本件は、先天性の聴覚障害を持つ原告Aと原告Bが、北海道札幌聾学校において日本手話を十分に使用できない教員が担任として配置されたことに対し、精神的苦痛を理由に国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案である。主要な争点は、担任教員の配置が原告らの憲法上の権利を侵害するかどうかであり、裁判所は、原告らの主張する日本手話で授業を受ける権利が憲法上保障されていないと判断した。さらに、教員の配置は校長の裁量に属し、違法性は認められなかった。最終的に、原告らの請求は棄却され、訴訟費用は原告らの負担となった。
- 1 -判決第1事件原告A(以下「原告A」という。)第2事件原告B (以下「原告B」という。)被告北海道主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 第1事件被告は、原告Aに対し、550万円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 第2事件被告は、原告Bに対し、550万円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、先天性の聴覚障害があり、地方公共団体である被告が設置する特別支援学校である北海道札幌聾学校(以下「札幌聾学校」という。)小学部に在籍し又は在籍していた原告らが、被告の公務員が、日本手話を十分に使用することのできない教員を担任として配置し、その後も適切な対応をしなかったことは違法であり、これにより原告らが精神的苦痛を被ったと主張して、被告に対し、それぞれ、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金550万円及びこれに対する令和5年3月31日(不法行為の終了の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 2 - 1 前提事実(争いのない事実及び法令の規定)(1) 原告Aは、先天性の聴覚障害者であり、令和2年4月から札幌聾学校小学部に在籍しており、令和4年4月当時は3年生であった。 (2) 原告Bは、先天性の聴覚障害者であり、平成29年4月から令和5年3月まで札幌聾学校小学部に在籍しており、令和4年4月当時は6年生であった。 (3) 被告は、札幌聾学校を設置する地方公共団体である。 札幌聾学校は、特別支援学 あり、平成29年4月から令和5年3月まで札幌聾学校小学部に在籍しており、令和4年4月当時は6年生であった。 (3) 被告は、札幌聾学校を設置する地方公共団体である。 札幌聾学校は、特別支援学校であり、幼稚部、小学部及び中学部が設置されている。 特別支援学校において、校務をつかさどり、所属職員を監督するのは、校長の職務である(学校教育法82条、27条、37条4項、49条、62条)。 札幌聾学校の校長は、被告の公務員である。 (4) C(以下「C教諭」という。)は、札幌聾学校の教諭であり、令和4年4月から令和5年3月まで、原告Aの担任であった。 (5) D(以下「D教諭」という。)は、札幌聾学校の教諭であり、令和4年4月から令和5年3月まで、原告Bの担任であった。 2 争点(1) C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応は、原告らの憲法上の権利を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。 (2) C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応は、北海道教育委員会(以下「道教委」という。)及び札幌聾学校の原告らの保護者に対する入学前の説明に反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。 (3) 原告らの損害及び因果関係第3 争点についての当事者の主張- 3 - 1 争点(1)(C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応は、原告らの憲法上の権利を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。)について(原告らの主張)(1) 原告らには、日本手話で授業を受ける権利が憲法上保障されることア言語の発達はすべての認知・情動的な発達の基礎であり、母語・第一言語の習得・発達は人が人として成長し、人格を形成していくためには不可欠のものであ 本手話で授業を受ける権利が憲法上保障されることア言語の発達はすべての認知・情動的な発達の基礎であり、母語・第一言語の習得・発達は人が人として成長し、人格を形成していくためには不可欠のものである。そのため、母語・第一言語により授業を受ける権利は憲法26条1項の学習権として保障される。また、児童には、自分が分かる言語で指導を受ける権利が学習権として保障される。そして、日本手話は、先天性の聴覚障害を有する原告らの第一言語であり、原告らが最もよく理解する言語であるから、原告らには、日本手話で授業を受ける権利が学習権として保障される。 イ日本手話を用いる聴覚障害者は、聴者とは異なる言語を使用し、異なる文化を持つ言語的文化的少数者であるという誇りやアイデンティティを持って生きており、日本手話を第一言語とする児童である原告らには、日本手話で授業を受ける権利が、憲法13条の人格権として保障される。 また、原告らが第一言語である日本手話で授業を受ける権利は、誰もが教育やその他の場面でも等しく平等に扱われるという意味において、憲法14条1項によっても保障される。 ウ仮に、日本手話で授業を受ける権利が抽象的権利にすぎないとしても、被告は、札幌聾学校において、日本手話を用いた授業を基本としつつ、これに児童のニーズに応じて聴覚を活用した音声言語による指導も行い、日本語の読み書きも併せて習得する授業を行う二言語クラスを設置することにより、原告らに対し、日本手話で授業を受ける権利を具体的権利としても保障した。 - 4 -(2) C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応により、日本手話で授業を受ける憲法上の権利が違法に侵害されたことア日本手話で授業を受ける権利が実現されるには、日本手話のみでひととおりの授業をすることができ の担任としたこと並びにその後の対応により、日本手話で授業を受ける憲法上の権利が違法に侵害されたことア日本手話で授業を受ける権利が実現されるには、日本手話のみでひととおりの授業をすることができ、かつ、児童の発達過程にある拙い日本手話を的確に読み取ることのできる教員から授業を受けることが必要である。 とりわけ、書き言葉を別にすれば日本手話しか解することのできない原告Aについては、このことが強く妥当する。 加えて、授業には児童の年齢に応じた水準が要求されるところ、原告Bは小学6年生であったから、小学6年生の授業水準に応じた授業を行うことのできる教員から授業を受けることが必要である。 イ札幌聾学校校長は、日本手話をほとんど使用できないC教諭及び日本手話をほとんど使用できず、授業も小学6年生の水準に遠く及ばないD教諭を原告らの担任として配置し、もって原告らの日本手話で授業を受ける権利を違法に侵害した。 さらに札幌聾学校校長は、C教諭及びD教諭による実際の授業が行われて以降、両教諭の授業がいずれも日本手話での授業として成立していないことを知り又は知り得たにもかかわらず、授業が成り立つための適切な対応をせず、原告らの日本手話で授業を受ける権利を違法に侵害した。 (被告の主張)(1) 日本手話で授業を受ける権利は憲法上保障されないことア個々の子どもには学習権があり、その親に教育の義務又は自由があるといっても、その権利は一般的、抽象的なものにとどまり、個々の子どもがどのような内容の教育を受けるかについて、国又は地方公共団体に対し具体的に要求することが、憲法上保障されているということはできない。学習権は、憲法の規定を具体化する教育関係法令によって定まるのであり、原告らの主張する日本手話で授業を受ける権利について、憲法13条、1- 求することが、憲法上保障されているということはできない。学習権は、憲法の規定を具体化する教育関係法令によって定まるのであり、原告らの主張する日本手話で授業を受ける権利について、憲法13条、1- 5 -4条及び26条の各規定から直接導きだすことはできない。 イ特別支援学校小学部・中学部学習指導要領は、学校教育法施行規則の委任を受け(同規則129条)、特別支援学校小学部の教育課程について定めているところ、同要領には、日本手話で授業を受ける権利を具体的に示した規定はなく、その他の教育関係法令においても、日本手話で授業を受ける権利を具体的に示した規定はない。したがって、日本手話で授業を受ける権利が具体的権利として憲法上保障されるということはできない。 ウ札幌聾学校小学部における「二言語クラス」は、公教育の枠組みの中で、児童ないし保護者のニーズに可能な限り応え、かつ、教員に過重な負担を与えないことを両立させるために採用している、グループ別指導体制における指導グループの一つであり、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を用いて授業を行う指導グループであって、日本手話を基軸とし、あるいは基調とするものではない。 なお、日本手話を基軸とした教育では、学校指導要領に基づく教育課程を実施し得ない。 (2) 被告の教員配置に違法はないことア教員の配置、施設設備の利用方法、教育活動に関すること等の特別支援学校の校務に関する決定権限は、校長に属する(学校教育法82条、37条4項)。そして、校長は、在籍する教員の育成・経験等の諸般の事情を総合考慮して、校内全体の人事配置の均衡等を図る観点から、教員の配置を具体的に決定するのであり、教員配置の決定は、校長の自由裁量に属する。 他方、公立特別支援学校(聴覚 育成・経験等の諸般の事情を総合考慮して、校内全体の人事配置の均衡等を図る観点から、教員の配置を具体的に決定するのであり、教員配置の決定は、校長の自由裁量に属する。 他方、公立特別支援学校(聴覚障害)で指導する教員について、日本手話に係る技能を必要とする法令等の規定はない。 イ C教諭は、日本手話の表現や日本手話の読み取りの技能に問題がない。 また、C教諭が原告Aに対して違法行為をした等の事情もない。したがっ- 6 -て、C教諭を原告Aの担任としたことに違法はない。 D教諭は、日本手話を活用した指導を行う上で必要となる能力を有しており、D教諭を原告Bの担任としたことに違法はない。 2 争点(2)(C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応は、道教委及び札幌聾学校の原告らの保護者に対する入学前の説明に反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。)について(原告らの主張)(1) 道教委は、平成19年以降、日本手話を基軸としたクラスを設け、日本手話の活用を推進する姿勢を示してきた。 札幌聾学校は、原告Aが令和2年4月に札幌聾学校小学部に入学するに当たって、令和元年12月、原告A母に対し、日本手話を基軸とする二言語クラスと、読唇や口話訓練を重視しつつ日本語対応手話を活用する聴覚口話+手話付きスピーチクラスに関する説明をした。同人は、かかる説明を受けて二言語クラスを選択し、原告Aを札幌聾学校小学部の二言語クラスに所属させた。 