本件は、株式会社リコーが特許庁の特許取消決定を不服として提起した訴訟である。原告は「通信装置」に関する特許権者であり、特許異議の申立てに基づき特許庁が特許取消決定を行ったことに対し、その判断の誤りを主張して取り消しを求めた。主要な争点は、特許法29条2項に基づく進歩性の欠如であり、特許庁は本件発明が既存の技術に基づいて容易に想到できるものであると判断した。裁判所は、特許庁の判断を支持し、原告の請求を棄却する判決を下した。これにより、特許庁の特許取消決定は有効とされ、原告は訴訟費用を負担することとなった。
- 1 -平成17年(行ケ)第10357号特許取消決定取消請求事件平成18年6月12日口頭弁論終結判決原告株式会社リコー訴訟代理人弁理士伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介被告特許庁長官中嶋誠指定代理人長島孝志,高橋泰史,羽鳥賢一,小池正彦,青木博文主文原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 本判決においては,決定や書証等を引用する場合に,公用文の表記法に従い,あるいは,本文中に指定した略称を用いた箇所がある。 第1原告の求めた裁判「特許庁が異議2003-72915号事件について平成16年10月27日にした決定を取り消す」との判決。 。 第2事案の概要本件は,原告を特許権者とする「通信装置」の特許につき,平成15年法律第47号の施行(平成16年1月1日)前にされた特許異議の申立てに基づいて,発明(),,の進歩性の欠如特許法29条2項を理由に特許庁が特許取消決定をしたため原告が,決定の判断の誤りを主張して,その取消しを求めた事案である。 明細書(甲3)の記載によれば,本件発明は「電話,ファクシミリ装置等の通,- 2 -信装置に関し,着信側で発信元を識別できる機能を有する通信装置に関する(段」落【0001)ものである。従来のこの種の通信装置としては「発信元の電話番】,号表示に留まらず,発信元の識別情報に対応して着信時のブザー音や鳴動パターンを変えることができる」ものがあるが「このような従来の通信装置にあっては,,着信時のブザー音や鳴動パターンを変えても同一系統の音色であることに変わりはなく,音色の違いが小さいため,どこからの受信なのか明確に聞き分けられないという問題があった(段落【0003【0006。本件発明は「メロディに」】,】),よって,結果的にどこか 変わりはなく,音色の違いが小さいため,どこからの受信なのか明確に聞き分けられないという問題があった(段落【0003【0006。本件発明は「メロディに」】,】),よって,結果的にどこからの送信であるのかを明確に通知できる通信装置を提供すること(段落【0007)などを目的とする,とされている。 」】 特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲2)特許権者:原告発明の名称:通信装置」「特許出願日:平成3年7月15日(特願平3-172921号の一部を新たな出願とした特願2001-158904号)設定登録日:平成15年6月20日特許番号:第3442750号(2)本件手続特許異議事件番号:異議2003-72915号訂正請求日:平成16年7月12日(甲3)異議の決定日:平成16年10月27日決定の結論:訂正を認める。特許第3442750号の請求項1ないし5に係「る特許を取り消す」。 決定謄本送達日:平成16年11月17日(原告に対し)- 3 - 本件発明の要旨(平成16年7月12日付け訂正請求書(甲3)に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたもので,下線部分が訂正箇所である。以下,同訂正明細書を「本件明細書」といい,それぞれの発明を,請求項番号に対応して「本件発明1」などという)。 「請求項1】【外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段と,入力されたメロディを複数記憶する記憶手段と,送信側識別番号と任意に選択されたメロディとを1対1に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと,受信した送信側識別情報に対応するメロディを前記記憶手段から読み出して再生する再生手段とを備え,前記メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し, 送信側識別情報に対応するメロディを前記記憶手段から読み出して再生する再生手段とを備え,前記メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し,記憶可の場合には前記記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合にはメロディの再入力を行なわせることを特徴とする通信装置。 