本件は、原告ライコード・リミテツドが特許庁の拒絶査定に対して不服審判を請求したが、特許庁がその請求を不成立としたことに対する審決取消訴訟である。主要な争点は、補正発明の容易想到性に関するもので、特許庁は補正発明が刊行物に記載された発明と比較して新規性がないと判断した。具体的には、補正発明がトマトオレオレジンを用いて食料品の栄養価を高める方法であるのに対し、刊行物に記載された発明はリコピンを食品に添加する方法であり、両者の相違点について検討された。裁判所は、原告の主張を退け、特許庁の判断を支持し、原告の請求を棄却した。判決により、原告は訴訟費用を負担することとなり、上告のための付加期間が設けられた。
- 1 -平成25年9月3日判決言渡平成24年(行ケ)第10421号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年8月6日判決 原告ライコード・リミテツド 訴訟代理人弁理士大 﨑 勝真渡邉千尋松井史子吉田尚美野田裕子 被告特許庁長官指定代理人中島庸子田村明照安藤倫世堀内仁子 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 - 2 - 事実及び理由 第1 原告の求めた判決特許庁が不服2010-9107号事件について平成24年7月23日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決取消訴訟である。争点は,容易想到性判断の当否である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年10月26日,発明の名称を「植物栄養素により食料品の栄養価を高める方法及びそれにより得られた食品」とする国際特許出願をした(特願2007-538605。甲5の1)。 原告は,平成21年12月21日付けの拒絶査定(甲5の5)を受けたので,平成22年4月28日,拒絶査定不服審判を請求し(不服2010-9107号。甲5の6),同日付けで手続補正をした(甲5の7。本件補正)。 特許庁 12月21日付けの拒絶査定(甲5の5)を受けたので,平成22年4月28日,拒絶査定不服審判を請求し(不服2010-9107号。甲5の6),同日付けで手続補正をした(甲5の7。本件補正)。 特許庁は,平成24年7月23日,本件補正を却下するとともに「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年8月7日に原告に送達された。 2 補正発明の要旨補正発明(補正後の請求項1の発明)の要旨は以下のとおりである。 【請求項1】トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める方法であって,トマトオレオレジン(補正において「又はトマト成分」を削除)を,食料品に,前記食料品を調整する過程で(波線部分を補正で追加)前記食料品の風味が前記オレオレジン(補正において「又はトマト成分」を削除)により実質的に影響を受け - 3 -ない量で加えることを含む方法。 3 審決の理由の要点(1) 刊行物1(特開2000-103733号公報。甲1)記載の発明(刊行物1発明)刊行物1には,「トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される,商品名Lyc-O-Mato(R)で,6%の油状分散液として得られるリコピンを,食品添加物として,健康上の予防のために食品に添加する方法。」が記載されていると認められる。 (2) 補正発明と刊行物1発明との対比ア補正発明に係る「トマトオレオレジン」について,本願明細書【0013】には「記載の全体を通して,トマトオレオレジンという用語は,実質的に水に可溶性でないトマトの植物栄養素を含有する,トマトの脂質画分を意味する。」,同【0014】には「水に実質的に不溶性であるトマトオレオレジン及びトマト成分は,比較的高濃度の植物栄養素を含有し,例えば,リコピン,β-カロチン,フィトエン,フィトフルエン,トコ 分を意味する。」,同【0014】には「水に実質的に不溶性であるトマトオレオレジン及びトマト成分は,比較的高濃度の植物栄養素を含有し,例えば,リコピン,β-カロチン,フィトエン,フィトフルエン,トコフェロール,リン脂質及びフィトステロールである。」,同【0019】には「記載された本発明での使用に適したオレオレジンは,トマト又はトマト製品から得ることができる。市販のトマトオレオレジンの例は,LycoredNaturalProductsIndustriesLtd.によるLyc-O-Mato(登録商標)である。」と記載されている。 以上の定義に鑑みれば,補正発明に係る「トマトオレオレジン」は,リコピンを始めとする水に不溶性のトマトの植物栄養素を含有した脂質画分であって,その好適例は「Lyc-O-Mato(登録商標)」である。 したがって,刊行物1発明の「商品名Lyc-O-Mato(R) 」は,トマトから抽出される天然カロチノイドであるリコピンを6%の油状分散液として調整したものであるから,商品の種類及び配合成分の点からも,本願補正発明の「トマトの植物栄養素」であるところの「トマトオレオレジン」に相当する。 イ補正発明と刊行物1発明は,「トマトの植物栄養素であるところのトマトオレオレジンを,食料品に,前記食料品を調製する過程で加えることを含む方法。」という点で一致し,次の相違点を有する。 - 4 -(相違点1)トマトオレオレジンの配合量が,補正発明では「前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」であるのに対し,刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。 (相違点2)トマトの植物栄養素であるところのトマトオレオレジンを,食料品に,前記食料品を調製する過程で加えることを含む方法が,補 対し,刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。 (相違点2)トマトの植物栄養素であるところのトマトオレオレジンを,食料品に,前記食料品を調製する過程で加えることを含む方法が,補正発明は「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める方法」であるのに対し,刊行物1発明では健康上の予防のために食品に添加する方法である点。 (3) 相違点についての検討(相違点1について)刊行物2(米国特許出願公開第2003/0203072号明細書。甲2),刊行物3(特表2002-543819号公報。甲3)及び刊行物4(特開平11-98972号公報。甲4)に記載されているように,上記Lyc-O-Matoを含めてリコピンは,食品添加物として各種の食料品に既に広く用いられており(なお刊行物1に記載の「リコピン」と,刊行物3,4に記載の「リコペン」は同一化合物である。),特に刊行物2では「水分補給飲料」,刊行物3では「発酵乳」,刊行物4では「調製粉乳」「蛋白質加水分解粉乳」「ヨーグルト」というように,上記リコピンは,トマトの風味を要しない食料品に添加されている。さらに,刊行物2には,当該水分補給飲料は良好な風味であるとも記載されている。 してみると,刊行物1発明において,上記Lyc-O-Matoを食品添加物として用いるにあたり,その添加量は[3a]【0039】に記載されているように当業者が適宜決定し得る事項であり,食料品自体の風味を考慮しながら,添加量を「前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない」程度に調整することは,当業者であれば容易になし得ることである。 (相違点2について)刊行物1発明は,リコピンを,「健康上の予防のために食品に添加する方法」であって,さら - 5 -に刊行物 調整することは,当業者であれば容易になし得ることである。 (相違点2について)刊行物1発明は,リコピンを,「健康上の予防のために食品に添加する方法」であって,さら - 5 -に刊行物1【0003】では,トマト摂取による慢性疾患に対する罹病の危険低下や癌予防への機能に言及がなされ,「リコピンのこの保護機能は非常に効果的な抗酸化剤としてのその作用に見られる。」と記載されている。 また,刊行物2において,Lyc-O-Matoは,乳癌及び前立腺癌の予防効果が知られており,水分補給飲料に対して「栄養補助成分」として添加される旨開示されている。 してみると,刊行物1発明のリコピンを「健康上の予防のために添加」することと,「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める」こととは,実質的に相違するものではない。 