本件は、被告人が妻B及び長男Cを殺害した事件である。被告人は、家庭内の不和や離婚の話を受け、感情的に動揺し、BとCを殺害する決意を固めた。主要な争点は、被告人の責任能力であり、弁護人は飲酒による心神耗弱を主張したが、裁判所は被告人が完全な責任能力を有していたと判断した。被告人は、Bを刺殺後、Cも殺害し、自殺を図ったが未遂に終わった。判決は、被告人に懲役25年を言い渡し、未決勾留日数を刑に算入し、使用した刺身包丁を没収することとした。
主文 被告人を懲役25年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 ()。 押収してある刺身包丁1丁平成18年押第6号符号1を没収する理由【犯行に至る経緯】被告人と被害者B(昭和51年10月17日生。以下「B」という)は夫婦で。 あり,被害者C(平成14年6月7日生。以下「C」という)は,被告人とBの。 間の長男であった。 被告人は,前妻と婚姻中であった平成13年7月ころ,Bと知り合い,すぐに交際を始め,北海道滝川市内で同棲生活を送るようになった。その後,被告人は前妻と離婚して同年12月にBと入籍し,翌年6月にはCが誕生して,平成15年7月に被告人の就職のために釧路市に移り住んで以後,親子三人で肩書き住居地で生活をしていた。 被告人は,かねてからパチンコに熱中し,休日に家族を顧みることなくパチンコに出かけることが多かった。平成17年半ばころからは,自宅のパソコンを使ったオンラインゲームに没頭するようになり,自動車の運転免許を持たないBが買い物に連れて行ってほしいと頼んでもこれに応じず,休日に家族で出かけることもないなど,家庭を顧みない生活を送っていた。Bはこうした被告人の態度に不満を募らせていた。特に,被告人がCに対し,しつけとはいえ行きすぎた暴力を振るったことがあってからは,Bの気持ちはさらに被告人から離れ,平成18年4月5日,被告人が不在の間にCを連れて滝川市内の実家に帰省し,被告人との離婚を真剣に考えるようになった。被告人は,出発日も告げずに帰省したBの態度に変化を感じて不安を抱くようになり,同年5月10日,ようやくCを連れて帰宅したBに努めて話しかけるなどしたが,満足な会話もできない状況が数日間続いた。同月14日昼ころ,被告人が,Bのよそよそしい態度について言及したところ,Bから「A(被告人) 日,ようやくCを連れて帰宅したBに努めて話しかけるなどしたが,満足な会話もできない状況が数日間続いた。同月14日昼ころ,被告人が,Bのよそよそしい態度について言及したところ,Bから「A(被告人)のことはもう信用できないし,信用できない人と生活していくことはできない」などと離婚話を切り出された。被告人は,家庭を顧みなかったそれまでの態。 度を詫びるなどしたが,Bが翻意する様子は見られなかったことから,被告人は,,。 ,,,Bの離婚の意思が固いことを悟り衝撃を受けたまた話合いの中で被告人が勤務先の経営状態が良くないことなども伝えて「仕事がなくなったら俺は用済み,かい」などと問いかけたのに対し,Bがこれを肯定するように頷いたことや,C。 が自分の子供ではないのではないかというかねてからの疑念を改めてぶつけた際にも,Bが,被告人がCの父親かどうかあいまいな部分があるなどと述べたことなどから,被告人は更に衝撃を受けるとともに,Bに裏切られたという憤りの念を強くした。被告人は,Bとともに飲酒しながら話を続け,翌15日午前2時ころ,起き出してきたCを寝かしつけるためにBが寝室に赴き,Cとともに就寝した後は,居間で一人で飲酒し,Bとの関係や,Bがいなくなった場合の自分の人生について思いを巡らせていたが,Bから離婚を切り出され,仕事がなくなれば被告人は用済みであるかのような態度を取られたこと,Cが自分の子ではないかも知れないと言われたことなどを思い返すうち,Bに裏切られたという怒りや憤りと,Bと離れることへの絶望感の入り混じった感情を抱くようになり,被告人は,Bとは離れたくない,Bと別れるくらいならいっそCを含めた3人で死んだ方がいいなどと考え,B及びCの殺害を決意した。そして,台所から刺身包丁を持ち出し,寝室へ赴いて同所に就寝中のB なり,被告人は,Bとは離れたくない,Bと別れるくらいならいっそCを含めた3人で死んだ方がいいなどと考え,B及びCの殺害を決意した。