本件は、原告らが被告病院に対し、相続人であるAの死亡が医師の過失によるものであるとして、損害賠償を求めた事案である。原告は、Aが下肢閉塞性動脈硬化症の治療中に受けた検査や投薬が原因で脳出血を引き起こし、死亡に至ったと主張した。主要な争点は、DAS検査の実施に関する責任や、投薬の適切性、検査の遅延、手術の実施、及び説明義務の違反であった。裁判所は、医療行為においては、医師が患者の状態を考慮し、適切な判断を行ったと認定し、原告の主張を退けた。結果として、原告の請求は棄却され、訴訟費用は原告の負担とされた。
-- 主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ1500万円及びこれに対する平成14年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,Aの相続人である原告らが,Aが死亡したのは,被告が開設する病院(以下「被告病院」という。)の医師らの下肢閉塞性動脈硬化症等の治療における過失によるものであると主張して,被告に対し,主位的には債務不履行に基づき,予備的に不法行為(使用者責任)に基づき,損害の賠償(いずれも,訴状送達日の翌日である平成14年6月1日以降民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を含む。)を求めた事案である。 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)㨯当事者ア原告X1はAの妻であり,原告X2はAの養子である(甲2,3)。 イ被告は,医療施設を経営し,科学的でかつ適正な医療を普及することを目的とする医療法人であり,奈良県内において被告病院を開設している。 㨯診療経過等ア診療契約の締結Aは,平成8年11月26日ころから,B病院において,下肢閉塞性動脈硬化症及び高血圧症の治療を受けていた(甲62。ただし,特に断りがない限り枝番を含む。以下同じ。)。 Aは,平成11年6月14日(以下,年月の記載のない日は平成11年-- 6月のそれである。),C内科を受診したところ,間欠性行,顔色不良跛等,下肢閉塞性動脈硬化症の病態の増悪が見られたため,同日B病院を受診し,15日,同病院の紹介で被告病院を受診した。そして,Aは,同日,被告との間で,下肢閉塞性動脈硬化症の治療を目的とする診療契約を締結した(甲9~11,61,62)。 見られたため,同日B病院を受診し,15日,同病院の紹介で被告病院を受診した。そして,Aは,同日,被告との間で,下肢閉塞性動脈硬化症の治療を目的とする診療契約を締結した(甲9~11,61,62)。 イ入院後DSA検査までの経過㨯Aは,17日,被告病院に入院した。その後,1日当たり1回(30分ないし40分),リプル(プロスタグランジンE製剤。末梢閉塞性 動脈疾患治療薬)の点滴を受けた。また,Aは,11日,C内科において14日分のパナルジン(血栓・塞栓の治療及び血流障害の改善薬)を処方されており,被告病院においても,24日まで服用していた(甲45,49)。 㨯Aは,リプルの点滴を受けていた当時,24日までは,食欲旺盛で,被告病院内を散歩したり,税務書類等を見るなどして,入院前と変わらず元気であった。 ウDSA検査の実施Aは,24日午後4時ころから同日午後5時30分ころまで,両下肢について,造影剤を用いた下肢の血管撮影検査(血管造影(Angio)の一種であるDSA検査。以下「本件DSA検査」という。)を受けた(甲14~16)。なお,Aは,本件DSA検査に際して,ラクテック5004本の投与を受けた(乙2)。 mlエドルミカム(鎮静剤)の投与同日午後9時ころ,Aに強度の興奮状態が見られたため,ドルミカム(鎮痛剤)が投与された(甲37)。 オ小脳出血の発見Aは,25日午後1時ころ,頭部のCT検査(以下「本件CT検査」と-- いう。)を受けたところ,水頭症(頭蓋内に脳脊髄液が過剰に貯留し,腔が異常に拡大した状態)に伴う脳室拡大(脳室が,髄液流通障害又は脳の萎縮などのために拡張すること)及び小脳中央部に小脳出血に伴う血腫(出血により局在性に相当量の血液が組織内に貯留していること)が認められた(甲17,20,29,40,弁論 室が,髄液流通障害又は脳の萎縮などのために拡張すること)及び小脳中央部に小脳出血に伴う血腫(出血により局在性に相当量の血液が組織内に貯留していること)が認められた(甲17,20,29,40,弁論の全趣旨)。 カ小脳出血発見後の経過㨯Aは,25日午後5時ころから同日午後6時ころまで,脳室-腹腔シャント術(以下「本件VPシャント術」という。)を受けた(甲17,18,35)。 㨯Aは,25日から27日午前10時ころまで,ペルジピンの投与を点滴により継続的に受けていた(甲37,39,40)。 その他,Aは,小脳出血が判明した後,ラクテック,ニトロール,デカドロンの投与を受けた(甲12,37)。 なお,24日には,翌25日以降はパナルジンからプレタール(慢性動脈閉塞症治療薬)へ変更されることとなっていた(甲36,39)。 㨯Aの死亡Aは,28日午前6時5分,突然,徐脈発作と意識レベルの低下を来し,救命処置を受けるも改善せず,同日午前7時54分,被告病院において死亡した(当時81歳)。 㨯解剖の結果Aは,死亡後直ちにB病院において病理解剖に付され,主診断として,小脳出血(小脳半球左より,4×4×4.5)及び第四脳室に穿破,副診断cmとして,①脳軟化症(小脳後面に4×2×1,大脳左後頭葉後面に4×2cm×1),②大動脈硬化症(高度),左腸骨仮性動脈瘤及び腎動脈硬化症,cm③肺うっ血及び左肺出血,④脳室-腹腔シャント術術後状態,直接死因は小脳出血及び第四脳室穿破と考えられるとの所見を得た(甲7)。 -- 㨯被告病院での治療等において使用された各薬剤上記各薬剤の副作用,禁忌等について,次のような記載のある文献が存在する(ただし,本件のAの症状に関係する部分に限る。)。 アリプル(甲45)注意高齢者には慎重に副作用 いて使用された各薬剤上記各薬剤の副作用,禁忌等について,次のような記載のある文献が存在する(ただし,本件のAの症状に関係する部分に限る。)。 アリプル(甲45)注意高齢者には慎重に副作用重大なものとして脳出血イパナルジン(甲49)禁忌出血(止血が困難)注意用法・用量に関し,手術の場合,出血を増強するおそれがあるので,手術の10日ないし14日前に投与を中止すること副作用重大なものとして出血(脳出血)ウラクテック(甲50)副作用大量・急速投与(脳浮腫)エドルミカム(甲60)警告「重要な基本的注意」に留意し,呼吸及び循環動態の連続的な観察ができる施設においてのみ用いること(呼吸抑制及び呼吸停止を引き起こすことがあり,速やかな処置が行われないために死亡又は低酸素脳症に至った症例が報告されている。)適応麻酔前投薬,全身麻酔の導入及び維持,集中治療室における人工呼吸中の鎮静慎重①高度重症患者,呼吸紆余微力制限患者(無呼吸,心停止が起こりやすい。),②高齢者副作用その他のものとして,①循環器(血圧低下,血圧上昇,血圧変動),②精神神経(興奮,ふるえ),③その他(体動,発汗)オペルジピン(甲8)-- 禁忌①頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される患者(出血が促進する可能性がある。),②脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している患者(頭蓋内圧が高まるおそれがある。)注意重要な基本的注意として,作用には個人差があるので,血圧,心拍数等を十分に管理しながら慎重に投与することカニトロール(甲89)禁忌脳出血(頭蓋内圧上昇)キデカドロン(甲90)禁忌原則的なものとして,高血圧症クプレタール(甲47)禁忌出血(助長)相互併用注意としてプロスタグランジンE製剤 慎重出血傾向及 脳出血(頭蓋内圧上昇)キデカドロン(甲90)禁忌原則的なものとして,高血圧症クプレタール(甲47)禁忌出血(助長)相互併用注意としてプロスタグランジンE製剤 慎重出血傾向及びその素因(出血した時,それを助長)副作用重大なものとして出血(脳出血,肺出血) 争点 本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無䍃㨯本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与していたことに関する責任の有無㨯本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無㨯小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責任の有無㨯小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無㨯説明義務違反の有無㨯損害額 争点についての当事者の主張㨯争点㨯(本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無)について-- (原告らの主張)ア過失①Aは入院当初から毎日リプルの点滴投与を受けていたところ,これに関しては前記1㨯アのような指摘がある。