないことは明らかというべきである。 この点について原告らは、本件協定の締結により、七会村は村民の享有する自然環境権を破壊する国の行為に加担したものであり、村民に対し共同不法行為に基づく損害賠償義務を負担することになるものであるから、本件協定は地方自治法二四二条一項の「契約」に該当する旨主張する。しかし、前示のように本件協定は財務的処理を直接の目的とする契約ではないから、たとえその結果七会村が損害賠償義務を負担することがあつたとしても、これをもつて本件協定が住民訴訟の対象となる財務上の契約に当たるものとすることはできないものといわなければならない。したがつて、この点に関する原告らの主張は失当というほかはない。 3 そうすると、本件協定が地方自治法二 が住民訴訟の対象となる財務上の契約に当たるものとすることはできないものといわなければならない。したがつて、この点に関する原告らの主張は失当というほかはない。 3 そうすると、本件協定が地方自治法二四二条一項の「契約」に当たるとしてその無効確認とそれに基づく行為(「契約の履行」に当たると主張する趣旨であると解される。)の差止めを求める原告らの本件訴えは、いずれもその余の点について判断するまでもなく不適法といわざるを得ない。 三よつて、原告らの本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官矢崎秀一近藤壽邦池田陽子)別紙図面省略

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