【請求項2】前記メロディ入力手段は,メロディを形成する複数の音を1音づつ入力するものであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。 【請求項3】前記対応テーブルへの記憶の際には,送信側識別番号を指定させた後,対応するメロディを選択させることを特徴とする請求項1又は2記載の通信装置。 【請求項4】メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3記載の通信装置。 【請求項5】- 4 -前記送信側識別情報とそれに対応するメロディの選択が終了したら,選択されたメロディを前記再生手段により再生させることを特徴とする請求項1ないし4記載の通信装置」。 決定の理由の要点決定の理由は要するに本件発明1及び2は刊行物1特開平2-26440,,,(号公報,本訴甲5。以下,これに記載された発明を「引用発明」という)及び刊。 行物2(特開平2-126289号公報,本訴甲6)に記載された発明及び周知の技術に基づいて,本件発明3ないし5は,刊行物1,2及び刊行物3(特開平1-188148号公報,本訴甲7)に記載された発明に基づいて,いずれも当業者が,,容易に発明をすることができたものであるから本件発明1ないし5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり特許法113条1項2号平,(成15年法律第47号による改正前のもの。以下同じ,同法114条2項により であるから本件発明1ないし5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり特許法113条1項2号平,(成15年法律第47号による改正前のもの。以下同じ,同法114条2項により。)取り消すべきである,というものである。以下,本件訴訟において争われている,本件発明1及び4に関する決定の判断を記載する。 なお,決定中に,周知例として示された文献は,次のとおりである(以下,本訴の書証番号に従って「甲8文献」などという。 ,。)特開昭57-46294号公報(本訴甲8)特開昭57-160088号公報(本訴甲9)特開平1-179195号公報(本訴甲10)実願昭62-147347号(実開昭64-51992号)のマイクロフィルム(本訴甲11)(1)本件発明1に関する決定の判断「本件発明1と引用発明とを対比すると・・・以下の点で一致ないし相違する」,。 「一致点- 5 -送信側識別番号と任意に選択された音とを1対1に対応付けて複数記憶可能な対応テーブルと,受信した送信側識別情報に対応する音を再生する再生手段とを備えた通信装置」。 「相違点a)本件発明1は『外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段』と『入,,力されたメロディを複数記憶する記憶手段』を備え,対応テーブルで送信側識別情報と対応付けられ,再生手段で再生される音が『メロディ』であり,前記メロディを『前記記憶手段から読み出して再生する』のに対して,引用発明には刊行物1に,これらのことが明示されていない点。 b)本件発明1は『前記メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了,したら該メロディをその記憶可否のために再生し,記憶可の場合には前記記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合にはメロディの再入力を行なわせる』のに対して 数の音からなるメロディの入力が終了,したら該メロディをその記憶可否のために再生し,記憶可の場合には前記記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合にはメロディの再入力を行なわせる』のに対して,引用発明には刊行物1に,このような処理,操作が明示されていない点。 「判断ア)相違点a)について刊行物2には,前示したように『キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御する周波数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として用いる電話機において,入力されたメロディを前記記憶手段に記憶する際に,該メロディを構成する楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させるようにした電話機』の発明が開示され,通信装置の技術分野において,外部から任意のメロディを入力する入力手段と,入力されたメロディを記憶する記憶手段とを設けて,呼出音を生成することは,公知の技術であると認められること,また,引用発明に刊行物2に記載,,された発明の技術を適用することに格別の困難性はないと考えられるから引用発明において- 6 -刊行物2に記載された発明の技術を採用して『外部から任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段』と『入力されたメロディを複数記憶する記憶手段』を備え,対応テーブルで,送信側識別情報と対応付けられ,再生手段で再生される音を『メロディ』とし,前 ら任意のメロディを入力するためのメロディ入力手段』と『入力されたメロディを複数記憶する記憶手段』を備え,対応テーブルで,送信側識別情報と対応付けられ,再生手段で再生される音を『メロディ』とし,前記メロディを『前記記憶手段から読み出して再生する』ものとすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。 