本件は、JFエスチール株式会社が特許庁の特許取消決定に対して行った取消請求事件である。原告は、特許第3241519号に関する請求項1から3が公知技術に基づき当業者が容易に発明できたとされ、特許庁により取り消されたことに異議を唱えた。主要な争点は、特許法29条2項に基づく特許の有効性であり、裁判所は、特許庁の判断を支持し、請求項1から3に関しては特許が無効であるとの結論を下した。しかし、請求項4から6については特許が維持されることとなった。最終的に、特許庁の決定のうち、請求項1から3に係る特許を取り消すとの部分が取り消され、訴訟費用は原告の負担とされた。
平成15年(行ケ)第168号特許取消決定取消請求事件口頭弁論終結日平成15年11月25日判決原告 JFEスチール株式会社訴訟代理人弁理士高矢諭同松山圭佑同牧野剛博被告特許庁長官今井康夫指定代理人渡部利行同高橋泰史同涌井幸一 主文 1 特許庁が異議2002-71587号事件について平成15年3月4日にした決定のうち,「特許第3241519号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 1 原告の請求(1) 主文1項と同旨。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 当事者間に争いのない事実(1) 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「超音波探傷方法および装置」とする特許第3241519号の特許(平成6年2月7日出願(優先権主張平成6年1月26日),平成13年10月19日設定登録,以下「本件特許」という。登録時において,請求項の数は6である。)の特許権者である。 本件特許に対し,請求項1ないし6につき,特許異議の申立てがあり,特許庁は,この申立てを,異議2002-71587号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年11月11日,本件明細書の訂正の請求をした(以下「本件第1訂正」という 議の申立てがあり,特許庁は,この申立てを,異議2002-71587号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年11月11日,本件明細書の訂正の請求をした(以下「本件第1訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成15年3月4日,本件第1訂正を認めた上,「特許第3241519号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。同請求項4ないし6に係る特許を維持する。」との決定をし,同年3月31日にその謄本を原告に送達した。 (2) 決定の理由要するに,本件第1訂正後の請求項1ないし3に係る各発明は,いずれも,公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当する,したがって,本件特許は,請求項1ないし3に係る各発明のいずれについても,この規定に違反して登録されたものである,ということである。 (3) 訂正審判の確定原告は,本訴係属中に,本件特許の出願の願書に添付された明細書の訂正をすることについて審判を請求した。特許庁は,これを訂正2003-39184号事件として審理し,その結果,平成15年10月14日に訂正(以下「本件第2訂正」という。本件第2訂正は,登録時の請求項1ないし6及び発明の詳細な説明を訂正するものである。)をすることを認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,これが確定した。 3 本件第1訂正前の本件特許の特許請求の範囲(甲第2号証・特許公報に記載のもの)【請求項1】被検査板を挟んで超音波送信子と超音波受信子を対向配置し,該超音波送信子から超音波ビームを被検査板に向けてほぼ垂直に送信し,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反 送信子から超音波ビームを被検査板に向けてほぼ垂直に送信し,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを超音波受信子により受信し,受信された超音波を増幅し,反射波のみを抽出した後に所定の振幅に達した反射波の有無を検出することを特徴とする超音波探傷方法。 【請求項2】被検査板に向けてほぼ垂直に超音波ビームを送信する超音波送信子と,被検査板を挟んで前記超音波送信子と対向する位置に配置され,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを受信する超音波受信子と,受信された超音波を増幅する手段と,反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅に達した反射波の有無を検出するコンパレータ群と,からなることを特徴とする超音波探傷装置。 【請求項3】前記超音波送信子として一方向に集束した帯状の超音波ビームを送信するラインフォーカス型超音波センサを用い,前記超音波受信子として短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサを用いることを特徴とする請求項2記載の超音波探傷装置。 