本件は、原告が名古屋市立大学大学院に対し、入学金の返還を求めた事案である。原告は入学手続時に錯誤があったと主張し、消費者契約法に基づく不当利得返還請求権を根拠に入学金33万2000円の返還を求めた。主要な争点は、入学許可が行政処分であるため消費者契約法が適用されないか、または入学金の不返還規定が消費者契約法に反するかであった。裁判所は、入学金の不返還規定が消費者契約法に違反し、原告の請求を認め、入学金の返還を命じた。判決は、原告の主張を支持し、被告に対し入学金の返還を命じるものであった。
平成19年3月23日判決言渡し平成17年(ワ)第4665号入学金返還請求事件主文 被告は,原告に対し,33万2000円及びこれに対する平成17年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,原告が名古屋市立大学大学院(以下「被告大学院」という)の入。 学に関する意思表示に錯誤があったなどとして,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき入学料の返還及びこれに対する催告の後である平成17年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 争いのない事実等(1)ア原告は,平成16年当時,愛知県半田市内に居住し,製薬会社(以下「勤務会社」という)に勤務していた者である。 。 イ被告は,平成18年4月1日に成立した地方独立行政法人(地方独立行政法人法・平成15年法律第118号)であり,名古屋市内において被告大学院を運営している。 平成16年当時,被告大学院は名古屋市により運営されていたが,被告は,その成立時に,同法66条1項により,名古屋市から,名古屋市立大学(被告大学院を含む)の学生の入学金,授業料等を返還する金銭債務。 を承継した。 Aは,被告大学院医学研究科の教授である。 Bは,被告大学院医学研究科の助教授であり,A教授の研究室に所属していた。 (2) 原告は,平成17年度の被告大学院医学研究科博士課程の入学者選抜試験を受験した(甲2。 )名古屋市立大学長は,平成16年10月15日,原告に対し,入学の日を平成17年4月1日とし,被告大学院医学研究科博士課程に入学することを許可した(甲5。 )原告は,平成16年10月2 (甲2。 )名古屋市立大学長は,平成16年10月15日,原告に対し,入学の日を平成17年4月1日とし,被告大学院医学研究科博士課程に入学することを許可した(甲5。 )原告は,平成16年10月28日,当時,被告大学院を設置,運営していた名古屋市に対し,入学料33万2000円を納付し,必要書類を提出して所定の入学手続を行った(甲4,6,7。 )原告は,平成17年4月13日,被告大学院の担当者に対し,入学料33万2000円の返還を求めた(甲29。 )(3) 被告大学院では,学生募集要項及び入学手続要項により,入学料は入学手続時に納付し,授業料は入学後に納付することとされていた(甲1,4。 )名古屋市立大学の授業料等徴収条例(以下「本件条例」という)2条に。 は「既納の授業料,入学料,入学検定料及び学位審査料は,これを還付しない」と規定されている(乙2。 。 ) 原告の主張(1) 錯誤無効被告大学院への入学は,入学手続書類一式と入学料33万2000円が納付されることで,互いの意思表示が交わされて成立する契約である。 原告は,担当教員との面談等を踏まえ,社会人として働きながら休職することなく,4年間の全履修課程を研究室側との柔軟な対応で進められると確信し,この条件を前提に,入学料を納付して被告大学院への入学手続を行った。 この原告の意思表示は,法律行為の要素に錯誤があるから無効である。 (2) 消費者契約法4条1項,2項原告は,消費者契約法2条1項の「消費者」に該当し,被告は,教育機会の提供と人材育成を業としている事業者であるから,同条2項の「事業者」に該当する。 そして,本件における入学及び入学料支払手続は,消費者と事業者との間で締結される契約であり,同法の適用を受ける。 A教授及びB助教授らは,原告を勧誘した。また,同法4条1 項の「事業者」に該当する。 そして,本件における入学及び入学料支払手続は,消費者と事業者との間で締結される契約であり,同法の適用を受ける。 A教授及びB助教授らは,原告を勧誘した。また,同法4条1項及び2項に該当する誤認及び錯誤の事実は,上記(1)のとおりである。 さらに,本件において契約を締結するか否かの判断に通常影響を及ぼすべきものである「重要事項」は,社会人博士課程入学及び全ての履修課程における入学及び履修必須条件であり,入学料であったのであり,同法4条4項の1号及び2号に該当する。 (3) 消費者契約法8条1項1号,5号原告は,被告大学院の入学を許可されていたにもかかわらず,A教授により原告の入学及び履修を拒否された。 