イ)相違点b)について,,,記憶の可否を楽音毎に代えて楽音の集合である一つのメロディの単位で判断することは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないといえること刊行物2には記憶させたメロディ,,をスイッチ40の操作により読み出して,音響として再生することが開示され,このスイッチ40を操作して記憶したメロディを再生した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは操作者における自然の操作といえること,そして,引用発明に刊行物2に記載された発明の技術等を適用することに格別の困難性はないことを考慮すると,引用発明において『メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し,記憶可の場合には前記記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合にはメロディの再入力を行なわせる』ようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。 このことは『複数の音からなるメロディの入力が終了したら,該メロディをその記憶の可,否のために再生し,記憶可の場合には,記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合には,メロディを修正した上で再入力』することが作曲装置における周知の技術(甲8ないし11文献)であって,この周知の技術を引用発明に適用することを妨げる格別の理由がないことから,引用発明において『前記メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否 献)であって,この周知の技術を引用発明に適用することを妨げる格別の理由がないことから,引用発明において『前記メロディ入力手段により複数の音からなるメロディの入力が終了したら該メロディをその記憶可否のために再生し,記憶可の場合には前記記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合にはメロディの再入力を行なわせる』ことは当業者であれば容易に想到し得るといえることからも窺われるものである」。 (2)本件発明4に関する決定の判断- 7 -「対比本件発明4と引用発明とを対比すると,両者は上記相違点a)~d)に加えて下記の点で相違し,その余の点では一致する。 [相違点]e)本件発明4は『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』,ているのに対して,引用発明はそのような手段を備えていない点」。 「判断そこで,検討すると,刊行物2には,前示したように『キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御する周波数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として用いる電話機において,入力されたメロディを前記記憶手段に記憶する際に,該メロディを構成する楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させるようにした電話機』の発明が開示され,通信装置の技術分野において,メロディを形成する複数の音を1音づつ入力し,楽音を再生した後に,希望し 合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させるようにした電話機』の発明が開示され,通信装置の技術分野において,メロディを形成する複数の音を1音づつ入力し,楽音を再生した後に,希望したものでないときには,再度入力し直し,すなわち,入力した楽音を消去して,新たな楽音を入力することは公知の技術と認められ,そして,入力された楽音毎に再生,消去するか,楽音が集まった一つのメロディで再生,消去するかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎないといえるから,引用発明において『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』るようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。 