【請求項4】被検査板に向けてほぼ垂直に一方向に集束した帯状の超音波ビームを送信するラインフォーカス型超音波センサと,被検査板を挟んで前記ラインフォーカス型超音波センサと対向する位置に配置され短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサと,受信された超音波を増幅する手段と,反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅 ンサと対向する位置に配置され短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサと,受信された超音波を増幅する手段と,反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅に達した反射波の有無を検出するコンパレータ群と,からなる超音波探傷装置において,前記ラインフォーカス型超音波センサと前記1次元超音波アレーセンサとの間の距離LS が,該ラインフォーカス型超音波センサの送信する帯状超音波ビームの水中焦点距離をF,被検査板の板厚をtとしたとき,下記の式を満足することを特徴とする超音波探傷装置。 Ls ≦F-{(Cs /Cw )-1}・t+5.5 (mm)ただし,Cs ;金属板中での超音波の速度,Cw ;水中での超音波の速度【請求項5】前記1次元超音波アレーセンサの超音波振動子の大きさを被検査板の幅方向で1.0 mm以上とすることを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。 【請求項6】前記ラインフォーカス型超音波センサは複数個の超音波振動子を帯状の超音波ビームの幅方向に密接に並べて構成され,1個の超音波振動子の大きさが帯状超音波ビームの幅方向で2.0 ~15.0mmとされることを特徴とする請求項4または5に記載の超音波探傷装置。 4 本件第1訂正後の本件特許の特許請求の範囲(下線部が訂正された箇所である。)【請求項1】被検査板を挟んで超音波送信子と超音波受信子を対向配置し,該超音波送信子から超音波ビームを被検査板に向けてほぼ垂直に送信し,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを超音波受信子により受信し,受信された超音波を増幅 上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを超音波受信子により受信し,受信された超音波を増幅し,反射波のみを抽出した後に所定の振幅に達した反射波の有無を検出することを特徴とする超音波探傷方法。 【請求項2】被検査板に向けてほぼ垂直に超音波ビームを送信する超音波送信子と,被検査板を挟んで前記超音波送信子と対向する位置に配置され,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを受信する超音波受信子と,受信された超音波を増幅する手段と,反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅に達した反射波の有無を検出するコンパレータ群と,からなることを特徴とする超音波探傷装置。 【請求項3】前記超音波送信子として一方向に集束した帯状の超音波ビームを送信するラインフォーカス型超音波センサを用い,前記超音波受信子として短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサを用いることを特徴とする請求項2記載の超音波探傷装置。 【請求項4】前記ラインフォーカス型超音波センサと前記1次元超音波アレーセンサとの間の距離Ls が,該ラインフォーカス型超音波センサの送信する帯状超音波ビームの水中焦点距離をF,被検査板の板厚をtとしたとき,下記の式を満足することを特徴とする請求項3に記載の超音波探傷装置。 Ls ≦F―{(Cs /Cw )―1}・t+5.5 (mm)ただし,Cs ;金属板中での超音波の速度,Cw ;水中での超音波の速度【請求項5】前記1次 超音波探傷装置。 Ls ≦F―{(Cs /Cw )―1}・t+5.5 (mm)ただし,Cs ;金属板中での超音波の速度,Cw ;水中での超音波の速度【請求項5】前記1次元超音波アレーセンサの超音波振動子の大きさを被検査板の幅方向で1.0mm以上とすることを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。 【請求項6】前記ラインフォーカス型超音波センサは複数個の超音波振動子を帯状の超音波ビームの幅方向に密接に並べて構成され,1個の超音波振動子の大きさが帯状超音波ビームの幅方向で2.0~15.0mmとされることを特徴とする請求項4または5に記載の超音波探傷装置。」 5 本件第2訂正後の本件特許の特許請求の範囲(下線部が本件第1訂正前のものと比較した場合の訂正箇所である。請求項1ないし3については,本件第1訂正後のものと比較した場合の訂正箇所でもある。)【請求項1】集束した超音波ビームを送信する超音波送信子と集束型の超音波受信子を薄い被検査板を挟んで対向配置し,該超音波送信子から被検査板に向けてほぼ垂直に送信される集束ビームの焦点が,被検査板の裏面より外の超音波受信子側に位置するようにして,該超音波送信子から集束した超音波ビームを被検査板に向けてほぼ垂直に送信し,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを前記集束型超音波受信子により受信し,受信された超音波を増幅し,ゲートを用いて透過波を除く反射波のみを抽出した後に,所定の振幅に達した反射波の有無を検出することを特徴とする超音波探傷方法。 