②Aはパナルジンの投与を受けていたところ,これに関しては前記1㨯イのような指摘がある。③Aは本件DSA検査を受けた当時81歳であったところ,高齢者は一般的に血管が老化している上,Aは既に閉塞性動脈硬化症に罹病しそれが慢性化してより劣化していたし,高血圧症でもあった。④Aは,本件DSA検査を受けたとき血色不良であった。⑤一般的に,DSA検査は,超音波検査,CT検査,MRA検査などの各検査に比べ最も侵襲性の高い検査であるし,副作用として,浸透圧による血管拡張作用等を伴い必然的に出血の可能性を生じさせ,また,当該穿刺部位以下の血栓又は塞栓を生じさせるものである。⑥Aは3年前にB病院においてDSA検査を受けており るし,副作用として,浸透圧による血管拡張作用等を伴い必然的に出血の可能性を生じさせ,また,当該穿刺部位以下の血栓又は塞栓を生じさせるものである。⑥Aは3年前にB病院においてDSA検査を受けておりそのフィルムを取り寄せれば再検査としてはMRA検査でも十分であった。 これらのことを総合的に判断すれば,Aの血管は下肢のものに限らず脳内のものももろくなって破れ易い状態になっており,本件DSA検査を実施すれば脳出血が発生することは十分予見することができたし,他の検査方法により,下肢(骨盤内動脈を含む。)閉塞性動脈硬化症の状態(閉塞の部位及び程度)を観察し,手術適応か薬物療法で足りるかを判断することができたのであるから,本件DSA検査を実施すべきではなかった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DSA検査を実施したのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係本件DSA検査を実施したことにより,Aに小脳出血(高血圧性脳出血)が発生し,急性水頭症を招来したり,実質内血腫,頭蓋内圧亢進,脳室への穿破を招来し,Aは死亡したのであり,上記検査を実施しなければ,-- Aの死亡を回避することができたはずである。 したがって,上記検査の実施とAの死亡との間には相当因果関係が認められる。 (被告の主張)ア過失DSA検査は,閉塞性動脈硬化症において,血管閉塞の部位と程度を精密に診断するために有用であるだけでなく,外科的な血行再建術の実施を検討するために必須の検査であるし,本件DSA検査を実施するに至ったのは,Aが,閉塞性動脈硬化症を治療したいという意思を有していたからである。 ①リプルは,閉塞性動脈硬化症の治療薬として一般的なものであり,Aが被告病院に受診する前にB病院においても処方されている,⑤DSA検査の侵襲性がMRA検査やCT検査に 意思を有していたからである。 ①リプルは,閉塞性動脈硬化症の治療薬として一般的なものであり,Aが被告病院に受診する前にB病院においても処方されている,⑤DSA検査の侵襲性がMRA検査やCT検査に比べて高いのは,飽くまでこれらの検査の中での相対的なものである,⑥3年前にB病院において実施されたDSA検査のフィルムがあっても,現在の状態及び病状の進行を確認するためには再検査が必要であるし,MRA検査とDSA検査とでは診断の精度に大きな差異があるから,MRA検査では不十分であり,DSA検査を否定する理由にはならない。 イ因果関係本件DSA検査の実施によって小脳出血が生じたとは考え難い。 㨯争点㨯(本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与していたことに関する責任の有無)(原告らの主張)アラクテックの投与㨯過失①ラクテックに関しては前記1㨯ウのような指摘がある。②前記㨯-- (原告らの主張)アのとおり,Aの年齢は高く,Aには高血圧血管病変(下肢)があり,出血や梗塞の可能性は明らかに高かった。 これらのことからすれば,本件DSA検査の実施に際しラクテックを投与すべきではなかったにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DSA検査の実施に際してラクテックを投与したのであり,この点に過失が認められる。 㨯因果関係本件DSA検査の実施に際して多量にラクテックを点滴したために,長時間リプルを使用したこと及び本件DSA検査を実施したこととの競合相乗作用により,小脳出血を誘発したのであり,かかる点滴をしなければ,Aの死亡を回避することができたはずである。 したがって,上記ラクテックの投与とAの死亡との間に相当因果関係が認められる。 イパナルジンの投与㨯過失①被告は,Aが入院した時,既にパナルジンを服用していることを ることができたはずである。 したがって,上記ラクテックの投与とAの死亡との間に相当因果関係が認められる。 イパナルジンの投与㨯過失①被告は,Aが入院した時,既にパナルジンを服用していることを十分認識していた。②パナルジンに関しては前記1㨯イのような指摘がある。③被告は,DSA検査の実施を予想して観察していた。 これらのことからすれば,出血予防のため,いち早くパナルジンの服用中止処置をとるべきであったにもかかわらず,被告病院の医師は,パナルジンの服用を漫然と放置し,本件DSA検査実施後25日に中止するまで服用を継続させたのであり,この点に過失が認められる。 㨯因果関係被告は,本件DSA検査の実施に際してパナルジンの服用を継続させ,25日に小脳出血が判明した後もパナルジンを服用させたことにより,Aに再度の小脳出血が生じたのであり,パナルジンの服用を中止させて-- いれば,Aの死亡を回避することができたはずである。 したがって,上記パナルジンの投与とAの死亡との間に相当因果関係が認められる。 (被告の主張)アラクテックの投与㨯過失本件DSA検査を実施する前から丸1日かけて2000を投与したmlのであるし,量的にも一般的なものであるから,大量急速投与というものではなく,何ら問題はない。 㨯因果関係ラクテックの投与が小脳出血の誘因となった可能性は考え難い。 イパナルジンの投与㨯過失Aは,閉塞性動脈硬化症の治療目的で被告病院に入院したのであるから,入院前に処方されていたパナルジンの服用を継続するのは当然である。また,本件DSA検査とAの小脳出血との間の因果関係は不明で,本件DSA検査の実施前に小脳出血の発生を予見することは不可能であり,これを予見すべき義務はなく,本件DSA検査の前に,小脳出血を予防すべくパナ 件DSA検査とAの小脳出血との間の因果関係は不明で,本件DSA検査の実施前に小脳出血の発生を予見することは不可能であり,これを予見すべき義務はなく,本件DSA検査の前に,小脳出血を予防すべくパナルジンの服用を中止すべきであるという注意義務はない。 なお,前記1㨯イのパナルジンに関する指摘は,手術手技によって術中に直接に生じる出血のことを指しているのであり,本件のように,DSA検査後にたまたま発生した小脳出血を指しているものではない。 㨯因果関係パナルジンの投与が小脳出血の誘因となった可能性は考え難い。 㨯争点㨯(本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無)について-- (原告らの主張)ア過失①Aの身体には,本件DSA検査直後から明らかな異状が生じ,その後24日午後8時以降も継続的に異状が生じていた。すなわち,同日午後10時ころから,しきりに起き上がろうとする,四肢をバタバタ動かす,強度興奮,冷汗(顔面~前胸),悪心,夕食全部嘔吐,しきりにえづく,上体をしきりに左右に揺らしたりするなどの異状が次々に発生していた。②悪心・嘔吐は小脳出血の特徴で,特に,Aに生じたような小脳中央部の出血の場合は,強い嘔吐とともに体のふらふら感が強い。