令和1(う)163 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反,公契約関係競売入札妨害

裁判年月日・裁判所
令和2年4月7日 広島高等裁判所 棄却 山口地方裁判所 平成30(わ)329
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本件は、被告人が公務員としての地位を利用し、入札談合等関与行為防止法に違反して、特定の工事の設計金額を業者に教示した事案である。原審では、被告人が業者に対し入札金額を決定するための設計金額を教えたことが認定され、入札妨害の罪が成立した。控訴審では、被告人は原判決に対し、供述の信用性を疑問視し、事実誤認を主張したが、裁判所は供述の整合性や証拠の信頼性を重視し、原判決を支持した。判決は、被告人の行為が入札の公正を害したとし、控訴を棄却した。これにより、入札談合等関与行為防止法の適用が確認され、公共工事における透明性の重要性が再確認された。

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判決文本文5,819 文字)

令和2年4月7日宣告広島高等裁判所令和元年(う)第163号入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下「入札談合等関与行為防止法」という。)違反,公契約関係競売入札妨害被告事件原審山口地方裁判所平成30年(わ)第329号,第363号 主文 本件控訴を棄却する。 理由 1 控訴趣意本件控訴の趣意は,主任弁護人沖本浩,弁護人清木敬祐共同作成の控訴趣意書,同補充書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。論旨は,原判示第1及び第2の各公共工事の設計金額をAに教示したのは被告人ではないから,信用性のないA供述等に依拠して被告人の実行行為及び共謀の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。そこで,記録を調査して検討する。 2 本件事案の概要と原判決の要旨⑴ 本件事案の概要本件は,当時X県Y市の財政部技監等の地位にあった被告人が,土木建築工事等を業とするB社の代表取締役であるA,B社の従業員として競争入札における入札金額を決めるための積算事務を担当していたCと共謀の上,①Y市が平成28年11月に入札を執行した甲工事の条件付一般競争入札及び②Y市が平成29年12月に入札を執行した乙工事の条件付一般競争入札に際し,Aに対し,落札可能額の下限を画する判断基準額の算定基礎であり,入札に関する秘密である設計金額をそれぞれ電話で教示し,B社をして,①については判断基準額と同額,②については判断基準額に近似する額で入札させて各工事を落札させたという入札談合等関与行為防止法違反,公契約関係競売入札妨害の事案である。 ⑵ 原判決の要旨原判決は,論旨と ②については判断基準額に近似する額で入札させて各工事を落札させたという入札談合等関与行為防止法違反,公契約関係競売入札妨害の事案である。 ⑵ 原判決の要旨原判決は,論旨と同旨の原審弁護人の主張に対し,【事実認定の補足説明】の項において,要旨,以下のとおり説示している。 Aは公判廷において,「甲工事及び乙工事は,B社が是非とも受注したいと考えていた。Y市が算出した税抜き設計金額がわかっていれば,判断基準額(失格にならない最低金額)がおおよそ算出できて落札しやすくなるので,各入札に先立って,それぞれ被告人から設計金額を教えてもらって紙に書き留め,積算事務を行う従業員であるCに渡して積算内容を調整してもらい,入札額を決めていた。」旨供述している。 A供述のうち,「AがCに設計金額を教えた」という点については,Cの供述に加え,積算事務に使用されるソフトウェア(以下「積算ギア」という。)の自動バックアップファイル機能により保存されていた積算データの変遷と整合していること,両工事の設計金額は外部からの推測が困難である上,乙工事の設計金額には違算があり,正当な手法による合理的な推測よりも5万円低い金額になっていたにもかかわらず,B社はいずれも市が算出した設計金額を算定基礎とする判断基準額と同額ないし近似額で入札していることに照らし,十分信用できる。 A供述のうち,「被告人から設計金額を教えてもらった」という点についてみると,Aは捜査段階から一貫して被告人が入手源である旨を供述しているところ,Aが被告人を陥れるような事情は見当たらず,被告人以外の市関係者とAとの間に設計金額を密かに伝えるだけの個人的関係や漏えいの痕跡もうかがわれない。関係証拠によれば,被告人とAとの間には,かねてよりAが被告人の執務机を度々訪ねたり 当たらず,被告人以外の市関係者とAとの間に設計金額を密かに伝えるだけの個人的関係や漏えいの痕跡もうかがわれない。