本件は、破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術を受けた患者Gが術中に再破裂し死亡した事案に関するもので、Gの遺族が医師の説明義務違反や手技上の注意義務違反を主張し、損害賠償を求めた。主要な争点は、手術中の再破裂に関する説明義務の有無と、動脈瘤の形状や手術の困難さについての説明義務の有無であった。裁判所は、医師がGに対して適切な説明を行っていたと判断し、控訴人らの請求を一部認容しつつも、その他の請求は棄却した。判決は、控訴人A、B、C、D、Eに対する具体的な金額を示し、控訴人らの勝訴部分に限り仮執行を認めた。
主文 1 原判決を次のとおり変更する。 ⑴ 被控訴人は,控訴人Aに対し,1584万3675円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は,控訴人Bに対し,1584万3675円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑶ 被控訴人は,控訴人Cに対し,3223万7351円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑷ 被控訴人は,控訴人Dに対し,165万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑸ 被控訴人は,控訴人Eに対し,165万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑹ 控訴人らのその余の各請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを10分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 3 この判決は,控訴人ら勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨等 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人Aに対し,1750万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人Bに対し,1750万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 被控訴人は,控訴人Cに対し,3600万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 5 被控訴人は,控訴人Dに対し,220万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 6 被控訴 月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 5 被控訴人は,控訴人Dに対し,220万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 6 被控訴人は,控訴人Eに対し,220万円及びこれに対する平成25年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 7 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,破裂脳動脈瘤(以下「本件動脈瘤」という。)に対する血管内治療であるコイル塞栓術(以下「本件手術」という。)を受けたGが,術中の本件動脈瘤の再破裂(以下「本件再破裂」という。)により死亡したことに関し,Gの遺族らが,主治医の説明義務違反又は本件手術に当たった医師らの手技上の注意義務違反を主張し,使用者責任又は診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償として,被控訴人に対し,控訴人A及び控訴人Bにつき各1750万円(Gの逸失利益の相続分である各950万円と固有の損害である各800万円の合計)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年7月1日から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の,控訴人Cにつき3600万円(Gの逸失利益の相続分である1900万円と固有の損害である1700万円の合計)及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の,控訴人D及び控訴人Eにつき各220万円及びこれに対する同日から各支払済みまで上記割合による遅延損害金の,各支払を求めた事案である。 原審は,控訴人らの各請求をいずれも棄却したところ,控訴人らが控訴した。 1 前提事実(証拠掲記のない事実は,争いがない。)当事者等 ア Gは,昭和▲年▲月▲日生まれの女性である。 控訴人CはGの夫であり,控訴人A及び控訴人BはG及び控訴人 た。 1 前提事実(証拠掲記のない事実は,争いがない。)当事者等 ア Gは,昭和▲年▲月▲日生まれの女性である。 控訴人CはGの夫であり,控訴人A及び控訴人BはG及び控訴人Cの子であり,控訴人D及び控訴人EはGの両親である。 イ被控訴人は,広島赤十字・原爆病院(以下「被控訴人病院」という。)を設置し,H医師は,被控訴人病院の脳神経外科に勤務していた。 Gに対する手術の実施Gは,軽度のくも膜下出血と診断され,平成25年6月19日に被控訴人病院の脳神経外科に歩いて入院し,同日,O病院から派遣されたI医師及びJ医師によるカテーテルによる血管内治療(本件手術)を受けた。 Gに対する本件手術の説明は,H医師が行った。 ⑶ Gの死亡Gは,本件手術中,本件動脈瘤が破裂し,くも膜下出血を起こし,脳浮腫が著明で臨床的な脳死と診断され,意識が回復しないまま,平成▲年▲月▲日に死亡した。死亡診断書には,直接死因はくも膜下出血,その原因は動脈瘤破裂と記載されている。 ⑷ 医学的知見アくも膜下出血脳は,軟膜,くも膜,硬膜の3層の膜によって包まれている。軟膜とくも膜に挟まれたくも膜下腔は,髄液によって満たされており,ここに出血の及んだ状態がくも膜下出血であり,大半は頭蓋内に存在する脳動脈瘤の破裂を原因とする。 くも膜下出血が起こると,突如として激しい頭痛が起こる。 イコイル塞栓術破裂脳動脈瘤に対する外科的手術としてよく行われているのが,開頭直達手術による脳動脈瘤頸部クリッピング術(以下「開頭手術」,「クリッピング術」,「開頭クリッピング術」ということもある。)と血管内手術 であるコイル塞栓術である。そのうち,コイル塞栓術は,主に鼠径部の大腿動脈からマイクロカテーテルを挿入して動脈瘤内腔まで進め ング術」,「開頭クリッピング術」ということもある。)と血管内手術 であるコイル塞栓術である。そのうち,コイル塞栓術は,主に鼠径部の大腿動脈からマイクロカテーテルを挿入して動脈瘤内腔まで進め,瘤内を複数のコイルでなるべく密に充填して塞栓する治療法である。(甲B2)脳動脈瘤のコイル塞栓術では,動脈瘤のサイズに応じてまず大きく長いコイルで外枠を形成し(この外枠を「フレーム」といい,この外枠形成を「フレーミング」といい,フレーミングに用いるコイルを「フレーミングコイル」という。),引き続きフレームの内側にコイルを充填していき(この充填を「フィリング」といい,フィリングに用いるコイルを「フィリングコイル」という。),最後にネック近傍に残っている部分を塞栓する(フィニッシングコイル)のが一般的である(甲B32の1)。 フィニッシングコイルまで充填しても,動脈瘤体積のうちコイルが占める割合は30ないし40%であるが,これにより動脈瘤内部の血栓化を促し,破裂を防止することができる(甲B34)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件動脈瘤の術中破裂があった場合に開頭手術では救命することができないことについての説明義務違反の有無(争点1)。 (控訴人ら)本件動脈瘤の術中破裂があった場合,開頭手術の開始までに最低2時間を要するため,開頭手術では救命することができなかったのであるから,H医師には,Gに対し,本件動脈瘤の術中破裂があった場合,開頭手術では救命することができないことを説明すべき義務があった。 しかるに,H医師は,Gに対し,「7.合併症…①術中破裂 …破裂した場合に出血が止められなくなり急いで開頭手術をしなければならない場合や,手術すらできない場合もあります。最悪の場合はなくなられます。」と記載された「破裂脳動脈瘤 7.合併症…①術中破裂 …破裂した場合に出血が止められなくなり急いで開頭手術をしなければならない場合や,手術すらできない場合もあります。最悪の場合はなくなられます。」と記載された「破裂脳動脈瘤血管内手術の説明」と題する書面(以下「本件手術説明書面」という。甲A5,乙A1の132~137頁)を用い,本件 動脈瘤の術中破裂があった場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができる旨を説明し,上記の説明義務を怠った。 そして,H医師が上記説明義務を尽くしていれば,Gはコイル塞栓術を選択しておらず,本件再破裂が起こってGが死亡することもなかったから,上記説明義務の違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)H医師は,Gに対し,本件動脈瘤の術中破裂があった場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができる旨の説明をしていない。 H医師が説明の際に想定していた開頭手術は,本件動脈瘤の術中破裂後,コイル塞栓をすることができず直ちに出血を止めることができなかったときに,継続的な出血により頭蓋内に大きな血塊ができ,血塊により脳圧が急激に上昇し,血塊の摘出が必要となった場合に実施される開頭手術であったところ,H医師は,Gに対し,コイル塞栓術により出血が止められなかった場合,その後,開頭手術を実施することがある旨の説明をしたものであり,その説明に不適切なところはなかった。 ⑵ 本件動脈瘤の形状・存在部位及びそれに伴う手術の困難さについての説明義務違反の有無(争点2)(控訴人ら)ア本件動脈瘤は二つの葉状の構成成分を有するものであり,本件動脈瘤に対するコイル塞栓術はダブルカテーテル(2本のカテーテルからそれぞれコイルを挿入することができるカテーテル)を用いなければ ら)ア本件動脈瘤は二つの葉状の構成成分を有するものであり,本件動脈瘤に対するコイル塞栓術はダブルカテーテル(2本のカテーテルからそれぞれコイルを挿入することができるカテーテル)を用いなければならないほど難しいものであったから,H医師には,Gに対し,クリッピング術との比較検討をすることができる程度に,本件動脈瘤について,二つの葉状の構成成分を有するものであり,上記のようにコイル塞栓術が難しいものであ ることを説明すべき義務があった。 しかるに,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤について,二つの葉状の構成成分を有するものであることも,上記のようにコイル塞栓術が難しいものであることも説明せず,上記の説明義務を怠った。 そして,H医師が上記説明義務を尽くしていれば,Gはコイル塞栓術を選択しておらず,本件再破裂が起こってGが死亡することもなかったから,上記説明義務の違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 イ本件動脈瘤は前交通動脈に存在していたところ,前交通動脈は,母血管径が細く,カテーテルの誘導も困難で,容易に血栓症等が生じ得るなど,最もコイル塞栓術の困難な部位の一つであり,前交通動脈に存在する脳動脈瘤については,コイル塞栓術ではなく,クリッピング術を優先すべきであるとの文献もあったから,H医師には,Gに対し,クリッピング術との比較検討をすることができる程度に,本件動脈瘤が存在する前交通動脈について,コイル塞栓術の困難な部位の一つであることを説明すべき義務があった。 しかるに,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤が前交通動脈に存在することを伝えたにとどまり,前交通動脈がコイル塞栓術の困難な部位であることを説明せず,上記の説明義務を怠った。 そして,H医師が上記説明義務を尽くしていれば,Gはコイル塞栓術を選択しておらず,本件 ことを伝えたにとどまり,前交通動脈がコイル塞栓術の困難な部位であることを説明せず,上記の説明義務を怠った。 そして,H医師が上記説明義務を尽くしていれば,Gはコイル塞栓術を選択しておらず,本件再破裂が起こってGが死亡することもなかったから,上記説明義務の違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)ア控訴人らの主張アについて本件手術説明書面には本件動脈瘤の画像が貼付されており,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有することを説明している。 コイル塞栓術は,実際にコイルを脳動脈瘤に挿入してみるまで難易は分からないものであって,ダブルカテーテルを用いるから難しいというものではないから,H医師には,Gに対し,ダブルカテーテルを用いるなどといった手技の詳細や難易度を説明する義務はなかった。 H医師は,Gに対し,本件動脈瘤の大きさ,形状,部位から考えて,コイル塞栓術が比較的安全であり,脳血管攣縮を合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高く,コイル塞栓術が第1選択である旨を説明して,コイル塞栓術とクリッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかった。 イ控訴人らの主張イについて前記アのとおり,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤の大きさ,形状,部位から考えて,コイル塞栓術が比較的安全であり,脳血管攣縮を合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高く,コイル塞栓術が第1選択である旨を説明して,コイル塞栓術とクリッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかった。 ⑶ フレーミングについての注意義務違反の有無(争点3)(控訴人ら)ア当時の医療 ッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかった。 ⑶ フレーミングについての注意義務違反の有無(争点3)(控訴人ら)ア当時の医療水準フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり瘤を破ったりすることのないよう瘤内にフレーム(ケージ,枠組み)を形成する工程であるところ,脳動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有する場合,一方の構成成分にカテーテルを挿入してコイルを挿入すると,一方の構成成分ばかりにコイルが挿入され,他方の構成成分がコンパートメント(部分的に不十分な塞栓が生じた区画)として残り,瘤内の血流が完全に消えないこと が懸念されることから,ダブルカテーテルを用いて,各カテーテルを各構成成分に挿入し,また,コイルとしてTrufillOrbitGalaxy を選択するのであれば,各構成成分の長径と同じ二次コイル径(ループを描くコイルの当該ループ径)の長いコイルを選択し,各カテーテルから各構成成分の全体にバランスよくコイルを行き渡らせ,各構成成分の形状にフィットした,幾つかのコイルループがネック部分を横切る,コンパートメントやコイルの偏りのない,ネック部分までカバーした立体的なフレームを形成することで瘤内に脆弱部分を作らないようにするのが当時の医療水準であった。 イ I医師の注意義務違反の有無本件手術で1番目に挿入されたコイル(以下,本件手術に使用されたコイルを挿入順に「コイル1」などという。)で形成されたフレームが立体的なものであったか。 aI医師は,本件動脈瘤の左側構成成分(以下「本件左側構成成分」という。)を塞栓するために先端を45度程度曲げたマイクロカテーテル(以下「カテーテル2」という。なお,カテーテル1については,後記第3の1⑶ は,本件動脈瘤の左側構成成分(以下「本件左側構成成分」という。)を塞栓するために先端を45度程度曲げたマイクロカテーテル(以下「カテーテル2」という。なお,カテーテル1については,後記第3の1⑶イ参照。)を用いてコイル1を本件左側構成成分に挿入することにより本件左側構成成分のフレームを形成することを試みたものの,コイル1の一部が本件動脈瘤の右側構成成分(以下「本件右側構成成分」という。)に逸出し,やむを得ず本件右側構成成分のフレームも形成したことから,コイル1で不十分な8字状すなわちドーナッツ状の二次元的なフレームしか形成することができなかった。 コイル1の挿入後のDSA(脳血管撮影)の画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示しているのは,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左である。 b 被控訴人は,I医師はカテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図したと反論するの第1段落)。しかし,①本件左側構成成分と本件右側構成成分の短径(幅)合計は5. 66㎜であるから,本件動脈瘤全体のフレームを形成する場合には二次コイル径5.6㎜程度のコイルを選択するはずであるのに,I医師はコイル1として二次コイル径3.5㎜のものを選択していること,②J医師が,コイル2を追加して挿入し,本件右側構成成分のフレームを形成していること,③フレーミングコイルの長さは,動脈瘤の体積を考慮して選択するものであるところ,本件右側構成成分のフレームの形成のために追加して挿入されたコイル2の長さが4㎝であったのに対し,コイル1の長さは5㎝と短かいものであったこと,④1本のコイルで二つの構成成分を有する動脈瘤全体にフレームを形成する手法は,厳密 形成のために追加して挿入されたコイル2の長さが4㎝であったのに対し,コイル1の長さは5㎝と短かいものであったこと,④1本のコイルで二つの構成成分を有する動脈瘤全体にフレームを形成する手法は,厳密には2Dであるが,瘤内で間隙のある方向にループを描いて巻いていくユニークな特徴(スイッチバック式)を持ち,3Dタイプ同様のフレーミングを期待することができるMicroplexcomplexを用いるものであるが,I医師がコイル1として選択したTrufillOrbitGalaxy は,外側から中心に向けてスペースを埋め,高い塞栓率を得やすい特徴を有するものであって,多房性や複雑な形状に適合するコイルではなかったことに照らすと,被控訴人の上記の反論は失当である。 被控訴人は,フレームは瘤壁に沿って形成されるものであり,瘤内に造影剤が流入するスペースがあることから,画像上,フレームがリング状に写ることがあるのであって,前記aのDSAの画像が二つのリング状の形状を示していることについて,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左には ならないとも反論し,乙B28の2枚目のFig.4 の左側の画像を引用する。しかし,上記画像は,フレーミング初期の画像であって,フレームミング完了時である乙B28の2枚目のFig.4 の右側の画像では,造影剤の流入は見えるものの,リング状の形状は示していないのであるから,被控訴人の上記の反論も失当である。 コイル1で形成されたフレームが本件左側構成成分のネック部分までカバーするものであったか。 aI医師は,本件左側構成成分の長径(高さ)が4.09㎜,本件右側構成成分の長径(高さ)が4.35㎜であったのに,コイル1として,外側から中心に向けてスペースを埋める カバーするものであったか。 aI医師は,本件左側構成成分の長径(高さ)が4.09㎜,本件右側構成成分の長径(高さ)が4.35㎜であったのに,コイル1として,外側から中心に向けてスペースを埋める特徴を有し,外側に広がっていく特徴を有していないTrufillOrbitGalaxy の二次コイル径3.5㎜のものを選択したことから,本件左側構成成分のネック部分までカバーしたフレームを形成することができなかった。 画像(甲A13)上,本件再破裂の時点で,上記部分にフレームが形成されていることを認めることができず,コイル6から9までの各コイルの挿入により上記部分が大きく膨らんでいるのは,コイル1で上記部分までカバーしたフレームを形成することができておらず,上記部分の瘤壁とフレームとの間に上記各コイルを挿入することができるほどの隙間があったことの証左である。 b 被控訴人は,TrufillOrbitGalaxy について,外側に広がっていく特徴を有しているコイルであるから,二次コイル径3.5㎜のものであっても,本件左側構成成分のネック部分までカバーしたフレームを形成することはできたかのように反論する⒜)。しかし,TrufillOrbitGalaxy は外側から中心に向けてスペースを埋める特徴を有するものであって,外側に広がっていく特徴を有 していないから,被控訴人の上記の反論は失当である。 小括の各aのとおり,I医師は,本件左側構成成分のネック部分までカバーする立体的なフレームを形成することができなかったところ,これは前記アの医療水準にもとるものであるから,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があった。 ウ Gの死亡との間の因果関係注意義務違反がなければ,本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿 前記アの医療水準にもとるものであるから,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があった。 ウ Gの死亡との間の因果関係注意義務違反がなければ,本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔したり,又は,カテーテル等の動きで血流の変化が生じて脆弱な上記部分が破裂したりすることで,本件再破裂が起こることはなく,Gが死亡することもなかったから,上記注意義務違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)ア控訴人らの主張ア(当時の医療水準)についてフレーミングは,フィリングコイルをフレーム内に留め,母血管への逸脱を防止したり,重要血管を温存したりするためのものであるところ,いかに適切なフレームを形成しても,瘤内を隙間なく覆うことはできないから,不規則に動くフィリングコイルがフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することを防ぐことはできない。実際の臨床現場では,不整形な脳動脈瘤が多く,フレームと瘤壁との間に隙間ができ,フィリングコイルがフレームの外側にも出て上記隙間を埋めることも想定されているから,フィリングコイルが脳動脈瘤を穿孔したこととフレームの形成の適否とは関係しない。フレーミングについて,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり瘤を破ったりすることのないようにする目的があると指摘する控訴人ら引用の文献(甲B35)は,医療機器メーカーの製品紹介資料にすぎず,また,脳動脈瘤の形状等によってはフレームの形成の必要がないとする文献 (乙B30の81頁)の記載とも整合せず,信用することができない。 イ控訴人らの主張イ(I医師の注意義務違反の有無)について (コイル1で形成されたフレームが立体的なものであったか。)についてaI医師は,カテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件 I医師の注意義務違反の有無)について (コイル1で形成されたフレームが立体的なものであったか。)についてaI医師は,カテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図したところ,コイル1で形成されたフレームは,立体的なものであり,ドーナッツ状の二次元的なものにはなっていなかった。 コイル1の挿入後のDSAの正面画像(乙A4の7)において,コイルが本件動脈瘤を網目状に覆っているように見えるのは,コイル1で形成されたフレームが,立体的なものであり,ドーナッツ状の二次元的なものになっていなかったことの証左である。 b⒜ 控訴人らは,I医師においては,カテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図したものではなくb),カテーテル2を用いてコイル1を本件左側構成成分に挿入することにより本件左側構成成分のフレームを形成することを試みたものである(同aの第1段落)と主張する。しかし,①本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図する場合であっても,本件左側構成成分及び本件右側構成成分の大きさからすると,二次コイル径5.6㎜程度のコイルを選択することは,コイルが母血管に飛び出してしまう可能性が高く不適切であるから,I医師がコイル1として二次コイル径3.5㎜のものを選択したことは,I医師がコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図していたことを否定する理由にはならないこと,②1本目のコイルでフレームを形成することができなけれ ば,2本目のコイルを追加して挿入し,フレームを形成するのは通常の治療戦略であるから,J医師が,コイル2を追加して挿入し,本件右側構成成 本目のコイルでフレームを形成することができなけれ ば,2本目のコイルを追加して挿入し,フレームを形成するのは通常の治療戦略であるから,J医師が,コイル2を追加して挿入し,本件右側構成成分のフレームを形成していることも,I医師がコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図していたことを否定する理由にはならないこと,③TrufillOrbitGalaxy は,不整形の動脈瘤にも適切にフレームを形成することができるものであるから,コイル1として,Microplexcomplex ではなく,TrufillOrbitGalaxy を選択したことも,I医師がコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図していたことを否定する理由にはならないことに照らすと,控訴人らの上記の主張は失当である。 ⒝ 控訴人らは,コイル1の挿入後のDSAの画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることについて,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左であると主張する。しかし,フレームは瘤壁に沿って形成されるものであり,瘤内に造影剤が流入するスペースがあることから,画像上,フレームがリング状に写ることがある(乙B28の2枚目のFig.4 の左側の画像。なお,被控訴人は,令和2年11月19日の進行協議期日において,被控訴人が当審第10準備書面2頁2項で引用する乙B28について,上記画像のことであると特定した。)のであって,上記のDSAの画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることは,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左にはならない。 成成分 ,上記のDSAの画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることは,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左にはならない。 成成分のネック部分までカバーするものであったか。)についてaI医師は,①コイル1として,不整形の本件動脈瘤に対応することができるTrufillOrbitGalaxy を選択し,②本件右側構成成分が短径(幅)2.24㎜・長径(高さ)4.35㎜であってその中間が3ないし3.5㎜であり,本件左側構成成分が短径(幅)3.42㎜・長径(高さ)4.09㎜であってその中間が3.5㎜であるところ,長径のみを考慮することは,短径を超えて母血管にコイルが飛び出す可能性があり,適切でないことから,二次コイル径は3.5㎜が適切であると判断し,③長いコイルが一方の構成成分のみに入ってしまった場合には,破裂の危険を増大させる巻き直しが必要になることから,5㎝と7㎝という二つの長さの選択肢がある中で5㎝のものが適切であると判断したものであり,I医師のコイル1の選択は適切であった。 