このことは,刊行物3に『・・・電話番号と呼出音パターンを登録した後,表示装置31と呼出音発生回路33を用いて使用者に確認をうながし,使用者が確認すると,ステップ18で蓄積回路35に相手番号と呼出音との対応が記憶され,確認の結果,好ましくない場合には,- 8 -電話番号の入力から再び行う』ようにした発明が開示され,使用者が確認するために,呼出音発生回路33を用いて呼出音パターンを再生し,希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択し,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されているから,刊行物3に開示ないし示唆された発明を考慮すれば,引用発明において『メロディの再生後に,入力されたメロディを消去させる手段を備え』るようにすることは当業者が容易に想到し得ることであることからもいえる」。 第3原告の主張(決定取消事由)の要点決定は,本件発明1と引用発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由1,)また,本件発明4と引用発明との相違点に関する判断を誤ったものである(取消事由2)から,取り消されるべきである。 由)の要点決定は,本件発明1と引用発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由1,)また,本件発明4と引用発明との相違点に関する判断を誤ったものである(取消事由2)から,取り消されるべきである。 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)(1)相違点a)について決定は,引用発明に刊行物2に記載の技術を適用して「入力されたメロディを複数記憶する記憶手段」を備えるものとすることは,当業者であれば容易に想到し得るものである,としている。 しかし,刊行物2に記載の技術は,入力されたメロディを一括して記憶するものではなく,一連の楽音を記憶手段に記憶することにより,その結果として,一つのメロディが記憶されるものである。したがって,刊行物2には「入力されたメロ,ディを複数記憶する記憶手段」について記載も示唆もされていないのであるから,決定の前記判断は,誤りである。 (2)相違点b)についてア決定は,記憶の可否を,楽音ごとに代えて,楽音の集合である一つのメロディの単位で判断することは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない,とし- 9 -ている。 しかし,メロディは,複数の楽音から形成され,それらの楽音が連続的に進行することによって,音楽的内容(個々の楽音からは予測し得ない,人間の感性に訴える内容)を持つものであり,楽音とメロディとが代替可能でないことは,明らかである。楽音の適否の判断では,楽音の音階,長さ,音のレベルの適否を判断するの,,,に対しメロディの適否の判断ではその音楽的内容の適否を判断するものであり楽音とメロディとでは,適否の判断の内容,基準が異なる。 また,刊行物2に記載の技術は,電話機のキーボードを用いて楽音を得るというものであり,キーボードの押下を人間が行うことから,その押下時間を確実かつ正 とメロディとでは,適否の判断の内容,基準が異なる。 また,刊行物2に記載の技術は,電話機のキーボードを用いて楽音を得るというものであり,キーボードの押下を人間が行うことから,その押下時間を確実かつ正確に設定することができないという問題がある。このため,刊行物2に記載の技術では,所望のメロディを得るために,入力された楽音そのものの確認作業が必須であり,楽音の確認に代えて,メロディの確認を行うことは現実的でない。 しかも,刊行物2に記載の技術において,スイッチ40の操作によりメロディの記憶可否のための確認を行うと仮定した場合の処理フローにおいては,確認におけるループの返りが,楽音の確認では「周波数fの設定」に戻ることとなるのに,M対し,メロディの確認では「作曲モードの設定」に戻ることとなるものであり,,このことからも,楽音の確認とメロディの確認とが異なるものであることは明らかである。 したがって,刊行物2に記載の技術において,単純に,楽音の記憶の可否に代えて,メロディの記憶の可否を行うことはできないから,決定の前記判断は誤りである。 イ決定は,刊行物2に記載の技術において,スイッチ40を操作して記憶したメロディを再生した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは,操作者における自然の操作といえる,としている。 しかし,刊行物2に記載の技術では,作曲の終了後,作曲モードから通常のダイ- 10 -ヤル入力モードに切り替えられる(刊行物2の第3図参照)から,メロディの再。 生操作は,通常のダイヤル入力モードで行われる操作であって,作曲モードの処理フローとは直接関係のない操作である。