入学料を支払った上で成立した契約について,被告大学院側自らが拒否したのであるから,債務不履行に当たる。 したがって,本件は,消費者契約法8条1項の1号及び5号に該当する。 (4) 消費者契約法10条入学料の不返還規定(本件条例2条)は,消費者の利益を一方的に害する契約条項であるから,消費者契約法10条により無効である。 被告の主張(1) 入学許可には消費者契約法の規定や民法95条は適用されないことア国公立大学への入学許可は,市民としての公の施設の利用関係を設定するものであるから,私立大学への入学を許す行為とは趣を異にし,行 政庁としての学長の処分に当たるものと解するのが相当である。 また,公立大学は,普通地方公共団体が住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設である公の施設に当たるが,その公の施設の使用関係の設定は使用許可という行政処分で行われるものとされており,本件における入学許可も公の施設の使用関係の設定という内容を含んでいるものであるから,行政処分と解すべきである。 イ被告大学院の の使用関係の設定は使用許可という行政処分で行われるものとされており,本件における入学許可も公の施設の使用関係の設定という内容を含んでいるものであるから,行政処分と解すべきである。 イ被告大学院の入学許可は行政処分であり,被告大学院の入学料は本件条例及び名古屋市立大学大学院学則により定められているものであり,原告と被告との間の契約や意思表示によって決まるものではない。 また,本件条例2条は「既納の入学料はこれを還付しない」と規定し。 ている。 したがって,消費者契約に適用される消費者契約法の規定や,意思表示に適用される民法95条は,行政処分である被告大学院の入学許可に対して適用されない。 ウ行政処分の公定力を排除するためには,原告において処分取消訴訟を提起すべきであるが,原告は同訴訟を提起していない。行政処分である入学許可から当然に発生する入学料の返還を求めるためには,原告において行政処分の無効を主張する必要があり,行政処分の公定力を排除するためには重大かつ明白な無効事由が必要と解するが,原告はそのような主張をしていないし,本件において重大かつ明白な無効事由は存しない。 (2) 原告の主張(1)(錯誤無効)に対する反論ア法律行為の要素に錯誤がないこと(ア) 入学料そのもの及びその返還について,原告に要素の錯誤は存しない。原告は,入学手続前に被告大学院医学研究科の学生募集要項を入手しているところ,同要項には入学料の金額及び「既納の納付金は返 還しない」と明記されており,原告は,既納の入学料が返還されない。 ことを認識していた。 (イ) 原告は,休職せず働きながら柔軟な対応で被告大学院での履修が可能であると思ったのに,実際はそうでなかったため錯誤が存するなどと主張する。しかし,A教授は入学許可前の口答試験においても「最,低1年 原告は,休職せず働きながら柔軟な対応で被告大学院での履修が可能であると思ったのに,実際はそうでなかったため錯誤が存するなどと主張する。しかし,A教授は入学許可前の口答試験においても「最,低1年間は研究に集中することが必要である」と述べており,原告は。 これに対して何ら異議を唱えていないのであるから,原告は,最低1年間は研究に集中することが必要であることは認識していたものであり,上記のような錯誤があったとは考えられない。 (ウ) 仮に,原告に上記のような錯誤があったとしても,それは動機の錯誤であるから,原告の内心の動機が被告大学院側に表示されて意思表,示の内容となることが必要である。しかし,原告は,入学料を納付し入学手続を行うまでの間に,被告大学院側に対し,内心の動機を表示していない。 (エ) 法律行為の要素の錯誤というためには,その錯誤がなかったならば当該意思表示をしなかったであろうという要件ばかりでなく,通常人であっても同様であろうといえなければならない。原告は,入学手続までの間,勤務会社と何らの調整をしていなかったようであるが,高度な学問を研究する大学院の入学にあたり,入学希望者が在籍する会社と入学手続前に相談することは当然のことである。原告はA教授から,口答試験の際に「勤務先のバックアップの方法が不明で,会社の,部長の方とお会いしたい」と言われているのであるから,入学志望者。 としては,このような教授の言に従って勤務会社と相談し,その結果を早期に報告するのが通常である。 さらに,原告は,B助教授の電子メールによって錯誤に陥ったと主張するが,B助教授の電子メールの趣旨は,A教授の言と異なるもの ではない。仮に,原告が,B助教授の電子メールの内容をA教授の言と異なるものと考えたというのであれば,被告大学院側の意向を確認 主張するが,B助教授の電子メールの趣旨は,A教授の言と異なるもの ではない。仮に,原告が,B助教授の電子メールの内容をA教授の言と異なるものと考えたというのであれば,被告大学院側の意向を確認。 