b⒜ 控訴人らは,TrufillOrbitGalaxy について,外側から中心に向けてスペースを埋める特徴を有し,外側に広がっていく特徴を有していないと主張する。しかし,いったん外側に広がらなければ,外側から中心に向けてスペースを埋めることは不可能であって,TrufillOrbitGalaxy は外側に広がっていく特徴を有しているから,控訴人らの上記の主張は失当である。 ⒝ 控訴人らは,画像(甲A13)上,本件再破裂後,コイル6から9までの各コイルの挿入により本件左側構成成分のネック部分が大きく膨らんでいることについて,コイル1で上記部分までカバーしたフレームを形成すること は,画像(甲A13)上,本件再破裂後,コイル6から9までの各コイルの挿入により本件左側構成成分のネック部分が大きく膨らんでいることについて,コイル1で上記部分までカバーしたフレームを形成することができておらず,上記部分の瘤壁とフレームとの間に上記各コイルを挿入することができるほどの隙間があったことの証左であると主張する 落)。しかし,上記各コイルの挿入により上記部分が大きく膨らんでいるのは,本件再破裂を来した上記部分にコイルを十分挿入したことで,コイルがフレームの隙間を超えて広がったか,又はフレーム自体が膨らんだ(甲B34の5頁の図11の写真,乙B30の82頁の「いかに強固なフレームでも後から入れるコイルによって多少なりとも広がってくる」との記載,乙B31添付の写真各参照)ためであり,密に塞栓できたことの証左であって,コイル1で上記部分までカバーするフレームを形成することができていなかったことを意味するものではないから,控訴人らの上記の主張も失当である。 小括I医師はコイル1で立体的なフレームを形成し,I医師のコイル1の選択も適切であったから,I医師にはフレーミングについての注意義務違反はなかった。 ウまとめ本件再破裂は,コイル5が本件動脈瘤を穿孔したことにより生じたと考えられるところ,前記アのとおり,フィリングコイルがフレームの隙間から動脈瘤を穿孔することを防ぐことはできないのであるから,コイル5が本件動脈瘤を穿孔したこととI医師がコイル1で形成したフレームの適否とは関係しないし,また,その点を措くとしても,上記イのとおり,I医師にはフレーミングについての注意義務違反はなかった。 ⑷ コイル5の二次コイル径・長さの選択についての注意義務違反の有無(争点4)(控訴人ら)フレーミングに当たって 上記イのとおり,I医師にはフレーミングについての注意義務違反はなかった。 ⑷ コイル5の二次コイル径・長さの選択についての注意義務違反の有無(争点4)(控訴人ら)フレーミングに当たっては,二次コイル径が大きく,長いコイルを選択すべきであるが,フィリングに当たっては,コイルの二次コイル径が大き過ぎ たり,コイルが長過ぎたりすると,コイルが脳動脈瘤から逸脱したり,脳動脈瘤が破裂したりする危険があることから,徐々に用いるコイルの二次コイル径・長さをサイズダウンするのが当時の医療水準であった。 しかるに,I医師及びJ医師は,フレーミングに当たって,二次コイル径3.5㎜・長さ5㎝のコイル1を選択し,本件左側構成成分のフィリングに当たって,二次コイル径2.5㎜・長さ3.5㎝のコイル3を,二次コイル径2.5㎜・長さ2.5㎝のコイル4を,それぞれ選択したのに,本件右側構成成分のフィリングに当たって,コイル3,4よりも二次コイル径が大きく,長い二次コイル径3㎜・長さ4㎝のコイル5を選択したところ,これは上記医療水準にもとるから,I医師及びJ医師にはコイル5の二次コイル径・長さの選択についての注意義務違反があった。 そして,上記注意義務違反がなければ,フレームの形成が不十分であった本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔したり,又は,カテーテル等の動きで血流の変化が生じて脆弱な上記部分が破裂したりすることで,本件再破裂が起こることはなく,Gが死亡することもなかったから,上記注意義務違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)フィリングに当たっては,コンパートメントを形成しないように安易にコイルをサイズダウンすべきではなく,2本連続で同じサイズのコイルを選択する例もあるのであって,透視画像から得られる情報と術 訴人)フィリングに当たっては,コンパートメントを形成しないように安易にコイルをサイズダウンすべきではなく,2本連続で同じサイズのコイルを選択する例もあるのであって,透視画像から得られる情報と術者の感覚を頼りに最大限のコイルを脳動脈瘤内に充填するという考え方が基本である。 この点,本件右側構成成分には二次コイル径3㎜・長さ4㎝のコイル2が挿入されていたところ,I医師及びJ医師は,①コイル5として,非常に柔軟でスペースを探してコンパクトに折りたたむ性質を有するTrufillOrbitGalaxy を選択し,②コイル4の挿入後の画像で,本件右側構成成分に造影剤の流入が認められ,未だスペースが残っていたことから,二次コイル径3 ㎜が適切であると判断し,③コイル2の挿入時にほとんど抵抗もなく,更に挿入することができると考えられたことから,本件動脈瘤が破裂動脈瘤であることも考慮して,4㎝と6㎝という二つの長さの選択肢がある中で4㎝のものが適切であると判断したものであり,I医師及びJ医師のコイル5の選択は適切であった。 なお,血流の変化が生じて脆弱な本件左側構成成分のネック部分が破裂して本件再破裂が起こったというのは推測にすぎず,根拠がない。 ⑸ カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔し,カテーテル2又はコイル5を抜去したことについての注意義務違反の有無(争点5)(控訴人ら)I医師及びJ医師は,コイル5の挿入時に,誤って,カテーテル2を動かしてその先端で本件左側構成成分のネック部分を穿孔し,又は,フレームの形成が不十分であった上記部分をコイル5で穿孔したところ,このような場合には,慌ててカテーテル2又はコイル5を抜去することなく,瘤外でコイルを巻いてから瘤内の塞栓をするのが当時の医療水準であった。 しかるに,I医師 た上記部分をコイル5で穿孔したところ,このような場合には,慌ててカテーテル2又はコイル5を抜去することなく,瘤外でコイルを巻いてから瘤内の塞栓をするのが当時の医療水準であった。 しかるに,I医師及びJ医師は,瘤外でコイルを巻くことなく,慌ててカテーテル2又はコイル5を抜去したところ,これは上記医療水準にもとるから,I医師及びJ医師にはカテーテル2又はコイル5を抜去した注意義務違反があった。I医師及びJ医師が,本件再破裂後,本件動脈瘤の瘤外でコイルを巻いていないのは,I医師及びJ医師が慌ててカテーテル2又はコイル5を抜去したことの証左である。 そして,上記注意義務違反がなければ,Gが死亡することはなかったから,上記注意義務違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)カテーテル2はコイル5の挿入時に使用していないところ,ダブルカテーテルの使用しない側のカテーテルはコネクターで固定されており安易に動か ないから,カテーテル2が本件左側構成成分のネック部分を穿孔したとは考え難く,コイル5が上記部分を穿孔した可能性が高い。 しかし,I医師及びJ医師が慌ててコイル5を抜去したことはなく,I医師及びJ医師には慌ててコイル5を抜去した注意義務違反はなかった。 控訴人らは,I医師及びJ医師が,本件再破裂後,本件動脈瘤の瘤外でコイルを巻いていないことについて,I医師及びJ医師が慌ててコイル5を抜去したことの証左であると主張するが,コイルが動脈瘤を穿孔した場合に,画像上,瘤外に逸脱したコイルを必ず確認することができるわけではなく,控訴人らの上記の主張は前提を誤っている。仮にコイル5による穿孔が本件動脈瘤を突き抜けるものであったとすれば,穿孔部位からコイルが流出する可能性があり,当該部位に密にコイルを挿入することができないと 控訴人らの上記の主張は前提を誤っている。仮にコイル5による穿孔が本件動脈瘤を突き抜けるものであったとすれば,穿孔部位からコイルが流出する可能性があり,当該部位に密にコイルを挿入することができないところ,本件再破裂のあった本件左側構成成分のネック部分にはコイル6から9までの各コイルを密に挿入することができたのであるから,コイル5による穿孔は本件動脈瘤を突き抜けるものではなかったというべきである。 ⑹ カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔したことを見落としたことについての注意義務違反の有無(争点6)(控訴人ら)カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔した場合には,穿孔の事実を見落とさない注意義務があったのに,I医師及びJ医師は,上記事実を見落とした。 I医師及びJ医師が,画像上,上記事実を確認することができていないのは,I医師及びJ医師が上記事実を見落としたことの証左である。 そして,上記注意義務の違反がなければ,Gが死亡することはなかったから,上記注意義務の違反とGの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人)I医師及びJ医師が,カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔した ことを見落としたことはなかった。 控訴人らは,I医師及びJ医師が,画像上,カテーテル2又はコイル5が本件動脈瘤を穿孔した事実を確認することができていないのは,I医師及びJ医師が上記事実を見落としたことの証左であると主張するが,コイル等が動脈瘤を穿孔した場合に,画像上,瘤外に逸脱したコイル等を必ず確認することができるわけではなく,控訴人らの上記の主張は前提を誤っている。 ⑺ 控訴人らが被った損害(争点7)(控訴人ら)ア Gが被った損害 3800万円Gは死亡時41歳の主婦であったところ,同 らの上記の主張は前提を誤っている。 ⑺ 控訴人らが被った損害(争点7)(控訴人ら)ア Gが被った損害 3800万円Gは死亡時41歳の主婦であったところ,同年齢の女性の平均年収である381万5100円を基礎収入,就労可能年数を67歳までの26年(年5%の割合によるライプニッツ係数は14.375である。),生活費控除率を30%として計算すると,Gの逸失利益は3800万円を下るものではなく,控訴人A及び控訴人Bがそのうち各950万円を,また,控訴人Cがそのうち1900万円を,それぞれ相続した。 イ控訴人Aが被った損害控訴人A固有の慰謝料 600万円弁護士費用 200万円合計 800万円ウ控訴人Bが被った損害控訴人B固有の慰謝料 600万円弁護士費用 200万円合計 800万円エ控訴人Cが被った損害控訴人C固有の慰謝料 1100万円葬祭費用 200万円 弁護士費用 400万円合計 1700万円オ控訴人Dが被った損害控訴人D固有の慰謝料 200万円弁護士費用 20万円合計 220万円カ控訴人Eが被った損害控訴人E固有の慰謝料 費用 20万円合計 220万円カ控訴人Eが被った損害控訴人E固有の慰謝料 200万円弁護士費用 20万円合計 220万円(被控訴人)控訴人らの主張は不知ないし否認する。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲A1,2,乙A5,6,8,証人H医師,証人I医師,証人J医師,控訴人D)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。 被控訴人病院の受診に至る経緯ア Gは,平成25年6月17日午後8時頃,突発的な頭痛に襲われて嘔吐したことから,同月18日,N内科クリニックを受診したところ,上記クリニックのK医師は,高血圧・頭痛と認めたが,念のため,同月19日,土谷総合病院の医師に対し,Gの頭部CT検査を依頼した。 イ Gが,平成25年6月19日,土谷総合病院において頭部CT検査を受けたところ,上記病院のL医師が,くも膜下出血が考えられると診断したことから,N内科クリニックのK医師は,同日,くも膜下出血の疑いがあるとして,被控訴人病院の脳神経外科のH医師に対し,Gを紹介し,Gの 精査を依頼した。 (⑴につき,甲A6,7,乙A1)⑵ 被控訴人病院における本件手術までの経緯ア Gは,平成25年6月19日,被控訴人病院の脳神経外科を受診したところ,同日午後5時頃実施の頭部CT検査の結果,破裂脳動脈瘤を原因とするくも膜下出血と疑われ,同日,被控訴人との間で,診療契約を締結し,被控訴人病院に緊急入院した。 イ平成25年6月19日午後6時頃実施の頭部CT血管造影検査の結果, の結果,破裂脳動脈瘤を原因とするくも膜下出血と疑われ,同日,被控訴人との間で,診療契約を締結し,被控訴人病院に緊急入院した。 イ平成25年6月19日午後6時頃実施の頭部CT血管造影検査の結果,Gには,前交通動脈に二つの葉状の構成成分を有する6㎜大の破裂脳動脈瘤(本件動脈瘤)が存在することが確認された。本件右側構成成分は,短径(幅)2.24㎜,長径(高さ)4.35㎜であり,また,本件左側構成成分は,短径(幅)3.42㎜・長径(高さ)4.09㎜であった。 (乙A1,15)ウ H医師は,平成25年6月19日午後6時頃,O病院の脳神経外科に勤務していたI医師に対し,CTの画像(乙A1の109頁)を送信し,本件動脈瘤に対する治療として,クリッピング術とコイル塞栓術のいずれがよいかを電話で相談した。 I医師は,上記画像に基づき,本件動脈瘤が前交通動脈に存在すること,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有すること,Gに脳血管攣縮があることなどを確認した。 H医師とI医師は,脳血管攣縮を合併している場合にクリッピング術を施すと脳梗塞に至ることが多いこと,全身麻酔の要否,本件動脈瘤の大きさ,形状,部位などを考慮し,コイル塞栓術を第1選択と考えた。 (ウにつき,甲A5,乙A1,証人I医師,証人H医師)エ H医師は,平成25年6月19日午後7時頃,G,控訴人C,控訴人D及び控訴人Eに対し,同日付けの「くも膜下出血病状説明」と題する書面 (以下「本件病状説明書面」という。甲A4,乙A1の129~131頁)及び本件手術説明書面を示して説明を行った。 本件病状説明書面には,次のとおり記載されている。 「1.病名:くも膜下出血多くは脳動脈瘤が,ある日突然破裂し,くも膜と脳の間に出血を生じる病気で社会復帰できるのは,全体の35-40%と 。 本件病状説明書面には,次のとおり記載されている。 「1.病名:くも膜下出血多くは脳動脈瘤が,ある日突然破裂し,くも膜と脳の間に出血を生じる病気で社会復帰できるのは,全体の35-40%といわれている,非常に恐ろしい病気です。…2.状態現在,仮に出血が止まっている状態ですが,いつ再出血(再破裂)をおこすかわからない非常に危険な状態です。再出血をきたすと致命的(死に至る状態)となる可能性が強いといわれています。発症日の再破裂率は4-16%と報告に差がありますが,2週間以内では約20% 6ヶ月以内では50%と考えられています。 3.検査(省略)4.治療動脈瘤が発見された場合,全身状態がよければ,再出血の予防目的で治療が必要と考えられます。治療方法として現在以下の方法があります。 a.開頭クリッピング術開頭を行い脳のすき間から動脈瘤を露出し,動脈瘤に対してクリップを行う方法。 b.血管内手術(血管内から動脈瘤にコイルをつめる方法)カテーテルを動脈の中に挿入し,動脈瘤付近まで誘導しコイルを動脈瘤に詰めたり,動脈自体を詰めたりする方法。 手術は再出血予防を目的としており,出血した血腫(血の固まり) を除去するのを主目的とするものではありません。また術中破裂や急激な脳腫脹(脳の腫れ),予期せぬ合併症で,致命的となる可能性もあります。 開頭手術を行っても,血管内手術を行っても手術の危険性はあります。(以下省略) 」本件手術説明書面には次のとおり記載されている。 「1.病名くも膜下出血原因破裂脳動脈瘤(部位:前交通動脈大きさ:5㎜)2.病状脳動脈瘤が破裂したためくも膜下出血を生じ,急激に脳圧が上昇し,軽度の場合は頭痛のみ,さらに重症な場合 「1.病名くも膜下出血原因破裂脳動脈瘤(部位:前交通動脈大きさ:5㎜)2.病状脳動脈瘤が破裂したためくも膜下出血を生じ,急激に脳圧が上昇し,軽度の場合は頭痛のみ,さらに重症な場合意識障害,呼吸障害を呈します。 2日前の午後8時頃の急な頭痛の時が発症の時間と考えます。…3.診断(省略)4.放置した場合…動脈瘤の壁は非常に薄く破れやすいため動脈瘤によるくも膜下出血であれば,一旦出血が止まっていても再出血の可能性が非常に高いといわれています。破裂した場合,約1/3の方は死亡,1/3の方は障害を残し,残り1/3の方のみ社会または家庭復帰が可能となります。 5.治療治療の目的は脳動脈瘤が破裂し出血するのを防止することです。現在,治療法は大きく二つの方法に分けられます。 ・開頭による脳動脈瘤のクリッピング術:全身麻酔のもとで開頭し,脳動脈瘤の頚部に金属のクリップをかけ(脳動脈瘤クリッピング術)再破裂を予防します。 ・血管内手術法による脳動脈瘤の塞栓治療:主に局所麻酔で血管の中に管を通して脳動脈瘤の中を詰める(塞栓する)ことにより再破裂を予防します。 どちらの方法においても手術中に破裂が生じれば生命にかかわる重篤なこととなります。生命や意識,四肢の麻痺,言葉など極めて重要なことにかかわる病気であり,その治療が故に,当院ではより安全と考える方法考え,選択しています。いずれの治療の場合も生命にかかわることや…重篤な後遺症が残る…可能性は5-10%程度です。 全身麻酔に対する影響や動脈瘤の大きさ,形,部位を考慮し,血管内手術が比較的安全と考えお話させていただきます。 今回はまた脳血管攣縮を合併しており,開頭による梗塞の合併率の可能性が高いと判断,血管内治療を選択しました。 6.手術方法 部位を考慮し,血管内手術が比較的安全と考えお話させていただきます。 今回はまた脳血管攣縮を合併しており,開頭による梗塞の合併率の可能性が高いと判断,血管内治療を選択しました。 6.手術方法① 目的治療の目的は脳動脈瘤が破裂し出血するのを防止することです。 ② 方法血管内手術法による脳動脈瘤の塞栓治療通常は右鼠頸部に局所麻酔を行い右大腿動脈を穿刺します。血液中に抗凝固剤を投与し血管内で血液が固まらないようにした後,これよりカテーテルを大動脈の中を通り(頸動脈/椎骨動脈)を経由して動脈瘤にいれます。この操作に苦痛は伴いません。ここで動脈瘤と周囲の血管との関係を完全に把握するために血管撮影を繰り返します。これは大事な血管を詰めることなく動脈瘤だけを閉塞させるために必要な情報を得るためです。動脈瘤の塞栓は金属コイルで行います。径の大きいコイルから小さいものへ順番に詰めていきます。動脈瘤の中をコイルで充満し中に血流が入ってこなくなれば終了です。 7.合併症手術ですから必ずしも安全ではありません。永続的合併症が起こる可能性も考えられます。合併症によって,構語障害,失語症,重度の片麻痺や植物状態に至ることもあります。最悪の場合には死に至る事もあります。 ① 術中破裂最も重篤な状態は,手術中に動脈瘤が破裂することです。動脈瘤は出血しやすく,治療中,治療後に破裂した場合に出血が止められなくなり急いで開頭手術をしなくてはならない場合や,手術すらできない場合もあります。最悪の場合はなくなられます。 (中略)⑨ 手術侵襲が拡大する可能性について術中出血が生じ出血が止まらないときや急性脳腫脹が強い場合,非機能部分の脳を切除や頭蓋骨をはずす外減圧を施行することがあります。 (以下省略) 襲が拡大する可能性について術中出血が生じ出血が止まらないときや急性脳腫脹が強い場合,非機能部分の脳を切除や頭蓋骨をはずす外減圧を施行することがあります。 (以下省略) 」オ G及び控訴人Cは,上記エの説明を受け,本件手術について,担当医から説明を受け十分理解したので同意する旨が記載された説明/同意書に署名をした。(乙A1の138頁)本件手術の経緯ア O病院の脳神経外科に勤務していたI医師及びJ医師は,主治医であるH医師の要請を受け,被控訴人病院に赴き,平成25年6月19日午後8時40分頃,被控訴人病院において,Gに局所麻酔を施して,本件手術を開始した。(乙A1の12頁)イ I医師及びJ医師は,ダブルカテーテルを用いることとし,右大腿部に穿刺し,右内頚動脈から前大脳動脈を経由させて,本件右側構成成分を塞 栓するために先端を90度程度曲げたマイクロカテーテル(以下「カテーテル1」という。)と本件左側構成成分を塞栓するために先端を45度程度曲げたカテーテル2を本件動脈瘤のうち本件左側構成成分よりの位置に留置した(そのイメージは,別紙1のとおりである。)。(乙A1の114,119頁)ウコイル1は,コイルを充填するフレーム(ケージ,枠組み)を瘤内に形成するためのフレーミングコイルであるところ,I医師及びJ医師は,コイル1として二次コイル径3.5㎜・長さ5㎝のTrufillOrbitGalaxy を選択し,I医師がカテーテル2を用いて本件動脈瘤に挿入した。カルテには,コイル1について,「瘤内でのdistribution(配分)よく,2つのcomponent(構成成分)に『8字状』に挿入することができた。」と記載されている。(乙A1の114,119頁)I ,コイル1について,「瘤内でのdistribution(配分)よく,2つのcomponent(構成成分)に『8字状』に挿入することができた。」と記載されている。(乙A1の114,119頁)I医師及びJ医師は,本件右側構成成分にフレーミングコイルを追加して挿入することとし,コイル2として二次コイル径3㎜・長さ4㎝のTrufillOrbitGalaxy を選択し,J医師がカテーテル1を用いて本件右側構成成分に挿入した。カルテには,コイル2について,「acceptable な(許容範囲の)frame(フレーム)形成を行う事ができた。」と記載されている。(乙A1の114,119頁)I医師及びJ医師は,本件左側構成成分にフィリングコイルを充填することとし,コイル3として二次コイル径2.5㎜・長さ3.5㎝のTrufillOrbitGalaxy を,また,コイル4として二次コイル径2.5㎜・長さ2・5㎝のTrufillOrbitGalaxy を,それぞれ選択し,J医師がカテーテル2を用いて本件左側構成成分に挿入充填した。カルテには,コイル3,4について,「左側の塞栓状態は良く」と記載されている。(乙A1の114,119頁)I医師及びJ医師は,本件右側構成成分について,依然として造影 剤の貯留が認められたことから,フィリングコイルを挿入することとし,コイル5として二次コイル径3㎜・長さ4㎝のTrufillOrbitGalaxy を選択し,J医師がカテーテル1を用いて本件右側構成成分のうち前方に張り出した部分(概ね別紙2の「ネック側の前方に張り出した構成成分」の部分である。)に充填したところ,残り1㎝の時点で,Gが強い頭痛を訴えた。I医師及びJ医師が,その直後である平成25年6月19日午後10時30分に脳血管 2の「ネック側の前方に張り出した構成成分」の部分である。)に充填したところ,残り1㎝の時点で,Gが強い頭痛を訴えた。I医師及びJ医師が,その直後である平成25年6月19日午後10時30分に脳血管撮影をしたところ,画像上,本件左側構成成分のネック部分(概ね別紙2の「ネック部分前方部分(破裂部位)」の部分である。)が再破裂(本件再破裂)を来し,再出血していることが確認された。(乙A1の114,120頁,乙A4の11,乙B13)I医師及びJ医師は,本件再破裂を受け,本件手術中投与していたヘパリン(血液凝固阻止剤)の効能を中和させることを目的として,平成25年6月19日午後10時33分,Gに対し,プロタミン30㎎を投与するなどした。(乙A1の114,120頁)I医師及びJ医師は,本件再破裂のあった本件左側構成成分のネック部分を塞栓するために,コイル6として二次コイル径2㎜・長さ2㎝のEDcoiles を,コイル7として二次コイル径2㎜・長さ2㎝のEDcoiles を,コイル8として二次コイル径1.5㎜・長さ2㎝のEDcoiles を,コイル9として二次コイル径1.5㎜・長さ2㎝のEDcoilesを,それぞれ選択し,J医師がカテーテル2を用いて上記部分に挿入充填した。(乙A1の114,120頁)I医師及びJ医師が,平成25年6月19日午後11時18分,脳血管撮影を行ったところ,本件再破裂のあった本件左側構成成分のネック部分は止血されていたものの,内頚動脈に閉塞が生じていることが認められた。I医師及びJ医師は,内頚動脈の血行再建を開始して吸引を 行い,血栓を吸引することができたが,血栓の一部が末梢に移動して中大脳動脈に塞栓が生じた。I医師及びJ医師は,塞栓に対応するための処置として,同月20日午前0 の血行再建を開始して吸引を 行い,血栓を吸引することができたが,血栓の一部が末梢に移動して中大脳動脈に塞栓が生じた。I医師及びJ医師は,塞栓に対応するための処置として,同月20日午前0時2分,午前0時20分,午前0時30分,0時47分及び午前1時に,ウロキナーゼ(血栓溶解剤)を6万単位ずつ投与するなどして,最終的には中大脳動脈の主幹動脈を再開通させ,同日午前1時55分頃,本件手術は終了した。なお,本件再破裂のあった本件左側構成成分のネック部分は,同月19日午後11時18分以降再出血することはなかった。(乙A1の12,114,120頁,乙A4の15・18・19,乙A7の1~4)⑷ 本件手術後の経緯ア Gは,本件手術直後,ほぼ昏睡状態で,四肢もほとんど動かない状態であった。(乙A1の17,18頁)イ Gは,平成25年6月20日午前3時頃,脳幹の周囲が腫脹していた。 H医師は,同日午前3時54分,同日午前2時時点のGの所見について,くも膜下出血が増大し,脳室が縮小しているとカルテに記載した。(乙A1の18,19頁)ウ H医師は,Gに対し,平成25年6月20日午前4時頃までの間,頭蓋内血腫による頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬であるマンニトールを投与し,また,同日午前7時2分にも,マンニトールを投与した。H医師は,同日午前10時2分,「頭蓋内圧亢進により症状出現しており,急変の可能性もある。」とカルテに記載した。(乙A1の17~19頁)エ Gは,平成▲年▲月▲日午前3時頃から心室性の不整脈が出現するようになり,同日午前4時頃一時心室頻拍となって,不整脈を繰り返すに至り,同日午前4時58分死亡した。Gの死因は,くも膜下出血であり,くも膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂であった。(乙A1の60,61,145頁) 一時心室頻拍となって,不整脈を繰り返すに至り,同日午前4時58分死亡した。Gの死因は,くも膜下出血であり,くも膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂であった。(乙A1の60,61,145頁) ⑸ Gの死亡後の経緯ア控訴人C,控訴人D及び控訴人Eは,本件手術の結果に納得することができないとして,平成25年7月1日午前7時頃,H医師に対し,説明を求めた。その際の会話は以下のとおりである。(甲A8の1・2,乙A1の61頁)H医師は,控訴人Cから「左のこと(本件動脈瘤に本件左側構成成分が存在したこと,すなわち本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであったこと〔当裁判所注記〕)は言われましたか。それは記憶にないんですが。」,控訴人Eから「説明がなかったということですよね。左のは,聞いていないということは。」などと問われたのに対し,「…左サイドのことは言っていないかもしれません。…どちらもこの時点でクリッピングとコイリングという方法があるけれども,このかたちからして,コイルも十分できるし,クリップもできるけど,コイルのほうが,あるいは比較的早い時間でやれるということで,コイルを選ばせていただきました。」などと答えた。(甲A8の1の1頁)控訴人Dは,H医師に対し,「…先生がクリップじゃなしに,カテーテルを入れてと勧められたんで,それで進めていったわけなんですが,カテーテルをやって,破れたときのあとの対応ができるかできんかというのは,私らではわからんかったんですが。破れたらそれでおしまいだった手術の仕方を私らは選んでいないですが。」と話した。(甲A8の1の2頁)H医師は,控訴人Eから「開頭されるのが専門な先生なので,そのときに何か手だてというのはなかったんですか。」