- 1 -令和3年(行ヒ)第171号山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件令和4年3月18日第二小法廷判決 主文 原判決を破棄する。 本件を仙台高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人村山永の上告受理申立て理由について 1 本件は,労働組合である上告補助参加人から,使用者である被上告人の団体交渉における対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する旨の申立て(以下「本件申立て」という。)を受けた処分行政庁が,上告補助参加人の請求に係る救済の一部を認容し,その余の申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発したところ,被上告人が,上告人を相手に,本件命令のうち上記の認容部分(以下「本件認容部分」という。)の取消しを求める事案である。 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 国立大学である山形大学を設置する被上告人は,平成25年頃,その雇用する教職員等によって組織された労働組合である上告補助参加人に対し,平成24年度の人事院勧告に倣って平成26年1月1日から教職員のうち55歳を超える者の昇給を抑制することにつき,団体交渉の申入れをした。 被上告人は,平成26年頃,上告補助参加人に対し,平成26年度の人事院勧告に倣って平成27年4月1日から教職員の給与制度の見直し(賃金の引下げ)をすることにつき,団体交渉の申入れをした。 被上告人は,平成25年11月以降,上告補助参加人との間で,上記及びの各事項(以下「本件各交渉事項」という。)につき複数回の団体交渉をしたが,その同意を得られないまま,同27年1月1日から上記の昇給の抑制を実施し,同年4月1日から上記の見直し後の給与制度 及びの各事項(以下「本件各交渉事項」という。)につき複数回の団体交渉をしたが,その同意を得られないまま,同27年1月1日から上記の昇給の抑制を実施し,同年4月1日から上記の見直し後の給与制度を実施した。 上告補助参加人は,平成27年6月22日,処分行政庁に対し,本件申立て- 2 -をした。 本件申立ては,本件各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の対応が不誠実で労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして,被上告人に対し,本件各交渉事項につき誠実に団体交渉に応ずべき旨及び上記団体交渉につき不当労働行為であると認定されたこと等を記載した文書の掲示等をすべき旨を命ずる内容の救済を請求するものである。 処分行政庁は,平成31年1月15日付けで,被上告人に対し,本件命令を発した。 本件命令は,本件各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の対応につき,昇給の抑制や賃金の引下げを人事院勧告と同程度にすべき根拠についての説明や資料の提示を十分にせず,法律に関する誤った理解を前提とする主張を繰り返すなどかたくななものであったとして,労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとした上,被上告人に対し,本件各交渉事項につき,適切な財務情報等を提示するなどして自らの主張に固執することなく誠実に団体交渉に応ずべき旨を命じ(本件認容部分),その余の申立てを棄却するものである。 3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,本件認容部分は違法であるとして,その取消しを求める被上告人の請求を認容すべきものとした。 本件命令が発せられた当時,昇給の抑制や賃金の引下げの実施から4年前後経過し,関係職員全員についてこれらを踏まえた法律関係が積み重ねられていたこと等からすると,その時点において,本件各交渉事項につき被上 命令が発せられた当時,昇給の抑制や賃金の引下げの実施から4年前後経過し,関係職員全員についてこれらを踏まえた法律関係が積み重ねられていたこと等からすると,その時点において,本件各交渉事項につき被上告人と上告補助参加人とが改めて団体交渉をしても,上告補助参加人にとって有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと認められるから,仮に被上告人に本件命令が指摘するような不当労働行為があったとしても,処分行政庁が本件各交渉事項についての更なる団体交渉をすることを命じたことは,その裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次- 3 -のとおりである。 労働委員会は,救済命令を発するに当たり,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨,目的に由来する限界を逸脱することは許されないが,その内容の決定について広い裁量権を有するのであり,救済命令の内容の適法性が争われる場合,裁判所は,労働委員会の上記裁量権を尊重し,その行使が上記の趣旨,目的に照らして是認される範囲を超え,又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り,当該命令を違法とすべきではない(最高裁昭和45年(行ツ)第60号,第61号同52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)。 労働組合法7条2号は,使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ,使用者は,必要に応じてその主張の論拠を説明し,その裏付けとなる資料を提示するなどして,誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い,この義務に違反する として禁止するところ,使用者は,必要に応じてその主張の論拠を説明し,その裏付けとなる資料を提示するなどして,誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い,この義務に違反することは,同号の不当労働行為に該当するものと解される。そして,使用者が誠実交渉義務に違反した場合,労働者は,当該団体交渉に関し,使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができず,誠実な交渉を通じた労働条件等の獲得の機会を失い,正常な集団的労使関係秩序が害されることとなるが,その後使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば,このような侵害状態が除去,是正され得るものといえる。そうすると,使用者が誠実交渉義務に違反している場合に,これに対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令(以下「誠実交渉命令」という。)を発することは,一般に,労働委員会の裁量権の行使として,救済命令制度の趣旨,目的に照らして是認される範囲を超え,又は著しく不合理であって濫用にわたるものではないというべきである。 ところで,団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合には,誠実交渉命令を発しても,労働組合が労働条件等の獲得の機会を現実- 4 -に回復することは期待できないものともいえる。しかしながら,このような場合であっても,使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは,その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば,労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに,組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから,誠実交渉命令を発することは,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回 ついても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから,誠実交渉命令を発することは,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図ることに資するものというべきである。そうすると,合意の成立する見込みがないことをもって,誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨,目的に由来する限界を逸脱するということはできない。 また,上記のような場合であっても,使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかであるから,誠実交渉命令が事実上又は法律上実現可能性のない事項を命ずるものであるとはいえないし,上記のような侵害状態がある以上,救済の必要性がないということもできない。 以上によれば,使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,誠実交渉命令を発することができると解するのが相当である。 本件認容部分は,被上告人が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をしたとして,被上告人に対して本件各交渉事項につき誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずる誠実交渉命令であるところ,原審は,本件各交渉事項について,被上告人と上告補助参加人とが改めて団体交渉をしても一定の内容の合意を成立させることは事実上不可能であったと認められることのみを理由として,本件認容部分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であると判断したものである。そうすると,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件- 5 -各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の 決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件- 5 -各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の対応が誠実交渉義務に違反するものとして不当労働行為に該当するか否か等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官岡村和美裁判官菅野博之裁判官三浦守裁判官草野耕一)
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