また、札幌聾学校は、原告Bが平成29年4月に札幌聾学校幼稚部から小学部に進級するに当たって、原告B父及び原告B母に対し、原告A母に対する上記説明と同様の説明をした。原告B父及び原告B母は、かかる説明を受けて二言語クラスを選択し、原告Bを札幌聾学校小学部の二言語クラスに所属さ に当たって、原告B父及び原告B母に対し、原告A母に対する上記説明と同様の説明をした。原告B父及び原告B母は、かかる説明を受けて二言語クラスを選択し、原告Bを札幌聾学校小学部の二言語クラスに所属させた。 こうした経緯からすれば、札幌聾学校校長は、二言語クラスに所属した児童である原告らに対し、日本手話による授業を提供するため、日本手話のみでひととおりの授業をすることができ、かつ児童の発達過程にある拙い日本手話を的確に読み取ることのできる教員を配置する義務を負う。 (2) それにもかかわらず、札幌聾学校校長は、日本手話をほとんど使用できないことを知りながら敢えてC教諭及びD教諭を原告らの担任として配置し、- 7 -その配置を継続して、もって日本手話での授業が可能な教員を配置すべき義務に違反した。 (被告の主張)(1) 前記1(被告の主張)(1)ウのとおり、札幌聾学校小学部における「二言語クラス」は、公教育の枠組みの中で、児童ないし保護者のニーズに可能な限り応え、かつ、教員に過重な負担を与えないことを両立させるために採用している、グループ別指導体制における指導グループの一つであり、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を用いて授業を行う指導グループであって、日本手話を基軸とし、あるいは基調とするものではない。 また、札幌聾学校では、教員の日本手話の技能だけでなく、それ以外の教員として必要な能力も考慮して教員を配置している。 このような考え方は、入学前の説明に基づく、児童やその保護者の期待や信頼を損なうものではない。 したがって、二言語クラスに所属する児童に対して、原告らが主張するような教員を担任として配置する義務は生じない。 (2) C教諭及びD教諭の能力は の期待や信頼を損なうものではない。 したがって、二言語クラスに所属する児童に対して、原告らが主張するような教員を担任として配置する義務は生じない。 (2) C教諭及びD教諭の能力は前記1(被告の主張)(2)イのとおりであり、両教諭を原告らの担任としたことに違法はない。 3 争点(3)(原告らの損害及び因果関係)について(原告らの主張)原告らは、前記の札幌聾学校校長の各行為により、①聴覚障害者としてのアイデンティティを否定され、差別的な扱いを受け、②原告Aは小学3年生の期間、原告Bは小学6年生の期間、それぞれの学年の水準に達した授業を受けられないことにより学習権を違法に侵害されるなどした結果、多大な精神的苦痛を被った。これを慰謝するに足りる金額は各500万円を下らない。 また、弁護士費用として、各50万円が損害となるというべきである。 - 8 -よって、原告らが受けた損害の合計額は各550万円である。 (被告の主張)否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実及び当事者間に争いのない事実のほか、後掲の各証拠(枝番のあるものは特記ない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 日本で使用される手話についてア日本で使用される手話の中には、日本語とは異なる文法や語彙体系を持った手話と、日本語の文法や語順に従って手話単語を配列した手話が存在するという見解があり、そのような見解の下では、前者は日本手話、伝統的手話等と、後者は日本語対応手話、手指日本語等と、それぞれ呼称されている。なお、日本手話と日本語対応手話は、語彙の一部を共有するとされる。(甲6〔1頁〕、37、乙3〔13枚目〕)(本判決では、後記(4)のとおりの見解はあるが、便宜上、前者を と、それぞれ呼称されている。なお、日本手話と日本語対応手話は、語彙の一部を共有するとされる。(甲6〔1頁〕、37、乙3〔13枚目〕)(本判決では、後記(4)のとおりの見解はあるが、便宜上、前者を「日本手話」、後者を「日本語対応手話」と呼ぶ。)イ法令の規定地方公共団体の条例規則等を別にして、現行の法令において、手話という語は用いられているものの、その意味内容を定義したものは見当たらない。 北海道言語としての手話の認識の普及等に関する条例は、その前文で、「手話は、特定の意味、概念等を手指、表情等により表現する独自の体系を持つ言語であり」と述べ、さらに2条及び3条で、「手話が聴覚障がい者にとって自ら生活を営むために使用する独自の体系を持つ言語である」と規定している。 - 9 -(2) 一般財団法人全日本ろうあ連盟(以下「ろうあ連盟」という。)の見解についてろうあ連盟は、平成30年6月19日、「手話言語に関する見解」として、要旨、以下のとおりの見解を示した(乙1)。 ア 「手話言語」とは(2項)「手話言語」は手の形、位置、動きを基に、表情も活用する独自の文法体系をもった、音声言語と対等な言語です。 イ 「日本手話」と「日本語対応手話」(3項)近年、手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分ける考え方を提唱する動きが随所でみられるようになりました。手話を言語として位置付け使用していくためには言語学的な研究の確立が急務です。同時に忘れてはならないことは、私たちろう者や聞こえにくい人には、聴力を失った年齢、生まれ育った環境、手話を獲得・習得した年齢など、実に様々な背景があることです。 ウ 「手話」は私たちろう者の生きる力(4項)手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分け、そのことにより聞こえな れ育った環境、手話を獲得・習得した年齢など、実に様々な背景があることです。 ウ 「手話」は私たちろう者の生きる力(4項)手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分け、そのことにより聞こえない人や聞こえにくい人、手話通訳者を含めた聞こえる人を分け隔てることがあってはなりません。手話を第一言語として生活しているろう者、手話を獲得・習得しようとしている聞こえない人や聞こえにくい人、手話を使う聞こえる人など、それぞれが使う手話は様々ですが、まず、これらすべてが手話であり、音声言語である日本語と同じように一つの言語であることを共通理解としていきましょう。 (3) 聴覚障害教育の手引きについて文部科学省は、令和2年3月、「聴覚障害教育の手引」と題する手引(乙3。以下「本件手引」という。)を作成した。同手引「第1章聴覚障害教育における言語指導」の「第4節聴覚障害児とのコミュニケーションにお- 10 -ける多様な方法の機能と特徴」には、要旨、以下のとおりの記載がある。 アコミュニケーションにおける多様な方法を活用する際の基本的な考え方(1)聴覚障害児のコミュニケーションにおいては、以下に述べる様々な方法の特徴を理解した上で、児童生徒の実態やコミュニケーション場面、そこで求められる課題や内容に応じて、適切なコミュニケーション方法を選択し、使用することが重要である。 イ音声(2)(ア) 聴覚活用((1))(イ) 読話((2))(ウ) 発音・発語((3))(エ) キューサイン((4))ウ文字(3)(ア) 板書((1))(イ) 筆談((2))(ウ) コンピュータなどの情報機器((3))エ指文字(4)指文字とは、日本語の50音表で表される仮名文字一つ一つを片手で表すことができるように考案さ (1))(イ) 筆談((2))(ウ) コンピュータなどの情報機器((3))エ指文字(4)指文字とは、日本語の50音表で表される仮名文字一つ一つを片手で表すことができるように考案されたものである。 オ手話(5)(ア) 手話の捉え方((1))かつて、手話は「伝統的手話(日本手話)」、「同時法的手話(日本語対応手話)」、「中間型手話」という三つの手話に分類することができるとされていた。しかし、実際の手話運用場面では、本人の教育歴や手話力によって、また聞き手の手話力によって、「伝統的手話」と「同時法的手話」の要素が混ざった「中間型手話」が使われることについても言- 11 -及されている。 今日、手話に関する用語については様々な議論があり、また独自の文法や語彙を有した手話(日本手話)と日本語の語順に合わせた手話(日本語対応手話)を明確に区別すべきであるという主張がある一方で、実際に使われる手話は人によって様々であり、同じ人でも聞き手が聴覚障害者か聴者かによって手話を変えることもあるため、これらは明確には分けられないという主張もある。 理念的には、独自の文法と語彙を有した手話と日本語の語順に合わせた手話は明らかに異なり、区別することができる。ただ実際に手話を使う言語運用の場面でいえば、手話は連続体であり、独自の文法を持った手話と日本語の語順に合わせた手話が、それぞれ連続体の両端になる。 その間で、手話は、本人の手話力や聞き手の手話力によって、様々に変容し、位置付くものであると捉えられる。 (イ) 日本語対応手話((2))聴覚を活用している児童生徒や手話が主たるコミュニケーションの児童生徒など様々な実態の児童生徒たちを前に、教師は一斉指導をする場面がある。その際、教師は日本語対応手話を使って、音声で話をし )聴覚を活用している児童生徒や手話が主たるコミュニケーションの児童生徒など様々な実態の児童生徒たちを前に、教師は一斉指導をする場面がある。その際、教師は日本語対応手話を使って、音声で話をしながらその語順に従って手話を表現することが多い。手話が主たるコミュニケーションの児童生徒にとって、音声だけで話をするよりは手話を伴うことにより正確に話す内容を理解できるようになる。 日本語対応手話は日本語を手で表したものであるため、日本語での言い方を児童生徒に確認したり、学習内容や意見などを日本語の文で発表させたりする場面で活用できる方法である。 (ウ) 日本手話((3))日本手話は独自の文法や語彙体系を有している言語で日本語とは異なるものと言える。両親ろうの児童生徒や手話が主たるコミュニケーショ- 12 -ン手段の児童生徒に対して、意味や学習内容を説明する際には、日本手話も役立つことになる。 また、日本語力が厳しい児童生徒に対して国語科の授業を行う際には、手話DVDなどを使って日本手話であらかじめ児童生徒に教科書に書かれた本文の内容を伝え、手話を通して概要を理解させた後、理解した内容が日本語でどう書かれているかという視点で本文を読んでいくことにより、日本語での表現の仕方を学んでいくような日本語指導も日本手話を用いることで可能になる。 児童生徒同士が話し合ったり、意見交流をしたりする場面では、児童生徒の実態によって日本手話が使われることもある。意味を伝え合う場面では、日本手話の役割が大きくなり、日本語でどう言うかを考えさせたり発表したりする際には日本語対応手話の方が適している場合もある。 日本手話だけ、日本語対応手話だけを使って授業をするのではなく、児童生徒に何をさせたいのか、何を学ばせたいのかという指導のねらい等に応じて りする際には日本語対応手話の方が適している場合もある。 日本手話だけ、日本語対応手話だけを使って授業をするのではなく、児童生徒に何をさせたいのか、何を学ばせたいのかという指導のねらい等に応じて、日本手話や日本語対応手話を場面ごとに使い分けることが教師に求められる。 