するのが通常であるが,原告は,そのような行動を全くとっていない原告は,勤務会社とも相談せず,入学手続から5か月が経過した平成。 17年3月に至って初めて自らの研究計画の私案を述べたにすぎないイ原告に重過失があること原告に錯誤があったとしても,上記アの事実からすれば,その錯誤には重大なる過失があった。 (3) 原告の主張(2)(消費者契約法4条1項1号,2号)に対する反論消費者契約法4条1項は「勧誘」を要件としているが,被告大学院側が,原告を勧誘した事実はない。原告は,自らの意思で自発的に被告大学院を志望し,被告大学院側は原告からの質問に答えていたにすぎない。 また,本件では同法4条1項の「重要事項」の誤認はない。 (4) 原告の主張(3)(消費者契約法8条1項1号,5号)に対する反論,消費者契約法8条1項各号は,事業者が債務不履行又は不法行為を行いあるいは目的物に瑕疵があることを要件としているが,本件ではこのような事実は存在しない。 (5) 不返還規定本件条例2条には「既納の入学料は還付しない」旨規定している。 。 この規定は,消費者契約法10条に該当するものでない。 第3当裁判所の判断 前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし18,22ないし28,乙4,7,17,証人A,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,勤務会社の勤務を続けながら,被告大学院医学研究科において,「トキシコゲノミクス(個体,組織あるいは細胞における遺伝子のすべて」 をゲノムといい,ゲノムを網羅的に解析することをゲノ 1) 原告は,勤務会社の勤務を続けながら,被告大学院医学研究科において,「トキシコゲノミクス(個体,組織あるいは細胞における遺伝子のすべて」 をゲノムといい,ゲノムを網羅的に解析することをゲノミクスという。トキシコゲノミクスは,ゲノミクスをトキシコロジーに応用する取組みである。 乙4)について研究し,博士課程を修了しようと考え,平成16年6月,職場の上司を通じ,この分野を研究対象とするA教授に連絡をとり,同人に対して面談を申し込んだ(甲11ないし13。 )原告は,同年7月2日,A教授及びB助教授と面談し,同人らに対し,「現在の職場で勤務を続けながら,トキシコゲノミクスの研究分野,技術を学びたい」旨話し,被告大学院医学研究科博士課程に入学し,A教授の指。 導の下で同研究を行うことを希望した。 A教授は,原告に対し「1~2年で授業の単位は取ることができる,,。」「社会人向けに,夜に授業がある」旨述べたほか「できれば最初の2年間。 ,あるいは1年間は学業に専念してほしい「研究室の皆で一緒に仕事をす。」,るというスタイルが大切である。自分だけの仕事だけでは済まない」旨告。 げた(甲8,乙17,証人A,原告本人。 。 )また,A教授は,原告に対し「トキシコゲノミクス研究は,B助教授が,主な担当としてすべて任せられているから,今後,直接の指導や博士課程に関する細かい点は,B先生から受けるようにして下さい」と告げた(証人。 A,原告本人。 )(2) その後,原告が,勤務会社の人事担当者に対し,勤務を続けながら大学院に通う場合に利用できる制度について問い合わせたところ,担当者から,そのような場合に利用できる特別な制度はなく,実際に大学院に通っている他の社員は,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで対応している旨回答され 制度について問い合わせたところ,担当者から,そのような場合に利用できる特別な制度はなく,実際に大学院に通っている他の社員は,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで対応している旨回答されたほか,被告大学院に通うのに必要な時間について報告するよう依頼された(原告本人。 )原告は,平成16年8月4日,A教授及びB助教授に対し,以下の内容の電子メールを送信した(甲14。ただし,A教授に対しては,カーボンコ) ピー(宛先のアドレスとは別に「CC」覧に記入したアドレスにも同内容の電子メールを送信する機能)として送信した。 「さて,博士課程の大学院生のコースワークと単位について質問があります。弊社の人事部と少し話しをしまして,活用できる制度がどこまであるのか,大まかに聞いたのですが,フルに2年を捻出できる程,制度が整っていないようなのです(もっと詳細に制度の「穴」をこれから調査しま。 す)。 そこで出てきた疑問で,本当にどれだけの時間とそれに関る単位を要求されているのか,という点です。 そこで質問を下記に書きますが,ご返答を頂きたいのと,できれば,B先生とお電話でお話しさせて下さいませ。 電話する時の,ご都合もお聞かせ下さい。 1,最低何単位の取得が必要でしょうか? 