本件は、原告株式会社CHERRIESが、被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に対し、著作権侵害に基づく発信者情報の開示を求めた事案である。原告は、ビットトレントを介して本件各動画がアップロードされたことを根拠に、被告が保有する発信者情報の開示を請求した。主要な争点は、著作権侵害の明白性であり、原告は調査会社による証拠を基に、被告が提供するサービスを通じて著作権が侵害されたと主張した。一方、被告は、調査手法の信頼性や通信の正確性を疑問視し、著作権侵害の事実を否定した。裁判所は、原告の主張を認め、被告に対し発信者情報の開示を命じ、訴訟費用は被告の負担とする判決を下した。
令和6 年10 月10 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5 年(ワ)第70516 号発信者情報開示請求事件口頭弁論終結日令和6 年8 月7 日判決 原告株式会社CHERRIES 同訴訟代理人弁護士杉山央 被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 同訴訟代理人弁護士五島丈裕 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1 及び別紙発信者情報目録2 記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件各動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の 制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5 条1 項に基づ き、別紙発信者情報目録1 及び2(以下、両目録を併せて「本件各発信者情報目録」という。)記載の各発信者情報(以下、併せて「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる。なお、書証の番号は特に断らない限り枝番号を含む (以下同じ。)。)(1) 当事者ア原告 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる。なお、書証の番号は特に断らない限り枝番号を含む (以下同じ。)。)(1) 当事者ア原告は、アダルトビデオの製作等を行う株式会社である。 イ被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社である。 (2) 本件各動画の著作権者本件各動画は「映画の著作物」(著作権法2 条3 項)に当たるといえるところ、原告代表者及び原告従業員は、本件各動画の企画、制作等を行い、その全体的形成に創作的に寄与した。このため、原告代表者及び原告従業員は、その著作者に当たるといってよい(著作権法16 条)。 また、原告は、本件各動画の製作に発意及び責任を有する者であって、「映画製作者」(著作権法2 条1 項10 号)に当たる。原告代表者及び原告従業員は、そのような原告に対し、本件各動画の製作に参加することを約束した。 したがって、本件各動画の著作権は、映画製作者である原告に帰属する(著作権法29 条1 項)。 (以上につき、甲2 の1、2 の3、2 の4、2 の6、2 の13、2 の14、18、弁論の全趣旨)(3) 「BitTorrent」の仕組み等「BitTorrent」(以下「ビットトレント」という。)とは、いわゆるP2P 形式のネットワークシステムである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイ ルをダウンロードする際、ファイルの情報が記載された「torrent ファイル」 (以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる (以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、 ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロ ードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。 (以上につき、甲4~6、9) (4) 本件調査原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件各動画に係るファイルのアップロードの有無等についての調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」 という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、本件各動画に係るファイル(ピース)がアップロードされたこと、そのアップロードの通信に本件各発信者情報目録記載の各IP アドレスが使用されていることなどの調査結果を報告した。(甲1、2、4、5、9、 件各動画に係るファイル(ピース)がアップロードされたこと、そのアップロードの通信に本件各発信者情報目録記載の各IP アドレスが使用されていることなどの調査結果を報告した。(甲1、2、4、5、9、20、28、30)(5) 本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。 2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)本件調査会社は、調査対象となる本件各動画をインデックスサイトで検索して、トレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動して、本件 各動画に係るファイルのダウンロードを行った。