平成17(ワ)566 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年8月18日 甲府地方裁判所
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本件は、原告が公園で被告の飼育する犬に襲われたと主張し、損害賠償を求めた事案である。原告は、犬が近づいた際に転倒し、胸椎圧迫骨折の傷害を負った。主要な争点は、事故の発生原因と損害の因果関係であり、裁判所は、犬をつなぐ綱を放した被告の妻の過失が事故を引き起こしたと認定した。被告は、原告の骨粗しょう症が事故の原因であると主張したが、裁判所は、犬の行動と事故の因果関係を認め、被告に損害賠償責任があると判断した。最終的に、被告は原告に154万6538円を支払うよう命じられ、その他の請求は棄却された。

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判決文本文6,303 文字)

主文 被告は,原告に対し,金154万6538円及びこれに対する平成17年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,金216万7473円及びこれに対する平成17年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,公園を散歩中に転倒して第12胸椎圧迫骨折の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った原告が,この転倒の原因は被告の飼育する大型犬が原告に襲いかかったことにあると主張して,動物の占有者に対する損害賠償請求権(民法718条1項)に基づき,被告に対し,本件傷害によって原告が被った損害の賠償を求めている事案である(附帯請求は,不法行為の日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求である。)。 前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)(1)原告は,昭和18年3月13日生まれの女性である(甲1)。 (2)被告は,平成17年4月24日当時,いわゆるパピーウォーカー(盲導犬として訓練すべき小犬を1歳になるくらいまで育てるボランティア(乙3の4丁))として,ラブラドル・レトリバー犬1頭(平成15年10月29日生まれのオス,以下「本件レトリバー犬」という。)を飼育していた。 (3)ア原告は,平成17年4月24日午前6時ころ,甲府市小瀬スポーツ公園 内にある芝生庭園を散歩していた。 イ被告の妻であるAは,同時刻ころ,同公園において,本件レトリバー犬と他人から預かっているもう1頭の犬を首輪と綱を装着した状態で散歩させてい 市小瀬スポーツ公園 内にある芝生庭園を散歩していた。 イ被告の妻であるAは,同時刻ころ,同公園において,本件レトリバー犬と他人から預かっているもう1頭の犬を首輪と綱を装着した状態で散歩させていた(乙13,証人A)。 ウ本件レトリバー犬は,この散歩中,同行していたもう1頭の犬とじゃれあって急に走り出し,その結果,Aが握っていた本件レトリバー犬をつなぐ綱がAの手から放れた(乙13,証人A)。 エ本件レトリバー犬は,その後,綱がAの手から離れた状態で,上記芝生庭園を散歩中であった原告の方向へ近づいていった。 オ原告は,本件レトリバー犬が接近してきた際,その場に転倒し,動けなくなった(以下,この事故を「本件事故」という。なお,本件事故の発生原因については,争点(1)において検討する。)(甲8,原告本人)。 カ原告は,直ちに,救急車で,独立行政法人国立病院機構甲府病院(以下「国立甲府病院」という。)に搬送された(甲8,原告本人)。 (4)原告は,平成17年4月24日,国立甲府病院に入院し,同病院の医師の診察を受け,その後,MRI検査などを受けた結果,受傷日から約3か月の加療を要する見込みの第12胸椎圧迫骨折であると診断された(これが本件傷害である。)(甲1,8,原告本人,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨)。 (5)ア原告は,本件傷害の治療のため,本件事故の日である平成17年4月24日から同年6月9日までの間,国立甲府病院に入院した(甲2の1・2,原告本人)。 イ原告は,平成17年6月9日に国立甲府病院を退院した後,本件傷害の治療のため,同年8月17日まで,同病院に通院し,同日,本件傷害が治癒したと診断された(甲3の1ないし3,原告本人,調査嘱託の結果)。 ウ原告は,平成17年8月17日,国立甲府病院において骨密度検査を受け,その結果, 17日まで,同病院に通院し,同日,本件傷害が治癒したと診断された(甲3の1ないし3,原告本人,調査嘱託の結果)。 ウ原告は,平成17年8月17日,国立甲府病院において骨密度検査を受け,その結果,原告の骨密度は,Zスコア(同年齢と比較)において68パーセン ト,Tスコア(若年者と比較)において54パーセントであり,骨粗しょう症であると診断された(原告本人,調査嘱託の結果)。 争点 (1)本件事故の発生原因ア原告の主張本件事故は,本件レトリバー犬が前足を上げて原告に飛びかかってきたことから,原告がこれを避けようとして発生した。 イ被告の主張(ア)上記アの事実は否認する。 (イ)本件レトリバー犬は,原告に接触しておらず,原告は,本件レトリバー犬の行動とは無関係に転倒した可能性が高い。