③ドルミカムの副作用には,起き上がろうとしたり,上体を左右に揺らすといったことは含まれていない。 これらのことからすれば,Aに小脳出血等が生じていることは予想することができたのであるから,より早期に検査(CT検査,MRI検査,脳血管造影検査)を実施すべきであった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,上記異状をドルミカムの副作用であると誤診して,25日午後2時ころに本件CT検査を実施するまでの約15時間,検査をしなかったのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係本件DSA検 医師は,上記異状をドルミカムの副作用であると誤診して,25日午後2時ころに本件CT検査を実施するまでの約15時間,検査をしなかったのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係本件DSA検査後いち早く上記各検査を実施していれば,もっと早く脳内の異常(小脳出血)を発見することができ,いち早く適切な治療(開頭減圧,血腫除去術等)をすることにより,小脳出血の増幅等を防止し,Aの死亡を回避することができたはずである。 したがって,上記各検査を実施しなかった不作為とAの死亡との間に相当因果関係が認められる。 (被告の主張)ア過失-- 被告病院の医師は,24日の本件DSA検査直後,同日午後10時ころ,25日午前9時前及び同日午前10時ころに回診し,被告病院の看護師は,24日の本件DSA検査後一夜のうちに十数回Aの病室を訪室し,Aの観察を行ったのであり,Aを長時間放置したということはない。 そして,Aには,本件DSA検査終了後である24日午後6時ころには何らの異状は認められず,同日午後8時ころから同日午後9時ころにかけて興奮状態が認められたにすぎない。また,鎮静剤(ドルミカム)の投与後25日午前1時ころには興奮状態も治まり,四肢の麻痺その他の異状は認められず,同日午前9時及び同日午前10時の診察では,やや意識レベルの低下が認められたものの鎮静剤の影響が考えられたこと,脳神経学的所見に明らかな左右差はなく,脳神経の異常を示す症状や四肢の麻痺その他の異状は認められなかったことから,経過を観察していたところ,同日昼食時に,明らかな麻痺は認められなかったが,食事動作が困難であったため,脳血管障害の可能性も考えて本件CT検査を実施したところ,小脳出血が発見されたのである。 このような経過に照らすと,同日の昼食時が,Aの小脳出血を疑い得た れなかったが,食事動作が困難であったため,脳血管障害の可能性も考えて本件CT検査を実施したところ,小脳出血が発見されたのである。 このような経過に照らすと,同日の昼食時が,Aの小脳出血を疑い得た最初の時期であるから,小脳出血の発見に至る経過について過失は存在しない。 イ因果関係24日に小脳出血が生じたものの,本件CT検査後,水頭症に対する本件VPシャント術を施行したことにより脳室が小さくなり,脳圧も下がり,出血も増加せず,意識レベルも回復し,その後28日にAの容態が急変した時も出血巣は拡大していなかったのである。したがって,24日に生じた小脳出血はAの死亡に影響を与えておらず,本件CT検査以前に小脳出血を発見してそれに対する治療をしていたとしても,Aが死亡したことに変わりはないのであり,本件CT検査以前に検査をしなかった不作為とA-- の死亡との間に因果関係は認められない。 㨯争点㨯(小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責任の有無)について(原告らの主張)ア過失①VPシャント術により脳圧が低下し,小康状態を保った出血巣が拡大して,圧の低い脳室に穿通し死に至ることも考えられ,Aに対して施行する適合性を欠いていた。②水頭症に伴う脳室拡大の所見を見て頭蓋内圧亢進を危惧したのであれば,減圧のコントロールが容易で,侵襲の少ない経頭蓋骨的外瘻で,圧流量調節可能な脳室ドレナージを選択すべきであった。 ③Aに生じた小脳出血の原因は,小脳内の血腫であったところ,一般に,小脳出血の場合,大脳の出血とは異なり,血腫除去はほとんどすべての場合に推奨することができる方法である。④血腫除去の術前検査として血管撮影は必須の検査ではなく,CT検査の結果に基づく所見だけで血腫除去は可能である。 これらのことからすれば,Aに対し んどすべての場合に推奨することができる方法である。④血腫除去の術前検査として血管撮影は必須の検査ではなく,CT検査の結果に基づく所見だけで血腫除去は可能である。 これらのことからすれば,Aに対しては血腫除去をするべきで,VPシャント術をすべきではなかった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,本件VPシャント術を施行したのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係Aには,本件DSA検査の実施により小脳出血が生じ,それに伴い血腫が生じてその周辺には浮腫(組織液又はリンパ液が何らかの原因により細胞内・細胞間隙又は体腔内に貯留する状態)があり,脳幹部は不均一で,周囲に脳脊髄液の通路がなく,非交通性水頭症(水頭症のうち通過障害によるもの)が生じ,脳幹部の脳ヘルニアが生じていたところ,本件VPシャント術(急速な脳内(テント上の側脳室)のドレナージ)を施行したことにより,水頭症の進行は抑えられたものの,小脳テント上の脳圧が低下-- し,テント切痕ヘルニアが増強悪化し,脳幹及び小脳テント下の小脳のヘルニア(小脳テント下が上方に食い込む)が増悪し,①脳幹部が圧迫されたことにより,また,②小康状態を保っていた出血巣が拡大して,更なる出血を招くとともに,圧の低い脳室に穿通したことにより,Aは死亡したのであり,本件VPシャント術を施行しなければ,本件死亡の結果を回避することができたはずである。 したがって,本件VPシャント術の施行と本件死亡の結果との間に因果関係が認められる。 (被告の主張)ア過失①Aには水頭症に伴う脳室拡大があり,VPシャント術の適応があった。 ②Aの場合,高齢であり,実際に本件DSA検査後に安静がとれない傾向にあったため,外脳室ドレナージではチューブの自己抜去などの危険が考えられたことから,より安全な方法であるVP ト術の適応があった。 ②Aの場合,高齢であり,実際に本件DSA検査後に安静がとれない傾向にあったため,外脳室ドレナージではチューブの自己抜去などの危険が考えられたことから,より安全な方法であるVPシャント術を選択した。③被告病院が血腫除去を行わずにVPシャント術を行ったのは,被告病院では,小脳出血に対する治療法として,血管撮影を行った上での血腫除去又はVPシャント術を提案したところ,原告らが,血管撮影の実施を拒絶したことに加え,直接の血腫摘出術は,Aが高齢であり,また,全身麻酔下での後頭蓋の手術であるから負担が重いこと,一方で,Aの意識状態は窩比較的良く,四肢も動いており,直ちに血腫を除去しないと生命に危険があるというほどの血腫による圧迫症状もなかったことから,まず,VPシャント術で急性期を超えれば予後は良いと考えられたからである。④CT検査の所見だけで血腫除去を行うことも不可能ではないが,仮に血管の異常があった場合には,術中に予想外の事態が発生するおそれがあり,また,手術の術式も変わるところ,Aの場合には,収縮期血圧が180を超mmHgえていないにもかかわらず出血を生じていたこと,脳出血の頻度の高い部-- 位以外からの出血であったことから,脳動脈奇形のような血管の異常が否定しきれなかった上,血管に直接処置を加える穿刺,吸引等をする前提であったから,血管撮影は必要であった。 イ因果関係本件VPシャント術を施行した後,Aの脳室が小さくなり,脳圧が低下したのであるが,出血は増加せず,CT検査の結果によると出血巣も拡大していないし,また,意識レベルも回復していた上,座位になって食事を摂るまでに回復したのであり,テント切痕ヘルニアが生じていたとは考えられないのであるから,本件VPシャント術を施行したことと28日の急変と いし,また,意識レベルも回復していた上,座位になって食事を摂るまでに回復したのであり,テント切痕ヘルニアが生じていたとは考えられないのであるから,本件VPシャント術を施行したことと28日の急変との間には因果関係がない。 