それと同時に、様々な実態の児童生徒が一緒に勉強している場面では、日本語対応手話と音声で全体に対して話をした後、それだけでは理解があいまいな児童生徒に対して日本手話で説明や補足を加えるなど、一つの授業場面の中でも様々な方法を駆使して、児童生徒に分かる授業を展開していくことが大切である。 (4) ろうあ連盟の意見ろうあ連盟は、本件手引について、説明が不十分であり、定義に誤りが見られるとして、要旨、以下のとおりの意見を示した(甲55)。 ア当連盟の「手話言語(手話)」についての考え方(2)言語は大きく分けて「手話言語」と「音声言語」の2種類がある。手話- 13 -言語は、音声言語である日本語と対等な一つの言語である。国の手話言語への言語学的な研究や手話言語教育が確立していない状態の中、本件手引では「日本語対応手話」と「日本手話」と区別し説明しているが、これは手話言語に対する混乱や誤解を与えることにつながりかねない。 イ当連盟の「手話の捉え方について」の考え(4)きこえない人やきこえにくい人も、日本語の語順や文法に手話言語で用いる単語をあてて表現することがある。しかし、それは言語としての手話、つまり「手話言語」ではなく、「手話言語の単語を使った一種の日本語(音声言語)」と言える。 同じく、本件手引における日本語対応手話も、その定義は日本語の表現手段となっている。しかし、「日本語対応手話」と「日本手話」と、いずれにも語尾に「手話」が 日本語(音声言語)」と言える。 同じく、本件手引における日本語対応手話も、その定義は日本語の表現手段となっている。しかし、「日本語対応手話」と「日本手話」と、いずれにも語尾に「手話」がつくため、日本には手話が二つあるという誤解が生まれる恐れがある。 日本語とは異なる言語としての手話は「言語手話」、手話言語の単語を日本語の語順や文法にあてることにより、日本語を手や指で表現する手段を「手話(日本語の手話)」と、用語を使い分けることが良いと考える。このような使い分けにより、手話はローマ字や点字と同じように、日本語の一種の表現手段、そして、手話言語は日本語や英語と同じように言語の一種と明確に区分できる。 このようにして明確に区分することなしに、日本語に手話言語の単語をあてて伝える手段を日本語対応手話、言語としての手話を日本手話と区別して、日本語の表現手段である「日本語の手話(音声言語)」と、言語である「手話言語」を同列に並べることは適切でなく、教員の手話に対する誤った認識の助長や混乱の元となり、ろう教育における手話言語の活用の促進を妨げることになる恐れがある。 ウ説明は「日本語(音声言語)」と「手話言語」の観点で(5)- 14 -本件手引第4節「聴覚障害児とのコミュニケーションにおける多様な方法の機能と特徴」における「手話」についての説明は、「日本語対応手話」と「日本手話」という言葉を用いて説明するのではなく、「日本語(音声言語)」と「手話言語」の観点での説明が必要と考える。 (5) 聴覚障害を有する児童の教育に関する見解等ア国内の教育学研究者である佐々木倫子は、本件のために意見書(甲45)を作成し、日本手話を授業言語とし、日本語とのバイリンガルろう教育を推進することが、聴覚障害を有する子ども 教育に関する見解等ア国内の教育学研究者である佐々木倫子は、本件のために意見書(甲45)を作成し、日本手話を授業言語とし、日本語とのバイリンガルろう教育を推進することが、聴覚障害を有する子ども(以下「ろう児」ということがある。)の認知発達のために望ましいとの見解を述べる。また、国内の言語学の研究者である松岡和美は、本件のために意見文(甲38)を作成し、日本語対応手話は日本語の習得に直接寄与せず、ろう児が自然に負担なく身につけることができる日本手話を確立することで、第二言語である日本語の指導もスムーズに行うことが可能となるとの見解を述べる。 スウェーデンの言語学研究者であるKristerSchönström は、本件のために意見書(甲47)を作成し、日本手話による指導が、ろう児の学力を担保するために必要であるとの見解を述べる。また、米国の研究者であるThomasAllen らは、本件のために連名で意見書(甲48)を作成し、日本語対応手話のように教育者により発明された手話システムは、ろう児の理解や学習に悪影響を及ぼすのに対し、ろう者コミュニティの中で自然に生み出された日本手話のような自然手話を教育に用いると、学習成果の向上が見られるとの見解を述べる。 イ国内の教育学研究者である佐野愛子、佐々木倫子及び札幌聾学校の元教諭である田中瑞穂は、令和5年7月31日、上記アの各見解のほか、ろう教育に関する提言を記載した書籍(甲74)を編纂し刊行した。当該提言の骨子は以下のとおりである。 (ア) 日本手話は日本語とは全く異なる言語であり、日本語の文法をベース- 15 -として手話単語を使用するコミュニケーション様式である日本語対応手話(手指日本語・手話アシスト日本語・手話付きスピーチ)とは全く異なる言語である。 (イ) ろう児の認 文法をベース- 15 -として手話単語を使用するコミュニケーション様式である日本語対応手話(手指日本語・手話アシスト日本語・手話付きスピーチ)とは全く異なる言語である。 (イ) ろう児の認知発達を支える基盤としての言語としては、日本手話が必要不可欠である。 (ウ) ろう児の十全な学びと発達を支えるろう教育において、日本手話による学びを求めることは憲法で保障されている基本的な人権である。 (6) 学習指導要領についてア特別支援学校小学部・中学部学習指導要領特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年文部科学省告示第73号・令和2年4月1日施行)には、以下のとおりの記載がある(乙4)。 (ア) 第2章(各教科)第1節(小学部)第1款(視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童に対する教育を行う特別支援学校)柱書各教科の目標、各学年の目標及び内容並びに指導計画の作成と内容の取扱いについては、小学校学習指導要領第2章に示すものに準ずるものとする。 指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱いに当たっては、児童の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分考慮するとともに、特に次の事項に配慮するものとする。 (イ) 第2章第1節第1款2(聴覚障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校)(3)児童の聴覚障害の状態等に応じて、音声、文字、手話、指文字等を適切に活用して、発表や児童同士の話し合いなどの学習活動を積極的に取り入れ、的確な意思の相互伝達が行われるよう指導方法を工夫すること。 - 16 -イ小学校学習指導要領(平成29年文部科学省告示第63号・令和2年4月1日施行)第2章(各教科)では、国語、社会、算数等の各教科について節が設けられ、その第1節には、国語に関する目標(第1)や各学 イ小学校学習指導要領(平成29年文部科学省告示第63号・令和2年4月1日施行)第2章(各教科)では、国語、社会、算数等の各教科について節が設けられ、その第1節には、国語に関する目標(第1)や各学年の目標及び内容(第2)が記載されている。同節第2「各学年の目標及び内容」には、いずれの学年でも、〔思考力、判断力、表現力等〕の項が設けられ、話すこと・聞くこと、書くこと及び読むことについての指導内容が記載されている。(乙26)ウ特別支援学校学習指導要領解説文部科学省は、平成30年3月、「特別支援学校学習指導要領解説各教科等編(小学部・中学部)」を作成した。同解説には、「視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童に対する教育を行う特別支援学校の小学部の各教科の目標、各学年の目標及び内容並びに指導計画の作成と内容の取扱いについては、従前、小学校学習指導要領第2章に示されているものに準ずることとしている。」、「ここでいう「準ずる」とは、原則として同一ということを意味している。」との記載がある。(乙25)(7) 文部科学省の報告文部科学省は、平成15年3月28日、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を作成した。同報告の「第2章今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方」、「1 特別支援教育における基本的視点」には、「特別支援教育とは、(中略)障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握し、当該児童生徒の持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育を通じて必要な支援を行うものと言うことができる。もとより、この特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置付けられる。」との記載がある。(乙14)(8 な支援を行うものと言うことができる。もとより、この特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置付けられる。」との記載がある。(乙14)(8) 札幌聾学校のクラス又はグループ編成等の経緯- 17 -ア札幌聾学校は、平成19年度から、以下のとおりの編成による指導を開始した(甲6〔3頁〕、7〔49頁〕、29〔2頁〕)。 (ア) 聴覚口話+手話付きスピーチクラス(イ) 日本手話クラス(ウ) 重複障がい学級イ札幌聾学校は、平成26年度には幼稚部、遅くとも平成29年度には小学部において、日本手話と日本語の二つの言語を用いる二言語クラスを創設し、以下のとおりの編成による指導を開始した。平成26年度に幼稚部に入学した幼児らは、聴覚口話+手話付きスピーチクラス、二言語クラス及び重複障がい学級のいずれかに在籍することとなり、日本手話クラスは二言語クラスに順次移行した。(甲29〔2頁〕、30、36、原告B母〔5頁〕)(ア) 聴覚口話+手話付きスピーチ(日本語対応手話)クラス(イ) 二言語クラス(日本手話クラス)(ウ) 重複障がい学級ウなお、聴覚口話+手話付きスピーチクラス及び二言語クラスは、これらを合わせて一つの認可学級を構成し、重複障がい学級は、上記の認可学級とは別に認可学級を構成する(乙6)。また、上記各クラス又はグループの呼称は複数存在するが、以下では上記ア、イの呼称のとおりとする。 (9) 道教委の見解・資料等ア平成17年9月22日の北海道議会平成17年第3回定例会において、当時の道教委教育長Eは、北海道のろう学校教育では、一人一人の児童生徒等の障害の状態や発達段階等を考慮し、適切なコミュニケーション手段を選択・活用することが大切であると考えているこ 定例会において、当時の道教委教育長Eは、北海道のろう学校教育では、一人一人の児童生徒等の障害の状態や発達段階等を考慮し、適切なコミュニケーション手段を選択・活用することが大切であると考えていること、ろう学校等の教員の採用に当たっては、一般教養や専門教科などの検査に加えて特別支援教育全般にわたる専門検査を実施し、特別支援教育を担う教員の確保に努め- 18 -ていること等を述べた(甲2)。 