2,単位の構成はどのようなものでしょうか? 実験XX単位授業YY単位論文ZZ単位など3,博士大学院生の1年目,2年目の流れのイメージとしては,どのようなシナリオが(先生の要求する所の見解で)正しいでしょうか? 下記のイメージでしょうか? 想定シナリオ1年目:前半の半年:一日中コースワーク,授業のみに集中後半の半年:必要に応じて授業を受講実験の手技や実習の習得に集中2年目: 前半の半年:必要に応じて授業を受講実験の手技や実習の習得に集中研究室 前半の半年:一日中コースワーク,授業のみに集中後半の半年:必要に応じて授業を受講実験の手技や実習の習得に集中2年目: 前半の半年:必要に応じて授業を受講実験の手技や実習の習得に集中研究室の実験も全員参加で手助けを始める(手伝えるレベルにまで1年目で成長してから)後半の半年:論文向けの研究や実験の準備を始める論文に関る,実験の手技や実習の習得に集中研究室の実験も全員参加で手助け4,先生の要求する所シナリオでは,最初の2年間全ての実時間として,週に何時間大学で活動することが必要でしょうか? やはり,平日5日(40時間)+土曜日(8時間)=48時間でしょうか? 以上,よろしくお願い致します」。 B助教授は,同月5日,原告に対し,以下の内容の電子メールを返信した(甲15。 )「大学院の件を事務に聞きました。 名市大では社会人でも入学できる大学院を標榜していますので,共通の講義,演習などはすべて,夜6時半からで,2年間で24回あります。 研究に関しては,フレキシブルに時間を使っていただければ規則上は問題ありません。博士論文が書ければ問題ないようです。 A教授の意向として,2年間はできるだけ,来て欲しいとのことです。 その2年間で実験を行い,論文が書ければ,問題ありません。 募集要項は当方にありますので,よかったら取りに来て下さい。 来年度の大学院募集の締め切りが8月13日にせまっておりますので,入学を希望される場合はお急ぎ下さい」。 A教授は,上記原告の電子メールに対して返信しなかった(証人A。 )原告は,上記B助教授からの電子メールにより,被告大学院における研究 は,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで対応できると考え,勤務会社の人事担当者に対し,その旨報告した。人事担当者は,同月16日,原告に対し,原告が被告大 ,被告大学院における研究 は,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで対応できると考え,勤務会社の人事担当者に対し,その旨報告した。人事担当者は,同月16日,原告に対し,原告が被告大学院医学研究科博士課程を受験することを許可する旨受験許可書を交付した(乙7,原告本人。 )(3) 原告は,平成16年8月16日,被告大学院医学研究科博士課程の入学願書を提出し(乙7,同年9月30日に筆答試験を,同年10月2日にA教)授による口答試験をそれぞれ受験した(甲2,16。 )口答試験の際,A教授は,原告に対し「本当は,2年間フルに来て頂く,のが望ましい「研究室の皆とお互い助け合って研究するものである,。」,。」「研究室では,リサーチカンファレンス(週1回,午前8時20分から午前9時20分まで,ジャーナルクラブ(週3回,午前8時20分から午前9)時20分まで,解剖の結果報告(週1回,午前8時20分から午前9時2)0分まで)のゼミナールが合計週5回開かれており,これには参加が必要である「社会人向けに,夜の授業がある「研究室の皆で一緒に仕事を。」,。」,するというスタイルが大切。自分の仕事だけでは済まない「就学には勤。」,務先の理解が必要であろうから,会社の部長の方とお会いしたい」旨告げ。 た(甲9,乙17,証人A,原告本人。 )その後,原告は,この上司との面談に関して,A教授に連絡することはしなかった(証人A,原告本人。 )(4) 原告は,平成16年10月4日,B助教授に対し,以下の趣旨の電子メールを送信した(甲17。 )「社会人博士課程の必須授業の開講される授業リスト,授業内容,時間帯,年間スケジュールなどが含まれた参考資料を送付してもらいたい。その理由は会社と詳細を詰めていくためにも,最初の2年間, 7。 )「社会人博士課程の必須授業の開講される授業リスト,授業内容,時間帯,年間スケジュールなどが含まれた参考資料を送付してもらいたい。その理由は会社と詳細を詰めていくためにも,最初の2年間,実際に大学に費やす時間の見積りが必要だからである。 できれば,今年の授業以外のスケジュールでイメージを掴むためにも, 研究室で行われている週1回の研究論文勉強会や解剖実習のような学習機会の時間帯やスケジュールも送付してもらいたい」。 B助教授は,同月8日,原告に対し,以下の内容の電子メールを返信した(甲18。 )「大学院の教育要綱は本年度のものしかありません。これを参考にして下さい。