仮に相違するとしても,「健康上の予防のために添加」することを,「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める」とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。 そして,補正発明の効果について検討するに,補正発明の詳細な説明【0006】,【0007】に記載の,食料品の風味はトマトの植物栄養素により実質的に影響を受けないという効果は,トマトオレオレジンの添加量の調整により当然奏されるものであり,刊行物1 の記載事項及び周知技術から予測し得るものでしかない。 平成22年4月28日付け審判請求書には,刊行物1はトマトオレオレジンは水分散性が十分でなく,食料品への添加物としてふさわしくない旨を記載するものとの主張がなされているが,添加に適した食品,例えば油性食品を選択することで,この点は解消されるものといえる。 なお,本願実施例1及び7においても,トマトオレオレジンを油性食品であるマーガリンに配 のとの主張がなされているが,添加に適した食品,例えば油性食品を選択することで,この点は解消されるものといえる。 なお,本願実施例1及び7においても,トマトオレオレジンを油性食品であるマーガリンに配合する例が記載されているから,上記刊行物1に関する主張を採用することはできない。 原告は,平成24年3月6日付けの回答書において,補正発明にさらに限定を付して「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める方法であって,トマトオレオレジンを食料品に前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量で加えることを含み,前記植物栄養素は調製過程で食料品に組み込まれ,前記トマトオレオレジンは,前記オレオレジンに安定性を付与するために,マイクロエマルション,エマルション,ビードレット,封入形態で添加され,又はトマト繊維に含まれる,方法。」とする補正案を提示す - 6 -る。 しかしながら,刊行物1においてLyc-O-Matoは油状分散液であるとの性質,並びにその水分散性に関する課題が開示されている以上,食品添加物としてのLyc-O-Matoの安定性や使用性の向上などを目的として,Lyc-O-Matoの剤型を適宜変更する程度のことは,当業者であれば容易になし得ることであり,それによる効果も予測し得るものでしかない。 (4) まとめしたがって,補正発明は,刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違 きないものである。以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 (5) 補正前発明について補正前発明は補正発明から,トマトの植物栄養素について,「トマトオレオレジン」から「トマトオレオレジン又はトマト成分」に拡張するものであり,さらに該栄養素を添加する時期に関する限定を解除するものである。 そうすると,補正前発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記に記載したとおり,刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も,同様の理由により,刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(刊行物1の認定の誤り)(1) リコピンとトマトオレオレジンとの相違について - 7 -審決は,刊行物1の【0010】段落に,「Lyc-O-Mato」が記載されていることを根拠として,刊行物1には,「トマトオレオレジンを,食料品に,前記食料品を調製する過程で」「加えることを含む方法」が記載されていると認定した。 しかし,かかる認定は,刊行物1に,リコピンの例として,たまたま,「Lyc-O-Mato」との名称が記載されていたことを奇貨として,リコピンとトマトオレオレジンとの相違点を看過し,両者を同一視,混同した,誤った認定である。 かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであり,したがって,審決は取 が記載されていたことを奇貨として,リコピンとトマトオレオレジンとの相違点を看過し,両者を同一視,混同した,誤った認定である。 かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであり,したがって,審決は取り消されるべきものである。 (2) 刊行物1発明について刊行物1は,【0001】段落における「本発明は結晶化度が20%を上回るリコピンを含有する,安定なリコピン粉末製剤,その製法並びに食品,化粧品および動物飼料への添加物としての使用に関する」との記載や,請求項1における「結晶化度が20%を上回るリコピンを含有する,安定なリコピン粉末製剤」との記載等からも明らかなとおり,あくまで,トマトの単独成分である「リコピン」自体を安定化することを課題とした発明に関するものである。 そのため,刊行物1には,複数のトマトの植物栄養素を組み合わせたトマトオレオレジンに関しても,また,補正発明で課題とする「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点についても,何ら具体的に記載されておらず,実施例においても,全てトマト成分としてリコピンを用いて,その安定性を評価しているのみである。 以上のとおりであるから,刊行物1には,専ら,リコピンを用いた発明のみが具体的に記載されているのであって,トマトオレオレジンを用いた発明,すなわち,トマトオレオレジンを用いた,一個のまとまった技術的思想の創作としてはもちろん,トマトオレオレジンを含んだ具体的な食料品としてすら,何らの実質的,具体的な記載もなされていない。 - 8 -(3) 刊行物発明1に関する認定についてしかるに,審決は,刊行物1の【0010】段落に,「Lyc-O-Mato」が記載されていることを根拠として,刊行物1には ていない。 - 8 -(3) 刊行物発明1に関する認定についてしかるに,審決は,刊行物1の【0010】段落に,「Lyc-O-Mato」が記載されていることを根拠として,刊行物1には,トマトオレオレジン(を,食料品に,前記食料品を調製する過程で加えることを含む方法)が記載されていると認定した。 しかし,そもそも,同段落には,「こうしてリコピンは,例えば商品名「Lyc-O-Mato(R)(Fa. LycoRed, Israel)で,6%の油状分散液として得られる。」と記載されており,「Lyc-O-Mato」は,あくまで,【従来の技術】における,リコピンの一例として挙げられているにすぎない。しかも,上記記載に続けて,同段落には,「Lyc-O-Mato(R)中の高いホスホリピド含量のために,この製剤の適用特性は,特に水分散性は充分ではない」と記載されており,むしろ,「Lyc-O-Mato」の使用が望ましくないことを教示している。加えて,刊行物1の実施例の欄においても,「Lyc-O-Mato」を用いた具体的な例は記載されていない。 以上からすると,審決は,刊行物1に,リコピンの例として,「Lyc-O-Mato」との名称が記載されていたことのみを奇貨として,リコピンとトマトオレオレジンとを同一視,あるいは混同した上で,刊行物1に,トマトオレオレジンが記載されていると認定したものであることが明らかである。 2 取消事由2(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)(1) 審決は,「トマトオレオレジンの配合量」を相違点1とした上で,かかる相違点は刊行物2ないし4を参酌すれば,当業者であれば容易になし得ることであると判断した。 しかし,刊行物2ないし4のいずれにも,「トマトオレオレジン」に関する具体的記載は何らなされておら かる相違点は刊行物2ないし4を参酌すれば,当業者であれば容易になし得ることであると判断した。 しかし,刊行物2ないし4のいずれにも,「トマトオレオレジン」に関する具体的記載は何らなされておらず,刊行物2ないし4のいずれを参酌したとしても,相違点1を容易に想到し得るものではない。 してみれば,上記審決における容易想到性の判断は誤っており,かかる誤りは審 - 9 -決の結論に影響を与えるものであることは明らかであるから,審決は取り消されるべきものである。 ア刊行物2の記載事項について刊行物2は,【0002】段落における「本願発明は,食用の水分補給飲料に関する」との記載や,【0004】段落における「エクササイズにより減量を試みている人々にとって,高濃度の糖類,炭水化物,カロリーは望ましくない。