と問われたのに対し,「それは止めるということだっ 。」と話した。(甲A8の1の2頁)H医師は,控訴人Eから「開頭されるのが専門な先生なので,そのときに何か手だてというのはなかったんですか。」と問われたのに対し,「それは止めるということだったら,もう開頭するのは,全身麻酔を打って,最低2時間ぐらい,到達にかかりますから,これは何分の勝負というか,命に関わる出血を起こすかどうか,本当に何分か,くも膜 下出血というのは,動脈が吹いているんで,開頭で助けてあげる,血を止めるという方法は採れないです。もちろん,コイルができないという場合は,開頭に変えるという話をさせてもらったと思います。」と答えた。(甲A8の1の5頁)イ控訴人Dは,本件手術は医療過誤に当たるのではないかと指摘して,平成25年8月1日付けで,被控訴人病院宛ての質問状(甲A3)を送付した。 2 争点1(本件動脈瘤の術中破裂があった場合に開頭手術では救命することができないことについての説明義務違反の有無)について⑴ H医師が,平成25年7月1日午前7時頃,控訴人C,控訴人D及び控訴人Eに対し,本件動脈瘤の術中破裂があった場合の対応について,「…開頭するのは,全身麻酔を打って,最低2時間ぐらい,到達にかかりますから,これは何分の勝負というか,命に関わる出血を起こすかどうか,本当に何分か,くも膜下出血というのは,動脈が吹いているんで,開頭で助けてあげる,血を止めるという方法は採れないです。」と説明していること(認定事実⑸ア)に照らすと,上記術中破裂があった場合には,開頭手術の開始までに最低2時間を要するため,開頭手術では救命することができなかったと認めるのが相当である。 そうであれば,H医師は,Gに対し,上記術中破裂があった場合でも開頭手術で救命することができるかのような説明をすべきではなく,H医師に 手術では救命することができなかったと認めるのが相当である。 そうであれば,H医師は,Gに対し,上記術中破裂があった場合でも開頭手術で救命することができるかのような説明をすべきではなく,H医師には,上記術中破裂があった場合には開頭手術では救命することができないことを説明すべき義務があったということができる。 しかるに,H医師は,Gに対し,「7.合併症…①術中破裂 …破裂した場合に出血が止められなくなり急いで開頭手術をしなくてはならない場合や,手術すらできない場合もあります。最悪の場合はなくなられます。」と記載された本件手術説明書面を用いてコイル塞栓術の合併症の説明をした (認定事実⑵の「7.合併症」の部分)ところ,上記の記載の意味内容について,一般の患者の普通の注意と読み方とを基準に判断すると,本件動脈瘤の術中破裂があった場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができるような趣旨に受け取られるものと解するのが相当である。 そうすると,H医師は,Gに対し,本件手術説明書面を用いてコイル塞栓術の合併症の説明をすることで,上記術中破裂があった場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができるような趣旨の説明をしたものといわざるを得ない。 以上によれば,H医師には,上記術中破裂があった場合には開頭手術では救命することができないことを説明すべき義務があったのに,H医師はこれを怠ったものといわざるを得ない。 これに対し,被控訴人は,H医師が,Gに対し,上記場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができる旨の説明をしたことを否認し,H医師が説明の際に想定していた開頭手術について,本件動脈瘤の術中破裂後,コイル塞栓をすることができず直ちに出血を止める できないときを除き,開頭手術で救命することができる旨の説明をしたことを否認し,H医師が説明の際に想定していた開頭手術について,本件動脈瘤の術中破裂後,コイル塞栓をすることができず直ちに出血を止めることができなかったときに,継続的な出血により頭蓋内に大きな血塊ができ,血塊により脳圧が急激に上昇し,血塊の摘出が必要となる場合に実施される開頭手術であったところ,H医師は,Gに対し,コイル塞栓術により出血が止められなかった場合,その後,開頭手術を実施することがある旨の説明をしたものであり,その説明に不適切なところはなかったと反論する。しかし,一般の医師・看護師の普通の注意と読み方はさておき,一般の患者の普通の注意と読み方とを基準に判断する以上,上記の記載の意味内容については,上記のとおり,本件動脈瘤の術中破裂があった場合でも,例外的に手術すらできないときを除き,開頭手術で救命することができるような趣旨に受け取られるものと解するのが相当であるから,被控訴人の上記の反論は採 用することができない。 なお,本件手術説明書面の「7.合併症」の部分には「⑨ 手術侵襲が拡大する可能性について術中出血が生じ出血が止まらないときや急性脳腫脹が強い場合,非機能部分の脳を切除や頭蓋骨をはずす外減圧を施行することがあります。」とも記載されている(認定事実⑵エ)が,上記の記載の意味内容について,一般の患者の普通の注意と読み方とを基準に判断すると,術中出血が生じ出血が止まらないときは,非機能部分の脳の切除や頭蓋骨をはずす外減圧を施行することがあると読めるものであって,本件動脈瘤の術中破裂があった場合に開頭手術では救命することができない趣旨に受け取られるものと解することはできないから,上記記載の存在は,上記判断を左右するものではない。 ⑵ そして, であって,本件動脈瘤の術中破裂があった場合に開頭手術では救命することができない趣旨に受け取られるものと解することはできないから,上記記載の存在は,上記判断を左右するものではない。 ⑵ そして,本件動脈瘤については,コイル塞栓術が比較的安全とされたとはいえ,クリッピング術の適応もあった(認定事実⑵の「5.治療」の部分)ところ,控訴人Dが,平成25年7月1日午前7時頃,H医師に対し,「…先生がクリップじゃなしに,カテーテルを入れてと勧められたんで,それで進めていったわけなんですが,カテーテルをやって,破れたときのあとの対応ができるかできんかというのは,私らではわからんかったんですが。 破れたらそれでおしまいだった手術の仕方を私らは選んでいないですが。」と話していること(認定事実)に照らすと,H医師が前記⑴の説明義務を尽くしていれば,Gがコイル塞栓術を選択せず,クリッピング術を選択した相当程度の可能性はあったと認めるのが相当である。 もっとも,Gについては,脳血管内攣縮が合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高いと判断されていた(認定事実⑵の「5.治療」の部分)ことに加え,いずれの治療の場合も生命にかかわることや重篤な後遺症が残る可能性は5ないし10%程度であるとの説明を受けていた(同)のであるから,上記可能性を超えて,Gがコイル塞栓術を選択 せず,クリッピング術を選択した高度の蓋然性があったとまでは認めるに足りない。 ⑶ そうすると,前記⑴の説明義務違反については,Gの死亡との間に相当因果関係があるということはできず,Gの自己決定権の侵害があったものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきである。 3 争点2(本件動脈瘤の形状・存在部位及びそれに伴う手術の困難さに ことはできず,Gの自己決定権の侵害があったものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきである。 3 争点2(本件動脈瘤の形状・存在部位及びそれに伴う手術の困難さについての説明義務違反の有無)⑴ 控訴人らの主張アについてア本件動脈瘤は二つの葉状の構成成分を有するものであり(認定事実⑵イ),本件動脈瘤に対するコイル塞栓術にはダブルカテーテルが用いられている(認定事実⑶イ)ところ,一般論としては,I医師も認めているとおり,二つの葉状の構成成分を有する脳動脈瘤に対するコイル塞栓術は技術的に難しく(証人I医師92項),また,ダブルカテーテルを適切に用いるには,シングルカテーテルを適切に用いることができることを前提として,相応の技術を習得しておくことが必要であって,ダブルカテーテルを用いる場合特有の注意点・危険も存在し(甲B28,30の1の209頁,甲B30の2の230頁,甲B31の197頁,甲B32の4,乙B3の126頁,乙B12の835頁,乙B20の92~99頁,),I医師よりも経験の浅いJ医師は,ダブルカテーテルについて,「非常に複雑な治療について行う手技」であると認めている(証人J医師35項)のであるから,H医師には,Gに対し,クリッピング術との比較検討をすることができる程度に,本件動脈瘤について,二つの葉状の構成成分を有するものであり,ダブルカテーテルを用いなければならないほどコイル塞栓術が難しいものであることを説明すべき義務があったと認めるのが相当である。 しかるに,H医師がGらに対する説明に用いた本件病状説明書面及び本件手術説明書面には,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであるとの記載はされていないところ,H医師が,平成25年7月1日午前7時頃,控訴人Cから「 対する説明に用いた本件病状説明書面及び本件手術説明書面には,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであるとの記載はされていないところ,H医師が,平成25年7月1日午前7時頃,控訴人Cから「左のこと(本件動脈瘤に本件左側構成成分が存在したこと,すなわち本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであったこと〔当裁判所注記〕)は言われましたか。それは記憶にないんですが。」,控訴人Eから「説明がなかったということですね。左のは,聞いていないということは。」などと問われたのに対し,「…左サイドのことは言っていないかもしれません。」などと答えていること(認定事実)に照らすと,H医師は,Gらに対し,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであることを説明しなかったものと認められる。 また,H医師が,Gに対し,ダブルカテーテルを用いるなどといった手技の詳細や難易度を説明していないことは,被控訴人の主張の前提となっている(争点2の被控訴人の主張ア参照)。 そうすると,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有するものであり,ダブルカテーテルを用いなければならないほどコイル塞栓術が難しいものであることの説明義務を怠ったというべきである。 これに対し,被控訴人は,本件手術説明書面には本件動脈瘤の画像が貼付されており,H医師においては,Gに対し,本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有することを説明していると反論する。しかし,上記画像は不鮮明なものであり,一般の患者であるGにおいて,上記画像から本件動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有すると理解することは困難といわざるを得ないし,かえって,本件病状説明書面には二つの葉状の構成成分を有していない球状の動脈瘤が図示されている(甲A4の1,2枚 目,乙A1の129,130 すると理解することは困難といわざるを得ないし,かえって,本件病状説明書面には二つの葉状の構成成分を有していない球状の動脈瘤が図示されている(甲A4の1,2枚 目,乙A1の129,130頁)のであるから,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 また,被控訴人は,コイル塞栓術について,実際にコイルを脳動脈瘤に挿入してみるまで難易は分からないものであって,ダブルカテーテルを用いるから難しいというものではないから,H医師には,Gに対し,ダブルカテーテルを用いるなどといった手技の詳細や難易度を説明する義務はなかったと反論する。しかし,コイル塞栓術について,実際にコイルを脳動脈瘤に挿入してみるまで具体的な難易が分からないものであるとしても,前記アの第1段落のとおり,一般論として,ダブルカテーテルを適切に用いるには,シングルカテーテルを適切に用いることができることを前提として,相応の技術を習得しておくことが必要であって,ダブルカテーテルを用いる場合特有の注意点・危険も存在し,I医師よりも経験の浅いJ医師は,ダブルカテーテルについて,「非常に複雑な治療について行う手技」であると認めているのであるから,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 さらに,被控訴人は,H医師においては,Gに対し,本件動脈瘤の大きさ,形状,部位から考えて,コイル塞栓術が比較的安全であり,脳血管攣縮を合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高く,コイル塞栓術が第1選択である旨を説明して,コイル塞栓術とクリッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかったと反論するところ,確かに,本件手術説明書面にはその旨の記載が存在する(認定事実⑵エの「5.治療」の部分)が,上記記載だけ 等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかったと反論するところ,確かに,本件手術説明書面にはその旨の記載が存在する(認定事実⑵エの「5.治療」の部分)が,上記記載だけでは,本件動脈瘤がどのような「形」であるのか,どのような「形」の場合にコイル塞栓術の難易度・危険等がどのように変わるのかが判然とせず,説明として不十分といわざるを得ないから,被控訴人の上記の反論も採用することができない。 イそして,本件動脈瘤については,コイル塞栓術が比較的安全とされたとはいえ,クリッピング術の適応もあった(認定事実⑵の「5.治療」の部分,認定事実)のであるから,H医師説明義務を尽くしていれば,Gがコイル塞栓術を選択せず,クリッピング術を選択した相当程度の可能性はあったと認めるのが相当である。 もっとも,Gについては,脳血管内攣縮が合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高いと判断されていた(認定事実⑵エの「5.