㨯争点㨯(小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無)について(原告らの主張)ア過失①本件DSA検査終了後,Aはぐったりし,しばらくしたら盛んに起きあがろうとし,上体が左右に振れだしたりした。また,血圧は収縮期血圧,拡張期血圧ともに上昇した。②Aに小脳出血が生じ本件CT検査によって大きな出血が存在することが確認された後,25日早朝に出血が完了し同日昼には止血が完成したことを示す客観的資料は存在しなかった。仮に,一時的に止血していたとしても,数時間前には多量の出血があり,その後ある程度の時間出血は持続していたと推定されるのであるから,出血を促すような薬剤を投与すれば,いずれ何時間か後に再度出血を招来する蓋然性があった。③ペルジピンに関しては前記1㨯オのような,ラクテックに関しては前記1㨯ウのような,ニトロールに関しては前記1㨯カのような,デカドロンに関しては前記1㨯キのような,プレタールに関しては前記1㨯クのような各指摘があり,いずれも出血時には禁忌とされ,小脳出血の-- 増幅拡大を促すような薬剤であった。 これらのことからすれば,Aに対し上記ペルジピン等を投与すれば小脳から再出血することは十分予測し得たのであるから,上記ペルジピン等の各禁忌薬剤の投与は回避すべきであった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,漫然とこれらを投与し続けたのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係Aには24日夜半ころから小脳出血及び頭蓋内圧亢進が継 の投与は回避すべきであった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,漫然とこれらを投与し続けたのであり,この点に過失が認められる。 イ因果関係Aには24日夜半ころから小脳出血及び頭蓋内圧亢進が継続して存在していたところ(なお,小脳テント上の脳圧は本件VPシャント術により物理的に下がったが,小脳テント下は頭蓋内圧亢進状態であった。),禁忌薬剤(ペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロン及びプレタール)を投与したことにより,ペルジピンやリプル等と相乗的に作用して,小脳出血が増幅し,更なる出血を招いた上,第四脳室の穿破や左肺出血等が生じ,本件死亡の結果が発生したのであり,上記各薬剤を投与しなければ,Aの死亡を回避できたはずである。 したがって,上記各薬剤の投与とAの死亡との間に相当因果関係が認められる。 (被告の主張)ア過失ペルジピンの投与に関しては,①Aの血圧を下げる必要があったところ,血圧を下げる薬剤として,頭蓋内出血を助長しないヘルベッサーもあったが,これには徐脈にする傾向や心不全を来す副作用があり,脈拍を下げることは良くないと考えられた,②25日に実施した本件CT検査の所見及びAの24日夜半の症状に照らすと,Aが小脳出血を来したのは同日夜半であり,25日早朝には出血は治まっていたと考えられ,同日昼には出血が治まってから6時間を経過しており,止血は完成していると判断された。 -- そこで,Aに対して同日午後4時10分以降にペルジピンを投与したのであり,この点に過失は存在しない。 ニトロールの投与に関しては,これを使用したのは,手術後でもあり心電図においてSTの低下やT波の陰性化が見られ,狭心症や心筋梗塞等の発作も起こり得ると考えたからであり,使用量も多くはないのであるから,これを投与した点に過失は認められない。 イ ,手術後でもあり心電図においてSTの低下やT波の陰性化が見られ,狭心症や心筋梗塞等の発作も起こり得ると考えたからであり,使用量も多くはないのであるから,これを投与した点に過失は認められない。 イ因果関係プレタールの投与に関しては,プレタールを投与したことと28日に再出血したこととの関連性は考えられない。そもそも,Aは,25日朝に服用するためのプレタールを処方されたが,同日午前3時ころ嘔吐し,潜血が認められたため,プレタールの服用は中止され,服用していない。 また,ペルジピン,ラクテック,ニトロール及びデカドロンを投与したことと28日に再出血したこととの関連性も考えられない。 㨯争点㨯(説明義務違反の有無)について(原告らの主張)ア本件DSA検査前の説明㨯過失①Aは本件DSA検査の実施前に出血を予測させる薬剤(リプル,パナルジン)を継続して服用し,かつ,その年齢や症状からして,DSA検査を実施すれば脳出血が生じる可能性は十分あった。②下肢閉塞性動脈硬化症の診断方法には,DSA検査の他にMRA検査やCT検査もあり,その方が安全性は高かった。 これらのことからすれば,本件DSA検査を実施する前に,A又はその家族に対し,DSA検査の危険性及びMRA検査,CT検査の説明をすべきであった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DSA検査を実施するに当たり,その目的,必要性,危険性を十分に説明せず,-- また,MRA検査等についての説明を全くしなかった。 㨯因果関係被告が,A及びその家族に対し,MRA検査やCT検査について説明しなかったため,A及びその家族の検査方法を選択する機会が失われた。 A及びその家族が上記説明を受けていれば,MRA検査やCT検査を依頼し,本件DSA検査を受けなかった結果,小脳出血が発生することも しなかったため,A及びその家族の検査方法を選択する機会が失われた。 A及びその家族が上記説明を受けていれば,MRA検査やCT検査を依頼し,本件DSA検査を受けなかった結果,小脳出血が発生することもなく,Aは死亡しなかった。 また,A及びその家族は,本件DSA検査の危険性(出血や,血栓又は塞栓形成による四肢の更なる血行不全)について十分な説明を受けなかったため,自己決定権が侵害された。 イ小脳出血判明後の薬剤投与の説明㨯過失①本件CT検査により小脳出血が判明した。そして,それが止血したとの客観的な証拠は見当たらなかった。仮に,一時的に止血していたとしても,数時間前には多量の小脳出血があったのであるから,出血を促すような薬剤を投与すれば,再度出血を招来する蓋然性があった。②出血時には使用することが禁忌とされている薬剤を2種類(リプル,パナルジン)も投与した。③リプル,パナルジン,ペルジピン,プレタール等の各薬剤は,いずれも出血時に禁忌とされる薬剤であった。 これらのことからすれば,小脳出血が判明した後にこれらの薬剤を投与するのであれば,それに当たって,A又はその家族に対し,その必要性及び危険性を十分説明すべきであったにもかかわらず,被告病院の医師はこれを全くしなかった。 㨯因果関係A及びその家族は,Aが小脳出血判明後に出血を促す可能性がある薬剤の投与を受けるに際し,その必要性,危険性について十分説明を受け-- なかったため,自己決定権が侵害された。 (被告の主張)ア本件DSA検査前の説明被告病院の医師は,本件DSA検査の実施に当たって,初診時から本件DSA検査前日までの入院中の回診時に,Aに対し,その目的,必要性及び一般的な合併症について十分な説明を繰り返し行っており,説明義務違反はない。 イ小脳出血判明後の薬剤投 当たって,初診時から本件DSA検査前日までの入院中の回診時に,Aに対し,その目的,必要性及び一般的な合併症について十分な説明を繰り返し行っており,説明義務違反はない。 イ小脳出血判明後の薬剤投与の説明原告らが説明義務の前提としている事実に誤りがあり,原告らの主張は失当である。 㨯争点㨯(損害額)について(原告らの主張)ア逸失利益Aは,税理士としての収入が1年間当たり300万円ほどあり,84歳まで働くことができたとすると,生活費として50パーセントを要したとしても,少なくとも500万円を得られたはずである。 イ慰謝料Aが受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,少なくとも2500万円を下らない。 ウまとめしたがって,Aが被った損害額は合計で3000万円であり,原告らは,これを法定相続分に応じ2分の1ずつ相続した。 