平成29(行コ)3 退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年2月28日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成28(行ウ)45
ファイル
hanrei-pdf-87709.txt
🤖 AI生成要約2026/3/16

本件は、フィリピン国籍の女性控訴人が名古屋入国管理局から退去強制令書を受けたことに対し、その取消しを求めた事案である。控訴人は、短期滞在の在留資格で日本に入国した後、不法残留状態に陥り、退去強制事由に該当するとされていた。主要な争点は、控訴人の不法残留の認定が適法であるかどうかであり、名古屋高等裁判所は、控訴人の異議申出に理由がないとの名古屋入管局長の裁決を取り消し、退去強制令書の発付処分も取り消す判断を下した。判決の結論として、原判決を取り消し、控訴人の退去強制に関する処分を無効とした。これにより、控訴人は日本に留まることが可能となった。

キーワード(AI生成)

判決文本文10,617 文字)

- 1 -平成30年2月28日判決言渡し名古屋高等裁判所平成29年(行コ)第3号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成28年(行ウ)第45号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋入国管理局長が平成27年12月17日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。 3 名古屋入国管理局主任審査官が平成27年12月17日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)国籍を有する外国人女性である控訴人が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する等の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受- 2 -けた名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)から,控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 (以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原審は控訴人の請求をいずれも棄却し,これを不服とする控訴人が,本件控訴を提起した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 控訴人の退去強制事由該当性について前提事実によれば,控訴人は,入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認められる。 2 認定事実前提事実,甲1ないし3(枝番のあるものは枝番を含むこともある。以下同じ。),5ないし34,乙1ないし20,24,25,当審における証人Aの証言及び控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国での生活状況等ア控訴人は,昭和61年(西暦1986年)12月●日に,母国フィリピンのマニラで出生した外国人女性である。控訴人は,フィリピンで大学の看護学科を卒業して看護師の資格を取得し,薬局で短期間働いたこともあった。控訴人には,姉3人,兄1人,弟1人があり,このうち2番目の姉と3番目の姉は日本に居住している。(甲1,5,乙11,控訴人本人)- 3 -イ控訴人は,日本に住む2番目の姉が妊娠中に夫と死別したことから,産前産後の姉やその子どもの世話をするために,平成25年5月12日(26歳のとき)に,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受けて,日本に入国した。(甲1,5,乙1,11)(2) 控訴人 の子どもの世話をするために,平成25年5月12日(26歳のとき)に,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受けて,日本に入国した。