本件クライアントソフトは、ビットトレントを使用しているピアのIP アドレス等の情報を表示する機能を有するところ、本件各発信者情報目録記載の各日時(以下「本件各日時」という。)に上記ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアが接続した各IP アドレスは、同目録記載のとおりであった。このことは、ダウンロード中の時点である 本件各日時における本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(甲1 の1、1 の3、1 の4、1 の6、1 の13、1 の14。以下、併せて「本件実行画面」という。)に、「ダウンロード中」の文字やIP アドレスが表示されていることからうかがわれる。また、上記によりダウンロードされた動画は、本件各動画と同一内容であった。 そうすると、本件各発信者情報目録記載の各日時(本件各日時)及びIP アドレス等により特定される氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、ビットトレントを用いて自ら又は他のユーザと共同して、本件各日時に、本件調査会社に対して本件各動画に係るファイル(ピース) P アドレス等により特定される氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、ビットトレントを用いて自ら又は他のユーザと共同して、本件各日時に、本件調査会社に対して本件各動画に係るファイル(ピース)を自動公衆送信したものといえる。 したがって、本件発信者の行為により原告の本件各動画に係る著作権(公衆送 信権)が侵害されたことは明らかである。 (被告の主張)(1) 本件各発信者情報目録記載の各日時、IP アドレス及び発信元ポート番号により特定される各通信(以下「本件各通信」という。)は、以下の理由から、本件各動画に係るファイルのダウンロード時の通信とはいえない。 すなわち、本件クライアントソフトは、一般社団法人テレコムサービス協会 が認定する監視ソフトウェアではなく、P2P ネットワークの監視を目的としたものでもない。本件実行画面は、本件クライアントソフトのプログラムの動作の過程で表示されるIP アドレスの正確性や通信の意味合いを立証するものではなく、本件各通信の存在やその意味については、何ら立証されていない。 また、いわゆるP2P 方式でファイルを共有するビットトレントネットワー クでは、ファイルのダウンロードに至るまでには、ピア間の通信だけを取り上げても、通信相手がピアであることを確認する通信(HANDSHAKE)等の複数の通信がされる。本件実行画面は、本件調査の過程において、適当な時刻に表示されたIP アドレスを捕捉したものにすぎず、これをもってダウンロード時の通信を示すものということはできない。 さらに、本件実行画面には、ファイルのダウンロードの進行を示す「下り速度」が表示されていないものがあり、これは、ダウンロード時の通信ではないことをうかがわせる事情である。 い。 さらに、本件実行画面には、ファイルのダウンロードの進行を示す「下り速度」が表示されていないものがあり、これは、ダウンロード時の通信ではないことをうかがわせる事情である。 以上のとおり、本件各通信は、本件調査会社がビットトレントを介して本件各動画に係るファイルをダウンロードした時の通信とはいえない。 (2) 仮に本件各通信が本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードする通信であるとしても、これにより送信されたピースについて、本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの的確な主張立証はない。 ファイルを細分化したピースを転送し合うというビットトレントの仕組みを踏まえれば、本件各通信により送られた一つのピースからは、本件各動画の表 現の本質的特徴を直接感得できる映像を再生できない可能性が十分にある。したがって、仮に本件各通信が本件各動画を構成するピースを送信したものであるとしても、これにより自動公衆送信権が侵害されたとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について (1) 前提事実、証拠(甲1、2、4~9、11、12、14、15、17、19、20、28、30、 31)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア本件クライアントソフトは、ビットトレントの制作会社により開発され、維持されており、ビットトレントのプロトコル定義で設定されたガイドラインを遵守し、これに準拠している。本件クライアントソフトは、ビットトレントを利用しやすくするために、トレントファイルを読み込み、ピースをダ ウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをするピアのIP アドレス等の情報を表示する機能を有する。 イ本件調査会社は、調査 るために、トレントファイルを読み込み、ピースをダ ウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをするピアのIP アドレス等の情報を表示する機能を有する。 イ本件調査会社は、調査対象となる本件各動画の品番を確認し、これをインデックスサイトの検索フォームに入力して検索し、本件各動画に係るトレントファイルをダウンロードした。その上で、本件クライアントソフトを起動 して上記トレントファイルを読み込み、本件各動画に係るピースを有するピアからピースのダウンロードを開始した。その際、本件クライアントソフトの実行画面には、ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアのIPアドレスが表示された。