本願発明は,従来の高カロリーアイソトニック飲料に関連する,これらの及び他の知られた問題を克服することに向けられている。」との記載,同請求項1における「約42~50%のクエン酸,約16~20%の塩化ナトリウム,約12~16%のクエン酸ナトリウム,約3~10%の一カリウムリン酸塩,約1~5%のスクラロース,及びビタミンC,香味料及び着色料を含む残部とからなる,水と混合できる飲料組成物であって,糖類及び炭水化物を含まない飲料組成物」との記載等からも明らかなとおり,低カロリー化を課題とした,水分補給飲料の発明に関するものであって,その必須成分としては,トマトオレオレジンはおろか,リコピンすら含まれていない。 そのため,刊行物2には,複数のトマトの植物栄養素を組み合わせたトマトオレオレジンに関しても,また,補正発明で課題とする「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といっ トの植物栄養素を組み合わせたトマトオレオレジンに関しても,また,補正発明で課題とする「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点についても,何ら具体的に記載されておらず,また,実施例においても,トマトオレオレジンはおろか,リコピンを用いた例すら記載されていない。 確かに,刊行物2の【0018】段落には,「Lyc-O-Mato」との名称が記載されているが,同段落では,「本発明は,リコピン(…商標Lyc-O-Matoの下で商業的に利用可能」と記載されており,「Lyc-O-Mato」は,あくまで,リコピンの具体例として挙げられているにすぎない。また,刊行物2の実施例の欄においても,「Lyc-O-Mato」を用いた具体的な例は何ら記載されていない。 以上からすれば,刊行物2には,トマトオレオレジンを用いた発明,すなわち, - 10 -トマトオレオレジンを用いた,一個のまとまった技術的思想の創作としてはもちろん,トマトオレオレジンを含んだ具体的な食料品としてすら,何ら具体的に記載されてはいないことになる。 現に,審決においても,刊行物2は,【0018】段落に,多数ある追加の栄養補助食品の一つとして,リコピンが挙げられていることを根拠として,リコピンが,「食品添加物として各種の食料品に既に広く用いられており」,「「水分補給飲料」…というように,上記リコピンは,トマトの風味を要しない食料品に添加されている」ことを示すために,挙げられたものであって,トマトオレオレジンに関する刊行物として挙げられたものではない。 イ刊行物3の記載事項について刊行物3は,【0006】段落における「本発明はカロテノイドその他の抗酸化物質を豊富化した複合体形のカロテノイド含有植 行物として挙げられたものではない。 イ刊行物3の記載事項について刊行物3は,【0006】段落における「本発明はカロテノイドその他の抗酸化物質を豊富化した複合体形のカロテノイド含有植物抽出物および炭化水素系溶媒の使用またはミネラルまたは他の加工所財の添加要求を回避する天然起源からこの複合体を簡単かつ安全に抽出する方法を供することを目的とする」との記載や,同請求項1における「圧砕したカロテノイド含有植物物質をインキュベートし,次に植物固体の分離後回収したジュースを熱処理し,次に第2分離後沈澱を加熱液体相から回収して着色スラッジ抽出物を得ることからなる,カロテノイドその他の抗酸化物質を特に豊富化した脂質-タン白複合体形の植物抽出物を溶媒を使用せずに製造する方法」との記載等からも明らかなとおり,カロテノイドその他の抗酸化物質を特に豊富化した脂質-タン白複合体形の植物抽出物を,簡単かつ安全に製造することを課題とした発明に関するものである。 ここで,刊行物3で対象としている「カロテノイドその他の抗酸化物質を特に豊富化した脂質-タン白複合体形の植物抽出物」なるものが,補正発明で規定する「トマトオレオレジン」に該当するものであるのか否かは,明らかではない。また,刊行物3には,補正発明で目的とする「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点に - 11 -ついて,何ら具体的に記載されていない。 いずれにしても,審決において,刊行物3は,あくまで,リコピンが,「食品添加物として各種の食料品に既に広く用いられており」,「「発酵乳」…というように,上記リコピンは,トマトの風味を要しない食料品に添加されている」ことを示すために挙げられたものであって,トマトオレオレジ 物として各種の食料品に既に広く用いられており」,「「発酵乳」…というように,上記リコピンは,トマトの風味を要しない食料品に添加されている」ことを示すために挙げられたものであって,トマトオレオレジンに関する刊行物として挙げられたものではない。 ウ刊行物4の記載事項について刊行物4は,【0001】段落における「本発明は,リコペンを含有することを特徴とする乳幼児用栄養組成物及びその製造方法に関する。本発明により,乳幼児の便性改善,特に緑色便の発生を抑制する栄養組成物が提供され,医薬あるいは食品として有用である」との記載や,同請求項1における「リコペンを含有することを特徴とする,便性改善作用を有する乳幼児用栄養組成物」との記載等からも明らかなとおり,あくまで,便性改善作用を有する組成物を提供することを課題として,トマトの単独成分である「リコピン」自体を成分とした発明に関するものである。 そのため,刊行物4には,複数のトマトの植物栄養素を組み合わせたトマトオレオレジンに関しても,また,補正発明の課題である「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点についても,何ら具体的に記載されておらず,また,実施例においても,全てリコピンを必須成分として用いて,その便性改善作用を評価しているのみである。 したがって,刊行物4には,トマトオレオレジンを用いた発明,すなわち,トマトオレオレジンを用いた,一個のまとまった技術的思想の創作としてはもちろん,トマトオレオレジンを含んだ具体的な組成物としてすら,何ら具体的な記載はない。 現に,審決においても,刊行物4は,あくまで,リコピンが,「食品添加物として各種の食料品に既に広く用いられており」,「「調製粉乳」「蛋白質加水分解 体的な組成物としてすら,何ら具体的な記載はない。 現に,審決においても,刊行物4は,あくまで,リコピンが,「食品添加物として各種の食料品に既に広く用いられており」,「「調製粉乳」「蛋白質加水分解粉乳」「ヨーグルト」というように,上記リコピンは,トマトの風味を要しない食料品に添加 - 12 -されている」ことを示すために挙げられたのであって,トマトオレオレジンに関する刊行物として挙げられたものではない。 (2) 審決は,刊行物1,及び刊行物2ないし4のいずれについても,その解決すべき課題について何ら特段の検討もなされないまま,相違点1(「トマトオレオレジンの配合量」)は刊行物2ないし4を参酌すれば,当業者であれば容易になし得ることであると判断した。 しかし,刊行物1,及び刊行物2ないし4のいずれも,その課題は補正発明とは相違しており,いずれの刊行物にも,「トマト成分」の配合量を決定するにあたって,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった補正発明の課題を解決すべく,配合量を決定しようとすることについて,動機付けとなるような具体的な記載は全くみられず,まして,「トマト成分」の配合量を「食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」としたはずであるという示唆等が存在していたとはいえない。 してみれば,上記審決における容易想到性の判断が誤っており,かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決は取り消されるべきである。 すなわち,補正発明の課題は,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」という点にあり,かかる課題を解決するために,「トマトオレオレジンを,食料品に,前 明の課題は,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」という点にあり,かかる課題を解決するために,「トマトオレオレジンを,食料品に,前記食料品を調製する過程で前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量で加える」等といった構成を採用したのである。要するに,補正発明では,トマトオレオレジンの配合量は,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった課題を解決するために有効な量として規定された。 