一方,本件発明1における「再生」は,メロディの記憶に先だって「記憶可否のために」行われるものであり,メロディの記憶操作の一部である。したがって,刊行 ードの処理フローとは直接関係のない操作である。一方,本件発明1における「再生」は,メロディの記憶に先だって「記憶可否のために」行われるものであり,メロディの記憶操作の一部である。したがって,刊行物2における「再生」と,本件発明1における「再生」とは,その技術的意義が全く異なるものであって,刊行物2には,本件発明1のように,メロディの記憶可否のためにメロディを再生することは,開示されていない。 また,刊行物2に記載の技術においてメロディの記憶可否のための確認を行うこととした場合の処理フローを想定すると,メロディを記憶した後に,通常のダイヤル入力モードに切り替えてメロディを再生し,メロディが希望したものでないときは,再び作曲モードに切り替えてメロディの記憶をやり直すこととなり,利用者にとって不便であり,現実的ではない。 ウ決定は,甲8ないし11文献を引用して「複数の音からなるメロディの,入力が終了したら,該メロディをその記憶の可否のために再生し,記憶可の場合には,記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合には,メロディを修正した上で再入力」することが,作曲装置における周知の技術である,としている。 しかし,前記各文献は,特許異議の審理においては示されておらず,実質的に,新たな理由を構成するものである。また,これらの文献に記載された技術は,本件発明1とは異なる技術分野に関するものであり,その記載内容をみても,単に,作曲したメロディを再生して確認することが開示されているにすぎず,本件発明1のように記憶可否のために再生することは示されていない。 取消事由2(本件発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)(1)決定は,入力された楽音ごとに再生,消去するか,楽音が集まった一つの- 11 -メロディで再生,消去するかは,当業者が適 取消事由2(本件発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)(1)決定は,入力された楽音ごとに再生,消去するか,楽音が集まった一つの- 11 -メロディで再生,消去するかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎない,としている。 しかし「楽音毎に再生,消去する」場合には,個々の楽音自体の適正化は図れ,るものの,メロディレベルでの適正化は図れないのに対し「メロディで再生,消,去する」場合は,楽音が多少不適切であっても総合的にメロディの是非について判断することが可能であり,両者はその技術的意義が異なる。したがって,決定の前記判断は,誤りである。 (2)決定は,刊行物3に,呼出音パターンが希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されている,としている。 しかし,刊行物3の第2図によれば,使用者が相手番号と呼出音との対応を確認するために呼出音パターンを再生し,希望するものでない場合には,ステップ18での蓄積を行わずに,ステップ11に戻るのであるから,呼出音パターンが希望するものでない場合にそのパターンを蓄積しないだけであり前回の呼出音パター,,「ンを消去すること」は,記載も示唆もされていない。 また,刊行物3に記載の技術は,呼出音パターンの確認の結果,好ましくない場合には,登録用キーを押下し,送信側識別番号の指定から再び行うというものであり,確認の結果,好ましくない場合に「再び呼出音パターンを選択する」もので,はない。 したがって,決定の前記認定は,誤りである。 第4被告の反論の要点 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)に対して(1)相違点a)について原告は,決定が,引用発明に刊行物2に記載の技術を適用して「入力されたメロ 被告の反論の要点 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)に対して(1)相違点a)について原告は,決定が,引用発明に刊行物2に記載の技術を適用して「入力されたメロ- 12 -ディを複数記憶する記憶手段」を備えるものとすることは容易想到であると判断したことは誤りである,と主張する。 確かに,刊行物2に記載の技術は,個々の楽音の記憶手段への記憶を繰り返すことにより,その結果として,一つのメロディが記憶されるものであるが,そのようにして記憶する記憶手段も「入力されたメロディ」を「記憶する」ものであるこ,,,「」とに変わりはないから刊行物2には入力されたメロディを記憶する記憶手段が記載されているものである。 