関係証拠によれば,被告人とAとの間には,かねてよりAが被告人の執務机を度々訪ねたり,被告人に歳暮等を贈ったりする関係があっただけでなく,原判示の各工事の公告から入札執行日までの間に,いずれも個人的に使用する携帯電話で通話をしていたことが認められ,このような通話の存在は,設計金額を知る立場にある市の職員と,設計金額を推し量ろうとする業者の代表者という関係にはそぐわない,職務上必要な域を超えたやりとりの存在を疑わせるのに十分なものである。このような被 告人とAの関係性は,A供述の信用性を補強するものである。さらに,関係証拠によれば,被告人は,私用で使っていた手帳に,本件各工事の設計金額を記載していたことが認められる。被告人はこの記載について,決裁書類が手元に回ってきた際に,所管課との事前協議で気になった工事を書くことがあり,設計金額は工期の判断の目安として書いたに過ぎないなどと述べるが,そもそも被告人があえて私用の手帳に設計金額を書き残すまでの合理的な必要性は見出し難い上,真に職務の過程で必要に応じて行っていたのであれば容易に説明可能な事項であるのに,被告人は,この点につき捜査段階では覚えていない,分からないとさせてくださいなどと曖昧な供述をしていたもので,信用できず,この記載もA供述を補強するものである。 A供述は十分に信用でき,同供述を中核とする関係証拠により,原判示罪となるべき事実を優に認定できる。 以上の原判決の説示に論理則,経験則等に照らし不合理な点はない。 3 所論の検討⑴ 所論は,A及びCの供述によれば,①公告日から⑦入札日に至るまでの設計金額漏えいの事実経過は「②Cが積算を行い,積算結果に自信 示に論理則,経験則等に照らし不合理な点はない。 3 所論の検討⑴ 所論は,A及びCの供述によれば,①公告日から⑦入札日に至るまでの設計金額漏えいの事実経過は「②Cが積算を行い,積算結果に自信がない旨をAに告げる,③Aが被告人に電話をかけて設計金額の教示を依頼する,④Aが被告人に電話をかけて設計金額の教示を受ける,⑤AがCに設計金額を記載した紙を渡す,⑥Cが設計金額に近付けるように積算結果を操作する」という順序であり,②から⑤までの期間は概ね1週間であるところ,甲工事については,Cが②の積算を終えた頃(平成28年11月12日)から⑥の積算を開始した頃(同月17日)までの間に③,④に対応する被告人とAとの通話がなく,乙工事については,公告日から入札日までのAの携帯電話からの発信履歴が証拠上存在しないから,Aの供述は信用できないという。 ⑵ 確かに,設計金額の情報入手に関し,Aは,「設計金額を被告人から聞いたら紙に書き,Cに渡して,Cが事前に行っていた積算と照らし合わせて,市の設計金額に合わせていってもらっていた」,「被告人から設計金額を聞くときは,いつ も自分から電話していると思う」,「設計金額の教示を依頼する電話をかけてすぐ教えてもらったことはないと思う,少なくとも2回は電話をしており,電話以外で教えてもらったこともなかったと思う」旨を供述し,Cも,「公告が出ると,自分がそれを見て,落札するかどうかAと相談していた」,「入札に必要な積算をしていると,Aから,市の設計金額に近い金額が出せるか尋ねられ,できないと答えると,Aが調べてみようかと言って,一週間後くらいに設計金額を記載した紙片を渡されていた」,「入札には必ず積算が必要になるので,積算をする前からAに市の設計金額を聞いたことはなかったと思う」旨を供述している が調べてみようかと言って,一週間後くらいに設計金額を記載した紙片を渡されていた」,「入札には必ず積算が必要になるので,積算をする前からAに市の設計金額を聞いたことはなかったと思う」旨を供述している。これら供述を総合すると,おおむね所論のいうような流れで被告人からAに対し設計金額の漏えいがなされたことがうかがわれる。 しかし,上記の各供述はいずれも,被告人から設計金額の教示を受けた工事が十数件あったことを前提にして,設計金額の教示について,通常そのようにしていたという経過を説明したものであり,本件各事案の個別の経過として述べられたものではないことは,その供述の趣旨から明らかであって,所論がいうほど例外があり得ないものとは解されない。 ところで,関係証拠によれば,甲工事の公告日である平成28年11月7日から,Cに設計金額が伝わり積算結果の操作を始めた同月17日までの間,Aが,同月7日午後5時52分及び同月11日午後5時35分の2回にわたって被告人に電話をかけたことが認められる。Aは,その証人尋問中,発信履歴の写しを示されて,これら2回の通話を含む公告日から入札日までの4回の被告人との通話(Aから被告人への発信が3回,被告人からAへの発信が1回。)のいずれかで設計金額の教示を受けた旨述べている。この供述は,Cが積算結果の操作を始めた時期(同月17日)を特定した上での尋問に対するものではないため,概括的な形での答えになっているが,上記時期との関係を踏まえると,Aの供述の趣旨は前記2回の電話のいずれかで設計金額の教示を受けたものと解することができる。原判決が説示するように,両者が個人的に使用する携帯電話を使用する以外の方法で被告人がAに設計金額を 電話で教えた可能性も否定はできないとしても,Aの前記供述を前提とする限りでい る。