これに対して,刊行物1では,トマトの単独成分である「リコピン」自体を安定化することを課題としている。刊行物1には,専ら,「トマト成分」を安定化させ - 13 -ることについて記載しているのみであって,補正発明の課題である「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点や,「トマト成分」の配合量を「食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」とすることに関しては,全く何らの記載も示唆すらもなされていない。 加えて,刊行物1には,かかる「トマト成分」の食料品に対する添加量自体に関してすら,一般記載,実施例のいずれを精査しても何らの具体的記載も見出せない。 すなわち,刊行物1には,「トマト成分」を,食料品に対して,どの程度の量で添加すべきかについての指針となるべき点についてすら,何ら記載されておらず,まして,「トマト成分」の配合量を決定するにあたって,その量を,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった課題を解決すべく決定することに対して,動機付けと 合量を決定するにあたって,その量を,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった課題を解決すべく決定することに対して,動機付けとなるような記載や示唆は全く見られないのであって,刊行物1中に,「トマト成分」の配合量を「食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」としたはずであるという示唆等が存在していたということはできない。 この点に関して,審決は,さらに刊行物2ないし4を挙げて,「刊行物1発明において,上記Lyc-O-Matoを食品添加物として用いるにあたり,その添加量は[3a]【0039】に記載されているように当業者が適宜決定し得る事項であり,食料品自体は風味を考慮しながら,添加量を「前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない」程度に調整することは,当業者であれば容易になし得ることである」等と断じた。 しかるに,各刊行物の課題を見てみると,上述のとおり,刊行物2では,水分補給飲料の低カロリー化を課題としており,刊行物3では,カロテノイドその他の抗酸化物質を特に豊富化した脂質-タン白複合体形の植物抽出物を,簡単かつ安全に製造することを課題としており,刊行物4では,便性改善作用を有する組成物を提供することを課題としている。すなわち,刊行物2ないし4の課題は,いずれも, - 14 -補正発明の「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった課題と相違している。しかも,純粋なリコピンにはトマトフレーバーはない。 してみれば,刊行物2ないし4を参酌したとしても,そもそも,「トマト成分」の配合量を決定するにあたって,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつ 粋なリコピンにはトマトフレーバーはない。 してみれば,刊行物2ないし4を参酌したとしても,そもそも,「トマト成分」の配合量を決定するにあたって,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった課題を解決すべく,配合量を決定しようとすることについて,動機付けとなるような記載や示唆は刊行物2ないし4のいずれにも全くみられないのであって,したがって,刊行物2ないし4においてすら,「トマト成分」の配合量を「食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」としたはずであるという示唆等が存在していたとは,決していうことはできない。 これに関連して,審決は,「さらに言えば,刊行物2の[2a]には,当該水分補給飲料は良好な風味であるとも記載されている」と指摘していることからすると,かかる記載が「したはずである」という示唆に当たるということを意図しているのかもしれない。しかし,そもそも,「良好な風味である」ことと,補正発明における「前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない」こととは,別個の概念である。例えば,トマト風味があったとしても,「良好な風味である」ことは充分にあり得ることであり,したがって,上記指摘箇所が,「したはずである」という示唆に当たるということは決していえない。 以上のとおり,刊行物1はおろか,刊行物2ないし4を参酌したとしても,いずれの刊行物にも,「トマト成分」の配合量を決定するにあたって,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった補正発明の課題を解決すべく,配合量を決定せしめんとすることについて,動機付けとなるような具体的な記載は全く見られず,まして,「トマ つ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった補正発明の課題を解決すべく,配合量を決定せしめんとすることについて,動機付けとなるような具体的な記載は全く見られず,まして,「トマト成分」の配合量を「食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量」としたはずであるという示唆等が存在していたとは,決していえない。 - 15 -したがって,相違点1に関して,「添加量を「前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない」程度に調整することは,当業者であれば容易になし得ることである」とした審決には誤りがあって,かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決は取り消されるべきものである。 3 取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)審決は,補正発明が「トマトオレオレジンを…食料品の栄養価を高める」ために添加しているのに対して,刊行物1発明では,「健康上の予防のために添加」する点を相違点2とした上で,かかる相違点は刊行物2を参酌すれば,実質的に相違するものではないか,相違するとしても,当業者であれば容易に想到し得ることであると判断した。 しかし,刊行物2(並びに刊行物3,4)のいずれにも,「トマトオレオレジン」に関する具体的な記載はなく,刊行物2(並びに刊行物3,4)を参酌したとしても,相違点2を容易に想到し得るものではない。 してみれば,審決における容易想到性の判断が誤っていて,かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決が取り消されるべきものである。 審決は,トマトオレオレジンとリコピンとを同一視,あるいは混同して,刊行物2におけるリコピンに関する記載を根拠として,相違点2について,当業者であれば容易に想到し得ると結論付けたものである。 しかし は,トマトオレオレジンとリコピンとを同一視,あるいは混同して,刊行物2におけるリコピンに関する記載を根拠として,相違点2について,当業者であれば容易に想到し得ると結論付けたものである。 しかしながら,トマトオレオレジンとリコピンとは,その成分,効果共に相違する別個のものであるから,これらを同一視した上でなされた上記審決は明らかに誤っており,かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決は取り消されるべきである。 さらに付言すると,上述のとおり,刊行物2ないし4(更には刊行物1)のいずれにも,トマトオレオレジンに関し,何ら具体的に記載されていないのであるから,刊行物1ないし4のいずれを参酌したとしても,当業者が相違点2を容易に想到し得るものでない。 - 16 -したがって,補正発明が,刊行物1ないし4に対して進歩性を有するものであり,よって,この点からも,審決は取り消されるべきものである。 4 取消事由4(補正発明効果の誤認)審決は,補正発明の効果を,「食料品の風味はトマトの植物栄養素により実質的に影響を受けないという効果」であると認定した上で,かかる効果は,「トマトオレオレジンの添加量の調整により当然奏されるものであり,刊行物1の記載事項及び周知技術から予測し得るものでしかない」と判断した。 しかし,補正発明の効果は,単に風味に実質的に影響を与えないというだけでなく,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点にある。