そして,台所から刺身包丁を持ち出し,寝室へ赴いて同所に就寝中のBの横に座ったが,なおも殺害がためらわれたため,Bの寝顔を見つめていたところ,不意に,Bが「何するの」と言って起きあがったことから,驚。 くとともに,とっさに,やるなら今しかないなどと殺害実行の意思を固めた。 【罪となるべき事実】被告人は,第1平成18年5月15日午前2時30分ころから同日午前3時ころまでの間,釧路市内の被告人方において,妻B(当時29歳)に対し,殺意をもって,その頸部,前胸部,背部等を刺身包丁(刃体の長さ約20.2㎝。平成18年押第6号符号1)で多数回突き刺すなどし,左内頸静脈損傷,気管損傷,左右肺,,,,,・右肺門部損傷上大静脈肺動脈損傷等の傷害を負わせよってそのころ同所において,同女を上記傷害に基づく失血・出血からの呼吸・循環不全により死亡させて殺害し,第2上記日時ころ,同所において,長男C(当時3歳)に対し,殺意をもって,その頸部,前胸部,背部等を上記刺身包丁で多数回突き刺すなどし,気管刺切創,横隔膜損傷,背部刺切創等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,同児を上記傷害に基づく呼吸障害及び失血により死亡させて殺害したものである。 【証拠の標目】(省略)【法令の適用】(省略)【弁護人の主張に対する判断】 弁護人は,被告人が本件各犯行当時,飲酒酩酊により異常な精神状態にあり,心神耗弱の状態,すなわち,物事の是非を弁識し,これに従って行動する能力が減退した状態にあったと主張する。 しかしながら,当裁判所は,関係各証拠によれば,本件各犯行当時,被告人は完全責任能力を有していたと判断した ,すなわち,物事の是非を弁識し,これに従って行動する能力が減退した状態にあったと主張する。 しかしながら,当裁判所は,関係各証拠によれば,本件各犯行当時,被告人は完全責任能力を有していたと判断したので,以下その理由を説明する。 まず,被告人の犯行前の飲酒状況については,犯行当日午前零時ころから,焼酎の水割りを3杯弱飲んだにとどまる。本件各犯行当日午前8時半ころに行われた呼気検査でも,アルコールの身体保有量は呼気1ℓ当たり0.05㎎にすぎなかった。この数値には,被告人が犯行後に焼酎の原液を数口飲んだことの影響も含まれる。このことからすると,本件各犯行直前の客観的な飲酒量は,決して多くない。いかに被告人が酒に弱い体質であったとしても,この程度の飲酒が,責任能力にまで影響を来す可能性は,あるとしても極めて少ないものと考えるのが合理的である。 前記【犯行に至る経緯】のとおり,本件は,被告人が,Bから離婚を切り出さ,,,れたことで絶望感を募らせるとともにBの言動に憤り激高したこともあってBと離れるくらいならいっそCを道連れに3人で死んだ方がいいなどと犯行を決意したものと認められるが,その動機は,それ自体,実に了解可能である。いったん犯行を決意したものの,就寝中のBの傍らに座り,なお犯行を逡巡するなどした心理状態なども,ごく自然である。被告人は,被害者両名の就寝中を見計らい,抵抗の大きいと予想されるBを先に殺害し,その後Cを殺害すると,湯を張った浴槽に手を浸しながら自己の手首を包丁で突き刺して自殺を図った。被告人,。 ,の行動は一貫して上記の動機に即した合理的・合目的的なものであるその後被告人が汚れた着衣を着替え,自ら110番通報し,併せて勤務先にも欠勤の連絡をしたことや,通報の内容が客観的な事実と整合する正確なものであったことも併 動機に即した合理的・合目的的なものであるその後被告人が汚れた着衣を着替え,自ら110番通報し,併せて勤務先にも欠勤の連絡をしたことや,通報の内容が客観的な事実と整合する正確なものであったことも併せ考慮すると,被告人の意識は終始清明に保たれ,見当識も障害されていなかったことが合理的に認められる。 また,被告人には,これまでの生活歴において,精神疾患があったことや薬物を使用したことも一切認められない。 これに対し,弁護人は,被告人が飲酒に向かない体質で,通常人よりもアルコールによる影響が大きいと考えられることを前提とした上,①愛する家族を滅多刺しにするという犯行態様の異常性,②飲酒検知の際に観察された身体症状(歩行・直立不能で,酒臭が強い,③逮捕時の様子(意識がもうろうとし,うなっ)たり身体が震えるなどの症状を呈していた,④記憶の著しい欠落等を根拠に,)被告人が犯行時に複雑酩酊状態にあり,心神耗弱状態にあったと主張する。 