本件は、渋谷区長がオマーンに対して行った建築認定及び建築確認に関する行政事件で、被抗告人がその取消しを求めた事案である。主要な争点は、オマーンが建築中の建物に関する権利関係において、日本の裁判権が及ぶかどうか、及び本件建築確認の効力停止の必要性であった。裁判所は、オマーンの建物建築行為が主権的行為ではなく、私人の行為と同等であると認定し、裁判権が及ぶと判断した。また、本件建築確認は処分に該当し、オマーンの同意があったと認めた。結論として、被抗告人の建築確認効力停止の申立ては理由があると認められ、これを認容したが、その他の部分は却下された。
主文 原決定中,主文第1項を取り消す。 上記取消しに係る部分の被抗告人の申立てを却下する。 申立費用及び抗告費用は,被抗告人の負担とする。 事実及び理由 第1抗告の趣旨及び理由抗告の趣旨及び理由は,別紙「抗告状」及び「抗告理由書」記載のとおりである。これに対する被抗告人の反論は,別紙「抗告理由書に対する意見書」記載のとおりである。 第2事案の概要(抗告審の対象となった部分) 本件は,処分行政庁渋谷区長(以下「渋谷区長」という。)がオマーン国(以下「オマーン」という。)に対して平成18年5月15日付けでした東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号。以下「本件条例」という。)4条3項の規定に基づく認定(以下「本件認定」という。)及び処分行政庁渋谷区建築主事(以下「渋谷区建築主事」という。)がオマーンに対して同年7月27日付けでした建築基準法6条1項の規定に基づく確認(以下「本件建築確認」という。)に係る別紙建設予定建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の敷地である別紙物件目録記載1の土地(以下「本件敷地」という。)の隣接地に存する同目録記載2(1)の建物の区分所有者であるa及び同目録記載2(2)の建物(以下「件外建物2」という。)の区分所有者である被抗告人が,本件認定及び本件建築確認の各取消請求事件(東京地方裁判所平成18年(行ウ)第653号建築認定処分取消等請求事件(以下「本案事件」という。))を提起した上,本件認定及び本件建築確認により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法(以下「法」という。)25条2項本文の規定に基づき,本件認定及び本件建築確認の各効力の停止を申し立てた(以下「本件申立て」という。)事案である。 原決定は,次のとおり判断して,被抗告人の本 (以下「法」という。)25条2項本文の規定に基づき,本件認定及び本件建築確認の各効力の停止を申し立てた(以下「本件申立て」という。)事案である。 原決定は,次のとおり判断して,被抗告人の本件申立てのうち,本件建築確認の効力の停止を求める部分は理由があるとしてこれを認容したが,その余は理由がないとして却下した。 (1)本件申立てについて我が国の裁判権が及ぶか本件建物は,完成後は,オマーンの大使館兼大使公邸兼大使館員住居として使用される目的で建築中の建物であるといえるものの,オマーンは,現在,別地に大使館を有しているのであり,その代替建物に当たる本件建物を建築する行為が直ちに外交活動の一環であると認めるべき諸事情はないから,本件建物の建築は,外国国家のみが行い得る主権的行為ではなく,私人が行うのと同じ行為であると認めるのが相当であり,また,本案事件は,オマーンが建築中の本件建物を直接目的とする権利関係に関する訴訟であるから,法廷地国内に所在する不動産に関する訴訟に当たるということができる。したがって,オマーンは,本件認定及び本件建築確認が違法であるか否かが争われている本案事件において,我が国の民事裁判権及び行政裁判権から免除されるべきであるということはできない。 (2)本件建築確認の処分性本件建築確認は,建築しようとする建築物の計画が建築基準関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって,それを受けなければ工事をすることができないという法的効果が付与されているから,処分に当たる。 ところで,処分の相手方が外国国家の場合には,当該外国国家の同意がある場合に限り,行政庁は,有効な処分をすることができるところ,いわゆる利益処分について,当該処分の相手方になる外国国家と当該処分がされることによって法律上不利益を受ける者又は 当該外国国家の同意がある場合に限り,行政庁は,有効な処分をすることができるところ,いわゆる利益処分について,当該処分の相手方になる外国国家と当該処分がされることによって法律上不利益を受ける者又はそのおそれのある者との間に当該処分をめぐって紛争が存在する状況下において,当該外国国家が行政庁に対して当該処分をすることを求める旨の申請を書面によって行った場合には,特段の事情がない限り,当該処分に服する旨の当該外国国家の同意があるもの というべきである。 