本件は、被告人がAから借り受けた五尺ロール裁断機を横領したとして起訴された事件である。主要な争点は、被告人が当該物件の所有権を有していたかどうか、及びその横領行為の事実が証明されるかどうかであった。裁判所は、原判決における事実認定に誤りがあるとし、特に競売による物件の所有権移転の有無について詳細に検討した。結果として、被告人は当該物件の所有権を有しておらず、したがって横領行為も成立しないと判断し、原判決を破棄し無罪を言い渡した。これにより、被告人に対する公訴事実は証明されなかった。
主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人津島宗康作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。 職権で調査するに、原判決には、以下述べるとおり、事実の誤認がある。 原判決認定の罪となるべき事実は、被告人は、かねて、Aから五尺ロール裁断機一台(時価一〇万円位)を借り受けて、これを保管中、昭和三一年九月二一日頃擅にBに対する自己の負債六〇万円位の一部の支払に代えて、これを同人に引渡し、以つて、これを横領したものである。 というのであるから、まず、右日時当時において、右物件(以下本件物件という。)が、Aの所有であつたかどうかについて検討する。(起訴状並びに原判決書には、いずれも、その罪となるべき事実の表示として、右日時当時において、本件物件がAの所有であつた旨を明示していないが、両者とも、このことを暗黙に表示しているものと解せられる。)。 記録中の有体動産競売調書謄本及びCの検察官に対する供述調書謄本の記載によると、昭和三〇年一〇月二一日に、当時被告人が西条市a町の被告人方で使用占有していた本件物件は、被告人とAとの間の西条簡易裁判所昭和二九年(ノ)第三〇号貸金請求調停事件の調停調書記載の被告人のAに対する債務弁済の為に、同調書の執行力ある正本に基く強制執行として、右被告人方において競売に付せられ、同日同所においてAがこれを競落したことが認められる。 ところで、記録によると、右競落当時において、本件物件は被告人の所有ではなかつたことが認められる。 即ち、原審第三回公判調書中の証人Bの供述記載、被告人の司法警察員に対する供述調書二通の記載及びCの検察官に対する供述調書謄本の記載によると、被告人は、昭和二八年一 はなかつたことが認められる。 即ち、原審第三回公判調書中の証人Bの供述記載、被告人の司法警察員に対する供述調書二通の記載及びCの検察官に対する供述調書謄本の記載によると、被告人は、昭和二八年一二月D株式会社からその所有の本件物件を、代金は月賦支払のこと、代金完済の時に買主たる被告人にその所有権を移転する。との約定で買い受ける契約をしてその引渡を受け、以来被告人において本件物件を使用占有していたが、前記競落当時には、末だ右代金の完済なく、従つて、本件物件は未だ被告人の所有に帰していなかつたことか認められる。原審第一回公判調書中の被告人の供述記載並びに被告人の検察官に対する供述調書の記載は、未だ以つて右認定を左右するに足らず、かつ、他に右認定を動かすべき証拠はない。 ところで、かように、強制執行手続としての競落のなされた当時において、競落物件が債務者の所有でない場合には、競落人は競落によつて競落物件の所有権を収得することはできないものというべきであるから、Aは前記競落によつては本件物件の所有権を取得しなかつたものというべきである。ただ、民法第一九二条所定の要件が充たされたならば、同人は、これによつて本件物件の所有権を取得することはできるわけである。 それで、まず、Aにおいて、前記競落後、原判示の横領行為の時、即ち昭和三一年九月二一日頃迄の間に、本件物件の占有を取得したかどうかについて判断するに、記録中の有体動産競売調書謄本並びに被告人の司法警察員に対する供述調書二通の記載によると、前記競落当時に、被告人は前記競落の事実を知つていたこと並びにその後も引続き被告人において本件物件を使用占有していたことが認められる。それで、その当時Aは、いわゆる占有改定の方法によつて、本件物件の占有を取得したものというべきである。そして、右に認定したとこ その後も引続き被告人において本件物件を使用占有していたことが認められる。それで、その当時Aは、いわゆる占有改定の方法によつて、本件物件の占有を取得したものというべきである。そして、右に認定したところ以外に、Aにおいて前記期間内に本件物件の占有を取得したとの事実を認めるべき証拠はない。 <要旨>ところで、前記民法の規定にいわゆる占有は、占有改定の方法によつて取得せられた占有を含まないと解す</要旨>るのが相当であるから(最高裁判所判例集第一一巻第一四号第二四八五頁参照)、仮りにAが平隠公然善意無過失に前記占有を始めたとしても、同人はこれによつて本件物件の所有権を取得することはできないというべきである。 そしてその後、原判示の横領行為の日時迄の間において、Aが本件物作の所有権を取得したとの事実は、これを認めるべき証拠はなく、却つて原判示の横領行為の日時当時における本件物件の所有者は、前記D株式会社であることは、記録によつて明らかである。 以上述べたとおり、原判決には事実の誤認があり、それが原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条によつて原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によつて更に判決する。 本件公訴事実は、被告人は予てAより五尺ロール裁断機一台(時価一〇万円位)を借り受けて保管していたが昭和三一年九月二一日頃擅に自己のBに対する負債六〇万円位の一部支払に代えて之を同人に引渡して横領したものである。 というに在るが、これについて結局犯罪の証明がない。 よつて、刑事訴訟法第三三六条によつて主文のとおり判決する。 (裁判長判事玉置寛太夫判事渡辺進判事安芸修) 主文 り判決する。 理由 (裁判長判事玉置寛太夫判事渡辺進判事安芸修)
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