また引用発明のそれぞれ相違する音色からなる複数の呼出音にメロディ,「」,「を記憶する記憶手段を設けて,呼出音を生成する」という刊行物2に記載の技術を適用して「呼出音を生成する」ようにしたものは,呼出音について,それぞれ相違する音色に対応して複数のメロディが作成され,記憶手段には複数のメロディが記憶されることとなるから,刊行物2に基づいて「入力されたメロディを複数記憶する記憶手段」を備えることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。 したがって,この点に関する決定の判断に誤りはない。 (2)相違点b)についてア原告は,決定が,記憶の可否を,楽音ごとに代えてメロディの単位で判断することは設計的事項にすぎないと判断したことは誤りである,と主張する。 しかし,刊行物2に記載されているような,電話における保留音や呼出音に好適なメロディ音の作曲に用いられる作曲装置において,作曲したメロディ音が希望したものか否かはメロディ全体として再生してみなければ分からないからメロディ,,音を再 ,電話における保留音や呼出音に好適なメロディ音の作曲に用いられる作曲装置において,作曲したメロディ音が希望したものか否かはメロディ全体として再生してみなければ分からないからメロディ,,音を再生して確認することは,当業者であれば当然に考えつく事項であり,このことは,作曲装置においてメロディ単位で確認することが技術常識であること(甲8ないし11)からも明らかである。 イ原告は,決定が,刊行物2に記載の技術において記憶したメロディを再生- 13 -した際に,希望したメロディでない場合に再入力を行うことは,操作者における自然の操作であると判断したことは誤りであると主張し,その根拠として,刊行物2における「再生」と本件発明1における「再生」とは技術的意義が異なる,と主張する。 確かに,刊行物2には,希望のメロディが形成されたか否かを確認するための再生については明示されていない。しかし,記憶されたメロディを読み出して再生してみなければ希望のメロディが形成されたか否かは分からないのであるから,刊行物2の「再生」は,希望のメロディが形成されたか否かを確認するためにも使用されるとみるのが技術常識であり,この意味において,刊行物2における「再生」と本件発明1における「再生」とは,技術的意義を異にするものではない。 ウ原告は,決定における周知技術の認定が,新たな理由を構成するものであり,またその認定自体も誤っている,と主張する。 しかし,決定で周知例を示したことは,新たな理由を構成するものではない。また,本件発明1における「記憶可否のために再生」は,意図したとおりのメロディか否かを確認するためのものであって,作曲したメロディを再生して確認することにほかならないのであるから,これに関連する技術分野は,作曲装置の技術分野であり,決定の示す周知例は,いず とおりのメロディか否かを確認するためのものであって,作曲したメロディを再生して確認することにほかならないのであるから,これに関連する技術分野は,作曲装置の技術分野であり,決定の示す周知例は,いずれも同分野に関するものである。そして,決定が周知例として示した甲9ないし11文献には曲を記憶する前に作曲したメロディ,,を再生して確認することが示唆されている。したがって,決定における周知技術の認定に,誤りはない。 取消事由2(本件発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)に対して(1)原告は,決定が,入力された楽音ごとに再生,消去するか,メロディとして再生,消去するかは,当業者が適宜選択し得る事項であると判断したことは誤りである,と主張する。 - 14 -しかし,作曲装置の技術分野において,確認等のために「入力された楽音毎に再生,消去する」ことや「楽音が集まった一つのメロディで再生,消去する」こと,は,いずれも技術常識であるから,当業者が適宜選択し得る事項であるとした決定の前記判断に,誤りはない。 (2)原告は,決定が,刊行物3に,呼出音パターンが希望するものでない場合には,再び呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することが示唆されているとしたのは誤りである,と主張する。 確かに,刊行物2には「前回の呼出音パターンを消去すること」は記載されて,いないが,既に蓄積された呼出音パターンを他の呼出音パターンに変更するときには,呼出音パターンを選択することにより,前回の呼出音パターンを消去することになるから,決定の前記判断に誤りはない。 また,原告は,刊行物3に記載の技術は「再び呼出音パターンを選択する」も,のではない,と主張するが,刊行物3の第2図によれば,呼出音パターンを確認した結果,好ましくない場 の前記判断に誤りはない。 また,原告は,刊行物3に記載の技術は「再び呼出音パターンを選択する」も,のではない,と主張するが,刊行物3の第2図によれば,呼出音パターンを確認した結果,好ましくない場合には,ステップ11ないし13を経由して呼出音パターンを選択,入力するのであるから「再び呼出音パターンを選択する」ことに変わ,りはないものである。 