よって,原告らは,被告に対し,主位的には債務不履行に基づき,予備的に不法行為に基づき,それぞれ1500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年6月1日以降支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 -- (被告の主張)上記(原告らの主張)はいずれも争う。 第3当裁判所の判断 被告病院におけるAの診療経過前記前提事実に加え,証拠(甲9,11,12,14,17~20,35~40,乙1,2,5~7,証人Y,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 㨯初診時の状況等Aは,15日,B病院の紹介で,被告病院の循環器科を受診し,被告病院の医師であるK医師の診察を受けた。Aには,既に,閉塞性動脈硬化症及び高血圧症との診断がされており,紹介状には,「右下腿末梢,右足が冷感あり。入院加療が必要である事を説明致しました。他の内服加療あるいはDSA再検も含 診察を受けた。Aには,既に,閉塞性動脈硬化症及び高血圧症との診断がされており,紹介状には,「右下腿末梢,右足が冷感あり。入院加療が必要である事を説明致しました。他の内服加療あるいはDSA再検も含め御高診,御加療の程宜しくお願い申し上げます。」との記載があった。 Aは,K医師に対し,前日(14日)夜の安静時に,右下肢に痛みがあったと訴え,K医師は,右大腿動脈以下の脈拍は触れなかったが,虚血症状の進行は認められなかったので,外来診療での経過観察とした。 㨯再診時の状況等Aは,17日,前日(16日)に少しの歩行で痛みがあったと訴えて,再び被告病院を受診した。そこで,K医師は,当日から入院加療を行うこととし,リプルの点滴投与を行った。また,その際,K医師は,Aに対し,必要であればDSA検査を行うことを説明した。 㨯本件DSA検査の実施アK医師は,Aに対してDSA検査を実施することに決め,A及びX1に対し,24日,局所麻酔にて,大腿部からカテーテルを挿入して血管造影を行うこと,造影剤を使用すること,合併症としてアレルギーや出血が起-- こり得ることを説明し,A及びX1は,DSA検査に対する同意書に署名,押印した。 イ同日午後4時40分ころから午後6時ころにかけて,Aに対して,本件DSA検査が実施された。本件DSA検査実施時及び実施直後において,Aの全身状態に特段の変化や異状は認められなかった。 ウ本件DSA検査の結果,Aには,閉塞性動脈硬化症,左大腿動脈閉塞及び右外腸骨動脈不完全閉塞との確定診断が付された。 㨯本件DSA検査実施後の状況アAは,同日午後8時ころ,しきりに起きあがろうとするなどやや興奮気味で,午後9時ころには強度の興奮状態となり,起きあがろうとして服を脱いだり,点滴を引っ張ったりしたため,ドルミカム(鎮痛剤 状況アAは,同日午後8時ころ,しきりに起きあがろうとするなどやや興奮気味で,午後9時ころには強度の興奮状態となり,起きあがろうとして服を脱いだり,点滴を引っ張ったりしたため,ドルミカム(鎮痛剤)が投与された。すると,Aは,夕食を全部嘔吐した後,眠りに入り,いびきをかいた。顔面から前胸にかけて冷や汗をかいていた。 イ午後10時ころ,付き添っていた家族から,「またえづいており,何かおかしい。」との報告を受けた看護師が,Z医師に回診を依頼した。Aは,目がトロンとしており,眼球が上方を向いていたが,呼び掛けには反応し,眼球の左右・上下運動,両下肢の屈曲に異常は見られなかった。 ウ翌25日午前1時ころ,Aの興奮状態は治まり,Aは,看護師に対して,「さっきはどうも迷惑をお掛けしました。」と述べた。 エ午前3時ころ,Aは,異色物が混じったものを嘔吐した。 オ午前6時ころ,Aに呂律困難が認められたが,呼び掛けには反応し,両手の握力及び両下肢の屈曲に異常はなかった。 カ午前9時ころ,Aは,呼び掛けには反応するが,やや傾眠状態であった。 K医師は,前日の夜に使用したドルミカムの影響であると考え,経過観察とした。 㨯小脳出血の発見-- Aは,同日の昼食時に食事動作が困難であったため,午後1時ころ,本件CT検査を受けたところ,水頭症に伴う脳室拡大及び小脳中央部に小脳出血に伴う血腫が認められた。 㨯本件VPシャント術の実施アK医師から引継ぎを受けた被告病院代表者のY医師は,X1及びX2夫婦に対し,本件CT検査の結果,小脳出血が見付かったこと,動脈瘤か血管奇形の可能性が高く,これを確認するためには脳の血管撮影が必要であるが,危険を伴うため,緊急の処置として脳室ドレナージをした方がよいと説明し,Aに対し,本件VPシャント術を施行した。 イ 瘤か血管奇形の可能性が高く,これを確認するためには脳の血管撮影が必要であるが,危険を伴うため,緊急の処置として脳室ドレナージをした方がよいと説明し,Aに対し,本件VPシャント術を施行した。 イ翌26日午前10時のAの状態は,意識状態がJCS(急性期の意識障害を評価する指標)のⅠ-1(意識清明とはいえないが,刺激しないでも覚醒している状態)で,命令運動には従うが,時々,測定中の体温計を布団の上に投げたり,創部のガーゼを外そうとするなどの行動に出ていた。 ウ同日午後3時ころ,Y医師がX1及びX2に対してAの病状説明をした際,X2から,このままの状態で置いておくよりも血管撮影をして手術をして欲しいとの希望があったが,Y医師は,血腫除去した場所は良くなるが,その後体に起こり得る侵襲の方が大きいとして,血管撮影はしない方がよいと説明した。 エ同日撮影した頭部CT検査の結果では,脳室拡大は消失し,血腫の変化も見られず,また,バルブ(VPシャント)の機能は良好であった。 オ26日から27日にかけてのAの状態は,意識状態はJCSⅠ-1ないし2(見当識障害があるが,刺激しないでも覚醒している状態),自力で座位をとり,飲水することができる状態であった。また,Aは,何度も起きあがろうとしたり,手足を動かして抑制帯を外そうとするなどの行動を取っていた。 㨯Aの死亡-- Aは,28日午前5時55分ころ,巡回した看護師に対し,「おはよう」と挨拶するなど特に異状は見られなかったが,午前6時5分ころ,突然,徐脈発作と意識レベルの低下を来し,救命処置を受けるも改善せず,午前7時54分,被告病院において死亡した。 なお,急変時に撮影した頭部CT検査によると,明らかな出血の増大は見られず,脳室は拡大傾向であるが一応脳溝は見えており,また,バルブの状態も も改善せず,午前7時54分,被告病院において死亡した。 なお,急変時に撮影した頭部CT検査によると,明らかな出血の増大は見られず,脳室は拡大傾向であるが一応脳溝は見えており,また,バルブの状態も良好であった。 本件に関する医学的知見証拠(甲48,63~65,67,69,73,77,86,92,93,乙3~5)によると,以下の医学的知見がそれぞれ認められる。 㨯閉塞性動脈硬化症閉塞性動脈硬化症は,腹部大動脈又は四肢の主要動脈が粥状硬化病変のために狭窄又は閉塞して,四肢に慢性の循環障害を来す疾患である(乙3)。 臨床症状としては,間欠性跛行が特徴的である。一定の距離を歩くと下腿の筋に疲労感・疼痛が生じる。休息により数分で軽減するので,再び歩行が可能となる。また,安静時の疼痛は,虚血の進行に伴って生じる。筋肉・皮膚・神経の虚血症状で虚血性神経炎になると,夜間臥床時の疼痛を訴える(乙3)。 一般に,閉塞性動脈硬化症の治療は,症候の重症度判定と合併疾患の評価を行った後に,侵襲の軽い順番に検討される。すなわち,薬物療法(運動療法を含む。),血管内治療,腰部交感神経節切除術,手術的血行再建術の順番である。手術による患者のQOL改善効果は劇的であるが,侵襲性の観点からの考慮も必要となる。したがって,重症の間欠性跛行(少しの歩行で痛みが生じ,日常生活にも難渋)などの場合を除いて,手術的治療(侵襲的治療)の対象とするか否かは,患者の日常の活動性への要求度と初期跛行距離との乖離の大きさに依存するとするのが,多くの我が国の血管外科医の見解-- であるとされている(甲69)。 㨯血管造影検査血管造影検査は,撮影装置,造影器具,造影剤などの改良・普及により,以前より比較的容易に施行されるようになったが,超音波,CT,MRIなどに比べ依然として とされている(甲69)。 㨯血管造影検査血管造影検査は,撮影装置,造影器具,造影剤などの改良・普及により,以前より比較的容易に施行されるようになったが,超音波,CT,MRIなどに比べ依然として最も侵襲性の高い検査である。しかし,血管造影は,動脈疾患の画像診断に不可欠な検査法である(甲48,67,乙4)。 