本件では,本件認定がされる前から,本件認定の相手方であるオマーンと本件認定がされることによって法律上不利益を受ける者又はそのおそれのある者であるαの住民との間に本件認定をめぐる紛争が存在していた状況下において,オマーンが渋谷区長に対し本件認定の申請書を提出したのであるから,本件認定に服する旨のオマーンの同意があったものというべきであり,また,本件建築確認についても,それがされる前から,オマーンとαの住民の間に本件建物に係る建築確認の適法性をめぐる紛争が存在していたが,当該紛争の実質は本件認定の可否をめぐる紛争であるから,そのような状況下において,オマーンが本件認定の申請書を提出し,本件建物の建築計画概要書を渋谷区建築主事に提出したということは,本件建築確認にも服する旨のオマーンの同意があったものというべきである。 (3)本件建築確認の効力の停止を求める部分が「重大な損害を避けるため緊急の必要性があるとき」に該当するかア被抗告人が本件建物の建築によって圧迫感及びプライバシー侵害のおそれによる不安感ないし不快感を抱くこと,また,件外建物2の経済的価値の下落を被ることがあり得るものと考えられるが,これらの発生をもって,直ちに,法25条2項本文にいう「重大な損害」に当たるということはでき 不安感ないし不快感を抱くこと,また,件外建物2の経済的価値の下落を被ることがあり得るものと考えられるが,これらの発生をもって,直ちに,法25条2項本文にいう「重大な損害」に当たるということはできない。 イ被抗告人が所有する件外建物2については,東向きの部屋しかなく,本件建物によって冬至日の日照時間が午前中の約4.5時間から約1.5時間だけに減少することから,本件建物による日影の発生は,同項本文にいう「重大な損害」に当たるというべきである。 ウ本件建物が完成すれば,本案事件のうち,本件建築確認の取消しを求める部分の訴えの利益は失われると考えられるところ,本件建物の建築は,平成18年10月に開始され,平成20年2月には竣工の予定であるから, 緊急の必要性があることも認められる。 エ提出された疎明資料を前提とする限り,本件認定の適否は判然とせず,その適法性を前提とする本件建築確認が本案事件の審理において違法と判断される可能性もあるものと考えられるので,その審理が尽くされていない現段階において,被抗告人が本件建築確認の効力の停止を求める部分が「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとまでいうことはできないし,本件建築確認の効力の停止が建築基準法による建築の規制に関する法体系を著しく乱すことにはならないから,「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」にも該当しない。 (4) 結論 以上によれば,被抗告人の本件申立ては本件建築確認の効力の停止を求める限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないから却下する。 これに対し,抗告人が上記決定を不服として抗告した。 第3当裁判所の判断 原決定は,疎甲第11号証[⑦](平面日影図)及び同第14号証(被抗告人の陳述書)に基づき,被抗告人が所有する件外建物2に対する 対し,抗告人が上記決定を不服として抗告した。 第3当裁判所の判断 原決定は,疎甲第11号証[⑦](平面日影図)及び同第14号証(被抗告人の陳述書)に基づき,被抗告人が所有する件外建物2に対する本件建物による日影の発生状況について検討し,上記第2の2(3)のとおり,件外建物2については,東向きの部屋しかなく,本件建物によって冬至日の日照時間が午前中の約4.5時間から約1.5時間だけに減少することから,本件建物による日影の発生は法第25条2項本文にいう「重大な損害」に当たるというべきであると判断した。 しかしながら,当審において抗告人が提出した疎乙第6号証及び同第7号証(これらの中の立面日影図は,いずれも冬至日における午前8時から午後4時までの件外建物2の日照状況を測定(予測)したものである。)に疎甲第14号証を総合すると,次の事実が一応認められる。 (1)本件敷地と隣接地の状況(疎甲第14号証)本件敷地には,従来,自治大学寮の建物(地上7階建て)が存在したが,平成17年秋ころに解体され,以後は,空地となっている。件外建物2を含むαの敷地(隣接地)と本件敷地との間には高低差があり,隣接地の方が本件敷地よりも7,8メートル高い位置にある。 (2)本件建物の完成後の件外建物2の日照時間(疎乙第6号証)件外建物2には,東向きの部屋しかないが,東向きに合計四つの窓(同号証中の「B棟立面日影図」記載の①ないし④)があり,本件建物(地上7階建て)が完成した後の冬至日における各窓の日照時間は,次のとおりと想定される。 ア窓①(一番大きな窓)の日照時間は,午前9時から午後12時30分までであるが,午後12時30分以降の日影はαC棟による自己日影であり,本件建物による日影は午前9時までの日影である。 イ窓②には,全く日が当たらないが, の日照時間は,午前9時から午後12時30分までであるが,午後12時30分以降の日影はαC棟による自己日影であり,本件建物による日影は午前9時までの日影である。 イ窓②には,全く日が当たらないが,午前8時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,本件建物による日影は午前8時30分までの日影である。 ウ窓③の日照時間は,午前9時30分から午前10時30分までであるが,午前10時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,本件建物による日影は午前9時30分までの日影である。 エ窓④(二番目に大きな窓)の日照時間は,午前9時30分から午前11時30分までであるが,午前11時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,本件建物による日影は午前9時30分までの日影である。 (3)自治大学寮が存在した当時の件外建物2の日照時間(疎乙第7号証)自治大学寮の建物が存在した当時の冬至日における件外建物2の各窓の日照時間は,次のとおりであったと想定される。 ア窓①(一番大きな窓)の日照時間は,午前8時から午後12時30分で あるが,午後12時30分以降の日影はαC棟による自己日影である。 イ窓②には,全く日が当たらないが,午前8時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,午前8時30分までの日影は自治大学寮による日影である。 ウ窓③の日照時間は,午前9時から午前10時30分までであるが,午前10時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,午前9時までの日影は自治大学寮による日影である。 エ窓④(二番目に大きな窓)の日照時間は,午前9時30分から午前11時30分までであるが,午前11時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,午前9時30分までの日影は自治大学寮による日影である。 上記(1)によれば,本件敷地とαの敷地(隣接地 0分から午前11時30分までであるが,午前11時30分以降の日影はαB棟による自己日影であり,午前9時30分までの日影は自治大学寮による日影である。 上記(1)によれば,本件敷地とαの敷地(隣接地)の間には高低差があり,前者は後者よりも7,8メートル低い位置にあることが認められるところ,疎甲第11号証[⑦]は,その「注記」によれば,「建設敷地地盤面の高さにおける」平面日影図であるから,建設敷地(すなわち,本件敷地)よりも7,8メートル高い位置にある件外建物2の日照時間に対して本件建物の建築がどのような影響を及ぶすかを判断するには,必ずしも適していないというべきである。 また,別紙建設予定建物目録添付の見取図によれば,件外建物2が所在するαB棟の南南東側には,αC棟が存在していること,B棟もC棟も,その平面輪郭線が鍵型の形状となっていることが認められるが,疎甲第11号証[⑦]によっては,疎乙第6号証と同第7号証で明らかとなったαB棟及びC棟による自己日影の影響を判断することができない。 そうすると,本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響については,疎甲第11号証[⑦]ではなく,疎乙第6号証と同第7号証に基づいて判断するのが相当であると考えられる。 被抗告人は,本件のように土地に高低差のある地形の下,かつ,建築のない状況の下において,日照に関する被害の程度を的確に把握することは極めて困 難で,最終的には中立の立場にある鑑定人による鑑定が必要であり,被抗告人の被害が重大でないとの立場を採ることに営業上の利益を有する本件設計業者が作成した日影図から直ちに日照の程度を断定することは適当でないと主張する。しかしながら,本件申立事件において,本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響についての判断に資する疎明資料は,陳述書(疎甲第1 影図から直ちに日照の程度を断定することは適当でないと主張する。