(甲1,5,乙1,11)(2) 控訴人の本邦入国後の生活状況ア控訴人は,本邦入国後,愛知県岡崎市の2番目の姉の家に同居して姉の第2子出産を手伝い,平成25年7月23日に在留期間更新許可を受けた。(甲1,5,乙1,11)イその後,控訴人は,「短期滞在」の在留資格では就労することができないことを知りつつも,本国の家族に送金するために,フィリピンパブで働くようになり,客として来店したB(昭和30年6月●日生の日本人男性)から結婚を申し込まれ,平成25年9月頃から岡崎市内のB宅で同居するようになり,同年10月17日にBと婚姻し,同年11月7日に,名古屋入管豊橋港出張所において,在留資格を「日本人の配偶者等」に変更することを内容とする本件在留資格変更許可申請をした。(甲5,乙2,11,13)ウ Bとの同居を開始してから,控訴人は,洗濯,掃除,炊事等の家事を担い,Bから家計を任されるようになった。しかし,控訴人とBは,金銭の使途をめぐって喧嘩が絶えず,このような生活の中で,Bは,控訴人の荷物を外に放り出し,控訴人をB宅から追い出した。控訴人は,しばらくの間,Bの気持ちが変化するのを待っていたが,その兆しが認められなかったため,やむなく,Bとの協議離婚届にサインし,岐阜県a市のフィリピンパブで働いていた従姉妹を頼ってa市へ転居した。控訴人- 4 -とBは平成25年12月4日に協議離婚した。(乙2,控訴人本人)エ名古屋入管豊橋港出張所入国審査官は,平成25年12月3日及び同月13日に,愛知県岡崎市内のB宅宛てに,控訴人に対し出頭を求める通知書を送付した。しかし に協議離婚した。(乙2,控訴人本人)エ名古屋入管豊橋港出張所入国審査官は,平成25年12月3日及び同月13日に,愛知県岡崎市内のB宅宛てに,控訴人に対し出頭を求める通知書を送付した。しかし,当時,控訴人とBとの関係が上記のようなものであったことから,その事実は控訴人には伝わらず,控訴人が同出張所に出頭することのないまま,特例期間の満了日である平成26年1月8日が経過し,結果的に上記申請手続を放置することになり,控訴人は,同月9日以降不法残留状態になった。(乙3,4,24)(3) 控訴人とAとの同居開始ア控訴人は,平成25年12月11日頃から,a市のフィリピンパブで働き始め,平成26年1月頃から,同店の客として知り合ったA(昭和34年7月●日生まれの日本人男性)と交際するようになり,平成26年3月頃,自己の荷物の多くをa市のAの自宅(控訴人の肩書住所地。以下「A宅」ともいう。)に移し,Aとの同居を開始した(ただし,店のママの指示で,仕事関係の衣装等は店の3階に残していた。)。 イ Aは,平成23年頃からa市の自宅兼店舗(A宅)で新聞販売店を経営しており,交際開始当初から控訴人との結婚を考えていた。 控訴人は,Aと同居して以降,午後7時から12時までフィリピンパブで働いた後,Aの車の迎えで帰宅し,翌朝起床してから夕方出勤するまでの間は,炊事,掃除,洗濯等の家事をこなす傍ら,新聞販売店の店番や,チラシの仕分けの手伝い,集金した新聞代の受け取り・保管等の手伝いをしていた。2人は,- 5 -Aの休日には一緒に旅行したり,互いの家族のことについて話し合ったりするなどしながら,互いに対する理解を深めていった。 ウ控訴人は,Aとの結婚を考えるようになったが,本国フィリピンでは前夫Bとの婚姻が解消されておらず,控訴 互いの家族のことについて話し合ったりするなどしながら,互いに対する理解を深めていった。 ウ控訴人は,Aとの結婚を考えるようになったが,本国フィリピンでは前夫Bとの婚姻が解消されておらず,控訴人がAと正式に婚姻するためにはフィリピンにおいて控訴人とBとの婚姻を無効にする手続をとる必要があり,それには多額の費用がかかると悩んでいた。 (以上につき,甲5,6,24,25,乙11,13,証人A,控訴人本人)(4) 控訴人とAの婚姻の約束と婚姻への努力ア平成26年8月頃,Aは,バイクを運転中に転倒して足を負傷し,一人で仕事をすることが困難になった時期があった。その間,控訴人は,毎日朝と晩にAの傷の手当をし,深夜,Aの運転する車の助手席に乗って新聞配達を手伝った。