血管造影検査は,ルチーンの診断法として使用すべきではないが,血行再建術の前には施行すべきである。手術計画を確立するための解剖学的所見の決定に有用であり,経皮経管血管形成術や血栓溶解術のような非手術的操作を考慮する場合にも適応がある(甲70)。 血管造影の合併症は,造影剤による合併症と手技に由来する合併症とがある。前者は,造影剤注入局所における熱感や痛み,アレルギー性皮膚症状,嘔気,嘔吐などで,これらはその高い発生頻度にもかかわらず反応は一過性である。循環器系に現れる反応としては,脳,心臓,肺,大血管などのを刺激することによる徐脈,心拍出量低下,血圧低下などもpressurereceptor重篤な合併症につながることもある。後者のうち特に問題となるものとしては,穿刺部の出血や血腫形成等が発生頻度の高い合併症として挙げられている(甲92)。 㨯小脳出血ア非外傷性脳出血は主として高血圧が原因とされ,持続性高血圧→細動脈の血管壊死→破綻・出血という機序で起こる。高血圧性脳出血の好発部位の一つとして小脳が挙げられている(甲65)。 イ小脳出血は,①短時間で死亡する劇症型,②後頭部痛,めまい,嘔吐などがあり,少し時間をおいて意識障害が出現する重症型,③ごく軽い小脳症状のみで,出血が小脳半球に限局している軽症型に分類される。頻度については,劇症型はまれで,重症型が最も頻度が高い(60~70%)と-- されている(甲63)。 ウ 重症型,③ごく軽い小脳症状のみで,出血が小脳半球に限局している軽症型に分類される。頻度については,劇症型はまれで,重症型が最も頻度が高い(60~70%)と-- されている(甲63)。 ウ小脳出血の最も多い初発症状は,頭痛(後頭部痛が最も多い。),嘔気と嘔吐,めまい又はめまい感,不安定歩行又は歩行不能,構音障害,そしてより少ないが傾眠である(甲93)。 エ意識が清明で麻痺などの神経症状が軽度な症例に対しては,血圧管理及び全身状態の管理を行う保存的治療が第一選択である。高齢者などの手術ハイリスクな症例に対しても,保存的治療が第一選択となる。 しかし,最大径が3以上の小脳出血で神経学的に症候が増悪しているcm場合又は小脳出血が脳幹を圧迫し水頭症を生じている場合には,手術が推奨されるとされている(甲86)。 㨯水頭症水頭症とは,頭蓋内に余分な髄液が溜まり,脳室が拡大した状態をいう。 水頭症の治療としては,急性期を乗り切る目的で,まずは脳室ドレナージ(頭蓋骨に1個穴をあけ,そこから脳室まで細い管を入れ,その管から髄液を外に流し出す方法)を施行し,それでもなお水頭症が持続する場合や,長期にわたり水頭症が持続することが初めから分かっている場合には,脳室-腹腔短絡術(VPシャント術)や脳室-心房短絡術(VAシャント術)が施行される(甲73)。 Aが死亡に至った機序等㨯問題の所在原告らは,Aの直接死因は,小脳出血ないし小脳出血後に発症した脳ヘルニア等の脳の異常であり,その小脳出血は,本件DSA検査によって生じたか,又はAが服用した薬剤によって誘発されたと主張するので,まず,この点について検討する。 㨯Aの直接死因前記認定の診療経過に加え,証拠(甲7,34,35,40,被告代表者-- 本人,鑑定の結果)によると,本件 によって誘発されたと主張するので,まず,この点について検討する。 㨯Aの直接死因前記認定の診療経過に加え,証拠(甲7,34,35,40,被告代表者-- 本人,鑑定の結果)によると,本件CT検査により小脳出血が確認された後の25日から27日にかけてのAの意識レベルはJCSⅠ-1~2であり,28日朝の病状急変までは意識状態は比較的良い状態に保たれていたのであって,小脳出血及びそれに続発した水頭症による頭蓋内圧は良好にコントロールされており,28日朝の時点においてはこれらが原因となって意識障害を突発する状態ではなかったと考えられること,28日の病状急変時に撮影した頭部CT画像によっては,明らかな出血の増大は見られず,再出血が起こったとは認められないこと,解剖所見等において,脳ヘルニア(テント切痕ヘルニア)は認められていないこと,他方,病状急変後の同日午前6時13分に測定された心電図には著明な徐脈と広汎な心筋梗塞を示す所見が見られたこと,Aの死亡時刻はそれから約1時間40分後の同日午前7時54分であったこと,担当医師は,剖検依頼書に「通常,脳で死亡の場合は徐々に意識が悪くなり,昏睡状態となり死亡されるのですが,急に死亡されました。 この様に直前まで意識がよく,急な再出血又は梗塞(心房細動あり)の様なことがあったのでしょうか。それとも循環器系の発作でしょうか。最後のEKGではSTの上昇がみられたのですが。」と記載し,心臓死を疑っていたこと,Y医師は,死亡診断書には直接死因として小脳出血と記載したが,一応の判断であり,十分には納得していなかったことがそれぞれ認められる。 また,証拠(鑑定の結果)によると,一般的に,心筋梗塞発症後余りにも早い死亡の場合には,心臓壊死などの肉眼的病理所見が完成されず,顕微鏡的な病理所見においても判断は容易 たことがそれぞれ認められる。 また,証拠(鑑定の結果)によると,一般的に,心筋梗塞発症後余りにも早い死亡の場合には,心臓壊死などの肉眼的病理所見が完成されず,顕微鏡的な病理所見においても判断は容易ではないことが認められる。 これらの事実を総合すると,Aの死亡直後の病理解剖において,直接死因は小脳出血及び第四脳室穿破と考えられていたとしても,Aは,小脳出血ないしその他の脳の異常が原因で急変死亡に至ったとは考えがたく,急性心筋梗塞を直接の死因として死亡した可能性が高いと考えるのが相当である。 㨯小脳出血の原因-- 前記認定の診療経過及び医学的知見に加え,証拠(甲7,36~38,鑑定の結果)によると,Aはもともと高血圧症で治療を受けていたが,被告病mm院入院後のAの血圧は,本件DSA検査実施前で拡張期血圧が度々100を超え,本件DSA検査実施後の24日午後11時から翌25日午前6時Hgにかけては,収縮期血圧が172~188,拡張期血圧が90~100mmHgであり高血圧状態が続いていたこと,非外傷性脳出血は主として高血圧mmHgが原因とされ,高血圧性脳出血の好発部位の一つとして小脳が挙げられていること,AのCT所見は,高血圧が基礎疾患となって発症する高血圧性脳出血の典型的な所見であること,Aのように全身に動脈硬化を示す閉塞性動脈硬化症と高血圧症を併せ持つ患者は,ストレスや緊張などで容易に血圧が上昇しやすいこと,Aは,動脈硬化を増強させる危険因子である喫煙を1日当たり10本程度続けていたこと,Aの剖検所見において,小脳出血の原因となり得る脳動脈瘤や脳動脈奇形等の脳血管病変の指摘がないことがそれぞれ認められる。 また,前記認定の医学的知見によれば,血管造影の副作用(合併症)として脳出血は挙げられていないし,証拠(被告代表者)に り得る脳動脈瘤や脳動脈奇形等の脳血管病変の指摘がないことがそれぞれ認められる。 また,前記認定の医学的知見によれば,血管造影の副作用(合併症)として脳出血は挙げられていないし,証拠(被告代表者)によると,全身の血液量は約13リットルであるところ,血管造影の際に造影剤を20~25注cc入したことによって,血管全体の圧力が高くなるとは考えられないことに照らすと,本件DSA検査の実施が,直接,Aの小脳出血を引き起こしたと認めることはできない。 これらの事実を総合すると,Aの小脳出血は,本件DSA検査や同検査実施後の体位固定によるストレスや緊張が付加され,血圧が上昇して小脳出血を来す遠因の一つとなったことは否定できない(鑑定の結果)としても,臨床的には,Aの高血圧症から合併した高血圧性脳出血であったというべきである。 㨯使用薬剤の影響-- 原告らは,被告病院において使用された各薬剤が,①単独で又はAの高血圧症と相まって小脳出血を誘発した,②他の薬剤と相まって小脳出血を増幅させ,更なる出血を招き,Aを死亡に至らせたと主張する。 