言い換えるならば,補正発明の効果は,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高める」ことと,「食料品の風味にも実質的に影響を与えない」こととを両立させた点にある。かかる効果を達成するために,補正発明では,例えば,リ 発明の効果は,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高める」ことと,「食料品の風味にも実質的に影響を与えない」こととを両立させた点にある。かかる効果を達成するために,補正発明では,例えば,リコピンのような,トマトの単独成分を用いるのではなく,組み合わせにおいて相乗効果があることが見出された,トマトの植物栄養素の組み合わせとして(本願明細書【0002】段落参照),トマトオレオレジンを用いている。なぜなら,トマトオレオレジンを用いることによって,かかる相乗効果のゆえに,トマトの単独成分よりも少ない量で食料品の栄養価を高めることができ,その結果,食料品の風味に実質的に影響を与えない量しか加えなくとも,充分に食料品の栄養価を高められ得るということが補正発明において見出されたからである(同【0014】段落参照)。すなわち,補正発明は,トマトオレオレジンを用いること等によって,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった,補正発明特有の格別顕著な効果を奏し得たのである。 してみれば,審決における判断は補正発明の効果を誤認したことに基づくものであって,かかる誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから,審決は取り消されるべきである。 - 17 -これに対して,審決は,本願明細書の【0006】,【0007】段落のみを引用して,補正発明の効果が,「食料品の風味はトマトの植物栄養素により実質的に影響を受けないという効果」にすぎないと認定した上で,かかる効果は,「トマトオレオレジンの添加量の調整により当然奏されるものであり,刊行物1の記載事項及び周知技術から予測し得るものでしかない」と断じた。 しかし,上述のとおり,補正発明の効果は,単に風味に実質的に影響を与えないと ンの添加量の調整により当然奏されるものであり,刊行物1の記載事項及び周知技術から予測し得るものでしかない」と断じた。 しかし,上述のとおり,補正発明の効果は,単に風味に実質的に影響を与えないというだけでなく,「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」といった点にあるから,審決における補正発明の効果の認定は明らかに誤っており,かかる誤った認定に基づく「トマトオレオレジンの添加量の調整により当然奏されるものであり,刊行物1の記載事項及び周知技術から予測し得るものでしかない」との判断も誤っている。かかる補正発明の効果の誤認,及びこれに基づく補正発明の進歩性に対する判断の誤りは,審決の結論に影響を与える重大な誤りであり,審決は取り消されるべきである。 さらに付言すると,そもそも補正発明の効果は,トマトの植物栄養素の組み合わせであるトマトオレオレジンを用いることによって,初めて達成し得たものである。 これに対して,上述のとおり,刊行物1ないし4のいずれを参酌したとしても,トマトオレオレジンを用いること自体,容易には想到し得ないのであるから,まして,トマトオレオレジンを用いることによって初めてもたらされる「トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めつつ,それと同時に食料品の風味にも実質的に影響を与えない」という補正発明の効果が当業者に容易に予測し得るものでないことは,より一層明らかである。 したがって,かかる補正発明の効果の点からも,補正発明が,刊行物1ないし4に対して進歩性を有するものであって,審決は取り消されるべきである。 5 取消事由5(補正前発明の容易想到性判断の誤り)審決は,補正発明が刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が - 18 -容 ものであって,審決は取り消されるべきである。 5 取消事由5(補正前発明の容易想到性判断の誤り)審決は,補正発明が刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が - 18 -容易に発明をすることができたものであるとの判断に基づき,本件補正を却下すべきとした上で,補正前発明についても刊行物1に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。 しかし,誤った補正却下を前提とした,補正前発明に関する判断が失当であるのは明らかである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り)に対して(1) 刊行物1発明の認定について審決は,刊行物1発明を認定するにあたり,【発明の属する技術分野】の項の記載のうち段落【0002】~【0004】のリコピンについて記載された箇所,及び【従来の技術】について記載された段落【0005】~【0010】のみを摘記した。 特に,段落【0003】及び段落【0004】の記載から,リコピンを含有するトマトまたはトマト製品やリコピンを摂取することによって,心臓および循環系の疾患や癌に対する予防のような健康上の予防効果が得られることが理解される。また,段落【0010】の記載から,商品名Lyc-O-Mato(R)はトマトからの天然のカロチノイドとして抽出されるものであって,6%の油状分散液として得られ,これはリコピンを含有することも理解される。さらに,刊行物1の審決が摘記した記載から,Lyc-O-Mato(R)のようなリコピンを含有するトマト製品を摂取すれば,上記健康上の予防効果が得られることも理解されるといえる。 審決は,刊行物1の記載に基づくこれらの理解,すなわち刊行物1には,心臓及び循環系の疾患や癌に対する予防のような健康上の予防 を摂取すれば,上記健康上の予防効果が得られることも理解されるといえる。 審決は,刊行物1の記載に基づくこれらの理解,すなわち刊行物1には,心臓及び循環系の疾患や癌に対する予防のような健康上の予防を目的として,トマトからの天然のカロチノイドとして抽出されるトマト製品であるLyc-O-Mato(R)を食品添加物として食品に添加することが記載されているとして,刊行物1発明を認定したものである。確かに,刊行物1の,特許請求の範囲に記載された発明は, - 19 -請求項1では「結晶化度が20%を上回るリコピンを含有する,安定なリコピン粉末製剤。」であり,リコピン単独成分に関する発明が記載されている。 しかし,刊行物1の審決が摘記した記載からは刊行物1発明が認定できる。 なお,「Lyc-O-Mato」が,リコピン,β-カロテン,トコフェロール等を含有するトマトから抽出されたトマトオレオレジンであることは,以下の乙1ないし3に記載されるとおり,本件出願日前に広く知られていたことである。 特願平11-504081号公報(乙1)の記載:「LYC-O-MATO(6%)(LYC-O-MATOは天然トマトオレオレジンのLycored Natural Products Industries Ltdでの商品名である)」「本発明を実施する好適方法および後に説明する実施例では,リコピンはトマトオレオレジンから得られる。オレオレジンはLycoRed-Natural Products Industries,Ltd,Beer Sheva,Israelにより供給された。オレオレジンは,トマトの脂質相に懸濁された結晶リコピン(6. 0%)からなる。トリグリセリドのような脂肪酸がオレオレジンの主な部分(72%)を構成するが,19%は6.0%リコピン,0.1% 給された。オレオレジンは,トマトの脂質相に懸濁された結晶リコピン(6. 0%)からなる。トリグリセリドのような脂肪酸がオレオレジンの主な部分(72%)を構成するが,19%は6.0%リコピン,0.1%β-カロチン,及び1%ビタミンEを含む非けん化物質である。残りは水と水溶性物質から成る。」Allergy,2000,Vol.55(乙2)(抄訳):「用いられたリコピン調整物はLYC-O-MATOというオレオレジン製品であって,ライコードナチュラルプロダクツインダストリーズ,ビアシエバ84102,イスラエルにて製造されたものである。LYC-O-MATOは,6%リコピン,1.6%トコフェロール,1%フィトエンおよびフィトフルエン,0.25%β-カロテン,並びにトマトから抽出された他の少量の植物由来生物学的活性複合物を含むものである。