しかしながら,①については,家族の殺害を決意するまでに思い詰めた者が,実際に殺害に及ぶ際には相当の興奮状態にあることも合理的に推察される。こうした心理状態に照らすと,本件犯行態様は,異常とまではいえない。②の飲酒検知時の身体状況及び③の逮捕時の様子についても,被告人が重大犯罪を行い終わって間もなかったことや,自殺を図ったが遂げられず,茫然自失の状態にあったことなどを踏まえると,やはり異常とまではいえない。④の被告人に健忘が認められる点についても,概括的な記憶は比較的保持されており,本件において,いわゆる単純酩酊時のそれとかけ離れた異常な記憶の欠落があるとまではいえない。 結局,既に認定した本件犯行の動機や,動機を形成するまでの心理状況及び被,,,告人の犯行当時の行動状況等を総合的に考慮すると被告人が本件各 け離れた異常な記憶の欠落があるとまではいえない。 結局,既に認定した本件犯行の動機や,動機を形成するまでの心理状況及び被,,,告人の犯行当時の行動状況等を総合的に考慮すると被告人が本件各犯行当時物事の是非を弁識し,それに従って行動する能力を有していたことは明らかである。弁護人の主張は採用し得ない。 【量刑の理由】 本件は,被告人が妻と幼い息子を殺害した事案である。 被告人は,妻から離婚を切り出され,自らは離婚を望まず,関係を修復すべく話合いを続けたものの,妻の意思が固く,離婚が避けられない状況となったことから,絶望感を募らせるとともに,話合いの過程で,妻から,仕事がなくなれば被告人が用済みであるかのような態度を示されたことや,息子が自分の子供ではないかもしれないと告げられたことで,妻に裏切られたという思いを強くし,怒りと絶望感が入り交じった感情から,妻が離れていってしまうくらいなら,いっそ子供を道連れに3人で死んだ方がいい,と決意したものである。 なお,検察官は,当初上記と同様の主張をしていたが,審理の過程でこれを変更し,最終的には,被告人が被害者両名を殺害した動機について,もっぱら,自分を裏切った妻と,自分の子ではないかもしれない息子に対する憎悪にあり,被告人が犯行後に自分の腕を包丁で切り付けたのも自殺を偽装したにすぎない,と主張する。 しかしながら,まず,被告人の自殺行為については,被告人の腕に残る傷は深いものではないにせよ複数に及んでおり,現に相当量の出血があったのである。 自殺をしようとしたが,自己の身体を傷付ける行為への恐怖心からその目的を遂げられないことは,あり得ることであって,傷が浅いことから,直ちに自殺が偽装であることにはならない。被告人が自己の刑事責任の軽減を図ろうとしていたことをうかがわせる事情は見あ 恐怖心からその目的を遂げられないことは,あり得ることであって,傷が浅いことから,直ちに自殺が偽装であることにはならない。被告人が自己の刑事責任の軽減を図ろうとしていたことをうかがわせる事情は見あたらない。そうすると,被告人が述べるとおり,被告人は,実際,本件各犯行後,自殺しようと思っていたと認めるのが相当である。 また,犯行の動機についても,被告人が,犯行前の妻の言動に怒りを覚え,激,,高した面があることは否定できないにせよ犯行前の被告人と妻とのやりとりや犯行に至るまでの経緯,また,被告人が犯行後に自殺を図ったことなど,証拠から認められる一切の事情に照らすと,被害者両名を包丁で滅多刺しにするという犯行態様の残虐性等,検察官の指摘する一切の事情を考慮しても,妻と離れるくらいなら子供を含む3人で一緒に死んでしまおうと考えたという被告人の供述を,不自然・不合理と断じることはできず,その信用性を覆すだけの証拠はないといわざるを得ない。 したがって,動機に関する検察官の最終的な上記主張は採用できない。 犯行の動機が,前記のとおり,妻との離婚という現実に絶望感を募らせた被告人が無理心中を図ったものであるとしても,妻が離婚を決意した背景には,被告人の側に相当の非があり,被告人自身が生活態度を改めるなど離婚を回避する現実的な手だてを講じてこなかったにもかかわらず,いざ妻から離婚を切り出されると,息子が自分の子ではないかもしれないという疑念を強くするとともに,自己の将来を悲観する余り視野狭さくに陥り,妻はもちろん,何ら罪もない息子も道連れに無理心中することを決意したというもので,妻や子の人格を無視した極めて身勝手で自己中心的な犯行というほかなく,酌量の余地は全くない。 