治療」の部分)ことに加え,いずれの治療の場合も生命にかかわることや重篤な後遺症が残る可能性は5ないし10%程度であるとの説明を受けていた(同)のであるから,上記可能性を超えて,Gがコイル塞栓術を選択せず,クリッピング術を選択した高度の蓋然性があったとまでは認めるに足りない。 ウについては,Gの死亡との間に相当因果関係があるということはできず,Gの自己決定権の侵害があったものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきである。 ⑵ 控訴人らの主張イについてア本件動脈瘤は前交通動脈に存在していた(認定事実⑵イ)ところ,前交通動脈は,母血管径が細く,カテーテルの誘導も困難で,容易に血栓症等が生じ得るなど,最もコイル塞栓術の困難な部位の一つであ いてア本件動脈瘤は前交通動脈に存在していた(認定事実⑵イ)ところ,前交通動脈は,母血管径が細く,カテーテルの誘導も困難で,容易に血栓症等が生じ得るなど,最もコイル塞栓術の困難な部位の一つであるとする文献(甲B3の21頁)が存在し,また,前交通動脈に存在する脳動脈瘤については,コイル塞栓術ではなく,クリッピング術を優先すべきであるとの文献(甲B6,7,9)が存在し,さらに,I医師も,前交通動脈に存在する脳動脈瘤について,コイル塞栓術とクリッピング術のいずれもが危険であることから,慎重に術式を選択すべきものであり,クリッピング術を優先すべきと考える医師も存在することを認めている(証人I医師57, 58項)のであるから,H医師には,Gに対し,クリッピング術との比較検討をすることができる程度に,本件動脈瘤が存在する前交通動脈について,コイル塞栓術の困難な部位の一つであることを説明すべき義務があったと認めるのが相当である。 しかるに,H医師は,Gに対し,本件動脈瘤が前交通動脈に存在していたことを伝えた(認定事実⑵の「1.病名」の部分)にとどまり,本件全証拠をもってしても,H医師が,Gに対し,前交通動脈がコイル塞栓術の困難な部位であることを説明したとは認めるに足りない。 そうすると,H医師は,Gに対し,上記の説明義務を怠ったというべきである。 これに対し,被控訴人は,H医師においては,Gに対し,本件動脈瘤の大きさ,形状,部位から考えて,コイル塞栓術が比較的安全であり,脳血管攣縮を合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高く,コイル塞栓術が第1選択である旨を説明して,コイル塞栓術とクリッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかったと反論するところ,確 能性が高く,コイル塞栓術が第1選択である旨を説明して,コイル塞栓術とクリッピング術の方法,長所,合併症等を詳細に説明しているものであり,H医師の説明に不適切なところはなかったと反論するところ,確かに,本件手術説明書面にはその旨の記載が存在する(認定事実⑵エの「5.治療」の部分)が,上記記載だけでは,本件動脈瘤が前交通動脈に存在する場合にコイル塞栓術の難易度・危険等がどのように変わるのかが判然とせず,説明として不十分といわざるを得ないから,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 イそして,本件動脈瘤については,コイル塞栓術が比較的安全とされたとはいえ,クリッピング術の適応もあった(認定事実⑵の「5.治療」の部分,認定事実)のであるから,H医師が前記アの説明義務を尽くしていれば,Gがコイル塞栓術を選択せず,クリッピング術を選択した相当程度の可能性はあったと認めるのが相当である。 もっとも,Gについては,脳血管内攣縮が合併しているためにクリッピング術による梗塞が生ずる可能性が高いと判断されていた(認定事実⑵エの「5.治療」の部分)ことに加え,いずれの治療の場合も生命にかかわることや重篤な後遺症が残る可能性は5ないし10%程度であるとの説明を受けていた(同)のであるから,上記可能性を超えて,Gがコイル塞栓術を選択せず,クリッピング術を選択した高度の蓋然性があったとまでは認めるに足りない。 ウそうすると,前記アの説明義務違反については,Gの死亡との間に相当因果関係があるということはできず,Gの自己決定権の侵害があったものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきである。 4 争点3(フレーミングについての注意義務違反の有無)について⑴ 当時の医療水準についてア証拠( たものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきである。 4 争点3(フレーミングについての注意義務違反の有無)について⑴ 当時の医療水準についてア証拠(甲B12の1の59頁,甲B28の58頁,甲B30の2の230,231頁,甲B32の1の64頁,甲B32の2の80頁,甲B32の4の99,100頁,甲B35の1,2枚目,乙B3の126頁,乙B12の835頁,乙B25の85頁)及び弁論の全趣旨によれば,フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり瘤を破ったりすることのないよう瘤内にフレーム(ケージ,枠組み)を形成する工程であるところ,脳動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有する場合,一方の構成成分にカテーテルを挿入してコイルを挿入すると,一方の構成成分ばかりにコイルが挿入され,他方の構成成分がコンパートメント(部分的に不十分な塞栓が生じた区画)として残り,瘤内の血流が完全に消えないことが懸念されることから,ダブルカテーテルを用いて,二つのカテーテルを各構成成分に挿入し,また,コイルとしてTrufillOrbitGalaxy を選択するのであれば,各構成成分の長径と同じ二次コイル径の長いコイルを選択し,各カ テーテルから各構成成分の全体にバランスよくコイルを行き渡らせ,各構成成分の形状にフィットした,幾つかのコイルループがネック部分を横切る,コンパートメントやコイルの偏りのない,ネック部分までカバーした立体的なフレームを形成することで瘤内に脆弱部分を作らないようにするのが当時の医療水準であったと認められる。 イ被控訴人の反論(争点3の被控訴人の主張ア)について被控訴人は,①フレーミングは,フィリングコイルをフレーム内に留め,母血管への逸脱を防止したり,重要血管を温存した であったと認められる。 イ被控訴人の反論(争点3の被控訴人の主張ア)について被控訴人は,①フレーミングは,フィリングコイルをフレーム内に留め,母血管への逸脱を防止したり,重要血管を温存したりするためのものであるところ,いかに適切なフレームを形成しても,瘤内を隙間なく覆うことはできないから,不規則に動くフィリングコイルがフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することを防ぐことはできない,②実際の臨床現場では,不整形な脳動脈瘤が多く,フレームと瘤壁との間に隙間ができ,フィリングコイルがフレームの外側にも出て上記隙間を埋めることも想定されているから,フィリングコイルが脳動脈瘤を穿孔したこととフレームの形成の適否とは関係しない,③フレーミングについて,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり瘤を破ったりすることのないようにする目的があると指摘する控訴人ら引用の文献(甲B35)は,医療機器メーカーの製品紹介資料にすぎず,また,脳動脈瘤の形状等によってはフレームの形成の必要がないとする文献(乙B30の81頁)の記載とも整合せず,信用することができないと反論する。確かに,乙B30の79頁には「framingcoil とは,最初に入れるコイルのなかで,コイルの逸脱防止,分岐血管の温存などの目的をもって入れるコイルのことである。」,同82頁には「…コイルが母血管に逸脱しないようにするフレームもあるし…重要血管を温存するためその血管よりも遠位にコイルをとどめるようにするフレームもある…」と上記①の反論に沿うかのような記載がされており,また,上記①の反論に関して,いかに適切 なフレームを形成しても,瘤内を隙間なく覆うことはできないことから,フィリングコイルがフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することを完全には防ぐことができないことは,控訴人 して,いかに適切 なフレームを形成しても,瘤内を隙間なく覆うことはできないことから,フィリングコイルがフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することを完全には防ぐことができないことは,控訴人らも自認するものであり(控訴人ら第7準備書面3頁⑵),さらに,M医師の意見書(乙B32)には,上記②の反論に沿う臨床現場の実情の記載がされている。 しかし,乙B30の79頁の記載が,フレーミングの目的について,コイルの逸脱防止,分岐血管の温存だけであると断ずるものでないことは,「『などの』目的」という表現が用いられていることから明らかであり,また,同82頁の記載が,フレーミングの目的について,母血管への逸脱防止,重要血管の温存だけであると断ずるものでないことも,「フレーム『も』ある」という表現が用いられていることから明らかであるところ,乙B30の文献は,①試行錯誤を重ねて強固なフレームを形成すること,②当該フレームの中に軟らかいフィリングコイルを慎重に詰めること,③フィリングコイルが当該フレームの中に詰められることによって,当該フレームが多少なりとも広がることがあることから,頻回のDSAで当該フレームの状況等を確認することの重要性を指摘するものであって,フィリングコイルがフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することを完全に防ぐことができないとしても,フィリングコイルがむやみにフレームの隙間から脳動脈瘤を穿孔することのないようにすることもフレーミングの目的であることを当然の前提としていると理解するのが自然である(I医師も,フレームについて,コイルを詰めるための枠であり,籠のような感じで瘤全体を覆うものであると認めている〔証人I医師101,106~108項〕し,フレームについて,中をコイルで埋めるためのcage と表現する文献〔甲B32の2 詰めるための枠であり,籠のような感じで瘤全体を覆うものであると認めている〔証人I医師101,106~108項〕し,フレームについて,中をコイルで埋めるためのcage と表現する文献〔甲B32の2の80頁〕も存在する。)。被控訴人の上記①の反論は的確なものということができない。 また,M医師は,かつてO病院の脳神経外科に勤務し,現在もP大学医学部臨床教授を務めている者であり(乙B32),O病院に勤務していたI医師及びJ医師(認定事実⑵ウ,⑶ア)と近い関係にあるところ,一件記録を精査しても,被控訴人の上記②の反論に沿う臨床現場の実情を記載した文献は他には存在しておらず,M医師の意見書に記載された上記実情が,真実であるのか,また,真実であるとして当時の医療水準にかなうものであるのか,それとも単なる医療慣行にすぎないのかを適切に検証することができないから,上記意見書の記載はにわかに信用することができない。被控訴人の上記②の反論は採用することができない。 さらに,控訴人ら引用の文献(甲B35)は,医療機器メーカーの製品紹介資料であるとはいえ,その記載から,当該メーカーが,日本脳神経血管内治療学会学術総会において新たなコイルの販売開始を発表したコイル塞栓術用コイルの製造販売業者であることは明らかであって,上記文献がコイル塞栓術の専門医らの監修の下に作成されたものであることは優に推認することができる(被控訴人も,医師の報告を掲載したものであるとはいえ,医療機器メーカーの製品紹介資料と窺われる文献〔乙B28〕を提出しているところであり,医療機器メーカーの製品紹介資料であるから直ちに信用することができないと断ずるのは相当でない。)し,また,脳動脈瘤の形状等によってはフレームの形成の必要がないものがあるとしても,それは「5㎜ あり,医療機器メーカーの製品紹介資料であるから直ちに信用することができないと断ずるのは相当でない。)し,また,脳動脈瘤の形状等によってはフレームの形成の必要がないものがあるとしても,それは「5㎜大の球形の動脈瘤でネック径が2㎜」の様な場合をいう(乙B30の81頁)のであって,そのことから直ちに,一般論として,フレームの形成の必要がある場合のフレーミングについても,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり瘤を破ったりすることのないようにする目的がないなどと断ずることができるわけ そうすると,被控訴人の前記の反論はいずれも採用することができない。 ⑵ I医師の注意義務違反の有無についてア I医師がカテーテル2を用いてコイル1を挿入することでフレームを形成することを試みたのは,本件左側構成成分であったか,本件動脈瘤全体であったか。 ダブルカテーテルは,脳動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有する場合に,二つのカテーテルを各構成成分に挿入し,各カテーテルから各構成成分の全体にバランスよくコイルを行き渡らせるようにする手技である(前記⑴ア)ところ,カテーテル2が本件左側構成成分の塞栓を企図したものであること(認定事実⑶イ)に照らすと,I医師は,カテーテル2を用いて本件左側構成成分にコイル1を挿入することにより本件左側構成成分のフレームを形成することを試みたものと認めるのが相当であり,また,そうであるのに,コイル1の一部が本件右側構成成分に逸出したことから,I医師は,やむを得ず本件右側構成成分のフレームも形成したと認めるのが相当である。 被控訴人の反論の前段)について被控訴人は,I医師はカテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図したものであると反 ある。 被控訴人の反論の前段)について被控訴人は,I医師はカテーテル2を用いてコイル1を本件動脈瘤全体に挿入することにより本件動脈瘤全体のフレームを形成することを企図したものであると反論する。 