LYC-O-MATOは15 mg(6%)のリコピンを含むソフトカプセルの形態で販売された。」ANNALSOFALLERGY, ASTHMA&IMMUNOLOGY, Vol.94(乙3)(抄訳):「この研究はリコピン(LYC-O-MATO;ライコードナチュラルプロダクツインダストリーズ,ビアシエバ,イスラエル)補給剤の効果を評価することを目的 - 20 -とし」「LYC-O-MATOはトマト由来のリコピン豊富な製品であって,トコフェロール,カロテノイド,フィトエン,フィトフルエンなどのその他の生理活性物質を含むものである。)」「リコピン補給剤は,6%リコピン,1.6%トコフェロール,1%フィトエンおよびフィトフルエン,0.25%β-カロテン,並びにトマトから抽出された他の少量の植物由来生物学的活性複合物を含むオレオレジンであるLYC-O-MATOから構成された。LYC-O-MATOは1 ンおよびフィトフルエン,0.25%β-カロテン,並びにトマトから抽出された他の少量の植物由来生物学的活性複合物を含むオレオレジンであるLYC-O-MATOから構成された。LYC-O-MATOは15 mg (6%)のリコピンを含むソフトカプセルの形態である。」なお,乙2,3によると「Lyc-O-Mato」はカプセル化された商品のようであるが,乙1では,トマトオレオレジンを「Lyc-O-Mato」としており,刊行物1の段落【0010】に記載された「Lyc-O-Mato」は,リコピン6%の油状分散液である。 以上のとおり,審決は,刊行物1発明として「トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される,商品名Lyc-O-Mato(R)で,6%の油状分散液として得られるリコピンを,食品添加物として,健康上の予防のために食品に添加する方法。」を認定した。 (2) 原告が,「リコピン(単独成分)」と補正発明の「トマトオレオレジン」とはその成分からして明らかに相違するとする点は争わない。 しかしながら,トマトオレオレジンの健康利益について,刊行物1発明のリコピンと比較して相乗効果を奏するとする点については以下に述べるように誤りである。 すなわち,原告が主張するところの「相乗効果」とは,リコピン単独成分ではなく,それ以外の成分を含有するトマトオレオレジンを用いることに基づく効果であるといえ,刊行物1発明もトマトオレオレジンを摂取した結果として奏されるものであって,補正発明のみならず,刊行物1発明でも奏されている効果であるといえる。 なお,「Lyc-O-Mato」が,癌予防等の効果を有することは,刊行物1(甲 - 21 -1の段落【0003】)に記載されている。 (3) 審決で述べたとおり「Lyc-O-Mato」の水分散性が充分でないとの性質は, o」が,癌予防等の効果を有することは,刊行物1(甲 - 21 -1の段落【0003】)に記載されている。 (3) 審決で述べたとおり「Lyc-O-Mato」の水分散性が充分でないとの性質は,「Lyc-O-Mato」を添加する食品が,水性のものに限られるものでないから,「Lyc-O-Mato」を食品添加物とすることを阻害するものではない。 刊行物1の段落【0004】には,リコピンの用途として,「リコピンは・・・冒頭に挙げた理由から健康上の予防のための食品添加物として重要である。」と記載され,「冒頭に挙げた理由」として,段落【0003】には,トマトまたはトマト製品の健康上の予防の効能として,疫学的研究から,慢性的な疾患,特に心臓及び循環系疾患や癌の予防にプラスの影響を与えることが記載されていることから,刊行物1の実施例に「LYC-O-MATO」を用いた具体例がなくとも,当業者であれば,リコピンのみならず,リコピンを含有するLyc-O-Matoを健康上の予防のための食品添加物として用いることも記載されていると解するのが自然である。 審決における刊行物1発明の認定に誤りはない。 2 取消事由2(相違点1の判断誤り)に対し(1) 相違点1の判断誤り(1):トマトオレオレジン配合量に対してアまず,以下のように,食料品の技術分野では,食料品の栄養のような機能だけでなく,味や香りといった当該食料品の美味しさに関わる事項が重要な検討要素であることはいうまでもないことであり(乙6),リコピンに関する文献(乙4,5)にも記載されるとおり,リコピンを含有した添加物はトマトフレーバーを有しているから,これを添加した食料品の風味を損なう懸念があることも当業者の技術常識であった。 そうすると,リコピンを含有する添加物のような独特のフレーバーを有す 有した添加物はトマトフレーバーを有しているから,これを添加した食料品の風味を損なう懸念があることも当業者の技術常識であった。 そうすると,リコピンを含有する添加物のような独特のフレーバーを有する栄養素を添加する食料品において,栄養機能と風味の両立を検討することは,当業者にとって自明の課題であるといえる。 特願2002-326799号公報(乙4):「リコピンの機能性食品中の配合量は, - 22 -食品の種類により異なるが,食品の味を損なわず,且つ十分な抗アレルギー効果を得るためには,食品用組成物全量に対して,リコピンを0.01~1重量%の割合で配合させるのが好ましい。」特願平6-4498号(乙5):「多くの場合,着色されるべき食品製品が着色物質の源と関係ない場合,その中に見出される天然のフレーバー(flavors)は使用に対しそれを不適用なものとする。例えば,着色が甘い果実デザートである場合,トマトフレーバーは高度に不適当である。従って,本発明の好ましい態様によれば,着色剤はそのような使用の前に,フレーバーを除くため水洗される。」特願平成9-44522(乙6):「【従来の技術】近時,日常の食生活で不足しがちな栄養素を補給するための健康栄養食品が注目されており,これまでに種々の栄養補給食品が提案され市販されている。これらの食品では,必要な栄養素が摂取されると共に,食味が良好で食べやすいものとして提供されることが重要である。特に栄養素の中でも,鉄分,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンD,ビタミンEを補強する場合には,これらのもつ特有の味により食品が不自然な食味のものとなりやすい。したがって,上記栄養素を補給するための食品では,必要量を補強する一方,食品の食味を損なわないことが必要である。」そして,刊行物1発明 らのもつ特有の味により食品が不自然な食味のものとなりやすい。したがって,上記栄養素を補給するための食品では,必要量を補強する一方,食品の食味を損なわないことが必要である。」そして,刊行物1発明も食料品に関するものであるから,当然上記の当業者にとっての自明の課題を有する。 イ刊行物2ないし4には,それぞれ「Lyc-O-Mato」,「トマト抽出物」(リコピン及びその他の抗酸化物質を含有)及び「リコピン」のような栄養素を食料品に添加することが記載されている。そして,刊行物2ないし4に具体的に記載された食料品は,水分補給飲料,発酵乳,粉乳などであり,刊行物2ないし4の記載からみて,これらはいずれもトマト風味を要しない食料品であることは明らかである。そうすると,これらの食料品への「Lyc-O-Mato」等の栄養素の配合に際しても,上記で述べた栄養機能と風味の両立を検討するという自明の課題に基づいて栄養素の配合割合等の検討がなされており,刊行物2ないし4におい - 23 -ては,該自明の課題が解決された食料品が提供されていると考えられる。 上記刊行物2ないし4は,栄養素としてリコピンのようなトマトフレーバーを有する栄養素を添加されたトマトの風味を要しない食料品を得ること,つまり,上記自明の課題が解決された食料品を提供するという課題が,本件出願日前には既に解決済みであったことを示す文献である。 (2) 相違点1の判断誤り(2):課題に対してア補正発明は,健康利益を期待して,食料品にトマト成分であるトマトオレオレジンを添加するにあたり,健康利益が得られ,かつ,食料品の風味も損なわないような量を考慮して添加することを特徴としている。 一方,リコピンのような独特のフレーバーを有する栄養素を添加する食料品において,栄養機能と風味の両 健康利益が得られ,かつ,食料品の風味も損なわないような量を考慮して添加することを特徴としている。 一方,リコピンのような独特のフレーバーを有する栄養素を添加する食料品において,栄養機能と風味の両立を検討することは,当業者にとって自明の課題であり,そして,当該課題の解決のために,栄養素の添加量等を検討することも,当業者が容易になし得ることである。 つまり,審決が相違点1とした「トマトオレオレジンの配合量が,本願補正発明では『前記食料品の風味が前記オレオレジンにより実質的に影響を受けない量』であるのに対し,刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。」