控訴人とAとの絆は一層深まり,Aは控訴人に正式にプロポーズし,両者は婚姻の約束をした。 イ Aは,日本に住んでいる控訴人の2番目,3番目の姉たちとも,A宅に招いて宿泊させ控訴人と一緒に過ごしてもらうなど,親密に交流しており,控訴人は,姉たちや,3番目の姉の出産を手伝うために来日した控訴人の母に対し,Aを結婚相手として紹介していた。 ウ Aは,a市役所で,控訴人との国際結婚の手続を確認した。 すると,両者の婚姻届を受理するには,フィリピン人である控訴人が独身であることの証明書が必要であり,それを得るためには,控訴人の本国フィリピンにおいて前夫Bとの裁判上の婚- 6 -姻無効手続を経る必要があるとのことであった。そこで,控訴人とAは,Aの収入を2人の生活費に充てるとともに,控訴人の収入を生活費に使うことを控えて,フィリピンの弁護士に同手続を依頼する費用として貯めることを決意した。 エところがこの頃,控訴人が働いていた店の売上げが減少し,それまで月約18万円 に,控訴人の収入を生活費に使うことを控えて,フィリピンの弁護士に同手続を依頼する費用として貯めることを決意した。 エところがこの頃,控訴人が働いていた店の売上げが減少し,それまで月約18万円程度あった給料が月約12万円程度にまで激減した。控訴人は,a市内でこれまでのような給料の仕事を見つけることができなかったため,Aと結婚するために必要な,フィリピンにおけるBとの婚姻無効の裁判の費用を稼ぐために,やむなく,平成26年11月頃から愛知県b郡c町所在の自動車部品の組立工場で働くことにした。 オ Aは,この頃,控訴人から,不法残留となっている事実を告白され,ショックを受けたが,控訴人を幸せにしてやりたいという思いがゆらぐことはなく,控訴人を守るためにあらゆる困難に立ち向かう決意をし,控訴人と正式に婚姻するために必要な,控訴人とBとの婚姻無効の裁判をするための費用を貯めることを最優先に生活することを決め,控訴人のc町での出稼ぎ生活を物心ともに支援し続けた。 カ控訴人は,平日は,岡崎市の姉宅もしくは従姉妹と一緒に借りたc町内の借上社宅から工場に通勤して夜勤で働き,夜勤明けの土曜日の朝にAが車で迎えに来てa市のA宅に戻り,週末はこれまでどおりAと一緒に過ごし,月曜日の午後にAの車でa市からc町の工場に直接出勤し,金曜日まではc町の工場で夜勤をするという生活を送り,手取り月約19万円の給料を得て,フィリピンの家族に送金しながら(控訴人が本邦で働きながらフィリピンの家族に送金した金額の総額は合計約100万- 7 -円であった。),フィリピンにおけるBとの婚姻無効の裁判のための費用を貯め続けた。 キ控訴人は,フィリピンの両親を通じて,Bとの婚姻無効の裁判をフィリピンの弁護士に依頼した。ところが,Bが過去にフィリピン人女性と婚 ピンにおけるBとの婚姻無効の裁判のための費用を貯め続けた。 キ控訴人は,フィリピンの両親を通じて,Bとの婚姻無効の裁判をフィリピンの弁護士に依頼した。ところが,Bが過去にフィリピン人女性と婚姻していたことがあり,その女性と協議離婚後に控訴人と婚姻したことから,大阪のフィリピン領事館でBと控訴人の婚姻証明書が発行されたにもかかわらず,フィリピンではBが二重結婚状態となっているという大きな問題があると言われ,控訴人とBの婚姻無効の裁判が決着する目途は立たない状態であった。 (以上につき,甲2,5,6,24,25,乙11,13,証人A,控訴人本人)(5) 本件裁決及び本件処分控訴人は,このような生活の中で,前記引用した前提事実(3)アないしキのとおり,平成27年11月●日に入管法24条4号ロ(不法残留)により摘発・逮捕され,同月25日に不起訴処分となり名古屋入管に引き渡されて名古屋入管収容場に収容され,名古屋入管入国審査官から入管法24条4号ロ(不法残留)に該当する等の認定を受け,名古屋入管特別審理官から上記認定に誤りがない旨の判定を受けて入管法49条1項に基づく異議の申出をし,平成27年12月17日付けで,名古屋入管局長から控訴人の異議の申出には理由がない旨の本件裁決を受け,名古屋入管主任審査官がこれを控訴人に通知し本件退令を発付する旨の本件処分をし,名古屋入管入国警備官に本件退令を執行されるという一連の手続を経て,引き続き名古屋入管収容場に収容された。 (6) 本件訴えの提起と仮放免後の生活状況- 8 -ア平成28年4月11日,控訴人は,本件訴訟を提起し,本件裁決及び本件処分の各取消しを求めた。(顕著な事実)イ同年5月24日,控訴人は,仮放免されて,A宅に戻った。 控訴人は,現在も仮放免中であ 平成28年4月11日,控訴人は,本件訴訟を提起し,本件裁決及び本件処分の各取消しを求めた。(顕著な事実)イ同年5月24日,控訴人は,仮放免されて,A宅に戻った。 控訴人は,現在も仮放免中であり,就労することはできないため,A宅での家事を担い,日本語の勉強をしながら,周囲の社会に溶け込んで平穏に生活している。 控訴人は,母国語であるタガログ語の会話及び読み書きに不自由はない。日本語についても,現在,深い内容のものは別として,ある程度できるようになっている。控訴人とAとの会話は日本語でなされ,2人のコミュニケーションをうまく図ることができるように,Aが,控訴人にとって難しい言葉を易しい日本語で細かく説明したり,2人がいろいろな例えを使ったりすることによって,互いに理解し合うことができている。 (甲5,6,24,25,乙19,20,証人A,控訴人本人,弁論の全趣旨)(7) フィリピンにおける婚姻無効手続の進捗状況ア控訴人は,a市役所でAとの婚姻届受理のために必要であると指示された,フィリピンでの裁判によって控訴人とBとの婚姻無効宣告判決を得るための手続(以下「婚姻無効手続」という。)を早急にとるために,平成28年3月頃,控訴人が不法残留で摘発・逮捕される前に依頼していた弁護士とは別の弁護士に対し,同手続を依頼した(甲3の1・2)。 イフィリピンでの裁判による婚姻無効手続は,平成28年12月9日の予備会議を経て公判期日が重ねられ,平成29年4月20日の次回期日は同年5月18日午前8時30分と設定されていた。しかし,裁判長がセミナー出席中のため,同期日は8- 9 -月3日午前8時30分に再設定され,再度,同年9月14日午前8時30分及び同年10月5日午前8時30分に再設定された。 同年9月14日の公判で,原告 セミナー出席中のため,同期日は8- 9 -月3日午前8時30分に再設定され,再度,同年9月14日午前8時30分及び同年10月5日午前8時30分に再設定された。 同年9月14日の公判で,原告側証人として出廷した臨床心理士が,婚姻無効事由である心理的不能(フィリピン家族法36条)の存否(Bと控訴人の関係やBの性格等)に関し証言し,次回公判は予定どおり同年10月5日午前8時30分に設定された。 ところが,同年10月5日の公判は,同事件の原告である控訴人が出廷しなかったため,同年11月16日午前8時30分に再設定することを余儀なくされ,同年11月16日の公判も,控訴人が再び出廷しなかったため,実質的な審理は行われなかった。結局,控訴人がフィリピンの法廷に出廷できる見込みが立たないことから,次回公判期日は決められておらず,フィリピンでの婚姻無効手続は,現在,保留となっている。 (以上につき,甲7ないし23,26ないし32,控訴人本人)ウそこで,控訴人代理人から,上記フィリピンの弁護士に対し,今後の手続について問い合わせをしたところ,証拠提出は全て完了しており,後は,控訴人が出廷しさえすれば,99%の確率で婚姻無効宣告判決が得られる見込みであるが,そのためには,法律上,1回は控訴人がフィリピンの法廷に出廷する必要があるということであった。 控訴人とAは,本人が出廷しなくても婚姻無効宣告判決を得ることができると聞いて多額の弁護士費用(着手金約60万円)を支払い,手続の進捗状況を一日千秋の思いで見守りつつ,婚姻届が受理される日を待ちわびていたことから,この状況に接- 10 -して,騙された思いで,非常に落胆したものの,今後とも,両者の正式な婚姻の実現に向けてあらゆる手段を尽くす覚悟を示している。 (以上につき,甲33, びていたことから,この状況に接- 10 -して,騙された思いで,非常に落胆したものの,今後とも,両者の正式な婚姻の実現に向けてあらゆる手段を尽くす覚悟を示している。 (以上につき,甲33,34,証人A,控訴人本人)(8) 控訴人とAの将来設計等控訴人とAは,現在31歳と58歳で27年の年齢差があり,控訴人は,Aとの間の子が授かることを強く願っているが,Aは,自己の年齢では生まれてくる子を成年に達するまで養育する責任が持てないと考えて逡巡しており,現在,両者間に子はいない。 