本件調査会社は、ダウンロード進行中の時点である本件各日時に、本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット (本件実行画面)を撮影し、上記IP アドレスを保全した。上記アップロードを行ったピアのIP アドレスは本件各発信者情報目録記載のとおりであった。こうしてダウンロードが完了したところ、ダウンロードされた完全な状態のファイルと本件各動画とは、同一の内容であった。 (2) 検討 本件調査会社による調査及びこれに使用した本件クライアントソフトそれ自体の信頼性については、その点に疑義を抱くべき具体的な事情が見当たらないことなどに鑑みると、十分に信頼し得るものといってよい。 そうすると、前記前提事実及び認定事実によれば、本件各発信者情報目録記載の各日時(本件各日時)に同目録記載の各IP アドレスを割り当てられた本 件発信者は、ビットトレントを通じ、本件調査会社の求めるところにより、本 件各動画に係るファイル(ピース)をアップロードしたということができる。 したがって、本件発信者は、本件各動画に 件発信者は、ビットトレントを通じ、本件調査会社の求めるところにより、本 件各動画に係るファイル(ピース)をアップロードしたということができる。 したがって、本件発信者は、本件各動画に係るファイルの全部又は一部を公衆からの求めに応じ自動公衆送信したものと認められる。 また、弁論の全趣旨によれば、原告はこれを許諾していないものとみられると共に、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれない。 したがって、本件発信者の上記行為により、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといってよい。 (3) 被告の主張についてア被告は、本件実行画面に表示されたIP アドレスの正確性に疑問があることや、本件実行画面に表示された通信がダウンロード時の通信に係るものか どうかは不明であることなどを指摘して、本件各通信をダウンロード時の通信とみることはできない旨主張する。 しかし、本件クライアントソフトがP2P ネットワークの監視を目的としたソフトウェアでないとしても、ビットトレントの仕組みに照らすと、正確なIP アドレスを取り込むものでなければビットトレントを利用しやすくす るためのソフトとして成り立たないものと考えられる上、本件実行画面に表示されたIP アドレスが不正確であることをうかがわせる証拠は見当たらない。したがって、被告の指摘する事情は本件調査の信頼性に合理的な疑いを抱かせるものではない。 また、本件実行画面には、ダウンロードに至る前の通信とみられる「ピア に接続中」ではなく、ダウンロード時の通信とみられる「ダウンロード中」のステータスが表示されている。本件実行画面の一部においては、ダウンロードの進行を示す「下り速度」の表示はないものの、証拠(甲14、19)に ではなく、ダウンロード時の通信とみられる「ダウンロード中」のステータスが表示されている。本件実行画面の一部においては、ダウンロードの進行を示す「下り速度」の表示はないものの、証拠(甲14、19)によれば、一般にこの表示がなくてもダウンロードは進行することが認められ、現に本件各動画に係るファイルのダウンロードは完了している。そのほか、 本件各通信がダウンロード時の通信でないことをうかがわせる証拠はない。 そうすると、本件実行画面に表示された通信すなわち本件各通信は、本件調査会社が本件発信者から本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードした時の通信と認められる。 イ被告は、本件各通信により送信されたピースについて、本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの的確な主張立証がなく、 自動公衆送信権が侵害されたとはいえない旨主張する。 しかし、前提事実及び認定事実によれば、本件発信者は、本件各通信及びその前後において継続的に行った本件各動画に係るファイル(ピース)をアップロードする通信により、自ら又は他のユーザと共同して、本件調査会社に対し、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る映像を再生するこ とが可能なファイルを送信したものといえる。そうである以上、本件発信者は、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害する通信を行ったものと認められる。 ウ以上より、被告の主張はいずれも採用できない。 2 その他の要件について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、本件各動画に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5 条1 項2号)があるといえる。これに反 件各動画に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5 条1 項2号)があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。 第4 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47 部 裁判長裁判官杉浦正樹 裁判官細井直彰 裁判官志摩祐介(別紙侵害著作物目録省略) 別紙発信者情報目録1 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス(以下省略) 別紙発信者情報目録2 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電話番号(以下省略)
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