第5当裁判所の判断 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点に関する判断の誤り)について(1)相違点a)について刊行物2に「キーボード入力によって作曲制御手段から,楽音の周波数を制御,する周波数制御信号,楽音の持続時間を制御する時間制御信号,及び楽音のレベルを制御するレベル制御信号を得て,メロディの要素である一つの楽音を形成し,所望の楽音を組み合わせて任意のメロディを作曲し,そのメロディを記憶手段に書き込み,それを読み出すことによって,作曲されたメロディを再生し,呼出音として- 15 -用いる電話機」が開示されていることは,当事者間に争いがない。そして,引用発明と刊行物2に記載の技術とは,共に,電話機の呼出音に関するものであるから,刊行物2に記載された「外部から任意のメロディを入力する入力手段と,入力さ,れたメロディを記憶する記憶手段とを設けて,記憶されたメロディを再生する」という技術を,引用発明に適用することは,容易である。 もっとも,本件発明1は「入力されたメロディを複数記憶する記憶手段」を備,えるものであり,刊行物2には,このような複数記憶についての記載はない。しかし,刊行物1には「それぞれ相違する音色からなる複数の呼出音を生成すること,ができる呼出音信号器91~9Nと・・・相手ダイヤル番号と任意に選択された,呼出音とを1対1に対応付けて複数記憶可能な番号対応呼出音選択 「それぞれ相違する音色からなる複数の呼出音を生成すること,ができる呼出音信号器91~9Nと・・・相手ダイヤル番号と任意に選択された,呼出音とを1対1に対応付けて複数記憶可能な番号対応呼出音選択信号記憶部3」が記載されており(この点については当事者間に争いがない,上記のように刊行。)物2に記載の技術を引用発明に適用する場合には,入力,記憶,再生の対象は,いずれもメロディとなるのであるから刊行物1における複数の呼出音を複「」,「」「数のメロディ」に代え「相手ダイヤル番号と任意に選択されたメロディとを1対,1に対応付けて複数記憶可能な」記憶手段を設けることは,ごく自然になし得ることである。 したがって,本件発明1と引用発明との相違点a)について容易想到であるとした決定の判断は,是認し得るものである。 これに対して,原告は,刊行物2に記載の技術は,入力されたメロディを一括して記憶するものではなく,個々の楽音を記憶手段に記憶するものにすぎないと主張する。しかし,メロディは,個々の楽音の連なりによって形成されるものであり,メロディを構成する個々の楽音を記憶することは,記憶された楽音の連なりによって形成されるメロディを記憶することにほかならないから,メロディを構成する個々の楽音を記憶手段に順次記憶することにより,結果として,一つのメロディが記憶されることとなる場合にも,入力されたメロディを記憶するものということができる。すなわち,メロディを構成する個々の楽音ごとに記憶していくか,メロディ- 16 -の形成が完了するのを待って一括して記憶するかは,メロディを記憶手段に記憶するための方法として適宜選択し得るものにすぎず,前者の方法によりメロディが記憶される刊行物2に記載の技術も「入力されたメロディを記憶する記憶手段」を 一括して記憶するかは,メロディを記憶手段に記憶するための方法として適宜選択し得るものにすぎず,前者の方法によりメロディが記憶される刊行物2に記載の技術も「入力されたメロディを記憶する記憶手段」を,備えているということができる。したがって,原告の前記主張は,本件発明1と引用発明との相違点a)に関する容易想到性の判断を左右するものではない。 (2)相違点b)について刊行物2に「楽音を再生し,再生される楽音が操作者の希望したものか否か判,断し,希望したものでないときには再度,楽音を形成し,希望の楽音が得られたと判断した場合には,その楽音を表す楽音信号データを前記記憶手段に記憶させる」ことが記載されていることは,当事者間に争いがない。そして,引用発明と刊行物2に記載の技術とは,共に,電話機の呼出音に関するものであるから,刊行物2に記載の技術を引用発明に適用することは,容易である。 もっとも,刊行物2に記載の前記技術における再生,記憶,再入力の対象は,いずれも「楽音」であるのに対して,本件発明1における再生,記憶,再入力の対象は「メロディ」である点が異なっている。しかし,メロディを構成する個々の楽音ごとに再生し,その音階や持続時間を逐一確認しながら記憶の可否を決定することは,煩雑である上に,個々の楽音が所望のものであるか否かの判断も一般人には困難であって,メロディ全体を再生して所望のメロディが形成されているか否かを確認する方が,確認の手法として容易である。また,甲8文献,甲10文献にも示されているように「複数の音からなるメロディの入力が終了したら,該メロディを,その記憶の可否のために再生し,記憶可の場合には,記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合には,メロディを修正した上で再入力」することは,作曲装置における周知の技術である。 