令和3(わ)208 殺人、建造物等以外放火、建造物損壊

裁判年月日・裁判所
令和4年10月25日 佐賀地方裁判所 その他
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判決文本文3,399 文字)

- 1 - 令和4年10月25日宣告令和3年第208号、令和4年第15号 殺人、建造物等以外放火、建造物損壊被告事件主 文被告人を懲役24年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 押収してあるライター1個及びハンマー1本を没収する。 理 由(犯罪事実)第1 (訴因変更後の令和4年1月27日付け起訴状記載の公訴事実第1)被告人は、取得単位の不足から大学での留年が確実となった上、所属する研究室のグループディスカッションの準備ができていないことから、現実から逃れたい、自宅やその周囲に火を点けて戻ってくる場所をなくそうなどと考え、令和3年9月9日午前3時35分頃、長崎市(住所省略)A方居宅玄関先において、同人方玄関ガラス戸に接して置かれていた同人が管理しB協同組合連合会(会長C)が所有する発泡スチロール製の宅配用保冷箱にライターで点火して火を放ち、同箱を焼損させ、そのまま放置すればA方及び付近の民家等に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ、もって公共の危険を生じさせた。 第2 (令和4年1月27日付け起訴状記載の公訴事実第2)被告人は、令和3年9月9日午後3時30分頃、株式会社D(代表取締役E)が所有する長崎市(住所省略)被告人方居室において、ベッドのマットレス部分及び床上の紙片等にライターで点火し、その火力で同室の床面を焼き焦がすなどし(損害額合計91万6300円相当)、もって他人の建造物を損壊した。 第3 (令和3年12月17日付け起訴状記載の公訴事実)- 2 - 被告人は、第1及び第2の事件を起こした後、グループディスカッションをさぼるなどしたことで研究室での信用が完全になくなった、自分の居場所はないし帰る場所もない、刑務所にずっといるた - 2 - 被告人は、第1及び第2の事件を起こした後、グループディスカッションをさぼるなどしたことで研究室での信用が完全になくなった、自分の居場所はないし帰る場所もない、刑務所にずっといるために人を襲おうなどと考え、令和3年9月10日午後1時3分頃、佐賀県鳥栖市(住所省略)所在のF方敷地内において、G(当時79歳)に対し、殺意をもって、その頭部をハンマー(重量1.05キログラム)で複数回殴打し、よって、同日午後2時9分頃、同市(住所省略)所在のH病院において、同人を外傷性くも膜下出血に基づく脳機能障害により死亡させて殺害した。 (法令の適用)罰 条第1刑法110条1項第2刑法260条前段第3刑法199条刑種の選択 第3有期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い第3の罪の刑に加重)未決勾留日数の算入 刑法21条没収刑法19条1項2号、2項本文(主文掲記のライター及び ハンマー)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)1(1) 刑を決める上で中心となる殺人事件(第3)を見ると、被告人は、高齢の被害者が一人でいるのを見かけると、その背後から近づいた上で、被害者が悲鳴を上げているのにもかまわず、頭部を狙って複数回にわたってハンマーを振り下ろして殴打しており、被害者の生命を奪う危険性が高い残忍な犯行とい- 3 - える。また、無関係の人を狙った通り魔的犯行であるから、被害者からしてみれば防ぎようもなかった。このような犯行態様の悪質性は、被告人に対する刑を決める上で特に重視すべき事情である。 被告人は、判示のとおり大学での留年が確実となるなどして精神的に追い詰められ、刑務所に入るしかないなどと考えて ような犯行態様の悪質性は、被告人に対する刑を決める上で特に重視すべき事情である。 被告人は、判示のとおり大学での留年が確実となるなどして精神的に追い詰められ、刑務所に入るしかないなどと考えて犯行に及んだというのであるが、無関係の人を襲った理由としては余りに身勝手なものといわざるを得ない。