イ平成18年9月27日の北海道議会平成18年第3回定例会において、当時の道教委教育長Fは、手話を活用できる教員の割合を高めるため、各学校における研修を充実するよう努力すること、ろう学校における日本手話を含めた効果的な手話の活用方法について、先駆的な実践研究を行う学校を数校指定すること等を述べた(甲3)。 ウ北海道保健福祉部及び道教委は、平成24年5月、「すこやかな育ちのために~特別支援学校(聾学校)の乳幼児相談~」と題するリーフレットを作成し、同月以降、ろう学校の乳幼児相談に訪れた保護者に配布している。同資料には、日本手話は、音声言語とは異なる言語構造や統語規則をもっているものであり、道教委では、日本手話で授業のできる教員を増やしていけるよう、研修会を実施するなどの取組を行っていること、札幌聾学校では、平成19年度より、幼児児童生徒本人・保護者の意向に基づき、発達の段階に応じた日本手話による学習指導体制を整え、教育実践に取り組んでいる旨、また、手話付きスピーチは、音声言語と対応させて、同時に表現する手話であり、日本語がベースになっている手話表現なので、日本手話とは異なる旨の記載がある。(甲35)エ道教委は、平成25年3月、特別支援学校(ろう学校)における日本手話を活用した指導のための資料として、「日本手話を活用した指導の充実のため ので、日本手話とは異なる旨の記載がある。(甲35)エ道教委は、平成25年3月、特別支援学校(ろう学校)における日本手話を活用した指導のための資料として、「日本手話を活用した指導の充実のために」という資料を作成した。同資料の中には、要旨以下のとおりの記載がある。(甲6)(ア) 日本手話の活用に関する考え方道教委は、多様なコミュニケーション手段の活用を図り、幼児児童生徒により効果的な指導を行うため、一人一人の教育的ニーズに応じて日本手話を含む手話を活用した指導に取り組むことにした。 日本手話を含む手話を活用して指導を行う際には、教育基本法や学校- 19 -教育法等の規定及び、学習指導要領、教育要領に基づき、教育課程に位置付けて編成する必要がある。 道教委では、学習指導要領等に基づき、ろう学校に在籍する幼児児童生徒にとってわかりやすいコミュニケーション手段を適切に活用しながら、学力の向上を目指した教育活動に取り組む必要があり、日本手話を活用した指導について教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、教科や自立活動の指導において、日本手話を活用した効果的な指導を行う必要があると考えている。 (イ) 道内のろう学校の状況(現在)ろう学校では、本人・保護者の教育的ニーズを受け、手話を活用した授業実践の充実にも取り組んでいる。特に、札幌聾学校においては、日本手話のニーズに対応するため、平成19年度から、公立学校としては全国的にも先駆的な取組である日本手話の学習グループによる実践を行ってきている。 しかし、道内のろう学校においては、手話表現はできても、授業の中で効果的に活用することに難しさを感じている教員が多いことや、日本手話のニーズに応えるための知識や技能の向上を図っていくことが求められていることから、課題の解決に向け 、手話表現はできても、授業の中で効果的に活用することに難しさを感じている教員が多いことや、日本手話のニーズに応えるための知識や技能の向上を図っていくことが求められていることから、課題の解決に向けて取り組んでいく必要がある。 オ道教委は、平成26年3月、特別支援学校(ろう学校)における日本手話を活用した指導のための資料として、「日本手話を活用した指導の充実のために2」という資料を作成した。同資料は、「日本手話を活用するための基本的な考え方」(第1章)、「日本手話を活用した効果的な指導例」(第2章)、「聾学校の教育課程に関する考え方」(第3章)、「まとめ」(第4章)で構成されるところ、その中に要旨以下のとおりの記載がある。 (甲7)(ア) インクルーシブ教育システムの構築に係る、ろう学校における合理的- 20 -配慮について(1章1節3)都道府県や市町村は、「合理的配慮」の基礎となる環境整備(基礎的環境整備)を提供する必要があるとされる。道教委は、日本手話を活用した指導がどのろう学校においても行えるよう、日本手話で指導できる教員の育成に力を入れるなど、基礎的環境整備に取り組んでいる。 (イ) 道教委の日本手話活用に関する考え方(1章4節)道教委では、学校教育法72条に定められている特別支援学校の目的の達成に向けた教育活動の充実に向けて積極的に取組を推進してきた。 道内の各ろう学校においても、学習指導要領に則った教育課程の下、日本手話を含む手話の積極的な活用を通して、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じたコミュニケーション手段を活用した指導に努めてきた。 また、「準ずる教育は、日本語という言語を前提としていること」と「手話は言語であること」の両面を実際の教育活動においてどのように具体的に実現していくかについて、研 を活用した指導に努めてきた。 また、「準ずる教育は、日本語という言語を前提としていること」と「手話は言語であること」の両面を実際の教育活動においてどのように具体的に実現していくかについて、研究指定校となっていた札幌聾学校、旭川聾学校、帯広聾学校等で、これまで実践に基づいて研究が進められてきた。 (ウ) 札幌聾学校における日本手話の位置付け(小学部運営計画)(2章4節)「2 教育目標の具体化」・心豊かに伝え合う子~具体的方策日本手話を基盤として、実態に即し多様なコミュニケーション手段を活用し、言葉の力を高める。(日本手話クラス)・進んで学ぶ子~具体的方策日本手話と書記日本語を尊重して、積極的に学習できる環境を整える。(日本手話クラス)カ道教委は、平成27年3月、特別支援学校から提供を受けた事例をもと- 21 -に、「日本手話を活用した指導の充実のために2」で示した考え方に基づき解説を加えたものとして、「日本手話を活用した実践事例集~日本手話を活用した指導の充実のために3~」という資料を作成した(甲32)。 (10)札幌聾学校の見解・資料等ア札幌聾学校は、平成28年6月頃、インターネットの公式ホームページにおいて、以下のとおりの記載をしていた(甲27)。 (ア) 聴覚口話+手話付きスピーチグループ・指導のめあて日本語の読み書きの力・日本語で考える力を育むために、補聴環境を整え聴覚活用・発音・読話・手話付きスピーチ・視覚的教材の活用など、専門的な配慮をしながら日本語を使って学習し、「生きる力」の向上を目指します。 (イ) 日本手話グループ・指導のめあて日本手話は日本語と異なる文法を持つ、ろう児にとって自然に身に着けることのできる第一言語です。日本手話環境を整え、日本手話を基盤と 上を目指します。 (イ) 日本手話グループ・指導のめあて日本手話は日本語と異なる文法を持つ、ろう児にとって自然に身に着けることのできる第一言語です。日本手話環境を整え、日本手話を基盤として日本語の読み・書きの力、学ぶ力を育てます。 イ札幌聾学校は、平成29年頃、特別支援教育の関係者に向けて札幌聾学校における教育内容・指導方法を紹介するものとして、「札聾の教育:平成29年度版(北海道札幌聾学校の教育内容・指導方法)」という資料を作成した。同資料「はじめに」の「3 コミュニケーション手段について」には、「日本手話」グループ、「二言語」グループ及び「聴覚口話+手話付きスピーチ(日本語対応手話)」について、以下のとおりの記載がある。 (甲29)(ア) 日本手話・主に日本手話- 22 -日本手話は、日本語とは異なった独自の言語構造をもつ言語である。 日本手話を用いた指導では、日本手話による活発なコミュニケーションを保障する中で、①幼児児童生徒が自信をもち安定した心理状態で学習や生活ができること、②幼児児童生徒の日本手話言語力を更に高めること、④ろう者の文化や聴者の文化を尊重する態度の育成を目指している。 日本手話で指導を行う場合は、文字や指文字、絵や写真などを適切に活用して、日本語の読み書きの力を高めるように工夫している。 ・二言語(日本手話と音声日本語)二言語の指導では、日本手話と日本語(音声を含む)の2つの言語を用いる。2つの言語は幼児児童生徒にとって同等の価値をもつ言語である。 会話では、日本手話を基盤言語として、場面に応じて指文字、手話付きスピーチ、音声を活用する。文字については、発達段階に応じて扱う。 目指すところは、①2つの言語の思考力を育てること、②2つの言語を活用できる力を育てるこ 言語として、場面に応じて指文字、手話付きスピーチ、音声を活用する。文字については、発達段階に応じて扱う。 目指すところは、①2つの言語の思考力を育てること、②2つの言語を活用できる力を育てること、③日本語の読み書き能力の獲得である。 日本手話を基盤として、幼児児童生徒の聴覚障がいの状態や発達の状況に応じて、文字や指文字、手話付きスピーチ、音声を適切に活用して、日本語の読み書きの力を高めるように工夫している。 (イ) 聴覚口話+手話付きスピーチ聴覚口話+手話付きスピーチによる指導では、日本語を用いている。 聴覚口話+手話付きスピーチの指導では、補聴器や人工内耳を使用して聴覚を最大限活用し、音声や言葉を聞いて理解する力を育み、①聴覚を活用して日本語を獲得する、②読話を併用して日本語を視覚的に捉え- 23 -る、③発音・発語の指導を通して意志や感情を音声で伝える、④これらを通して日本語の言語体系を身につけさせ、学習や生活に必要な日本語の獲得とコミュニケーションの力を育むことを目指している。 ウ札幌聾学校の平成30年11月21日付け職員会議資料には、言語指導に関する課題として、以下の記載がある(甲36)。 (ア) 学校経営上の課題認可学級数と指導学級数に違いがあることから教員数が足りなく、教員加配に依存する学校経営が続いている。 (イ) 指導上の課題北海道公立学校教員採用選考検査において日本手話活用能力が高い教員を採用することは難しい。 聴覚に詳しい教員(STも含む)も採用することが難しい。 この環境下で各ろう学校は、ろう教育で指導できる教員の確保に苦労している。 (11)就学すべき学校の指定についての法令の定め市町村の教育委員会は、当該市町村の区域内に住所を有する学齢児童及び学齢生徒について、学齢簿を う教育で指導できる教員の確保に苦労している。 (11)就学すべき学校の指定についての法令の定め市町村の教育委員会は、当該市町村の区域内に住所を有する学齢児童及び学齢生徒について、学齢簿を編製し、これに基づいて、区域外就学等の届出のされた者を除き、就学すべき小学校、中学校又は義務教育学校を指定するが、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、特別支援学校に就学させることが適当であると認める者(認定特別支援学校就学者)については、その氏名等を都道府県教育委員会に通知し、これを受けた都道府県教育委員会は、就学すべき特別支援学校を指定することとされている(学校教育法施行令1条1項、5条、11条1項、3項、14条)。 (12)原告Aの訴訟提起に至る経緯ア原告Aは、乳幼児の頃から、日本手話を主なコミュニケーション手段- 24 -(以下、主なコミュニケーション手段となる言語を「第一言語」という。)としていた(甲75〔2頁〕)。 イ札幌聾学校は、令和元年12月25日、原告A母を含む保護者らに対し、「お子さんのコミュニケーション手段に係る意向調査」を実施した。当該調査に当たり、札幌聾学校は、「「お子さんのコミュニケーション手段に係る意向調査」に関する説明会資料」及び「「お子さんのコミュニケーション手段」に係る調査用紙」を交付した。