【請求項2】薄い被検査板に向けてほぼ垂直に集束した超音波ビームを送信す いて透過波を除く反射波のみを抽出した後に,所定の振幅に達した反射波の有無を検出することを特徴とする超音波探傷方法。 【請求項2】薄い被検査板に向けてほぼ垂直に集束した超音波ビームを送信する超音波送信子であって該超音波送信子から被検査板に向けてほぼ垂直に送信される集束ビームの焦点が,被検査板の裏面より外の超音波受信子側に位置するようにした超音波送信子と,被検査板を挟んで前記超音波送信子と対向する位置に配置され,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,さらに,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを受信する超音波受信子と,受信された超音波を増幅する手段と,透過波を除いて反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅に達した反射波の有無を検出するコンパレータ群と,からなることを特徴とする超音波探傷装置。 【請求項3】前記超音波送信子として一方向に集束した帯状の超音波ビームを送信するラインフォーカス型超音波センサを用い,前記超音波受信子として短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサを用いることを特徴とする請求項2記載の超音波探傷装置。 【請求項4】被検査板に向けてほぼ垂直に一方向に集束した帯状の超音波ビームを送信するラインフォーカス型超音波センサと,被検査板を挟んで前記ラインフォーカス型超音波センサと対向する位置に配置され,被検査板に入射した超音波が内部欠陥の上面で反射し,更に,被検査板の表面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを受信するための,短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1 面で再反射した反射波と,被検査板に入射した超音波が被検査板の裏面で反射した後,内部欠陥の下面で再反射した反射波とを受信するための,短冊型の超音波振動子を前記帯状超音波ビームの幅方向に並べてなる1次元超音波アレーセンサと,受信された超音波を増幅する手段と,前記反射波のみを抽出するゲート手段と,所定の振幅に達した反射波の有無を検出するコンパレータ群と,からなる超音波探傷装置であって,前記ラインフォーカス型超音波センサと前記1次元超音波アレーセンサとの間の距離Ls が,該ラインフォーカス型超音波センサの送信する帯状超音波ビームの水中焦点距離をF,被検査板の板厚をtとしたとき,下記の式を満足することを特徴とする超音波探傷装置。 Ls ≦F―{(Cs /Cw )―1}・t+5.5 (mm)ただし,Cs ;金属板中での超音波の速度,Cw ;水中での超音波の速度【請求項5】前記1次元超音波アレーセンサの超音波振動子の大きさを被検査板の幅方向で1.0mm以上とすることを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。 【請求項6】前記ラインフォーカス型超音波センサは複数個の超音波振動子を帯状の超音波ビームの幅方向に密接に並べて構成され,1個の超音波振動子の大きさが帯状超音波ビームの幅方向で2.0~15.0mmとされることを特徴とする請求項4または5に記載の超音波探傷装置。」 6 当裁判所の判断上記当事者間に争いのない事実によれば,本件第2訂正前の本件特許の請求の範囲(本件第1訂正後の特許請求の範囲)請求項1ないし3の記載に基づき,その発明を認定し,これを前提に,特許法29条2項の規定に違反して登録された特許であることを理由に,請求項1ないし3に記載された各発明につき本件特許を取り消した決定の取消しを求め 3の記載に基づき,その発明を認定し,これを前提に,特許法29条2項の規定に違反して登録された特許であることを理由に,請求項1ないし3に記載された各発明につき本件特許を取り消した決定の取消しを求める訴訟の係属中に,当該特許に係る特許請求の範囲(上記請求項1ないし3)についての,決定が判断の対象としたものとの比較における減縮を含む訂正の審判が請求され,特許庁は,これを認める本件訂正審決をし,これが確定したということができる。 決定は,これにより,結果として,判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったことになり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,決定は,取消しを免れない。 7 以上によれば,本訴請求は理由がある。そこで,これを認容し,訴訟費用の負担については,原告に負担させるのを相当と認め,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法62条を適用して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官山下和明 裁判官設樂隆一 裁判官高瀬順久
▼ クリックして全文を表示