は,上記当業者にとって自明の課題を記載したものといえる。 そして,そのような課題を解決することは,当業者にとっては容易になし得ることであるから,審決は,容易想到と判断したのである。 イ原告は,刊行物1ないし4に課題の記載や示唆がないことを指摘しているが,上述のとおり,審決が相違点1とした点は自明の課題であるから,刊行物1ないし4に明記されていなくても,当業者は当然にそれを把握し,その課題の解決を検討するのであって,原告の主張は失当である。 3 取消事由3(相違点2の判断誤り)に対し審決で認定した「刊行物1発明のリコピン」とは,「Lyc-O-Mato(R) 」であり,また,この「Lyc-O-Mato(R) 」が,トマトから抽出されたトマト - 24 -オレオレジンであることは,上記で述べたとおり周知である(乙1ないし3)。 そして,補正発明の「健康利益」には,心臓血管障害や癌などの予防や治療が含まれるところ,「Lyc-O-Mato(R)」つまりトマトオレオレジンの摂取によって,心臓や循環系の疾患,癌の予防のような健康上の予防,すなわち「健康利益」が得られることも,刊行物1に 防や治療が含まれるところ,「Lyc-O-Mato(R)」つまりトマトオレオレジンの摂取によって,心臓や循環系の疾患,癌の予防のような健康上の予防,すなわち「健康利益」が得られることも,刊行物1に記載されている。 したがって,審決が「刊行物1発明のリコピン」つまり「Lyc-O-Mato(R)」を「健康上の予防のために添加」することと,「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める」こととは,実質的に相違するものではないと判断したことに誤りはなく,原告の主張は,審決を正解しておらず,失当である。 4 取消事由4(効果の誤認)に対し(1) 補正発明と刊行物1発明の対比において,食料品に「Lyc-O-Mato(R) 」(トマトオレオレジン)を添加することは相違点ではなく,栄養価を高めるという効果は,補正発明においても,刊行物1発明においても,同じように奏されている効果である。 審決は,この栄養価を高めるといった効果については,刊行物1発明において既に達成されている効果として実質的に認定しており,補正発明の進歩性を基礎づけるような顕著な効果,つまり,補正発明と刊行物1発明との相違点に基づく効果として検討することは要さないものであったため,この点を明記しなかっただけであって,当業者であれば,刊行物1の記載から,補正発明における栄養価を高める効果が予測し得ることはいうまでもない。 (2) 原告は,補正発明の効果として,食料品の栄養価を高めることと,風味に実質的に影響がないことの両立を主張するが,そのような両立は,当業者にとって自明の課題であり,その解決も当業者にとって容易である。 また,原告は,補正発明の効果は,トマトオレオレジンを用いることによる相乗効果であり,トマトオレオレジンを用いることによって初めて達成し得たもので の課題であり,その解決も当業者にとって容易である。 また,原告は,補正発明の効果は,トマトオレオレジンを用いることによる相乗効果であり,トマトオレオレジンを用いることによって初めて達成し得たものであるというが,トマトオレオレジンを用いることは,刊行物1発明でも行われていた - 25 -のであるから,原告の主張する効果は,補正発明の独特の効果ではないのであって,原告の主張は失当である。 5 取消事由5(補正前発明)に対し審決の補正却下の判断に誤りはなく,補正前発明に関する判断にも誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(刊行物発明1発明の認定の誤り)について(1) 刊行物1(甲1)は,「結晶化度が20%を上回るリコピンを含有する安定なリコピン粉末製剤」(請求項1)の発明についてのものであるが,そこには次のとおりの記載がある。 【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は20%を上回る結晶化度を有するリコピンを含有する,安定なリコピン粉末製剤,その製法並びに食品,化粧品,医薬品および動物資料への添加物としての使用に関する。 【0002】カロチノイド物質群に属するリコピンは,自然界に広く存在する。こうして,トマト1kg当たり約20mgのリコピン含量を有するトマトは,この赤色顔料の重要な天然資源である。 【0003】疫学上の研究は,トマトまたはトマト製品を頻繁に,かつ規則的に摂取することは,慢性的な疾患,特に心臓および循環系疾患,への罹病の危険を低下させ,かつ癌予防にプラスの影響を与えることを示した。リコピンのこの保護機能は非常に効果的な抗酸化剤としてのその作用に見られる。 【0004】食品および飼料産業においても,薬学的技術においてもリコピンは,例えば合成色素の ることを示した。リコピンのこの保護機能は非常に効果的な抗酸化剤としてのその作用に見られる。 【0004】食品および飼料産業においても,薬学的技術においてもリコピンは,例えば合成色素の代替品として重要な色素であり,かつ冒頭に挙げた理由から健康上の予防のための食品添加物として重要である。 【0005】 - 26 -【従来の技術】リコピンの合成は,特にEP-A-382067およびEP-A-000140中に記載されている。WO97/48287はトマトからの天然カロチノイドとしてリコピンの抽出を記載している。 【0006】全てのカロチノイドと同様,リコピンは水に不溶性であり,一方油脂中には僅かな溶解性を示す。この限られた溶解性並びにその高い易酸化性は比較的粗大な粒状結晶リコピンを食品および飼料の着色に直接適用することを妨げている,それというのも粗大結晶の形での純粋な物質は余りにも不安定であり,不十分に吸収され,したがって不良な着色結果に導くためである。 【0007】この作用物質が微細に分散した形で存在し,場合により保護コロイドで酸化に対して保護されている,特別に製造された製剤によってのみ,食品を直接着色する際に,改良された着色収率(coloryield)が達せられる。 【0008】他のカロチノイドに比較して,リコピンの特に低い酸化安定性およびこれと結び付いた低い色の安定度もしくは貯蔵安定性を顧慮して,この製剤には特に高い要求がなされる。 【0009】カロチノイド一般には,多くの製剤並びにその製法が記載されている。 【0010】こうしてリコピンは,例えば商品名Lyc-O-Mato(R)(Fa.LycoRed,Israel)で,6%の油状分散液として得られる。WO97/48287によれば,リコピンはト る。 【0010】こうしてリコピンは,例えば商品名Lyc-O-Mato(R)(Fa.LycoRed,Israel)で,6%の油状分散液として得られる。WO97/48287によれば,リコピンはトマトからの天然のカロチノイドとして抽出される。油状分散液の高い粘度と結び付いて,Lyc-O-Mato(R)中の高いホスホリピド含量のために,この製剤の適用特性は,特に水分散性は十分ではない。 すなわち,刊行物1には,発明の前提として,【発明の属する技術分野】には,トマトに含まれるカロチノイドであるリコピンは,健康上の予防のための食品添加物として有用であること,【従来の技術】には,カロチノイド一般の様々な製剤化方法が列挙されるとともに,リコピンの製剤として,トマトから天然のカロチノイドとして抽出したリコピンを6%含有する油状分散液である商品名Lyc-O-Mato(R) が知られていること,及びLyc-O-Mato(R)は水分散性が十分ではない - 27 -ことが記載されている。 したがって,審決が,刊行物1から「トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される,商品名Lyc-O-Mato(R)で,6%の油状分散液として得られるリコピンを,食品添加物として,健康上の予防のために食品に添加する方法」という刊行物発明1を認定したことに誤りはない。 (2) この点,原告は,リコピンの例として,Lyc-O-Mato(R)という名称が記載されていることを奇貨として,審決がリコピンとトマトオレオレジンを同一視,あるいは混同した旨主張する。しかしながら,審決は,刊行物1発明につき,上記記載を前提に,トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される商品名Lyc-O-Mato(R)で,6%の油状分散液として得られるリコピンを添加するものと判断した,すなわちトマト 物1発明につき,上記記載を前提に,トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される商品名Lyc-O-Mato(R)で,6%の油状分散液として得られるリコピンを添加するものと判断した,すなわちトマトオレオレジンであるLyc-O-Mato(R)を用いるものであると判断したのであるから,トマトオレオレジンとリコピンを同一視,混同したわけではないと認められる。 