しかし,①上は,脳動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有する場合に,二つのカテーテルを各構成成分に挿入し,各カテーテルから各構成成分の全体にバランスよくコイルを行き渡らせるようにする手技である(I医師も,いったんは上記の目的で本件手術にダブルカテーテルを採用したことを認めるかのような証言をして いる。証人I医師92項)ところ,カテーテル2は本件左側構成成分の塞栓を企図したものであるから,カテーテル2を用いてコイル1を本件右側構成成分にも挿入することを企図したというのは,不自然といわざるを得ないこと,②一件記録を精査しても,被控訴人が企図していたとする手技について紹介した文献は存在せず,当該手技は一般的なものでなかったといわざるを得ないこと(なお,乙B27の43頁には「ハート型のそれぞれの瘤…にコイルが移動しながらframing が可能な場合があり有効なこともある。」との記載があるが,この記載は,同頁に記載されているとおり,「1本のマイクロカテーテルでシンプルに塞栓術を行う場合」に,「Microplex コイルを使用する」ときの手技の紹介であって,ダブルカテーテルを用いて,TrufillOrbitGalaxy を用いる場合の手技の紹介ではない。)に照らすと,被控訴人の上記の反論は,争点3の控訴人らの主張①から④までの指摘の当否にかかわらず,採用することができない。 イコイル1で形成されたフレームが立体的なものであったか。 コイル1の挿入後のDSAの画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることに照らすと にかかわらず,採用することができない。 イコイル1で形成されたフレームが立体的なものであったか。 コイル1の挿入後のDSAの画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることに照らすと,コイル1で形成されたフレームは,不十分な8字状すなわちドーナッツ状の二次元的なものであったと認めるのが相当である。 被控訴人の反論について被控訴人は,コイル1で形成されたフレームについて,立体的なものであり,ドーナッツ状の二次元的なものにはなっていなかったと反論しの後段),①コイル1の挿入後のDSAの正面画像(乙A4の7)において,コイルが本件動脈瘤を網目状に覆っているように見えるのは,コイル1で形成されたフレームが,立体的なものであり,ドーナッツ状の二次元的なものになってい なかったことの証左である落),②フレームは瘤壁に沿って形成されるものであり,瘤内に造影剤が流入するスペースがあることから,画像上,フレームがリング状に写ることがある(乙B28の2枚目のFig.4 の左側の画像)のであって,コイル1の挿入後のDSAの側面画像(甲A12)が二つのリング状の形状を示していることは,コイル1で形成されたフレームがドーナッツ状の二次元的なものになっていたことの証左にはならない(争点3の被と指摘する。 しかし,コイル1の挿入後のDSAの正面画像(乙A4の7)を見ても,画像が粗く,せいぜい本件動脈瘤の中に何かが入っているように窺うことができるにすぎず,本件動脈瘤を網目状にコイルが覆っているように見えるとまでいうのには無理があるから,被控訴人の上記①の指摘は的確なものということができない。 また,乙B28の2枚目左側に,乙B28の2枚目のFig.4 の画像について,同Fig.3 の画像が撮影された後に3本のコイルが追加される 被控訴人の上記①の指摘は的確なものということができない。 また,乙B28の2枚目左側に,乙B28の2枚目のFig.4 の画像について,同Fig.3 の画像が撮影された後に3本のコイルが追加されることで,「フレームが幾重にも重なるような形状で挿入され」,「フレーミングとして理想的な形状」となったとの説明が記載されていることに照らすと,同Fig.4 の左側の画像がフレーミング初期の画像であることは明らかであるところ,「フレーミングとして理想的な形状」とされる同Fig.4 の右側の画像では,造影剤の流入は見えるものの,リング状の形状にはなっていないのであるから,被控訴人の上記②の指摘も的確なものということができない(なお,被控訴人の上記②の指摘及び乙B28の提出は,当裁判所が被控訴人の当審第9準備書面4項の説明ではよく分からないとして立証の補充を求めたこと〔令和2年10月1日付け事務連絡2項〕を受けてされたものであるところ,被控訴人は,控訴人らから上記と同旨の反論をされた 2段落〕ものの,上記①の指摘以外に,この点についての立証の補充をしなかった。)。 そうすると,被控訴人の上記①,②の各指摘はいずれも的確なものということができず,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 ウコイル1で形成されたフレームが本件左側構成成分のネック部分までカバーするものであったか。 ①TrufillOrbitGalaxy は,外側から中心に向けてスペースを埋める特徴を有するもの(甲B32の1の60頁,乙B4の1,乙B11の115頁)であり,外側に広がっていく特徴を有していないといえること,②コイルとしてTrufillOrbitGalaxy を用いるのであれば,各構成成分の長径と同じ二次コイル径の長いコイルを選択するのが当時 あり,外側に広がっていく特徴を有していないといえること,②コイルとしてTrufillOrbitGalaxy を用いるのであれば,各構成成分の長径と同じ二次コイル径の長いコイルを選択するのが当時の医療水準であった(前記⑴ア)ところ,本件左側構成成分の長径(高さ)が4.09㎜であった(認定事実⑵イ)のに,I医師は,コイル1として,二次コイル径3.5㎜のものを選択したこと(認定事実⑶),③画像(甲A13)上,本件再破裂の時点で,本件左側構成成分のネック部分のフレームが形成されていたようには窺われないところ,コイル6から9までの各コイルの挿入により上記部分が大きく膨らんでいることを併せ考慮すると,コイル1の二次コイル径は,本件左側構成成分のフレームを形成するには小さ過ぎ,そのために,コイル1では上記部分までカバーしたフレームを形成することができなかったと認めるのが相当である(なお,本件左側構成成分のフレームはコイル1のみで形成されているところ,コイル1について,被控訴人は本件左側構成成分の方に多く挿入された可能性があるとも説明する〔被控訴人の当審第8準備書面4頁3項〕が,カルテには「瘤内でのdistribution〔配分〕よく,2つのcomponent〔構成成分〕に…挿入することができた。」と記載されている〔認定事実⑶のであるから,上記の説明には疑義が残 る。上記のカルテの記載からは,本件左側構成成分に挿入されたコイル1は長さ2.5㎝程度であったと窺われるところ,二次コイル径3㎜・長さ4㎝のコイル2が追加して挿入されてフレームが形成された本件右側構成成分と比較すると,本件左側構成成分のフレームの形成に用いられたコイルの量は少な過ぎるように窺われる。おって,コイル2について,被控訴人は本件右側構成成分のフィリングも兼ねて 形成された本件右側構成成分と比較すると,本件左側構成成分のフレームの形成に用いられたコイルの量は少な過ぎるように窺われる。おって,コイル2について,被控訴人は本件右側構成成分のフィリングも兼ねていたとも説明する〔被控訴人の当審第7準備書面3頁⑵〕が,カルテには「acceptableな(許容範囲の)frame(フレーム)形成を行う事ができた。」と記載されているのである〔認定事実⑶から,上記の説明にも疑義が残る。)。 被控訴人の反論についてa 被控訴人は,I医師においては,①コイル1として,不整形の本件動脈瘤に対応することができるTrufillOrbitGalaxy を選択し,②本件右側構成成分が短径(幅)2.24㎜・長径(高さ)4.35㎜であってその中間が3ないし3.5㎜であり,本件左側構成成分が短径(幅)3.42㎜・長径(高さ)4.09㎜であってその中間が3. 5㎜であるところ,長径のみを考慮することは,短径を超えて母血管にコイルが飛び出す可能性があり,適切でないことから,二次コイル径3.5㎜が適切であると判断したなどと指摘し,I医師のコイル1の選択は適切であったと反論する(なお,被控訴人は,コイル1の長さの指摘もするが,控訴人らは,コイル1の長さの適否を問題としていないので,以後,コイル1の長さの適否については触れない。)ところ,確かに,被控訴人の上記①の指摘のとおり,TrufillOrbitGalaxy は不整形の動脈瘤でも適切なフレーミングが可能なコイルである(乙B16の430頁)。 しかし,被控訴人自身が,「第一に瘤壁に密着する安定したコイルフレームを作成することが重要である。そのためには,計測された動脈瘤径より一回り大きなコイルの選択(たとえば脳動脈瘤の長径に一致したコイル径の選択) 訴人自身が,「第一に瘤壁に密着する安定したコイルフレームを作成することが重要である。そのためには,計測された動脈瘤径より一回り大きなコイルの選択(たとえば脳動脈瘤の長径に一致したコイル径の選択)が可能であればより達成しやすくなる。」と記載された文献(乙B25の85頁)を提出していること,被控訴人提出の乙B16の430頁には,「4.5㎜×3.4㎜×5.8㎜」の大きさの動脈瘤のフレーミングコイルとして二次コイル径6㎜のTrufillOrbitGalaxy を使用したと記載されていることなどに照らすと,被控訴人の上記②の指摘は,自ら提出した証拠の記載と整合しない内容であり,的確なものということができない。 そうすると,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 b 被控訴人は,TrufillOrbitGalaxy について,いったん外側に広がらなければ,外側から中心に向けてスペースを埋めていくことは不可能であって,外側に広がっていく特徴を有していると反論し,あたかも二次コイル径3.5㎜のものであっても,本件左側構成成分のネック部分までカバーしたフレームを形成することができたかのような主張もする(控訴人らは,控訴人ら第6準備書面11頁において,被控訴人がそのような主張をしているものと理解し,反論している〔争点。)が,いったん外側に広がらなければ,外側から中心に向けてスペースを埋めていくことが不可能であるとしても,コイルが規格とされた二次コイル径を超えて外側に広がるとは軽々には考え難いところである(乙B4の1の二次コイル径7㎜の図示によると,コイルは不規則にループするものの,二次コイル径は7㎜を超えないとされている。)から,被控訴人の上記の反論も採用することができない。 c 被控訴人は,画像(甲A1 の図示によると,コイルは不規則にループするものの,二次コイル径は7㎜を超えないとされている。)から,被控訴人の上記の反論も採用することができない。 c 被控訴人は,画像(甲A13)上,本件再破裂後,コイル6から9までの各コイルの挿入により本件左側構成成分のネック部分が大きく膨らんでいるのは,本件再破裂を来した上記部分にコイルを十分挿入したことで,コイルがフレームの隙間を超えて広がったか,又はフレーム自体が膨らんだためであり,密に塞栓できたことの証左であって,コイル1で上記部分までカバーするフレームを形成することができなかったことを意味するものではないと反論し,コイルがフレームの隙間を超えて広がることがあることの証拠として乙B31添付の写真の存在を指摘し,また,フレーム自体が膨らむことがあることの証拠として甲B34の5頁の図11の写真や乙B30の82頁の「いかに強固なフレームでも後から入れるコイルによって多少なりとも広がってくる」との記載の存在を指摘する。 しかし,乙B31添付の写真は,脳動脈瘤のネック部分が大きく膨らんだことを示すものではなく,脳動脈瘤のドーム部分(体部)が大きく膨らんだことを示すものであり,本件とは変形の部位や形成過程が全く異なっているものといわざるを得ない。 また,甲B34の5頁の図11の写真や乙B30の82頁の「いかに強固なフレームでも後から入れるコイルによって多少なりとも広がってくる」との記載も,脳動脈瘤のフレームのネック部分が大きく膨らむことがあることを示すものではなく,せいぜい脳動脈瘤全体のフレームがフィリングコイルの圧力でやむを得ず多少膨らむことがあることを示すものにすぎない。 そうすると,被控訴人の上記の指摘はいずれも的確なものということができず,被控訴人の上記の反論は採用 のフレームがフィリングコイルの圧力でやむを得ず多少膨らむことがあることを示すものにすぎない。 そうすると,被控訴人の上記の指摘はいずれも的確なものということができず,被控訴人の上記の反論は採用することができない。 エ小括 前記イ,ウのとおり,I医師は,本件左側構成成分のネック部分までカバーする立体的なフレームを形成することができなかったところ,これは前記⑴アの医療水準にもとるから,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があったと認められ,Gとの間の診療契約上の債務不履行責任を免れないというべきである。 ⑶ Gの死亡との間の因果関係本件再破裂の原因について,①控訴人らは,㋐本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔した(争点3の控訴人らの主張ウ,争点4の控訴人らの主張の第3段落,争点5の控訴人らの主張の第1段落),㋑カテーテル等の動きで血流の変化が生じて脆弱な上記部分が破裂した(争点3の控訴人らの主張ウ,争点4の控訴人らの主張の第3段落),㋒上記部分をカテーテル2が穿孔した(争点5の控訴人らの主張の第1段落)などと主張する一方で,②被控訴人は,コイル5が本件動脈瘤を穿孔した(争点3の被控訴人の主張ウ),コイル5が上記部分を穿孔した可能性が高い(争点5の被控訴人の主張の第1段落)と主張するところ,一件記録を精査しても,本件再破裂の原因が上記①の㋑,㋒であったことを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから,本件再破裂の原因はコイル5が上記部分を穿孔したことと認めるのが相当である。 