犯行の態様は,就寝中で無抵抗の被害者両名を鋭利な包丁で刺殺するというもので, ことを決意したというもので,妻や子の人格を無視した極めて身勝手で自己中心的な犯行というほかなく,酌量の余地は全くない。 犯行の態様は,就寝中で無抵抗の被害者両名を鋭利な包丁で刺殺するというもので,異常を感じて起きあがった妻に対し,その身体を追いかけるようにして頸部や背部等を滅多刺しにした上,さらに,異変に気付いて目覚め,母に向かって這い寄ってきた幼い息子の小さな身体に,同様に包丁を多数回突き立てたというのであって,余りに残酷・非道でせい惨な犯行である。 ,,,殺害されたBは明るく前向きな性格で被告人との関係に思い悩みながらも家庭生活を維持しようと努力していた。Bは,再三働きかけたのに,被告人が態度を改めなかったことから,ついに離婚を決意したにすぎない。殺されなければならない理由など,何もない。母として我が子の成長を見守っていくはずであった矢先に,29歳の若さで生涯を閉じた同人の無念の情は,察するに余りある。 Cは,実の父親からの愛情を十分受けることができないまま,わずか3歳11か月で,こともあろうにその実の父親の手にかかって,理不尽にも短い一生を終えなければならなかった。母が殺害されるのを目の当たりにし,本来自分を庇護すべき父の手によって惨殺された。むごい,とはこのことである。 残された遺族の処罰感情が峻烈を極めていることも当然であり,Bの実母(Cの祖母)は,被告人に対する憤りと,被害者両名を失った切ない心情を当公判廷で明らかにしている。 このようなせい惨な殺人事件が地域住民らに与えた衝撃や不安感も大きく,犯行の与えた社会的影響も軽視できない。 これらの点からすると,被告人の刑事責任は相当に重い。 他方,被告人が自首したこと,被告人が事実を認め,反省と悔悟の念を示していること,犯行後に自らも自殺を図ったが死にきれなかった経緯が認めら 。 これらの点からすると,被告人の刑事責任は相当に重い。 他方,被告人が自首したこと,被告人が事実を認め,反省と悔悟の念を示していること,犯行後に自らも自殺を図ったが死にきれなかった経緯が認められること,犯行が正当化される余地はないとしても,被告人なりに妻との離婚という現実に苦悩し,思い詰めた上での犯行であったと認められること,責任能力に欠けるところはないが,衝動的に犯行に及んだ背景には,慣れない飲酒による影響があったことも否定できないこと,甚だ不十分ではあるが,遺族に対し謝罪文を送付して,一定の慰謝の措置を講じていること,これまで前科がないこと,被告人,。 の行く末を案じる肉親があることなど被告人のため酌むべき事情も認められる 本件は,何ら落ち度のない2人の尊い命を奪った重大犯罪であり,殺害態様の残忍性や遺族の処罰感情等をも考慮すると,被告人に対し,無期懲役刑を選択することも検討されるところである。 しかしながら,本件が,検察官の主張するようにもっぱら憎悪の念に基づく犯行であるとは認定できず,上記のとおり,歪んだ愛情や執着心に囚われたものとはいえ,被告人なりに思い詰めた上での犯行であったと認められることなど,本件各犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性,遺族の処罰感情,社会的影響等を総合的に考慮し,また,同種事犯における刑の均衡をも考慮した場合に,本件について,死刑に次ぐ峻厳な刑として定められた無期懲役刑を選択することには,なお躊躇を覚えるといわざるを得ない。 そこで,被告人に対しては,有期懲役刑を選択した上,上記のとおり認定される被告人に有利不利一切の事情を考慮し,また,平成16年に刑法の一部を改正する立法がなされた趣旨等も踏まえて,主文の刑に処するのが相当と判断した。 よって,主文のとおり判決する。 【求刑-無期懲役】平成1 人に有利不利一切の事情を考慮し,また,平成16年に刑法の一部を改正する立法がなされた趣旨等も踏まえて,主文の刑に処するのが相当と判断した。 よって,主文のとおり判決する。 【求刑-無期懲役】平成18年11月27日釧路地方裁判所刑事部裁判長裁判官本田晃裁判官本村曉宏裁判官石田佳世子
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