Aは,新聞販売店の仕事を控訴人に教えつつ,控訴人のためにできるだけの財産を残してやりたいと考えている。両者の年齢差からすると,将来的には控訴人がAの介護等を担うようになることも考えられるが,控訴人は,そうなったときにこそ,これまでと同様に,控訴人の愛情が伝わるようにAのことを大切にしていきたいと考えている。 (以上につき,証人A,控訴人本人) 3 本件裁決の違法性について(1) 本件裁決当時の控訴人とAの関係前記認定のとおり,控訴人とAは,平成26年1月頃から交際を始め,同年3月からa市のA宅で同居するようになり,同年8月には正式に婚姻する約束をし,Aは,直ちにa市役所で控訴人との婚姻について相談した。そして,a市役所で,2人の婚姻届を受理するためには,フィリピン人である控訴人の独身証明書が必要であり,それを得るためには,控訴人の本国フィリピンで前夫Bとの裁判上の婚姻無効手続を経る必要があると言われたことから,2人は,正式に婚姻するために,フィリピンの弁護士に上記手続を依頼するた- 11 -めの費用を貯めようと決意した。控訴人が,平日,a市を離れて,c町の自動車部品工場で働くようになったのは,かかる理由によるものであり ために,フィリピンの弁護士に上記手続を依頼するた- 11 -めの費用を貯めようと決意した。控訴人が,平日,a市を離れて,c町の自動車部品工場で働くようになったのは,かかる理由によるものであり,控訴人とAは,平成26年11月以降も,Aの車による送迎で,土曜日の朝から月曜日の午後までAと一緒に過ごしており,実質的な夫婦関係は続いていた。控訴人は,このような生活をしながらBとの婚姻無効の手続のための費用を貯め続けていた。 控訴人は,不法残留で摘発・逮捕され,本件裁決及び本件処分を受ける前に,フィリピンの弁護士に対し,Bとの婚姻無効の手続を依頼していたが,前夫Bにフィリピン人女性との離婚歴があったために,控訴人とBの婚姻無効手続は進まない状態であった。 本件裁決時において,控訴人とAが正式な婚姻に至ることができていなかったことは,被控訴人主張のとおりであるが,上記のような経緯からすれば,本件裁決時において,控訴人とAとの間には既に成熟かつ安定した実質的な夫婦関係が成立していたものと認められ,これは,控訴人に対する在留特別許可の許否の判断に当たって特に考慮すべき重要な事情であり,本件裁決に当たって十分に斟酌されるべき事柄であったといえる。 なお,控訴人とAは,本件裁決後,早急に正式な婚姻をするために,以前依頼していた弁護士とは別の弁護士にBとの婚姻無効手続を依頼し,実際に,フィリピンにおいて,裁判上の婚姻無効手続が進められていた。ところが,控訴人がフィリピンの法廷に出廷する必要があるとして,現在,手続は保留とされてしまい,フィリピン本国からの控訴人の独身証明書の発行が望めないため,控訴人とAの婚姻届は,当審における口頭弁論終結時点においても受理されていない。しかし,この事実は上記認定を左右するものではなく,むしろ,控訴人とAが正 らの控訴人の独身証明書の発行が望めないため,控訴人とAの婚姻届は,当審における口頭弁論終結時点においても受理されていない。しかし,この事実は上記認定を左右するものではなく,むしろ,控訴人とAが正式な婚姻の実現に向けてあらゆる努力を尽く- 12 -していることの一例を示すものであって,本件裁決時における控訴人とAとの実質的な夫婦関係が安定かつ成熟したものであったことをより強くうかがわせる事情というべきである。 (2) これに対し,被控訴人は,控訴人の不法残留の態様に酌むべき事情はなく,控訴人は,短期滞在の資格では稼働することができないことを知りながらフィリピンパブで稼働していたほか,不法残留となった後もフィリピンパブや自動車部品組立工場で稼働し,フィリピンで生活する家族に対しこれまでに約100万円を送金しており,控訴人のこれら一連の行動は,入管法の目的である出入国の公正な管理(入管法1条)を害する悪質なものであり,控訴人に対する在留特別許可の許否の判断に当たって看過し難い消極要素であるところ,控訴人はフィリピンで生まれ育ち,看護師の資格を有するなど十分な稼働能力を有する成人女性で,母国語であるタガログ語の会話や読み書きに支障がなく,26歳で来日するまで我が国とは特段関わりのなかった者であり,フィリピン国内に両親及びきょうだい(1番目の姉と,兄,弟)もいること等から,控訴人を本国に送還することに特段の支障があるとはいえない等と主張する。 