原告A母は、同調査用紙にて、「(3)「二言語」による指導を希望します。」を選択して提出した。また、「「お子さんのコミュニケーション手段に係る意向調査」に関する説明会資料」には、要旨、以下のとおりの記載がある。(甲31、75〔2頁〕、乙5)(ア) コミュニケーション手段に係る意向調査の趣旨・幼児児童生徒一人一人のコミュニケーション手段に配慮した教育活 資料」には、要旨、以下のとおりの記載がある。(甲31、75〔2頁〕、乙5)(ア) コミュニケーション手段に係る意向調査の趣旨・幼児児童生徒一人一人のコミュニケーション手段に配慮した教育活動の充実を図るために、コミュニケーション手段に係る意向調査を実施します。 ・意向調査の結果は、幼児児童生徒一人一人の発達やコミュニケーションの状況に応じたきめ細やかな指導を行うために活用するとともに、令和2年度のクラス編制の際の参考とします。 ・意向調査の結果は決定ではなく、あくまでも保護者の考えを調査するものであることに御留意ください。 (イ) 聴覚口話+手話付きスピーチによる指導について・補聴器や人工内耳を使用して聴覚を最大限活用し、音声言語でコミュニケーションする力を育み、生活や学習に必要な日本語の力を獲得させる言語指導法です。 ・聴覚口話+手話付きスピーチの指導では、①聴覚を活用し、読話を併用して日本語を獲得する、②発音・発語の指導を通して意志や- 25 -感情を音声で伝える、③手話付きスピーチを補完的に活用する、④これらを通して日本語の言語体系を身に付けることを目指します。 (ウ) 日本手話による指導について・日本手話は日本語と異なった同時の言語構造をもつ言語であり、①幼児児童生徒が自信をもち安定した心理状態で学習や生活ができること、②幼児児童生徒の日本手話言語力を更に高めること、③ろう者の文化や聴者の文化を尊重する態度の育成を目指しています。 ・日本手話で指導を行う場合は、文字や指文字、絵や写真などを適切に活用して、日本語の読み書きの力を高めるように工夫しています。 (エ) 二言語による指導について・二言語とは、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両 真などを適切に活用して、日本語の読み書きの力を高めるように工夫しています。 (エ) 二言語による指導について・二言語とは、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使い、聞こえない子どもたちのコミュニケーションにおいて、できる限り幼児の負担を軽減させ日本語の力を獲得させる言語指導法です。 ・二言語の指導では、①2つの言語の思考力を育てること、②2つの言語を活用できる力を育てること、③日本語の読み書き能力の獲得を目指します。 ウ原告Aは、道教委から学校教育法施行令14条による就学すべき学校の指定を受けて、令和2年4月1日、札幌聾学校小学部に入学し、二言語クラスに所属した(乙9、10)。 エ原告Aは、令和4年4月8日、第3学年に進級して初めて登校した。同日、原告A及び原告A母は、原告Aの担任がC教諭であることを知った(甲75〔4頁〕)。 オ原告ら代理人は、令和4年4月9日頃、原告Aを代理して、道教委教育長であるG(以下「G教育長」という。)及び札幌聾学校校長であるH(以下「H校長」という。)に対し、C教諭の日本手話の能力を確認する- 26 -ため、原告A母が授業を参観し、C教諭の授業を動画撮影することを認めることなどを求めた(甲8、乙17の1)。G教育長は、同年5月2日、上記申入れに対し、文書にて「学校と保護者が連携して、児童の学習保障に努めることが必要であると認識し、実践しています。」と回答した(乙18の1)。 カ原告Aは、令和4年4月11日から札幌聾学校を欠席するようになり、同年5月以降も度々欠席した(甲75〔6頁〕)。 キ原告A母は、令和4年5月13日、G教育長に対し、至急原告Aの担任を日本手話ができる者に替えるよう求める手紙を渡した(甲14の1)。 原告ら代理人は 年5月以降も度々欠席した(甲75〔6頁〕)。 キ原告A母は、令和4年5月13日、G教育長に対し、至急原告Aの担任を日本手話ができる者に替えるよう求める手紙を渡した(甲14の1)。 原告ら代理人は、同月17日頃、原告Aを代理して、G教育長及びH校長に対し、原告Aの担任を交替させること及びそのための協議を行うことを申し入れた(甲9、乙17の2)。 ク原告A母及び原告ら代理人と、札幌聾学校教頭であるI(以下「I教頭」という。)及び札幌聾学校小学部主事は、令和4年5月25日、札幌聾学校において、協議を行った(乙18の4)。G教育長は、同日、原告A母に対し、札幌聾学校が組織として持続可能で充実した指導体制を整備することができるよう、聴覚障がい教育の専門性向上に引き続き取り組んでいくこと、札幌聾学校の管理職に安心して相談するようお願いすることを記載した書面を渡した(甲15)。 ケ札幌聾学校は、令和4年6月9日、原告ら代理人に対し、C教諭の授業には、J教諭及びK教諭が補助教員として入る旨を伝えた(甲75〔6、7頁〕)。J教諭及びK教諭は、同月13日から24日までの間、特別活動、算数、国語及び社会の授業に参加した(甲23の9・10、乙16)。 コ原告ら代理人は、令和4年6月20日頃、原告Aを代理して、G教育長及びH校長に対し、原告Aの担任を日本手話ができる教員に交替することを求めた(甲10、乙17の3)。 - 27 -サ札幌聾学校3年2組の学級通信では、令和4年6月10日発行分及び同月17日発行分には翌週の時間割欄に上記ケの補助教員が記載されていたが、同月24日発行分に掲載された翌週の時間割には補助教員が記載されていなかった(甲23の9~11)。 シ原告ら代理人は、令和4年6月27日、原告Aを代理して、G教育長及びH校長に対し れていたが、同月24日発行分に掲載された翌週の時間割には補助教員が記載されていなかった(甲23の9~11)。 シ原告ら代理人は、令和4年6月27日、原告Aを代理して、G教育長及びH校長に対し、協議を拒否される以上訴訟手続に入らざるを得ないと考える旨申し入れた(甲11、乙17の4)。原告ら代理人は、同月30日頃、G教育長及びH校長に対し、I教頭が電話に出ず、授業の方法を確認できなかったこと、原告AはC教諭単独での授業は受けられないため、同日の登校は不可能であること等を申し入れた(乙17の6)。 ス原告Aは、令和4年7月27日、第1事件に係る訴えを提起した。 それ以降、令和5年3月31日まで、原告Aの担任が交代することはなく、原告Aは、欠席することが多かった。 (13)原告Bの訴訟提起に至る経緯ア原告Bは、乳幼児の頃から日本手話を第一言語としていた(原告B母〔1、2頁〕)。 イ原告B父及び原告B母は、原告Bが札幌聾学校に入学する前、上記(12)イと同様の書面の交付を受け、「「お子さんのコミュニケーション手段」に係る意向調査用紙」に、二言語クラスを選択して提出した(甲73、原告B母〔6、7頁〕)。 原告Bは、道教委から学校教育法施行令14条による就学すべき学校の指定を受けて、平成29年4月1日、札幌聾学校小学部に入学し、二言語クラスに所属した(前提事実(2))。 ウ原告Bの第5学年次の担任は、K教諭であったが、K教諭は令和3年11月11日から令和4年1月31日までの間、病気休養となった。原告Bは、令和3年12月14日から同年度末に至るまで札幌聾学校を欠席した。 - 28 -(甲84〔9頁〕、乙21、24)エ原告Bは、令和4年度初めから同年6月24日に至るまでの全日、札幌聾学校を欠席していたが、同月27日か 同年度末に至るまで札幌聾学校を欠席した。 - 28 -(甲84〔9頁〕、乙21、24)エ原告Bは、令和4年度初めから同年6月24日に至るまでの全日、札幌聾学校を欠席していたが、同月27日から札幌聾学校に登校するようになった。原告Bは、その後も令和5年3月31日まで、度々遅刻、早退又は欠席した。(乙24)オ原告Bは、令和5年1月27日、第2事件に係る訴えを提起した。 カ原告Bは、令和5年3月に札幌聾学校小学部を卒業したが、中学部には進級しなかった(乙19)。 (14)二言語クラスでの授業の状況ア令和4年度及び令和5年度において、札幌聾学校の二言語クラスの授業では、日本手話だけでなく、日本語対応手話、指文字、書記日本語、口話、動画、イラストや図、写真等、日本手話以外のコミュニケーション手段を多く用いていた(甲71、75〔10~26頁〕、85〔3~7頁〕、原告B母〔10頁〕)。 イ二言語クラスでは、自立活動として「手話っち自立」の時間が設けられている。当該授業は、日本手話の文法の基礎、ろう文化等や日本語の基礎的な文法事項等について、他学年と合同で学ぶものである。また、当該授業には、聴覚障害を有する教員が交替で参加し、児童に日本手話で絵本を読んだり、児童と日本手話で話合いをしたりしている。(甲23、30)(15)日本手話の習得日本手話を使用するに当たっては、日本手話を読み取ること、手話単語や文法を覚えること等が必要となるため、その習得は非常に難しく、多大な時間と労力を要する。特に、小学校低学年の児童の手指は発達途上にあり、これを読み取ることはより困難となる。また、日本手話で勉強を教えるには、学習で使用する単語を覚える必要があるため、日本手話以外の表現手段を用いずに教えることは難しい。(甲55〔6枚目〕、86 あり、これを読み取ることはより困難となる。また、日本手話で勉強を教えるには、学習で使用する単語を覚える必要があるため、日本手話以外の表現手段を用いずに教えることは難しい。(甲55〔6枚目〕、86〔6、7頁〕、原告B- 29 -母〔2~4頁〕) 2 争点(1)(C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応は、原告らの憲法上の権利を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。)について原告らは、札幌聾学校校長がC教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びに道教委職員及び札幌聾学校職員のその後の対応は、憲法26条、13条及び14条に定める原告らの日本手話で授業を受ける権利を侵害し、国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張する。 そこで、札幌聾学校校長の上記行為並びに道教委職員及び札幌聾学校職員の上記行為が、原告らの上記権利を侵害し、憲法26条、13条及び14条に反するかについて、以下検討する。 (1) 憲法26条についてア憲法26条は、1項において、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定め、2項において、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と定める。そして、この規定の背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30 その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。 したがって、同条は、国民が、必要な学習をすることを公権力から阻害されない権利や、公権力に対し必要な教育制度・教育施設その他の教育条件の整備を求める権利につき、学習権として保障するものと解される。