原告は,骨粗しょう症患者であり,本件レトリバー犬が原告に接近したことによって本件事故が発生したのか否か,本件事故によって本件傷害が発生したのか否かは不明であるというべきである。 (2)本件事故によって原告が被った損害ア原告の主張(ア)治療費等a原告は,国立甲府病院に入院していた平成17年5月1日から同年6月9日までの間に,治療費として,23万8200円を支払った(同年4月24日から同月末日までの治療費は,被告が負担した。)。 b原告は,国立甲府病院に通院中(平成17年6月9日から同年8月17日まで),治療費及び薬代として,合計8695円を支払った。 c原告は,平成17年5月18日,本件傷害の治療に用いる腰椎装具代(コルセット代)として,2万3278円を支払った。 (イ)入院雑費7万0500円(1日当たり1500円で47日間)(ウ)慰謝料 a原告は,本件傷害の治療のため,国立甲府病院に平成17年4月24日から同年6月9日ま 3278円を支払った。 (イ)入院雑費7万0500円(1日当たり1500円で47日間)(ウ)慰謝料 a原告は,本件傷害の治療のため,国立甲府病院に平成17年4月24日から同年6月9日までの47日間入院し,また,同病院を退院後も,同年8月17日まで同病院に通院した。 b上記治療状況にかんがみると,本件傷害によって原告が被った精神的苦痛は,100万円の支払をもって慰謝するのが相当である。 (エ)休業損害a原告は,本件事故当時,B商店にいわゆるパートとして雇用され,1日当たり3200円の給与の支払を受けていたところ,本件傷害によって平成17年7月31日まで欠勤した。 bしたがって,原告は,本件傷害によって休業を余儀なくされたことにより,31万6800円(3200円×99日)の損害を被ったといえる。 (オ)弁護士費用原告は,本訴を提起することを原告代理人らに委任し,着手金として17万円,報酬として34万円を支払う旨約した。 (カ)まとめ以上によると,原告は,本件傷害によって,216万7473円の損害を被ったこととなる。 イ被告の主張上記アの主張は争う。 (3)素因減額の可否ア被告の主張仮に,本件レトリバー犬の行動と本件傷害の間に因果関係が認められるとしても,本件傷害の発生には,原告が骨粗しょう症であったことが多分に寄与しているから,この点を考慮して原告の損害を減額すべきである。 イ原告の主張上記アの主張は争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件事故の発生原因)について(1)証拠(甲8,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,本件事故は,Aが綱を放したことから自由に行動できるようになった本件レトリバー犬が,前足を上げて原告に飛びつくような格好をしたため,原告がこれを避けようとして発生したと認められ 論の全趣旨によると,本件事故は,Aが綱を放したことから自由に行動できるようになった本件レトリバー犬が,前足を上げて原告に飛びつくような格好をしたため,原告がこれを避けようとして発生したと認められる。 (2)アこの点,証人Aは,その証人尋問において,本件レトリバー犬は原告に接触しておらず,原告は本件レトリバー犬の行動とは無関係に四つんばいの態勢になったなどと上記(1)の認定に反する旨を証言し,同人の陳述書である乙13号証にも同旨の記載がある。 イしかしながら,証人Aは,上記のとおり証言する一方で,原告が四つんばいになる瞬間は原告及び本件レトリバー犬から目を離していたため見ていなかったとも明確に証言しており,本件レトリバー犬が原告に接触していないという上記アの証言及び陳述書の記載は,単に証人Aの憶測又は希望的観測に基づくものにすぎないといわざるを得ず,にわかに信用することはできない。 ウまた,被告の陳述書(乙12)における様々な言い分等を踏まえて本件全証拠を精査しても,上記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。 (3)以上を前提として,本件レトリバー犬をつないでいた綱を放すというAの過失(この点にAの過失が認められることは明らかである。)と本件傷害との間の因果関係について検討するに,綱を放された犬が他人に飛びつき,飛びつかれた者がこれを避けようとして転倒,骨折することは通常予想し得るから,本件レトリバー犬をつないでいた綱を放すというAの前記過失行為と本件傷害との間には相当因果関係が認められる。 (4)そうすると,本件事故当時に本件レトリバー犬を飼育していた原告は,民法718条1項所定の動物の占有者の損害賠償責任に基づき,本件事故によって原告が被った損害について賠償すべき責めを負うこととなる。 (5)なお,被告は,本件事故による 犬を飼育していた原告は,民法718条1項所定の動物の占有者の損害賠償責任に基づき,本件事故によって原告が被った損害について賠償すべき責めを負うこととなる。 (5)なお,被告は,本件事故による本件傷害の発生の事実自体を争うが,証拠(甲1,8,原告本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,本件事故による本件傷害の発生の事実を揺るぎなく認めることができる。 争点(2)(本件事故によって原告が被った損害)について(1)治療費等証拠(甲2の1・2,甲3の1ないし3,甲4,5)及び弁論の全趣旨によると,争点(2)ア(ア)の事実,すなわち,原告が,本件傷害の治療費等として,次のとおり損害を被ったことを認めることができる。 