確かに,前記前提事実のとおり,個々の薬剤情報における注意事項,副作用等として,Aの予後を悪化させ得る可能性のある記載が存在するが,上記①の点については,本件全証拠によっても,ラクテック及びパナルジンの投与が小脳出血を誘発したとの事実を認めることはできないし,上記②の点についても,前記認定のとおり,本件VPシャント術の実施後のAの意識状態は保たれていたこと,28日の急変時においても明らかな血腫の増大は認められなかったことに照らすと,Aにおいて,小脳出血の増大や更なる出血はなかったというべきであり,これに加え,前判示のとおり,Aの直接死因は急性心筋梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,被告病院において たことに照らすと,Aにおいて,小脳出血の増大や更なる出血はなかったというべきであり,これに加え,前判示のとおり,Aの直接死因は急性心筋梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,被告病院において投与されたペルジピン等の薬剤がAの予後を悪化させ,ひいてはAの死亡に影響を与えたと認めることはできない。 したがって,この点についての原告らの主張は,いずれも採用することができない。 㨯小括以上のとおり,Aの直接死因は急性心筋梗塞である可能性が高く,また,小脳出血が生じた原因はAの高血圧症によるものである。そうすると,原告らが問題とする被告病院医師による作為及び不作為は,いずれもAの死亡に直接結び付くものはないことになる。 争点㨯(本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無)について前記認定の診療経過及び医学的知見に加え,証拠(甲9,10,92,94,乙6,証人K,鑑定の結果)によると,Aが前回DSA検査を受けたのは平成8年12月12日であり,被告病院入院時には既に2年半が経過していたこと,Aは,以前は薬物療法によって300~400mの歩行は可能であったが,平-- 成11年6月13日の朝には100mの歩行にて跛行が生じる程度,翌14日には3歩くらい歩くと休みたくなる程度にまで間欠性跛行の症状が進行していたこと,B病院のM医師は,K医師に対して,Aを紹介するに当たり,DSA検査の実施も考慮するよう依頼していること,DSA検査には,患部動脈内に造影剤を直接注入して血管病変を明瞭かつ精確に描出できるという利点があること,DSA検査を実施する際の身体に対する侵襲は,鼠径靱帯の約2下のcm部位を2~3切開するにとどまることがそれぞれ認められる。 mmそうすると,被告病院入院時においては,Aの下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療につ る際の身体に対する侵襲は,鼠径靱帯の約2下のcm部位を2~3切開するにとどまることがそれぞれ認められる。 mmそうすると,被告病院入院時においては,Aの下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療につき,薬物療法以外の治療も含めて検討すべき時期にあったということができるところ,その検討のためには血管病変の進行の程度を精査する必要があったといえる(鑑定の結果)。そして,K医師は,そのための検査として,多少の手術侵襲はあるものの,鮮明度において他の検査より優れているDSA検査を選択したのであって,その選択は医師の裁量の範囲内であるということができ,ルチーンとして実施すべきではないとする前記医学的知見も,このような必要性がある場合にまで検査を否定する趣旨とは認められない。 したがって,原告らが縷々主張する点を考慮したとしても,Aに対して本件DSA検査を実施した点につき,K医師に注意義務違反があったということはできず,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 争点㨯(本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与していたことに関する責任の有無)について㨯ラクテックの投与原告らは,ラクテックを大量・急速投与した場合の副作用として脳浮腫が指摘されていることなどを根拠に,Aに対してラクテックを投与した点に注意義務違反があると主張する。 確かに,前記前提事実及び証拠(甲50)によると,ラクテックの投与量は,1回当たり500~1000,1時間当たり300~500の点滴mlml-- 静注とされているのに対し,Aには1日で2000を投与したことが認めmlられるが,本件全証拠によっても,それが急速かつ大量投与であるとまでは認めることはできないし,仮に,この投与を問題とする余地があるとしても,前判示のとおり,ラクテ を投与したことが認めmlられるが,本件全証拠によっても,それが急速かつ大量投与であるとまでは認めることはできないし,仮に,この投与を問題とする余地があるとしても,前判示のとおり,ラクテックの投与によって,小脳出血が誘発されたと認めることはできない。 したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 㨯パナルジンの投与原告らは,パナルジンについて,手術の場合出血を増強するおそれがあること,重大な副作用として脳出血が指摘されていることなどを理由に,Aにパナルジンを服用させた点に注意義務違反があると主張する。 しかしながら,証拠(甲49)によると,パナルジン投与の注意事項として記載された手術の場合に増強のおそれがある出血とは,術中の手術手技によって直接的に生じる出血であると解されるし,また,前判示のとおり,パナルジンの服用によって,小脳出血が誘発されたと認めることはできない。 したがって,Aに対してパナルジンの服用を継続させた点につき,K医師に注意義務違反は認められないから,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 争点㨯(本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無)について㨯過失前記認定の診療経過及び医学的知見によると,Aは,25日午後9時ころに嘔吐し,午後10時ころにもえづくなどの異状が見られ,その後,いったん症状は落ち着いたものの,翌26日午前3時ころに再び嘔吐し,6時ころには呂律困難が認められ,午前9時ころには傾眠状態であったのであるが,これらのAの症状は,いずれも小脳出血の初発症状(頭蓋内圧亢進を示す症状)であるといえる。 -- そうすると,被告が主張するように,Aの上記各症状がドルミカムの副作用と鑑別しにくいものであったとしても,Aの病態を的確に把握するために 症状(頭蓋内圧亢進を示す症状)であるといえる。 -- そうすると,被告が主張するように,Aの上記各症状がドルミカムの副作用と鑑別しにくいものであったとしても,Aの病態を的確に把握するためには,同日朝か遅くとも午前中のうちには頭部CT検査を実施すべき注意義務があったというべきである(鑑定の結果)。 したがって,K医師が,同日午後1時まで頭部CT検査を実施しなかった点につき注意義務違反が認められる。 㨯因果関係しかしながら,前記認定の診療経過によると,25日深夜から翌26日午前中にかけて,Aは,終始,呼び掛けには反応し,意識状態もJCSⅠ-1~2と比較的良い状態が保たれており,26日午前1時ころには,看護師に対して「さっきはどうも迷惑をお掛けしました。」と述べ,いったんは状態が回復している。これに加え,前判示のとおり,本件CT検査後に行われた本件VPシャント術によりAの頭蓋内圧は安定していたこと,Aの直接死因は小脳出血ではなく,心筋梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,本件CT検査の実施が遅れたことによる影響は,Aの予後を左右するものではなかったというべきである。 そうすると,仮に,本件CT検査を26日の朝か午前中に行っていたとしても,Aの死亡を回避し又は死期を遅らせることができたと認めることはできないから,上記㨯の注意義務違反とAの死亡との間には相当因果関係はないといわざるを得ない。 したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 争点㨯(小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責任の有無)について前記認定の医学的知見及び証拠(鑑定の結果)によると,小脳出血は血腫が大きく(3以上が目安),神経症状が進行性に増悪している場合や,脳幹をcm圧迫して水頭症を合併している場合に手術が )について前記認定の医学的知見及び証拠(鑑定の結果)によると,小脳出血は血腫が大きく(3以上が目安),神経症状が進行性に増悪している場合や,脳幹をcm圧迫して水頭症を合併している場合に手術が行われ,神経症状が軽度な場合に-- は手術を行わずに保存的治療による経過観察が第一選択とされていること,水頭症を合併している場合には,脳室ドレナージなどの水頭症に対する治療を行うとされていることがそれぞれ認められる。 