そして,I医師は,上記部分までカバーする立体的なフレームを形成することができなかったもので,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があったと認められる(上記⑵エ)ところ,フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つ カバーする立体的なフレームを形成することができなかったもので,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があったと認められる(上記⑵エ)ところ,フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり,瘤を破ったりすることのないよう瘤内にフレームを形成する工程である(前記⑴ア)から,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかった場合に,上記部分をコイルが穿孔する可能性が高いのは当然というべきであり,また,一件記録を精査しても,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかったこと以外 には,上記部分をコイル5が穿孔した原因があったことを具体的に窺うことができず,さらに,被控訴人病院においては,本件手術中,コイルを挿入する度に画像を撮影するなど大量の画像を撮影し,当該画像は,撮影後1ないし2か月はハードディスクに保存されていたが,本件において提出されているものを除き,その後,放射線技師により消去されるところとなり,本件手術の画像が十分に保存されていないこと(弁論の全趣旨)などから,被控訴人においても,上記原因について,破裂動脈瘤には瘤壁の脆弱な箇所があり一定の割合で再破裂が起きることは避けられないなどという一般的な指摘をするにとどまり,本件に即した具体的な指摘をすることができていない。 以上によれば,本件においては,本件左側構成成分におけるフレーム形成に係る注意義務違反があったことから,フレームの形成が不十分であった本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔することで,本件再破裂が起こったと推認するのが最も合理的というべきであるところ,本件動脈瘤の術中破裂により生命に関わる事態や重篤な後遺症が残る可能性については,5ないし10%程度であったと説明されている(認定事実⑵の「5.治療」の部分。なお も合理的というべきであるところ,本件動脈瘤の術中破裂により生命に関わる事態や重篤な後遺症が残る可能性については,5ないし10%程度であったと説明されている(認定事実⑵の「5.治療」の部分。なお,破裂脳動脈瘤の破裂頻度を4.1%とする文献〔甲B26の117頁〕もある。)のであって,上記注意義務違反がなければ,Gが死亡に至らなかった(また,重篤な後遺症が残ることもなかった)高度の蓋然性があったということができるから,上記注意義務違反とGの死亡との間には相当因果関係があると認められる。 5 争点4(コイル5の二次コイル径・長さの選択についての注意義務違反の有無)について⑴ 控訴人らは,フィリングに当たっては,コイルの二次コイル径が大き過ぎたり,コイルが長過ぎたりすると,コイルが脳動脈瘤から逸脱したり,脳動脈瘤が破裂したりする危険があることから,徐々に用いるコイルの二次コイル径・長さをサイズダウンするのが当時の医療水準であったと主張するとこ ろ,確かに,フィリングコイルについては,「徐々にサイズダウンしながら充填」と記載された文献(甲B32の1の58,64頁),「コイル径が大きすぎたり長すぎたりするとコイルやマイクロカテーテルの逸脱や破裂の危険があり」,「径は小さめ,長さは短め」と記載された文献(乙B12の835頁)が存在し,また,本件手術説明書面にも「径の大きいコイルから小さいものへ順番に詰めていきます。」と記載されている(認定事実⑵の「6.手術方法」の部分)。 しかし,フィリングに関しては,①「コンパートメントを形成して不十分な塞栓にならないように,安易にサイズダウンせず…塞栓していくべきである」と記載された文献(甲B32の1の64頁),②「コイル径が…小さすぎるとframe 内にコイルが入らないスペース(comp 分な塞栓にならないように,安易にサイズダウンせず…塞栓していくべきである」と記載された文献(甲B32の1の64頁),②「コイル径が…小さすぎるとframe 内にコイルが入らないスペース(compartment)を残し,完全な閉塞を妨げる。」,「脳動脈瘤の容積と使用したコイルの積算体積を計算しコイルを選択する考え方もあるが…論理的に無理がある評価法であり…透視画像から得られる情報と術者の感覚を頼りに最大限のコイルを脳動脈瘤内に充填するという考え方が基本である」と記載された文献(乙B12の835頁),③2本連続で同じサイズのコイルを選択した例を紹介した文献(甲B29の47頁)も存在するのであるから,フィリングに当たっての当時の医療水準が控訴人ら主張のとおりであったと直ちには断ずることができない。 ⑵ なお,控訴人らは,コイル5がコイル3,4よりもサイズが大きいことを指摘し,本件は,上記⑴の2本連続で同じサイズのコイルを選択した例とは異なるとも主張する(控訴人ら第7準備書面6頁⑵)ところ,確かに,コイル3は二次コイル径2.5㎜・長さ3.5㎝,コイル4は二次コイル径2. 5㎜・長さ2.5㎝であったのに,コイル5は二次コイル径3㎜・長さ4㎝で(認定事実⑶,コイル3,4よりもサイズが大きいものであった。 しかし,コイル3,4は,本件左側構成成分のフィリングに用いられたものである(同)のに対し,コイル5は,本件右側構成成分のフィリングに用いられたものである()ところ,コイル5の前に本件右側構成成分に挿入されたのは追加してフレームを形成するための二次コイル径3㎜・長さ4㎝のコイル2である()から,本件右側構成成分に挿入されたコイルという観点で見ると,2本連続で同じサイズのコイルを選択した例と異ならないということができる。控 成するための二次コイル径3㎜・長さ4㎝のコイル2である()から,本件右側構成成分に挿入されたコイルという観点で見ると,2本連続で同じサイズのコイルを選択した例と異ならないということができる。控訴人らの上記の主張も採用することができない。 ⑶ そうすると,当時の医療水準が控訴人ら主張のとおりであったとは認められないから,その余について判断するまでもなく,I医師及びJ医師にコイル5の二次コイル径・長さの選択についての注意義務違反があったとはいえない。 6 争点5(カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔し,カテーテル2又はコイル5を抜去したことについての注意義務違反の有無)について控訴人らは,I医師及びJ医師においては,コイル5の挿入時に,誤って,カテーテル2を動かしてその先端で本件左側構成成分のネック部分を穿孔し,又は,フレームの形成が不十分であった上記部分をコイル5で穿孔したところ,このような場合には,カテーテル2又はコイル5を慌てて抜去することなく,瘤外でコイルを巻いてから瘤内の塞栓をするのが当時の医療水準であったのに,I医師及びJ医師は,瘤外でコイルを巻くことなく,慌ててカテーテル2又はコイル5を抜去したと主張するところ,確かに,上記場合に,カテーテル又はコイルを慌てて抜去することなく,瘤外でコイルを巻いてから瘤内の塞栓をするのは,当時の医療水準であった(甲B3の35~39頁,乙B5の104,105頁)。 しかし,本件手術の画像が十分に保存されていないこと(前記4⑶)などから,コイル5が挿入されるに当たって,カテーテル2やコイル5がどのような 動きをしたのかを検証することはできず,本件全証拠をもってしても,I医師及びJ医師が,コイル5の挿入時に,誤って,カテーテル2を動かしてその先端で上記部分を穿孔し,慌 イル5がどのような 動きをしたのかを検証することはできず,本件全証拠をもってしても,I医師及びJ医師が,コイル5の挿入時に,誤って,カテーテル2を動かしてその先端で上記部分を穿孔し,慌ててカテーテル2を抜去したとは認めるに足りないといわざるを得ないし,また,前記4⑶のとおり,本件再破裂の原因が,コイル5が上記部分を穿孔したことと認められるとしても,I医師及びJ医師が慌ててコイル5を抜去したとは認めるに足りないといわざるを得ない。 そうすると,控訴人らの上記の主張は採用することができない。 7 争点6(カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔したことを見落としたことについての注意義務違反の有無)について控訴人らは,カテーテル2又はコイル5で本件動脈瘤を穿孔した場合には,穿孔の事実を見落とさない注意義務があったのに,I医師及びJ医師は,上記事実を見落としたと主張し,I医師及びJ医師が,画像上,上記事実を確認することができていないのは,I医師及びJ医師が上記事実を見落としたことの証左であると指摘する。 しかし,前記4⑶のとおり,本件手術の画像が十分に保存されていないことなどから,上記事実があったか否かを検証することはできず,本件全証拠をもってしても,I医師及びJ医師が上記事実を見落としたとは認めるに足りないといわざるを得ない。かえって,「血管壁にコイルの先端が刺さって穿孔が生じていても,コイルの先端がほとんど瘤外へ出ていないこともあり,そのような場合は,透視画像上でコイルによる穿孔を確認するのは困難である。」との指摘(乙B9の2)もあり,そもそもI医師及びJ医師において上記事実を確認することが不可能であった可能性もある。 そうすると,控訴人らの上記の主張は採用することができない。 8 争点7(控訴人らが被った損害)につ )もあり,そもそもI医師及びJ医師において上記事実を確認することが不可能であった可能性もある。 そうすると,控訴人らの上記の主張は採用することができない。 8 争点7(控訴人らが被った損害)について前記2⑶,3⑴ウ,⑵ウのとおり,前記2⑴,3H医師の各説明義務違反については,Gの死亡との間に相当因果関係があるということが できず,Gの自己決定権の侵害があったものとして,その精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるにとどまるというべきであるが,前記4⑶のとおり,同⑵エのI医師の注意義務違反については,Gの死亡との間には相当因果関係が認められるから,以下においては,上記注意義務違反によって控訴人らが被った損害について検討する。 ⑴ Gが被った損害Gは死亡した平成▲年▲月▲日当時41歳の主婦であった(前提事実⑴ア)ところ,家事従事者の逸失利益は,賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とし,就労可能年数の期間に応じて計算するのが相当である(最高裁判所昭和49年7月19日第二小法廷判決・民集28巻5号872頁)。 この点,平成25年の上記賃金額は353万9300円であり(公知の事実),Gの就労可能年数は67歳までの26年(年5%の割合によるライプニッツ係数は14.3752)であるところ,主婦の生活費控除率は30%とするのが相当であるから,Gは,逸失利益として,3561万4701円(=353万9300円×〔100%-30%〕×14.3752〔小数点以下切捨て〕)の損害を被ったと認められる。 そして,Gの逸失利益については,相続分が各4分の1である(前提事実⑴ア)控訴人A及び控訴人Bが各890万3675円を,また,相続分が2分の1である(同)控訴人Cが1780万7351円 められる。 そして,Gの逸失利益については,相続分が各4分の1である(前提事実⑴ア)控訴人A及び控訴人Bが各890万3675円を,また,相続分が2分の1である(同)控訴人Cが1780万7351円を,それぞれ相続したと認められる。 ⑵ 控訴人ら固有の慰謝料Gが,控訴人A(当時13歳)及び控訴人B(当時10歳)の母親であり,控訴人Cの配偶者であり,控訴人D及び控訴人Eの子であったこと(前提事実⑴ア)に照らすと,控訴人らが,Gの容体の急変そして死亡により,それぞれ大きな精神的苦痛を被ったことは明らかであり(甲A2,3,乙A 1の20~22,25,27,34,61頁等,控訴人D),控訴人らの各精神的苦痛を慰謝するための固有の慰謝料については,次のとおり合計2400万円と認めるのが相当である。 ア控訴人A固有の慰謝料 550万円イ控訴人B固有の慰謝料 550万円ウ控訴人C固有の慰謝料 1000万円エ控訴人D固有の慰謝料 150万円オ控訴人E固有の慰謝料 150万円⑶ 葬祭費用弁論の全趣旨によれば,控訴人CはGの葬祭費用を支出したものと認められるところ,葬祭費用については,相当額である150万円と認めるのが相当である。 ⑷ 控訴人らの弁護士費用前記⑴の控訴人A,控訴人B及び控訴人Cが相続したGの逸失利益,前記⑵の控訴人ら固有の慰謝料,上記⑶の控訴人Cが支出した葬祭費用を前提にすると,控訴人らが要することとなった弁護士費用は,控訴人らの損害小計の約1割の次のとおりとするのが相当である。 ア控訴人A 144万円イ控訴人B すると,控訴人らが要することとなった弁護士費用は,控訴人らの損害小計の約1割の次のとおりとするのが相当である。 ア控訴人A 144万円イ控訴人B 144万円ウ控訴人C 293万円エ控訴人D 15万円オ控訴人E 15万円⑸ 控訴人らの損害合計前記⑴の控訴人A,控訴人B及び控訴人Cが相続したGの逸失利益,前記⑵の控訴人ら固有の慰謝料,前記⑶の控訴人Cが支出した葬祭費用に,上記⑷の控訴人らの弁護士費用を合計すると,控訴人らが被った損害の合 計は次のとおりとなる。 ア控訴人A 1584万3675円イ控訴人B 1584万3675円ウ控訴人C 3223万7351円エ控訴人D 165万円オ控訴人E 165万円 9 その他,原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み,証拠を検討しても,当審における上記認定判断を左右するには足りない。 第4 結論以上の次第で,控訴人らの各請求は,前記第3の8⑸の各金員及び上記各金員に対する平成25年7月1日から各支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきであるところ,これと異なる原判決は不当であって,本件各控訴はその限度で理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部 裁判長裁判官西井 主文 よって,主文のとおり判決する。 理由 ないから棄却すべきであるところ,これと異なる原判決は不当であって,本件各控訴はその限度で理由がある。 広島高等裁判所第3部 裁判長裁判官西井和徒 裁判官絹川泰毅 裁判官澤井真一
▼ クリックして全文を表示