また,原告は,刊行物1には,Lyc-O-Mato(R)は水分散性が十分ではないから使用が望ましくないことが教示されている旨主張する。しかしながら,通常,食品は水性成分のみからなるわけではなく,固形分や油分を含むものであるから,Lyc-O-Mato(R)の水分散性の不十分さは,食品に添加することを妨げる事情であるとは認められない。 したがって,原告の主張はいずれも理由がない。 (3) 以上によれば,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点1に係る容易想到性認定の誤り)について(1) 刊行物2(甲2)に,「[0018] 追加のビタミン,ミネラル,アミノ酸および栄養補助成分で本発明が強化されるだろうことは理解されるべきである。・・・さらに,本発明は,リコピン(乳癌及び前立腺癌の予防効果が知られているトマト色素であり,商標Lyc-o-Mato の下で商業的に利用可能),・・・等の他の栄養補助成分を含有してもよい。」と記載されているとおり,刊行物2は,低カロリー化するため - 28 -に糖や炭水化物の代わりにスクラロースを含有し,すっきりした味わいで嫌な後味がないアイソトニック飲料が,栄養補給成分としてLyc-O-Mato(R)を含んでいてもよいことを記載したものである。また,特願平11-299034号公報(甲8)の実施例4には,機能性素材含有ナタデココを製造するにあたっ 料が,栄養補給成分としてLyc-O-Mato(R)を含んでいてもよいことを記載したものである。また,特願平11-299034号公報(甲8)の実施例4には,機能性素材含有ナタデココを製造するにあたって,発酵用液に機能性素材として1.2重量%(ココナッツミルク50g,砂糖5g,酢酸0.5g,Lyc-O-Mato(R)0.7gから算出)のLyc-O-Mato(R)を添加することで赤色に着色したナタデココが得られたことが記載されている。さらに,特願2002-326799号公報(乙4)には,トマトから抽出されたリコピンを有効成分として含有する抗アレルギー剤を食料品に添加して機能性食品とする場合,食料品の味を損なわず,かつ充分な抗アレルギー効果を得るために食料品に対して0.01~1重量%配合するのが好ましいことが記載されている。 上記アイソトニック飲料は,Lyc-O-Mato(R)を含んでいても風味に影響を受けているとは認められないこと,上記ナタデココは,発酵用液以上にLyc-O-Mato(R)が濃縮するとは考えられず,補正発明の実施例や特願2002-326799号公報(乙4)に記載されたのと同程度の量のLyc-O-Mato(R)を含有すると認められる。また,特願2002-326799号公報(乙4)の上記記載を併せてみても,トマトオレオレジンであるLyc-O-Mato(R)を,食料品に,栄養補給,着色,抗アレルギー等の機能を付与するために添加する場合,食料品の風味が影響を受けないような量とすることは,本件出願日前に周知であったと認められる。そして,刊行物1発明は,健康上の予防という機能を付与するためにLyc-O-Mato(R)を食品に添加するものであるから,その量を上記周知のものとすることは,当業者が容易になし得たことも明らかである。 したが 1発明は,健康上の予防という機能を付与するためにLyc-O-Mato(R)を食品に添加するものであるから,その量を上記周知のものとすることは,当業者が容易になし得たことも明らかである。 したがって,審決の相違点1についての容易想到性の判断に誤りはない。 (2) この点,原告は,刊行物2ないし4にはトマトオレオレジンに関する何ら具体的な記載はなく,審決は,トマトオレオレジンとリコピンを同一視,混同した上で容易想到性判断を誤った旨主張するが,かかる誤解がなかったことは上記1で - 29 -説示したとおりである。 また,原告は,刊行物1ないし4は,いずれも補正発明と課題が異なり,補正発明の課題を解決するようにトマト成分の配合量を決定する動機付けや示唆がない旨主張する。しかしながら,上記の刊行物1の記載に接した当業者にとって,健康上の予防のためにリコピンを食品に添加するに当たって,入手の容易さの観点から,唯一具体的な市販品として記載されたLyc-O-Mato(R)を用いればよいことは自明である。しかも,通常,食品は水性成分のみからなるわけではなく,固形分や油分を含むものであるから,Lyc-O-Mato(R)の水分散性の不十分さは,食品に添加することを妨げるほどの事情であるとは認められないことは上記1で説示したとおりである。また,刊行物2ないし4には,Lyc-O-Mato(R)といった抗酸化物質を含むトマト抽出物やトマト由来のリコピンが,アイソトニック飲料やナタデココなどトマト風味を要しない食料品に添加されていることから,トマトフレーバーを有するトマト由来の添加物が食料品の風味を損なう懸念があるという課題は共通しており,かかる課題は本件出願日前に既に解決済みであったと認められるから,配合量を決定する動機付けも示唆もあるというべきである するトマト由来の添加物が食料品の風味を損なう懸念があるという課題は共通しており,かかる課題は本件出願日前に既に解決済みであったと認められるから,配合量を決定する動機付けも示唆もあるというべきである。 (3) 以上によれば,取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(相違点2についての判断誤り)について原告は,審決が引用した刊行物2ないし4のいずれにもトマトオレオレジンに関する具体的な記載はないから,それらを参酌しても相違点2の構成は容易に想到し得るものではない,審決はトマトオレオレジンとリコピンを同一視あるいは混同したため相違点2についての判断を誤った旨主張する。 しかし,そもそも,刊行物1発明は「トマトからの天然のカロチノイドとして抽出される,商品名Lyc-O-Mato(R)」を「健康上の予防のために食品に添加する方法」であるから,Lyc-O-Mato(R)の添加により食品の栄養価が高められていることは明らかであって,「トマトの植物栄養素の健康利益有効量により食料品の栄養価を高める方法」という補正発明と実質的な相違があるとは認められな - 30 -い。 また,審決に,トマトオレオレジンとリコピンの同一視や混同の誤りがないことは,上記1で説示したとおりである。 したがって,取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(効果についての誤認)について原告は,補正発明の効果は,トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めることと,食料品の風味に実質的に影響を与えないこととを両立させた点にあるにもかかわらず,審決は後者しか認定せず,顕著性を否定した誤りがある旨主張する。 しかし,刊行物1発明は慢性的な疾患,特に心臓,循環器系の疾患への罹患率を下げ,癌予防にプラスの影響を与えるものであるから(【0004】段落),補正発明と同様 性を否定した誤りがある旨主張する。 しかし,刊行物1発明は慢性的な疾患,特に心臓,循環器系の疾患への罹患率を下げ,癌予防にプラスの影響を与えるものであるから(【0004】段落),補正発明と同様に,トマトの植物栄養素により食料品の栄養価を高めるという効果を有することは自明である。 したがって,補正発明の,食料品の風味に実質的に影響を与えないという効果について判断することで,二つの効果の両立についても判断したことになるから,審決に判断の遺脱はない。そして,これらの二つの効果は,刊行物1に示されたLyc-O-Matoを使用することで当然に得られる効果であって,補正発明に格別顕著な効果があるとはいえない。 したがって,取消事由4は理由がない。 5 取消事由5(補正前発明の容易想到性)について補正発明は補正前発明を限定したものであるところ,上記2,3のとおり補正発明について容易想到であるから,補正前発明についても当業者であれば容易に達成できたものであると認められる。 したがって,取消事由5は理由がない。 第6 結論以上のとおり,原告の請求は理由がない。 - 31 -よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官池下 朗 裁判官新谷貴昭 下朗 裁判官新谷貴昭
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