この点、被告人に対する精神鑑定を行った医師は、被告人には自閉スペクトラム症傾向が認められ、本件犯行にもその特徴が見られるとしているが、被告人が犯行を決意したこと自体に精神障害が直接的な影響を与えたわけではないというのであり、犯行の主たる原因は被告人の性格や考え方にあるということができる。また、被告人は、犯行に先立ち、返り血を浴びたときのために着替えを準備し、犯行に適した人気の少ない場所を選ぶなど、状況を十分理解して行動していた。これらからすれば、精神障害の点を被告人に有利に考慮するとしても自ずと限界があるというべきである。 (2) 次に、建造物等以外放火事件(第1)を見ると、被告人は、深夜の時間帯に、周辺に民家が密集する住宅街で、被害者方玄関先の発泡スチロール製の保冷箱に火を点けており、被害者方や周囲の民家に延焼させ、就寝中の住民を死傷させる危険性があった。また、犯行による被害額は、114万円余りと高額に及んでいる(なお、同損害について保険金の支払がされているが、被告人自身が保険料を支払っていたわけではない。)。 さらに、建造物損壊事件(第2)を見ても、被告人は、マンションの自室で紙片に火をつけて床面を焼き焦がすなどしており、これも大変危険な犯行である。この犯行による損害額も、91万円余りと高額に及んでいる。 2 以上のような犯罪事実に直接関係する事情を中心に据えた上で、刑の公平性の観点から、同種事案(凶器を用いて単独で敢行され、被害者と関係 る。この犯行による損害額も、91万円余りと高額に及んでいる。 2 以上のような犯罪事実に直接関係する事情を中心に据えた上で、刑の公平性の観点から、同種事案(凶器を用いて単独で敢行され、被害者と関係がない、あるいは、通り魔・無差別の殺人1件を中心とする事案であり、量刑上特に考慮す- 4 - べき前科がないもの)の量刑傾向に照らして検討すると、本件は、同種事案の中で相当に重い部類に属するものといえるから、被告人に対しては相当長期間の実刑をもって臨むほかない。 3 その上で、被告人に対する具体的な刑を決めるに当たって、以上の事情に加え、犯情以外の点を見ると、次の事情が指摘できる。 まず、被害者の御遺族は、法廷で、被告人に対する大変厳しい処罰感情を表明している。被害者を突然失ったことによる御遺族の悲しみは深く、そのような厳しい処罰感情を抱くのも当然のことといえる。このことは、被告人の刑を一定程度重くする方向で考慮すべき事情である。 他方で、被告人は、事件後に警察に出頭しており、この経緯には自首が成立する。しかし、被告人は、事件直後に出頭したわけではない上、刑務所に入るために事件を起こしたのに、自首をしたら刑が軽くなるということにも違和感がある。自首によって本件の捜査が進展し、事案の解明に寄与した部分があることは否定できないとはいえ、被告人の刑を特に軽くする事情とまでは評価できない。 その他の事情を見ても、被告人は、法廷で、淡々とした態度ではあるが、言葉を選びながら、事件について正直に話をした。御遺族に対する謝罪の仕方は十分とはいえないし、反省が深まっているともいえないにせよ、被告人なりに事件を後悔し、罪を償いたいという気持ちは見て取れる。なお、被告人の両親は、法廷で、一生をかけて被告人と共に償いをしたい旨を述べたが、被告人自身が両 省が深まっているともいえないにせよ、被告人なりに事件を後悔し、罪を償いたいという気持ちは見て取れる。なお、被告人の両親は、法廷で、一生をかけて被告人と共に償いをしたい旨を述べたが、被告人自身が両親に対する気持ちとして述べた内容からして、両親の存在が被告人の更生の支えとなるまでには時間がかかると思われる。 そこで、これらの犯情以外の点で被告人にとって斟酌すべき事情をも考慮して、主文の刑に処するのが相当と判断した。 (求刑・懲役25年、主文同旨の没収)令和4年10月26日佐賀地方裁判所刑事部- 5 - 裁判長裁判官 岡 﨑 忠 之 裁判官 瀧 田 佳 代 裁判官 名 倉 亨

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