原判決が説示するように,両者が個人的に使用する携帯電話を使用する以外の方法で被告人がAに設計金額を 電話で教えた可能性も否定はできないとしても,Aの前記供述を前提とする限りでいえば,前記2回の電話での被告人とのやりとりがこれに該当し,公告日である11月7日当日にAが依頼し,被告人は,公告日前の決裁の段階で手帳にメモして控えていた設計金額を,依頼から4日後の11月11日に教示したとみて証拠上の矛盾はない。 所論は,前記のとおり,③と④が別の電話であり,②から⑤までの期間が概ね1週間であったとするA及びCの各供述から,③の電話の時点でAがかけた電話の相手は設計金額を知らず,これを入手して教えるまで概ね1週間を要したと考えるべきであるという前提の下に,仮に被告人が犯人であるとすれば,Aに設計金額を教示するには公告後に契約管理課の施錠されたロッカーに保管されている設計図書を盗み見るしかないが,これは非常に困難である,などと主張する。しかしながら,被告人は,公告日前に行われる決裁に関与しており,その段階で設計金額を知り得る立場にあったから,公告日以降においてロッカーに保管されている設計図書をあえて盗み見る必要はない上,Aから問われた設計金額を犯人がいつ答えるか,設計金額を聞いたAがいつこれをCに伝えるかといった時期の問題は,各人の思惑や都合によっても左右され得るものであるから,所論の指摘は当を得ない。 また,所論は,被告人が前記決裁の段階から設計金額をメモするほどの理由がないともいうが,Aが被告人から本件以外にも十数件の公共工事の設計金額について情報教示を受けていたことなどの事情からは,被告人がAからの教示の依頼を想定し設計金額を手帳にメモしておくことは十分にあり得たことといえる。所論は採用できない。 ⑶ 乙工事に の設計金額について情報教示を受けていたことなどの事情からは,被告人がAからの教示の依頼を想定し設計金額を手帳にメモしておくことは十分にあり得たことといえる。所論は採用できない。 ⑶ 乙工事についても,原判決は,Aらの供述をはじめとする関係証拠の信用性を検討し,その信用性が十分であるとして,原判示のとおり被告人が電話で教示した旨認定したものである。その信用性判断に論理則,経験則等に照らし不合理な点はなく,裏付けとなるはずのAから被告人あての発信履歴が証拠として存在しないことは前記認定を左右するものとはいえない(なお,発信履歴が証拠として存在し ない点については,原審において釈明するなどして,その事情を明らかにしておくのが望ましかったといえる。)。 ⑷ 所論は,被告人の事務分掌から外れており,決裁に関与していない工事について,B社の積算ギアのデータに,入札日以前に保存されたにもかかわらず積算結果が設計金額と一致し,ファイル名に「ピッタリOK」の文言が付されたものがあり,Aの手帳にも同工事の設計金額等が記載されていることからみて,Aは同工事の入札執行前に,被告人以外の者から設計金額の情報を得ていたことが認められ,本件についても被告人以外の者から情報を入手していた疑いがあるという。しかしながら,原判決が適切に説示するとおり,被告人が,あえて私用の手帳に本件各工事の設計金額を記載すべき合理的な理由は見出し難く,この点についての被告人の説明は内容及び供述経過に照らし不合理な弁解といわざるを得ない。少なくとも本件については,被告人自身の手帳の記載に裏付けられたA供述の信用性は十分であり,所論指摘の点は同供述の信用性を左右しない。 ⑸ 所論は,被告人以外にもAと頻繁に通話をしているY市関係者が存在するから,原判決が,被告人が の手帳の記載に裏付けられたA供述の信用性は十分であり,所論指摘の点は同供述の信用性を左右しない。 ⑸ 所論は,被告人以外にもAと頻繁に通話をしているY市関係者が存在するから,原判決が,被告人がAと通話していたことをもって「職務上必要な域を超えたやりとりを疑わせる事実がある」としたのは誤りであるというが,所論のうち,原審記録に基づかない部分は不適法であり,また,原審記録に基づく部分について検討してみても,そもそも,市の入札の公告から入札執行日までの間に,設計金額を知る立場にある市職員である被告人と,入札参加を希望する業者の代表者であるAが私用の携帯電話で連絡を取ることが,それ自体職務上必要な域を超えたやりとりを疑わせる行為であることは明らかであって,原判決の前記評価に誤りはない。 ⑹ 所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。 4 結論よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 令和2年4月7日 広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官多和田隆史 裁判官水落桃子 裁判官廣瀬裕亮

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