後- 30 -者は、公権力に対して給付を請求する権利であるところ、同条は、具体的にいかなる教育条件を整備すべきかについて規定しておらず、その具体的な内容・方法については、教育に関する専門的な知見等を踏まえ、人的資源の確保、国や地方公共団体の財政事情など、多方面にわたる要素を考慮して決定しなければならないと自ずから認められるから、その決定については立法府に裁量があるといえる。したがって、国民が、公権力に対し、必要な教育制度・教育施設その他の教育条件の整備を求める権利は、立法措置により具体化されることで、具体的権利としても保障されるのであって、第一言語により教育を受けることが望ましいか否かはともかく、第一言語により教育を受ける権利が同条により直ちに保障されるとは解されない。 もっとも、同条1項は「その能力に応じて、ひとしく」教育を受ける権利を有すると定めているところ、立法府が教育条件の整備に係る権利の内容を具体化していないとしても、行政府がある行政措置を採ったこと又は採らなかったことが、上記規定に反する場合には、その行政府の作為・不作為が裁量権の逸脱・濫用に当たり、同条に違反するものといえる。 イ原告らは、憲法26条により日本手話で授業を受ける権利が保障されると主張するところ、当該権利は、公権力に対し、適切な教育制度 ・不作為が裁量権の逸脱・濫用に当たり、同条に違反するものといえる。 イ原告らは、憲法26条により日本手話で授業を受ける権利が保障されると主張するところ、当該権利は、公権力に対し、適切な教育制度・教育施設その他の教育条件の整備を求める給付請求権と解される。そこで、原告らが主張する上記の権利が立法措置により具体的権利として保障されているかについて、以下検討する。 (ア) 教育基本法4条2項は、障害のある者の教育について、「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。」と規定するとともに、18条において「この法律に規定する諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならない。」と規定している。また、- 31 -学校教育法は、72条において「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。」と定めるとともに、77条において、「特別支援学校の幼稚部の教育課程その他の保育内容、小学部及び中学部の教育課程又は高等部の学科及び教育課程に関する事項は、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準じて、文部科学大臣が定める。」としている。 (イ) 学校教育法施行規則は、126条1項において、「特別支援学校の小学部の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育及び外国語の各教科、特別の教科である道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動並びに自立活動によつて編成するものとする。」と定め、129条において、「特 理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育及び外国語の各教科、特別の教科である道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動並びに自立活動によつて編成するものとする。」と定め、129条において、「特別支援学校の(中略)小学部(中略)の教育課程については、この章に定めるもののほか、(中略)教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する(中略)特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(中略)によるものとする。」として、特別支援学校小学部の教育課程につき、学習指導要領に委任している。 そして、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領2章1節1款2(3)は、「児童の聴覚障害の状態等に応じて、音声、文字、手話、指文字等を適切に活用して、発表や児童同士の話し合いなどの学習活動を積極的に取り入れ、的確な意思の相互伝達が行われるよう指導方法を工夫すること」と規定している(認定事実(6)ア(イ))。 これらの規定は、手話について「適切に活用」するものと定めるにとどまっており、日本手話で授業を提供すべきとは定めていないから、日本手話で授業を受ける権利を具体化したものとは解されない。 - 32 -(ウ) 児童の権利に関する条約は、23条2項において、「締約国は、障害を有する児童が特別の養護についての権利を有することを認めるものとし、利用可能な手段の下で、申込みに応じた、かつ、当該児童の状況及び父母又は当該児童を養護している他の者の事情に適した援助を、これを受ける資格を有する児童及びこのような児童の養護について責任を有する者に与えることを奨励し、かつ、確保する。」と規定し、同条3項において、「障害を有する児童の特別な必要を認めて、2の規定に従って与えられる援助は、父母又は当該児童を養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償で与えられるものとし、かつ、 規定し、同条3項において、「障害を有する児童の特別な必要を認めて、2の規定に従って与えられる援助は、父母又は当該児童を養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償で与えられるものとし、かつ、障害を有する児童が可能な限り社会への統合及び個人の発達(文化的及び精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法で当該児童が教育(中略)の機会を実質的に利用し及び享受することができるように行われるものとする。」と規定する。もっとも、これらの規定は「利用可能な手段の下で」、「障害を有する児童が可能な限り社会への統合及び個人の発達(文化的及び精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法」等、抽象的な文言を用い、具体的にいかなる方法により教育の機会を保障すべきかについて示しておらず、日本手話で授業を受ける権利を具体化したものとは解されない。 また、障害者の権利に関する条約は、24条3項柱書において、「締約国は、障害者が教育に完全かつ平等に参加し、及び地域社会の構成員として完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。」と規定し、同(c)において、「盲人、聾者又は盲聾者(特に盲人、聾者又は盲聾者である児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする- 33 -環境において行われることを確保すること。」と規定している。もっとも、かかる規定も、「個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段」や「学問的及び社会的な発達を最大にする環境」などと抽象的な文言を用いるにとどまり、具体的にいかなる言語並びに意思疎通の形態及び手段で、いか 個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段」や「学問的及び社会的な発達を最大にする環境」などと抽象的な文言を用いるにとどまり、具体的にいかなる言語並びに意思疎通の形態及び手段で、いかなる環境において教育を行うべきか定めたものではなく、これにより日本手話で授業を受ける権利が具体化されたものとは解されない。 (エ) 北海道言語としての手話の認識の普及等に関する条例は、その前文並びに2条及び3条において、認定事実(1)イのとおり規定し、4条において、「道は、市町村、関係団体等と協力して、聴覚障がい者が乳幼児期からその家族等と共に手話を習得する機会を確保するよう努めるものとする。」と、5条において、「道は、聴覚障がい者が在籍する学校(中略)において児童等及び職員が手話を習得する機会の確保を図るため、当該学校に対し、助言、情報の提供その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。」と各規定している。 もっとも、これらの規定は、手話を習得する機会を確保するよう努力することを規定するにとどまり、これによる授業の提供を保障することまで定めているものとは読み取れない。 (オ) 原告らは、被告が札幌聾学校において日本手話クラスや二言語クラスを設置する等の措置を通じ、日本手話で授業を受ける権利を具体的権利として保障した旨主張する。 しかし、上記アのとおり、教育条件の整備の具体的な内容・方法の決定については、立法府の裁量に属するものであり、行政府は、立法府の定めた枠組みの中で具体的な措置を決定するにとどまるのであるから、教育条件の整備を求める権利が、行政措置を通じて具体的権利として保障されるものとは解されない。 - 34 -(カ) 以上からすれば、日本手話で授業を受ける権利は、具体的権利として保障されたものとはいえない。 ウ次 利が、行政措置を通じて具体的権利として保障されるものとは解されない。 - 34 -(カ) 以上からすれば、日本手話で授業を受ける権利は、具体的権利として保障されたものとはいえない。 ウ次に、日本手話で授業を受ける権利が立法により具体化されていないものの、札幌聾学校が、原告らに対し、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を多く用いていることが、憲法26条1項の「その能力に応じて、ひとしく」との定めに反するといえるか検討する。 憲法26条1項は、「その能力に応じて、ひとしく」と規定して、教育の機会均等を定め、憲法14条1項の定める法の下の平等が教育にも妥当することを示している。そこで、上記行政措置が「その能力に応じて、ひとしく」との定めに反するか否かを判断するために、上記行政措置が、憲法14条の趣旨に反するか検討する。 (ア) 憲法14条は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであり(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)、かかる趣旨は、憲法26条1項にも妥当する。そして、日本語でひととおりの授業をする一方で、日本手話でひととおりの授業をしない場合には、日本手話を第一言語とする児童は、その第一言語でひととおりの授業を受けることができないのに対し、日本語を第一言語とする児童は、その第一言語でひととおりの授業を受けることができるのであるから、日本手話を第一言語とする児童と日本語を第一言語とする児童は区別されているといえる。したがって、このような区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に の授業を受けることができるのであるから、日本手話を第一言語とする児童と日本語を第一言語とする児童は区別されているといえる。したがって、このような区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められない場合には、憲法26条1項に反することとなる。 - 35 -そして、上記(1)アのとおり、教育条件の整備の内容・方法については、教育に関する専門的な知見等を踏まえ、人的資源の確保、国や地方公共団体の財政事情など、多数の要素を考慮して決定しなければならず、その決定については立法府に裁量がある。