そして,前記前提事実及び前記認定の診療経過に加え,証拠(鑑定の結果)によると,Aの小脳出血の血腫は4大ではあったものの,25日の早朝からcm午後にかけてのAの意識障害の程度はJCSⅠ-1であって,神経症状は軽度のまま維持されており,頭痛の訴えもなかったこと,Aは当時81歳であり,その脳は若年者に比べて萎縮していたため,小脳出血が起こった後も頭蓋内圧の上昇の程度が比較的軽度であったと考えられることからすると,26日の時点において,Aの生命に危険が及ぶほどの血腫による圧迫は認められず,手術による血腫除去の必要性は低かったといえる。むしろ,血腫除去手術は,胸腹部が圧迫されがちな腹臥位の姿勢で,手術時間及び麻酔時間が長時間にわたる開頭手術によって行われる(鑑定の結果)ため,81歳のAには負担が重く,その選択は慎重に行うべきであり,この点からも保存的治療が第一選択であったというべきである。 なお,前記認定のとおり,Aの水頭症に対する治療として本件VPシャント術が行われているが,Aは,本件DSA検査後及び本件VPシャント術後において,安静を保てず起きあがろうとしたり,点滴や抑制帯を外そうとするなどの行動に出ており,そのAに対して脳室ドレナージを行うと,上記同様の行動によってドレーンが外れ,感染や出血などの合併症を引き起こす危険性 静を保てず起きあがろうとしたり,点滴や抑制帯を外そうとするなどの行動に出ており,そのAに対して脳室ドレナージを行うと,上記同様の行動によってドレーンが外れ,感染や出血などの合併症を引き起こす危険性が高いと考えられるから,体内埋め込み型のVPシャント術が行われたことは妥当であるといえる(鑑定の結果)。 したがって,Aに対して本件VPシャント術を実施した点につき,Y医師に注意義務違反は認められないから,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 争点㨯(小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロ-- ン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無)について㨯ペルジピン,ラクテック,ニトロール及びデカドロンの投与原告らは,出血時には投与が禁忌とされていることなどを根拠に,Aに対してペルジピン等の上記各薬剤を投与した点に注意義務違反があったと主張する。 しかしながら,本件全証拠によっても,これら各薬剤の投与が適応を外れた誤使用であったと認めることはできないし,仮に,これら各薬剤の投与を問題とする余地があるとしても,前判示のとおり,Aは再度の脳出血を起こしていないし,これら各薬剤の投与が,Aの死亡に対して影響を及ぼしたと認めることはできない。 したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 㨯プレタールの投与前記前提事実及び証拠(甲40)によると,25日以降は,パナルジンからプレタールに変更する旨の指示が出ていたが,Aは,同日午前10時にはプレタールを服用しなかったことが認められ,また,本件全証拠によっても,それ以降,Aがプレタールを服用した事実を認めることはできない。 したがって,Aはプレタールを服用していない以上,この点についての原告らの主張は,採用することができない。 ,本件全証拠によっても,それ以降,Aがプレタールを服用した事実を認めることはできない。 したがって,Aはプレタールを服用していない以上,この点についての原告らの主張は,採用することができない。 争点㨯(説明義務違反の有無)について㨯本件DSA検査前の説明ア原告らは,本件DSA検査前に,DSA検査の危険性等についての説明を受けなかったと主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,K医師は,A及びX1に対し,DSA検査の方法及び合併症等についての一般的な説明をし,A及びX1は,本件DSA検査の実施に同意したのであるから,この点につき,K医師に説明義務違反があったということはできない。 -- また,前記認定のとおり,一般的には,DSA検査によって脳出血が起こることは考えがたい上,本件においても,臨床的に,本件DSA検査の実施がAの小脳出血ないし死亡に対して影響を及ぼしたとは認められないのであるから,DSA検査に際して,脳出血の発生や死亡についての危険性まで説明すべき義務は存在しないというべきである。 イさらに,原告らは,K医師が,MRA検査やCT検査についての説明をしなかった点も問題とする。 しかしながら,そもそも患者に対する医師の説明は,患者が当該療法を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるものである。本件のように考え得る検査方法が複数存在する場合,医師の合理的な裁量に基づいて選択された検査が行われることが診療契約の内容となり,かつ,患者もそれを望んでいるのが通常であるところ,身体への侵襲がない検査方法が他に存在するからといって,その検査方法を積極的に選択すべき事情がないにもかかわらずその検査方法について説明したとしても,患者の決断に影響を及ぼすことはないばかりか,かえって患者を混乱させる危険性 他に存在するからといって,その検査方法を積極的に選択すべき事情がないにもかかわらずその検査方法について説明したとしても,患者の決断に影響を及ぼすことはないばかりか,かえって患者を混乱させる危険性もあり得るのであるから,患者から特に説明を求められていないのであれば,それらの検査方法について説明すべき義務があると解することはできない。 本件においては,K医師が,A及びその親族に対して,MRA検査やCT検査についての説明をしなかったことにつき被告は特に争わないが,Aにおいて,DSA検査ではなく,MRA検査やCT検査を積極的に行うべき事情や,A及びその親族から,これらの検査方法についての説明を求めた事実を認めるに足りる証拠はないから,MRA検査やCT検査について説明しなかった点につき,K医師に説明義務違反があると認めることはできない。 ウしたがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 -- 㨯小脳出血判明後の薬剤投与の説明原告らは,Aに小脳出血が見付かったのであるから,リプル,パナルジンなど出血時に禁忌とされる薬剤を用いるのであれば,その必要性及び危険性について説明すべきであったなどと主張する。 そこで検討するに,証拠(甲8,37,乙7,被告代表者,鑑定の結果)によると,Aの小脳出血は25日未明に発症した可能性があること,Aに対するぺルジピンの投与は,高血圧に対する処置として,同日午後4時10分以降に行われたが,この時点では,小脳出血の発症から半日以上が経過しており,小脳からの出血は止まっていた可能性が高いことがそれぞれ認められる。そうすると,Aに対するペルジピンの投与は禁忌とされている投与には当たらないし,また,ペルジピンの副作用として再度の出血を来す危険性があることを認めるに足りる証拠はないから,原告らの れ認められる。そうすると,Aに対するペルジピンの投与は禁忌とされている投与には当たらないし,また,ペルジピンの副作用として再度の出血を来す危険性があることを認めるに足りる証拠はないから,原告らの主張は,その前提を欠くといえる。 なお,本件全証拠によっても,Aに小脳出血が生じた可能性のある25日未明以降,Aに対して,リプル,パナルジン,プレタールが投与された事実を認めることはできないから,やはり,原告らの主張は,その前提を欠くといわざるを得ない。 したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 第4 結論 よって,その余の点を判断するまでもなく,本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部裁判長裁判官坂倉充信裁判官齋藤憲次-- 裁判官福田敦
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