該メロディを,その記憶の可否のために再生し,記憶可の場合には,記憶手段にメロディを記憶させる一方,記憶否の場合には,メロディを修正した上で再入力」することは,作曲装置における周知の技術である。 したがって,本件発明1と引用発明との相違点b)について容易想到であるとした決定の判断は,是認し得るものである。 - 17 -これに対して,原告は,記憶の可否を楽音ごとに判断する場合とメロディで判断する場合との技術的意義の相違について主張するが,メロディが,個々の楽音の連なりによって形成されるものである以上,個々の楽音が正しく記憶されればメロディとしても正しく記憶され,また,メロディとして誤ったものである場合には,それを構成する楽音のいずれかが誤っていることになるから,記憶の可否を楽音ごとに判断するか,メロディで判断するかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎないというべきである。 また,原告は,刊行物2における「再生」はメロディの記憶可否を決定するためのものではなく,本件発明1における「再生」とは技術的意義が異なると主張するがその論拠は刊行物2における再生操作は作曲モードから通常のダイヤルモー,,,ドに切り替えられた後に行われる操作である,という点に帰する。メロディを再生した結果,所望のメロディでないことが判明すれば,通常のダイヤルモードに切り替えられた後であっても,再び作曲モードに切り替えて再入力することは,操作者において自然に行う操作であり,メロディの再生は,最終的な記憶可否を決定するための操作の一環として位置づけることが可能である。したがって,原告の前記主張は,本件発明1と引用発明との相違点b)に関する容易想到性の判断を左右するものではない。 さらに,原告は,決定における周知技術の認定についても縷々主張するが,決定が認定した周知技 て,原告の前記主張は,本件発明1と引用発明との相違点b)に関する容易想到性の判断を左右するものではない。 さらに,原告は,決定における周知技術の認定についても縷々主張するが,決定が認定した周知技術は,当業者が当然の前提として熟知している事柄に関するものであるから,特許異議の審理において取消しの理由として通知されていない新たな理由を構成するものではないことは明らかである。また,甲8文献,甲10文献に示された技術は,メロディの作曲に関する技術であって,本件発明1と技術分野の親近性が高いものであり,前記各文献に記載されている内容も,前記のような周知技術を認定するに十分なものである。したがって,周知技術の認定に関する原告の主張は,採用することができない。 - 18 - 取消事由2(本件発明4と引用発明との相違点に関する判断の誤り)について刊行物2に「再生される楽音が操作者の希望したもの・・・でないときには再,度,楽音を形成」することが記載されていることは,当事者間に争いがない。ここで「再度,楽音を形成」することは,入力した楽音を消去して新たな楽音を入力,することにほかならないから,刊行物2には「メロディの再生後に,入力された,メロディを消去させる手段を備え」ることも示唆されているというべきである。 そして,入力されたメロディを消去する場合に,その消去を楽音ごとに行うか,メロディで行うかは,当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。 したがって,本件発明4と引用発明との相違点について容易想到であるとした決定の判断は,是認し得るものである。 これに対して,原告は,楽音ごとに消去する場合とメロディで消去する場合との技術的意義の相違について主張するが,メロディが,個々の楽音の連なりによって,,,形成されるものである以上消去の単位を楽音ごととす て,原告は,楽音ごとに消去する場合とメロディで消去する場合との技術的意義の相違について主張するが,メロディが,個々の楽音の連なりによって,,,形成されるものである以上消去の単位を楽音ごととするかメロディとするかは当業者が適宜選択し得る事項にすぎないものであるから,原告の主張は,採用することができない。 また,原告は,刊行物3の適用に関しても主張するが,決定は,本件発明4の容易想到性について,刊行物2の適用を理由としているものであり,刊行物3については付加的に言及するものにすぎないから,上記のとおり刊行物2の適用により本件発明4の容易想到性が肯定される以上,刊行物3の適用について判断するまでもなく,決定の判断は是認し得るものである。 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 - 19 -知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官塚原朋一裁判官石原直樹裁判官清水知恵子
▼ クリックして全文を表示