もっとも、教育条件は、子どもが成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする権利と深く関わっており、憲法26条の背後に存在する学習権の上記趣旨に照らし、その平等は十分尊重に値する。 そこで、上記のような区別をする目的に合理的な根拠があり、かつ、その区別の具体的内容が当該目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から、同条1項の適合性を判断すべきである。 (イ) 区別の目的について日本手話でひととおりの授業を提供するには、そのような授業を提供できる教員の存在が不可欠である。道教委は、北海道議会平成18年第3回定例会において、手話を活用できる教員の割合を高めるため、研修を充実する努力をしている旨を教育長が発言し、平成25年3月作成の「日本手話を活用した指導の充実のために」に、手話表現はできても、授業の中で効果的に活用することに難しさを感じている教員が多いことを記載している(認定事実(9)イ、エ)。また、札幌聾学校の平成30年11月21日付け職員会議資料には、日本手話活用能力が高い教員を採用することは難しく、指導できる教員の確保に苦労している旨の記載がある(認定事実(10)ウ)。このよう 。また、札幌聾学校の平成30年11月21日付け職員会議資料には、日本手話活用能力が高い教員を採用することは難しく、指導できる教員の確保に苦労している旨の記載がある(認定事実(10)ウ)。このように、道教委及び札幌聾学校は、日本手話で授業を提供できる教員を育成・確保しようとしつつも、これに難渋してきたものである。このような経緯からすれば、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を多用して授業を提供することの目的の一つは、教員の育成・確保の状況に見合った教育制度を設定することにあると認められる。 - 36 -また、道教委は、平成25年3月作成の「日本手話を活用した指導の充実のために」に、日本手話を含む手話を活用した指導を行う場合には、教育基本法、学校教育法、学習指導要領、教育要領等に基づく必要があると記載し、平成26年3月作成の「日本手話を活用した指導の充実のために2」に、準ずる教育は日本語という言語を前提としていることと、手話は言語であることの両面を実現する方策について研究が進められてきた等と記載している(認定事実(9)エ、オ)。このように、道教委は、特別支援学校において、日本手話を活用しつつも、教育関係法令及び学習指導要領の規定に従い、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に「準ずる教育」を提供する方策を研究してきたものである。したがって、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を多用して授業を提供することの目的は、教育関係法令及び学習指導要領に則った教育と手話を活用した教育との両立を図ることにもあると認められる。 特別支援学校の教員は、学習指導要領に則った教育をするだけでなく、障害を有する幼児児童生徒らに対してその障害に即した指導をする必要があり を活用した教育との両立を図ることにもあると認められる。 特別支援学校の教員は、学習指導要領に則った教育をするだけでなく、障害を有する幼児児童生徒らに対してその障害に即した指導をする必要があり、多数の知識や技能が必要とされる。日本手話は、障害に関する技能の一つであるが、その習得は難しいうえ、日本手話で授業を提供できる程度にまで習得することは特に難しく、多大な労力と時間を要する(認定事実(15))。このため、道教委や札幌聾学校が、教員の採用や研修等を通じて確保・育成できる教員の人数や水準には限界があり、限られた人材の中で教育制度を運営することを求められている。したがって、教員の育成・確保の状況に見合った教育制度を設定するという目的は、合理的なものである。 学校教育法は、特別支援学校における教育について、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育とすることを定め(上記イ(ア))、特- 37 -別支援学校小学部・中学部学習指導要領は、各教科の目標、各学年の目標及び内容並びに指導計画の作成と内容の取扱いは、小学校学習指導要領第2章に準ずる、すなわち、原則として同一とすべきとしている(認定事実(6))。文部科学省の報告において、特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置付けられているところ(認定事実(7))、障害のある児童に原則として小学校学習指導要領と同一の指導を行うとすることは、当該児童の自立や社会参加を促し得るものである。したがって、教育関係法令及び学習指導要領に則った教育と手話を活用した教育との両立を図るという目的は、合理的な根拠を有する。 以上から、区別の目的は、合理的な根拠を有すると認められる。 (ウ) 目的との関連における区別の合理性について次に、日本 手話を活用した教育との両立を図るという目的は、合理的な根拠を有する。 以上から、区別の目的は、合理的な根拠を有すると認められる。 (ウ) 目的との関連における区別の合理性について次に、日本手話を第一言語とする児童に対し、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を多く用いることが、上記目的との関係で合理性を有するといえるか検討する。 日本手話と日本語対応手話とを峻別することの相当性はともかくとしても、日本語対応手話は、日本手話と一部の語彙を共有しており、日本語対応手話を使用すれば、日本手話を第一言語とする児童にも単語の一部を伝えることができる。また、日本手話を第一言語とする児童であっても、学校や家庭での教育を通じた発達の程度に応じ、指文字や書記日本語を理解することができる。そして、動画、イラストや図、写真等は、視覚的に児童に情報を伝達することのできるコミュニケーション手段である。したがって、日本手話を習得する途上にある教員であっても、日本手話だけでなく、日本語対応手話や指文字、書記日本語、動画、イラストや図、写真等のコミュニケーション手段を活用すれば、一定の水準の授業を提供することが可能となると認める。このように、日本手話で- 38 -ひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を使用することは、日本手話を習得する途上にある教員による授業を一定の水準に保つうえで有用である。 また、小学校学習指導要領第2章には、国語について、話すこと・聞くこと、書くこと、読むことに関する指導内容が記載されているなど、日本語(書記日本語を含む)を前提とした指導内容が含まれている(認定事実(6)イ)。そして、日本語対応手話は、日本語に対応している性質上、日本語での言い方を児童生徒 る指導内容が記載されているなど、日本語(書記日本語を含む)を前提とした指導内容が含まれている(認定事実(6)イ)。そして、日本語対応手話は、日本語に対応している性質上、日本語での言い方を児童生徒に確認したり、学習内容や意見などを日本語の文で発表させたりする場面で活用できる手話であり、また、指文字は、日本語の仮名文字一つ一つを片手で表すことのできるものである(認定事実(3))。したがって、日本手話を第一言語とする児童に対して、日本語を前提とする指導を提供するに際し、上記のような性質を有する日本語対応手話、指文字、書記日本語等、日本手話以外の方法を用いることは、指導方法として有用であると認める。このような指導方法は、本件手引において、児童の実態だけでなく、コミュニケーション場面や、そこで求められる課題や内容に応じたコミュニケーション方法を選択し、使用することが重要であるとされていること(認定事実(3)ア)にも合致する。 一方で、日本手話を第一言語とする児童は、授業において日本手話以外のコミュニケーション手段が用いられる場合、授業の内容を円滑に理解できず、自己の考えも円滑に伝達できないことや、自身の第一言語の使用頻度が少ないことに、疎外感やストレスを抱くといった不利益を被ることになる。また、ろう児の教育については、日本手話で提供することが最も効果的であるとする見解も示されている(認定事実(5))。しかし、上記のとおり、日本手話以外の表現手段を用いても、教員と児童が一定程度のコミュニケーションを取ることは可能である。また、上記- 39 -のような疎外感やストレスは、日本手話を多く使用する機会を設けることにより緩和されると考えられるところ、札幌聾学校では、実際に「手話っち自立」という授業を実施しそのような時間を設けていた(認定事実 のような疎外感やストレスは、日本手話を多く使用する機会を設けることにより緩和されると考えられるところ、札幌聾学校では、実際に「手話っち自立」という授業を実施しそのような時間を設けていた(認定事実(14)イ)。加えて、ろう児には日本手話で教育を提供することが最も効果的であるという見解については、これに一致しない見解が本件手引などで有力に示されており、そもそも日本手話と日本語対応手話の区別や連続性についても見解が分かれているなど(認定事実(2)~(4))、未だ一般的なものとは認めがたく、上記指導方法が不合理であるとまで認めることはできない。 以上からすれば、日本手話を主なコミュニケーション手段とする児童の不利益等を考慮しても、原告らに対し、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を使用して授業を提供することは、上記(イ)の目的との関連において合理性を有するものと認められる。 (エ) したがって、道教委や札幌聾学校が、原告らに対し、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を使用していることが、不合理な差別的取扱いに当たるということはできない。 エ以上のとおり、原告らに対し、日本手話で授業を受ける権利が憲法26条により具体的権利として保障されているとはいえず、道教委や札幌聾学校が、原告らに対し、日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を使用していることが憲法26条に反するともいえない。この点についての原告らの主張は採用できない。 (2) 憲法13条について原告らは、日本手話で授業を受ける権利が憲法13条の人格権として保障される旨主張する。 - 40 -一般に、言語は、個人にとって、コミュニケーションの手段と (2) 憲法13条について原告らは、日本手話で授業を受ける権利が憲法13条の人格権として保障される旨主張する。 - 40 -一般に、言語は、個人にとって、コミュニケーションの手段として社会生活の基盤となるだけでなく、アイデンティティの基盤ともなる存在であり、個人の人格の一部分を構成するものであるから、これを尊重すべきである。 もっとも、上記(1)イのとおり、原告らの主張する権利は、特定の言語で授業を提供することを求めるものであり、公権力に一定の給付を求める権利であると解される。そして、公権力により特定の言語でのコミュニケーションを妨げられないことを超えて、公権力に対し特定の言語での授業を求めることまでが、個人の人格の重要な要素であるとまではいい難い。