しかしながら,本件申立事件において,本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響についての判断に資する疎明資料は,陳述書(疎甲第14号証)のほかには,上記の日影図(疎甲第11号証[⑦],疎乙第6号証及び同第7号証)しか提出されていないのであるから,これらがいずれも本件設計業者の作成に係るものであることのみをもって,上記判断の資料から除外しなければならないことにはならないものというべきである。そして,被抗告人が主張するように,本件においては土地に高低差があるのであるから,本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響については,上記とおり,疎甲第11号証[⑦]ではなく,疎乙第6号証及び同第7号証に基づいて判断するのが相当であると考えられる。 そこで,上記(2)と(3)の日照時間を比較することによって,本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響を検討してみると,窓①については1時間の短縮,窓③については30分の短縮という影響のあることが認められるが,窓②と窓④については影響がないことが認められる。そして,件外建物2にとって大切な日照は,四つの窓のうち,一番大きな窓である窓①と二番目に大きな窓である窓④における日照であると考えられるが,窓①については,本件建物の建築によって従前より日照時間が1時間減少するものの,依然として3時間30分の日照時間が確保されること,窓④については,本件建物の建築によっても従前と同様の日照時間(2時間)が確保されることが認められる。 なお,被抗告人は,自治大学寮の建物は古い時代の建物であって現行の建築法規には適合しないものであったから,同建物による日照時間への影響と本件建物の建築による日照時間への影響とを比較することは無意味であり,また, は,自治大学寮の建物は古い時代の建物であって現行の建築法規には適合しないものであったから,同建物による日照時間への影響と本件建物の建築による日照時間への影響とを比較することは無意味であり,また,自治大学寮の建物による件外建物2の日照時間への影響はほとんどなかったと 主張する。しかしながら,仮に,自治大学寮の建物が現行の建築法規によれば建築することができないものであったとしても,それによる件外建物2の日照時間に対する影響が存在した場合には,その状況を本件建物の建築による件外建物2の日照時間への影響の度合いを判断する上で参考にすることができるものというべきであるし,仮に,自治大学寮の建物による件外建物2の日照時間への影響がほとんどなかったとしても,上記(2)によれば,本件建物が完成した後においても,件外建物2の日照時間は,窓①(一番大きな窓)で午前9時から12時30分までの3時間30分,窓③で午前9時30分から午前10時30分までの1時間,窓④(二番目に大きな窓)で午前9時30分から午前11時30分までの2時間,それぞれ確保されるものと想定されるから,本件建物の建築による日影の発生は,原決定が認定するほどではないものと認められる。 これらの事実に照らすと,本件建物の建築によって件外建物2に生じる日影の発生をもって,直ちに,法25条2項本文にいう「重大な損害」に当たるということはできないというべきである。 以上によれば,被抗告人の本件申立てのうち,本件建築確認の効力の停止を求める部分も,法25条2項本文にいう「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当すると認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,これを却下するのが相当である。 よって,これと異なる原決定の主文第1項を取り消し,本件建築確認の効力 があるとき」に該当すると認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,これを却下するのが相当である。 よって,これと異なる原決定の主文第1項を取り消し,本件建築確認の効力を本案事件の第1審判決の言渡しまで停止するとの被抗告人の申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。 平成19年3月14日東京高等裁判所第16民事部裁判長裁判官宗宮英俊 裁判官坂井満裁判官原優
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