郵便で会社の方にお送りします。 我々の教室のセミナーなどは原則でして毎朝8時20分から9時まで行っています。その内訳は,個人の研究成果報告,論文紹介,ヒトの解剖例の検討会です。順番や,内容も教授の都合などで不定期です。大学に午前中から来ることができる日はこれに参加して下さい。 当研究室では決まったプログラムはありませんので,各自が上司と相談して,実験等をしていますので,自由度は大きいと思います」。 原告は,同日ころ,被告大学院から平成16年度の医学研究科教育要項を郵送で交付された(甲3。 )原告は,被告大学院における必要な研究時間等について,口頭試験の際のA教授の説明と電子メールによるB助教授の説明に齟齬があると感じ,同月中旬ころ,B助教授と面談した際,同人にその点について質問した。これに対し,B助教授は「最初の1,2年は,集中した期間来るのが理想だが,,4年かけて通いながらじっくり学ぶというのも,研究室では前例が無いが,あっても良いと考える「統計解析やコンピュータ寄りのテーマにするな。」,ど,研究テーマを工夫し,やりくりするのも1つの方法」と説明 かけて通いながらじっくり学ぶというのも,研究室では前例が無いが,あっても良いと考える「統計解析やコンピュータ寄りのテーマにするな。」,ど,研究テーマを工夫し,やりくりするのも1つの方法」と説明した(甲。 10,原告本人。 )(5) 名古屋市立大学長は,平成16年10月15日,原告に対し,入学の日を平成17年4月1日とし,被告大学院医学研究科博士課程に入学することを許可し,その旨の入学許可書を交付した(甲5。 )原告は,平成16年10月28日,当時,被告大学院を運営していた名古 屋市に対し,入学料33万2000円を納付し,必要書類を提出して所定の入学手続を行った(甲4,6,7。 )(6) 原告は,平成17年3月1日,A教授及びB助教授と面談した。その際,原告が,A教授らに対し「毎月1日の有休休暇のほか,毎週平日1日及び,毎週土曜日の活動により,1か月合計で9日間の全日活動を想定している。 夜間授業も利用する。これを前提に,入学後4年間の院生生活と研究計画に。 ,ついてできる限り明確にしたい」旨述べたところ,A教授は,原告に対し「毎日来ても,研究は上手くいかないことが多いため,提示された時間・スケジュールでは,良い研究をするためには,不十分であり受け入れられない。 大学と会社という関係を明確にしないといけない。しっかりした関係の下,学生を研究室の方針に従って受け入れたい。会社の代表と研究室とのコミュニケーションが全くないのは良くない。個人との話しでは不十分である」。 旨告げた(甲22,乙17,証人A,原告本人。 )原告は,同月2日,A教授及びB助教授に対し,以下の趣旨の電子メールを送信した(甲26。 )「いくつかお互いの認識のずれが明確になったので,連絡する。 直属の上司,部長等は,原告個人のスキルアップ・キャリア開発を後 A教授及びB助教授に対し,以下の趣旨の電子メールを送信した(甲26。 )「いくつかお互いの認識のずれが明確になったので,連絡する。 直属の上司,部長等は,原告個人のスキルアップ・キャリア開発を後ろからサポートするというスタンスである。勤務先の会社では,個人が主体的に,率先してスキルアップ・キャリアアップすることを推奨している。 ただし,会社と研究室との信頼関係の下,前進できることが理想であり,更に相談,調整をする。 原告の理想は「働きながら努力・工夫し,博士課程を終え,論文を出し,自己成長する」というものであり,そのため,夜の授業があり,通学可。 能な距離にあって,トキシコゲノミクスにも関わりがあるA教授の研究室の門を叩いた。昨日は,現時点での原告の立場と制約において調査し,可能であるスケジュールを提示した。直属の上司及び部長とも相談している。 ただし,昨日,この点でも認識のずれが確認できたため,更に相談,調整する」。 原告は,同月10日,勤務会社の上司とともに,A教授及びB助教授と面談した。その際,原告の上司が,2年目から1年間だけ全日,研究室に通うことを提案したのに対し,A教授は,その提案を会社で検討願いたい旨回答した(甲23,乙17,証人A,原告本人。 )また,B助教授が,A教授に対し「原告の経歴を活かし,統計解析やコ,ンピュータよりの研究テーマにすることで機会を与えることはできないでしょうか。トキシコゲノミクス分野の中で新しい分野を切り開くことと新たな人材育成につながらないでしょうか」と提案したが,A教授は「今まで前。 ,例の無い研究活動形態となり,本研究室から医学博士として排出してきた生徒が,本研究室で費やした時間や貢献度と比較して考えると,同等の医学博士の称号を与えられるのか分からない。現在,研究室に居る大学 例の無い研究活動形態となり,本研究室から医学博士として排出してきた生徒が,本研究室で費やした時間や貢献度と比較して考えると,同等の医学博士の称号を与えられるのか分からない。