したがって、日本手話が言語であるといっても、日本手話で授業を受ける権利が、憲法13条により保障される人格権の一内容であるとはいえない。 したがって、この点についての原告らの主張は採用できない。 (3) 憲法14条について原告らは、聴覚に障害のない子どもは第一言語である日本語による教育を受けることができているにもかかわらず、原告らは第一言語である日本手話での授業が保障されず、差別的取扱いを受けた旨主張する。 しかし、上記(1)ウのとおり、道教委や札幌聾学校が、原告らに対し、その第一言語である日本手話でひととおりの授業を提供するのではなく、その他のコミュニケーション手段を多く使用していることが、不合理な差別的取扱いに当たるということはできないから、憲法14条1項の定める平等権を侵害するともいえない。 この点についての原告らの主張も採用できない。 (4) 以上のとおりであるから、札幌聾学校校長がC教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びに道教委職員及び札幌聾学校職 を侵害するともいえない。 この点についての原告らの主張も採用できない。 (4) 以上のとおりであるから、札幌聾学校校長がC教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びに道教委職員及び札幌聾学校職員のその後の対応が、原告らの憲法26条、13条及び14条に規定する権利を侵害するとして、国家賠償法1条1項上違法になる旨の原告らの主張は理由がない。 3 争点(2)(C教諭及びD教諭を原告らの担任としたこと並びにその後の対応- 41 -は、札幌聾学校の原告らの保護者に対する入学前の説明に反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法か。)について(1) 子どもが、入学前に学校から教育内容等について説明を受け、その説明どおりの教育が施されるとの期待、信頼を抱いたにもかかわらず、その後学校が教育内容等を変更し、説明どおりの教育を実施しなくなれば、子どもの上記期待、信頼は損なわれる。このような場合に、上記期待、信頼は、およそ法律上保護される利益に当たらないとして直ちに不法行為の成立を否定することは、子どもにとっていかなる教育を受けることができるかは重大な事柄であることや、子どもには学習権が保障されていること、上記期待、信頼は学校側が形成したものであることを考慮すれば、相当でない。したがって、学校側が入学前に説明した教育内容の一部を変更し、これを実施しなくなった場合には、子どもの期待、信頼を損なう違法なものとして、不法行為が成立する場合もあり得ると解される。 しかし、学校教育における教育内容等の決定は、諸般の事情に照らして全体としての教育的効果や特定の教育内容の実施の可能性、相当性、必要性等を総合考慮して行われるものであるから、学校教育に関する諸法令や学習指導要領の下において、教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者や校 果や特定の教育内容の実施の可能性、相当性、必要性等を総合考慮して行われるものであるから、学校教育に関する諸法令や学習指導要領の下において、教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者や校長、教員の裁量に委ねられるべきものであり、また、教育内容等については、諸般の事情の変化も踏まえ、その教育的効果等の評価、検討を不断に行うべきであり、これに応じて変更することについても、学校設置者や校長、教員に裁量が認められるべきである。 また、上記の期待や信頼に対する保護は、そのような期待や信頼に基づいて、子どもや保護者が入学する学校を積極的に選択した場合と、教育委員会により就学すべき学校を指定された公立学校に入学した場合とでは、その程度を自ずから異にすると解する。 したがって、入学前に学校から説明を受けた教育内容の一部が変更され、- 42 -実施されなくなったことが不法行為を構成するのは、当該学校において児童生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容の位置づけ、当該変更の程度、当該変更の必要性、合理性等の事情及び子どもの学校選択の経緯に照らし、当該変更が、学校設置者や校長、教員に上記の裁量が認められることを考慮してもなお、社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきである。 (2) 原告らは、道教委や札幌聾学校が、原告らの札幌聾学校入学前に、原告らの保護者に対し、二言語グループでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたにもかかわらず、札幌聾学校校長が、そのような説明に反する教員を配置し、その配置を継続したと主張する。 そこで、まず、道教委や札幌聾学校が、原告らが入学する前に、原告らやその保護者に対し、原告らが入学する二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたと認められるかについて検討する。 する。 そこで、まず、道教委や札幌聾学校が、原告らが入学する前に、原告らやその保護者に対し、原告らが入学する二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたと認められるかについて検討する。 (3) 道教委の平成25年3月作成の指導資料(甲6)及び平成26年3月作成の指導資料(甲7)には、「日本手話の学習グループ」、「日本手話を基盤として」などとの記載がある(認定事実(9)エ、オ)。 しかし、上記各指導資料は、特別支援学校において指導に当たる教員ら向けに作成されたものであり、札幌聾学校への入学予定者やその保護者への説明資料として作成されたものではない。また、上記の各指導資料は、札幌聾学校での指導方法が、原告らが入学する年度においても変わらない旨を示したものとも解されない。 道教委が北海道保健福祉部と作成した平成24年5月作成のリーフレット(甲35)は、ろう学校の乳幼児相談に訪れた保護者向けに作成されたものであるが、これには、「札幌聾学校では」、「幼児児童生徒本人・保護者の意向に基づき発達の段階に応じた日本手話による学習指導体制を整え、教育実践に取り組んでいる」旨の記載がある(認定事実(9)ウ)。 - 43 -もっとも、上記記載は、「北海道内の聾学校では、子どもや保護者のニーズ、実態などに応じて、多様なコミュニケーション手段(日本手話、手話付きスピーチ、聴覚口話法、聴覚口話法と手話の併用など)を活用し、ことばの力を高める学習指導を行っている」旨の記載の下部に、その「日本手話」の説明の一部として記載されており(甲36)、必ずしも二言語クラスでは学校教育全般につき日本手話を基軸とする旨を示したものとは解されない。 したがって、これらの資料により、道教委が、原告らに対し、その入学前に、二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明を ラスでは学校教育全般につき日本手話を基軸とする旨を示したものとは解されない。 したがって、これらの資料により、道教委が、原告らに対し、その入学前に、二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたとは認められない。 (4) 札幌聾学校が平成29年頃に作成した、「札聾の教育:平成29年度版」には、二言語の指導につき「日本手話を基盤として」との記載がある(認定事実(10)イ)。 しかし、上記資料は特別支援教育の関係者向けに作成されたものであり、札幌聾学校への入学予定者やその保護者への説明資料として作成されたものではない。加えて、上記資料は平成29年度の指導方法に関する資料であり、原告Aの入学する令和2年度も指導方法が変わらない旨示した内容であるとは解されない。 札幌聾学校が作成した公式ホームページには、平成28年6月頃、日本手話クラスでは「日本手話環境を整え、日本手話を基盤として日本語の読み・書きの力、学ぶ力を育てます」との記載があった(認定事実(10)ア)。 上記記載は、日本語の能力を育てるために日本手話を基盤とする旨を述べるにとどまるのであって、日本手話クラス(及びこれから移行した二言語クラス)では学校教育全般につき日本手話を基軸とする旨を示したものとは解されない。 したがって、これらの資料により、札幌聾学校が、原告らが入学する前に、原告らに対し、二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたとは- 44 -認められない。 (5) 札幌聾学校は、原告らの保護者である原告A母並びに原告B父及び原告B母に対し、それぞれ、その子である原告らが小学部に入学する前に、子のコミュニケーション手段に係る意向調査の説明資料及び意向調査用紙を交付し、各グループについての説明をし、意向調査をした(認定事実(12)イ、(13)イ)。 子である原告らが小学部に入学する前に、子のコミュニケーション手段に係る意向調査の説明資料及び意向調査用紙を交付し、各グループについての説明をし、意向調査をした(認定事実(12)イ、(13)イ)。 上記説明資料には、意向調査はクラス編制の際の参考として保護者の考えを調査するものであって、保護者の意向によりクラスが決定されるものではない旨の記載があるとともに、二言語による指導について、「聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語を使い、聞こえない子どもたちのコミュニケーションにおいて、できる限り幼児の負担を軽減させ日本語の力を獲得させる言語指導法」である旨の記載がある。 この記載は、児童のクラス分けは保護者の意向を参考として札幌聾学校側で決定すること、二言語クラスでは、児童に対する指導に際し、聴覚を活用した音声言語及び日本手話と日本手話をベースとした手話の両方の言語をいずれも使用することを示しているが、これを越えて、二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨を説明したものとまで解することはできない。 したがって、上記資料により、札幌聾学校が、原告らが入学する前に、原告らに対し、二言語クラスでは日本手話を基軸とする旨の説明をしたとは認められない。 (6) そして、他に、札幌聾学校に入学する前の原告らに対し、道教委や札幌聾学校が、二言語クラスでは日本手話を基盤とする旨の説明をしたと認めるに足りる的確な証拠はないから、そのような事実を認めることはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、札幌聾学校校長がC教諭及びD教諭を原告らの担任とし、その後もその配置を継続したことが、原告らの保護者に対する入学前の説明に反し、国家賠償法1条1項の適用上- 45 -違法となる旨の原告らの主張は理由が 校長がC教諭及びD教諭を原告らの担任とし、その後もその配置を継続したことが、原告らの保護者に対する入学前の説明に反し、国家賠償法1条1項の適用上違法となる旨の原告らの主張は理由がない。 結論よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官守山修生 裁判官石川紘紹 裁判官斎藤由里阿
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