しかし,控訴人は,前夫Bとの喧嘩が絶えず,B宅から追い出されて離婚となり,a市の従姉妹を頼って岡崎市から転居し所在不明となった際に,入管からの出頭通知がB宅に届いたことを知らないまま特例期間の満了日が経過したことにより,不法残留となってしまったものであり,本件在留資格変更許可申請の手続を放置 市から転居し所在不明となった際に,入管からの出頭通知がB宅に届いたことを知らないまま特例期間の満了日が経過したことにより,不法残留となってしまったものであり,本件在留資格変更許可申請の手続を放置したこと自体については,控訴人にも酌むべき事情がある。控訴人が,その後摘発を受けるまで不法残留を継続していたことが消極要素として評価されることはやむを得ないが,在留特別許可制度は,退去強制事由が存在する外国人に対して在留資格を付与する制度であ- 13 -るから,これを過度に重視することはできない。また,控訴人が不法就労をした事実は,在留資格の存在を前提とする入管法70条1項4号の資格外活動罪には該当しないから,就労の事実そのものを犯罪視することはできず,控訴人が本邦での日々の糧を得るために働くこと自体はもとより,控訴人とAとの間に既に実質的な婚姻関係が成立していたことに照らすと,これを法的に適式なものとする目的で前夫との婚姻無効手続に要する費用を捻出するために働くこともまた,人道上非難されるべきことでもない。 控訴人は,平成26年3月からAと同居を開始し,控訴人とAは同年8月には正式に婚姻することを約束し,それ以降,婚姻届を提出できるようになるために日々努力を重ねてきたものであり,両者が婚姻に至ることができなかったのは,控訴人と前夫Bとのフィリピンにおける婚姻無効手続が完了せず,婚姻届提出の際に添付を求められていた控訴人の独身証明書がフィリピンから発行されない状態が続いていたからにすぎない。 控訴人がフィリピンに送還されれば,新聞販売店を経営しており休日が1か月に1日しかないAが,控訴人とフィリピンや第三国で面会することにも非常な困難を伴うこととなるから,これまで平穏に続いてきた控訴人とAの成熟かつ安定した実質的な夫婦関係に重 経営しており休日が1か月に1日しかないAが,控訴人とフィリピンや第三国で面会することにも非常な困難を伴うこととなるから,これまで平穏に続いてきた控訴人とAの成熟かつ安定した実質的な夫婦関係に重大な不利益を与えることになる。 (3) 以上からすれば,本件裁決は,控訴人とAとの間に成熟かつ安定した実質的な夫婦関係が成立していたことや,控訴人をフィリピンへ帰国させることによる控訴人やAの不利益を無視又は著しく軽視する一方で,控訴人の不法残留や不法就労をことさら重大視することによってなされたものというべきであり,その判断の基礎になる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことに- 14 -より,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものというほかない。 よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。 4 本件処分の違法性について本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきものである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 5 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官朝日貴 裁判長 裁判官 藤山雅行 裁判官 水谷美穂子 裁判官 朝日貴浩

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る