現在,研究室に居る大学院生にも申し訳ないと思う。最終的に大学としては,教授の責任で入学と卒業を判断し,医学博士の称号を発行するのであるから,私は責任が持てないと思う」と。 回答した。これに対し,B助教授は「そういうことであるならば,教授の,お考えに従います」と述べた(証人A,原告本人。 。 )(7) 原告は,平成17年3月30日,勤務会社の上司とともに被告大学院を訪れ,A教授及びB助教授と面談した。その際,原告の上司から「会社側で,も再度検討したが,このような形での休職も,会社の制度上できない。今回,担当教員より提題されていた履修課程の履修必須条件は,入学手続期限前までの条件とは大きく相違がある以上,お互いの齟齬の埋め合わせができない」との説明がなされた。 。 原告は,原告が上記面談の後,被告大学院の医学研究科事務局に入学辞退届を提出した(甲24,乙17,証人A,原告本人。 ) 入学手続の性質について (1) 大学(大学院を含む。以下同じ)を設置運営する国及び地方自治体等と。 当該大学の学生(以下においては,在学者又はいまだ入学していない入学試験合格者を含めて「学生」ということがある)との間の在学に関する法律。 関係は,大学が学生に対して,講義,実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,その目的(学校教育法52条,69条の2第1項,65条)にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とする公法上の無名契約(在学契約)と解する 育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とする公法上の無名契約(在学契約)と解するのが相当である。 そして,国公立大学は,一般に,学則や入学試験要項,入学手続要項等(以下,入学試験要項や入学手続要項等を併せて「要項等」と総称する)。 において,当該大学の入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金(入学料,授業料等の諸費用(これらを併せて「学生納付金「入学時納)」,入金「校納金」等の名称が付されていることがある。以下においては「学」,生納付金」という)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を。 定めており,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,当該大学の学生として受け入れる準備を行っているものであるから,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立するものと解するのが相当である。なお,要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了 しなかった場合には上記予約は効力を失うものと解するのが相当である。 以上を本件についてみるに,前記争いのない事実等(3)のとおり,被告大学院においては,要項等により,入学 が成立し,これを完了 しなかった場合には上記予約は効力を失うものと解するのが相当である。 以上を本件についてみるに,前記争いのない事実等(3)のとおり,被告大学院においては,要項等により,入学料は入学手続時に納付し,授業料は入学後に納付することとされており,入学料を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合といえる。そうすると,平成16年10月28日,原告が,当時,被告大学院を運営していた名古屋市に対し,入学料を納付し,必要書類を提出して所定の入学手続を行ったことによって,原告と名古屋市との間で,公法上の在学契約の予約(以下「本件予約」という)が成立し。 たと認められる。 (2) この点,被告は,国公立大学における入学許可は行政処分であり,入学料は条例等により定まるものであるから,被告大学院の入学許可には,意思表示の規定である民法95条は適用されない,行政処分の公定力を排除するには原告において取消訴訟を提起する必要があるなどと主張する。 確かに,国公立大学は,公の教育研究施設であり,学生は一般市民として公の施設を利用することになるから,その在学関係は公法上の法律関係と把握され,国公立大学における入学許可は,学生に入学し得る地位を付与するという点で行政処分であると解される。 