ア入院中の治療費(平成17年5月1日から同年6月9日まで)23万8200円(平成17年4月24日から同月末までの治療費は被告が負担した。)イ通院中の治療費及び薬代8695円ウ腰椎装具代(コルセット代)2万3278円(2)入院雑費原告は,本件傷害の治療のため,平成17年4月24日から同年6月9日までの47日間,国立甲府病院に入院した(上記第2の2(5)ア)。そうすると,原告は,本件事故によって,この間の入院雑費として,7万0500円(1日当たり1500円)の損害を被ったと認められる。 (3)慰謝料ア原告は,本件傷害の治療のため,平成17年4月24日から同年6月9日までの47日間,国立甲府病院に入院し,同病院を退院した後も,同年8月17日まで,同病院に通院した(上記第2の2(5)ア,イ)。 イ上記の入通院状況に加えて,本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,本件傷害によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するには,98万円の支払 をもってするのが相当である。 (4)休業損害ア証拠(甲7, 院状況に加えて,本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,本件傷害によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するには,98万円の支払 をもってするのが相当である。 (4)休業損害ア証拠(甲7,原告本人)によると,①原告は,本件事故当時,いわゆるパートとしてB商店に雇用され,1日当たり約3200円,1か月当たり約9万円の賃金の支払を受けていたこと,②原告は,本件傷害のため,本件事故日である平成17年4月24日から同年7月31日までの合計99日間,B商店を欠勤したことが認められる。 イそうすると,原告が本件事故によって被った休業損害は,少なくとも30万円を下らないと認められる。 (5)弁護士費用本件事故と相当因果関係にある損害としての弁護士費用については,争点(3)(素因減額の可否)を検討した後に検討する。 争点(3)(素因減額の可否)について(1)上記前提となる事実(5)ウ,証拠(甲8,乙8,原告本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,①原告の骨密度は,本件傷害が治癒したと診断された平成17年8月17日当時,Zスコア(同年齢と比較)において68パーセント,Tスコア(若年者と比較)において54パーセントであり,原告は,同日,国立甲府病院の医師から,骨粗しょう症と診断され,以後の投薬治療を指示されたこと,②原告は,平成15年ころに受けた検診において,骨粗しょう症であるとの指摘を受けたが,このときには特に治療などの指示はなかったことが認められる。 (2)証拠(乙7,9)及び弁論の全趣旨によると,骨粗しょう症患者は骨が弱く,転倒などによって骨折しやすいことが認められるところ,本件事故及び本件傷害の発生の態様によると,原告が骨粗しょう症であったことは,本件傷害の発生に相当程度寄与していると認められる。 (3)そして ,転倒などによって骨折しやすいことが認められるところ,本件事故及び本件傷害の発生の態様によると,原告が骨粗しょう症であったことは,本件傷害の発生に相当程度寄与していると認められる。 (3)そして,本件事故の発生態様,本件傷害の内容,原告の骨粗しょう症の程度及び本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,原告が本件事故当時に骨粗 しょう症であったという事実を参酌して,過失相殺の規定(民法722条2項)を類推適用し,原告の損害から2割を減額するのが相当である(減額後の額は,129万6538円(1円未満切捨て)となる。)。 弁護士費用の額について(1)証拠(甲6の1・2,8,乙12,13,証人A,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によると,被告は,平成17年4月24日に本件事故が発生した後,同月末日までの原告の治療費などは負担したが,その後,本件レトリバー犬が原告に接触したことを否定するなどして,被告の損害賠償責任を否定するようになったばかりか,原告が虚偽の被害を申告しているかのような対応を取るようになり,このような被告の対応を受けて,原告は,訴訟代理人に委任して本件訴えを提起せざるを得なくなったと認められる。 (2)本件の認容額や本件事故の発生原因に加えて,以上のような本件訴えに至る経緯及び本件の審理経過等にかんがみると,本件事故と相当因果関係にある損害としての弁護士費用としては,25万円をもって相当と認める。 結論 以上によると,原告の被告に対する請求は,民法718条1項所定の損害賠償請求権に基づき,154万6538円及びこれに対する本件事故の発生日(不法行為の日)である平成17年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄 する本件事故の発生日(不法行為の日)である平成17年4月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判官岩井一真

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