しかし,私立大学(学校法人等)と当該大学の学生との間に締結される在学契約は,大学が学生に対して,講義,実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,その目的(学校教育法52条,69条の2第1項)にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とする私法上の無名契約である )にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とする私法上の無名契約であると解されること(最高裁平成17年(受)第1158号,第1159号同18年11月27日第二小法廷判決,国公立大学も私立大学も,学生の教育と学術の研究を目的) とする公共的な施設である点において共通の性格を有し(教育基本法6条1項,2項,その使用関係や入学手続にそれほど差異があるものではないこ)と,国公立大学の入学に当たっては,私立大学と同様に学生が入学に関し意思表示をすることを要すると解されることからすると,上記(1)で説示したとおり,国公立大学と学生との法律関係は,公法上の無名契約(在学契約)であると解される。 そうであるところ,原告は,本件予約に係る原告の意思表示に錯誤がある旨主張しているのであって,名古屋市立大学長の入学許可の効力を争ってはいない。国公立大学の入学許可は,学生が公の施設である国公立大学を利用する根拠となるが,これによって当然に,在学関係が成立したり,入学料の納付が義務づけられるものではなく,別途,在学契約又はその予約を観念できる。 そして,国公立大学の在学契約の予約に学生の入学に関する意思表示を要すると解される以上,その意思表示に欠缺又は瑕疵があれば,民法上の意思表示に関する規定に準じて,無効とされ,又は,取り消され得るというべきである。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 錯誤無効の主張について(1) 平成16年7月2日,A教授及びB助教授と面談してから入学手続までにされた,原告とA教授及びB助教授との間でされた電子メールや面談の経緯(上記1(1)ないし(4)の認定事実)によれば,原告は, 1) 平成16年7月2日,A教授及びB助教授と面談してから入学手続までにされた,原告とA教授及びB助教授との間でされた電子メールや面談の経緯(上記1(1)ないし(4)の認定事実)によれば,原告は,被告大学院医学研究科博士課程では,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで,社会人として勤務を続けながら必要な研究を行い修了することができると考え,そのような動機のもと,被告大学院への入学を決意し,同年10月28日,入学料を納付し,所定の入学手続を行って本件予約を締結するに至ったものと認められる。しかし,そのような研究態勢は,A教授の研究室において受 け入れられるものではなく,現実には,被告大学院において博士課程を修了することはできなかったのであるから,原告の本件予約の意思表示には動機の錯誤がある。そして,かかる動機は,上記A教授及びB助教授に対する電子メールやB助教授とのやりとりにより被告大学院側に表示されていたものといえる。 また,社会人として勤務を続けながら被告大学院の博士過程を修了することを志していた原告としては,勤務を続けることができないのであれば上記意思表示をしなかったものといえるから,原告の錯誤は要素の錯誤である。 (2) この点,被告は,A教授は口頭試験においても「最低1年間は研究に集中することが必要である」と述べており,原告もそのように認識していたな。 ど,縷々述べて要素の錯誤に当たらないと主張する。 しかし,原告が,B助教授との電子メールのやりとりにおいて(上記1(4)の認定事実参照,同人から「当研究室では決まったプログラムはあり),ませんので,各自が上司と相談して,実験等をしていますので,自由度は大きいと思います「最初の1,2年は,集中した期間来るのが理想だが,。」,4年かけて通いながらじっくり学ぶと ラムはあり),ませんので,各自が上司と相談して,実験等をしていますので,自由度は大きいと思います「最初の1,2年は,集中した期間来るのが理想だが,。」,4年かけて通いながらじっくり学ぶというのも,研究室では前例が無いが,。 ,あっても良いと考える」などと楽観的な説明を受けていたことからすれば本件予約締結当時,原告が「最低1年間は研究に集中することが必要である」ことを認識していたとは認められない。その他被告が縷々述べる事情。 も,上記判断を左右するものではなく,この点に関する被告の主張は採用できない。 重過失の主張について被告は,原告は,入学許可前の口答試験の際,A教授から「最低1年間は,研究に集中することが必要である「勤務先のバックアップの方法が不明で,。」,会社の部長の方とお会いしたい」と告げられていた,入学手続までの間,勤。 務会社と何らの調整もしなかった,入学手続から5か月が経過した平成17年 3月に至って初めて自らの研究計画の私案を述べたなどと主張する。 この点,上記1の認定事実によれば,原告は,口答試験において,A教授から「できれば最初の2年間あるいは1年間は学業に専念してほしい」と告げ。 られていたほか「就学には勤務先の理解が必要であろうから,会社の部長の,方とお会いしたい」旨のA教授の要望に対応せず,平成17年3月まで,A。 教授らに対して具体的な研究計画を示さなかったことが認められる。 しかし,①原告は,指導教授に当たるA教授との最初の面談において,同人から「トキシコゲノミクス研究は,B助教授が主な担当としてすべて任せられているから,今後,直接の指導や博士課程に関する細かい点は,B先生から受けるようにして下さい」と告げられたこと(上記1(1)の認定事実,②原告。 )は,上記面談の後,勤務会 当としてすべて任せられているから,今後,直接の指導や博士課程に関する細かい点は,B先生から受けるようにして下さい」と告げられたこと(上記1(1)の認定事実,②原告。 )は,上記面談の後,勤務会社の人事担当者に問い合わせ,勤務を続けながら大学院に通う場合に利用できる特別な制度はなく,実際に大学院に通っている他の社員は,一般の休暇を利用したり,勤務時間を調整することで対応している旨の回答を得たことから,A教授及びB助教授に対し,勤務会社では2年間学業に専念できるような制度が整っていないとして,A教授らが想定している研究に要する時間について質問する旨の電子メールを送信したが,A教授からの回答はなく,B助教授から「名市大では社会人でも入学できる大学院を標榜,していますので,共通の講義,演習などはすべて,夜6時半からで,2年間で24回あります。研究に関しては,フレキシブルに時間を使っていただければ規則上は問題ありません。博士論文が書ければ問題ないようです。A教授の意向として,2年間はできるだけ,来て欲しいとのことです。その2年間で実験を行い,論文が書ければ,問題ありません」との回答を受けたこと(上記1。 (2)の認定事実,③原告は,その後も,B助教授から「我々の教室のセミナー)などは原則でして毎朝8時20分から9時まで行っています。その内訳は,個人の研究成果報告,論文紹介,ヒトの解剖例の検討会です。順番や,内容も教授の都合などで不定期です。大学に午前中から来ることができる日はこれに参 加して下さい。当研究室では決まったプログラムはありませんので,各自が上司と相談して,実験等をしていますので,自由度は大きいと思います」と説。 明を受けたほか,被告大学院における必要な研究時間等について,口頭試験の際のA教授の説明と電子メールによるB助 ので,各自が上司と相談して,実験等をしていますので,自由度は大きいと思います」と説。 明を受けたほか,被告大学院における必要な研究時間等について,口頭試験の際のA教授の説明と電子メールによるB助教授の説明に齟齬があると感じ,平成16年10月中旬ころ,その点をB助教授に質問した際も,同人から「最初の1,2年は,集中した期間来るのが理想だが,4年かけて通いながらじっくり学ぶというのも,研究室では前例が無いが,あっても良いと考える「統。」,計解析やコンピュータ寄りのテーマにするなど,研究テーマを工夫し,やりくりするのも1つの方法」との回答を受けたこと(上記1(4)の認定事実)が認。 められる。 原告には,A教授の研究室において必要となる研究時間や態勢の把握に関し,いささか慎重を欠いた部分があったことは否定できないものの,以上のような経緯に照らせば,本件予約が成立した同月28日当時において,上記錯誤に陥ったことにつき,重大なる過失があったとまで認められない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 不返還規定の主張について前記争いのない事実等(3)のとおり,本件条例はその2条において「既納の授業料,入学料,入学検定料及び学位審査料は,これを還付しない」と規定。 している。 しかし,上記規定のうち入学料に関する部分は,学生が入学料を納付し,被告大学院に入学し得る地位を取得した以上,その後に在学契約やその予約が将来に向かって解除され,あるいは失効したとしても,被告がその返還義務を負うものではないことを注意的に定めたにすぎないものと解される。 したがって,同条が,民法95条の適用を排除する旨定められたものであるとか,在学契約の予約の要素に錯誤があり,その意思表示が無効とされた場合においても,なお,被告が返還義務を負わない旨定め される。 したがって,同条が,民法95条の適用を排除する旨定められたものであるとか,在学契約の予約の要素に錯誤があり,その意思表示が無効とされた場合においても,なお,被告が返還義務を負わない旨定めたものであると解するこ とはできない。 そうとすると,この点に関する被告の主張は採用できない。 結論 以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部裁判長裁判官内田計一裁判官安田大二郎裁判官高橋貞幹
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